(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147911
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】酸化物サーミスタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 7/04 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H01C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055683
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】米澤 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和崇
【テーマコード(参考)】
5E034
【Fターム(参考)】
5E034BC01
(57)【要約】
【課題】 高温環境下でより抵抗値の変化が小さい酸化物サーミスタ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 MnとCoとを主成分とし、さらにCuが添加された酸化物サーミスタ1であって、緻密に焼結し、その結晶構造が、立方晶スピネル相2と、NaCl型結晶相3と、NaCl型結晶相に接するまたは内包された、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相4とを含む。この酸化物サーミスタの製造方法としては、MnとCoとCuとを混合した混合物を仮焼する仮焼工程と、仮焼工程後に仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程とを有し、焼成工程が、成形体をNaCl型結晶相が析出する温度以上で、NaCl型結晶相と共に赤銅鉱型結晶相も析出するまで焼成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MnとCoとを主成分とし、さらにCuが添加された酸化物サーミスタであって、
その結晶構造が、立方晶スピネル相と、
NaCl型結晶相と、
前記NaCl型結晶相に接するまたは内包された、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相とを含むことを特徴とする酸化物サーミスタ。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化物サーミスタにおいて、
気孔率が3.0%以下であることを特徴とする酸化物サーミスタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸化物サーミスタの製造方法であって、
MnとCoとCuとを混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、
前記仮焼工程後に前記仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、
前記成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程とを有し、
前記焼成工程が、前記成形体をNaCl型結晶相が析出する温度以上で、NaCl型結晶相と共に赤銅鉱型結晶相も析出するまで焼成することを特徴とする酸化物サーミスタの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の酸化物サーミスタの製造方法であって、
MnとCoとCuとを混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、
前記仮焼工程後に前記仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、
前記成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程と、
前記焼結体をアニールするアニール工程とを有し、
前記焼成工程の焼成温度が、前記成形体にNaCl型結晶相が析出する温度未満であり、
前記アニール工程が、NaCl型結晶相と赤銅鉱型結晶相とが析出する温度以上でアニールし前記焼結体中にNaCl型結晶相と赤銅鉱型結晶相とを析出させることを特徴とする酸化物サーミスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下でも抵抗値変化が少ない酸化物サーミスタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーミスタは、温度によって抵抗値が変化し、その変化が温度に対して非常に敏感なことから、温度センサや電子機器の保護回路など、幅広く使用されている。
近年、EV向けの車載機器におけるパワーデバイスやモータ等の動作温度は高温化しており、これら電子機器を制御する電子部品としてサーミスタにおいても高温性能が求められている。
【0003】
サーミスタ素子に要求される高温性能としては、低温から高温において高精度で測定可能であること、すなわち低い温度係数(B定数)を有し、高温環境下での特性変動を抑制する必要がある。これらに用いられるサーミスタ材料は、Mn-Coを主成分としてCuを添加したスピネル材料であり、通常は結晶構造として製造安定性に優れた立方晶単相を用いるが、各種信頼性が低下する問題が顕在化しており、特に、高温環境下で長時間使用した場合、抵抗値の経時変化率が大きいことが問題となる。
【0004】
そのため、従来、例えば特許文献1では、高温における抵抗値変化抑制を目的として、Mn-Coを主成分としてCuおよびTiを添加した材料が提案されており、加えて結晶構造が立方晶単相とするよりも立方晶スピネル相とNaCl型(岩塩相型)結晶相(少なくとも1相以上)とを共存させることで、耐熱信頼性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
上記特許文献1では、立方晶スピネル相とNaCl型結晶相(少なくとも1相以上)とを共存させるだけのため、高温環境下での信頼性試験における抵抗値の変化率が大きいものが存在しており、サーミスタ特性を求められる特性範囲に正確に調整したうえで高い信頼性を両立するのは限定的であった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、高温環境下でより抵抗値の変化が小さい酸化物サーミスタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る酸化物サーミスタは、MnとCoとを主成分とし、さらにCuが添加された酸化物サーミスタであって、その結晶構造が、立方晶スピネル相と、NaCl型結晶相と、前記NaCl型結晶相に接するまたは内包された、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相とを含むことを特徴とする。
【0009】
この酸化物サーミスタでは、NaCl型結晶相に接するまたは内包された、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相を含むので、外気が遮断された系内において、互いに価数の異なる赤銅鉱型結晶相と、NaCl型結晶相と、立方晶スピネル相との間で元素の移動や価数の変動を行うことで酸素の吸収・脱離(酸化・還元)のバランスがとれ、高温環境下でも抵抗値が安定する。
なお、本発明において「MnとCoとを主成分」とは、酸化物サーミスタにおける全金属元素中のMnとCoとの合計の原子数が、50原子%以上であることを示す。
【0010】
第2の発明に係る酸化物サーミスタは、第1の発明において、気孔率が3.0%以下であることを特徴とする。
すなわち、この酸化物サーミスタでは、気孔率が3.0%以下であるので、緻密な焼結体となっている。そのため、高温環境下で抵抗値の変化がより小さくなる。
なお、気孔率の下限は特に制限はないが、一般的には0.0%以上であるが、少量の気孔はサーミスタの温度変化による膨張収縮の緩衝となる場合があるため、0.2%以上2.0%以下であってもよい。
【0011】
第3の発明に係る酸化物サーミスタの製造方法は、第1又は第2の発明に係る酸化物サーミスタの製造方法であって、MnとCoとCuとを混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、前記仮焼工程後に前記仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、前記成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程とを有し、前記焼成工程が、前記成形体をNaCl型結晶相が析出する温度以上で、NaCl型結晶相と共に赤銅鉱型結晶相も析出するまで焼成することを特徴とする。
【0012】
すなわち、この酸化物サーミスタの製造方法では、焼成工程が、成形体をNaCl型結晶相が析出する温度以上で、NaCl型結晶相と共に赤銅鉱型結晶相も析出するまで焼成するので、NaCl型結晶相に接し、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相を有する焼結体の構造が得られ、高温環境下での抵抗値の変化を抑制した酸化物サーミスタを作製することができる。
なお、焼成が不十分で緻密な焼結体となっていない場合や、赤銅鉱型結晶相を析出させることができない場合、高温環境下で酸化還元のバランスが保てずに抵抗値が変化してしまうおそれがある。
【0013】
第4の発明に係る酸化物サーミスタの製造方法は、第1又は第2の発明に係る酸化物サーミスタの製造方法であって、MnとCoとCuとを混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、前記仮焼工程後に前記仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、前記成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程と、前記焼結体をアニールするアニール工程とを有し、前記焼成工程の焼成温度が、前記成形体にNaCl型結晶相が析出する温度未満であり、前記アニール工程が、NaCl型結晶相と赤銅鉱型結晶相とが析出する温度以上でアニールし前記焼結体中にNaCl型結晶相と赤銅鉱型結晶相とを析出させることを特徴とする。
【0014】
すなわち、この酸化物サーミスタの製造方法では、焼成工程の焼成温度が、成形体にNaCl型結晶相が析出する温度未満であり、アニール工程において、NaCl型結晶相と赤銅鉱型結晶相とが析出する温度以上でアニールし焼結体中にNaCl型結晶相と赤銅鉱型結晶相とを析出させるので、NaCl型結晶相の粒を析出させると共にNaCl型結晶相の粒に接した状態で赤銅鉱型結晶相を析出させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る酸化物サーミスタによれば、緻密に焼結した状態でNaCl型結晶相に接するまたは内包された、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相を含むので、互いに価数の異なる赤銅鉱型結晶相と、NaCl型結晶相と、立方晶スピネル相との酸素の吸収・脱離(酸化・還元)のバランスがとれることで、高温環境下でも抵抗値が安定する。
また、本発明に係る酸化物サーミスタの製造方法によれば、焼成工程又はアニール工程が、NaCl型結晶相と共に赤銅鉱型結晶相も析出するまで加熱するので、NaCl型結晶相に接するまたは内包された、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相を有する緻密な焼結体の構造が得られ、高温環境下での抵抗値の変化を抑制した酸化物サーミスタを作製することができる。
したがって、本発明の酸化物サーミスタでは、動作温度が高いEV向けの車載機器におけるパワーデバイスやモータ等を制御する温度センサや保護回路に用いるサーミスタに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る酸化物サーミスタ及びその製造方法において、一実施形態を示す模式的な拡大断面図である。
【
図2】本発明に係る実施例1を示す反射電子組成像である。
【
図3】本発明に係る実施例1を示す反射電子組成像である。
【
図4】本発明に係る実施例2を示す反射電子組成像である。
【
図5】本発明に係る実施例3を示す反射電子組成像である。
【
図6】本発明に係る実施例4において、アニール前(a)とアニール後(b)との反射電子組成像である。
【
図7】本発明に係る実施例5において、アニール前(a)とアニール後(b)との反射電子組成像である。
【
図8】本発明に係る比較例1を示す反射電子組成像である。
【
図9】本発明に係る比較例2を示す反射電子組成像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る酸化物サーミスタ及びその製造方法の一実施形態を、
図1を参照して説明する。
【0018】
本実施形態の酸化物サーミスタ1は、MnとCoとを主成分とし、さらにCuが添加されていると共に酸素を含有している酸化物サーミスタであって、
図1に示すように、その結晶構造が、立方晶スピネル相2と、NaCl型結晶相3と、NaCl型結晶相3に接するまたは内包された、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相4とを含んでいる。
なお、上記Mn,Co及びCuの組成範囲は、以下の範囲が好ましい。
Mn:20~45at.%,Co:35~65at.%,Cu:1~20at.%
【0019】
本実施形態の酸化物サーミスタ1の製造方法は、MnとCoとCuとを混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、仮焼工程後に仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程とを有している。
上記焼成工程は、成形体をNaCl型結晶相3が析出する温度以上で、NaCl型結晶相3と共に赤銅鉱型結晶相4も析出するまで焼成する。
特に、焼結温度をNaCl型結晶相3の粒が析出する温度以上とし、焼結時間を5時間以上保持することが好ましい。
また、上記成形工程は、加圧成形やドクターブレードなどによるグリーンシート成型、射出成型によって成形体とすることが好ましい。
【0020】
また、別の製造方法として、MnとCoとCuとを混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、仮焼工程後に仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程と、焼結体をアニールするアニール工程とを有し、焼成工程の焼成温度が、成形体にNaCl型結晶相3が析出する温度未満であり、アニール工程が、NaCl型結晶相3と赤銅鉱型結晶相4とが析出する温度以上でアニールし焼結体中にNaCl型結晶相3と赤銅鉱型結晶相4とを析出させる製法を採用してもよい。
【0021】
なお、NaCl型結晶相3の粒が析出する温度は、立方晶スピネル相2を主に構成するCo,Cuの含有率が高いほど低温になる。また、立方晶スピネル相2は仮焼工程において析出する。
また、アニールについては、雰囲気の制御を行い、大気中よりも酸素濃度が低い状態の方が析出効果が大きい。
【0022】
このように本実施形態の酸化物サーミスタ1では、緻密に焼結し、かつ、NaCl型結晶相3に接するまたは内包された、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相4を含むので、互いに価数の異なる赤銅鉱型結晶相4と、NaCl型結晶相3と、立方晶スピネル相2との間で元素の移動や価数の変動を行うことで酸素の吸収・脱離(酸化・還元)のバランスがとれ、高温環境下でも抵抗値が安定する。
また、本実施形態の酸化物サーミスタ1では、気孔率が3.0%以下であるので、緻密な焼結体となっている。
【0023】
上記本実施形態の酸化物サーミスタの製造方法では、焼成工程が、成形体をNaCl型結晶相3が析出する温度以上で、NaCl型結晶相3と共に赤銅鉱型結晶相4も析出するまで焼成するので、NaCl型結晶相3に接するまたは内包された、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相4を有する焼結体の構造が得られ、高温環境下での抵抗値の変化を抑制した酸化物サーミスタを作製することができる。
【0024】
また、別の製造方法として、焼成工程の焼成温度が、成形体にNaCl型結晶相3が析出する温度未満であり、アニール工程が、NaCl型結晶相3と赤銅鉱型結晶相4とが析出する温度以上でアニールし焼結体中にNaCl型結晶相3と赤銅鉱型結晶相4とを析出させる製法を採用することでも、NaCl型結晶相3の粒を析出させると共にNaCl型結晶相3の粒に接した状態で赤銅鉱型結晶相4を析出させることができる。
【実施例0025】
上記実施形態に基づいて本発明の酸化物サーミスタの実施例を複数の条件で作製し、それらの結晶構造を調べると共に抵抗値変化率を測定した。
「実施例1」
本発明の酸化物サーミスタの実施例1は、以下のように作製した。
まず、市販の炭酸マンガン,炭酸コバルト,酸化銅を出発原料として、表1に示すように、その金属原子比がMn:Co:Cu=35:62.5:2.5となるように秤量し、ボールミルで16時間湿式混合した後、脱水乾燥した。
次に、この混合物を850℃で2時間仮焼し、再びボールミルで湿式粉砕,混合して脱水乾燥した。その仮焼後の原料に対して、ポリビニルアルコール1重量%を加え、金型を用いて加圧成形して50mmφ×30mmの円柱状ブロック(成形体)を作製した。
【0026】
このブロックを1100℃で5時間焼成して焼結体を得た。この焼結体からワイヤーカットによってウェハを切り出し、研磨によって厚さ0.4mmに調整した。
このウェハに市販のガラスフリット入りAgペーストを印刷、焼き付け後、ダイヤモンドブレードを用いて、0.2mm×0.2mm×0.4mmに切断して評価用サーミスタチップを得た。
【0027】
作製した評価用サーミスタチップの25℃の抵抗値を測定後、125℃1000時間の耐熱試験を実施し、試験後の抵抗値を測定した。
そして、試験前後の抵抗値から変化率「ΔR25=(((試験後の抵抗値-初期抵抗値)/初期抵抗値)-1)×100%」を算出し、抵抗値変化率とした。
その結果、実施例1の評価用サーミスタチップ20個の平均値は、表1に示すように抵抗値変化率が0.7%であった。
【0028】
【0029】
次に、実施例1の評価用サーミスタチップを樹脂包埋後、機械研磨によって断面出しし、カールツァイス社製電界放射型走査電子顕微鏡(ULTRA55)によって10000倍で撮影した反射電子像を
図2に示す。
また、日立ハイテクノロジーズ社製走査型電子顕微鏡(S-3400N)によって観察した反射電子像(BSE-COMPO像)を
図3に示す。
図2及び
図3において、白く見える部分が赤銅鉱型結晶相の粒、薄いグレーがNaCl型結晶相の粒、濃いグレーが立方晶スピネル相、黒い箇所がボイド(気孔)である。
【0030】
この実施例1について、画像処理ソフトImage-Jによって算出した気孔率は1.6%であった。なお、1000倍に拡大した断面の反射電子像においてコントラストをボイドと結晶相とで分かれるように二値化し、ボイドの面積割合を気孔率とした。
なお、気孔率は、3.0%以下であることが好ましい。
また、赤銅鉱型構造の結晶相は、日本電子社製電界放射形透過電子顕微鏡(JEM-2010F)および付属のGatan社製EELSによって電子線回折像及びEELSスペクトルによって結晶構造とCuの価数状態とを確認した。
【0031】
「実施例2,3」
本発明の実施例2,3については、表1の条件に従って、実施例1と同様に作製し、評価した結果を表2に示すと共に、結晶構造を
図4及び
図5に示す。
【0032】
「実施例4」
まず、市販の炭酸マンガン,炭酸コバルト,酸化銅を出発原料として、その金属原子比がMn:Co:Cu=40:55:5となるように秤量し、ボールミルで16時間湿式混合した後、脱水乾燥した。
次に、この混合物を850℃で2時間仮焼し、再びボールミルで湿式粉砕・混合して脱水乾燥した。その仮焼後の原料に対して、ポリビニルアルコール1重量%を加え、金型を用いて加圧成形して50mmφ×30mmの円柱状ブロック(成形体)を作製した。
【0033】
このブロックを1025℃で5時間焼成して焼結体を得た。この焼結体からワイヤーカットによって約0.8mmの厚さにウェハを切り出した。
このウェハをさらに大気中1075℃で5時間アニールした後、両面研磨することによって厚さ0.4mmに調整した。その後、実施例1と同様に実施例4の評価用サーミスタチップを作製し、評価を行った。この実施例4の評価結果を表2に示すと共に、アニール前及びアニール後における結晶構造を
図6に示す。
なお、実施例4の組成では、NaCl型結晶相の析出温度が1060度であり、この析出温度未満の1025度で焼結し、その後に析出温度以上でアニール工程を行っている。
【0034】
「実施例5」
本発明の実施例5については、表1の条件に従って、実施例4と同様に作製し、評価した結果を表2に示すと共に、アニール前及びアニール後における結晶構造を
図7に示す。
なお、実施例5の組成では、NaCl型結晶相の析出温度が1010度であり、この析出温度未満の1000度で焼結し、その後に析出温度以上でアニール工程を行っている。
【0035】
「比較例1,2」
比較のため、本発明の比較例1,2を、表1の条件に従って、実施例1と同様に作製し、評価した結果を表2に示すと共に、結晶構造を
図8及び
図9に示す。
なお、比較例1は、NaCl型結晶相の析出温度1060度よりも低い焼結温度1025度で焼結時間15時間に設定したものであり、アニール工程を行っていない。
また、比較例2は、NaCl型結晶相の析出温度1060度よりも高い焼結温度1075度であるが、焼結時間が3時間と短く設定したものである。
【0036】
これらの結果からわかるように結晶構造について、比較例1では、焼結温度が低いために立方晶スピネル相中にボイドが生じているだけである。
また、比較例2では、立方晶スピネル相中にNaCl型結晶相が生じているものの、焼結時間が短かったため、赤銅鉱型結晶相が生じず、多くのボイドが生じている。
これらに対し、本発明の実施例では1.6%以下と気孔率が低く、緻密に焼結しており、結晶構造は、いずれも立方晶スピネル相中にNaCl型結晶相と赤銅鉱型結晶相とが生じている。
【0037】
なお、本発明の各実施例では、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相がNaCl型結晶相に接するまたは内包されて生じている。
また、抵抗値変化率については、比較例1,2が1.5%以上と大きいのに対し、本発明の実施例は、いずれも0.7%以下と小さく、耐熱試験後でも変化が少なく安定した抵抗値が得られている。
【0038】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、本発明の酸化物サーミスタに、Mn、Co、Cu以外の金属元素を添加してもよい。Mn、Co、Cu以外の金属元素としては、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru、Os、Reを除く第3周期から第6周期で、第4族から第15族の元素が利用可能であり、これらの元素を全金属元素のうち20原子%以下の割合で加えることで、サーミスタの抵抗値やB定数の調整が可能になる。