(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147912
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】酸化物サーミスタ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 7/04 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H01C7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055684
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】米澤 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】藤原 和崇
【テーマコード(参考)】
5E034
【Fターム(参考)】
5E034BC01
(57)【要約】
【課題】 高温環境下でより抵抗値の変化が小さい酸化物サーミスタ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 MnとCoとを主成分とし、さらにCu及びMが添加された酸化物サーミスタであって、その結晶構造が、立方晶スピネル相2と、NaCl型結晶相3とを含み、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種である。
この酸化物サーミスタの製造方法としては、MnとCoとCuとM(但し、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種を示す。)とを混合した混合物を仮焼する仮焼工程と、仮焼工程後に混合物を成形体に成形する成形工程と、成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程とを有し、焼成工程が、成形体をNaCl型結晶相が析出する温度以上で、NaCl型結晶相が析出するまで焼成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MnとCoとを主成分とし、さらにCu及びMが添加された酸化物サーミスタであって、
その結晶構造が、立方晶スピネル相と、
NaCl型結晶相とを含み、
前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種であることを特徴とする酸化物サーミスタ。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化物サーミスタにおいて、
前記Mの添加量が、MnとCoとCuとMとの合計を100at.%としたときに、0.1~20at.%であることを特徴とする酸化物サーミスタ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸化物サーミスタの製造方法であって、
MnとCoとCuとM(但し、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種を示す。)とを混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、
前記仮焼工程後に前記仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、
前記成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程とを有し、
前記焼成工程が、前記成形体をNaCl型結晶相が析出する温度以上で、NaCl型結晶相が析出するまで焼成することを特徴とする酸化物サーミスタの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の酸化物サーミスタの製造方法であって、
MnとCoとCuとM(但し、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種を示す。)を混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、
前記仮焼工程後に前記仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、
前記成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程と、
前記焼結体をアニールするアニール工程とを有し、
前記焼成工程が、前記成形体をNaCl型結晶相が析出する温度未満で焼成し、
前記アニール工程が、NaCl型結晶相が析出する温度以上でアニールし前記焼結体中にNaCl型結晶相を析出させることを特徴とする酸化物サーミスタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下でも抵抗値変化が少ない酸化物サーミスタ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サーミスタは、温度によって抵抗値が変化し、その変化が温度に対して非常に敏感なことから、温度センサや電子機器の保護回路など、幅広く使用されている。
近年、EV向けの車載機器におけるパワーデバイスやモータ等の動作温度は高温化しており、これら電子機器を制御する電子部品としてサーミスタにおいても高温性能が求められている。
【0003】
サーミスタ素子に要求される高温性能としては、低温から高温において高精度で測定可能であること、すなわち低い温度係数(B定数)を有し、高温環境下での特性変動を抑制する必要がある。これらに用いられるサーミスタ材料は、Mn-Coを主成分としてCuを添加したスピネル材料であり、通常は結晶構造として製造安定性に優れた立方晶単相を用いるが、各種信頼性が低下する問題が顕在化しており、特に、高温環境下で長時間使用した場合、抵抗値の経時変化率が大きいことが問題となる。
【0004】
そのため、従来、例えば特許文献1では、高温における抵抗値変化抑制を目的として、Mn-Coを主成分としてCuおよびTiを添加した材料が提案されており、加えて結晶構造が立方晶単相とするよりも立方晶スピネル相とNaCl型(岩塩相型)結晶相(少なくとも1相以上)とを共存させることで、耐熱信頼性が向上することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の技術には、以下の課題が残されている。
上記特許文献1では、立方晶スピネル相とNaCl型結晶相とを共存させるだけでは、NaCl型結晶相の析出に伴って抵抗値とB定数とが変動してしまうため、B定数の変化が小さいTiではサーミスタ特性を求められる特性範囲に正確に調整したうえで高い信頼性を両立するのは限定的であった。
【0007】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、高温環境下でより抵抗値の変化が小さい酸化物サーミスタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、MnとCoとを主成分とした酸化物サーミスタに着目し、鋭意、研究を進めたところ、高温環境下での抵抗値変化が酸素の吸収,脱離によって起こることを解明し、NaCl型結晶相の粒を析出させ、このNaCl型結晶相の粒と立方晶スピネル相との酸化還元のバランスによって高温環境下でも抵抗値を安定させることができることを見出した。特に、Ti以外の特定の元素を添加することにより、広範囲な特性調整を可能にし、かつ、安定的に高温環境下での抵抗値の変化を抑制できることを見出した。
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
【0009】
すなわち、第1の発明に係る酸化物サーミスタは、MnとCoとを主成分とし、さらにCu及びMが添加された酸化物サーミスタであって、その結晶構造が、立方晶スピネル相と、NaCl型結晶相とを含み、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種であることを特徴とする。
【0010】
この酸化物サーミスタでは、MnとCoとを主成分とし、さらにCu及びMが添加された酸化物サーミスタであって、その結晶構造が、立方晶スピネル相と、NaCl型結晶相とを含み、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種であるので、Ti以外の前記M(Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種)の元素添加により、広範囲に特性調整を可能にし、かつ、安定的に高温環境下での抵抗値の変化を抑制することができる。
なお、本発明において「MnとCoとを主成分」とは、酸化物サーミスタにおける全金属元素中のMnとCoとの合計の原子数が、50原子%以上であることを示す。
【0011】
本発明では、NaCl型結晶相の析出に伴って変動してしまう抵抗値とB定数との調整に有効で、高温環境下での抵抗値の安定性を両立できる添加元素として、Mn-Coの結晶に固溶し易く、最も安定に存在できる価数が2価または3価で、イオン半径(Shannon)が4配位または6配位の時に0.5~0.7オングストロームのもの、すなわち前記Mの元素(Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種)を採用した。
なお、前記Mの各元素添加に伴うサーミスタ特性の変化は、例えば、Niであれば抵抗率に大きな変化はなくB定数が低下し、Feであれば抵抗値は増加しB定数は低下、またZn、Al、Gaの場合は抵抗率,B定数ともに増加する。
【0012】
また、結晶構造として、赤銅鉱型結晶相が析出している方がより好ましい。
すなわち、NaCl型結晶相に接するまたは内包された、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相を含むことで、互いに価数の異なる赤銅鉱型結晶相と、NaCl型結晶相と、立方晶スピネル相との酸素の吸収・脱離(酸化・還元)のバランスがとれることで、高温環境下でも抵抗値がさらに安定する。
【0013】
第2の発明に係る酸化物サーミスタは、第1の発明において、前記Mの添加量が、MnとCoとCuとMとの合計を100at.%としたときに、0.1~20at.%であることを特徴とする。
すなわち、この酸化物サーミスタでは、前記Mの添加量が、MnとCoとCuとMとの合計を100at.%としたときに、0.1~20at.%であるので、主相は立方晶スピネルの結晶構造を維持したまま、サーミスタ特性の調整及び、十分な抵抗値の変化抑制の効果が得られる。
なお、前記Mの添加量が、MnとCoとCuとMとの合計を100at.%としたときに、0.1at.%未満であると、特性調整の効果が小さすぎ、また20at.%を越えると、前記Mが固溶しなくなったり、主相である立方晶スピネルが正方晶へと相転移してしまったりする。
なお、前記Mの添加量が、MnとCoとCuとMとの合計を100at.%としたときに、0.5at.%以上15at.%以下でもよく、2.5at.%以上10at.%以下でもよい。
【0014】
第3の発明に係る酸化物サーミスタの製造方法は、第1又は第2の発明の酸化物サーミスタの製造方法であって、MnとCoとCuとM(但し、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種を示す。)とを混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、前記仮焼工程後に前記仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、前記成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程とを有し、前記焼成工程が、前記成形体をNaCl型結晶相が析出する温度以上で、NaCl型結晶相が析出するまで焼成することを特徴とする。
【0015】
すなわち、この酸化物サーミスタの製造方法では、焼成工程が、成形体をNaCl型結晶相が析出する温度以上で、NaCl型結晶相が析出するまで焼成するので、焼成時にNaCl型結晶相が析出して、高温環境下での抵抗値の変化を抑制した酸化物サーミスタを作製することができる。
なお、上記焼成工程において、赤銅鉱型結晶相が析出するまで焼成することがより好ましい。
また、前記Mは、仮焼工程で立方晶スピネル相に固溶していることが好ましい。
【0016】
第4の発明に係る酸化物サーミスタの製造方法は、第1又は第2の発明の酸化物サーミスタの製造方法であって、MnとCoとCuとM(但し、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種を示す。)を混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、前記仮焼工程後に前記仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、前記成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程と、前記焼結体をアニールするアニール工程とを有し、前記焼成工程が、前記成形体をNaCl型結晶相が析出する温度未満で焼成し、前記アニール工程が、NaCl型結晶相が析出する温度以上でアニールし前記焼結体中にNaCl型結晶相を析出させることを特徴とする。
【0017】
すなわち、この酸化物サーミスタの製造方法では、焼結後にNaCl型結晶相が析出する温度以上でアニールし焼結体中にNaCl型結晶相を析出させるアニール工程を有するので、アニール時にNaCl型結晶相の粒を析出して、サーミスタを目標の組成に調整するとともに、高温環境下での抵抗値の変化を抑制した酸化物サーミスタを作製することができる。
なお、上記アニール工程において、赤銅鉱型結晶相が析出するまでアニールすることがより好ましい。
また、前記Mは、仮焼工程または焼成工程で立方晶スピネル相に固溶していることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る酸化物サーミスタによれば、MnとCoとを主成分とし、さらにCu及びMが添加された酸化物サーミスタであって、その結晶構造が、立方晶スピネル相と、NaCl型結晶相とを含み、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種であるので、Ti以外の前記M(Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種)の元素添加、固溶させることにより、広範囲に特性調整を可能にし、かつ、安定的に高温環境下での抵抗値の変化を抑制することができる。
また、本発明に係る酸化物サーミスタの製造方法によれば、NaCl型結晶相が析出する温度以上で、NaCl型結晶相が析出するまで焼成又はアニールするので、NaCl型結晶相が析出して、サーミスタを目標の組成に調整するとともに、高温環境下での抵抗値の変化を抑制した酸化物サーミスタを作製することができる。
したがって、本発明の酸化物サーミスタでは、動作温度が高いEV向けの車載機器におけるパワーデバイスやモータ等を制御する温度センサや保護回路に用いるサーミスタに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る酸化物サーミスタ及びその製造方法において、一実施形態を示す模式的な拡大断面図である。
【
図2】本発明に係る実施例1を示す反射電子組成像である。
【
図3】本発明に係る実施例2を示す反射電子組成像である。
【
図4】本発明に係る実施例6を示す反射電子組成像である。
【
図5】本発明に係る実施例9を示す反射電子組成像である。
【
図6】本発明に係る比較例1を示す反射電子組成像である。
【
図7】本発明に係る比較例2を示す反射電子組成像である。
【
図8】本発明に係る比較例3を示す反射電子組成像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る酸化物サーミスタ及びその製造方法の一実施形態を、
図1を参照して説明する。
【0021】
本実施形態の酸化物サーミスタ1は、MnとCoとを主成分とし、さらにCu及びMが添加されていると共に酸素を含有している酸化物サーミスタであって、
図1に示すように、その結晶構造が、立方晶スピネル相2と、NaCl型結晶相3とを含み、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種である。
また、前記Mの添加量は、MnとCoとCuとMとの合計を100at.%としたときに、0.1~20at.%であることが好ましい。
【0022】
なお、上記Mn,Co及びCuの組成範囲は、以下の範囲が好ましい。
Mn:20~45at.%,Co:35~65at.%,Cu:1~20at.%
また、上記Mn,Co及びCuの組成範囲は、以下の範囲が更に好ましい。
Mn:30~45at.%,Co:35~60at.%,Cu:1~15at.%
【0023】
また、結晶構造として、赤銅鉱型結晶相4が析出している方がより好ましい。
すなわち、NaCl型結晶相3に接し、1価のCuを有する赤銅鉱型結晶相4を含むことで、互いに価数の異なる赤銅鉱型結晶相4と、NaCl型結晶相3と、立方晶スピネル相2との酸素の吸収・脱離(酸化・還元)のバランスがとれることで、高温環境下でも抵抗値がさらに安定する。
【0024】
本実施形態の酸化物サーミスタ1の製造方法は、MnとCoとCuとM(但し、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種を示す。)とを混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、仮焼工程後に仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、成形体を焼成して焼結体を形成する焼成工程とを有している。
上記焼成工程は、成形体をNaCl型結晶相3が析出する温度以上で、NaCl型結晶相3が析出するまで焼成する。
【0025】
すなわち、焼成工程では、焼結温度をNaCl型結晶相3の粒が析出する温度以上とすることが好ましい。
なお、NaCl型結晶相3の粒が析出する温度は、立方晶スピネル相2を主に構成するCo,Cuの含有率が高いほど低温になる。
また、上記成形工程は、混合物を加圧成形して成形体とすることが好ましい。
【0026】
また、別の製造方法としては、MnとCoとCuとM(但し、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種を示す。)を混合した混合物を仮焼して仮焼混合物を作製する仮焼工程と、仮焼工程後に仮焼混合物を成形体に成形する成形工程と、成形体を焼成して緻密な焼結体を形成する焼成工程と、焼結体をアニールするアニール工程とを有し、焼成工程が、成形体をNaCl型結晶相が析出する温度未満で焼成し、アニール工程が、NaCl型結晶相が析出する温度以上でアニールし焼結体中にNaCl型結晶相を析出させる製法を採用してもよい。
上記アニールについては、雰囲気の制御を行い、大気中よりも酸素濃度が低い状態の方が析出効果が大きい。
【0027】
なお、前記Mの元素を添加するため、仮焼工程において添加剤Xとして、例えばMgを添加するにはMgO、Crを添加するにはCr2O3、Feを添加するにはFe2O3、Niを添加するにはNiO、Znを添加するにはZnO、Alを添加するにはAl2O3、Gaを添加するにはGa2O3等の前記Mの酸化物を混合物に添加する。
【0028】
このように本実施形態の酸化物サーミスタ1では、MnとCoとを主成分とし、さらにCu及びMが添加された酸化物サーミスタであって、その結晶構造が、立方晶スピネル相2と、NaCl型結晶相3とを含み、前記Mが、Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種であるので、Ti以外の前記M(Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種)の元素添加により、広範囲に特性調整を可能にし、かつ、安定的に高温環境下での抵抗値の変化を抑制することができる。
【0029】
すなわち、NaCl型結晶相3の析出に伴って変動してしまう抵抗値とB定数との調整に有効で、高温環境下での抵抗値の安定性を両立できる添加元素として、Mn-Coの結晶に固溶し易く、最も安定に存在できる価数が2価または3価で、イオン半径(Shannon)が4配位または6配位の時に0.5~0.7オングストロームのもの、すなわち前記Mの元素(Mg,Cr,Fe,Ni,Zn,Al及びGaのうち少なくとも一種)を採用している。
【0030】
また、前記Mの添加量が、MnとCoとCuとMとの合計を100at.%としたときに、0.1~20at.%であるので、十分な抵抗値の変化抑制の効果が得られると共に、添加による抵抗値の大幅な増加を抑えることができる。
なお、前記Mの各元素添加に伴うサーミスタ特性の変化は、例えば、Niであれば抵抗率に大きな変化はなくB定数が低下し、Feであれば抵抗値は増加しB定数は低下、またZn、Al、Gaの場合は抵抗率,B定数ともに増加する。
【0031】
上記本実施形態の酸化物サーミスタの製造方法では、焼成工程が、成形体をNaCl型結晶相3が析出する温度以上で、NaCl型結晶相3が析出するまで焼成するので、焼成時にNaCl型結晶相3が析出して、高温環境下での抵抗値の変化を抑制した酸化物サーミスタ1を作製することができる。
【0032】
また、別の焼成工程として、焼結後にNaCl型結晶相3が析出する温度以上でアニールし焼結体中にNaCl型結晶相3を析出させるアニール工程を有するので、アニール時にNaCl型結晶相3の粒を析出して、サーミスタを目標の組成に調整するとともに、高温環境下での抵抗値の変化を抑制した酸化物サーミスタを作製することができる。
【実施例0033】
上記実施形態に基づいて本発明の酸化物サーミスタの実施例を複数の条件で作製し、それらの結晶構造を調べると共に抵抗値変化率を測定した。
「実施例1」
本発明の酸化物サーミスタの実施例1は、以下のように作製した。
まず、市販の炭酸マンガン,炭酸コバルト,酸化銅,添加剤Xとして酸化アルミニウム(Al2O3:すなわち前記MがAl)を出発原料として、その金属原子比がMn:Co:Cu:Al=38:54.5:5:2.5となるように秤量し、ボールミルで16時間混合した後、脱水乾燥した。
次に、この混合物を850℃で2時間仮焼し、再びボールミルで混合して脱水乾燥した。その仮焼後の原料に対して、ポリビニルアルコール1重量%を加え、金型を用いて加圧成形して50mmφ×30mmの円柱状ブロック(成形体)を作製した。
【0034】
このブロックを1125℃で10時間焼成して焼結体を得た。この焼結体からワイヤーカットによってウェハを切り出し、研磨によって厚さ0.4mmに調整した。このウェハに市販のガラスフリット入りAgペーストを印刷、焼き付け後、ダイヤモンドブレードを用いて、0.2mm×0.2mm×0.4mmに切断して評価用サーミスタチップを得た。
【0035】
作製した評価用サーミスタチップの25℃の抵抗値を測定後、125℃1000時間の耐熱試験を実施し、試験後の抵抗値を測定した。
そして、試験前後の抵抗値から変化率「ΔR25=(((試験後の抵抗値-初期抵抗値)/初期抵抗値)-1)×100%」を算出し、抵抗値変化率とした。
その結果、実施例1の評価用サーミスタチップ20個の平均値は、表1に示すように0.3%であった。
【0036】
【0037】
次に、実施例1の評価用サーミスタチップを樹脂包埋後、機械研磨によって断面出しし、日立ハイテクノロジーズ社製走査型電子顕微鏡(S-3400N)によって観察した反射電子像(BSE-COMPO像)を
図2に示す。NaCl型結晶相の有無については、この断面SEM観察により判別した。
図2において、もっとも明るく見える部分が赤銅鉱型結晶相の粒、薄いグレーに見える部分がNaCl型結晶相の粒、濃いグレーが立方晶スピネル相、黒い箇所がボイド(気孔)である。
【0038】
「実施例2~8」
本発明の実施例2~8については、表1の条件に従って、実施例1と同様に作製し、評価した結果を表1に示す。なお、実施例2及び実施例6の結晶構造を
図3及び
図4に示す。
【0039】
「実施例9」
まず、市販の炭酸マンガン、炭酸コバルト、酸化銅、酸化亜鉛を出発原料として、その金属原子比がMn:Co:Cu:Zn=40:45:5:10となるように秤量し、ボールミルで16時間湿式混合した後、脱水乾燥した。
次に、この混合物を850℃で2時間仮焼し、再びボールミルで湿式粉砕、混合して脱水乾燥した。その仮焼後の原料に対して、ポリビニルアルコール1重量%を加え、金型を用いて加圧成形して50mmφ×30mmの円柱状ブロック(成形体)を作製した。
【0040】
このブロックを1000℃で5時間焼成して焼結体を得た。この焼結体からワイヤーカットによって約0.5mmの厚さにウェハを切り出した。このウェハをさらに大気中1100℃で5時間アニールした後、両面研磨することによって厚さ0.4mmに調整した。その後、実施例1と同様に実施例9の評価用サーミスタチップを作製し、評価を行った。
この実施例9の評価結果を表1に示すと共に、アニール後における結晶構造を
図5に示す。
【0041】
「比較例1~3」
比較のため、本発明の比較例1~3を、表1の条件に従って、実施例1と同様に作製し、評価した結果を表1に示すと共に、結晶構造を
図6~
図8に示す。
なお、比較例1は、元素Mを添加していないと共に、焼結温度がNaCl型結晶相の析出温度よりも低く設定しているものである。
また、比較例2は、添加剤XとしてFe
2O
3(すなわち、前記MがFe)を添加し、比較例3は、添加剤XとしてAl
2O
3(すなわち、前記MがAl)を添加しているが、焼結温度がNaCl型結晶相の析出温度よりも低く設定しているものである。
【0042】
これらの結果からわかるように結晶構造について、比較例1~3では、焼結温度が低いために立方晶スピネル相中にボイド(気孔)が生じているだけである。
これらに対し、本発明の実施例の結晶構造は、いずれも立方晶スピネル相中にNaCl型結晶相とが生じている。
また、抵抗値変化率については、比較例1~3が2.1%以上と大きいのに対し、本発明の実施例は、前記Mの添加元素により、いずれも0.9%以下と小さく、耐熱試験後でも変化が少なく安定した抵抗値が得られている。
【0043】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。