IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日揮触媒化成株式会社の特許一覧

特開2023-147928導電膜形成用の塗布液およびその製造方法、並びに導電膜付基材の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147928
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】導電膜形成用の塗布液およびその製造方法、並びに導電膜付基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20231005BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231005BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231005BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20231005BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/63
C09D7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055715
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】港 康佑
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG001
4J038HA166
4J038HA446
4J038JC30
4J038JC35
4J038KA06
4J038KA09
4J038NA20
(57)【要約】
【課題】膜の導電性を高くできる粒子を含む塗布液を提供する。
【解決手段】本発明は、酸化スズ粒子と、分散剤と、バインダと、有機溶媒と、を含み、この塗布液の平均粒子径を150~400nmとした。ここで、分散剤としてチタネートカップリング剤またはアニオン系界面活性剤を用いた。このような塗布液を用いて形成した膜のヘーズは低い。また、膜の導電性が高い。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化スズ含有粒子と、
アニオン系界面活性剤と、
バインダと、
有機溶媒と、を含む塗布液であって、
当該塗布液を動的光散乱法により測定したときの平均粒子径が150~400nmであることを特徴とする導電膜形成用の塗布液。
【請求項2】
シリカ粒子をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の塗布液。
【請求項3】
酸化スズ含有粒子と、
チタネートカップリング剤と、
シリカ粒子と、
バインダと、
有機溶媒と、を含む塗布液であって、
当該塗布液を動的光散乱法により測定したときの平均粒子径が150~400nmであることを特徴とする導電膜形成用の塗布液。
【請求項4】
前記シリカ粒子の平均粒子径が70~400nmであることを特徴とする請求項2または3に記載の塗布液。
【請求項5】
アニオン系またはカチオン系の界面活性剤を含むことを特徴とする請求項3に記載の塗布液。
【請求項6】
酸化スズ含有粉末と、アニオン系界面活性剤またはチタネートカップリング剤と、有機溶媒を混合し、懸濁液を調製する混合工程と、
前記懸濁液中の前記酸化スズ含有粉末を解砕することにより、酸化スズ含有粒子の分散液を調製する解砕工程と、
解砕工程後の分散液にバインダを添加する添加工程を備え、
前記解砕工程で酸化スズ粒子の平均粒子径を200~500nmに調整することを特徴とする導電膜形成用の塗布液の製造方法。
【請求項7】
請求項1または3に記載の塗布液、もしくは請求項6に記載の製造方法により得られた塗布液を用いて膜を形成することを特徴とする導電膜付基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電膜形成用の塗布液およびその製造方法と導電膜付基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化スズ含有粒子を含む塗布液を用いて基材上に導電膜を形成することができる。導電膜では、帯電が防止されるため、表面に埃等のごみが付着し難い。このような帯電防止用の導電膜は、スマートホンやカーナビのタッチパネル等に用いられる。これらの用途では、画面や部品が見易い必要がある。そのため、ヘーズの低い導電膜が求められている。平均粒子径の小さい(100nm程度)酸化スズ含有粒子が溶媒やバインダに分散し易いと、膜のヘーズが低くなる。このような膜を形成可能な塗布液として、有機カップリング剤により表面処理された酸化スズ含有粒子と界面活性剤を含む塗布液が挙げられる(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
また、無機酸化物等の芯材表面に酸化スズが被覆された粒子が知られている(例えば、特許文献2)。この粒子の粒径は、芯材の粒径に応じた大きさにできる。シランカップリング剤を粒子表面に処理すると、この粒子は有機溶媒に分散できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2001‐018137号
【特許文献2】特開2018-085231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、界面活性剤と、有機カップリング剤が表面処理された酸化スズ含有粒子とを含む塗布液を用いて導電膜が形成されている。そのため、導電膜の透明性は高い。しかし、バインダを添加する前、分散液中の酸化スズ含有粒子の平均粒子径が小さい。そのため、塗布液や膜中の粒子も小さい。その結果、膜の導電性が低い。
【0006】
特許文献2の酸化スズが被覆された粒子は平均粒子径が大きい。しかし、粒子表面に被覆された酸化スズの層が薄いため、粒子の導電性が低い。また、特許文献2で分散剤として用いられているシランカップリング剤を酸化スズ含有粒子に適用すると、この粒子を含む膜の導電性が低くなってしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、膜の導電性を高くできる粒子を含む塗布液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、酸化スズ含有粒子と、分散剤と、バインダと、有機溶媒と、を含み、この塗布液の平均粒子径が150~400nmである。ここで、分散剤としてチタネートカップリング剤またはアニオン系界面活性剤を用いた。このような塗布液を用いて形成した膜のヘーズは低い。また、膜の導電性が高い。
【0009】
さらに、塗布液がシリカ粒子を含むことが好ましい。
【0010】
また、分散剤としてチタネートカップリング剤とアニオン系またはカチオン系の界面活性剤とを用いることが好ましい。
【0011】
また、塗布液の製造方法は、酸化スズ含有粒子と、分散剤と、有機溶媒を混合し、懸濁液を調製する工程(混合工程)と、混合液を解砕することにより酸化スズ含有粒子の分散液を調製する工程(解砕工程)と、分散液にバインダを添加する工程(添加工程)を備える。解砕工程で酸化スズ含有粒子の平均粒子径を200~500nmに調整する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、酸化スズ含有粒子(以下、酸化スズ粒子と称す)と、分散剤と、バインダと、有機溶媒と、を含む塗布液である。ここで、塗布液を動的光散乱法により測定したときの平均粒子径(以下、塗布液の平均粒子径と称す)は150~400nmである。この平均粒子径が150nm未満だと、粒界抵抗が高くなるため、導電膜(以下、単に膜と称す)の導電性が低下し易い。一方、この平均粒子径が400nmより大きいと、膜中で粒子同士が接触する面積が小さいため、導電性パスが形成され難くなる可能性がある。また、平均粒子径が400nmより大きいと、膜中の粒子が光を散乱し易い。このような粒子を含む膜のヘーズは高くなってしまう。この平均粒子径が350nmより小さいと、膜のヘーズがさらに低くなる。
【0013】
分散剤がチタネートカップリング剤またはアニオン系界面活性剤であることにより、膜の導電性が高くなる。そのため、塗布液を塗工し易い。特に、チタネートカップリング剤を含む分散液にバインダを添加しても、塗布液の粘度が高くなり難い。チタネートカップリング剤以外〔ケイ素(Si)やジルコニウム(Zr),アルミニウム(Al)等〕の有機金属カップリング剤のみを分散剤として用いた場合、膜の導電性が低下してしまう。導電性の低下には金属元素の違いや加水分解速度の違いが影響していると考えられる。
【0014】
アニオン系界面活性剤は、電離して陰イオンになる親水基と、疎水基とを有する。この親水基は酸化スズ粒子の表面(以下、粒子表面と称す)に吸着し易い。粒子表面に吸着した界面活性剤の疎水基は溶媒側に偏在し易い。そのため、界面活性剤が吸着した酸化スズ粒子は有機溶媒やバインダに分散し易い。分散剤としてアニオン系界面活性剤を用いる場合、チタネートカップリング剤を用いたときより塗布液の粘度が高くなる。しかし、アニオン系界面活性剤は一般的にチタネートカップリング剤より安価である。そのため、アニオン系界面活性剤を用いる場合、コストを下げることができる。また、この場合、膜のヘーズや導電性はチタネートカップリング剤を用いたときと同等である。アニオン系界面活性剤として、リン酸エステル型、脂肪酸型、硫酸エステル型、スルホン酸型、カルボン酸型が挙げられる。中でも、リン酸エステル型界面活性剤を用いると、酸化スズ粒子が有機溶媒やバインダに分散し易くなる。カチオン系やノニオン系界面活性剤のみを用いた場合、酸化スズ粒子が有機溶媒に分散できない。
【0015】
酸化スズ粒子100質量部に対して分散剤の含有量が1.3質量部以上だと、酸化スズ粒子が有機溶媒やバインダに分散し易い。そのため、膜のヘーズが低くなる。一方、この含有量が2質量部以下であると、粒子に被覆される分散剤の量が減る。そのため、膜の導電性が高くなる。
【0016】
酸化スズ粒子の表面積1mに対して、分散剤の含有量が0.5mg以上だと、酸化スズ粒子が有機溶媒やバインダに分散し易い。そのため、膜のヘーズが低くなる。一方、この含有量が5mg以下だと、粒子に被覆される分散剤の量が減る。そのため、膜の導電性が高くなる。
【0017】
チタネートカップリング剤を用いる場合、チタネートカップリング剤の一部をアニオン系またはカチオン系界面活性剤に置換することにより、コストを下げることができる。このように塗布液中のチタネートカップリング剤の含有量を減らしても、チタネートカップリング剤の性能(特に、塗布液の粘度が高くなり難い効果)を発揮できる。塗布液中の分散剤の量が粒子100質量部に対して1.3質量部以上の場合、チタネートカップリング剤とこれらの界面活性剤の量比(チタネートカップリング剤の量/界面活性剤の量)が0.4以上であると、チタネートカップリング剤の性能が発揮され易い。なお、カチオン系界面活性剤は、疎水基と、電離して陽イオンになる親水基とを有する。カチオン系界面活性剤として、第四級アンモニウム塩系、アミン塩系が挙げられる。
【0018】
バインダは、有機溶媒に溶解でき、導電膜を形成できるものであればよい。例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂などが挙げられる。複数種類のバインダを混合して用いてもよい。
【0019】
シリカ粒子を含む塗布液を用いて膜を形成すると、膜の導電性が高く、且つ膜のヘーズが低くなる。これは、2つの理由が推察される。一つ目の理由は、塗布液の成分が均質に混ざった状態で膜が形成されることである。このような膜では、構造(密度や表面の凹凸)や組成が均質である。その結果、膜の導電性が高く、且つ膜のヘーズが低くなると推察される。もう一つの理由は、シリカ粒子が膜中で酸化スズ粒子を押し出していることである。この酸化スズ粒子がシリカ粒子の周りに沿った状態で存在することにより、導電パスが形成され易くなる。また、塗布液がシリカ粒子を含むと、膜表面が滑り易くなるため、膜同士の貼りつきを防ぎ易くなる。そのため、膜の取り扱いが容易になる。このシリカ粒子の平均粒子径が70nm以上であると、膜中で酸化スズ粒子を押し出し易い。一方、このシリカ粒子の平均粒子径が400nm以下であると、膜のヘーズが低くなる。シリカ粒子の平均粒子径は150nm以下が好ましい。透過型電子顕微鏡(TEM)を用いてシリカ粒子の平均粒子径を測定することができる。
【0020】
有機溶媒は、分散剤とバインダを溶かせるものであればよい。溶媒以外の成分は固形分として扱う。
【0021】
塗布液の固形分濃度が低いほど、塗布液の粘度が低くなる。そのため、この濃度は40重量%以下であることが好ましい。一方、この濃度が20重量%以上であると、厚い膜を形成し易い。厚い膜の硬度や導電性は高い。
【0022】
塗布液中の固形分の酸化スズ粒子濃度が40重量%以上であると、導電パスが形成され易い。
【0023】
塗布液中の固形分のバインダ濃度が10重量%以上であると、酸化スズ粒子が塗布液やバインダに分散し易い。この濃度は20重量%以上が好ましい。一方、この濃度が45重量%以下だと、膜の導電性が高くなる。この濃度は35重量%以下がより好ましい。
【0024】
塗布液中の固形分のシリカ粒子濃度が5重量%以上であると、導電パスが形成され易い。一方、この濃度が50重量%以下であると、膜のヘーズが低くなる。また、膜の導電性が高くなる。この濃度が20重量%以下であると、膜が基材に密着し易い。
【0025】
以下、酸化スズ粒子について説明する。一次粒子が複数結合して形成された酸化スズ粒子を用いると、ヘーズが低くなる。この粒子の酸化スズ含有率がSnO換算で90重量%以上だと、粒界抵抗が低い。そのため、膜の導電性が高くなる。
【0026】
酸化スズ粒子の一次粒子径が小さいほど、膜のヘーズが低くなる。膜のヘーズを低くする目的では、酸化スズ粒子の一次粒子径は50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましく、10nm以下がさらに好ましい。一方、この一次粒子径が大きいと、酸化スズ粒子の粒界抵抗が低くなる。そのため、膜の抵抗も低くなる。膜の抵抗を低くする目的では、この一次粒子径は20nm以上が好ましい。
【0027】
酸化スズ粒子の比表面積が低いほど、酸化スズ粒子の粒界抵抗が低くなる。そのため、この比表面積は100m/g以下が好ましく、50m/g以下がより好ましい。一方、この比表面積が30m/g以上であると、膜のヘーズが低くなる。この比表面積は35m/g以上がより好ましい。
【0028】
アンチモンやリンがドープされている酸化スズ粒子は高い導電性を有する。特に、アンチモンドープ酸化スズ粒子は高い導電性を有する。アンチモン(Sb)のドープ量がSb換算で2~6重量%であると、酸化スズ粒子の導電性が高くなる。一方、リンドープ酸化スズ粒子は、アンチモンドープ酸化スズ粒子ほど高い導電性を有さない。しかし、リンはアンチモンに比べて環境に負荷をかけ難い。P換算でリン(P)のドープ量が4~6重量%であると、酸化スズ粒子の導電性が高くなる。
【0029】
以下、塗布液の製造方法について説明する。まず、酸化スズ含有粉末(以下、酸化スズ粉末と称す)と、分散剤と、有機溶媒を混合し、酸化スズ粉末の懸濁液を調製する〔混合工程〕。懸濁液中の酸化スズ粉末を解砕することにより、酸化スズ粒子の分散液を調製する〔解砕工程〕。解砕時に、分散液の平均粒子径(すなわち、酸化スズ粒子の平均粒子径)を200nm~500nmに調整する。この分散液にバインダを添加することにより、塗布液を調製する〔添加工程〕。
【0030】
酸化スズ粉末の一次粒子径が500nm以下であると、解砕工程で酸化スズ粉末を平均粒子径が500nm以下に解砕し易い。
【0031】
酸化スズ粉末の比表面積が低いほど、酸化スズ粒子の粒界抵抗が低くなる。そのため、この比表面積は100m/g以下が好ましく、50m/g以下がより好ましい。一方、この比表面積が2m/g以上であると、解砕工程で平均粒子径が500nm以下になるように酸化スズ粉末を解砕し易い。この比表面積が30m/g以上であると、膜のヘーズが低くなる。この比表面積は35m/g以上がより好ましい。
【0032】
酸化スズ粉末として、例えば特開平6-76636や特願昭62-51008等に記載の方法で製造された酸化スズ粉末が使用できる。また、酸化スズ粉末を調製する方法として、スズイオン溶液を中和する方法、加熱水中へ塩化スズ溶解させた溶液を加えて加水分解する方法が挙げられる。以下、中和する方法について説明する。酸化スズに酸を加えることによりイオン化した後、塩基を用いてこのイオンを中和する。これにより、酸化スズの沈降物を得る。これを乾燥・焼成することにより、酸化スズ粉末が得られる。中和するとき、三酸化アンチモンもイオン化し、スズイオンと一緒に中和する(共沈する)ことができる。共沈すると、アンチモンを酸化スズ粉末にドープすることができる。調製する酸化スズ粒子全量に対して、2~6重量%のアンチモンをドープすると、酸化スズ粒子の導電性が高くなる。
【0033】
混合工程では、酸化スズ粉末と、分散剤と、有機溶媒を混合し、酸化スズ粉末の懸濁液を調製する。ここでは分散剤(分散剤Aとする)として、チタネートカップリング剤またはアニオン系界面活性剤を混合する。このような分散剤であれば、解砕工程の後で酸化スズ粒子が有機溶媒に分散し易くなる。分散剤を有機溶媒に混合・溶解し、分散剤溶液を調製した後、酸化スズ粉末と分散剤溶液を混合することが好ましい。この方法であれば、解砕工程において、酸化スズ粒子の表面に分散剤が均一に処理される。
【0034】
懸濁液中の酸化スズ粉末を解砕することにより、酸化スズ含有粒子の分散液を調製する。酸化スズ粉末を解砕すると、酸化スズ粒子になる。このとき、酸化スズ粒子の平均粒子径を200~500nmに調整する。酸化スズ粒子の平均粒子径は遠心沈降式により測定できる(塗布液の平均粒子径とは測定方法が異なる)。酸化スズの平均粒子径が200nm以上のとき、アニオン系界面活性剤やチタネートカップリング剤が酸化スズ粒子の表面に吸着し易い。そのため、酸化スズ粒子が有機溶媒に分散できる。カチオン系やノニオン系界面活性剤のみを用いた場合、平均粒子径が200nm以上の酸化スズ粒子は有機溶媒に分散できない。酸化スズ粒子の平均粒子径が200nm以上であることにより、塗布液の平均粒子径が150nm以上になる。酸化スズ粒子の平均粒子径が200nm未満であると、塗布液の平均粒子径が150nm未満となる。そのため、酸化スズ粒子が膜中で導電パスを形成し難くなる。一方、酸化スズ粒子の平均粒子径が500nm以下であることにより、塗布液の平均粒子径が400nm以下になる。この平均粒子径であれば、膜のヘーズが低くなる。
【0035】
ビーズミル等の媒体ミル、高速撹拌機、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、ジェットミル等の湿式粉砕機を用いて、酸化スズ粉末を粉砕することができる。特に、ビーズミルを用いると、懸濁液中の酸化スズ粉末を解砕し易い。ビーズミルを用いる場合、解砕時間や周速、ビーズの充填率は使用するビーズミルの装置の規模や形状によって適宜調整する必要がある。ビーズ径は周速に応じて適宜調整する。使用するビーズがガラスやジルコニアであると、入手が容易である。使用するビーズがジルコニアやアルミナ等の無機酸化物であると、酸化スズ粉末に与えるエネルギーが高いため、酸化スズ粉末を解砕し易い。解砕後、ステンレス金網等を用いて分散液を濾過すると、粗大粒子を除去できる。
【0036】
上述の酸化スズ粒子の分散液に、バインダを添加することにより、塗布液が調製される。この分散液にバインダを添加しても、酸化スズ粒子は凝集し難い。凝集しても、塗布液に超音波を照射することにより、凝集した酸化スズ粒子が再分散する。
【0037】
超音波を照射する前に、上述の分散剤を追加で添加することにより、酸化スズ粒子の再分散が促進される(ここで添加する分散剤を分散剤Bとする)。分散剤の種類は、既に分散液に含まれている分散剤と同じ種類でも、異なる種類でもよい。このとき、塗布液に含まれている分散剤の合計量が酸化スズ粒子100質量部に対して1.3質量部以上であることにより、酸化スズ粒子が有機溶媒に分散し易くなる。一方、この合計量が粒子100質量部に対して2質量部以下であると、粒子に被覆される分散剤の量が減るため、膜の導電性が高くなる。
【0038】
基材上に上述の塗布液を塗布し、乾燥することにより、膜付基材を製造できる。基材は均一な液膜を形成可能で、乾燥温度に耐えられるものであればよい。塗布方法として、バーコーター法、ディップ法、スプレー法、スピナー法、ロールコート法、グラビアコート法、スリットコート法、加圧塗布法等が挙げられる。平均膜厚は、用途に応じて適宜選択できる。平均膜厚は50nm以上だと、静電気による急激な電圧変化を抑制し易い。平均膜厚は80nm以上が好ましい。平均膜厚が1000nm以下であると、透明性が高くなる。平均膜厚は300nm以下が好ましい。
【0039】
[実施例1]
以下、塗布液の調製方法を具体的に示す。他の実施例や比較例の塗布液の調製条件も併せて表1に示す。
【0040】
まず、以下のように酸化スズ粉末を調製した。スズ酸カリウム153gを水343gに溶解させた。これに吐酒石9.3gを加え、溶解させた。これを硝酸とともに、50℃の温水にpHを8.5に保持するように、12時間かけて添加した。これにより、ゾルを得た。このゾルから粒子を濾別し、粒子を洗浄した。粒子を100℃で5時間乾燥後、550℃で3時間焼成することにより、酸化スズ粉末を得た。
【0041】
〔混合工程〕
次に、酸化スズ粉末と、分散剤Aと、有機溶媒を混合し、懸濁液を調製した。有機溶媒として2-ブタノン(林純薬工業社製、有機溶媒)84gと、分散剤(チタネートカップリング剤)としてプレンアクト(登録商標) 9SA(味の素ファインテクノ社製)1.5gとを混合した。これを10分間攪拌することにより、分散剤溶液を調製した。この分散剤溶液85.5gと、酸化スズ粉末43gとを2Lのガラスビーカー中で混合することにより、懸濁液を調製した。
【0042】
〔解砕工程〕
本工程では、懸濁液中の酸化スズ粉末を解砕する。まず、懸濁液128.5gにガラスビーズ BZ-06 (アズワン社製、ビーズ径は0.5mmφ)255gを加えた。バッチ式ビーズミル イージーナノRMBII型を用いて、懸濁液(酸化スズ粉末)中の酸化スズ粉末を解砕することにより、酸化スズ粒子を調製した。酸化スズ粒子の平均粒子径が340nm(表1に記載の酸化スズ粒子の平均粒子径)となるまで解砕を続けた(他の実施例および比較例でも、酸化スズ粒子の平均粒子径が、表1に記載の酸化スズ粒子の平均粒子径となるまで、解砕を続けた。)。ビーズミルの周速は12m/sとした。網目44μmのステンレス金網を用いて、懸濁液からガラスビーズを分離した。これに2-ブタノンを加えることにより、分散液(固形分濃度を35.0重量%)を調製した。
【0043】
〔添加工程〕
本工程では、分散液にバインダを添加する。2-ブタノン17.77gにバインダとしてアクリル樹脂(クラレ社製クラリティ(登録商標)LA2270)7.62gを溶解した。これを攪拌中の分散液56.70gに添加した。この分散液を5分間攪拌した。3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたシリカゾル(溶媒は4-メチル-2-ペンタノン、SiO濃度37%、SEMで測定した平均粒子径が140nm)6.86gをシリカ粒子として分散液に添加した。この分散液を5分間攪拌した後、分散剤B(実施例1ではリン酸エステル型アニオン界面活性剤)としてプライサーフ(登録商標)A212C(第一工業製薬社製)0.3gを分散液に添加した。この分散液を5分間攪拌した後、2-ブタノン10.75gを分散液に添加した。この分散液を60分間攪拌した後、超音波分散機(カイジョー社製 Horn type 5281型)を用いて超音波を分散液に60秒間照射した。ステンレス金網を用いてこの分散液を濾過することにより、塗布液を調製した。
【0044】
この塗布液を25℃にした後、粘度計TVB-10型(東機産業社製)を用いてこの塗布液の粘度を測定した。他の実施例および比較例の測定結果も併せて表1に示す。
【0045】
以下のように塗布液の平均粒子径を測定した。塗布液1gに、2-ブタノン9g添加した。バス型超音波洗浄機を用いて超音波をこの塗布液に60秒間照射することにより、測定サンプルを調製した。測定サンプルをガラスセルに充填し、動的光散乱式の粒子径測定装置(Malvern社製ゼータサイザーナノZS)を用いて塗布液の体積平均粒子径を測定した。他の実施例および比較例の測定結果も併せて表1に示す。
【0046】
バーコーター法により、ポリエステルフィルム(東洋紡社製コスモシャイン(登録商標)A4360)上にこの塗布液を塗布した。25℃、50RH%の条件で20分間塗布液を乾燥することにより、膜付基材を得た。この膜付基材の表面抵抗と光学特性を以下のように測定した。他の実施例および比較例の測定結果も併せて表2に示す。
【0047】
(表面抵抗)
表面抵抗測定機(日東精工アナリテック社製ハイレスターUX MCP-HT800)を用いて膜の表面抵抗を測定した。
【0048】
(光学特性)
ヘーズメーター(スガ試験機社製HZ-V3)を用いて膜付基材のヘーズを測定した。
【0049】
[実施例2]
混合工程において、分散剤Aとしてプライサーフ(登録商標)A212Cを1.3g添加した以外は、実施例1と同様に懸濁液および分散液を調製した。
添加工程において、この分散液を用いたことと、分散剤Bとしてプレンアクト(登録商標) 9SA(味の素ファインテクノ社製、チタネート系カップリング剤)0.3g添加したこと以外は、実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0050】
[実施例3]
添加工程において、平均粒子径160nmのシリカゾルをシリカ粒子として用いたこと以外は、実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0051】
[実施例4]
添加工程において、平均粒子径300nmのシリカゾルをシリカ粒子として用いたこと以外は、実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0052】
[実施例5]
混合工程において、プレンアクト9SAの添加量を1.4gにしたこと以外は実施例1と同様に懸濁液と分散液を調製した。添加工程において、この分散液を用いたことと、分散剤Bとしてプレンアクト9SAを0.3g添加したこと以外は、実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0053】
[実施例6]
混合工程において、プレンアクト9SAの混合量を2.3gにしたこと以外は実施例1と同様に懸濁液と分散液を調製した。添加工程において、この分散液を用いたことと、分散剤Bを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0054】
[実施例7]
添加工程において、分散剤BとしてプライサーフA212Cを0.3g添加したこと以外は、実施例2と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0055】
[実施例8]
添加工程において、分散剤BとしてフィラノールPA-075F(日油社製)0.3g混合したこと以外は、実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0056】
[実施例9]
添加工程において、2-ブタノン23.70gにバインダとしてクラリティLA2270を10.15g溶解させた。これを攪拌中の分散液56.70gに添加した。この分散液に、シリカ粒子を添加しなかった。この分散液を5分間攪拌した後、分散剤BとしてプライサーフA212C 0.3gを分散液に添加した。この分散液を5分間攪拌した後、2-ブタノン9.15gを分散液に添加した。これら以外は、実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0057】
[実施例10]
添加工程において、2-ブタノン11.85gにバインダとしてクラリティLA2270を5.08g溶解させた。これを攪拌中の分散液56.70gに添加した。この分散液に、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで表面処理されたシリカゾル(溶媒は4-メチル-2-ペンタノン、SiO濃度37%、140nm〔SEMで測定〕)13.72gをシリカ粒子として添加した。この分散液を5分間攪拌した後、分散剤BとしてプライサーフA212C 0.3gを分散液に添加した。この分散液を5分間攪拌した後、2-ブタノン12.35gを分散液に添加した。これら以外は、実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0058】
[実施例11]
混合工程において、分散剤AとしてプライサーフA212Cを2.6g添加したこと以外は、実施例1と同様に懸濁液と分散液を調製した。添加工程において、この分散液を用いたことと、分散剤Bを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0059】
[実施例12]
添加工程において、バインダ樹脂としてアクリル樹脂(DIC社製ACRYDIC A-166)を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0060】
[比較例1]
解砕工程において、酸化スズ粒子の平均粒子径が190nmとなるまで解砕を続けた。それ以外は、実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0061】
[比較例2]
解砕工程において、酸化スズ粉末の平均粒子径が550nmとなるまで解砕を続けた。それ以外は、実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0062】
[比較例3]
混合工程において、分散剤Aとしてシランカップリング剤(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越シリコーン社製 KBM-503)を1.3g添加したこと以外は、実施例1と同様に懸濁液を得た。解砕工程において、この懸濁液を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で懸濁液中の酸化スズ粉末を解砕した。解砕を続けても、酸化スズ粉末の平均粒子径は570nmまでしか下がらなかった。網目44μmのステンレス金網を用いて、懸濁液からガラスビーズを分離した。これに2-ブタノンを加えることにより、分散液(固形分濃度を35.0重量%)を調製した。この分散液を用いること以外は実施例1と同様に塗布液と膜付基材を得た。
【0063】
[比較例4]
混合工程において、分散剤Aとしてカチオン系界面活性剤(フィラノールPA-075F)1.3gを添加したこと以外は実施例1と同様に懸濁液を調製した。解砕工程において、この懸濁液を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で懸濁液中の酸化スズ粉末を解砕した。しかし、解砕を続けても、酸化スズ粉末を有機溶媒に分散することができなかった。
【0064】
[比較例5]
混合工程において、分散剤AとしてDIC社製メガファック(登録商標)F-553を1.3g添加したこと以外は実施例1と同様に懸濁液を調製した。解砕工程において、この懸濁液を用いたこと以外は実施例1と同様の条件で懸濁液中の酸化スズ粉末を解砕した。しかし、解砕を続けても、酸化スズ粉末を有機溶媒に分散することができなかった。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】