(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147930
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】粒子の分散液と、その製造方法、塗布液および膜付基材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 17/00 20060101AFI20231005BHJP
C09C 1/36 20060101ALI20231005BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231005BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231005BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09D17/00
C09C1/36
C09D7/61
C09D7/63
C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055717
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 夕子
(72)【発明者】
【氏名】荒金 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】村口 良
【テーマコード(参考)】
4J037
4J038
【Fターム(参考)】
4J037AA22
4J037CA21
4J037CB22
4J037DD02
4J037DD05
4J037DD23
4J037DD24
4J038EA011
4J038FA011
4J038HA166
4J038JC24
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA09
4J038NA26
(57)【要約】
【課題】分散剤の量が少なくても、ルチル型の結晶構造を有する粒子が有機溶媒に分散できる分散液を提供する。
【解決手段】本発明の分散液はルチル型の結晶構造を有する粒子とリン酸エステル系の界面活性剤とを含み、この界面活性剤は長いアルキル基を有することとした。アルキル基の炭素原子の数は6~14である。この界面活性剤のHLB値は7以上である。さらに、このHLB値をアルキル基の炭素原子数で除した値(HLB値/炭素原子数)が0.8以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ルチル型の結晶構造を有する酸化チタン含有粒子と、アルキル基を有するリン酸エステル系の界面活性剤と、有機溶媒と、を含む粒子の分散液であって、
当該分散液の固形分がTiO2換算で酸化チタンを80重量%以上含み、
当該分散液を動的光散乱法により測定したときの平均粒子径が100nm以下であり、
前記粒子の結晶子径が5nm以上であり、
前記界面活性剤のHLB値が7以上であり、
前記HLB値を前記アルキル基の炭素原子数で除した値(HLB値/炭素原子数)が0.8以上であり、
前記界面活性剤が式*の構造であることを特徴とする粒子の分散液。
RO[(CH2CH2O)m]nP(=O)(OH)3-n・・・・・・*
(Rは炭素原子が6~14のアルキル基である。エチレンオキサイドの繰り返し数mは2より大きい。nは1または2である。前記界面活性剤としてn=1とn=2の構造の界面活性剤の両方を分散液は含んでいてもよい。)
【請求項2】
前記固形分中にPがP2O5換算で0.3重量%以上含まれることを特徴とする請求項1に記載の分散液。
【請求項3】
前記界面活性剤の分子量が500以上であることを特徴とする請求項1に記載の分散液。
【請求項4】
当該分散液の固形分がTiO2換算で酸化チタンを90重量%以上含み、
前記粒子の結晶子径が7nm以上であり、
前記粒子の表面からスズが検出されないことを特徴とする請求項1に記載の分散液。
【請求項5】
ルチル型の結晶構造を有する粉末と、アルキル基を有するリン酸エステル系の界面活性剤と、有機溶媒とを混合することにより、混合液を調製する工程と、
前記混合液中のルチル粉末を解砕することにより、粒子の分散液を調製する工程と、を備え、
前記粉末がTiO2換算で酸化チタンを85重量%以上含み、
前記粉末の結晶子径が5nm以上であり、
前記界面活性剤のHLB値が7以上であり、
前記HLB値を前記アルキル基の炭素原子数で除した値(HLB値/炭素原子数)が0.8以上であり、
前記界面活性剤が式*の構造を有することを特徴とする粒子の分散液の製造方法。
RO[(CH2CH2O)m]nP(=O)(OH)3-n・・・・・・*
(Rは炭素原子が6~14のアルキル基である。エチレンオキサイドの繰り返し数mは2より大きい。nは1または2である。前記界面活性剤としてn=1とn=2の界面活性剤の両方を分散液は含んでいてもよい。)
【請求項6】
前記混合液を調整する工程において、前記粉末の表面積1m2に対して、前記界面活性剤を0.2~5mg混合することを特徴とする請求項5に記載の分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項1に記載の分散液、または請求項5に記載の製造方法により得られた分散液にバインダを添加することを特徴とする膜形成用の塗布液の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の製造方法により得られた塗布液を用いて基材上に膜を形成することを特徴とする膜付基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルチル型粒子の分散液およびその製造方法と、塗布液および膜付基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、屈折率の高い酸化物粒子を含有する塗布液を用いて、基材上に屈折率の高い膜が形成されている。このような膜は、例えば、メガネ、レンズ、スマートフォンのタッチパネル等に利用されている。
【0003】
膜の屈折率を高くするために、粒子の屈折率は高いことが好ましい。例えば、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタン含有粒子は高い屈折率を有することが知られている(例えば、特許文献1)。分散剤としてシランカップリング剤を用いると、酸化チタン粒子が有機溶媒に分散できる。
【0004】
リン酸エステル系の界面活性剤(分散剤)の溶液中で、酸化チタン粒子を調製することにより、酸化チタン含有粒子が得られる(例えば、特許文献2)。この方法であれば、少ない量の分散剤で酸化チタン含有粒子を分散することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2018/181241号
【特許文献2】国際公開第2013/161859号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の酸化チタン含有粒子はルチル型の結晶構造であるため、高い屈折率を有する。しかし、この粒子を分散させるために、多量のシランカップリング剤を用いている。このような分散液を用いて塗布液を調製すると、固形分中のルチル粒子含有率が低くなってしまう。その結果、屈折率の高い膜を形成することができない。
【0007】
一方、特許文献2の酸化チタン含有粒子は、分散剤の量が少なくても有機溶媒に分散できる。しかし、界面活性剤の親油基が(メタ)アクリレート基である。(メタ)アクリレート基は電気陰制度の低い元素を含むため、親油性が低い。そのため、分散剤としてこの界面活性剤を用いても、ルチル型の結晶構造を有する酸化チタン含有粒子が有機溶媒に分散できない。
【0008】
そこで本発明の目的は、分散剤の量が少なくても、ルチル型の結晶構造を有する粒子が有機溶媒に分散できる分散液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明の分散液はルチル型の結晶構造を有する粒子とリン酸エステル系の界面活性剤とを含み、この界面活性剤は長いアルキル基を有することとした。このアルキル基の炭素原子の数は6~14である。この界面活性剤のHLB値は7以上である。さらに、このHLB値をアルキル基の炭素原子数で除した値(HLB値/炭素原子数)が0.8以上である。
【0010】
界面活性剤は式*の構造を有する。Rは炭素原子が6~14のアルキル基である。mはエチレンオキサイドの繰り返し数であり、2より大きい。nは1または2である。なお、n=1とn=2の界面活性剤の両方を分散液は含んでいてもよい。
RO[(CH2CH2O)m]nP(=O)(OH)3-n・・・・・・*
【0011】
分散液の固形分にPがP2O5換算で0.3重量%以上含まれることが好ましい。また、分散液の固形分がTiO2換算で酸化チタンを80重量%以上含むことが好ましい。
【0012】
また、分散液の固形分がTiO2換算で酸化チタンを90重量%以上含み、粒子の結晶子径が7nm以上であり、粒子の表面からスズが検出されないことが好ましい。
【0013】
また、界面活性剤の分子量が500以上であることが好ましい。
【0014】
分散液の製造方法は、ルチル型の結晶構造を有する粉末と上述の式*の構造を有するリン酸エステル系の界面活性剤とプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)とを混合することにより、混合液を調製する工程と、混合液中のルチル粉末を解砕することにより、粒子の分散液を調製する工程と、を備える。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の粒子の分散液は、結晶構造がルチル型の酸化チタン粒子(以下、ルチル粒子と称す)と、分散剤と、有機溶媒と、を含む。分散剤は、リン酸エステル系の界面活性剤(以下、単に界面活性剤と称す)である。界面活性剤は電離して陰イオンになる親水基(以下、単に親水基と称す)と、親油基とを有する。親水基には、界面活性剤のリン酸部やEOが該当する。この親水基は酸化物粒子表面に吸着し易い。酸化物粒子表面に吸着した界面活性剤の親油基は有機溶媒側に偏在する。この親油基は有機溶媒との親和性が高いため、このような粒子は有機溶媒に分散し易くなる。これら親水基と親油基のバランスが粒子の有機溶媒への分散性に影響する。以下、界面活性剤の親油基を単に親油基と称す。
【0016】
界面活性剤の親水性と親油性のバランスを示す指標として、一般的にHLB値が用いられる。この値が高いほど親水性が高い。界面活性剤のHLB値(以下、単にHLB値と称す)が7以上であることにより、親水基がルチル粒子表面に吸着し易くなる。
【0017】
一方、HLB値が高過ぎると、界面活性剤と有機溶媒の親和性が低い。そのため、界面活性剤がルチル粒子に吸着していても、この粒子は有機溶媒に分散し難い。そこで、親油基の炭素原子数を6以上とした。これにより、この親油基と有機溶媒との親和性が高くなる。そのため、HLB値が高過ぎても、ルチル粒子が有機溶媒に分散し易い。
【0018】
この炭素原子数が大き過ぎると、ルチル粒子の表面に吸着している状態より、有機溶媒に分散している状態の方が、界面活性剤は安定となり易い。そのため、界面活性剤がルチル粒子の表面に吸着し難くなる。そこで、親油基の炭素原子数を14以下とした。
【0019】
親油基がフェニル基を有すると、ルチル粒子が有機溶媒に分散できない。その理由は、かさ高いフェニル基が立体障害となり、界面活性剤がルチル粒子に吸着し難くなっていることであると推測される。また、親油基が電気陰性度の高い元素を含むと、この親油基の親油性が下がるため、ルチル粒子が有機溶媒に分散できない。そこで、親油基をアルキル基とした。アルキル基は長いものの、粒子表面に吸着する際には互いに立体障害になり難い。また、アルキル基は電気陰性度の高い元素を含まない。以下、界面活性剤のアルキル基を、単にアルキル基と称す。
【0020】
さらに、HLB値をアルキル基の炭素原子数で除した値(HLB値/炭素原子数)が0.8以上である。これにより、アルキル基の炭素原子数が大きくても、界面活性剤の親水性が高い。そのため、界面活性剤がルチル粒子の表面に吸着し易くなる。
【0021】
界面活性剤が式*の構造を有すると、ルチル粒子が有機溶媒に分散し易い。ここで、Rは炭素原子が6~14のアルキル基である。mはエチレンオキサイド(以下、EOと称す)の繰り返し数であり、2より大きい。nは1または2である。なお、分散剤としてn=1とn=2の界面活性剤の両方を分散液は含んでいてもよい。
RO[(CH2CH2O)m]nP(=O)(OH)3-n・・・・・・*
【0022】
EOの繰り返し数mが大きいほど、親水基の分子量は高くなり、界面活性剤の親水性が高くなる。繰り返し数mは式〔HLB=7+11.7log(Mw/Mo)〕から(川上法により)算出される。Mwは親水基の分子量で、Moは親油基の分子量である。分散剤としてn=1とn=2の界面活性剤の両方を分散液が含んでいる場合、n=1として繰り返し数mを算出する。mが2より大きいことにより、親水基がルチル粒子表面に吸着し易くなる。mは3以上が好ましい。また、親水基の分子量が100以上だと、親水基がルチル粒子表面に吸着し易い。
【0023】
界面活性剤の分子量が高いと、親水基と親油基の分子量が高くなる。親水基が大きいと、親水基が粒子表面に吸着し易い。親油基が大きいと、粒子が有機溶媒に分散し易い。そのため、界面活性剤の分子量は300以上が好ましい。500以上がより好ましい。
【0024】
分散液中の界面活性剤の含有量がルチル粒子100質量部に対して10質量部以上だと、ルチル粒子が有機溶媒に分散し易い。一方、この含有量がルチル粒子100質量部に対して25質量部以下であると、分散液中の固形分のルチル粒子含有率が高くなる。このルチル粒子含有率は20質量部以下が好ましく、16質量部以下がさらに好ましい。
【0025】
また、界面活性剤を含む分散液はリン(P)を含む。分散液中の固形分のリン含有率がP2O5換算で0.3重量%以上だと、ルチル粒子は有機溶媒に分散し易い。一方、このリン含有率が低いほど、固形分の界面活性剤含有量が少ない。そのため、固形分のルチル粒子含有率が高くなる。このリン含有率がP2O5換算で3重量%以下であることが好ましく、2重量%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
分散液中の固形分の酸化チタン含有率が高いほど、膜の屈折率が高くなる。そのため、この酸化チタン含有率は、TiO2換算で80重量%以上が好ましく、85重量%以上がより好ましく、90重量%以上がさらに好ましい。
【0027】
有機溶媒はルチル粒子を分散できるものであればよい。ルチル粒子はグリコール系の有機溶媒に分散し易い。また、ルチル粒子は、SP値が9~13の有機溶媒に分散し易い。SP値が9~13のグリコール系有機溶媒として、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)が挙げられる。一方、有機溶媒のSP値が9未満の場合、アルキル基が長いほど、ルチル粒子が有機溶媒に分散し易い。この場合、アルキル基の炭素原子数は10以上が好ましく、12以上がより好ましい。
【0028】
以下、ルチル粒子について説明する。ルチル粒子を溶媒に分散させたとき、ルチル粒子の平均粒子径(以下、分散粒子径と称す)が100nm以下であることにより、膜の透明性が高くなる。また、ルチル粒子が沈降し難くなる。分散粒子径は80nm以下がより好ましい。一方、分散粒子径が15nm以上であると、ルチル粒子が溶媒やバインダに分散し易い。分散粒子径は25nm以上がより好ましい。分散粒子径は動的光散乱法により測定できる。
【0029】
ルチル粒子の結晶子径が大きいほど、比表面積が小さいため、ルチル粒子の密度が高い。そのため、ルチル粒子の屈折率が高くなる。このような粒子を含む膜の屈折率は高くなる。また、この結晶子径が大きいほど、ルチル粒子の比表面積が小さくなるため、ルチル粒子が溶媒に分散し易くなる。そのため、この結晶子径は5nm以上である。この結晶子径は、7nm以上が好ましく、9nm以上がより好ましく、12nm以上がさらに好ましい。
【0030】
ルチル粒子の結晶子径が7nm以上の場合、ルチル粒子100質量部に対して9質量部以上の界面活性剤を分散液が含むことにより、ルチル粒子は有機溶媒に分散し易い。この結晶子径が9nm以上の場合、ルチル粒子100質量部に対して7質量部以上の界面活性剤を分散液が含むことにより、ルチル粒子は有機溶媒に分散し易い。
【0031】
ルチル粒子の酸化チタン含有率が高いほど、ルチル粒子の屈折率は高くなる。そのため、この酸化チタン含有率は、TiO2換算で90重量%以上が好ましく、92重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましい。一方、ルチル粒子が酸化スズを含むと、ルチル粒子の結晶構造がルチル型になり易い。しかし、屈折率の観点から、ルチル粒子の酸化スズ含有率は低い方がよい。従って、この酸化スズ含有率は、SnO2換算で10重量%以下が好ましく、5重量%以下がより好ましい。
【0032】
また、表面からスズが検出されないルチル粒子、すなわち、表面に酸化スズが存在しないルチル粒子では、ルチル粒子の表面側(以下、シェルと称す)の酸化チタンの割合が高くなる。そのため、ルチル粒子全体の酸化チタン含有率が高くなり易い。一方、粒子の中心側(以下、コアと称す)が酸化スズを含むと、粒子の結晶構造がルチル型になり易い。すなわち、粒子の結晶構造がルチル型になるのに十分な量の酸化スズをコアが含めば、シェルは酸化スズを含まなくてよい。コア中のスズの割合が低いほど、ルチル粒子全体の酸化チタン含有率を高くできる。そのため、この割合は、6.5atomic%(at%)以下が好ましい。このスズ割合は、チタンとスズの合計の原子数に対するスズの原子数である。
【0033】
ルチル粒子の形状は、例えば、球状、楕球体(ラグビーボール)状、繭状、金平糖状、鎖状、サイコロ状などが挙げられる。この形状が球状に近いと、塗布液や膜中に均一に分散し易い。
【0034】
以下、分散液の製造方法について説明する。まず、ルチル型の結晶構造を有する粉末(以下、ルチル粉末と称す)と界面活性剤と有機溶媒とを混合することにより、混合液を調製する〔混合工程〕。その後、ビーズミルを用いて混合液中のルチル粉末を解砕することにより、粒子の分散液を調製する〔解砕工程〕。以下、各工程について詳細に説明する。
【0035】
〔混合工程〕
本工程では、ルチル粉末と界面活性剤と有機溶媒とを混合することにより、混合液を調製する。混合液を攪拌すると、ルチル粒子表面に界面活性剤が均一に処理され易い。界面活性剤の混合量がルチル粒子100質量部に対して10質量部以上であると、ルチル粒子が有機溶媒に分散し易くなる。一方、この混合量が少ないほど、分散液中の固形分のルチル粒子含有率が高くなる。そのため、この混合量は、ルチル粒子の結晶子100質量部に対して25質量部以下が好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0036】
また、界面活性剤の混合量がルチル粉末の表面積1m2に対して0.2mg以上であると、ルチル粒子が有機溶媒に分散し易い。一方、この混合量がルチル粉末の表面積1m2に対して5mg以下であると、分散液中の固形分のルチル粒子含有率が高くなる。
【0037】
ルチル粉末の酸化チタン含有率が、解砕工程の後に得られるルチル粒子の酸化チタン含有率になる。この酸化チタン含有率が高いほど、ルチル粒子の屈折率が高くなる。そのため、この酸化チタン含有率は、TiO2換算で85重量%以上が好ましく、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましい。
【0038】
ルチル粉末の結晶子径が5nm以上であると、解砕工程の後に得られるルチル粒子は5nm以上になるため、ルチル粒子が有機溶媒に分散し易い。
【0039】
ゾルを乾燥することにより得られるルチル粉末を用いると、ルチル粉末を解砕し易い。ここで、ゾルはルチル型の結晶構造を有する粒子を含む。ゾルの溶媒が水である(すなわち、ゾルが水ゾルである)場合、表面処理剤で粒子表面を処理する必要がない。そのため、水ゾルを用いると、ルチル粉末の酸化チタン含有率を高くできる。また、水ゾルを用いると、粒子表面を表面処理剤で処理する工程が必要ないため、コストが低くなる。水ゾルを乾燥する温度が80℃以上だと、水が蒸発し易い。この乾燥温度が120℃以下だと、ルチル粒子が焼結し難い。そのため、分散粒子径が小さくなり、膜のヘーズが低くなる。
【0040】
解砕工程の後、分散液の平均粒子径は、水ゾルの平均粒子径に近い。膜のヘーズを低くするために、水ゾルの平均粒子径は100nm以下が好ましい。水ゾルや分散液の平均粒子径は動的光散乱法により測定できる。また、解砕工程の後、ルチル粒子の結晶子径は、ルチル粉末(水ゾル中のルチル粒子)の結晶子径に近い。ルチル粒子を有機溶媒に分散させ易くするために、ルチル粉末の結晶子径は7nm以上が好ましく、9nm以上がより好ましい。
【0041】
結晶子径が7nm以上のルチル粒子として、上述の表面からスズが検出されないルチル粒子が挙げられる。このような粒子は、チタン含有化合物を用いてコア粒子表面に酸化チタンを結晶成長させることにより調製できる。コア粒子は酸化チタンと酸化スズを含む。コア粒子の結晶構造がルチル型となる程度に、コア粒子は酸化スズを含む。チタン化合物を中和してゲルを生成させた後、ゲルを解膠することによりチタン含有化合物は得られる。チタン化合物は水溶性であればよい。具体的には、チタン化合物として、四塩化チタン、三塩化チタン、硫酸チタン、硫酸チタニル、水素化チタン等が挙げられる。生成したゲルはチタンの水酸化物を含む。ゲルに残った塩は膜の屈折率や粒子の分散性を低下させる。そのため、ゲルを水で洗浄することが好ましい。過酸化水素を用いてゲルを解膠した場合、コア粒子がルチル型の状態を維持したまま結晶成長し易い。過酸化水素を添加した後のチタン含有化合物の分散液を50℃~100℃の状態にすると、ゲルが解膠し易い。
【0042】
このようなチタン含有化合物の分散液とコア粒子の分散液とを混合する。これを80℃以上の状態にすることにより、コア粒子が結晶成長する。この温度が80℃未満の場合、結晶成長する速度が遅いため、粒子の結晶子径が小さくなる。また、反応が不十分となるため、黄色いチタン含有化合物が残存してしまう。そのため、分散液が黄色いままとなる。この温度を80℃以上にするとき、混合液を水熱合成(オートクレーブ処理)することが好ましい。水熱合成の温度が高いほど、結晶子径が大きくなる。そのため、この温度は100℃以上が好ましく、130℃以上がさらに好ましい。一方、この温度が300℃以下であると、生産効率が高くなる。この温度は、250℃がより好ましい。また、水熱合成の時間が長いほど、密度の高い粒子となる。そのため、この時間は1時間以上が好ましく、5時間以上がより好ましく、10時間以上がさらに好ましい。一方で、この時間が50時間以下だと、生産効率が高くなる。この時間は、40時間以下がより好ましく、20時間以下がさらに好ましい。
【0043】
結晶成長を複数回繰り返すと、酸化チタン含有率が高く、且つ結晶子径と粒子径が大きい粒子を調製できる。結晶成長の回数は2~5回が好ましい。2~3回の場合、膜のヘーズが低く、且つ膜の屈折率が高い。4~5回の場合、2~3回の場合よりも、膜のヘーズが高くなるが、屈折率が高くなる。2回目以降の結晶成長では、結晶成長させた粒子をコア粒子として用いて、同様の操作を行う。
【0044】
〔解砕工程〕
本工程では、混合液中のルチル粉末を解砕することにより、分散液を調製する。ここでは、所望の粒径になるまでルチル粉末を解砕する。ビーズミルやメジアレスの分散機等を用いてルチル粉末を解砕できる。ビーズミルを用いると、ルチル粉末を解砕し易い。使用するビーズミルの装置の規模や形状によって、解砕時間、周速、およびビーズの充填率を適宜調整する。さらに、ビーズ径は周速に応じて適宜調整する。使用するビーズがガラスやジルコニア製であると、入手が容易である。使用するビーズがジルコニアやアルミナ等の無機酸化物であると、ルチル粉末に与えるエネルギーが高い。そのため、ルチル粉末を解砕し易い。
【0045】
以下、塗布液について説明する。上述の分散液にバインダを添加することにより塗布液を調製できる。バインダは、塗布液を用いて膜を形成可能であれば構わない。バインダとして、重合する前のモノマーやオリゴマー、またはこれらが重合された後のポリマー等が挙げられる。このうち、モノマーまたはオリゴマーが好ましい。膜を硬化する際、ポリマーを含む塗布液よりも、モノマーやオリゴマーを含む塗布液の方が緻密な膜になり易い。塗布液を調製する際に添加するバインダの種類によって、有機溶媒を適宜選択できる。
【0046】
バインダとしてモノマーやオリゴマーを用いる場合、重合開始剤を塗布液に添加する。バインダの種類によって、光重合開始剤や熱重合開始剤を選択できる。
【0047】
バインダの添加量が粒子100質量部に対して20質量部以上だと、密着性が高くなる。この添加量は40質量部以上が好ましい。一方、この添加量が粒子100質量部に対して70質量部以下であると、膜の屈折率が高くなる。
【0048】
塗布液の固形分濃度が高いほど、膜を厚くし易い。また、工業的に扱い易い。従って、この固形分濃度は10重量%以上が好ましく、20重量%以上がより好ましい。一方で、この固形分濃度が低いほど、塗布液の粘度が低くなるため、塗布液を塗工し易い。従って、この固形分濃度は50重量%以下が好ましく、30重量%以下がより好ましい。
【0049】
有機溶媒の沸点が80℃以上であると、塗布液をゆっくり乾燥できるため、膜が緻密になる。この沸点は100℃以上がより好ましい。一方で、この沸点が200℃以下であると、有機溶媒が残存し難いため、膜が収縮し易くなる。そのため、膜の硬度が高くなる。この沸点は180℃以下がより好ましい。
【0050】
基材との濡れ性や膜の表面のレベリング性等を調整するために、塗布液にレベリング剤を添加してもよい。
【0051】
上述の塗布液を用いて基材上に膜を形成し、膜付基材を作製する。膜付基材では、基材の上に膜が被覆されており、膜は上述のルチル粒子を含む。すなわち、膜付基材は、ルチル粒子を含む膜と、基材とを含み、基材上に膜が被覆されている。上述のルチル粒子を含む膜の屈折率は高くなる。
【0052】
[実施例1]
以下、ルチル粒子の分散液の製造方法と物性について具体的に説明する。分散液の調製条件を表1に示す。
【0053】
以下のようにルチル粉末を調製した。まず、TiO2換算で7.66質量%の四塩化チタン水溶液523gと、7.66質量%のアンモニア水523gとを混合することにより、pH9.2の白色のスラリー(ゲル)を調製した。スラリーをろ過した後、固形分を純水で洗浄することにより、固形分が10質量%のケーキ400.5gを得た。このケーキを純水で1.5質量%に希釈することにより、スラリーを得た。このスラリーに35質量%の過酸化水素水457.7gを加えた後、80℃の温度で1時間加熱した。この分散液に純水877gを添加することにより、チタン含有化合物の分散液(酸化チタン濃度はTiO2換算で1.0重量%)を得た。この分散液のpHは7.8、レーザー粒子径は、21nmであった。水を用いて、この分散液の酸化チタン濃度を0.01重量%に希釈した後、大塚電子社製のELSZ-2000Sを用いて電気泳動光散乱法でレーザー粒子径を測定した。他の実施例および比較例では、レーザー粒子径を全てこの条件で測定した。
【0054】
チタン含有化合物の分散液4005gに、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル社製)を添加した。1重量%に純水で希釈した錫酸カリウム水溶液を495gこの分散液に添加した後、この分散液からイオン交換樹脂を分離した。オートクレーブを用いて165℃で18時間この分散液を水熱合成した。この分散液のレーザー粒子径は、21nmであった。この分散液を室温まで冷却した後、限外濾過膜装置を用いて濃縮することにより、水ゾルを調製した。乾燥機を用いてこの水ゾルを乾燥することにより、ルチル粉末を調製した。調製したルチル粉末の組成を表1に記載する。
【0055】
〔混合工程〕
有機溶媒としてPGMを70.9gと、界面活性剤としてプライサーフA219B(第一工業製薬社製)を3.8gと、ルチル粉末17.7gと、を容器に入れた。これらを10分間撹拌・混合することにより、混合液を調製した。
【0056】
〔解砕工程〕
ジルコニアビーズ(ビーズ径は0.1mmφ)を混合液に添加して、ビーズミル(アイメックス社製 イージーナノ(RMBII))を用いて粒子径が25nmになるまでルチル粉末を解砕した。これにより、ルチル粒子のPGM分散液(固形分濃度が20質量%)を得た。
【0057】
以下の方法で、この分散液中の固形分のTi(酸化チタン)、Sn(酸化スズ)、およびP含有率を測定しTiO2、SnO2、およびP2O5含有率に換算した。まず、ルチル粒子のPGM分散液1gを100℃で10分乾燥することにより、粒子の粉末を得た。バーナーを用いて、粉末中の有機物を灰化した。その後、粉末に過酸化ナトリウムと水酸化ナトリウムを加えて、粉末を溶融した。さらに、硫酸と塩酸を加えて、粉末を溶解した。ICP-OES(SII社製SPS5520または島津製作所社製ICPS-8100)を用いて、この溶液中のTi(酸化チタン)、Sn(酸化スズ)、およびP濃度を測定した。この濃度をそれぞれTiO2、SnO2、およびP2O5の含有率に換算した。各成分の含有率を表2に示す。以下の実施例および比較例についても同様に測定・換算した。
【0058】
〔塗布液の調製〕
ルチル粒子のPGM分散液100.0g、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート121.0g、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA、共栄社化学社製:ライトアクレートDPE-6A)10.4g、および重合開始剤としてジフェニル(2,4,6トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(IGMResinsB.V.社製:OMNIRAD(登録商標)TPO-H)0.6gを混合した。これにより、塗布液を調製した。
【0059】
〔膜付基材(ガラス基板)の製造〕
ガラス基板(浜新社製:FL硝子、厚さ:3mm、屈折率:1.51)にスピンコート法で塗布液を塗布した。80℃で2分間塗布液を乾燥した。高圧水銀ランプ(GSユアサ社製:EYEUVMETER)を用いて、3000mJ/cm2の条件で紫外光を乾燥した塗布液に照射することにより、膜付基材(ガラス基板)を作製した。ヘーズメーター(日本電色社製:NDH-5000)を用いて、膜付基材(ガラス基板)の全光線透過率およびヘーズを測定した。なお、未塗布のガラス基板は全光線透過率が99.0%、ヘーズが0.1%であった。評価結果を表2に示す。後述の実施例と比較例についても同様に透明膜付基材(ガラス基板)を作製し、測定を行った。
【0060】
〔膜付基材(シリコンウエハ)の製造〕
シリコンウエハ(松崎製作社製:6インチダミーウエハ(P型)、厚さ:625μm)にスピンコート法で塗布液を塗布した。80℃で2分間塗布液を乾燥した。EYEUVMETERを用いて3000mJ/cm2の条件で紫外光を乾燥した塗布液に照射することにより、膜付基材(シリコンウエハ)を作製した。分光エリプソメトリー(日本セミラボ社製:SE―2000)を用いて、膜付基材の屈折率と膜厚を評価した。評価結果を表2に示す。後述の実施例と比較例についても同様に透明被膜付基材(シリコンウエハ)を作製し、測定・評価を行った。
【0061】
[実施例2]
実施例1で得たチタン含有化合物の分散液4005gに、陽イオン交換樹脂(三菱ケミカル社製)を添加した。さらに、1重量%の錫酸カリウム水溶液を495gこの分散液に添加した。分散液からイオン交換樹脂を分離した。オートクレーブ中にて165℃で18時間この分散液を水熱合成することにより、コア粒子の分散液4500gを得た。コア粒子の分散液4500gとチタン含有化合物の分散液4500gとを混合した。この分散液のレーザー粒子径は26nmであった。オートクレーブを用いてこの分散液を水熱合成することにより、コア粒子を結晶成長させた。これにより、ルチル粒子の水ゾルを調製した。水熱合成の条件は165℃で18時間とした。水ゾルのレーザー粒子径は、26nmであった。
【0062】
乾燥機を用いてこの水ゾルを乾燥することにより、ルチル粉末を得た。混合工程において、このルチル粉末を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0063】
[実施例3]
コア粒子の分散液として実施例2で調製した水ゾルを用いたこと以外は、実施例2と同様にコア粒子を結晶成長させた(すなわち、本実施例では結晶成長を2回行った。)。これにより、水ゾルを得た。水ゾルのレーザー粒子径は、32nmであった。乾燥機を用いてこの水ゾルを乾燥することにより、ルチル粉末を得た。混合工程において、このルチル粉末を用いたこと以外は実施例1と同様に塗布液を調製した。
【0064】
[実施例4]
塗布液の調製において、DPHAをアダマンタン誘導体(三菱ガス化学社製:ダイヤピュレスト(登録商標)ADDA)に変更したこと以外は実施例3と同様に塗布液を調製した。
【0065】
[実施例5]
混合工程において、界面活性剤としてプライサーフA208F(第一工業製薬社製)を用いたこと以外は実施例3と同様に塗布液を調製した。
【0066】
[実施例6]
混合工程において、界面活性剤としてプライサーフA215C(第一工業製薬社製)を用いたこと以外は実施例3と同様に塗布液を調製した。
【0067】
[比較例1]
混合工程において、界面活性剤としてプライサーフA208B(第一工業製薬社製)を用いたこと以外は実施例3と同様に混合液を調製した。解砕工程において、ビーズミルを用いて実施例3と同様の条件で、この混合液中のルチル粉末を解砕した。解砕を続けても分散液の平均粒子径が2400nm以下にはならず、ルチル粒子をPGMに分散できなかった。
【0068】
[比較例2]
混合工程において、界面活性剤としてプライサーフP-2M(共栄社化学社製)を用いたこと以外は実施例3と同様に混合液を調製した。解砕工程において、ビーズミルを用いて実施例3と同様の条件で、この混合液中のルチル粉末を解砕した。解砕を続けても分散液の平均粒子径が270nm以下にはならず、ルチル粒子をPGMに分散できなかった。
【0069】
[比較例3]
混合工程において、界面活性剤としてプライサーフA212E(第一工業製薬社製)を用いたこと以外は実施例3と同様に混合液を調製した。解砕工程において、ビーズミルを用いて実施例3と同様の条件で、この混合液中のルチル粉末を解砕した。解砕を続けても分散液の平均粒子径が500nm以下にはならず、ルチル粒子をPGMに分散できなかった。
【0070】
[比較例4]
混合工程において、界面活性剤としてプライサーフA212C(第一工業製薬社製)を用いたこと以外は実施例3と同様に混合液を調製した。解砕工程において、ビーズミルを用いて実施例3と同様の条件で、この混合液中のルチル粉末を解砕した。解砕を続けても分散液の平均粒子径が500nm以下にはならず、ルチル粒子をPGMに分散できなかった。
【0071】
【0072】