(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147941
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/30 20060101AFI20231005BHJP
B23K 11/11 20060101ALI20231005BHJP
B23K 11/20 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
B23K11/30
B23K11/11 540
B23K11/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055731
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(74)【代理人】
【識別番号】100200609
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 智和
(72)【発明者】
【氏名】今本 和伸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】浅井 雄一
(72)【発明者】
【氏名】森田 智也
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA32
4E165AB02
4E165BB02
4E165BB12
4E165BB25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】接合強度を維持した異種板材の重ね合わせ接合を簡便に行うことができる溶接方法を提供する。
【解決手段】互いに対向する一対の溶接電極3,4で複数枚の異種板状被溶接物を重ね合わせ状態で加圧挟持し、両溶接電極3,4間に溶接電流を通電して行う溶接方法であって、上記溶接電流の通電期間の少なくとも一部を含む所定の期間、一対の溶接電極3,4の少なくとも一方を回転させる。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに対向する一対の溶接電極で複数枚の異種板状被溶接物を重ね合わせ状態で加圧挟持し、両溶接電極間に溶接電流を通電して行う溶接方法であって、
上記溶接電流の通電期間の少なくとも一部を含む所定の期間、上記一対の溶接電極の少なくとも一方を回転させることを特徴とする、溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法に関し、詳しくは、対向する一対の電極間に複数枚の板状被溶接物を重ね合わせた状態で加圧挟持し、一対の電極間に通電することにより複数枚の板状被溶接物を接合する溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の溶接法は、スポット溶接法と呼ばれ、例えば特許文献1に示されているように、相互に対向する一対の溶接電極を備えた溶接ガンを用いて行われ、従来、鋼鈑どうしの重ね合わせ接合に好適に用いられてきた。
【0003】
近年、例えば車両製造の分野において、軽量化等の要請から、異種材料の板材を重ね合わせ、接合する場合がある。例えば、鋼鈑とアルミニウム合金板との重ね合わせた接合にあたり、従来一般的なスポット溶接法を用いると、界面に脆い金属間化合物が形成され、安定した接合強度を維持することができないという問題がある。
【0004】
鋼鈑とアルミニウム合金板を必要な接合強度を得ながら接合する方法として、例えばレーザ溶接法があるが、レーザ溶接法を用いる場合、レーザ発振のための特別な設備と莫大な電力が必要となり、コストダウンの要請に応えることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、接合強度を維持した異種板材の重ね合わせ接合を簡便に行うことができる溶接方法を提供することをその課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を採用した。
【0008】
すなわち、本発明によって提供される溶接方法は、互いに対向する一対の溶接電極で複数枚の異種板状被溶接物を重ね合わせ状態で加圧挟持し、両溶接電極間に溶接電流を通電して行う溶接方法であって、上記溶接電流の通電期間の少なくとも一部を含む所定の期間、上記一対の溶接電極の少なくとも一方を回転させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る溶接方法によれば、溶接電流の通電により異種板状被溶接物の界面付近に生じた溶融物ないし半溶融物と金属間化合物が溶接電極の回転により攪拌され、金属間化合物の脆さによる影響をなくし、または少なくした接合部が形成される。これにより、スポット溶接法のための簡便な設備を使用しつつ、コスト安く、必要な溶接強度を維持した異種板状被溶接物の重ね合わせ接合を行うことができる。
【0010】
本発明のその他の特徴および利点は、図面を参照して以下に行う詳細な説明から、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明方法を実施するための溶接装置の概略構成図である。
【
図5】下部電極の平面図(
図4のV-V方向矢視図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0013】
図1~
図4は、本発明に係る溶接方法を実施するためのスポット溶接機1の概要を示す。
【0014】
図1に示すように、スポット溶接機1は、ロボット(図示せず)により3次元位置制御される溶接ガン2を有する。溶接ガン2は、上部電極3と、下部電極4とを有する。これら上部電極3と下部電極4は、同一軸線L上に対向配置され、上部電極3は、シリンダ21等の加圧アクチュエータによって軸線L方向に進退させられるようになっているとともに、回転機構31により、軸線L周りに回転駆動可能となっており、下部電極4は、回転機構41により軸線L周りに回転駆動可能となっている。上部電極3の回転駆動方向は、下部電極4の回転駆動方向と逆方向とされている。これにより、スポット溶接機1は、上部電極3を進出させることにより下部電極4との間に複数枚の被溶接板の重ね合わせ体5(
図7、
図8)を所定の圧力で挟持したうえで、両電極3,4間に所定の溶接電流を通電するとともに、上部電極3と下部電極4のいずれか一方または両方を上記軸線L周りに回転させることができる。
【0015】
図に示す実施形態では、上部電極3の先端形態と下部電極4の先端形態が異なっている。これは、
図7に示すように、上部電極3側(上側)に鋼鈑51を、下部電極4側(下側)にアルミニウム合金板52を重ね合わせてこれらを溶接することを想定してそれに適した先端形態としたものである。
【0016】
具体的には、上部電極3の先端形態は、
図2、
図3によく表れているように、略円錐形をした先端面32の法面33に螺旋放射状に延びる複数の凸条34を形成した形態を有する。法面33の傾斜角θは、例えば15.5°とされる。
【0017】
一方、下部電極4の先端形状は、
図4、
図5によく表れているように、外径を上部電極3の外径よりもやや大とするとともに、外周近くに軸線方向に突出するなだらかな凸部42を有し、中央部に上記外周近くの凸部42よりも突出量が小さいなだらかな凸部43を有した形状である。外周近くの凸部42は、
図5に示すように、環状の凸部42としてもよいし、
図6に示すように、周方向に離隔した、複数の凸部42としてもよい。
【0018】
なお、この実施形態の場合、上部電極3と下部電極4の極性は、好適には上部電極を-(マイナス)極、下部電極を+(プラス)極とされる。
【0019】
次に、
図7~
図10を参照し、本発明に係る溶接方法の一形態について説明する。
【0020】
上部電極3と下部電極4との間に、上位に鋼鈑51を、下位にアルミニウム合金板52を位置させた重ね合わせ体5を配置し(
図7)、上部電極3を下動させて両電極3,4間に重ね合わせ体5を挟持し、上部電極3を一定圧力で鋼鈑51の表面に押圧していく(
図8)。すると、当該上部電極3の円錐状の先端面32が鋼鈑51の表面にめり込んでいき(同時に下部電極4の外周近くの凸部42もアルミニウム合金板52の下部表面にめり込む)、所定のタイミングで上部電極3と下部電極4との間に溶接電流を通電すると、重ね合わせ体5の厚み方向の内部に溶融部6が生じ、この溶融部6は重ね合わせ体5の全厚み方向に成長していく(
図9)。本実施形態では、下位に位置するアルミニウム合金板52のほうが上位に位置する鋼鈑51よりも放熱性に優れていることと、下部電極4の周辺近くの凸部42から上部電極3の円錐状の先端面32の頂部に向かって電子路Eが収束気味となることとが相まって、溶融部6は鋼鈑51の厚み方向内部から重ね合わせ体5の全厚み方向に成長していく。そしてこのとき、鋼鈑51とアルミニウム合金板52の界面に脆さを有する金属間化合物7が生成される。
【0021】
次いで、溶融部6が成長して鋼鈑51の表面が熱で赤化し、半溶融状態となった時点で、上部電極3を軸線L周りに回転させる(
図10)。すると、この回転力が溶融部6の内部に及んでこの溶融部6は上記金属間化合物7とともに螺旋状にねじり攪拌される。これにより金属間化合物7は分散させられ、その脆さによる影響をなくし、または少なくした接合部6aが形成される。これにより、スポット溶接法のための簡便な設備を使用しつつ、コスト安く、必要な溶接強度を維持した鋼鈑51とアルミニウム合金板52の重ね合わせ接合を行うことができる。本実施形態においては、上部電極3の先端面32を円錐形とするとともに、法面に放射状の凸条34が設けられているので、上部電極3の回転力が効果的に伝えられ、溶融部6のねじり攪拌を効果的に行いうる。
【0022】
上記した溶接方法において、上部電極3を回転させる期間は、溶接電流の通電期間内に開始されるが、通電期間内に終了してもよいし、通電期間終了後しばらく回転を継続してもよい。
【0023】
また、上記した溶接方法では、上部電極3のみを回転させたが、上部電極3と下部電極4の両方を回転させてもよい。この場合、上部電極3と下部電極4の回転方向は相互に逆方向とされる。
【0024】
もちろん、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した事項の範囲内でのあらゆる変更は、本発明の範囲に含まれる。
【0025】
例えば、上記実施形態では、鋼鈑51とアルミニウム合金板52とを重ね合わせ接合したが、本発明方法は、鋼鈑と導電性樹脂板、アルミニウム合金板と導電性樹脂板といった、各種の異種板材間接合に適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
L 軸線
E 電子路
1 スポット溶接機
2 溶接ガン
21 シリンダ
3 上部電極
31 回転機構
32 先端面
33 法面
34 凸条
4 下部電極
41 回転機構
42 凸部(外周近く)
43 凸部(中心)
5 重ね合わせ体
51 鋼鈑
52 アルミニウム合金板
6 溶融部
6a 接合部
7 金属間化合物