(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147952
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】残留塩素除去フィルター体
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20231005BHJP
B01J 20/20 20060101ALI20231005BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20231005BHJP
C02F 1/70 20230101ALI20231005BHJP
【FI】
C02F1/28 D
B01J20/20 E
B01J20/28 A
B01J20/28 Z
C02F1/70 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055743
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】592184876
【氏名又は名称】フタムラ化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100201879
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智
(72)【発明者】
【氏名】堀 千春
(72)【発明者】
【氏名】三浦 祥平
【テーマコード(参考)】
4D050
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D050AA04
4D050AB45
4D050AB46
4D050BA06
4D050BD01
4D050CA06
4D050CA15
4D624AA02
4D624AB11
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4D624DB22
4G066AA05B
4G066AA47D
4G066AC17D
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4G066BA01
4G066BA09
4G066BA16
4G066BA36
4G066CA31
4G066DA07
(57)【要約】
【課題】活性炭吸着材と亜硫酸カルシウムを配合したフィルター体であって、通水時の亜硫酸イオンの溶出量をコントロールすることにより、遊離残留塩素と結合残留塩素の両者を含む残留塩素の除去性能を高度に長時間維持することができる残留塩素除去フィルター体を提供する。
【解決手段】活性炭吸着材とフィブリル化繊維バインダーと粒径が0.1~0.5mmの亜硫酸カルシウムとを水中で混合して混合スラリー状物とし、混合スラリー状物を中空円筒形芯部材の側面より吸引しながら被着させて吸着被着物とし、吸着被着物を加熱乾燥されてなる第1フィルター部と、粒径が0.7~5.0mmの亜硫酸カルシウムが充填された第2フィルター部とを備えた。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭吸着材とフィブリル化繊維バインダーとを水中で混合して混合スラリー状物とし、前記混合スラリー状物を中空円筒形芯部材の側面より吸引しながら被着させて吸着被着物とし、前記吸着被着物を加熱乾燥されてなる第1フィルター部と、
平均粒径が0.7~5.0mmの亜硫酸カルシウムが充填された第2フィルター部とを備えた
ことを特徴とする残留塩素除去フィルター体。
【請求項2】
前記混合スラリー状物に粒径が0.1~0.5mmの亜硫酸カルシウムがさらに混合されてなる請求項1に記載の残留塩素除去フィルター体。
【請求項3】
初期濾過水に含有される亜硫酸イオンが5~20mg/Lである請求項1又は2に記載の残留塩素除去フィルター体。
【請求項4】
前記活性炭吸着材が繊維状活性炭、粒状活性炭又は粉末活性炭のいずれか一又は複数である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の残留塩素除去フィルター体。
【請求項5】
前記活性炭吸着材のヨウ素吸着性能が800~2000mg/gである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の残留塩素除去フィルター体。
【請求項6】
前記フィブリル化繊維バインダーがアクリル繊維からなる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の残留塩素除去フィルター体。
【請求項7】
結合残留塩素除去性能が50L/mL以上である請求項1ないし6のいずれか1項に記載の残留塩素除去フィルター体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中の残留塩素である遊離残留塩素及び結合残留塩素の除去を目的とする残留塩素除去フィルター体に関する。
【背景技術】
【0002】
水道水の消毒には、主に次亜塩素酸ナトリウムが使用されており、該次亜塩素酸ナトリウムが水に溶解した時に生ずる次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンは遊離残留塩素や遊離残留塩素と呼ばれている。遊離残留塩素は殺菌ないし消毒効果を有する。しかし、自然水に存在するアンモニアや窒素酸化物と添加された次亜塩素酸や次亜塩素酸イオンとの反応から、クロラミン等の結合残留塩素が生成される。結合残留塩素と遊離残留塩素は合わせて残留塩素と呼ばれる。取水した原水の状態、添加する遊離残留塩素の量、さらには、クロラミンの量によっては臭気が問題となることが多い。
【0003】
水道水等の飲料用水から、これら残留塩素を取り除く目的で浄水器が用いられる。このような浄水器は、活性炭やセラミック等の無機材料の吸着部材と、必要により濾過用の有機高分子膜等を備えた構造である。近年では、浄水器や空気清浄器の高性能化の要望に伴い、これらのフィルター等には活性炭が多用されている。例えば、クロラミンやアンモニアは塩基性であることから活性炭表面に酸性官能基を備えた活性炭が有効であると考えられる(例えば、特許文献1参照)。すなわち、酸-塩基反応を利用した化学反応により除去(分解)効率が高められる。
【0004】
また、活性炭と亜硫酸カルシウムを多孔質ポリマーにより固化したフィルターも提案されている(特許文献2参照)。いわゆる乾式フィルターにおいて、小型のフィルターであっても、活性炭密度を高めて浄水性能を高め、かつ亜硫酸カルシウムの粒径を限定することによって、亜硫酸カルシウムの溶解を速めて遊離残留塩素の除去性能を維持しつつ、水の流量を安定して確保するフィルターが開発されている。
【0005】
ところで、病院は井戸等の地下水のような独立した水源を有していることがあり、原水が汚れていると水中にアンモニアが比較的多く含有される場合がある。そうすると、先述のように、遊離残留塩素等による消毒によりクロラミン等の結合残留塩素が生じやすい。結合残留塩素は、活性炭濾過槽や逆浸透膜では十分な除去が難しく、過去には透析用水に混入して、患者に溶血が発生した事例もあった。このことから、特に、病院において人工透析に用いられる水には残留塩素が除去された水が望まれていて、遊離残留塩素と結合残留塩素を含む残留塩素の除去性能が高い濾材が求められている。
【0006】
そこで、活性炭に亜硫酸カルシウムを混合して成形し一体化した残留塩素除去フィルターが提案されている(特許文献3参照)。良好な通水性を有し、遊離残留塩素と結合残留塩素の両者を含む残留塩素の除去性能を高度に維持することができる。また、窒素分を多く含む原料から製造された多孔質炭素材料をクロラミンの分解触媒とすることが提案されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002-338222号公報
【特許文献2】特開2008-207174号公報
【特許文献3】特開2020-179374号公報
【特許文献4】WO2020/137849公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特に、病院において人工透析に用いられる残留塩素が除去された水は大量に消費されることから、残留塩素を取り除くフィルター体には、残留塩素の高い除去性能だけでなく、高い持続性も求められている。また、その用途から、安全側の観点より性能限界よりも早くフィルターが交換されることも考えられるため、持続性の高い残留塩素除去フィルターの需要はさらに高まっている。
【0009】
さらに、日本国内の水道水においては、塩素臭を抑制するために残留塩素の濃度が低くなるよう管理されることが多く、水中の残留塩素が低濃度であっても良好な除去が可能であって、かつ、長期間良好な除去性能を維持可能な残留塩素除去フィルターが求められている。
【0010】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、活性炭吸着材と亜硫酸カルシウムを配合したフィルター体であって、通水時の亜硫酸イオンの溶出量をコントロールすることにより、遊離残留塩素と結合残留塩素の両者を含む残留塩素の除去性能を高度に長時間維持することができる残留塩素除去フィルター体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、第1の発明は、活性炭吸着材とフィブリル化繊維バインダーとを水中で混合して混合スラリー状物とし、前記混合スラリー状物を中空円筒形芯部材の側面より吸引しながら被着させて吸着被着物とし、前記吸着被着物を加熱乾燥されてなる第1フィルター部と、粒径が0.7~5.0mmの亜硫酸カルシウムが充填された第2フィルター部とを備えたことを特徴とする残留塩素除去フィルター体に係る。
【0012】
第2の発明は、第1の発明において、前記混合スラリー状物に粒径が0.1~0.5mmの亜硫酸カルシウムがさらに混合されてなる残留塩素除去フィルター体に係る。
【0013】
第3の発明は、第1または2の発明において、初期濾過水に含有される亜硫酸イオンが5~20mg/Lである残留塩素除去フィルター体に係る。
【0014】
第4の発明は、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材が繊維状活性炭、粒状活性炭又は粉末活性炭のいずれか一又は複数である残留塩素除去フィルター体に係る。
【0015】
第5の発明は、第1ないし4の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材のヨウ素吸着性能が800~2000mg/gである残留塩素除去フィルター体に係る。
【0016】
第6の発明は、第1ないし5の発明のいずれかにおいて、前記フィブリル化繊維バインダーがアクリル繊維からなる残留塩素除去フィルター体に係る。
【0017】
第7の発明は、第1ないし6の発明のいずれかにおいて、結合残留塩素除去性能が50L/mL以上である残留塩素除去フィルター体に係る。
【発明の効果】
【0018】
第1の発明に係る残留塩素除去フィルター体によると、活性炭吸着材とフィブリル化繊維バインダーとを水中で混合して混合スラリー状物とし、前記混合スラリー状物を中空円筒形芯部材の側面より吸引しながら被着させて吸着被着物とし、前記吸着被着物を加熱乾燥されてなる第1フィルター部と、粒径が0.7~5.0mmの亜硫酸カルシウムが充填された第2フィルター部とを備えたことから、亜硫酸カルシウムの粒径を大きくしつつ、重量を増やすことによって通水初期の亜硫酸イオンの溶出量を抑え、継続的に亜硫酸イオンを水中に溶出させるようにすることで、通水時の亜硫酸イオンの溶出量をコントロールし、遊離残留塩素と結合残留塩素の両者を含む残留塩素の除去性能を高度に長時間維持することが可能となる。
【0019】
第2の発明に係る残留塩素除去フィルター体によると、第1の発明において、前記混合スラリー状物に粒径が0.1~0.5mmの亜硫酸カルシウムがさらに混合されてなることから、フィルター体に担持される亜硫酸カルシウムの重量を増やすことができ、さらに継続的に亜硫酸イオンを水中に溶出させることができ、遊離残留塩素と結合残留塩素の両者を含む残留塩素の除去性能を高度に長時間維持することが可能となる。
【0020】
第3の発明に係る残留塩素除去フィルター体によると、第1または2の発明において、初期濾過水に含有される亜硫酸イオンが5~20mg/Lであるため、通水初期の亜硫酸イオンの溶出量を抑えて継続的に亜硫酸イオンが水中に溶出されるようにすることができる。
【0021】
第4の発明に係る残留塩素除去フィルター体によると、第1ないし3の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材が繊維状活性炭、粒状活性炭又は粉末活性炭のいずれか一又は複数であるため、遊離残留塩素の除去性能に優れる。
【0022】
第5の発明に係る残留塩素除去フィルター体によると、第1ないし4の発明のいずれかにおいて、前記活性炭吸着材のヨウ素吸着性能が800~2000mg/gであるため、活性炭吸着材に求められる一般的な吸着性能を備える。
【0023】
第6の発明に係る残留塩素除去フィルター体によると、第1ないし5の発明のいずれかにおいて、前記フィブリル化繊維バインダーがアクリル繊維からなるため、フィルター体の耐用期間をより長くすることができる。
【0024】
第7の発明に係る残留塩素除去フィルター体によると、第1ないし6の発明のいずれかにおいて、結合残留塩素除去性能が50L/mL以上であるため、残留塩素除去性能が良好である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】残留塩素除去フィルター体の製造工程を示す概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の残留塩素除去フィルター体は、水中に溶解している次亜塩素酸等の遊離残留塩素とクロラミン等の結合残留塩素を含む残留塩素の除去を目的とする。本発明の残留塩素除去フィルター体は、例えば、浄水器等に装填されたり、人工透析器用の水濾過部位等の残留塩素除去の求められる部位に適用される。水等の液体用フィルター体には、いわゆる乾式フィルターと湿式フィルターがある。乾式フィルターは、熱可塑性樹脂を溶融して濾材である活性炭吸着材等を保持してなる。湿式フィルターは、樹脂繊維等のバインダーとしての繊維状成分と、濾材である活性炭吸着材を混合して水性スラリーとして所定形状に吸引、成形してなる。湿式フィルターは繊維状成分と濾材を絡めて一体化する構造である。
【0027】
本発明の残留塩素除去フィルター体においては湿式フィルターを採用した。湿式フィルターは、乾式フィルターと比較するとバインダーとして繊維状成分を使用しているため通水性に優れる。また、乾式フィルターにおいては、密度が高いため活性炭吸着材量が大きい利点があるものの、熱可塑性樹脂を溶融して活性炭吸着材を保持することから、活性炭吸着材の表面を樹脂が被覆してしまい吸着性能を低下させてしまうおそれがある。本発明の残留塩素除去フィルター体にあっては、フィブリル化した繊維バインダーによって活性炭吸着材並びに亜硫酸カルシウムを保持するため、通水性を維持しつつ残留塩素の除去性能を確保することができる。
【0028】
活性炭吸着材は、残留塩素のうち、特に遊離残留塩素の吸着性能に優れる。本発明の残留塩素除去フィルター体は、濾材の活性炭吸着材として繊維状活性炭、粒状活性炭又は粉末状活性炭のいずれか一又は複数が使用される。本発明の残留塩素除去フィルター体に使用する繊維状活性炭、粒状活性炭又は粉末状活性炭の吸着能力は、一般的な繊維状活性炭、粒状活性炭又は粉末状活性炭と同程度である。具体的には、JIS K 1474(2014)、JIS K 1477(2007)に準拠する測定において、ヨウ素吸着性能が800~2000mg/gを満たす活性炭が使用される。
【0029】
活性炭の原料としては、木材(廃材、間伐材、オガコ)、コーヒー豆の絞りかす、椰子殻、樹皮、果物の実等の原料がある。これらの天然物由来の原料は炭化、賦活により細孔が発達しやすくなる。また廃棄物等の二次的利用であるため安価に調達可能である。他にも、タイヤ、石油ピッチ、ウレタン樹脂、フェノール樹脂等の合成樹脂由来の焼成物、さらには、石炭等も原料として使用することができる。特に、繊維状活性炭は植物系、鉱物系、天然素材、合成素材等の各種炭素材料の繊維を炭化・賦活して得られる。
【0030】
活性炭原料は、200℃~600℃の温度域で加熱炭化されることにより微細孔が形成される。続いて、活性炭原料は600℃~1200℃の温度域で水蒸気、炭酸ガスに曝露されて賦活処理される。この結果、各種の細孔が発達した活性炭は出来上がる。なお、賦活に際しては、他に塩化亜鉛賦活等もある。また、逐次の洗浄も行われる。
【0031】
粒状活性炭の粒径が小さかったり粉末状活性炭が使用されるとフィルター体の密度は高くなり、遊離残留塩素の吸着性能が向上する。一方で、粒径が大きくなるとフィルター体の密度は小さくなり、通水性が向上する。また、粒径が細かくなりすぎると、通水時に目詰まりしやすくなる等の問題も生じやすくなる。このことから、求められる吸着性能や使用される濾過器の構造に応じて適宜選択されるのが良い。
【0032】
また、繊維状活性炭は、繊維状であることから通水性に優れる。平均繊維径が大きすぎる場合、配合量の割に表面積が少なくなるため吸着能力向上の点から好ましくない。平均繊維径が細かい繊維状活性炭の場合、吸着性能やパーティクルの濾集能力が優れている。繊維状活性炭の平均繊維径を20μm以下とすると、優れた通水性を確保しつつ、吸着性能に優れた取回しのよいフィルター体を形成することができる。
【0033】
活性炭吸着材は、繊維状活性炭、粒状活性炭又は粉末状活性炭はいずれか一のみで構成されてもよく、いずれが複数配合されても良い。粒状活性炭や粉末状活性炭は一般的に単価が安い。粒状活性炭や粉末状活性炭が多く配合されると、フィルター体の密度が向上して、容量当たりの活性炭吸着材の量が増加する。繊維状活性炭は、先に述べたように通水性に優れ、また単位重量当たりの吸着性能も高い。このため、フィルター体の機能性や経済性を鑑みて、繊維状活性炭、粒状活性炭又は粉末状活性炭の配合割合は適宜決定されるのが良い。
【0034】
本発明の残留塩素除去フィルター体のバインダーは、フィブリル化された繊維バインダーよりなる。特にフィブリル化繊維バインダーは、アクリル繊維やアラミド繊維、ポリエチレン繊維等からなるフィブリル化繊維バインダーを用いるのが良い。アクリル繊維バインダーは加熱乾燥時の加熱によっては溶融しないため、バインダーの繊維構造は残存する。また、フィルター体の耐用期間も長くなる。繊維バインダーは、活性炭吸着材と互いに保持する構造材料として作用する。フィブリル化されていることから、より効率的に活性炭吸着材が保持されることができるため有用である。
【0035】
本発明の残留塩素除去フィルター体の除去対象物である結合残留塩素は、モノクロラミンやジクロラミン、トリクロラミンが挙げられる。水道水の消毒に用いられるのは、モノクロラミンが代表的であり、本発明の残留塩素除去フィルター体は、特にこのモノクロラミンの除去性能が良好である。
【0036】
活性炭吸着材は、前述の通り、遊離残留塩素の吸着性能が高く、濾材として活性炭吸着材を使用するフィルター体は遊離残留塩素の除去性能は高い。そこで本発明の残留塩素除去フィルター体は、遊離残留塩素を主に除去する濾材である活性炭吸着と、結合残留塩素を主に除去する成分として亜硫酸カルシウムを配合することとした。フィルター体に配合された亜硫酸カルシウムは、水中に亜硫酸イオンが溶出してクロラミン等の結合残留塩素と反応し、結合残留塩素を分解、還元し、これにより結合残留塩素の除去が行われる。
【0037】
続いて、
図1を用い、残留塩素除去フィルター体の第1フィルター部の製造過程の概要を説明する。はじめに、活性炭吸着材20(粒状活性炭21、繊維状活性炭22)、フィブリル化したアクリル繊維バインダー23及び必要に応じて亜硫酸カルシウム24が水Wの中に投入され、十分に混合されて混合スラリー状物30が調製される。
【0038】
中空円筒形芯部材11の内部に、混合スラリー状物を減圧吸引するための多孔の金型棒状部材35が挿入される。中空円筒形芯部材11には透過のための細孔(図示省略)が形成されており、金型棒状部材35は多孔形状のステンレス製である。中空円筒形芯部材11と金型棒状部材35の一体化物が混合スラリー状物30内に降ろされた後、金型棒状部材35を介して減圧吸引することにより、混合スラリー状物30は中空円筒形芯部材11の側面に引き寄せられて被着する。図示の切り欠き部分参照のとおり、中空円筒形芯部材の表面にスラリー被着部26が形成される。所定量のスラリー被着部26が形成された後、混合スラリー状物から引き上げられ、金型棒状部材35が取り外される。こうして中空円筒形芯部材12の表面にスラリー被着部26を備えた吸着被着物25が得られる。その後、吸着被着物25は乾燥機40内で加熱乾燥される。
【0039】
加熱乾燥の温度、時間は、樹脂成分の溶融温度、吸着被着物自体の大きさ、混合スラリー状物の被着量、生産効率等を勘案して最適に設定される。乾燥時の温度は一般的に80~120℃である。アクリル繊維バインダーは加熱乾燥時の加熱によっては溶融しないためバインダーの繊維構造は残存する。
【0040】
混合スラリー状物には、亜硫酸カルシウムが混合されることも考えられる。第1フィルター体にも亜硫酸カルシウムが担持させて残留塩素除去フィルター体に保持される亜硫酸カルシウムの量を増加させることにより、亜硫酸イオンをより継続して水中に放出することが可能となり、残留塩素の除去性能をさらに長時間維持することができるようになる。第1フィルター部に配合される亜硫酸カルシウムは、スラリー状物を減圧吸引して製造されるため、粒径が大きすぎると均一な吸引が難しく、粒径が小さすぎると通水時の目詰まりや、通水初期の白濁の原因となる。このため、粒径は0.1~0.5mmとされるのが良い。
【0041】
飲料水の確保のために、水道(給水栓)から出る水の遊離残留塩素は0.1mg/L(結合残留塩素の場合は0.4mg/L)以上保持するように塩素消毒をする旨の規定が水道法施行規則(厚生労働省令)第17条3号によりなされている。原水中の結合残留塩素濃度が低濃度である場合にあっては、亜硫酸イオンの溶出量が少なくとも除去が可能である。亜硫酸カルシウムの粒度が細小であると、通水初期には亜硫酸イオンの溶出が大きく、その後急速に亜硫酸イオンの溶出量が減少してしまう。亜硫酸カルシウムの粒度は一定程度粗大である方が、亜硫酸イオンが少しずつ溶出することとなり亜硫酸イオンの溶出が長時間維持される。このことから、第2フィルター部の亜硫酸カルシウムの粒径は0.7~5.0mmと比較的大きい粒径とされるのが良い。
【0042】
第2フィルター部は粒径が0.7~5.0mmの亜硫酸カルシウムが充填されてなる。粒径が大きい亜硫酸カルシウムの粒は、単位体積当たりの外表面積が小さいため、通水初期の亜硫酸イオンの溶出量を抑制することができる。第2フィルター部に充填される亜硫酸カルシウムを粒径が比較的大きいものを採用することにより、初期濾過水に含有される亜硫酸イオンを5~20mg/Lとし、通水初期に亜硫酸イオンの溶出を抑えることによって、一時的な溶出量のピークの発生を抑制し、継続的に亜硫酸イオンが水中に溶出するようにコントロールすることができる。
【実施例0043】
[活性炭吸着材]
発明者らは、残留塩素除去フィルター体を作製するため、活性炭吸着材として下記の原料を使用した。
・粒状活性炭
フタムラ化学株式会社製:ヤシ殻活性炭「CW8150SZ」(平均粒径:0.16mm)
{以降、C1と表記する。}
・繊維状活性炭
フタムラ化学株式会社製:「フェノール系繊維状活性炭」(平均繊維径:15μm)
{以降、C2と表記する。}
【0044】
[フィブリル化バインダー]
発明者らは、残留塩素除去フィルター体を作製するため、フィブリル化バインダーとしてフィブリル化したアクリル樹脂繊維(日本エクスラン工業株式会社製,商品名ビィパル)を使用した。
【0045】
[亜硫酸カルシウム]
富田製薬株式会社製の亜硫酸カルシウムを使用し、粉砕して篩にて平均粒径ごとに分別した。ここで、平均粒径は、JIS K 1474(2014)を参考にして質量平均粒径で測定した。
・4/10メッシュ(4.75/1.7mm)の篩で分級され、平均粒径が1.83mmとなる亜硫酸カルシウムをS1と表記する。
・10/22メッシュ(1.7/0.71mm)の篩で分級され、平均粒径が1.15mmとなる亜硫酸カルシウムをS2と表記する。
・30/100メッシュ(0.5/0.15mm)の篩で分級され、平均粒径が0.16mmとなる亜硫酸カルシウムをS3と表記する。
・100/330メッシュ(0.15/0.045mm)の篩で分級され、平均粒径が0.09mmとなる亜硫酸カルシウムをS4と表記する。
【0046】
[第1フィルター部の作製]
表1ないし表3に基づく原料とその配合(単位:重量部)に従い、活性炭吸着材、フィブリル化繊維バインダー及び亜硫酸カルシウムを水中で十分に混合し、各試作例及び比較例に対応した混合スラリー状物を調製した。混合スラリー状物における水は、添加した固形分の20倍重量とした。そして、外直径47mm、内直径43mm、全長113mmであり直径2mmの細孔を有するポリプロピレン製の第1フィルター部用の中空円筒形芯部材を用意した。同中空円筒形芯部材内に、多孔形状のステンレス製の金型棒状部材を挿入して固定するとともに混合スラリー状物内に投入し、減圧吸引により混合スラリー状物内から固形分を引き寄せて中空円筒形芯部材の表面に約9mm被着させた(スラリー被着部)。中空円筒形芯部材から金型棒状部材を取り外し、スラリー被着部と中空円筒形芯部材の一体化物となる吸着被着物を得た。そして、乾燥機を用いて100℃、12時間かけて吸着被着物の加熱、乾燥を行い、各試作例及び比較例の第1フィルター部を試作した。各第1フィルター部の寸法は、中空円筒形芯部材を含む直径65mm、全長113mmの円筒体である。また、フィルター体の表面をポリエチレンとポリプロピレンの混抄繊維からなる不織布で覆った。
【0047】
[第2フィルター部の作製]
外直径34mm、内直径30mm、全長113mmであり直径2mmの細孔を有するポリプロピレン製の第2フィルター部用の中空円筒形芯部材を用意し、該中空円筒形芯部材に片面にポリプロピレン製キャップを取り付けた第1フィルター部を装入し、中空円筒形芯部材と第1フィルター部との間に亜硫酸カルシウムを充填し、空隙ができないよう十分に充填したところでポリプロピレン製キャップを取り付けた。これにより各試作例及び比較例のフィルター体とし、各フィルター体の寸法は、全長125mmの円筒体である。
【0048】
[残留塩素除去フィルター体の作製]
残留塩素除去フィルター体として、下記の試作例1~5、比較例1~4のフィルター体を作製した。表1~2に原料とその配合(単位:重量部)を示す。
【0049】
[混合スラリー状物の調製と試作例及び比較例の作製]
〈試作例1〉
粒状活性炭(C1)を39重量部、繊維状活性炭(C2)を25重量部とし、平均粒径が0.16mmの亜硫酸カルシウム(S3)を30重量部、フィブリル化したアクリル樹脂繊維を6重量部とを混合スラリー状物とし、試作例1の第1フィルター部を作製した。さらに、第1フィルター部の内側に平均粒径が1.83mmの亜硫酸カルシウム(S1)を45g充填して試作例1の第2フィルター部とし、試作例1のフィルター体を得た。
【0050】
〈試作例2〉
第2フィルター部の亜硫酸カルシウムを平均粒径が1.15mmの亜硫酸カルシウム(S2)に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例2のフィルター体を得た。
【0051】
〈試作例3〉
第1フィルター部に亜硫酸カルシウムを配合せず、粒状活性炭(C1)を57重量部、繊維状活性炭(C2)を37重量部、フィブリル化したアクリル樹脂繊維を6重量部とした混合スラリー状物とした以外は試作例1と同様とし、試作例3のフィルター体を得た。
【0052】
〈試作例4〉
第2フィルター部の亜硫酸カルシウムを平均粒径が0.16mmの亜硫酸カルシウム(S3)に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例4のフィルター体を得た。
【0053】
〈試作例5〉
第2フィルター部の亜硫酸カルシウムを平均粒径が0.09mmの亜硫酸カルシウム(S4)に変更した以外は試作例1と同様とし、試作例5のフィルター体を得た。
【0054】
〈比較例1〉
第2フィルター部の亜硫酸カルシウムを充填しなかった以外は試作例1と同様とし、比較例1のフィルター体を得た。
【0055】
〈比較例2〉
第1フィルター部の亜硫酸カルシウムを平均粒径が1.15mmの亜硫酸カルシウム(S2)に変更した以外は比較例1と同様としてフィルター体を作製しようとしたところ、亜硫酸カルシウムの粒径が大きすぎて、減圧吸引による第1フィルター体の成形ができなかった。
【0056】
〈比較例3〉
第1フィルター部の亜硫酸カルシウムを平均粒径が0.09mmの亜硫酸カルシウム(S4)に変更した以外は比較例1と同様とし、比較例3のフィルター体を得た。
【0057】
〈比較例4〉
第2フィルター部の亜硫酸カルシウムを充填しなかった以外は試作例3と同様とし、比較例4のフィルター体を得た。
【0058】
【0059】
【0060】
[評価項目]
〈遊離残留塩素除去性能〉
各試作例及び比較例のフィルター体について、次の通り遊離残留塩素と結合残留塩素の除去性能試験を行った。遊離残留塩素の除去性能試験においては、JIS S 3201(2010)の家庭用浄水器試験方法に準拠して試験を行った。水温20℃、遊離残留塩素の濃度を2ppm(mg/L)、通水流量を2.5L/minとして各フィルター体に通水した。各フィルター体の入口と出口の遊離残留塩素の濃度を測定して除去率を算出し、除去率が80%以下となった通水量を破過点とし、破過点に達するまでの通水量(L)を計測した。
【0061】
〈結合残留塩素除去性能〉
結合残留塩素の除去性能試験においては、活性炭濾過を経た水に塩化アンモニウム及び次亜塩素酸ナトリウムを添加し、攪拌混合して、結合残留塩素の濃度を0.2ppm(mg/L)とする試料水を作成して試験を行った。水温20℃、通水流量を2.5L/minとして各フィルター体に通水した。各フィルター体の入口と出口の結合残留塩素の濃度を測定して除去率を算出し、除去率が80%以下となった通水量を破過点とし、破過点に達するまでの通水量(L)を計測した。遊離残留塩素、結合残留塩素それぞれの除去性能試験において、塩素濃度についてはDPD吸光光度法を用いて定量測定した。なお、結合残留塩素濃度は、全塩素濃度から遊離残留塩素濃度を差し引いて求めた。また、フィルター体の単位体積当たりの結合残留塩素の除去性能(L/mL)を算出した。
【0062】
〈亜硫酸イオン溶出量〉
通水開始後10分経過後の亜硫酸イオンの溶出量(mg/L)を計測し、通水初期の亜硫酸イオンの溶出量とした。各フィルター体に通水された水に含まれる亜硫酸イオンは高速液体クロマトグラフ(HPLC)(株式会社島津製作所製、「Prominence」)を用いて検量線法により測定した。分析条件は下記に示す。
検出器:CDD-10A VP
カラム:Shim-pack IC-A3
【0063】
各試作例及び比較例の試験及び測定結果を表3,4に示した。なお、比較例2は、第1フィルター部の成形ができなかったため、各試験を行うことができず、表中「-」とした。
【0064】
【0065】
【0066】
[結果と考察]
全例(フィルター体の成形ができなかった比較例2を除く。)の傾向から、結合残留塩素の除去性能は、亜硫酸カルシウムの粒径に比例しており、粒径が大きくなるにつれて除去性能が向上すると考えられる。
【0067】
第2フィルター部の亜硫酸カルシウムの粒径を変化させた試作例1,2,4,5を対比する。結合残留塩素の濃度が低い本試験において、第2フィルター部の亜硫酸カルシウムの粒径が大きい試作例1,2の方が、良好な結合残留塩素除去性能を示した。亜硫酸カルシウムの粒径が大きい場合には、通水初期の亜硫酸イオンの溶出量が抑制され、亜硫酸イオンの溶出量が長時間維持される傾向があることが理解される。このため、結合残留塩素の除去性能が高くなったと考えられる。かえって試作例4,5のように、第2フィルター部の亜硫酸カルシウムの粒径が小さい場合には、通水初期の亜硫酸イオンの溶出量が大きく、亜硫酸イオンの安定した継続的な溶出が行われず、長続きしなかったためと考えられる。以上から、第2フィルター部に用いられる亜硫酸カルシウムの粒径は0.7~5.0mmとされるのが良いと考えられる。
【0068】
また、第1フィルター部に亜硫酸カルシウムを配合しない試作例3においても、第2フィルター部において、粒径の大きい亜硫酸カルシウムを用いたため、良好な結合残留塩素除去性能が発揮されることが分かった。
【0069】
第2フィルター部に亜硫酸カルシウムを備えない比較例1,3及び第1フィルター部にも亜硫酸カルシウムが配合されない比較例4については、結合残留塩素除去性能は低くなった。なお、比較例1の方が比較例3よりも結合残留塩素の除去性能が高いこと、及び湿式フィルターの成形性を加味すると、第1フィルター部に配合される亜硫酸カルシウムの粒径は0.1~0.5mmが適していると考えられる。
【0070】
遊離残留塩素の除去性能については、通水試験を行った全例において一定の性能があることが示された。特に、試作例1,2と比較して試作例3の遊離残留塩素除去性能が高くなったため、活性炭の配合量が増加することにより遊離残留塩素の除去性能が向上すると考えられる。
【0071】
以上のことから、遊離残留塩素の除去剤としての活性炭吸着剤と、結合残留塩素の亜硫酸カルシウムを適切に備えたフィルターとすることにより、残留塩素の除去性能が良好な残留塩素除去フィルター体とすることができることがわかった。また、亜硫酸カルシウムの粒径を調整することにより、結合残留塩素の良好な除去性能を長時間維持することができることが示された。
本発明の残留塩素除去フィルター体は、通水時の亜硫酸イオンの溶出量をコントロールすることにより、遊離残留塩素と結合残留塩素の両者を含む残留塩素の除去性能を高度に長時間維持することができるため、原水中から残留塩素を除去する用途、さらには、人工透析用の精製水の濾過、調製の用途に好適である。