IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147960
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】不織布ロールおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 13/00 20060101AFI20231005BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20231005BHJP
   D04H 3/147 20120101ALI20231005BHJP
   D04H 3/011 20120101ALI20231005BHJP
   E04B 1/66 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16C13/00 A
D04H3/16
D04H3/147
D04H3/011
F16C13/00 Z
E04B1/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055764
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池尻 祐希
(72)【発明者】
【氏名】松浦 博幸
(72)【発明者】
【氏名】生野 貴良
【テーマコード(参考)】
2E001
3J103
4L047
【Fターム(参考)】
2E001DA01
2E001DB04
2E001GA24
2E001HD11
3J103AA02
3J103EA09
3J103FA15
3J103FA30
3J103GA02
3J103GA13
3J103HA02
3J103HA19
3J103HA45
3J103HA60
4L047AA13
4L047AA19
4L047AA21
4L047AA27
4L047AB03
4L047BA09
4L047BB06
4L047BB09
4L047CC14
(57)【要約】
【課題】 本発明は、表面が平滑で、広幅で巻き取った際にもシワもなくフィルムとの貼り合わせ性にも優れる不織布ロールを提供する。
【解決手段】
本発明の不織布ロールは、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布がロール状に巻き取られてなる不織布ロールであって、前記長繊維不織布の見掛け密度が0.40g/cm以上0.85g/cm以下であり、前記不織布ロールの巻き硬度が23.0g以上50.0g以下で、かつ以下の式(1)を満たす不織布ロールである。H<1.97×10-5×((L×W)/S)-5.3・・・(1)
ここで、Hは不織布ロールの幅方向に5cm間隔で巻き硬度を測定した際の隣接する2つの測定値の硬度差の最大値(g)、Sは不織布ロールの幅に対する垂直方向の両端部断面積の平均値(m)、Lは不織布ロールの巻き長(m)、Wは長繊維不織布の目付(g/m
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布がロール状に巻き取られてなる不織布ロールであって、前記長繊維不織布の見掛け密度が0.40g/cm以上0.85g/cm以下であり、前記不織布ロールの巻き硬度が23.0g以上50.0g以下で、かつ、以下の式(1)を満たす、不織布ロール。
H < 1.97×10-5×((L×W)/S)-5.3 ・・・(1)
ここで、
Hは不織布ロールの幅方向に5cm間隔で巻き硬度を測定した際の隣接する2つの測定値の硬度差の最大値(g)、
Lは不織布ロールの巻き長(m)、
Wは長繊維不織布の目付(g/m)、
Sは不織布ロールの幅に対する垂直方向の両端部断面積の平均値(m)である。
【請求項2】
前記不織布ロールの巻き長Lが100m以上11500m以下であり、かつ、ロール外層の長繊維不織布の厚みとロール内層の長繊維不織布の厚みとの差が0.100mm以下である、請求項1に記載の不織布ロール。
【請求項3】
前記不織布ロールのロール幅が0.5m以上3.1m以下である、請求項1または2に記載の不織布ロール。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である、請求項1~3のいずれかに記載の不織布ロール。
【請求項5】
下記(a)~(c)の工程を順次施す、請求項1~4のいずれかに記載の不織布ロールの製造方法。
(a)熱可塑性樹脂を吐出孔を有する紡糸口金から紡出して長繊維を得た後、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、冷却部を通して気体を当て、次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部を通して気体を当てた後、前記長繊維を、前記気体供給部の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部を通過させ、紡糸速度3000m/分以上5500m/分以下で吸引延伸する工程
(b)延伸した長繊維を、移動するネットコンベア上に捕集して繊維ウェブを形成する工程
(c)前記繊維ウェブを、ロール表面温度が前記熱可塑性樹脂の融点よりも30℃以上70℃以下低い温度の一対のフラットロールにより、100N/cm以上900N/cm以下の線圧で熱接着して、不織布シートを得た後、巻き取って、不織布ロールを得る工程
【請求項6】
前記工程(a)が、以下の(a’)であり、前記工程(c)における熱可塑性樹脂の融点が低融点重合体の融点である、請求項5に記載の不織布ロールの製造方法。
(a’)高融点重合体と前記高融点重合体の融点よりも10℃以上110℃以下低い融点を有する低融点重合体とを、吐出孔を有する複合紡糸口金から紡出して、高融点重合体を露出させずに低融点重合体が覆ってなる長繊維を得た後、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、冷却部を通して気体を当て、次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部を通して気体を当てた後、前記長繊維を、前記気体供給部の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部を通過させ、紡糸速度3000m/分以上5500m/分以下で吸引延伸する工程
【請求項7】
前記工程(a)の熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂、または、前記工程(a’)の高融点重合体および/または低融点重合体がポリエステル系樹脂である、請求項5または6に記載の不織布ロールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築資材用途等貼り合わせ基材として用いられる不織布ロールおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅等の建築においては、外壁材と断熱材との間に通気層を設け、壁体内に侵入した湿気を、この通気層を通して外部に放出できるようにする、通気層工法が普及している。この通気層には、建物外部から雨水の侵入を防止する防水性と壁体内に生じる湿気を外部に逃がす透湿性とを兼ね備えた、透湿防水シートであるハウスラップ材が使用されている。ハウスラップ材には主に透湿防水機能を有するポリオレフィンからなる微多孔フィルムが必要となるが、耐久性と強度を担保させるためポリエステルからなる長繊維不織布と貼り合わせたハウスラップ材が主に用いられる。
【0003】
このハウスラップ材についても近年高性能、高耐久化が求められている。具体的には、ハウスラップ材を施工する際において、特に防水性が求められる部分に、ブチルテープなどの防水テープが用いられて建物の躯体にこの防水テープを貼り付けた後、その上からハウスラップ材を貼り付ける。したがって、これらのハウスラップ材には、防水テープの接着部においても耐久性に優れ、かつ防水テープとも粘着性を有するための平滑な表面が求められる。
【0004】
このようなハウスラップ材として、例えば、特許文献1において、熱可塑性連続フィラメントより構成される長繊維不織布であって、その不織布の長手方向に対する上記フィラメントの繊維配向度が35~70度であり、その不織布の一方の表面は上記フィラメントが互いに圧着されており、その不織布の全体に亘っていずれの方向にも断続している部分的熱圧着部が多数形成されており、この部分的熱圧着部で、上記のフィラメントの少なくとも一部が互いに融着して凝集しているハウスラップ材用不織布が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-040677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1で開示されるようなハウスラップ材用不織布は、部分的熱融着部を有することから、防水テープとの粘着力が十分なものではなく、防水テープから自重で剥がれ落ちる可能性があるといった課題がある。
【0007】
そこで本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、表面が平滑で防水テープとの粘着力に優れ、かつ、工業生産向けに広幅化した際にも、巻き取り時に巻き取りシワがなくフィルムとの貼り合わせ性にも優れる不織布ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決せんとするものであり、本発明の一実施態様の不織布ロールは、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布がロール状に巻き取られてなる不織布ロールであって、前記長繊維不織布の見掛け密度が0.40g/cm以上0.85g/cm以下であり、前記不織布ロールの巻き硬度が23.0g以上50.0g以下で、かつ、以下の式(1)を満たす、不織布ロールである。
H < 1.97×10-5×((L×W)/S)-5.3 ・・・(1)
ここで、
Hは不織布ロールの幅方向に5cm間隔で巻き硬度を測定した際の隣接する2つの測定値の硬度差の最大値(g)、
Lは不織布ロールの巻き長(m)、
Wは長繊維不織布の目付(g/m)、
Sは不織布ロールの幅に対する垂直方向の両端部断面積の平均値(m)である。
【0009】
本発明の不織布ロールの好ましい態様によれば、前記不織布ロールの巻き長Lが100m以上11500m以下であり、かつ、ロール外層の長繊維不織布の厚みとロール内層の長繊維不織布の厚みとの差が0.100mm以下の不織布ロールである。
【0010】
本発明の不織布ロールの好ましい態様によれば、前記不織布ロールのロール幅が0.5m以上3.1m以下の不織布ロールである。
【0011】
本発明の不織布ロールの好ましい態様によれば、前記熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂である不織布ロールである。
【0012】
本発明の一実施態様の不織布ロールの製造方法は、下記(a)~(c)の工程を順次施すことを特徴とする不織布ロールの製造方法である。
(a)熱可塑性樹脂を吐出孔を有する紡糸口金から紡出して長繊維を得た後、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、冷却部を通して気体を当て、次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部を通して気体を当てた後、前記長繊維を、前記気体供給部の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部を通過させ、紡糸速度3000m/分以上5500m/分以下で吸引延伸する工程
(b)延伸した長繊維を、移動するネットコンベア上に捕集して繊維ウェブを形成する工程
(c)前記繊維ウェブを、ロール表面温度が前記熱可塑性樹脂の融点よりも30℃以上70℃以下低い温度の一対のフラットロールにより、100N/cm以上900N/cm以下の線圧で熱接着して、不織布シートを得た後、巻き取って、不織布ロールを得る工程。
【0013】
本発明の一実施態様の不織布ロールの製造方法は、前記工程(a)が、以下の(a’)であり、前記工程(c)における熱可塑性樹脂の融点が低融点重合体の融点である、不織布ロールの製造方法である。
(a’)高融点重合体と前記高融点重合体の融点よりも10℃以上110℃以下低い融点を有する低融点重合体とを、吐出孔を有する複合紡糸口金から紡出して、高融点重合体を露出させずに低融点重合体が覆ってなる長繊維を得た後、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、冷却部を通して気体を当て、次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部を通して気体を当てた後、前記長繊維を、前記気体供給部の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部を通過させ、紡糸速度3000m/分以上5500m/分以下で吸引延伸する工程。
【0014】
本発明の一実施態様の不織布ロールの製造方法は、前記工程(a)の熱可塑性樹脂がポリエステル系樹脂、または、前記工程(a’)の高融点重合体および/または低融点重合体がポリエステル系樹脂である、不織布ロールの製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ハウスラップ材用途として使用した際に、防水テープとの粘着力に優れ、かつ広幅化した際にも、巻き取り時に巻き取りシワもなくフィルムとの貼り合わせ性にも優れる不織布ロールを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施態様の不織布ロールは、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布がロール状に巻き取られてなる不織布ロールであって、前記長繊維不織布の見掛け密度が0.40g/cm以上0.85g/cm以下であり、前記不織布ロールの巻き硬度が23.0g以上50.0g以下で、かつ、以下の式(1)を満たす、不織布ロールである。
H < 1.97×10-5×((L×W)/S)-5.3 ・・・(1)
ここで、Hは不織布ロールの幅方向に5cm間隔で巻き硬度を測定した際の隣接する2つの測定値の硬度差の最大値(g)、Sは不織布ロールの幅に対する垂直方向の両端部断面積の平均値(m)、Lは不織布ロールの巻き長(m)、Wは長繊維不織布の目付(g/m)である。以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0017】
(熱可塑性樹脂)
本発明の一実施態様の不織布ロールは、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布がロール状に巻き取られてなるものである。
【0018】
上記の熱可塑性樹脂としては、例えばポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、あるいはこれらの混合物や共重合体等を挙げることができる。なかでもポリエステルが、より機械的強度や耐熱性、耐水性、耐薬品性等の耐久性に優れることから好ましい。
【0019】
ポリエステルは酸成分とアルコール成分とからなる。酸成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族カルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸などを用いることができる。アルコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどを用いることができる。
【0020】
ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、これらの共重合体等を挙げることができる。
【0021】
(熱可塑性樹脂を主成分とする繊維)
上記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維には、結晶核剤や艶消し剤、滑剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、親水剤等を添加してもよい。特に長繊維不織布の熱圧着成形の際、熱伝導性を増すことで長繊維不織布の接着性を向上させる効果がある酸化チタン等の金属酸化物や、熱圧着ロールと繊維ウェブ間の離型性を増すことで接着安定性を向上させる効果があるエチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪族ビスアミド、および/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドを添加することが好ましい。これら各種の添加剤は、熱可塑性繊維中に存在させてもよいし、熱可塑性繊維の表面に存在させてもよい。
【0022】
また、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維の断面形状としては、円形、扁平、多角形、X型やY型等の多葉型、中空型等を挙げることができる。
【0023】
上記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維は、その平均単繊維径が10μm以上24μm以下であることが好ましい。平均単繊維径を好ましくは10μm以上とし、より好ましくは12μm以上とし、さらに好ましくは14μm以上とすることにより、目付均一性、および機械的強度に優れた不織布を得ることができる。
【0024】
一方、平均単繊維径を好ましくは24μm以下とし、より好ましくは22μm以下とし、さらに好ましくは20μm以下とすることにより、ハウスラップ材を製造する際に、ポリエチレン多孔フィルムとの貼り合わせに使用するホットメルト樹脂の不織布内部への過浸透を抑制することが可能であり、フィルムと不織布の接着強度も良好であり、ハウスラップ材として好ましいものである。尚、複数種類の繊維が混繊されている場合は、それぞれの繊維の単繊維径が上記範囲内であるのが好ましい。
【0025】
なお、本発明においては、前記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維の平均単繊維径(μm)は、以下の手順によって算出される値を採用するものとする。
(1)長繊維不織布からランダムに小片サンプル(100mm×100mm)10個を採取する。
(2)マイクロスコープ(例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」)で500倍以上3000倍以下の表面写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の単繊維の直径を測定する。
(3)測定した100本の値の算術平均値を、小数点以下第一位を四捨五入して平均単繊維径(μm)を算出する。
【0026】
(長繊維不織布)
本発明の一実施態様の長繊維不織布の見掛け密度は0.40g/cm以上0.85g/cm以下である。長繊維不織布の見掛け密度は0.40g/cm以上、好ましくは0.42g/cm以上、より好ましくは0.45g/cm以上とすることにより、十分緻密な構造となり、ハウスラップ材として使用した際に耐久性に優れ、機械的強度もより高めることができる。一方、長繊維不織布の見掛け密度は0.85g/cm以下、好ましくは0.80/cm以下、より好ましくは0.75g/cm以下とすることにより、長繊維不織布が圧着されすぎてしまうことを抑制し、さらに、ハウスラップ材として使用した際には、部分的にフィルム化し、透湿防水性を低下させることなく使用することができる。また、防水テープと建築資材用不織布との間でアンカー効果を発現させやすくなり、防水テープとの粘着力に優れる。
【0027】
なお、前記の長繊維不織布の見掛け密度(g/cm)は、以下の手順によって算出する。
(1)長繊維不織布の目付(g/m)を長繊維不織布の厚さ(mm)より単位換算した上で除して、その小数点以下第三位を四捨五入し算出される値を採用するものとする。
【0028】
なお、長繊維不織布の厚さ(mm)については以下の手順によって算出する。
(1)長手方向10cm幅なりの長繊維不織布を3個採取する。
(2)直径10mmの加圧子を使用し、荷重10kPaで長繊維不織布の幅方向に等間隔に1mあたり10点の厚さを0.01mm単位で測定する。
(3)上記の得られた測定値の算術平均値を、採取した3個の長繊維不織布それぞれで算出し、さらに3個の長繊維不織布に対しても算術平均値を小数点以下第四位で四捨五入し、算出する。
【0029】
前記の長繊維不織布の目付は、10g/m以上90g/mであることが好ましい。目付は好ましくは15g/m以上、より好ましくは20g/m以上、さらに好ましくは25g/m以上とすることにより、ハウスラップ材として使用した際にも、機械的強度に優れる。一方、目付は好ましくは90g/m以下、より好ましくは80g/m以下、さらに好ましくは70g/m以下とすることにより、ハウスラップ材として使用した際にも、軽量で、施工性に優れる。
【0030】
なお、前記の長繊維不織布の目付(g/m)は、以下の手順によって算出する。
(1)30cm×50cmの長繊維不織布を3個採取する。
(2)各試料の質量をそれぞれ測定し、得られた値の平均値を単位面積当たりの質量(g/m)に換算し、小数点以下第一位を四捨五入して、目付を算出する。
【0031】
(不織布ロール)
本発明の一実施態様の不織布ロールは、巻き硬度が23.0g以上50.0g以下である。不織布ロールの巻き硬度は23.0g以上、好ましくは25.0g以上、より好ましくは27.0g以上とすることにより、巻きズレや弛んだ際のシワ発生がない不織布ロールを得ることができる。一方、不織布ロールの巻き硬度は50.0g以下、好ましくは48.0g以下、より好ましくは47.0g以下とすることにより、不織布ロールに過度な巻き締まり張力がかかることなく、巻き取りコアに負荷がかかることがないので長繊維不織布にシワ発生がない不織布ロールを得ることができる。
【0032】
また、本発明の不織布ロールは次の(1)式を満足することが重要である。
H < 1.97×10-5×((L×W)/S)-5.3 ・・・(1)
ここで、Hは不織布ロールの幅方向に5cm間隔で巻き硬度を測定した際の隣接する2つの測定値の硬度差の最大値(g)であり、Sは不織布ロールの幅に対する垂直方向の両端部断面積の平均値(m)、Lは不織布ロールの巻き長(m)、Wは長繊維不織布の目付(g/m)である。
このようにすることにより、不織布ロールの隣接する硬度差が大きくなりすぎると不織布ロールにシワが発生を抑制することができる。また、この隣接部の硬度差については、不織布ロールの巻密度が高いほど、不織布の隣接部の硬度差が大きくなりその関係を(1)式で示している。そして、前記の隣接する2つの測定値の硬度差の最大値Hは、気体供給部を通して気体を当てることで外気流入を抑制でき、糸を揺らさずに、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部を通過させることで、隣接する2つの測定値の硬度差の最大値Hを低くすることができる。
【0033】
なお、前記の不織布ロールの巻き硬度(g)ならびに不織布ロールの幅方向に5cm間隔で巻き硬度を測定した際の隣接する2つの測定値の硬度差の最大値H(g)は、以下の手順によって算出する。
(1)ロール硬度計(例えば、ACA System社製「RoQロール巻き硬さ測定器」など)を用い、不織布ロールを静置した状態で、不織布ロールを断面から見た際に3時あるいは9時の角度より幅方向端部より、もう一方の端部まで同一方向に計3回測定し、得られた幅方向0.2cm間隔の数値の算術平均値を小数点以下第二位で四捨五入し、不織布ロールの巻き硬度(g)を算出する。
(2)上記方法で得られた、幅方向5cm間隔の硬度データ両端5cmを除いた数値の最大値と最小値の差を求め、小数点以下第二位を四捨五入し、隣接する2つの測定値の硬度差の最大値H(g)を算出する。
【0034】
本発明の一実施態様の不織布ロールは、巻密度が4.0×10g/m以上10.0×10g/m以下であることが好ましい。不織布ロールの巻密度は好ましくは4.0×10g/m以上、より好ましくは4.5×10g/m以上、さらに好ましくは5.0×10g/m以上とすることにより、ハウスラップ材として加工する際にも不織布ロールにシワが入ることない不織布ロールを得ることができる。一方、不織布ロールの巻密度は好ましくは10.0×10g/m以下、より好ましくは9.5×10g/m以下、さらに好ましくは9.0×10g/m以下とすることにより、不織布ロールに過度な巻き締まり張力がかかることを防止して、巻き取りコアの変形を抑制できる。
【0035】
なお、前記の不織布ロールの巻密度(g/m)は不織布の目付(g/m)×ロール巻き長L(m)/不織布ロールの幅に対する垂直方向の両端部断面積の平均値S(m)で算出した値である。
【0036】
また、不織布のロール巻き長は、長繊維不織布を巻き取る際に巻取機に設置されている測長カウンターなどで測定することもできる。
【0037】
さらに不織布の不織布ロールの幅に対する垂直方向の両端部断面積の平均値は、不織布ロールを床面に置き、床面上から垂直に不織布ロールの端面中心を通して、不織布ロールの最上部までの距離を、定規を用いて測定した。これを両端面で測定し、さらにロールの3分の1を転がし、同様に測定、さらにロールの3分の1を転がし、同様に測定した。片側の端面で3点ともう片側の端面で3点測定した計6点の平均値を不織布ロールのロール径とした。そのロール径から断面積を求め、その値から用いた紙管の外径断面積((紙管の外径)×π/4)を差し引いた値とした。
【0038】
本発明の一実施態様の不織布ロールは、巻き長Lが100m以上11500m以下であることが好ましい。不織布ロールの巻き長は好ましくは100m以上、より好ましくは500m以上、さらに好ましくは1000m以上とすることにより、ハウスラップ材として加工する際にもハンドリング性にも優れる不織布ロールを得ることができる。一方、不織布ロールの巻き長は好ましくは11500m以下、より好ましくは10500m以下、さらに好ましくは5500m以下とすることにより、不織布ロールに過度な巻き締まり張力がかかることを防止して、巻き取りコアの変形を抑制でき、また不織布ロール運搬時のハンドリング性にも優れる不織布ロールを得ることができる。
【0039】
本発明の一実施態様の不織布ロールは、ロール外層不織布とロール内層不織布の厚みの差が0.100mm以下であることが好ましい。ロール外層不織布とロール内層不織布の厚みの差は好ましくは0.100mm以下、より好ましくは0.050mm以下、さらに好ましくは0.030mm以下とすることにより、ロール長尺化した際のロール内層不織布の巻きズレを抑制して巻き取ることが可能である。
【0040】
ここで述べるロール内層不織布、ロール外層不織布とは、不織布ロールの半径から巻き芯の半径を差し引いた距離の巻き芯側10%以内をロール内層不織布とし、不織布ロール最外側10%以内をロール外層不織布とし、上記各範囲内の位置にある不織布一枚の厚さを示す。
前記の長繊維不織布の厚さ(mm)は、以下の手順によって算出する。
(1)ロール内層不織布とロール外層不織布をそれぞれ3箇所任意で採取する。
(2)任意で採取した不織布の幅方向において10cm等間隔において、直径10mmの加圧子(例えば、株式会社ミツトヨ製「ダイヤルゲージ2109S-10(測定子:フラット測定子101117)」)を使用して、荷重10kPa、0.001mm単位で、厚さを測定する。例えば、不織布の幅が105cmの場合は、両端7.5cmを除き、10cm等間隔で10点測定を実施する。
(3)上記等間隔で測定した値の平均値を、ロール内層不織布とロール外層不織布のそれぞれ3つにおいて算出し、更にロール内層不織布とロール外層不織布のそれぞれ3つの平均値の算術平均値を小数点以下第四位で四捨五入して、ロール内層不織布の厚みとロール外層不織布の厚みとする。
(4)求めたロール内層不織布の厚みとロール外層不織布の厚みの差を求める。
【0041】
本発明の不織布ロールに用いる巻芯は、一般的な紙管やポリエチレンやポリプロピレンあるいはABS等の樹脂製でもよいが、3000m以上の長尺巻き取り時には、巻き芯が潰れないように巻き芯部を金属で強化した紙管や繊維強化プラスチック等からなる巻き芯を用いることが好ましい。不織布ロールの巻芯の外径サイズは、限定されるものではないが、巻き始めは折込みシワなどが入り易く、巻取を容易にするために、50mm以上が好ましく、物流面での積載効率の観点から200mm以下が好ましい。
【0042】
本発明の一実施態様の不織布ロールは、ロール幅が0.5m以上3.1m以下であることが好ましい。不織布ロールのロール幅は好ましくは0.5m以上、より好ましくは0.6m以上、さらに好ましくは0.7m以上とすることにより、ハウスラップ材加工時の生産性に優れる不織布ロールを得ることができる。一方、不織布ロールのロール幅は3.1m以下、より好ましくは2.6m以下、さらに好ましくは2.1m以下とすることにより、不織布ロールの幅方向のバラツキによる影響を損なうことなくハウスラップ材を製造する際の加工性に優れる不織布ロールを得ることができる。
【0043】
また、本発明において不織布ロールの巻きズレは8mm以下であることが好ましい。巻きズレとは、ロール端面と一部外側に飛び出している不織布との間の距離を言う。この不織布ロールの巻きズレは5mm以下がさらに好ましい。このようにすることにより、ハウスラップ材としてポリエチレン多孔フィルムと貼り合わせ加工時に蛇行によりシワが入ることなく加工ができる。
【0044】
(不織布ロールの製造方法)
次に、本発明の不織布ロールの製造方法は、下記(a)~(c)の工程を順次施すことを特徴とする不織布ロールの製造方法である。
(a)熱可塑性樹脂を吐出孔を有する紡糸口金から紡出して長繊維を得た後、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、冷却部を通して気体を当て、次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部を通して気体を当てた後、前記長繊維を、前記気体供給部の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部を通過させ、紡糸速度3000m/分以上5500m/分以下で吸引延伸する工程、
(b)延伸した長繊維を、移動するネットコンベア上に捕集して繊維ウェブを形成する工程、
(c)前記繊維ウェブを、ロール表面温度が前記熱可塑性樹脂の融点よりも30℃以上70℃以下低い温度の一対のフラットロールにより、100N/cm以上900N/cm以下の線圧で熱接着して、不織布シートを得た後、巻き取って、不織布ロールを得る工程。
【0045】
本発明の不織布ロールを構成する長繊維不織布の製造方法としては、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、湿式法、カード法およびエアレイド法等を挙げることができる。
【0046】
中でも、スパンボンド法により製造されるスパンボンド不織布は好ましい態様の一例である。熱可塑性フィラメントから構成された長繊維不織布であるスパンボンド不織布は、生産性に優れ、低コストであり、また高い機械的強度を得ることができるため、好ましく用いられる。
【0047】
本発明において、不織布を構成する繊維として芯鞘型等の複合繊維を用いる場合、複合繊維の製造には通常の複合方法を採用することができる。
【0048】
前記の複合繊維としては、高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維であることが好ましい。
【0049】
このような複合繊維とすることにより、長繊維が強固に融着されやすくなり、その結果、表面の毛羽立ちを抑え、容易に平滑な表面を得ることができる。さらに、例えば、ハウスラップ材として用いた場合には、繊維同士が、互いに強固に融着されることに加え、融点の異なる繊維同士を混繊させたものに比べて繊維同士の融着点の数も多くすることができるため、機械的強度をも向上することができる。
【0050】
ここで主成分とは、複合繊維の成分のうち、50質量%以上を占める成分のことである。
【0051】
上記の高融点重合体と低融点重合体との融点の差としては10℃以上110℃以下が好ましい。融点の差を10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上とすることで、所望の熱接着性を得ることができる。また、110℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下とすることで、熱圧着時に熱圧着ロールに低融点重合体成分が融着し生産性が低下することを抑制することができる。
【0052】
また、上記複合繊維における高融点重合体の融点としては、160℃以上320℃以下が好ましい。160℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上とすることで、形態安定性や耐久性に優れる。また、320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下とすることで、長繊維不織布製造時に溶融するための熱エネルギーを多大に消費し生産性が低下するのを抑制することができる。
【0053】
かかる高融点重合体および低融点重合体の組み合わせ(高融点重合体/低融点重合体)の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート/ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/ポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート/共重合ポリエチレンテレフタレート等が挙げられる。共重合ポリエチレンテレフタレートの共重合成分としては、イソフタル酸等が好ましい。
【0054】
なお、本発明において熱可塑性樹脂の融点は、以下のように測定される値を採用するものとする。
(1)示差走査熱量計を用いて、次の条件で1回測定を行う。なお、示差走査熱量計としては、TA Instruments社製「Q100」等が用いられる。
・測定雰囲気:窒素流(150mL/分)
・温度範囲 :30~350℃
・昇温速度 :20℃/分
・試料量 :5mg
(2)吸熱ピーク頂点温度の平均値を算出して、測定対象の融点とする。
ただし、繊維形成前の樹脂において吸熱ピークが複数存在する場合は、最も高温側のピーク頂点温度とする。また、繊維を測定対象とする場合には、同様に測定し、複数の吸熱ピークから各成分の融点を推定する。その際、複合繊維による吸熱ピークは、最も高温側の吸熱ピーク(A)と、経過時間の小さい側(早くピークが現れる側)に現れる吸熱ピークであって、最も高温側の吸熱ピークの次に高いピーク(吸熱ピーク(B))を示すピーク群であり、吸熱ピーク(A)が高融点重合体の融点を示すものであるのに対し、前記の吸熱ピーク(B)が低融点重合体の融点を示すものである。
【0055】
かかる複合繊維における低融点重合体の占める割合としては、複合繊維中10質量%以上70質量%以下であることが好ましい。10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらに好ましくは20質量%以上とすることで、所望の熱接着性を得ることができる。また、70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下とすることで、熱圧着時に熱圧着ロールに低融点重合体成分が融着し生産性が低下することを抑制することができる。
【0056】
かかる複合繊維の複合形態としては例えば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型、海島型等を挙げることができる。中でも同心芯鞘型、特に低融点重合体が鞘成分となる態様が、熱圧着により繊維同士を強固に接着させることができる点で好ましい。複合繊維が異形型の断面形状を採用する場合には、低融点重合体成分が熱圧着に寄与できるように繊維断面の外周部近傍に存在することが好ましい。
【0057】
本発明の不織布ロールからなる長繊維は熱可塑性樹脂を紡糸口金から溶融押し出し後、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、冷却部を通して気体を当て、次いで、前記長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部を通して気体を当てた後、前記長繊維を、前記気体供給部の直下に設けられてなる、長さ1mm以上150mm以下の吸排気部を通過させ、吸引延伸させる。
【0058】
上記のとおり実施することにより、紡出した長繊維を冷却し、外気の流入を抑制しつつ吸引延伸による気流に影響し、糸切れや糸揺れによる幅方向の目付分布を悪化させることなく、繊維ウェブを形成することができる。
【0059】
気体供給部については、糸揺れを最小限とするため、冷却部の下段にさらに取り付けるものであるが、糸揺れを最小限化するために、冷却部の幅よりも気体供給部の幅の方が長い方が好ましい。なお、ここで言う、冷却部の幅とは、冷却部において、糸条が走行する通路の壁面間の距離のうち、最も短い距離のことを言い、気体供給部の幅とは、気体供給部において、糸条が走行する通路の壁面間の距離のうち、最も短い距離のことを言う。
【0060】
また、長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、気体供給部を通して気体を当てるものであれば特に指定はないが、糸揺れを抑制するために気体供給部内に整流化するためにメッシュが入っていることが好ましい。このメッシュのサイズについては好ましくは20mesh以上、より好ましくは40mesh以上、さらに好ましくは100mesh以上である。
【0061】
吸排気部については、吸引に必要な気体流入を取り込むため、メッシュ構造や千鳥状等規則的に孔を配列した板を配することが好ましい。
【0062】
吸排気部の長さについては、長さ1mm以上150mm以下であることが好ましい。吸排気部の長さが、1mm以上、より好ましくは5mm以上、さらに好ましくは10mm以上であれば、吸引に必要な気体の流入を吸排気部で高風速化を抑制し、長繊維の糸切れを低減することができる。また、吸排気部の長さが、150mm以下、より好ましくは、100mm以下、さらに好ましくは75mm以下であれば、外気の流入による長繊維の糸揺れを抑制でき、幅方向の目付分布に優れる繊維ウェブを得ることができる。
【0063】
吸引延伸については、高速吸引ガスにより延伸することが一般的であり、このとき、後工程での仮接着や熱圧着時に繊維が収縮してシワが発生したり、熱ロールに低融点重合体成分が融着して生産性が低下したりすることがないように、得られる繊維ウェブを構成する長繊維をより高度に配向結晶化させることが好ましく、紡糸速度は3000m/分以上とすることが好ましく、より好ましくは3500m/分以上であり、さらに好ましくは4000m/分以上である。また、繊維の過度の配向結晶化を抑制することにより、スパンボンド不織布の機械的強度の向上に資する熱接着性を得ることができることから、紡糸速度は5500m/分以下であることが好ましく、より好ましくは5000m/分以下であり、さらに好ましくは4500m/分以下である。
【0064】
ネットコンベア上に捕集して形成された繊維ウェブは、毛羽立ちを抑制するために一対のフラットロールに接触させるものであれば何ら制限されるものではないが、所定温度に加熱したフラットロールを繊維ウェブに接触させる熱処理加工が好ましく、フラットロールとは、ロールの表面に凹凸のないロールである。
【0065】
また、ネットコンベア上に捕集した繊維ウェブに熱接着を施す前に予め予熱し、連続して熱圧着を実施することが好ましい。この予熱では、捕集した繊維ウェブをネットコンベア上から熱風により予熱したり、ネットコンベア上にフラットロールを設置し、ネットコンベアと当該フラットロールとの間で予熱したりする方法が好ましく用いられる。
【0066】
この予熱は、不織ウェブの温度を100℃以上160℃以下とすることが好ましい。この不織ウェブの温度を100℃以上、好ましくは110℃以上、より好ましくは120℃以上とすることで、不織ウェブの搬送性を改善することができる。一方、不織ウェブの温度を160℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは140℃以下とすることで、不織ウェブの適度な結晶化を促進することができる。
【0067】
この熱接着における熱処理加工について、フラットロールの表面温度は、繊維ウェブの表面に存在する繊維ウェブを構成する、最も融点の低い重合体の融点に対して、30℃以上70℃以下低いことが好ましい。即ち、この融点を(Tm)とした場合、フラットロールの表面温度は、(Tm-30)℃以上(Tm-70)℃以下であることが好ましく、(Tm-35)℃以上(Tm-65)℃以下がより好ましく、(Tm-40)℃以上(Tm-60)℃以下が最も好ましい。フラットロールの表面温度が(Tm-70)℃よりも低い場合は、繊維ウェブの熱圧着が不十分となって、表面平滑性が損なわれ、ハウスラップ材として用いた際に、防水テープとの粘着力が劣るものとなる。また、フラットロールの表面温度が(Tm-30)℃よりも高い場合には、熱処理が強くなりすぎ、過度な融着状態を抑制することができる。
【0068】
繊維ウェブを一対のフラットロールにより熱接着する際の線圧は、100N/cm以上900N/cm以下の範囲が好ましく、より好ましくは200N/cm以上800N/cm以下の範囲である。線圧が100N/cm以上の場合であれば、繊維ウェブ形成に十分な線圧が得られる。線圧が900N/cm以下の場合には、繊維同士の接着が強くなり過ぎることなく、十分な機械的強度を得られる。
【0069】
熱接着し得られた不織布シートを巻き取り、不織布ロールが得られるが、必要に応じて幅方向に分割スリットを巻取機で実施してもよい。不織布ロールの巻取方式としては、芯の中心軸を回転駆動することで巻成ロールの表面に材料ウェブを巻きつけていくセンターワインディング方式や、1本もしくは2本以上の支持ローラーの上にロールコアを載置し、支持ローラーの少なくとも1本を回転駆動することでロールコアに材料ウェブを巻きつけていく、サーフェイスワインディング方式であってもよい。また、抑え圧や巻き取り張力を調整でき、より安定的に巻き取りが可能であることが好ましい。
【0070】
熱圧着した、不織布ロールについては、シート端部と中央部で収縮差が発生することから不織布ロールとして巻き取る際に両端部を耳スリットすることが好ましい。耳スリット幅いついては好ましくは1cm以上10cm以下であることが好ましい。好ましくは、1cm以上10cm以下の範囲であり、より好ましくは2cm以上9cm以下、さらに好ましくは3cm以上8cm以下である。耳スリット幅が1cm以上の場合であれば、耳スリット部が蛇行した際に切れてスリット不良が発生することなく巻き取ることが可能である。また10cm以下であれば不織布ロールのロスを削減し生産性にも優れる。
【実施例0071】
次に、実施例に基づき本発明の不織布ロールとその製造方法について、具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0072】
[測定方法]
(1)固有粘度IV:
ポリエチレンテレフタレート樹脂の固有粘度IVは、次の方法で測定した。オルソクロロフェノール100mLに対し試料8gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを、下記式により求めた。
・η=η/η=(t×d)/(t×d
(ここで、ηはポリマー溶液の粘度、ηはオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm)、t:はオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、dはオルソクロロフェノールの密度(g/cm)を、それぞれ表す。)
次いで、上記の相対粘度ηから、下記式により、固有粘度IVを算出した。
・固有粘度IV=0.0242η+0.2634 。
【0073】
(2)融点(℃):
使用した熱可塑性樹脂の融点は、示差走査熱量計(TA Instruments社製Q100)を用いて、上記の条件で測定し、吸熱ピーク頂点温度の平均値を算出して、測定対象の融点とした。
【0074】
(3)不織布ロールの巻き硬度(g)、不織布ロールの幅方向に5cm間隔で巻き硬度を測定した際の隣接する2つの測定値の硬度差の最大値(g):
不織布ロールの巻き硬度、不織布ロールの幅方向に5cm間隔で巻き硬度を測定した際の隣接する2つの測定値の硬度差の最大値H(g)の幅方向の硬度差は、ロール硬度計として、ACA System社製「RoQロール巻き硬さ測定器」を用い、前記の方法によって測定した。なお、不織布ロールの幅方向に5cm間隔で巻き硬度を測定した際の隣接する2つの測定値の硬度差の最大値(g)について、以降、表1も含め、隣接硬度差最大値Hと略記することがある。
【0075】
(4)不織布と防水テープとの粘着力(N/25mm):
JIS Z0237:2022「粘着テープ・粘着シート試験方法」の「10.3.2 試験手順」の「a) 試験板に対する粘着力を試験する場合の手順」、および「g) 低温環境下で試験する場合の手順」、ならびに「10.4 引きはがし粘着力の測定」の「10.4.5 方法5:低温環境下で試験板に対する180°引きはがし粘着力」に準じて、以下の条件で不織布ロール最外層の不織布で測定し、引きはがし粘着力を測定、評価した。なお、表1では、単に「防水テープとの粘着力」と表記した。
・試験温度:-10℃
・使用した防水テープ:日東電工株式会社製「全天(登録商標)テープ No.692」
・試験機:引張試験機(試験装置A)として、株式会社島津製作所製「AGS-X」を使用
・引きはがし速度: 30±1cm/分
[実施例1]
熱可塑性樹脂を主成分とする繊維として、芯成分、鞘成分からなる複合繊維を用いた。以下に、用いた熱可塑性樹脂について示す。
芯成分:固有粘度IVが0.65、融点が260℃であり、酸化チタンを0.3質量%含むポリエチレンテレフタレート樹脂を水分率10ppm以下に乾燥したもの。
鞘成分:固有粘度IVが0.66、イソフタル酸共重合率が11モル%、融点が230℃であり、酸化チタンを0.2質量%の共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂を水分率10ppm以下に乾燥したもの。
【0076】
上記の芯成分を295℃、鞘成分を280℃で溶融し、芯/鞘の複合比を質量比で80/20として円形断面の同心芯鞘型に複合し、口金温度300℃で細孔より紡出し長繊維を得た。
その紡出した長繊維を、走行方向に対して垂直な方向に、冷却部を通して気体を当て、次いで、長繊維の走行方向に対して垂直な方向に、長さ100mmの気体供給部を通して気体を当てた。なお、気体供給部は、冷却部の幅よりも50mm大きいもので、内部に100meshの金網を搭載したものであった。気体供給部を通して紡出した長繊維に気体を当てた後、気体供給部の直下に設けられている、長さ20mmの吸排気部を通過させ、圧縮エアーにより紡糸速度4300m/分で吸引延伸し、移動するネットコンベア上に捕集して繊維ウェブを得た。上記のようにして捕集した繊維ウェブを、160℃で予熱した後、上下1対の金属製フラットロール間に通し、各フラットロール表面温度が185℃で、線圧が700N/cmで熱圧着し、平均単繊維径が11.3μm、目付が25g/m、見掛け密度0.50g/cmの長繊維不織布がロール状に巻き取られてなる不織布ロールで、ロール幅が2.3m、巻き長が11000mの不織布ロールを得た。
【0077】
そして、11000m巻きの不織布ロールを2軸サーフェイス方式ワインダーの巻取機で両端0.1mを耳スリットしながら、シート巻き取り張力120N/mで内径7.6cm、肉厚6mmの紙管に巻き取り、ロール幅が2.1m、巻き長が2500mの不織布ロールを得た。巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が29.2g、隣接硬度差最大値Hが4.6g、巻き径0.40m、ロール外層不織布の厚みとロール内層不織布の厚みがそれぞれ0.05mm、0.05mm、不織布と防水テープとの粘着力が15.1N/25mmであった。
【0078】
[実施例2]
実施例1において、巻取機での不織布ロールの巻き長が2500mであったところを11000mとした以外は同じ方法で実施した。
【0079】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が32.3g、隣接硬度差最大値Hが5.2g、巻き径が0.80m、ロール外層不織布の厚みと内層不織布の厚みがそれぞれ0.05mm、0.05mm、不織布と防水テープとの粘着力が15.2N/25mmであった。
【0080】
[実施例3]
実施例1において、不織布ロールのロール幅が2.3mであったところを3.2mで採取し、巻取機で両端0.1mを耳スリットして、ロール幅が3.0mの不織布ロールを得たこと以外は同じ方法で実施した。
【0081】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が29.3g、隣接硬度差最大値Hが4.8g、巻き径が0.40m、ロール外層不織布の厚みと内層不織布の厚みがそれぞれ0.05mm、0.05mm、不織布と防水テープとの粘着力が15.1N/25mmであった。
【0082】
[実施例4]
実施例1において、繊維ウェブを得る際に気体供給部の長さを100mmから20mmに変え、吸排気部の長さを20mmから100mmに変えたこと以外は同じ方法で実施した。
【0083】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が29.1g、隣接硬度差最大値Hが4.7g、巻き径が0.40m、ロール外層不織布の厚みと内層不織布の厚みがそれぞれ0.05mm、0.05mm、不織布と防水テープとの粘着力が15.3N/25mmであった。
【0084】
[実施例5]
実施例1において、繊維ウェブを得る際に吸排気部の長さを20mmから5mmに変えたこと以外は同じ方法で実施した。
【0085】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が29.2g、隣接硬度差最大値Hが4.6g、巻き径が0.40m、ロール外層不織布の厚みと内層不織布の厚みがそれぞれ0.05mm、0.05mm、不織布と防水テープとの粘着力が15.2N/25mmであった。
【0086】
[実施例6]
実施例1において、ネットコンベアの速度を調整し、目付80g/mの繊維ウェブを得るようにした以外は同じ方法で実施し、見掛け密度0.80g/cmの不織布ロールを得た。
【0087】
巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が41.3g、隣接硬度差最大値Hが8.6g、巻き径が0.54m、ロール外層不織布の厚みと内層不織布の厚みがそれぞれ0.10mm、0.10mm、不織布と防水テープとの粘着力が20.1N/25mmであった。
【0088】
[比較例1]
実施例1において、繊維ウェブを得る際に気体供給部の長さを100mmから0mmに変え(すなわち、気体供給部を設けないこととし)、吸排気部の長さを20mmから150mmに変えたこと以外は同じ方法で実施した。繊維ウェブを得る際に両端部での長繊維の糸揺れが大きくなる様子が確認できた。得られた不織布は目付25g/m、見掛け密度0.50g/cmであった。
【0089】
巻取機で巻き取った不織布ロールにおいては巻きズレも0mmであったものの、シワが発生し、巻き硬度が29.2g、隣接硬度差最大値Hが5.8g、巻き径が0.40m、ロール外層不織布の厚みと内層不織布の厚みがそれぞれ0.05mm、0.05mm、不織布と防水テープとの粘着力が15.0N/25mmであった。
【0090】
[比較例2]
実施例1において、繊維ウェブを得る際に、吸排気部の長さを20mmから0mmに変えた(すなわち、吸排気部を設けないこととした)こと以外は同じ方法で実施した。繊維ウェブを得る際に全幅での長繊維の糸揺れが大きく糸切れが多発し、熱接着時にフラットロールに繊維ウェブが巻き付き、採取不可能であった。
【0091】
[比較例3]
比較例1において、ネットコンベアの速度を調整し、目付80g/mの繊維ウェブを得るようにした以外は同じ方法で実施した。繊維ウェブを得る際には比較例1と同様に両端部での長繊維の糸揺れが大きくなる様子が確認できた。得られた不織布は目付80g/m、見掛け密度0.80g/cmであった。
【0092】
巻取機で巻き取った不織布ロールにおいては巻きズレも0mmであったものの、シワが発生し、巻き硬度が41.2g、隣接硬度差最大値Hが12.8g、巻き径が0.54m、ロール外層不織布の厚みと内層不織布の厚みがそれぞれ0.10mm、0.10mm、不織布と防水テープとの粘着力が19.9N/25mmであった。
【0093】
[比較例4]
実施例1において、ネットコンベアの速度を調整し、目付30g/mの繊維ウェブを得るようにし、捕集した繊維ウェブを、140℃で予熱した後、上側が圧着率16%のエンボス柄を施したロール、下側がフラットの金属製ロールで構成された熱エンボスロールの間に通し、各ロールの表面温度が190℃で、線圧が700N/cmで熱圧着した以外は、同じ方法で実施し、平均単繊維直径が11.3μm、目付が30.0g/m、見掛け密度0.23g/cmの2.3m幅8500m巻きの不織布ロールを得た。
その後、8500m巻きの不織布ロールを2軸サーフェイス方式ワインダーの巻取機で両端0.1mを耳スリットしながら、シート巻き取り張力120N/mで内径7.6cm、肉厚6mmの紙管に8500m巻き取り、2.1m幅の不織布ロールを得た。巻き取った不織布ロールはシワもなく、巻きズレも0mmであり、巻き硬度が20.0g、隣接硬度差最大値Hが1.4g、巻き径が1.03m、ロール外層不織布の厚みと内層不織布の厚みがそれぞれ0.13mm、0.13mm、不織布と防水テープとの粘着力が7.6N/25mmであった。
【0094】
【表1】
【0095】
<まとめ>
また上記実施例・比較例で得られた不織布ロールを送り出し、厚さ0.028mm、目付28g/mの多孔質ポリエチレンフィルムと、ホットメルトで貼り合わせ、フィルムとの貼り合わせ加工性を確認した。
【0096】
その結果、実施例1~6の不織布ロールにおいて、シワの発生もなく貼り合わせ性について特に問題なく加工可能であった。一方、比較例1、3ではシワが発生し、加工性が不良であった。
【0097】
さらに、実施例1~6および比較例1、3において、いずれの不織布も表面平滑で防水テープとの粘着力についても15N/25mm以上と優れるものであった。一方、比較例4ではエンボス柄を施したロールで部分的熱圧着を実施した不織布ロールであり、平滑性に劣り防水テープとの粘着力においても劣るものであった。
【0098】
上記結果より本発明の不織布ロールは防水テープとの粘着力に優れ、かつ広幅化した際にも、巻き取り時に巻き取りシワもなくフィルムとの貼り合わせ性にも優れる不織布ロールであった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明の不織布ロールは、表面が平滑であり、広幅で巻き取った際にも巻き取り時に巻き取りシワもなく、フィルムとの貼り合わせ性にも優れることから、特にハウスラップ材などをはじめとした幅広い分野に好適に使用することができる。