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特開2023-147962炭素繊維強化複合材料、プリプレグおよびエポキシ樹脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147962
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】炭素繊維強化複合材料、プリプレグおよびエポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/24 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
C08J5/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055769
(22)【出願日】2022-03-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平鍋 隆一郎
(72)【発明者】
【氏名】武田 一朗
【テーマコード(参考)】
4F072
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA07
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD13
4F072AD28
4F072AD31
4F072AD44
4F072AD46
4F072AE01
4F072AE04
4F072AE08
4F072AF01
4F072AG03
4F072AG17
4F072AH04
4F072AH21
4F072AL02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】炭素繊維の持つ引張強度を高い利用率で活用でき、優れた圧縮強度と耐衝撃性を兼ね備え、高い引張強度を有する炭素繊維強化複合材料およびそれを製造できるプリプレグを提供する。
【解決手段】次の構成要素[A]炭素繊維1、[BCDc]マトリックス樹脂および[Ec]熱可塑性樹脂粒子4を含み、[A]の束とそれを固定する[BCDc]とを含む炭素繊維層が積層された炭素繊維強化複合材料であって、陽電子消滅寿命測定法で得られる自由体積半径とその存在確率から得られる分布曲線において、孔半径の最大値と最小値の差が0.09nm以上であり、任意の位置で厚み方向に切断して得られる断面において、[Ec]は、その個数基準での30%以上において長径と短径の比が1.1以上として観測され、かつ、その面積基準での90面積%以上が炭素繊維層と炭素繊維層の層間3に含有されている、炭素繊維強化複合材料。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の構成要素[A]、[BCDc]および[Ec]を含み、
[A]の束とそれを固定する[BCDc]とを含む炭素繊維層が積層された炭素繊維強化複合材料であって、
陽電子消滅寿命測定法で得られる自由体積半径とその存在確率から得られる分布曲線において、孔半径の最大値と最小値の差が0.09nm以上であり、
任意の位置で厚み方向に切断して得られる断面において、[Ec]は、その個数基準での30%以上において長径と短径の比が1.1以上として観測され、かつ、その面積基準での90面積%以上が炭素繊維層と炭素繊維層の層間に含有されている、炭素繊維強化複合材料。
[A]炭素繊維
[BCDc]マトリックス樹脂
[Ec]熱可塑性樹脂粒子
【請求項2】
さらに、以下の[Fc]を、炭素繊維層と炭素繊維層の層間に、その面積基準での90面積%以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化複合材料。
[Fc]任意の位置で厚み方向に切断して得られる断面において、長径と短径の比が1.05未満の粒子
【請求項3】
炭素繊維に対する強度利用率が95%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項4】
陽電子消滅寿命測定法で得られる自由体積半径とその存在確率から得られる分布曲線において、自由体積の平均孔半径が0.270nm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の炭素繊維強化複合材料。
【請求項5】
次の構成要素[A]、[Bp]、[Cp]、[Dp]および[Ep]を含み、
[Bp]、[Cp]および[Dp]からなる混合物を180℃で2時間加熱して得られる硬化物の、陽電子消滅寿命測定法で得られる自由体積半径とその存在確率から得られる分布曲線において、孔半径の最大値と最小値の差が0.09nm以上であることを特徴とするプリプレグ。
[A] 炭素繊維
[Bp] エポキシ樹脂
[Cp] 芳香族ポリアミン化合物
[Dp] ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂
[Ep] [Bp]に不溶な熱可塑性樹脂を主成分とし、Tgが150℃未満であって、Tmが185℃未満もしくは明確なTmを示さず、体積平均の粒径におけるD10が6μm以上である粒子
【請求項6】
前記[Bp]、[Cp]および[Dp]からなる混合物を180℃で2時間加熱して得られる硬化物のゴム状平坦部剛性率G’Rが、20MPa以下であることを特徴とする請求項5に記載のプリプレグ。
【請求項7】
さらに、以下の[Fp]を含むことを特徴とする請求項5または6に記載のプリプレグ。
[Fp] Tmが185℃以上であり、体積平均の粒径におけるD10が6μm以上である粒子
【請求項8】
前記[Ep]の主成分がポリアミド12、ポリアミド6/12共重合体およびグリルアミドから選ばれるいずれかである請求項5~7のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項9】
前記[Fp]の主成分がポリアミド6、ポリアミド11、および、ポリアミド66の少なくとも1種類を含んだ粒子であることを特徴とする請求項7に記載のプリプレグ。
【請求項10】
[Ep]は、体積平均の粒径におけるD90が50μm以下であり、
[Fp]は、体積平均の粒径におけるD50が30μm以下である、請求項5~9のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項11】
[A]炭素繊維の束内に[Bp1]エポキシ樹脂、[Cp1]芳香族ポリアミン化合物および[Dp1]ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂の混合物が含浸された1次プリプレグと、
該1次プリプレグの両面に[Bp2]エポキシ樹脂、[Cp2]芳香族アミン化合物、[Dp2]ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂および[Ep]粒子を含む混合物から構成される2次樹脂フィルムとが積層されたことを特徴とする、請求項5~10のいずれかに記載のプリプレグの製造方法。
【請求項12】
前記[Bp]エポキシ樹脂の構成成分としてN,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、またはこれらの誘導体から選ばれる少なくとも1種類を含むことを特徴とする請求項5~11のいずれかに記載のプリプレグ。
【請求項13】
請求項5~12のいずれかに記載のプリプレグを硬化して得られる、炭素繊維強化複合材料。
【請求項14】
[Bp]、[Cp]および[Dp]の混合物を含むエポキシ樹脂組成物であって、
該混合物は、硬化物の陽電子消滅寿命測定法で得られる自由体積半径とその存在確率から得られる分布曲線より、孔半径の最大値と最小値の差を比較したときに、
昇温速度2℃/分で180℃まで昇温し、2時間保持して得られる硬化物の方が、1℃/分で130℃まで昇温し、1時間保持した後に180℃まで昇温して2時間加熱して得られる硬化物より0.01nm以上大きいことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
[Bp] エポキシ樹脂
[Cp] 芳香族ポリアミン化合物
[Dp] ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた圧縮強度と耐衝撃性を兼ね備え、従来より高い引張強度を有する繊維強化複合材料を得るために用いられるプリプレグ、ならびに該プリプレグを用いた炭素繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、ガラス繊維などの強化繊維は、軽量でありながら、引張強度や圧縮強度などの力学特性や耐熱性、耐食性に優れている。これら強化繊維をエポキシ樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂で含浸してプリプレグとした後、それを成形して硬化した炭素繊維強化複合材料(以下、CFRPということがある。)は、航空・宇宙、自動車、鉄道車両、船舶、土木建築およびスポーツ用品などの数多くの分野に応用されてきた。特に、高性能が要求される用途では、連続した強化繊維を用いたCFRPが用いられ、強化繊維としては比強度、比弾性率に優れた炭素繊維が、そしてマトリックス樹脂としては熱硬化性樹脂、中でも特に炭素繊維との接着性に優れたエポキシ樹脂が多く用いられている。
【0003】
また、過去の検討においては、熱硬化性樹脂の硬化物は破壊靭性が一般的に低いことから、CFRPの耐衝撃性に劣り、特に航空機用構造部材の場合、組立中の工具落下や運用中の雹の衝撃等に対する問題が生じていた。しかしながら、現在では、プリプレグを積層させて生じる炭素繊維層と炭素繊維層の間に挟まれた炭素繊維が存在しないマトリックス樹脂の層(以下、層間とする場合がある)に弾性体である熱可塑性樹脂からなる粒子を添加し、衝撃を受けたときに熱可塑性樹脂からなる粒子を潰れさせることで耐衝撃性向上を果たしており、これらの組合せで得られるプリプレグを硬化させたCFRPは、引張強度、圧縮強度、耐衝撃性に優れていることから、航空・宇宙分野に用いられている。
【0004】
この様に実用レベルに達したCFRPではあるが、軽量化や積層回数減少によるコストダウンなどが見込まれることから、さらなる力学特性の向上が求められており、上記の物性の中でも引張強度は特に高い性能を求められている。
【0005】
CFRPの引張強度は、基本的には炭素繊維の強度に依存し、特許文献1には、高強度の炭素繊維を得る方法が示されている。また、特許文献2には、熱可塑性樹脂を多量配合することでマトリックス樹脂の引張破断伸度と破壊靱性KICが特定の関係を満たせば高い引張強度利用率が得られることが示されている。
【0006】
一方、CFRPにおける炭素繊維の配列については、ほとんど報告されておらず、特許文献3に示される、厚み方向の導電性を出すために厚みに斑を持たせるという手段の記載がある程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-241230号公報
【特許文献2】特開平9-235397号公報
【特許文献3】国際公開第2012/084197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
炭素繊維複合材料の引張強度を向上させる手段として、特許文献1のように、炭素繊維の強度を向上させる提案はなされているが、炭素繊維の引張強度を高い利用率で活用することに着眼したマトリックス樹脂についての提案はほとんどない。特許文献2のように、マトリックス樹脂の組成にて熱可塑性樹脂の割合を増やす方法が提案されてはいるが、結局のところ熱硬化性樹脂の割合を減らして熱可塑性樹脂の割合を増やしているので、圧縮強度や耐熱性が低下して引張強度を向上するトレードオフの関係に留まるものであった。本発明者らは、CFRPの引張強度を向上させるには、炭素繊維の配列が重要と考えたが、炭素繊維の配列に言及した提案は特許文献3に記載された程度の内容の他に無かった。
【0009】
本発明は、かかる背景技術に鑑み、優れた圧縮強度と耐衝撃性を兼ね備え、従来より高い引張強度を有することで航空機機体の構造材料として好適なCFRPおよびそれを得るための中間基材であるプリプレグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、CFRPにおける炭素繊維の配列と炭素繊維の強度を高い利用率で活用できるマトリックス樹脂を検討し、発明に至った。すなわち、
構成要素[A]、[BCDc]および[Ec]を含み、[A]の束とそれを固定する[BCDc]とを含む炭素繊維層が積層された炭素繊維強化複合材料であって、 陽電子消滅寿命測定法で得られる自由体積半径とその存在確率から得られる分布曲線において、孔半径の最大値と最小値の差が0.09nm以上であり、任意の位置で厚み方向に切断して得られる断面において、[Ec]は、その個数基準での30%以上において長径と短径の比が1.1以上として観測され、かつ、その面積基準での90面積%以上が炭素繊維層と炭素繊維層の層間に含有されている、炭素繊維強化複合材料、および、好適にその炭素繊維強化複合材料を製造することができるプリプレグである。
[A]炭素繊維
[BCDc]マトリックス樹脂
[Ec]熱可塑性樹脂粒子
【発明の効果】
【0011】
本発明により、炭素繊維の持つ引張強度を高い利用率で活用でき、優れた圧縮強度と耐衝撃性を兼ね備え、高い引張強度を有する炭素繊維強化複合材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】引張応力が図の下に加わり炭素繊維に破断が生じたときの概略図であり、炭素繊維が破断したときに周囲の樹脂に応力が加わることを示している。
図2】従来の炭素繊維複合材料が破壊されるときの概略図であり、図1の後、樹脂の縦割れ(後述)が発生し、続いて隣接する炭素繊維が破断することを示している。
図3】本発明のCFRPが破壊されるときの概略図であり、図2より強い引張応力が加わったときに、同じ箇所で複数の炭素繊維が破断することを示している。
図4】CFRPのエポキシ樹脂が構成する分子鎖の三次元網目構造の概略図であり、架橋の疎密が存在する。
図5】CFRPのエポキシ樹脂が構成する分子鎖の三次元網目構造の概略図であり、均一に架橋されている。
図6】従来のCFRPの断面図の概略図であり、Xの位置とYの位置で繊維層の厚さが異なることを示している。
図7】本発明のCFRPの断面図の概略図であり、繊維層の厚みが均一であることを示している。
図8】本発明のCFRPの断面図の概略図であり、粒子[Ec]とともに粒子[Fc]が用いられ、繊維層の厚みが均一であることを示している。
図9】従来のCFRPの断面図の概略図であり、粒径の小さな粒子が炭素繊維層を乱して侵入していることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.発明の概要
図1は、CFRPに引張応力が加えられて炭素繊維の破断が生じたときの概要図である。CFRPに強い引張応力が加えられると、炭素繊維束のうち最大伸度が低い炭素繊維が破断して、その周囲の樹脂に引張応力が生じる。従来技術に係るCFRPは、この樹脂に加わる引張応力によって樹脂が引き裂かれ(以降、かかる応力により樹脂が引き裂かれることを縦割れと記載する)、その縦割れの歪みで隣接する炭素繊維が破断し、縦割れとそれで生じた歪みによる炭素繊維の破断の連続によって、図2に示すようにCFRPが破壊される。
【0014】
そこで、本発明者らは、炭素繊維破断が生じた後の最初の縦割れを生じさせないことで、炭素繊維複合材料の引張強度を高めることができると考えた。具体的には、「低伸度炭素繊維の破断により生じる破断点」と「隣接する炭素繊維との接着点」の間の歪みを吸収できる樹脂を用いれば、縦割れが生じずに、続く隣接炭素繊維の破断を抑制できると考えた。それには、「A.低伸度炭素繊維の破断点と隣接炭素繊維の歪みで縦割れしないこと、言い換えれば、縦割れしにくい樹脂であること」、「B.隣接する炭素繊維が近い位置に存在すること(すなわち、隣接する炭素繊維が少なければ分散担持できないので、隣接する炭素繊維が近い位置に存在するよう配列した炭素繊維束であること)」が必要である。このとき、従来技術に係るCFRPでは破断するような引張応力を受けても、図1の状態で樹脂の縦割れが発生しない。さらに強い引張強度が加わったときに初めて破断し、そのときの破断面は、図3に示すように、複数の炭素繊維が同一の場所で破断して破壊される。
【0015】
本発明のプリプレグは、以下の成分を必須とする。
[A]:炭素繊維
[Bp]:エポキシ樹脂
[Cp]:芳香族ポリアミン化合物
[Dp]:ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂
[Ep]:エポキシ樹脂に不溶な熱可塑性樹脂粒子
また、本発明のCFRPは以下の成分を必須とする。
[A]:炭素繊維
[BCDc]:マトリックス樹脂
[Ec]:エポキシ樹脂に不溶な熱可塑性樹脂粒子
ここで、プリプレグにおけるマトリックス樹脂である[Bp]、[Cp]および[Dp]が硬化してなるものを、CFRPにおける[BCDc]のマトリックス樹脂としている。なお、樹脂組成物またはプリプレグにおける[Ep]の粒子は、CFRPとしたときに[Ec]の粒子となるものであるが、本発明で言う「マトリックス樹脂」として定義される用語は、[Ep]を含まないものとする。
【0016】
また、本発明のプリプレグは、[Ep]以外の粒子である[Fp]を含む場合があり、[Fp]は、プリプレグが成形されてなるCFRPにおいて[Fc]となる。
【0017】
2.縦割れしにくい樹脂(A)について
まず、A項について説明する。本発明のCFRPは、加わった引張応力によって低伸度の炭素繊維が破断したとしても、周囲の樹脂が縦割れしにくいことに特徴がある。
【0018】
本発明のCFRPについて、本発明者らが鋭意検討した結果、自由体積の孔半径とその存在確率から得られる分布曲線において、孔半径の最大値と最小値の差(以下、孔半径のレンジということがある。)が0.09nm以上であること、好ましくは0.11nm以上、さらに好ましくは0.12nm以上であることで、樹脂の縦割れを抑制して高い引張強度を得られることが分かった。ここで、自由体積の孔半径のレンジとは、陽電子消滅寿命測定法(以下、PALSということがある。)によりカウントされる陽電子消滅寿命について、短いものから昇順に累積1%に当たる寿命から得られる自由体積の孔半径を最小孔半径、長いものから降順に累積1%に当たる寿命から得られる自由体積の孔半径を最大孔半径とし、その差を孔半径のレンジとする。また、PALSとは、陽電子が試料に入射してから消滅するまでの時間(「消滅寿命」、数百ピコ秒から数十ナノ秒オーダー)を測定し、その消滅寿命に基づいて、0.1~10nmの空孔の大きさ、その数密度、およびその大きさの分布などの情報を非破壊的に評価する手法である。かかる測定法の詳細は、例えば「第4版実験化学講座」第14巻、485頁、日本化学会編,丸善株式会社(1992)に記載されている。一方で、自由体積の孔半径のレンジが大きすぎると、自由体積の大きなところが熱運動しやすくなって耐熱性に劣る傾向があるので、0.4nm以下、好ましくは0.3nm未満、さらに好ましくは0.2nm未満であると良い。
【0019】
引張応力がCFRPに加わった場合、炭素繊維束のうち比較的弱い炭素繊維に応力が局所的に集中して破断し、続いて付近の樹脂に応力が生じて、縦割れが発生するとともに、図2に示すように縦割れで生じる歪みで隣接する炭素繊維が破断する。CFRPの自由体積の孔半径のレンジが0.09nm以上であることで、樹脂が縦割れせずに初期変形して、隣接する炭素繊維に引張応力を分散させやすくなる。初期変形しやすい原理としては次のように考えている。本発明のCFRPに用いられる[BCDc]を含め、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含む組成物は、3次元網目状に架橋された構造を有するが、同じ架橋密度であっても構造が異なり、図4図5に示す様な架橋間が長いところと短いところの疎密がある。かかる詳細は、ACS Apply. Mater. Interfaces 2-12, 4, 564-572などに記載されている。上述の自由体積の孔半径のレンジを有することで、樹脂の縦割れを抑制して高い引張強度を得ることができるが、この理由は、図5に示すように大きな自由体積と小さな自由体積の両方を有する三次元構造となり、CFRPに引張応力が加わったときに自由体積が大きな箇所が初期変形して、引張応力を周囲の炭素繊維で分散担持させることができるためと考えられる。一方で、図4の様に大きな自由体積が無い場合には、初期変形しにくいものと思われる。自由体積の孔半径のレンジを0.09nm以上とするには、[Bp][Cp][Dp]の構成および硬化条件の設定により可能であり、詳細な例は後述する。
【0020】
本発明のCFRPは、PALSで得られる自由体積の孔半径とその存在確率から得られる分布曲線において、ピークトップである平均孔半径が0.270nm以下であることが好ましく、より好ましくは0.255nm以下、さらには0.248nm以下であることが好ましい。自由体積の平均孔半径を0.270nm以下とすることで、圧縮応力に対して変形しにくくなり、圧縮強度が向上する。一方で、自由体積の平均孔半径が小さすぎると、引張応力が加わったときに初期変形できない箇所が多くなることがあるので、引張強度を高めるために0.230nm以上であるのが好ましく、0.240nm以上であるのがより好ましく、0.245nm以上であるのがさらに好ましい。本発明のCFRPは、それを構成する樹脂が大きな自由体積を有することで、樹脂の初期変形を起こしやすくし、縦割れを抑制して引張強度が高くなることに特徴がある。単純に全ての自由体積を大きくした場合には、引張強度が上がっても圧縮強度が下がるところ、本発明は大きな自由体積と小さな自由体積の両方を有する三次元構造を有し、さらに、その平均孔半径を上記範囲とすれば、引張強度に加えて圧縮強度も両立することができる。つまり、高い圧縮強度を有しつつ、大きな自由体積の箇所が初期変形して高い引張強度を有する、好ましい形態となる。
【0021】
本発明のプリプレグは、炭素繊維の周囲のマトリックス樹脂となる原料([Bp][Cp][Dp]などの構成)の混合物だけで昇温速度2℃/分で180℃まで昇温し、2時間維持させて硬化したときにゴム状平坦部剛性率G’Rが20MPa未満である。上記G’Rは15MPa以下であることが好ましく、10MPa以下であることがより好ましい。下限は特にないが、低すぎると圧縮強度が低下する傾向があるため5MPa以上であることが好ましく、さらには7MPa以上であることが好ましい。G’Rが上記範囲であることで、局所的に炭素繊維に加わった引張応力を、低いゴム状平坦部剛性の樹脂を通じて隣接する炭素繊維に分散できることがわかった。本発明者らは当初、縦割れを抑制するためには、特許文献2に記載されている様に、樹脂の最大伸度を上げることで、樹脂に応力が生じた段階で、縦割れの開始より前に隣接する炭素繊維に応力を分散できるのではないかと考えたが、検討した結果、G’Rを10MPa未満とする方がはるかに効果的であることが判明した。これは、比較的弱い炭素繊維が破断したときに、周囲の樹脂に急激に生じる応力に対して初期変形できるためと考えており、[BCDc]マトリックス樹脂の三次元網目構造における架橋点の間隔が一定以上開いていることで、かかるG’Rの範囲を達成できる。これは、当該樹脂組成物を硬化して得られるCFRPまたは樹脂硬化物の自由体積の大きさと相関を持つことが分かり、逆に言えば、CFRPまたは樹脂硬化物の自由体積がどの様になるかシミュレートしながらプリプレグに使用するマトリックス樹脂となる原料([Bp][Cp][Dp]などの構成)を設計することができる。これらは、[Bp]と[Cp]の重合時に非対称な構造を有する[Bp]や[Cp]を含むことで自由体積の孔半径に大小が生じて達成しやすくなるが、その好ましい例については、後述する。
【0022】
本発明のプリプレグは、積層および硬化させて成形することでCFRPとして活用できる。硬化の条件については、用途などによって昇温速度や保持温度、保持時間などが異なり、さらに、近年では、屈曲などの成形を施した後に屈曲が保持できるまで半硬化させたいわゆる「Bステージ化」をした状態で輸送し、最終製造地で「Bステージ化」したプリプレグ同士などを接着させて最終硬化させるいわゆる「Cステージ化」させる、という2ステージの成形プロセスを用いることもある。航空・宇宙分野を対象とした場合も様々な硬化の条件が検討および実施されているが、硬化の条件によるCFRPの変化については、クラックなどの欠点の発生有無をチェックする程度で、詳細は検討されていなかった。本発明では、前述の通り、同じ架橋密度、さらには同じ樹脂組成であっても、自由体積の孔半径のレンジが0.09nm以上となる硬化条件によって、CFRPの引張強度が向上しており、たとえ従来技術と同じプリプレグを用いたとしても、異なる物性を有する。また、本発明では、用いる硬化条件に応じて、本発明に係る自由体積範囲を備えるCFRPが容易に得られるプリプレグを用いる。簡易的に、炭素繊維の周囲のマトリックス樹脂となる原料([Bp]、[Cp]、[Dp]などの構成)を硬化したもので自由体積を評価する。かかる評価により、CFRPを用いた場合と同等の結果を得られる。ここで、表面欠陥の多い低強度の炭素繊維を本発明のCFRPを構成する[A]として使った場合、PALSで炭素繊維の欠陥を検出し、[A]を除いた[Bp][Cp][Dp][Ep]などを硬化して得られる自由体積と、低強度の[A]を用いたCFRPを測定して得られる自由体積で異なる範囲を示すことが理論的にあり得ることから、本発明のCFRPまたはプリプレグで使用する炭素繊維は、航空・宇宙分野で通常に使われるレベルの欠陥の少ない炭素繊維の使用を前提とする。
【0023】
続いて、本発明のCFRPを構成する[BCDc]を製造するための具体例について、現段階の航空・宇宙分野で用いられるマトリックス樹脂を備えるプリプレグを硬化する例を用いて説明する。本発明のプリプレグは、上記のとおり[Bp]、[Cp]および[Dp]を備え、これらを配合して加圧・加熱することで、[Bp]と[Cp]が重合したものに[Dp]が溶解した硬化物となり、好適な[BCDc]とすることができる。以下、本発明段階の航空・宇宙用途で用いられる硬化条件の場合に、本発明のCFRPが得られる好適な組成例を中心に説明するが、これらの組成のみに限定されるものではない。また、本発明においては、[Bp]、[Cp]および[Dp]のいずれにも溶解せずに、粒子の形状を維持する[Ep]が含まれており、[Ep]は、CFRPとするための加圧・加熱時にも溶解せず、ただ後述のとおり潰れて[Ec]としての特徴を満たすものとなる。
【0024】
本発明のプリプレグを構成する[Bp]エポキシ樹脂は、4官能型エポキシ樹脂を含有することが好ましい。4官能型エポキシ樹脂とは、1分子内に4つのエポキシ基を含むエポキシ樹脂であり、23℃で液状であるものが好ましい。具体的にはテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンやこれらのハロゲン置換体、アルキル置換体、アラルキル置換体、水添品などを用いることができる。この様な4官能型エポキシ樹脂を含むことで、成形すると三次元網目構造を有するため自由体積の平均孔半径を小さくすることができ、航空・宇宙用途で要求される、耐熱性や圧縮特性などが高いCFRPを得ることができる。
【0025】
[Bp]エポキシ樹脂には、成形硬化させてCFRPとしたときに自由体積の孔半径のレンジが0.09nm以上となりやすい成分を含むことが好ましい。そのためには、三次元網目構造を不均一にしやすい非対称なエポキシおよび/または硬化剤を含むことが好ましい。この観点から、二官能エポキシ樹脂を配合することが好ましい。二官能エポキシには、三次元網目構造を不均一にしやすいものが一部存在し、例えば、フルオレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、またはこれらの誘導体を挙げることができる。なかでもN,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、またはこれらの誘導体は、より高い効果を持つため好ましい。
【0026】
本発明のプリプレグを構成する[Bp]エポキシ樹脂には、上記以外のエポキシ樹脂が含まれていても構わない。要求特性に応じた二官能エポキシ樹脂を加えることが行われ、好ましい二官能エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、レゾルシノール型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格を有するエポキシ樹脂、イソシアネート変性エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂などの中から1種以上を選択して用いることができる。
【0027】
本発明のプリプレグを構成する[Cp]芳香族ポリアミン化合物について、その具体例としては、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルメタン、フェニレンジアミンやそれらの各種誘導体および位置異性体が挙げられる。4,4’-ジアミノジフェニルスルホンおよび3,3’-ジアミノジフェニルスルホンが好ましい。3,3’-ジアミノジフェニルスルホンは屈曲構造を有して非対称であるため、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンよりもPALSで得られる自由体積の孔半径のレンジを大きくすることができるとともに、平均孔半径を小さくすることができるが、成形加工性は4,4’-ジアミノジフェニルスルホンの方が優れている。そのため、本発明のプリプレグにおいては、成形加工性を重視し、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンを用いるのがより好ましく、もし、より高い圧縮強度が必要であれば、4,4’-ジアミノジフェニルスルホンを主成分として3,3’-ジアミノジフェニルスルホンを適度な割合で混合して使用するのが良い。
【0028】
本発明では、この様に非対称な構造の[Bp]や[Cp]を含有して、特定の速度で硬化させることにより、自由体積の孔半径のレンジが大きくなるということを見出した。一方で、非対称な[Bp]や[Cp]を含まない場合は、硬化速度を変えても自由体積のレンジが変化しないことも分かった。上記範囲の[Bp]や[Cp]を含有させる場合の硬化速度の制御方法としては、昇温速度1.2℃/分以上の速さ、さらには1.7℃/分以上の速さ、さらには2℃/分以上の速さで180℃まで昇温して、保持することがこのましい。自由体積のレンジの変化量としては、非対称な構造を有する[Bp]や[Cp]を含有して昇温速度2℃/分で180℃まで昇温し、2時間保持して硬化させた場合、例えば1℃/分程度で低速昇温して130℃の低温で1時間保持して初期硬化させ、次いで180℃まで昇温して2時間加熱した場合と比べて、0.01nm以上大きいものであると、レンジが変化していると言える。
【0029】
本発明のプリプレグは、マトリックス樹脂の耐熱性と熱安定性を損ねない範囲で硬化促進剤などの副硬化剤を含有してもよい。副硬化剤としては、例えば、三級アミン、ルイス酸錯体、オニウム塩、イミダゾール化合物、尿素化合物、ヒドラジド化合物、スルホニウム塩などが挙げられる。副硬化剤の含有量は、使用する種類により適宜調整する必要があるが、[Bp]エポキシ樹脂の総量100質量部に対して10質量部以下が好ましく、より好ましくは5質量部以下である。硬化促進剤がかかる範囲で含有されている場合、CFRPを成形する際の温度ムラを抑制し、設計した自由体積の孔半径を有するCFRPを得やすいので好ましい。
【0030】
本発明のプリプレグを構成する[Dp]ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂は、含有させる量にもよるが、樹脂靭性などの機械特性、マイクロクラック耐性、さらには耐溶剤性を向上させることができる。[Dp]として好適なポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルスルホンなどを挙げることができ、これらは高温で[Bp]や[Cp]に溶解する。これらのポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂は単独で用いてもよいし、複数を配合して用いてもよい。中でも、ポリエーテルスルホンは、得られるCFRPの耐熱性や力学物性を低下することなく靭性を付与することができるため、好ましく用いることができる。[Dp]として好適に使用できるポリエーテルスルホンの市販品としては、“スミカエクセル(登録商標)”PES 5003P(住友化学(株)社製)、“VIRANTAGE(登録商標)”VW-10700RFPなどが挙げられる。[Dp]の配合量はマトリックス樹脂の粘度、プリプレグのタック、CFRPの力学特性などにより必要に応じて調整すれば良いが、好ましい範囲としては、[Bp]全エポキシ樹脂100質量部に対し、5~40質量部であり、より好ましくは10~35質量部、さらに好ましくは15~30質量部である。
【0031】
この様なマトリックス樹脂を使うことで、樹脂の縦割れを抑制して、隣接する複数の炭素繊維で引張応力を分散担持することができるので、高い引張強度を有するCFRPを得ることができる。
【0032】
3.均一に炭素繊維が配列した炭素繊維束(B)について
次に、B項の好ましい形態について説明する。本発明のCFRPを構成する炭素繊維束は、引張応力が掛かった炭素繊維に対して、その引張応力を分散させるために、なるべく近い位置に隣接する炭素繊維が存在し、上記した様に均一に配列していることが重要である。
【0033】
まず、厚み方向について説明する。従来技術に係る製法で製造された、プリプレグを積層してなるCFRPは、炭素繊維束とそれを固定するマトリックス樹脂とを含む層(以下、炭素繊維層とする)と、炭素繊維層と炭素繊維層の間に挟まれた炭素繊維が存在しないマトリックス樹脂の層(以下、層間とする)とが存在し、プリプレグを航空・宇宙用途などに用いる場合、その層間には、通常、衝撃を緩和するための熱可塑性樹脂粒子が含まれる。ここで、プリプレグは炭素繊維束にマトリックス樹脂などを圧着・含浸させたものであり、プリプレグを積層して加熱・硬化させるときに、マトリックス樹脂の粘度低下にともなって、炭素繊維束が厚み方向に圧力緩和されて広がるとともに、プリプレグ表面のエポキシ樹脂が隣接する炭素繊維層に移動する、いわゆるスプリングバックが発生する。CFRPにおける炭素繊維の厚み方向の配列は、このスプリングバックによって決まるわけであるが、図6に示す様に、層間に含まれる熱可塑性樹脂からなる粒子の厚み方向の径が小さければ、大きくスプリングバックが起きたことを示し、粒子の厚み方向の径が大きければ、スプリングバックは小さかったことを示しており、その差は図中のXとYの長さの差により示される。従来技術に係るCFRPは、粒子の厚み方向の径が大きいXは炭素繊維が密となり、粒子の厚み方向の径が小さいYは炭素繊維が疎となることで、繊維層の厚みは不均一となり、疎になっている部分は隣接する炭素繊維間の距離が長い。本発明のCFRPでは、熱可塑性樹脂粒子[Ec]が、硬化時に繊維層の厚みを均一にするように潰れることから、図7に示すように厚み方向に平行に切断した断面において、その個数基準での30%以上が、長径と短径の比が1.1以上であるアスペクト比を示すこととなり、結果として炭素繊維層の厚みが従来と比べて均一なことに特徴がある。炭素繊維層厚みが均一と言える範囲としては、その最小厚みが炭素繊維層の平均厚みの85%以上であると好ましく、95%以上であるとより好ましく、97%以上であるとさらに好ましい。最大厚みについては、130%以下であることが好ましく、110%未満であることがより好ましく、105%未満であることがさらに好ましい。上記範囲内であることで、厚み方向において隣接する炭素繊維が存在すると言え、炭素繊維の最初の破断が生じたときに隣接する炭素繊維で応力を分担できるので、CFRPの引張強度を高めることができる。
【0034】
ここで、炭素繊維層の厚みを測定し、均一性を判断する方法について説明する。まず、CFRPの厚み方向の断面を200~1,000倍程度に拡大して観察し、限定されるわけではないが+45度方向もしくは-45度方向の炭素繊維層を選び、その上端から下端の長さを測定する。また、このとき、炭素繊維層から数本程度で遊離して層間に移動している炭素繊維については炭素繊維層に含めない。しかしながら、画像からは遊離した炭素繊維なのか、炭素繊維層に含まれる炭素繊維なのか判断が難しい場合があれば、それらを含めたものの平均値で判断する。具体的には、実施例の項目に記載する。
【0035】
本発明のCFRPを構成する[Ec]粒子は、上記のとおり、厚み方向に平行に切断した断面において、その個数基準での30%以上が、長径と短径の比が1.1以上であるアスペクト比を示すものとして観測され、上記比は、1.15以上が好ましく、さらには1.25以上が好ましい。この粒子[Ec]により、繊維層の厚みの斑をなくすことで、炭素繊維束の厚み方向の配列を均一にして、引張強度を高くできる。ここでいうアスペクト比とは、CFRPを厚み方向に平行に切断した断面の画像において、任意に選択した粒子[Ec]の中心を通って引き得る粒子の内径の線のうち、最も長い線の長さを長径とし、その粒子[Ec]の中心を通り、長径と垂直に引いた粒子の内径の線を短径としたときに、(長径の長さ)÷(短径の長さ)と定義し、実施例に後述のとおり粒子100個の個々のアスペクト比の平均をとる。上限は特にないが、アスペクト比は、高すぎると耐衝撃性が低下する場合があるので、5未満、さらには2未満であることが好ましい。
【0036】
粒子[Ec]は、上記のとおり、硬化時に繊維層の厚みを均一になるように潰れることでアスペクト比を有するが、通常、アスペクト比の値は粒子ごとにばらつきを有する。具体的には、100個の粒子のうちアスペクト比を測定してアスペクト比の値を昇順に並べたとき、上位30個は上述したアスペクト比を示すものとして観測される。また、特に限定されるわけではないが、下位10個は、例えば1.05以上1.1未満であるアスペクト比であってもよい。
【0037】
本発明のCFRPを構成する熱可塑性樹脂粒子[Ec]は、[BCDc]中で独立して存在することで耐衝撃性を有する。ここで独立して存在するとは、CFRPの断面を走査型電子顕微鏡やデジタルマイクロスコープなどで観察したときに[Ec]と[BCDc]との間に界面を観察でき、粒子と判断できるものと定義する。ここで、[Ec]の形状としては、断面観察したときに円状だけでなく、その他の形状のもの、変形が見られるものも含める。また、[BCDc]の一部が[Ec]内に侵入している場合があるが、界面が観察できる場合は独立した[Ec]に含める。熱可塑性樹脂粒子が独立した形状を保てなくなる場合は、基本的に[Ep]である段階において[Bp]に溶解することで生じるため、[Bp]に溶解しない熱可塑性樹脂粒子を使用することが良い。[Ep]の選定方法としては、[Ep]の候補となる熱可塑性樹脂粒子を[Bp]に混合して150℃程度で加熱して顕微鏡観察したときに、熱可塑性樹脂粒子が元のサイズから実質的に縮小することなく、[Bp]との間で界面を観察できるものを選定するとよい。また、熱によって溶融して混合することで独立して存在しなくなることもあるため、融点(以下、Tmとする)を示す場合は、130℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。Tmを示さないときは、ガラス転移温度(以下、Tgとする)が100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましく、120℃以上であることがさらに好ましい。
【0038】
本発明のプリプレグを構成する熱可塑性樹脂粒子[Ep]は、Tgが150℃未満である必要があり、145℃以下であるとより好ましく、140℃以下であるとさらに好ましい。さらに、Tmを示す場合は、185℃未満である必要があり、177℃未満であるとより好ましく、174℃未満であるとさらに好ましい。明確なTmを示さないのであればそれでも良い。前述の通り、プリプレグを硬化させるための加熱中に生じるスプリングバックにより、CFRPにおける炭素繊維の配列が最終的に決まるわけであるが、[Ep]の変形温度より高温で保持させると、厚み方向に高さのある粒子がスプリングバックによって潰れる現象が生じる。こうして、粒子は、元が円状であったとしても、上記アスペクト比を示すとともに、炭素繊維と炭素繊維の層間厚み、および炭素繊維層の厚みがそれぞれ均一になる。航空・宇宙分野向けのCFRPを製造されるときに使用されるオーソドックスな温度である170℃~190℃で硬化される場合、TgとTmが上記範囲であることで、厚み方向に高さを有する熱可塑性樹脂粒子は潰れて均一な炭素繊維層の厚みとなる。かかる特性を持つ粒子の材料としては、ポリアミド12、ポリアミド6/12共重合体、グリルアミドが好ましく、さらには特開平1-104624号公報の実施例1に例示されるグリルアミドのセミIPN(高分子相互侵入網目構造)化されたポリアミド(セミIPNポリアミド)などが更に好ましい。
【0039】
本発明のプリプレグを構成する熱可塑性樹脂粒子[Ep]の形状としては、無定形、球状、多孔質、針状、ウイスカー状およびフレーク状などが挙げられる。中でも球状の場合、CFRPへ硬化する時に[Bp]、[Cp]または[Dp]の流動特性を低下させないため炭素繊維への含浸性が優れ、かつ[Ep]自体の炭素繊維層内部への侵入を抑制できることから、ボイドなどの欠点や、炭素繊維層内部へ侵入した[Ep]による炭素繊維配列の乱れなどにより、力学特性低下を発生させることがなく好ましい。かかる球状の[Ep]は、CFRPの製造工程において、上記の通り特定のアスペクト比を有する[Ec]となり得る。
【0040】
本発明のCFRPにおいて、上記アスペクト比を示さない[Ec]と異なる粒子[Fc]が存在することが場合により好ましく、具体的には、任意の位置で厚み方向に切断して得られる断面において、長径と短径の比(アスペクト比)が1.05未満、さらには1.03未満である、粒子[Fc]が含まれるとよい。[Fc]のアスペクト比は[Ec]のアスペクト比と同様の方法で測定すればよい。[Fc]により得られる特性としては、難燃性やUV耐性、導電性の付与や、圧縮特性、耐衝撃性、破壊靭性などの物性を高めることなどである。これらの粒子は有機物でも無機物でも構わないが、有機物の場合はTmが185℃以上、さらには188℃以上である熱可塑性樹脂からなる粒子であることが好ましい。難燃性を付与するには赤リン、リン酸エステル等からなる粒子などが好適である。導電性を付与するには金、銀、銅などの金属粒子や、炭素からなる粒子、熱可塑性粒子などの表面に金属や炭素が被覆されたコアシェル型粒子が好適である。圧縮特性、耐衝撃性、破壊靭性などの物性を高めるには、高弾性率の熱可塑性樹脂粒子が好適であり、特にポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド66、架橋された各種ポリアミド粒子であることで、成形硬化してCFRPとしたときの圧縮強度を高めることができる。
【0041】
本発明のCFRPを構成する熱可塑性樹脂粒子[Ec]とその他の粒子[Fc]は、そのいずれもが、CFRPを厚み方向に切断した断面の観察画像において観察される[Ec]または[Fc]の断面の合計面積を計測したとき、90面積%以上が層間に含有されており、炭素繊維層の内部に侵入している[Ec]と[Fc]は10面積%未満である。さらには、層間に92面積%以上含有されていることが好ましく、95面積%含有されていることがより好ましい。[Ec]と[Fc]が、炭素繊維層の内部に侵入せずに層間に多く含有されることで、炭素繊維層の配列が均一となって引張強度が高くなるとともに、層間に[Ec]が集中して含有していることで衝撃分散性が良くなることから耐衝撃性が高くなる。上記の割合を90面積%以上とするには、粒径の比較的大きな[Ep]と[Fp]、具体的にはD10が6μm以上であるものを使い、かつ、表面付近に存在しているプリプレグを積層・硬化させて得ることが好ましい。
【0042】
本発明のプリプレグに用いられる粒子[Ep]と[Fp]は、いずれも、プリプレグの表面付近に存在していることが好ましく、具体的には、プリプレグの厚さ100%に対して、プリプレグの少なくとも片側表面から20%まで、より好ましくは10%までの深さの範囲に存在していることが好ましい。上記の深さの範囲に存在する粒子の割合としては、各粒子の総量に対して85面積%以上であることが好ましく、92面積%以上であるとより好ましく、97面積%以上であるとさらに好ましい。この範囲にあることを判断するには、粒子が移動しないように硬化させてCFRP断面を観察し、観察できる全粒子の合計面積を100面積%としたときの上記深さまでに存在する粒子の合計面積の割合にて判断すれば良い。本発明のCFRPを構成する炭素繊維束を幅方向に均一に配列させるには、熱可塑性樹脂粒子[Ec]とその他の粒子[Fc]を炭素繊維層の内部にできるだけ侵入させないことが重要であり、[Ep]と[Fp]をプリプレグの表面付近に配置させることが好ましい。特にプリプレグ製造段階において[Bp]、[Cp]および[Dp]の混合物を[A]束内に含浸させるために加熱加圧したときに[Ep]および[Fp]の一部が、上記混合物とともに図9に示すように入り込むと、入り込んだ道筋で配列を乱すことになる。この乱れは、プリプレグを硬化させてCFRPとした後も残る。これを防止する手段としては、[Ep]と[Fp]のD10の範囲を制御することや、プリプレグ製造時に2段含浸ホットメルト法を用いることが挙げられ、後述する。
【0043】
粒子[Ep]と[Fp]を、プリプレグの厚さ100%に対して、上記した深さの範囲に存在させるために、[Ep]および[Fp]は、体積平均の粒径D10が6μm以上である必要があり、10μm以上であると好ましく、12μm以上であるとさらに好ましい。粒径がある程度大きいことで、一般的な炭素繊維を用いて得られるプリプレグの製造段階で、[A]炭素繊維の束の間隔に入り込むことを抑制できるので、粒子をプリプレグの表面から20%深さの範囲に存在させることができる。一般的に粒子は粒度分布を有しており、平均粒径が大きくても小さい粒子を多く含む場合があるので、D10が上記範囲であることが好ましい。ここで、粒径が大きい粒子がそのままの大きさで存在すると、層間の厚みがその粒子の箇所が局所的に広がって不均一となり厚み方向の炭素繊維層の配列が乱れることになるが、本発明の[Ep]は、加熱加圧時のスプリングバックで過剰に大きな粒子が潰れてアスペクト比を有する[Ec]となることで解消できる。一方で、[Ep]には、CFRPとしたときに耐衝撃性向上効果をもたらすことが好ましく、衝撃を受けたときに変形する余地を残しておくことが好ましい。例えば、粒径が30μmの[Ep]が、スプリングバック時に10μmに潰れて[Ec]となると、潰れた後の状態では変形できる余地が少なく、衝撃を吸収できる量が減って耐衝撃性が低下する傾向にある。したがって、[Ep]は体積平均の粒径D90が50μm以下、さらには35μm未満であることが好ましい。ここで、D10、D90とは、それぞれ、体積基準で個別粒径の頻度の累積が10%、90%となったときの粒子径のことを言い、後述のD50は、上記頻度の累積が50%となったときの粒子径である。また、D10、D50、D90の算出は、個別粒径1μm以上のもののみで行う。個別粒径1μmの粒子は炭素繊維の配列を乱さないので対象外であるが、このうち、個別粒径0.5μm未満の粒径のものは、本発明ではフィラーと定義し、後述する。
【0044】
本発明のCFRPにおいて、隣接する炭素繊維が近い位置に存在する様に均一に配列させるには、プリプレグの製造段階で炭素繊維の配列を出来るだけ均一にして樹脂を含侵させ、CFRP製造時に熱硬化する段階で炭素繊維の配列を乱さない様に硬化させることが好ましい。
【0045】
したがって、プリプレグ製造時に、炭素繊維束の配列を出来るだけ均一にして樹脂を含侵させることが好ましい。樹脂を炭素繊維束に含侵させることで、プリプレグ状態で輸送するときも炭素繊維束が樹脂で拘束されるため、配列が乱れにくくなる。樹脂が含浸される前の炭素繊維束の配列については、現在の技術常識の範囲で製造されたプリプレグ製造装置、とりわけ航空・宇宙分野向けに製造されたプリプレグ製造装置であれば、均一に配列することが可能といえるので、省略する。炭素繊維束に樹脂を含侵する段階が重要であるが、航空・宇宙分野向けに製造されたプリプレグ製造装置であれば、炭素繊維を均一に配列することが可能といえるので手段は限定しないが、ホットメルト法であることが好ましい。ホットメルト法とは、溶媒を用いずに、加熱により低粘度化し、樹脂を強化繊維に含浸させる方法である。加熱により低粘度化したマトリックス樹脂を直接強化繊維に含浸する方法、または、一旦マトリックス樹脂を離型紙などの上に塗布した樹脂フィルム付きの離型紙シートをまず作製し、次いで、これを強化繊維の両側あるいは片側から重ねて、加熱加圧してマトリックス樹脂を強化繊維に含浸させる方法などがある。後者の方法が、比較的樹脂含浸時に炭素繊維束の配列を乱さずに含浸できるため好ましい。
【0046】
本発明のプリプレグをホットメルト法にて製造する方法としては、1段含浸ホットメルト法、多段含浸ホットメルト法など、どの様な方法を用いても構わないが、多段含浸ホットメルト法、とりわけ2段含浸ホットメルト法で製造することがより好ましい。ここで、1段含浸ホットメルト法とは、本発明の構成要素[Bp]、[Cp]および[Dp]を含む樹脂フィルムを、構成要素[A]の両側あるいは片側から加熱加圧することにより、1段階で含浸させる方法である。次に、多段含浸ホットメルト法とは、マトリックス樹脂となる原料を多段階に分けて、構成要素[A]の両側あるいは片側から加熱加圧することにより含浸させる方法である。多段含浸ホットメルト法では、多段階ホットメルトすることで、異なる種類のマトリックス樹脂が積層されたプリプレグを製造することが出来るが、積層の回数が増えるほど製造コストがかかる。そのため、複数の種類の樹脂を積層させることと製造コストの両方を考慮した場合、マトリックス樹脂となる原料を2段階に分けて、構成要素[A]の両側あるいは片側から加熱加圧することにより含浸させる、いわゆる2段含浸ホットメルト法がより好ましい方法である。2段含浸ホットメルト法の中でも、まず構成要素[Bp1]、[Cp1]および[Dp1]からなる1次樹脂フィルムを、構成要素[A]の両側あるいは片側から含浸させたプリプレグ前駆体(以降、1次プリプレグとする)を得た後、構成要素[Bp2]、[Cp2]、[Dp2]および[Ep]並びに必要に応じて[Fp]を含む2次樹脂フィルムを該プリプレグ前駆体の両側あるいは片側に貼付することでプリプレグを得ることがより好ましい。なお、構成要素[Bp]のうち1段階目に含浸させる樹脂を[Bp1]、2段階目に含浸させる樹脂を[Bp2]としており、他の構成要素についても同様である。1次樹脂フィルムを比較的低い粘度にして炭素繊維束に含浸させやすくさせるとともに、1次樹脂に構成要素[Ep]、[Fp]を含まない構成とすることで、炭素繊維束を乱さずに樹脂を含侵させることができ、その次に、[Ep]および必要に応じて[Fp]を含む2次樹脂フィルムを、1次樹脂が含浸された1次プリプレグの表面に貼り付けることで、炭素繊維束が均一に配列している好ましい形態のプリプレグを得ることができる。
【0047】
本発明のプリプレグをホットメルト法にて製造する場合、炭素繊維束に含浸させるマトリックス樹脂の粘度は、50℃において、0.1Pa・s以上100Pa・s以下であることが好ましい。ここでいう含浸させるマトリックス樹脂の粘度とは、2段含浸を含む多段含浸ホットメルト法の場合は、1次樹脂に相当するマトリックス樹脂の粘度のことである。含浸させる樹脂の粘度が低すぎると、樹脂が炭素繊維束の中に入っていく段階で、炭素繊維が流動して配列が乱れることがあるが、0.1Pa・s以上、さらには0.2Pa・s以上、0.5Pa・s以上とすることで、乱れていない均一な配列を保った(1次)プリプレグを製造出来る。一方で、粘度が高すぎると樹脂が炭素繊維束の表面から奥に入りづらくなることから、好ましくは100Pa・s以下、より好ましくは50Pa・s未満、さらには10Pa・s未満とすることで、プリプレグ状態で輸送しても炭素繊維束の配列が乱れない、さらには、CFRPとした際にボイドの発生を抑制することが出来るプリプレグを得ることができる。
【0048】
本発明のCFRPおよびプリプレグには、本発明の効果を妨げない範囲でフィラーを含むことも可能である。ここで、フィラーとは、炭素繊維の配列を乱さない程に径が小さい物であり、個別粒径が0.5μm未満のものと定義する。フィラーの径は、より小さい方が好ましく、その1次粒径の直径が200nm以下、さらには50nm以下であることが好ましい。フィラーの種類としては、シリカ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、クレー、カップリング剤、チタンなどの無機フィラー等を配合することができる。カーボンナノチューブの様に大きなアスペクト比を有するものについては、1次粒径の直径とは短径を意味する。これら直径は、走査型電子顕微鏡などで測定すればよい。
【0049】
4.本発明の効果および使用方法
本発明のCFRPは、上記したA項とB項を満たすことにより引張強度が高いことに特徴がある。樹脂の縦割れを抑制できることで、[A]炭素繊維束の中に極端に引張強度の低い炭素繊維が存在したとしても、周囲の炭素繊維で分散担持できるので、炭素繊維の持つ高い引張強度を有効に利用できると言い換えても良い。硬化条件などにもよるが、具体的には、炭素繊維の強度利用率が85%以上であるCFRPを得ることが可能であり、さらには95%以上、98%以上のCFRPを得ることも可能である。
【0050】
本発明のCFRPおよびプリプレグに用いられる[A]炭素繊維は、引張弾性率が高い方がCFRPの引張強度を高くすることができるため好ましいが、引張弾性率が高い[A]はコストも高くなる傾向にあるので、コストパフォーマンスが高い中程度の引張弾性率を有する炭素繊維に対し、強度利用率の高い本発明の特性を活用して、従来比で低コストのCFRPを製造することも出来る。基本的には、炭素繊維の引張弾性率は200GPa以上であると好ましく、230GPa以上であるとより好ましく、250GPa以上であるとさらに好ましい。引張弾性率の上限は特にないが、引張弾性率が高すぎると引張伸度が低下する傾向にあるので、440GPa以下、さらには400GPa以下であることが好ましい。また、2種類以上の[A]を用いることや、[A]と他の強化繊維を組み合わせて使うことも出来る。他の強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、PBO繊維、高強力ポリエチレン繊維、アルミナ繊維および炭化ケイ素繊維などが挙げられる。
【0051】
本発明のCFRPおよびプリプレグに用いられる[A]炭素繊維の引張伸度は、0.8%以上であると好ましく、1.0%以上であるとより好ましく、1.2%以上であるとさらに好ましい。[A]は、引張伸度が高いことで破断しにくくなるので、CFRPの縦割れの起点となりにくくなり、CFRPの引張強度が高くなる。また、高い引張伸度により、耐衝撃性も向上させることができる。引張伸度の上限は特にないが、高すぎると引張弾性率は低下する傾向にあるので、3.0%以下、さらには2.5%未満の範囲であることが好ましい。
【0052】
ここで、[A]炭素繊維の引張弾性率、引張伸度は、JIS R7601(2006)に従い測定された値である。
【0053】
本発明のCFRPおよびプリプレグに用いられる[A]炭素繊維は、一つの[A]束中のフィラメント数が1,000~50,000本の範囲であることが好ましい。フィラメント数が1,000本を下回ると、繊維配列が蛇行しやすく強度低下の原因となりやすい。フィラメント数は、より好ましくは2,500~40,000本の範囲であると特に航空・宇宙用途に好適である。
【0054】
[A]炭素繊維の市販品としては、“トレカ”(登録商標)T800S-24K、“トレカ”(登録商標)T800G-24K、“トレカ”(登録商標)T1100G-24K、“トレカ”(登録商標)クロスCO6343(炭素繊維:T300-3K)、“トレカ”(登録商標)クロスCK6244C(炭素繊維:T700S-12K)などが挙げられる。
【0055】
本発明のCFRPおよびプリプレグ中の[A]炭素繊維の質量割合は、炭素繊維の比強度と比弾性率を活用し、高い引張強度を得るために、60質量%以上であることが好ましく、62質量%以上であることがより好ましく、65質量%以上であることがさらに好ましい。また、[A]の質量割合が多すぎると[A]束内にボイドが発生して縦割れの起点となる傾向があるため、ボイドを抑制するために、80質量%以下であることが好ましく、75質量%未満であることがより好ましく、70質量%未満であることがさらに好ましい。
【0056】
本発明のCFRPは、[A]炭素繊維の持つ引張強度を高い利用率で活用できるが、炭素繊維が一方向に配列されたものである場合、かかる引張強度特性は0°引張強度測定にて評価できる。CFRPでの0°引張強度は[A]炭素繊維の引張強度によって変動し、本発明時点の[A]炭素繊維を使用したとして2,850MPa以上、さらには2,950MPa以上、さらには3,050MPa以上の高い性能を有するものを製造できる。CFRPの0°引張強度に際しては、JIS K7017(1999)に記載されているとおり、一方向CFRPの繊維方向を軸方向とし、その方向を0°軸と定義し、軸直交方向を90°と定義する。JIS K7073(1988)の規格に準じて0゜引張試験を室温(23℃)にて行って、かかる引張強度が得られる。
【0057】
本発明のCFRPは、高い耐衝撃性を有するものとできる。従来技術に係るCFRPも、耐衝撃性の向上のためにエポキシ樹脂に不溶な熱可塑性樹脂粒子が配合されており、衝撃が加えられたときにこの粒子が変形することで高い耐衝撃性を有している。一方、本発明のCFRPでは、熱可塑性樹脂粒子[Ec]は、引張強度を向上させる効果を主目的で配合するものであるが、配合量等の調整により、現状の航空・宇宙用途で求められる耐衝撃性を持たせることができる。また、より高い耐衝撃性が必要な場合でも、粒子[Fc]として、耐衝撃性向上に特化した粒子を加えることもでき、高い耐衝撃性を備えるCFRPを得ることができる。ここでいう耐衝撃性は、衝撃後圧縮強度(以下、CAIと略する)にて評価することが可能である。本発明にて、CFRPのCAIはJIS K 7089(1996)に従って試験片の厚さ1mmあたり6.7Jの衝撃エネルギーを付与した後のCAIである。CAIは高ければ高いほど良いが、230MPa以上であることが好ましく、280MPa以上であるとより好ましい。
【0058】
本発明のCFRPは高い0°圧縮強度を有するものとできる。CFRPの0°圧縮強度は1600MPa以上であることが好ましく、1700MPa以上であることがより好ましく、1900MPa以上であることがさらに好ましい。PALSで得られる自由体積半径とその存在確率から得られる分布曲線において、上記の範囲とすれば圧縮応力に対して変形しにくくなり、圧縮強度が向上する。
【0059】
本発明のプリプレグの形態は、一方向プリプレグでも、織物プリプレグのいずれでもよい。
【0060】
本発明のプリプレグを構成する[A]炭素繊維は、通常、束として存在し、一方向に配列したものが好ましく、単位面積あたりの質量が120g/m以上であることが好ましく、190g/m以上であることがより好ましく、250/m以上であることがさらに好ましい。CFRPは、複数のプリプレグを積層した後に硬化して得ることができるが、プリプレグ1枚当たりの炭素繊維量が多いと積層回数が少なくて済み、成形加工時のコストを下げることができる。また、例えば、190g/mのプリプレグを24枚積層する場合と、380g/mのプリプレグを12枚積層する場合では、炭素繊維層同士の層間の1層あたりの厚みは、ボイドなどの影響のため、後者の方が厚くなる傾向にある。その場合、層間の粒子による厚み変動が生じやすいため、その様な炭素繊維束の質量が多いプリプレグを用いる場合には、本発明の構成はより有用であると言える。[A]の単位面積あたりの質量の上限については特に限定しないが、炭素繊維の束量が少ない方がドレープ性(積層時やスリット加工時に屈曲しやすいこと)が優れる傾向が有り、1,200g/m以下であることが好ましく、600g/m未満であることがより好ましく、400g/m未満であることがさらに好ましい。
【0061】
本発明のプリプレグは、公知の方法で所定の幅に切り分けることでテープ状もしくは糸状にして使用できる。これらのテープや糸状のプリプレグは、自動積層装置に好適に用いられる。プリプレグの切断は、一般的に用いられているカッターを用いて行うことができる。例えば、超硬刃カッター、超音波カッターや丸刃カッター等が挙げられる。本発明のCFRPは、前記本発明のプリプレグを所定の形態で積層した後、加熱して樹脂を硬化させることにより得ることができる。ボイドを抑制し均一な硬化体を得る観点から、成形中に加圧することが好ましい。ここで、熱および圧力を付与する方法としては、オートクレーブ成形法、プレス成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法、内圧成形法等公知の方法を用いることができる。
【0062】
本発明のCFRPおよびプリプレグは、耐衝撃性や圧縮特性に優れるとともに、従来以上の引張強度を得ることができるため、スポーツ用品用途、自動車用途とともに、とりわけ航空・宇宙分野の機体軽量化に貢献できる。
【0063】
以上に記した数値範囲の上限及び下限は、任意に組み合わせることができる。
【実施例0064】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、組成比の単位「部」は、特に注釈のない限り質量部を意味する。また、各種特性(物性)の測定は、特に注釈のない限り温度23℃、相対湿度50%の環境下で行った。
<実施例で用いた材料>
[A]炭素繊維
・“トレカ(登録商標)”T800G-24K-31E(繊維数24000本、引張弾性率:5.9GPa、引張伸度2.0%)東レ(株)製
[Bp]エポキシ樹脂
・“アラルダイト(登録商標)”GY282(ビスフェノールF型エポキシ樹脂[BisF])ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ(株)製
・“アラルダイト(登録商標)”MY721(テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン[TGDDM])ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ製
・“アラルダイト(登録商標)”MY0600(トリグリシジル-m-アミノフェノール[TGMAP])ハンツマン・アドバンスト・マテリアルズ社製
・GAN(N-ジグリシジルアニリン[GAN])日本化薬(株)製
・“TOREP”A-204E(ジグリシジル-p-フェノキシアニリン[TOREP])東レ・ファインケミカル(株)製
[Cp]芳香族ポリアミン化合物
・“セイカキュア(登録商標)”S(4,4’-ジアミノジフェニルメタン[4,4’-DDS])セイカ(株)製。
[Dp]ポリアリールエーテル骨格で構成される熱可塑性樹脂
・“Virantage (登録商標)”VW-10700RP(ポリエーテルスルホン[PES])Solvay Advanced Polymers(株)製
[Ep]Tmを示さないか、185℃未満の熱可塑性樹脂粒子
・“オルガソール(登録商標)”2002D(PA12)ATOCHEM(株)製
・ナイロン粒子 SP‐10、東レ(株)製
・以下の方法で製造したエポキシ改質ポリアミド(以下、EPAとする場合がある):グリルアミド(登録商標)”TR55、エムスケミー・ジャパン(株)製90質量部、エポキシ樹脂(“jER(登録商標)”828、三菱化学(株)社製)7.5質量部および硬化剤(“トーマイド(登録商標)”#296、(株)ティーアンドケイ東華製)2.5質量部を、クロロホルム300質量部とメタノール100質量部の混合溶媒中に添加して均一溶液を得た。次に、得られた均一溶液を塗装用のスプレーガンを用い、撹拌している3000質量部のn-ヘキサンの液面に向かって霧状に吹き付けて溶質を析出させた。析出した固体を濾別し、n-ヘキサンで良く洗浄した後に、100℃の温度で24時間の真空乾燥を行い、球状のセミIPN構造を有するエポキシ改質ポリアミド粒子を得た。
[Fp]無機粒子もしくは、Tmが185℃以上の熱可塑性樹脂粒子
“オルガソール(登録商標)”1002D(PA6)ATOCHEM(株)製
・フェノール樹脂の粒子(マリリンHFタイプ、群栄化学工業(株)製)を2000℃で焼成し、分級をして得られた導電性粒子[CP](成分:カーボン、数平均粒径:26μm)
[第1の樹脂の調製]
混練装置内で、表1に記載の[Bp1]と[Dp1]を加えて加熱・攪拌し、[Dp1]が[Bp1]に溶解するまで混練した。その後、加熱を止めて降温しながら攪拌し、温度が60℃程度になってから[Cp1]を加えて30分程度攪拌することで第1の樹脂を得た。
[第2の樹脂の調製]
混練装置内で、表1に記載の[Bp2]と[Dp2]を加えて加熱・攪拌し、[Dp2]が[Bp2]に溶解するまで混練した。その後、加熱を止め、[Ep]と[Fp] を加えて降温しながら攪拌し、続いて温度が60℃程度になってから[Cp2]を加えて30分程度攪拌することで第2の樹脂を得た。
[樹脂フィルムの作製]
ナイフコーターを用いて、第1の樹脂を、樹脂量が30g/mとなるように離型紙上に塗布することで、1次樹脂フィルムを各実施例・比較例あたり2枚作製した。また、第2の樹脂についても同様にして樹脂量20g/mの2次樹脂フィルムを各例あたり2枚作製した。
[二段含浸プリプレグの作製]
目付190g/mのシート状に一方向に配列させた炭素繊維の両面から1次樹脂フィルムを重ね、加熱および加圧により第1の樹脂を炭素繊維に含浸させて1次プリプレグを作製した。続いて、2次樹脂フィルムを、1次プリプレグの両面から重ねて、加熱および加圧して2次樹脂フィルムを1次プリプレグに積層した、二段含浸プリプレグを作製した。
[樹脂板の作製]
混練装置内で、表1に記載の[Bp1]と[Dp1]を加えて加熱・攪拌し、[Dp1]が[Bp1]に溶解するまで混錬した。その後、[Cp1]を加えて攪拌することでマトリックス樹脂を得た。このマトリックス樹脂を真空中で脱泡した後、2mm厚のテフロン製スペーサーにより厚み2mmになるように設定したモールド中で表1に記載の硬化条件で硬化させた。ここで、[Bp2][Cp2][Dp2]から構成される樹脂板を作製するときは、上記[Bp1]などを[Bp2]などに置き換えて、同様に作製すればよい。
[硬化条件1]
オートクレーブを用いて、昇温速度2℃/分で室温から温度180℃まで昇温し、180℃で圧力6kg/cmを2時間維持して硬化させた。
[硬化条件2]
オートクレーブを用いて、昇温速度1℃/分で室温から温度130℃まで昇温し6kg/cmを2時間維持した後、昇温速度2℃/分で温度130℃から180℃まで昇温し180℃で6kg/cmを1時間維持して硬化させた。
(1)CFRPの0°引張強度測定(以下、単に「引張強度」ということがある。)
各例で製造したプリプレグを所定の大きさにカットし、炭素繊維の長手方向を0°と規定し、[+45/0/-45/90°]を基本として2回繰り返した積層体2つを対称に積層し、合計16plyの疑似等方予備積層体とした。これを真空バッグし、オートクレーブを用いて表1の条件で硬化させCFRPを得た。この積層板を幅12.7mm、長さ230mmにカットし、両端に1.2mm、長さ50mmのガラス繊維強化プラスチック製のタブを接着し試験片を得た。このようにして得られた試験片について、インストロン社製万能試験機を用いてクロスヘッドスピード1.27mm/minで引張試験を行った。
(2)CFRPの0°圧縮強度測定(以下、単に「圧縮強度」ということがある。)
各例で製造したプリプレグを所定の大きさにカットし、一方向に6枚積層した後、真空バッグを行い、オートクレーブを用いて、温度180℃、圧力6kg/cm、2時間で硬化させ、一方向繊維強化複合材料を得た。この一方向強化材をSACMA-SRM 1R-94に準拠してタブを接着した後、0°方向を試験片の長さ方向として、長さ80mm、幅15.0mmの矩形試験片を切り出した。得られた0°方向圧縮試験片をSACMA-SRM 1R-94に準拠し、材料万能試験機(インストロン・ジャパン(株)製、“インストロン(登録商標)”5565型P8564)を用いて、試験速度1.27mm/minで圧縮試験を実施した。サンプル数はn=5とした。
(3)CFRPの衝撃後圧縮強度測定(以下、単に「耐衝撃性」ということがある。)
各例で製造したプリプレグを所定の大きさにカットし、炭素繊維の長手方向を0°と規定し、[+45°/0°/-45°/90°]を基本として3回繰り返した積層体2つを対称に積層し、合計24plyの疑似等方予備積層体とした。これを真空バッグし、オートクレーブを用いて表1の条件で硬化させCFRPを得た。得られたCFRPから、縦150mm×横100mmの矩形試験片を切り出し、試験片の中心にJIS K 7089(1996)に従って試験片の厚さ1mmあたり6.7Jの落錘衝撃を与えた後、JIS K 7089(1996)に従い残存圧縮強度を測定した。測定は6回行い、平均値を衝撃後圧縮強度(CAI)(MPa)とした。
(4)[Ec]粒子のアスペクト比
各例で得られたCFRP5枚について、それぞれ任意の位置を選択して得られた厚み方向の断面を、走査型電子顕微鏡を用いて、200~1,000倍程度に拡大して観察することで断面画像を1ずつ得た。1の断面画像において、層間に存在し、中心付近にある熱可塑性樹脂粒子について、同顕微鏡付属の測長ツールを用いて、粒子の中心を通る対角線のうち最も長く引ける直線の長さを長径とし、長径を示す直線に対し粒子の中心を通って垂直に引ける対角線の長さを短径とした。続いて、測定した中心付近の粒子と同じ層間に存在し、その粒子から近い位置にある粒子19個について同じように測定し、残りの4断面についても同じ測定をすることで、100個の粒子の長径、短径を得た。
【0065】
次に、100個の粒子の(長径÷短径)の値が1.1以上のものを数えることで、[Ec]粒子のアスペクト比1.1以上の割合(%)を算出した。
(5)[Fc]粒子のアスペクト比
(4)で得た走査型電子顕微鏡の画像について、エネルギー分散型X線分析装置による元素分析にて[Ec]と異なる元素構成を有する粒子を選定し、走査型電子顕微鏡付属の測長ツールを用いて、粒子の中心を通る対角線のうち最も長く引ける直線の長さを長径とし、長径を示す直線に対し粒子の中心を通って垂直に引ける対角線の長さを短径とし、(長径÷短径)が1.05未満のものがあれば、[Fc]とした。
(6)層間に含有される[Ec][Fc]粒子の割合
(4)で得た走査型電子顕微鏡の画像について、90度層(CFの断面が観察できるCF層)と90度層に接する片方の層間の[Ec][Fc]それぞれについて粒子の面積を検出し、(層間に存在する粒子の面積)÷(層間に存在する粒子+90℃層に存在する粒子の面積)×100で算出される値(面積%)を層間に含有される粒子の割合とした。
(7)[Ep][Fp]粒子のD10、D50、D90
粒子濃度が約0.1質量%になるよう、[Ep]または[Fp]の粒子を蒸留水に投入し、超音波処理により分散させた。この分散液を、レーザー回折式粒度分布計(SALD―2100:株式会社島津製作所製)を用いて、体積基準の粒子径分布を測定した。粒子径の検出範囲は1~100μmとし、この範囲を50分割する設定とした。縦軸に体積換算の相対粒子量、横軸に粒径の対数をとり、各プロットを直線で繋いだ粒子径分布チャートを得た。この粒子径分布チャートにおいて個別粒径の頻度の累積が10%、50%、90%となったときの粒子径を粒子のD10、D50、D90とした。
(8)[Bp]、[Cp]、[Dp]のゴム状態弾性率
[樹脂板の作製]にて作製した樹脂板から、幅12.7mm、長さ45mmの試験片を切り出し、JIS K7244-7(2007)に従い、動的粘弾性測定装置(ARES:TAインスツルメント社製)を用い、固体ねじり治具に試験片をセットし、昇温速度5℃/分、周波数1Hz、歪み量0.1%にて30~300℃の温度範囲について測定を行った。得られた貯蔵弾性率と温度のグラフにおいて、270℃における貯蔵弾性率をゴム状態弾性率とした。
(9)陽電子ビーム法による陽電子消滅寿命測定(PALS)
陽電子ビーム法を用いて測定を行った。各例で得られたCFRPもしくは樹脂板を減圧・室温で乾燥させ、1.5cm×1.5cm角に切断し、ミクロトームにて薄膜にして検査試料とした。なお、CFRPならば炭素繊維周辺、樹脂板ならば1次樹脂などのCFRPにしたときに炭素繊維付近にくる樹脂を測定できるように場所を選んだ。陽電子ビーム発生装置を装備した薄膜対応陽電子消滅寿命測定装置(この装置は、例えば、Radiation Physics and Chemistry,58,603,Pergamon(2000)で詳細に説明されている)にて、ビーム強度3keV、室温、真空下で、光電子増倍管を使用して二フッ化バリウム製シンチレーションカウンターにより総カウント数500万で検査試料を測定し、POSITRONFITにより解析を行って分布曲線を得た。得られた分布曲線のピークトップを平均孔半径、得られた孔半径について最大値から降順に10万カウント目と最小値から昇順に10万カウント目の孔平均半径値の差をレンジとした。
(10)炭素繊維層の厚み均一性
(4)で得た走査型電子顕微鏡の画像について、+45度方向もしくは-45度方向の炭素繊維層の画像上端から下端に、同顕微鏡付属の測長ツールを用いて20μm間隔で50本の線を引き、その長さを測定した。このとき、炭素繊維層から数本程度で遊離して層間に移動しているものについては炭素繊維層に含めないこととした。得られた画像の最も右端にある線から5本分について、一番長い1本を除いた4本分について、合算して4で割ることにより、平均値を算出した。一番長い1本を除くのは、炭素繊維層から遊離した炭素繊維を算入してしまう可能性を減らすためである。続いて、画像の最も右端にある線から数えて6本目から10本目までの5本、11本目から15本目までの5本というように5本ずつ同様の操作を行い、同様に4本分の平均値を算出して、1画像につき10箇所、5画像で計50箇所についての平均値を算出し、その平均値50個を合算して50で割ることで炭素繊維層の平均厚みを算出した。(50箇所それぞれの平均値÷炭素繊維層の平均厚み)×100から得られる厚みの変動値(%)を50個得た。その50個の厚みの変動値のうちのの最大値が110%未満であり、かつ、厚みの変動値の最小値が95%以上であるものを◎とし、同様に厚みの変動値の最大値が130%未満、かつ、厚みの変動値の最小値が平均厚みの85%以上であって◎の要件は満たさないものを〇とし、◎もしくは〇のものを炭素繊維層の厚さが均一さであると判断した。
【0066】
(実施例1)
表1の実施例1に記載の樹脂組成で二段含浸プリプレグを製造した。つづいて、硬化条件1の方法で硬化することでCFRPを得た。
【0067】
自由体積のレンジは0.09nmであり、高い引張強度を有するCFRPであった。
(比較例1)
実施例1で得られたプリプレグを硬化条件2で硬化した以外は、同様の成形条件でCFRPを得た。
【0068】
自由体積のレンジは0.07nmであり、硬化速度が低速であることでエポキシ樹脂の3次元網目構造が均一構造を有していると思われ、引張強度に劣るCFRPであった。
(比較例2)
表1の比較例2に記載の樹脂組成で二段含浸プリプレグを製造した。つづいて、硬化条件1の方法で硬化することでCFRPを得た。
【0069】
自由体積のレンジは0.07nmであり、非対称エポキシを含まないことでエポキシ樹脂の3次元網目構造が均一構造を有していると思われ、引張強度に劣るCFRPであった。
(比較例3)
比較例2で得られたプリプレグを硬化条件2で硬化した以外は、同様の成形条件でCFRPを得た。
【0070】
自由体積のレンジは0.07nmであり、非対称エポキシを含まず、さらに硬化速度が低速であることからエポキシ樹脂の3次元網目構造が均一構造を有していると思われ、引張強度に劣るCFRPであった。
(比較例4)
表1の比較例4に記載の樹脂組成で二段含浸プリプレグを製造した。つづいて、硬化条件1の方法で硬化することでCFRPを得た。
【0071】
層間強化粒子が炭素繊維層に浸入して炭素繊維の配列を乱しており、かつ、層間に含有している層間強化粒子は85%と少なく、引張強度と耐衝撃性がともに劣るCFRPであった。
(比較例5)
表1の比較例5に記載の樹脂組成で二段含浸プリプレグを製造した。つづいて、硬化条件1の方法で硬化することでCFRPを得た。
【0072】
層間強化粒子のアスペクト比が1.1以上の粒子の割合が0%であり、図6のように炭素繊維層が厚み方向で乱れており、引張強度に劣るCFRPであった。
(実施例2)
表1の実施例2に記載の樹脂組成で二段含浸プリプレグを製造した。つづいて、硬化条件1の方法で硬化することでCFRPを得た。
【0073】
自由体積のレンジは0.09nmであり、高い引張強度を有するとともに、高い耐衝撃性を有するCFRPであった。
(実施例3)
表1の実施例3に記載の樹脂組成で二段含浸プリプレグを製造した。つづいて、硬化条件1の方法で硬化することでCFRPを得た。
【0074】
自由体積のレンジは0.09nmであり、高い引張強度を有するとともに、高い耐衝撃性を有するCFRPであった。
(比較例6)
表1の比較例6に記載の樹脂組成で二段含浸プリプレグを製造した。つづいて、硬化条件1の方法で硬化することでCFRPを得た。 自由体積のレンジは0.07nmであり、硬化速度が低速であることでエポキシ樹脂の3次元網目構造が均一構造を有していると思われ、引張強度に劣るCFRPであった。
(実施例4)
表1の実施例4に記載の樹脂組成で二段含浸プリプレグを製造した。つづいて、硬化条件1の方法で硬化することでCFRPを得た。
【0075】
自由体積のレンジは0.09nmであり、高い引張強度を有するとともに、高い耐衝撃性を有するCFRPであった。
(比較例7)
表1の比較例7に記載の樹脂組成で二段含浸プリプレグを製造した。つづいて、硬化条件1の方法で硬化することでCFRPを得た。
【0076】
層間強化粒子が炭素繊維層に浸入して炭素繊維の配列を乱しており、かつ、層間に含有される層間強化粒子は81%と少なく、引張強度が劣るCFRPであった。
(実施例5)
表1の実施例5に記載の樹脂組成で二段含浸プリプレグを製造した。なお、エポキシ改質ポリアミド粒子は、分級して小粒径の粒子を除いて使用した。つづいて、硬化条件1の方法で硬化することでCFRPを得た。
【0077】
自由体積のレンジは0.09nmであり、高い引張強度を有するCFRPであった。
(実施例6)
表1の実施例6に記載の樹脂組成で二段含浸プリプレグを製造した。なお、エポキシ改質ポリアミド粒子は、分級して小粒径の粒子を除いて使用した。つづいて、硬化条件1の方法で硬化することでCFRPを得た。
【0078】
自由体積のレンジは0.09nmであり、高い引張強度を有するCFRPであった。
【0079】
【表1】
【符号の説明】
【0080】
1・・・[A]炭素繊維
2・・・[Fc]長径と短径の比が1.05未満の粒子
3・・・炭素繊維層の間の層間
4・・・[Ec]熱可塑性樹脂粒子
5・・・炭素繊維層に移動している粒径が小さい粒子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9