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特開2023-147963ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体を主成分とする粒子および溶媒を含む組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147963
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体を主成分とする粒子および溶媒を含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/08 20060101AFI20231005BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20231005BHJP
   C09D 123/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L23/08
C09D5/02
C09D123/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055770
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 美月
(72)【発明者】
【氏名】今津 直樹
(72)【発明者】
【氏名】小田島 智幸
(72)【発明者】
【氏名】若原 葉子
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002BB031
4J002BB081
4J002BB091
4J002BB151
4J002BB171
4J002BB191
4J002BB211
4J002BG071
4J002CD191
4J002EC036
4J002FA081
4J002FD206
4J002GH00
4J002GT00
4J038CB031
4J038KA20
4J038MA07
4J038MA08
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA17
4J038PB09
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】小径で均一な粒径、かつ溶融粘度の大きいポリエチレン粒子および溶媒を主成分とする組成物を提供する。
【解決手段】ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体を主成分とする粒子、および溶媒を含む、(I)~(II)の特徴を有する組成物。
(I)粒子の数平均粒子径(D50)が0.06μm以上2.5μm以下であり、10%径(D10)が0.06μm以上である。
(II)粒子を構成するポリマーの190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.3g/10min以上2000g/10min以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体を主成分とする粒子、および溶媒を含む、以下(I)~(II)の特徴を有する組成物。
(I)粒子の数平均粒子径(D50)が0.06μm以上2.5μm以下であり、10%径(D10)が0.06μm以上である。
(II)粒子を構成するポリマーの190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.3g/10min以上2000g/10min以下である。
【請求項2】
固形分濃度が0.1質量%超50質量%以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記溶媒が水、またはアルコールのいずれか、またはそれらの混合物である、請求項1または2のいずれかに記載の組成物。
【請求項4】
前記ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体が、エチレンのみの重合体、またはエチレンおよびαオレフィンのみから成る共重合体のいずれかである、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
前記ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体が、エチレンとグリシジル(メタ)アクリレートの共重合体である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
塗材として使用される請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
フィルムコーティング用の塗材として使用される請求項1~6のいずれかに記載の組成物。
【請求項8】
バッテリーセパレータフィルムの塗材として使用される請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体を主成分とする粒子および溶媒を含む組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンを主成分とする粒子は、その熱特性や優れた耐水性および耐薬品性を活かして、コーティング剤や接着剤、樹脂添加剤等として使用されている。コーティング用途において、粒子は溶媒等と混合して組成物として使用されることが多く、金属や樹脂フィルムなど多種多様な基材に対する塗材として用いられている(例えば特許文献1および2を参照)。近年、二次電池の安全装置として、電池が異常発熱した際にセパレータフィルムの一部をセパレータフィルム全体が溶融する温度のより低温側で段階的に溶融させ、熱暴走が開始する温度領域に至る前にセパレータフィルムの孔を閉塞し電流を遮断するシャットダウン性の付与が検討されている。多孔質基材の表面にポリエチレンなどのポリオレフィンを主成分とする有機粒子をコーティングすることによりシャットダウン性を発現させる技術が提案されている(例えば特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-059869号公報
【特許文献2】特開2004-051661号公報
【特許文献3】特開平9-219185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年バッテリーセパレータフィルムへの薄膜化要求が加速しており、バッテリーセパレータフィルムのコーティング層を薄膜化するために、塗材に含まれる粒子の小径化が求められている。しかしながら、一般に市販の上記粒径を満たすポリエチレン粒子分散液には微粒も含まれている。そのため、バッテリーセパレータフィルム等の多孔質フィルムへ塗工した際に表面開口部へ詰まりやすい懸念がある。また、従来の粒子では加熱溶融時に多孔質構造中へ浸透する傾向が強く、薄膜塗工時にはセパレータの孔を完全に閉塞できずにシャットダウン性能を発現できない懸念がある。したがって、本発明は、小径で均一な粒径、かつ溶融粘度の大きいポリエチレン粒子および溶媒を主成分とする組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体を主成分とする粒子、および溶媒を含む、(I)~(II)の特徴を有する組成物である。
(I)粒子の数平均粒子径(D50)が0.06μm以上2.5μm以下であり、10%径(D10)が0.06μm以上である。
(II)粒子を構成するポリマーの190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.3g/10min以上2000g/10min以下である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の組成物は、粒子の粒径が小さく均一であるため、各種基材上へのコーティングにより均一な薄膜を作製することが可能である。さらに、本発明の組成物をコーティングした多孔質フィルムを加熱すると、孔の無い均一な薄膜を多孔フィルム上に形成することが可能である。そのため、バッテリーセパレータフィルムへコーティングすることにより、シャットダウン性能を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0008】
本発明の組成物は、ポリエチレン、および/またはポリエチレン共重合体を主成分とする粒子、および溶媒を含む。
【0009】
(1)粒子の構成ポリマー
本発明の組成物に含まれる粒子は、ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体を主成分とする。本明細書において主成分とは、当該材質を構成する成分のうち80質量%以上含有される成分を指す。
本明細書におけるポリエチレンとは、エチレンのみを重合して得られる樹脂および、その樹脂を変性させたものである。例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、酸化ポリエチレン、ポリエチレンワックスなどが挙げられる。
ポリエチレンとしては、従前公知の方法で製造されたものや市販品を使用することができる。
具体的な市販されているポリエチレンとしては、例えば、エボリュー(三井化学社製)、エボリューH(三井化学社製)、ハイゼックスミリオン(三井化学社製)、リュブマー(三井化学社製)、サンワックス(三洋化成社製)、スミカセン(住友化学社製)、スミカセン-L(住友化学社製)、スミカセン-E(住友化学社製)、スミカセン-EP(住友化学社製)、エクセレン(住友化学社製)等が挙げられる。
本明細書におけるポリエチレン共重合体とは、エチレンと他の単量体成分との共重合体であり、他の単量体成分としては、αオレフィン、不飽和カルボン酸、不飽和ジカルボン酸無水物、不飽和カルボン酸エステル、酢酸ビニルなどが挙げられ、これらから選ばれる2種類以上を組み合わせて重合することも可能である。α-オレフィンとしては、エチレンと共重合可能であれば特に限定されず、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-ペンテン、1-ヘプテンなどが挙げられる。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、メチルマレイン酸、メチルフマル酸、メサコン酸、シトラコン酸、グルタコン酸などが挙げられ、不飽和ジカルボン酸無水物としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などが挙げられ、不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタアクリル酸2-エチルヘキシル、メタアクリル酸ヒドロキシエチル、メタクリル酸グリシジル、などが挙げられる。中でも、エチレン以外の他の単量体成分としてメタクリル酸グリシジルまたはアクリル酸グリシジルを用いると、多孔質フィルムとの接着性に優れた塗膜を形成できるため、好ましい。
上記のエチレン以外の単量体成分の共重合量は、ポリエチレンの特性を損なわない範囲であればよいが、共重合体構成単位の合計を100質量%としたとき、30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは、25質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは、15質量%以下である。上記が市販品として入手性に優れ使用しやすい。
ポリエチレン共重合体としては、市販品を使用することができる。具体的な市販されているポリエチレン共重合体としては、例えば、アドマー(三井化学社製)、ニュクレル(三井・ダウ ポリケミカル社製)、ボンドファースト(住友化学社製)、アクリフト(住友化学社製)、フサボンド(ダウ・ケミカル社製)、ロタダー(アルケマ社製)、エバフレックス(三井・ダウ ポリケミカル社製)などが挙げられる。
【0010】
本発明において、粒子を構成するポリマーの190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートは、0.3g/10min以上2000g/10min以下である。メルトフローレートが0.3g/10min未満であると、粒子溶融時の流動性が不足し多孔質基材上に孔の無い薄層を形成することができない。メルトフローレートが2000g/10minを超えると、粒子溶融時に多孔質基材への浸透性が高く、基材の孔を完全に閉塞することができない。メルトフローレートの上限値は、好ましくは1000g/10min以下である。メルトフローレートを1000g/10min以下とすることにより、粒子の溶融時の流動性と多孔質基材への浸透性のバランスが良くなる。メルトフローレートは、粒子を構成するポリマーの分子量や構造を適宜調整することで制御できる。
本発明において、粒子を構成するポリマーの融点の下限値は80℃以上であることが好ましく、90℃以上であることがより好ましい。上限値は、130℃以下であることが好ましく、125℃以下であることがより好ましく、120℃以下であることがさらに好ましい。ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体の融点を上記範囲とすることにより、粒子を加熱した際に溶融し孔の無い薄層を形成する温度を制御しやすくなる。ここで融点とは、後述する示差走査熱量測定(DSC)の1st Runで溶融/急冷した後に測定される、2nd Run昇温過程において検出される融点ピークトップの温度を指す。
粒子を構成するポリマーの重量平均分子量(Mw)の下限値は10,000以上であることが好ましく、50,000以上であることがより好ましく、100,000以上であることがさらに好ましい。上限値は、1,000,000以下であることが好ましい。重量平均分子量を上記範囲とすることにより、粒子の溶融時の多孔質基材への浸透性を制御しやすくなる。
【0011】
(2)粒子の特性
本発明の組成物に含まれる粒子の形状は特に限定されない。
本発明の組成物に含まれる粒子の数平均粒子径(D50)は0.06μm以上2.5μm以下である。D50が2.5μmを超えると、本組成物を多孔質基材上に薄膜塗工した際に隙間ができやすく、十分な効果が得られない。D50が0.06μm未満であると、多孔質基材上へ塗工した際に基材開口部への詰まりが発生する。下限は好ましくは0.08μm以上であり、上限は好ましくは2.0μm以下、さらに好ましくは1.5μm以下、特に好ましくは1.0μm以下である。数平均粒子径を上記範囲内とすることにより、粒子を5μm以下に塗工した際の、表面平滑性が向上する。
また、粒径の個数分布における10%径(D10)は0.06μm以上である。D10が0.06μm未満であると、本組成物を多孔質基材上へ塗工した際に開口部に詰まりが発生する。D10の下限値は好ましくは0.08μm以上であり、上限値は好ましくは2.5μm以下、さらに好ましくは2.0μm以下、より好ましくは1.5μm以下、特に好ましくは1.0μm以下である。D10が0.08μm以上であることにより、粒径の均一性が向上するため、塗膜の均一性がさらに向上する。D50が2.5μm以下であることにより、本組成物を多孔質基材上に薄膜塗工した際に発生する隙間が適度となる。
上記の範囲のD50およびD10を有する粒子は、例えば、晶析の方法で作製することができる。
【0012】
(3)溶媒
本明細書における溶媒は、ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体を主成分とする粒子の分散媒として成り立てばよく、粒子を構成するポリマーが溶解せず、膨潤しにくい溶媒であればよい。溶媒は単独の溶媒であっても混合溶媒であってもよい。例えば、水、アルコール類、ケトン類、DMSO、DMFなどが挙げられ、中でも、水、および/またはアルコール類を用いると、組成物中の粒子が膨潤せず粒子同士の接着を防止できることから好ましい。アルコール類としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタパノールなどが挙げられる。中でも、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノールは大気圧下での沸点が100℃以下のため、本発明の組成物を塗材として使用する場合に乾燥時間が短くなることから好ましい。2種類以上の溶媒を混合して用いる場合、その混合比率に制限はなく、任意の比率で混合することができる。
【0013】
(4)組成物
本発明の組成物には、上記の粒子および溶媒以外にも、本発明の課題を解決するのに支障のない範囲であれば、無機粒子などの他の成分を含んでいてもよい。特に、本組成物をバッテリーセパレータフィルムの塗材として使用した際に、電池のイオン透過性に影響を及ぼさない範囲であることが好ましい。
【0014】
本発明の組成物中の固形分濃度の下限は、好ましくは0.1質量%超、さらに好ましくは1質量%以上、特に好ましくは2質量%以上である。固形分濃度が前記下限値以上であることにより、組成物を塗工する際の乾燥時間が短縮できる。固形分濃度の上限は、好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。固形分濃度が前記上限値以下であることにより、組成物中の粒子の融着を抑制できる。
固形分濃度は、JIS K5601-1-2:2008に従い、組成物2.0gを140℃で加熱した残分から算出する。
【0015】
本発明の組成物中の、下記(i)~(iii)の成分の含有量の和は粒子(A)に対して1000ppm以下であることが好ましい。
(i)ナトリウムイオン、カリウムイオン
(ii)アンモニウムイオン
(iii)アミン化合物
アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、アミノエタノールアミン、N-メチル-N,N-ジエタノールアミン、イソプロピルアミン、イミノビスプロピルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、3-エトキシプロピルアミン、3-ジエチルアミノプロピルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、sec-ブチルアミン、プロピルアミン、メチルアミノプロピルアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、3-メトキシプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、ピリジン、ピペリジンなどが挙げられる。
【0016】
上記(i)の含有量を上記範囲内とすることで、本組成物をバッテリーセパレータフィルムの塗材として使用した際に電池のイオン透過性への悪影響を抑制できるため、少ないほど好ましく、実質含まないことが最も好ましい。また、上記(i)の含有量に、上記(ii)(iii)の成分の含有量を加えた和を上記範囲内とすることで、本組成物を塗材として使用する際に他成分と混合する際の分散性の悪化を抑制できるため、少ないほど好ましく、実質含まないことが最も好ましい。
【0017】
本発明の組成物に含まれる塩化物イオンの濃度も、本発明の組成物をバッテリーセパレータフィルムの塗材として使用した際のイオン透過性への影響を考慮して、1000ppm以下であることが好ましい。
【0018】
<粒子の製造>
本発明の組成物に含まれる粒子の製造方法は特に問わないが、例えば、乳化重合法、晶析、溶融させた樹脂を溶媒中で乳化させる方法、などが挙げられる。
晶析による粒子製造の方法としては、貧溶媒へポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体溶液を添加してポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体を析出させる方法などがあげられる。晶析後に、濾過、遠心分離、加熱濃縮などの公知の固液分離方法によりポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体のウェットケークを得た後、そのウェットケークを分散工程へ供することができる。このような固液分離と分散工程の繰り返しにより、組成物の溶媒を任意の溶媒へ置換することができる。
【0019】
本明細書において、貧溶媒とは、ポリエチレンおよび/またはポリエチレン共重合体を析出させることができる溶媒を指す。
【0020】
<組成物の用途>
本発明の組成物は、木材、金属、セラミック、炭素材料、ガラス、プラスチック等の基材に塗布し塗膜を形成することにより、表面特性を改質することができる。例えば、防錆、防水、耐溶剤性、を付与でき、フィルムの塗材として好適に用いられる。また、本発明の組成物中の粒子は、薄膜塗工可能であり、加熱時の造膜性と基材層への浸透抑制のバランスに優れることから、バッテリーセパレータフィルムへ塗工してシャットダウン性能を向上させることができる。
【実施例0021】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、これらの例のみに本発明が限定されるものではない。先ず、測定方法について説明する。
【0022】
(1)数平均粒子径(D50)
粒子の数平均粒子径(D50)は、走査型電子顕微鏡(FE-SEM、日本電子株式会社製JSM-6301NF)を用いて粒子を観察し、100個の粒子についてその直径(粒子径)を測長した算術平均値である。具体的には、粒子径のバラつきを反映した正確な数平均粒子径を求めるために、1枚の画像に2個以上100個未満の微粒子が写るような倍率で観察し、粒子径を測長する。続いて、100個の微粒子の粒子径につき、その算術平均を求めることで数平均粒子径を算出する。そのようなFE-SEMの倍率としては、粒子径にも依るが、100倍~5,000倍の範囲とすることができる。具体的に例示するならば、粒子の粒子径が0.1μm未満の場合は30,000倍、0.1μm以上1μm未満の場合は10,000倍、1μm以上3μm未満の場合は5,000倍、3μm以上5μm未満の場合は3,000倍以上、5μm以上10μm未満の場合は1,000倍以上、10μm以上50μm未満の場合は500倍以上、50μm以上100μm未満の場合は250倍以上、100μm以上200μm以下の場合は100倍以上である。なお、画像上で粒子が真円状でない場合(例えば楕円状のような場合)は、その最長径を粒子径として測定する。
【0023】
(2)10%粒子径(D10)
粒子の10%粒子径(D10)は、走査型電子顕微鏡(FE-SEM、日本電子株式会社製JSM-6301NF)を用いて粒子を観察し、100個の粒子についてその直径(粒子径)を測長した頻度の累積が10%となる粒子径として求めた。
具体的には、粒子径のバラつきを反映した正確な数平均粒子径を求めるために、1枚の画像に2個以上100個未満の粒子が写るような倍率で観察し、粒子径を測長した。続いて、下記式により100個の微粒子の粒子径につき、その算術平均を求めることで10%粒子径(D10)を算出した。なお、画像上で粒子が真円状でない場合(例えば楕円状のような場合)は、その最長径を粒子径として測定した。
【0024】
(3)メルトフローレート(MFR)
メルトインデクサ(東洋精機社製F-B01)を用いて、測定温度190℃、2160g荷重とし、JIS K7210-2014に準ずる方法で粒子を構成するポリマーのMFRを測定した。MFRが2000g/10minを超える場合は正確な測定が困難なため、測定不可とした。
【0025】
(4)重量平均分子量(Mw)
下記の方法で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定した。1,2,4-トリクロロベンゼン(和光純薬製)にブチルヒドロキシルトルエン(BHT)0.1%を添加し測定溶媒とした。試料5mgに測定溶媒5mLを添加し、160~170℃で約30分加熱攪拌した後、得られた溶液を金属フィルター(孔径0.5μm)にてろ過した。この試料0.200mLをガードカラム(“Shodex”(登録商標) G-HT)、カラム(“Shodex”(登録商標) HT806M、φ7.8mm×30cm、昭和電工製)を取り付けた高温GPC(HT-GPC、Polymer Laboratories製、PL-220、検出器:示差屈折率検出器RI)に注入し、流速1.0mL/min・カラム温度145℃にてポリオレフィンの分子量分布測定(重量平均分子量、分子量分布、所定成分の含有量などの測定)を行った。標準試料には単分散ポリスチレン(東ソー製)を用い、測定で得られたMwを基に下記式からMw(PE換算)を算出した。
Mw(PE換算)=Mw(PS換算測定値)×0.468。
【0026】
(5)粒子の融点
粒子を7mg秤量し、JIS K7121-1987に記載の手法に従って示差走査熱量計で測定した。室温から150℃まで昇温速度10℃/分で昇温し(1st Run)、150℃から室温まで降温速度10℃/分で降温したのち、室温から150℃まで昇温速度10℃/分で昇温した(2nd Run)。2nd Runの昇温測定から得られたDSCチャートから融解の吸熱ピークのピークトップ温度(℃)を融点として読み取った。
【0027】
(6)固形分濃度
JIS K5601-1-2:2008に従い、組成物2.0gを140℃で加熱した残分を測定し、粒子の濃度を算出した。
【0028】
(7)多孔質基材への塗工
ポリエチレン粒子を4時間攪拌した後にバーコーターを用いてオレフィン多孔膜 ”SETELA”(登録商標)(東レ社製、融点:135℃、厚み:9μm、透気抵抗:60s/100ml)に塗布し、50℃で1分間乾燥させて、表1に記載の塗工厚みを有する塗工層を積層した多孔性フィルムを得た。
【0029】
(8)多孔性フィルムの塗工層厚み
マイクロメーター(ミツトヨ社製)で測定した塗工後の厚みから基材厚みを引いて算出した値を、そのサンプルの塗工層厚みとした。塗工厚みは薄いほど好ましく、以下の3つの基準(S:5μm以下、A:5μm超10μm以下、B:10μm超)で判定した。
【0030】
(9)熱処理
外寸140mm×140mm、内寸100mm×100mm、厚み2mmのSUS製の金枠を準備した。この金枠の4辺すべてに日東電工社製の両面テープ(No.501F)を添付し、多孔性フィルムを金枠にたるみなく貼り付けた。この金枠に貼り付けた試料を熱風オーブンにて120℃に昇温完了した後10分加熱し、取り出したのち冷却して金枠の内寸に沿って熱処理後の多孔性フィルムを切り出してサンプルとした。
【0031】
(10)多孔性フィルムの透気度
未処理の多孔性フィルムの任意の箇所で100mm×100mmサイズの試料を切り出し25℃の環境下でn=5で透気度(分/100mL)を評価しG25とした。また、(9)の120℃で熱処理したサンプルについてもn=5で同様に評価を行い、G120を求めた。G25は小さいほど好ましく、以下の3つの基準(S:150分/100mL以下、A:150分/100mL超200分/100mL以下、B:200分/100mL超)で判定した。また、G120は大きいほど好ましく、以下の3つの基準(S:8万分/100mL以上、A:5万分/100mL以上8万分/100mL未満、B:5万分/100mL未満)で判定した。
【0032】
実施例1
エチレンーグリシジルメタクリレート共重合体(住友化学社製、MFR:3g/10mL、融点:101℃)0.9gをシクロヘキサン90gに60℃で溶解させ、ポリマー溶液を作製した。60℃の前記溶液を40℃の1-プロパノール230gを入れた粒子化槽へ滴下した。その粒子化液を減圧濃縮して溶媒の3分の1を留去した後、遠心分離により固液分離した。2-プロパノールを加えて再度遠心分離をする工程を繰り返し、最終的に2-プロパノールを加えて固形分濃度2.5質量%の組成物に調製した。得られた組成物のD50は0.24μm、D10は0.13μmであった。また、得られた組成物を用いて、上記(8)~(10)の評価を行った結果は表1に示す通りであった。なお、表1における各成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
・LDPE:低密度ポリエチレン
・PE-WAX:ポリエチレンワックス
・E-GMA:エチレンーグリシジルメタクリレート共重合体
・IPA:2-プロパノール。
【0033】
実施例2
粒子の原料を低密度ポリエチレン(住友精化社製、MFR:69g/10mL、融点:107℃)1.1gに変更し、原料を溶解する溶媒をトルエン110gに、貧溶媒をエタノール220gに変更したこと以外は、実施例1と同様にして組成物を得た。得られた組成物のD50は0.24μm、D10は0.14μmであった。得られた組成物を用いて、上記(8)~(10)の評価を行った結果は表1に示す通りであった。
【0034】
比較例1~2
ポリエチレンワックス粒子の分散液(三井化学社製、固形分濃度:40質量%、D50:0.23μm、融点:87℃および107℃)を、固形分濃度が10質量%になるように水で希釈したものを用いて、上記(8)~(10)の評価を行った結果は表1に示す通りであった。粒子を構成するポリマーのMFRが大きい場合、薄膜塗工では多孔質基材の孔を完全に閉塞できないことが分かる。
【0035】
比較例3~4
低密度ポリエチレン粒子(住友精化社製、D50:6.55μm、融点:107℃)を水と2-プロパノールの混合溶液(水/2-プロパノール=80/20質量%)に分散し、固形分濃度が10質量%の組成物を調製した。これを用いて上記(8)~(10)の評価を行った結果は表1に示す通りであった。なお、粒子のD50が5μm以上で大きいため、5μm以下の薄膜に塗工することはできなかった。さらに、10μmに塗工しても基材の孔を完全に閉塞できないことが分かる。
【0036】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明の組成物は、各種基材上へのコーティングにより均一な薄膜を作製することが可能である。さらに、本発明の組成物をコーティングした多孔質フィルムを加熱すると、孔の無い均一な薄膜を多孔フィルム上に形成することが可能である。そのため、特にリチウムイオン電池に用いられるセパレータフィルムの表面にシャットダウン層を形成するための塗材として適用することで、電池の高安全化への貢献が期待できる。