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  • 特開-内燃機関の制御装置 図1
  • 特開-内燃機関の制御装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023147997
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20231005BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F02D13/02 Z
F02D45/00 368A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055814
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】佐野 雅志
【テーマコード(参考)】
3G092
3G384
【Fターム(参考)】
3G092AA11
3G092DA08
3G092EB05
3G092FA06
3G092HC05Z
3G384BA26
3G384DA04
3G384EC06
3G384FA33Z
(57)【要約】
【課題】内燃機関の気筒の吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングの精確性を向上させる装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の気筒における振動の強度を、センサを介して検出し、前記センサの検出を参照して、設定した所定期間中に検出した振動を前記吸気バルブまたは前記排気バルブの閉弁と判定する内燃機関の制御装置を構成した。要するに、気筒の吸気バルブまたは排気バルブが閉じる際に生じる振動をセンサを介して検出し、その振動を検出したタイミングを基に、吸気バルブまたは排気バルブの実際の開閉タイミングを知得するのである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の気筒における振動の強度を、センサを介して検出し、前記センサの検出を参照して、設定した所定期間中に検出した振動を前記吸気バルブまたは前記排気バルブの閉弁と判定する、内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記センサは、内燃機関の気筒において惹起されるノッキングを検出するためのノックセンサであり、
前記所定期間は、前記気筒の吸気下死点から圧縮上死点までの間に設けられ、前記所定期間において検出した振動を、前記吸気バルブの閉弁と判定する、請求項1記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等に搭載される内燃機関の運転を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の気筒を備える4ストローク内燃機関では、各気筒が現在どの行程にあるのかを知得して、燃料噴射制御及び点火制御を実施する必要がある。内燃機関の運転制御を司る電子制御装置(Electronic Control Unit)は、内燃機関の出力軸であるクランクシャフトに付随するクランク角センサから出力されるクランク角信号、並びに、吸気バルブまたは排気バルブを駆動するカムシャフトに付随するカム角センサから出力されるカム角信号を受信し、それらを参照して各気筒の現在の行程を知得し、各気筒毎の行程に合わせた燃料噴射及び点火を実行する。
【0003】
クランク角センサは、クランクシャフトと一体となって回転するロータの回転角度をセンシングする。そのロータには、クランクシャフトの回転方向に沿った所定角度毎に、歯または突起が形成されている。典型的には、クランクシャフトが10°回転する毎に、歯または突起が配置される。クランク角センサは、ロータの外周に臨み、個々の歯または突起が当該センサの近傍を通過することを検知して、その都度クランク角信号としてパルス信号を発信する。
【0004】
尤も、クランクシャフトが一回転する間に三十六回のパルスを出力するわけではない。クランクシャフトのロータの歯または突起は一部欠けており、その欠歯部分に起因して、クランク角信号のパルス列もまた一部が欠損する。例えば、四番目、五番目、七番目、八番目、二十二番目及び二十三番目に該当するパルスが欠損している。この欠損を基にして、クランクシャフトの絶対的な角度(姿勢)を知ることが可能である。
【0005】
カム角センサは、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトと一体となって回転するロータの回転角度をセンシングする。そのロータには、カムシャフトの一回転を気筒数で割った角度毎に、歯または突起が形成されている。三気筒エンジンの場合、カムシャフトが120°回転する毎に、歯または突起が配置される。カムシャフトの回転速度は、クランクシャフトの二分の一である。故に、上記の歯または突起は、クランク角度に換算すれば240°CA毎に配置されていることになる。加えて、ロータには、追加的なカム角信号を発生させるための歯または突起が、240°CA毎の歯または突起の間に一つ設けられる。カム角センサは、ロータの外周に臨み、個々の歯または突起が当該センサの近傍を通過することを検知して、その都度カム角信号としてパルス信号を発信する。
【0006】
クランクシャフトとカムシャフトとの間に介在する巻掛伝動機構は、クランクシャフトに設けたクランクスプロケット(または、プーリ)と、カムシャフトに設けたカムスプロケット(または、プーリ)と、これらスプロケットに巻き掛けるタイミングチェーン(または、ベルト)とを要素とする。位相可変型の可変バルブタイミング(Variable Valve Timing)機構は、カムシャフトをカムスプロケットに対し相対的に回動させることを通じて、カムシャフトのクランクシャフトに対する回転位相を変化させ、以て吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングを変更する。カム角信号は、VVT機構が具現するバルブタイミングをも表している(以上、下記特許文献を参照)。
【0007】
タイミングチェーンは、経年変化により伸びることがある。また、タイミングチェーンをクランクスプロケット及びカムスプロケットに巻き掛ける際、チェーンがスプロケットの正しい歯に掛けられず、クランクスプロケット及びカムスプロケットの各々の位相が本来想定されている位相からずれることもあり得る。加えて、VVT機構を含む各部材の公差、個体差もある。
【0008】
VVT機構を制御して所望のバルブタイミングを実現するためには、VVT機構が基準となる初期位置にあるときのクランク角信号とカム角信号との位相差を正しく認識しておく必要がある。だが、タイミングチェーンの伸びや掛け違い等により、VVT機構が初期位置にあるときのクランク角信号とカム角信号との位相差は一定とならない。このため、クランク角信号及びカム角信号に基づく、現在VVT機構が具現しているバルブタイミングは、恒常的に精確であることが保証されていない。となれば、燃料噴射や火花点火を最適なタイミングで実行できず、燃費性能の低下やエミッションの悪化を招くおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2018-172967号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、内燃機関の気筒の吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングの精確性を向上させる装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、内燃機関の気筒における振動の強度を、センサを介して検出し、前記センサの検出を参照して、設定した所定期間中に検出した振動を前記吸気バルブまたは前記排気バルブの閉弁と判定する内燃機関の制御装置を構成した。
【0012】
より具体的には、前記センサは、内燃機関の気筒において惹起されるノッキングを検出するためのノックセンサであり、前記所定期間は、前記気筒の吸気下死点から圧縮上死点までの間に設けられ、前記所定期間において検出した振動を、前記吸気バルブの閉弁と判定することとする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内燃機関の気筒の吸気バルブまたは排気バルブの開閉タイミングの精確性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態における車両用内燃機関及び制御装置の概略構成を示す図。
図2】同実施形態における内燃機関の各気筒の行程を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークガソリンエンジンであり、複数の気筒1(例えば、三気筒エンジン。図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気バルブよりも上流、各気筒1に連なる吸気ポートの近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を起こすものである。点火コイルは、半導体スイッチング素子であるイグナイタとともに、コイルケースに一体的に内蔵される。
【0016】
吸気を気筒1に供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、電子スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配設している。
【0017】
排気を気筒1から排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させたことで生じる排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配設している。
【0018】
排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置2は、排気通路4と吸気通路3とを連通する外部EGR通路21と、EGR通路21上に設けたEGRクーラ22と、EGR通路21を開閉し当該EGR通路21を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ23とを要素とする。EGR通路21の入口は、排気通路4における触媒41の下流の所定箇所に接続している。EGR通路21の出口は、吸気通路3におけるスロットルバルブ32の下流の所定箇所(特に、サージタンク33または吸気マニホルド34)に接続している。
【0019】
内燃機関では、クランクスプロケット(または、プーリ)、吸気側スプロケット(または、プーリ)並びに排気側スプロケット(または、プーリ)にタイミングチェーン(または、ベルト)を巻き掛け、このタイミングチェーンにより、クランクシャフトからもたらされる回転駆動力を、吸気側スプロケットを介して吸気カムシャフトに、排気側スプロケットを介して排気カムシャフトに、それぞれ伝達している。
【0020】
しかして、吸気側スプロケットと吸気カムシャフトとの間に、吸気VVT機構5を介設している。吸気VVT機構5は、クランクシャフトに対する吸気カムシャフトの回転位相を変化させることにより、各気筒1の吸気バルブの開閉タイミングを可変制御する(進角/遅角させる)既知のものである。VVT機構5の具体的態様は、作動液圧(油圧)でベーン及びカムシャフトを回動させる液圧式(ベーン式)のものであってもよく、電動機によりカムシャフトを回動させるモータドライブ式のものであってもよい。
【0021】
加えて、排気側スプロケットと排気カムシャフトとの間に、排気VVT機構を付設することもあり得る。排気VVT機構は、吸気VVT機構5と同様、クランクシャフトに対する排気カムシャフトの回転位相を変化させることにより、各気筒1の排気バルブの開閉タイミングを可変制御するものである。
【0022】
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。ECU0は、複数基のECUまたはコントローラが、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものであることがある。
【0023】
ECU0の入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(いわば、要求されるエンジン負荷率またはエンジントルク)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、内燃機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号d、気筒1に連なる吸気通路3(特に、サージタンク33またはサージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、気筒1を内包しているシリンダブロックの振動の大きさを検出する振動式のノックセンサから出力される振動信号f、吸気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号g、気筒1から排出され排気通路4を流れるガスの空燃比を検出する空燃比センサ(リニアA/FセンサまたはO2センサ)から出力される空燃比信号h等が入力される。なお、ノックセンサは、シリンダブロックにおける吸気通路3側に一個だけ設置している。
【0024】
ECU0の出力インタフェースからは、火花点火装置のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、スロットルバルブ32に対して開度操作信号k、EGRバルブ23に対して開度操作信号l、VVT機構5に対してバルブタイミングの制御信号m等を出力する。
【0025】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、気筒1に吸入される空気量に見合った要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する火花点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)、吸気バルブの目標開閉タイミング等といった各種運転パラメータを決定する。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、mを、出力インタフェースを介して印加する。
【0026】
ノックコントロールシステムに関して補足すると、ECU0は、ノックセンサが出力する振動信号fを参照して、各気筒1におけるノッキングの発生の有無を判定し、その判定結果に応じた点火タイミングの調整を行う。ECU0は、内燃機関1の気筒1またはシリンダブロックの振動の強度を示す振動信号fの現在のサンプリング値をノック判定値と比較し、前者が後者を上回ったならば、当該気筒1にてノッキングが起こったと判定する。翻って、振動信号fのサンプリング値がノック判定値以下であるならば、当該気筒1にてノッキングは起こっていないと判定する。
【0027】
気筒1におけるノッキングの発生を感知した場合には、以後ノッキングが起こらなくなるまで点火タイミングを徐々に遅角させる、換言すればベース点火タイミングに加味する遅角補正量を徐々に増大させる。他方、ノッキングの発生を感知していない場合には、ノッキングが起こらない限りにおいて点火タイミングを徐々に進角させ、即ちベース点火タイミングに加味する遅角補正量を減少させて、点火タイミングを可及的にMBT(Minimum advance for Best Torque)に近づけ、内燃機関の熱効率の向上を図る。このノッキングの有無の判定及び点火タイミングの遅角/進角補正は、気筒1毎に個別に行うことができる。
【0028】
しかして、本実施形態のECU0は、各気筒1の吸気バルブの開閉タイミングを、ノックセンサの出力信号fを参照して確認する。開いていた吸気バルブが閉じる、即ち吸気カムに押圧されていた吸気バルブのポペット弁体が押圧されなくなり、バルブスプリングにより弾性付勢されて弁座に衝突し着座すると、その衝撃に起因する振動が発生する。その振動をノックセンサにより感知することで、吸気バルブが閉じたタイミングを実測することが可能である。
【0029】
図2において、N1は第一気筒1の膨張行程中のノッキングの検出区間、N2は第二気筒1の膨張行程中のノッキングの検出区間、N3は第三気筒1の膨張行程中のノッキングの検出区間である。対して、T1は第一気筒1の吸気行程後の吸気バルブの閉弁タイミングの検出区間、T2は第二気筒1の吸気行程後の吸気バルブの閉弁タイミングの検出区間、T3は第三気筒1の吸気行程後の吸気バルブの閉弁タイミングの検出区間である。
【0030】
本実施形態では、吸気バルブを駆動するカムシャフトのクランクシャフトに対する回転位相を進角または遅角させることで吸気バルブの開閉タイミングを変化させるVVT機構5が付帯する内燃機関を制御する制御装置0であって、内燃機関の気筒1における振動の強度を、センサを介して検出し、センサの検出を参照することで、設定した所定期間T1、T2、T3中に検出した振動を吸気バルブの閉弁と判定する内燃機関の制御装置0を構成した。要するに、気筒1の吸気バルブが閉じる際に生じる振動をセンサを介して検出し、その振動を検出したタイミングを基に、吸気バルブの開閉タイミングを知得するのである。
【0031】
前記センサとしては、内燃機関の気筒1において惹起されるノッキングを検出するためのノックセンサを援用する。そして、気筒1の吸気下死点から同気筒1の圧縮上死点までの間に、同気筒1の吸気バルブが閉じる際に生じる振動を検出する期間T1、T2、T3を設定し、当該期間中に検出した振動のタイミングを基に、吸気バルブの閉弁タイミングを知得するようにしている。
【0032】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、排気バルブの閉弁タイミングについても、吸気バルブの閉弁タイミングと同様に、ノックセンサの出力信号fを参照して知得することが可能である。
【0033】
その他、各部の具体的な構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0034】
0…制御装置(ECU)
1…気筒
5…VVT機構
b…クランク角信号
f…振動信号
図1
図2