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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148030
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】人工歯群
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/097 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A61C13/097
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055852
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】木下 一弘
(72)【発明者】
【氏名】永冨 祐介
(57)【要約】      (修正有)
【課題】リンガライズドオクルージョンにおいて、義歯の安定性が高い人工歯群を提供する。
【解決手段】リンガライズドオクルージョンによる咬合様式である人工歯群であって、上顎側及び下顎側の人工歯のうち臼歯部に属する人工歯において、上顎側の人工歯11Aの頬側豊隆はリンガライズドオクルージョン咬合時に適切な豊隆を有する形態であり、中心咬合位で、上顎Aの人工歯の舌側咬頭が下顎Bの人工歯11Bの中心窩に嵌合し、上顎第一大臼歯の人工歯の舌側咬頭の幅をW、下顎第一大臼歯の人工歯の頬舌方向の小窩幅をWとしたとき、W/Wで表される比率が0.9以上1.22以下であり、下顎第一大臼歯の人工歯を咬合面からみたとき、咬合面の中で、頬・舌側咬頭頂を通り、頬・舌側縁や近・遠心辺縁隆線の尾根に囲まれる面積をS、小窩の縁で囲まれる面積をSとしたとき、S/Sで表される比率が0.85以上0.95以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上顎側、下顎側のそれぞれについて複数の人工歯を有し、前記上顎側と前記下顎側とはリンガライズドオクルージョンによる咬合様式である人工歯群であって、
前記上顎側及び前記下顎側の前記人工歯のうち臼歯部に属する前記人工歯において、
前記上顎側の前記人工歯の頬側豊隆はリンガライズドオクルージョン咬合時に適切な豊隆を有する形態であり、
中心咬合位で、前記上顎の前記人工歯の舌側咬頭が前記下顎の前記人工歯の中心窩に嵌合し、
前記上顎の第一大臼歯の前記人工歯の舌側咬頭の幅をW、前記下顎の第一大臼歯の前記人工歯の頬舌方向の小窩幅をWとしたとき、W/Wで表される比率が0.9以上1.22以下であり、
前記下顎の前記第一大臼歯の前記人工歯を咬合面からみたとき、咬合面の中で、頬・舌側咬頭頂を通り、頬・舌側縁や近・遠心辺縁隆線の尾根に囲まれる面積をS、前記小窩の縁で囲まれる面積をSとしたとき、S/Sで表される比率が0.85以上0.95以下である、
人工歯群。
【請求項2】
前記上顎の前記第一大臼歯の前記人工歯の舌側咬頭の成す角をθとし、前記下顎の前記第一大臼歯の前記人工歯の小窩の傾斜が成す角をθとしたとき、θ-θが15°以上32°以下である請求項1に記載の人工歯群。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は義歯を構成するための複数の人工歯を具備する人工歯群に関する。
【背景技術】
【0002】
義歯を構成する複数の人工歯を有する人工歯群には、1つの咬合形態としてリンガライズドオクルージョンがある。リンガライズドオクルージョンでは咬頭嵌合位(中心咬合位)及び偏心咬合位(側方咬合位、側方滑走運動後の姿勢)で、上顎臼歯の舌側咬頭のみが下顎臼歯に接触するように構成されている。これにより、咬合力が舌側に誘導されるため義歯が安定する、咀嚼効率が向上する、及び、側方咬合圧が正中寄りに加わるため義歯の転覆を予防できる、等の効果を奏するものとなる。そのため、例えば顎堤吸収の著しい全部床義歯患者に適用されることがある。
特許文献1、特許文献2にはフルバランスドオクルージョンの他にもリンガライズドオクルージョンに適用可能な人工歯群について開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-209406号公報
【特許文献2】特表2021-525592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リンガライズドオクルージョンは上顎臼歯の舌側咬頭のみを下顎臼歯の中心窩に咬合させる。しかしながら、一般的な人工歯を用いてリンガライズドオクルージョンで義歯を排列する場合、上顎臼歯の舌側咬頭のみを咬合するためには歯軸を傾ける必要があり、上顎頬側の咬頭頂付近は頬側に突出した形状となるため、頬側の側面(豊隆部)を削る必要があり、上顎頬側の歯頚部付近は凹んだ形状となり豊隆部が足りない状態になるため、審美性に加えて義歯の安定性の低下が問題となる。また、顎位や顎関節が安定しない症例では、上下の位置関係が1点に収束せずに不安定となり狭い咬合面の人工歯では対応できず問題となっていた。
【0005】
そこで本開示は、リンガライズドオクルージョンにおいて、義歯の安定性が高い人工歯群を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、上顎側、下顎側のそれぞれについて複数の人工歯を有し、上顎側と下顎側とはリンガライズドオクルージョンによる咬合様式である人工歯群であって、上顎側及び下顎側の人工歯のうち臼歯部に属する人工歯において、上顎側の人工歯の頬側豊隆はリンガライズドオクルージョン咬合時に適切な豊隆を有する形態であり、中心咬合位で、上顎の人工歯の舌側咬頭が下顎の人工歯の中心窩に嵌合し、上顎第一大臼歯の人工歯の舌側咬頭の幅をW、下顎第一大臼歯の人工歯の頬舌方向の小窩幅をWとしたとき、W/Wで表される比率が0.9以上1.22以下であり、下顎第一大臼歯の人工歯を咬合面からみたとき、咬合面の中で、頬・舌側咬頭頂を通り、頬・舌側縁や近・遠心辺縁隆線の尾根に囲まれる面積をS、小窩の縁で囲まれる面積をSとしたとき、S/Sで表される比率が0.85以上0.95以下である人工歯群を開示する。
【0007】
上顎第一大臼歯の人工歯の舌側咬頭の成す角をθとし、下顎第一大臼歯の人工歯の小窩の傾斜が成す角をθとしたとき、θ-θが15°以上32°以下であるように構成してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、人工歯群によりリンガライズドオクルージョンにおいて咬合安定性が高い義歯を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は人工歯群10を含む義歯1を正面から見た図である。
図2図2は咬合面側から上顎A及び下顎Bをそれぞれ見た図である。
図3図3は臼歯部に属する人工歯11A、人工歯11Bの中心咬合位(図3(a))及び側方咬合位(図3(b))における姿勢を示した図である。
図4図4(a)は本形態における臼歯部に属する上顎人工歯11Aの頬側豊隆について説明する図である。図4(b)は従来における臼歯部に属する上顎人工歯の頬側豊隆について示す図である。
図5図5は中心咬合位における臼歯部に属する人工歯11の接触状態を説明する図である。
図6図6は臼歯部に属する上顎人工歯11A及び下顎人工歯11Bの形態を説明する図である。
図7図7は臼歯部に属する下顎人工歯11Bの形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[人工歯群]
図1には、1つの形態に係る人工歯群10を備える義歯1を正面から見た図、図2には義歯1を上顎A(図2の上側)と下顎B(図2の下側)とに分けて咬合面側から見た図を表した。
これら図からわかるように、本開示の人工歯群10は、複数の人工歯11を有してなる。本形態では複数の人工歯11として、上顎A、下顎Bのそれぞれの左右側に、前歯部(中切歯、側切歯、犬歯)、臼歯部(第一小臼歯、第二小臼歯、第一大臼歯、第二大臼歯、第三大臼歯)に相当する人工歯が含まれている。ただし本開示はこれに限定されることなくこれらのうちの一部であってもよい。
なお、上顎と下顎とを区別するために、上顎側を説明する際には符号にAを付し、下顎側を説明する際には符号にBを付した(例えば上顎側の人工歯は11A、下顎側の人工歯は11Bと表記する。)。
【0011】
人工歯11はセラミックスや合成樹脂、又は、これらの複合材からなり、複数の人工歯11が樹脂により構成された歯肉部を模した義歯床2に固定されている。
また、図3には中心咬合位における臼歯部に属する人工歯11の咬合状態(図3(a))、及び、側方咬合位における臼歯部に属する人工歯11の咬合状態(図3(b))を模式的に表した。図3からわかるように、本形態の人工歯群10では、中心咬合位及び側方咬合位において臼歯部に属する上顎人工歯11Aの舌側咬頭14Aのみが、臼歯部に属する下顎人工歯11Bに接触するように構成されており、すなわちリンガライズドオクルージョンである。
本開示の人工歯群10に具備される人工歯11は以下のような構成を備えている。
ここで、人工歯11は凹凸を有するる咬合面12を備え、臼歯においては、この咬合面12に凸状の舌側咬頭13、凸状の頬側咬頭14、及び、舌側咬頭13と頬側咬頭14との間の窪みである小窩15が形成されている。
【0012】
<頬側豊隆部の態様>
リンガライズドオクルージョンでは、図3(a)に一点鎖線で示したように、臼歯部に属する上顎人工歯11Aにおいて歯軸を咬合面12Aに向かうにつれて頬側となるように傾ける必要がある。一方、頬側の歯頚部においては凹んだ形態となることから、患者にとっては上顎頬側に違和感を覚えたり義歯の辺縁封鎖性が損なわれた場合に義歯の安定性に問題が起こったりする。噛み合わせに関する問題だけではなく、図4(b)にIVbで示したように前歯からの臼歯にかけての豊隆が異なるので段差ができ審美的な問題も発生する。
従来の人工歯は、上顎舌側咬頭を噛ませ、上顎頬側咬頭を噛ませない(離開させる)必要があったので上記のような問題があったが、本開示の人工歯群10はリンガライズドに適した設計なので図4(a)にIVaで示したようにリンガライズド咬合の状態で適切な頬側豊隆になるように構成されている。
【0013】
これにより、臼歯部に属する上顎人工歯11Aによって前歯部に属する人工歯11Aからの自然な流れで頬側面を表現することができ、審美性を高めることができる。また、人工歯のこのような適切な豊隆部は辺縁封鎖に寄与でき、辺縁封鎖ができていると義歯の吸着に寄与するので結果として義歯の安定を図れる。
【0014】
<上顎咬頭と下顎小窩との関係>
本形態の人工歯群10では、中心咬合位において臼歯部に属する上顎人工歯11Aのうち舌側咬頭13Aが、臼歯部に属する下顎人工歯11Bの小窩15Bの内面に2か所位以上で接触している。図5に説明のための図を示した。図5は中心咬合位における臼歯部に属する上顎人工歯11Aと下顎人工歯11Bとの接触状態を表している。
図5からわかるように、中心咬合位において、臼歯部に属する上顎人工歯11Aの舌側咬頭13Aが、臼歯部に属する下顎人工歯11Bの小窩15Bのうち中心の窩(中心窩)の内側で接触しているが、この接触は下顎人工歯11Bの小窩15Bの内側のP、Qの2か所である。これにより、安定して中心咬合位へと誘導されるため義歯の安定と咀嚼効率化が図れる。
なお、ここではP、Qの2か所における接触を例に説明したが、3か所以上の接触があってもよい。また、P、Qのうち一方が上顎人工歯11Aの舌側咬頭13Aの先端であってもよいが、先端を含んでいなくてもよい。3か所以上の接触がある場合も、そのうちの1つに舌側咬頭13Aの先端が含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。
従来においてリンガライズドオクルージョンで臼歯部に属する上顎人工歯の舌側咬頭の先端のみが臼歯部に属する下顎人工歯の小窩に接触する態様であった。
【0015】
咬合面の表面は複雑な凹凸を有しているため、中心咬合位において臼歯部に属する上顎人工歯の舌側咬頭の先端が、臼歯部に属する下顎人工歯の小窩に複数の位置で接触するための具体的態様は特に限定されることはない。その中で1つの考え方として上記のように複数の位置で接触させるため、臼歯部に属する上顎人工歯11Aの舌側咬頭13Aの先端角(θ)と、臼歯部に属する下顎人工歯11Bの小窩15Bの傾斜角(θ)との関係を調整することがある。図6に説明のための図を示した。図6図5の上顎人工歯11Aと下顎人工歯11Bとを分解して表し、補助線を付した図である。
【0016】
先端角θは臼歯部に属する上顎人工歯11Aの舌側咬頭13Aの先端角である。先端角θは対象とする上顎人工歯11Aの舌側咬頭13Aの断面を抽出し、舌側咬頭内斜面から決まる線Lと舌側咬頭外斜面から決まる線Lとの成す角から得られる。
一方、傾斜角θは、先端角がθである上顎人工歯11Aに組み合わされる下顎人工歯11Bの小窩15Bの広がりを示す角度である。傾斜角θは対象とする下顎人工歯11Bの小窩15Bの断面を抽出し、下顎頬側咬頭内斜面から決まる線Lと下顎舌側咬頭内斜面から決まる線Lとの成す角から得られる。
【0017】
そして、中心咬合位において上顎の第一大臼歯の人工歯の舌側咬頭の先端が、下顎の第一大臼歯の人工歯の小窩に複数の位置で接触するために、θとθとは、θ-θを15°以上32°以下とする。
【0018】
<頬舌間の距離>
本形態の人工歯群10では、臼歯部に属する下顎人工歯11Bの小窩15Bのうち頬側咬頭14Bの先端と舌側咬頭13Bの先端との距離が、臼歯部に属する上顎人工歯11Aの舌側咬頭13Aに対して、従来のリンガライズドオクルージョンによる人工歯群よりも大きくなるように構成されている。図6に説明のための補助線が含まれている。
図6からわかるように、上顎の第一大臼歯の人工歯11Aの舌側咬頭の幅を距離Wと、下顎の第一大臼歯の人工歯11Bの頬舌方向の小窩15Bの幅(下顎第一大臼歯の人工歯11Bの小窩15Bのうち頬側咬頭14Bの先端と舌側咬頭13Bの先端との距離)Wと、の比率(W/W)が0.9以上1.22以下とされている。
これにより、上下顎の側方運動時やタッピング時等においても臼歯部に属する上顎人工歯11Aの舌側咬頭13Aが、臼歯部に属する下顎人工歯11Bの小窩15Bの内側に入りやすくなり、安定した咬合を得ることができる。また、チューイングサイクルが大きくなるため咀嚼効率を高めることができる。
【0019】
<下顎小窩の開口>
本形態の人工歯群10では、臼歯部に属する下顎人工歯11Bの小窩15Bの開口が大きく形成されている。図7に説明のための図を示した。図7は、臼歯部に属する下顎人工歯11Bを咬合面12B側から見た図(上)、及び、近心側から見た図(下)である。
図7からわかるように、本形態では下顎人工歯11Bを咬合面12B側から見たとき、咬合面の中で、頬・舌側咬頭頂を通り、頬・舌側縁や近・遠心辺縁隆線の尾根に囲まれる面積をS、点線で示した小窩15Bの外縁(咬頭の先端を結んだ線)の内側の面積をSとしたとき、Sに対するSの比率(S/S)が0.85以上0.95以下とされている。
【0020】
これにより、上下顎の側方運動時やタッピング時等においても臼歯部に属する上顎人工歯11Aの舌側咬頭13Aが、下顎臼歯11Bの小窩15B内に入りやすくなり、安定した咬合を得ることができる。また、チューイングサイクルが大きくなるため咀嚼効率を高めることができる。
【0021】
[義歯床、補綴物等]
上記した人工歯群は、人工歯群として提供することができるが、これ以外にも、当該人工歯群と歯肉とが一体化された口腔内を再現した歯牙形状をもつ補綴物として提供されたり、上記した人工歯群の上顎、下顎の組み合わせを含む部分床や義歯床として提供されたりでき、これら形態でも本開示の人工歯群を含むものである。
【符号の説明】
【0022】
1 義歯
10 人工歯群
11 人工歯
12 咬合面
13 舌側咬頭
14 頬側咬頭
15 小窩
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7