(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148032
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】口腔用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 8/67 20060101AFI20231005BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/375 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
A61K8/67
A61Q11/00
A61P1/02
A61K31/375
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055854
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000106324
【氏名又は名称】サンスター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000199175
【氏名又は名称】千寿製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森川 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】花田 栄
(72)【発明者】
【氏名】浦川 李花
(72)【発明者】
【氏名】有田 卓矢
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AD661
4C083AD662
4C083BB55
4C083CC41
4C083EE31
4C083EE32
4C083EE33
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA09
4C086BA18
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA67
(57)【要約】
【課題】dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含む、口腔用組成物の提供。
【解決手段】dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含む、口腔用組成物(ただし、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を含む、口腔用組成物を除く)。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含む、口腔用組成物(ただし、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を含む、口腔用組成物を除く)。
【請求項2】
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を0.001~1質量%含有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩が、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
抗歯周病用、抗口腔粘膜炎用、又は抗う蝕用である、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
口腔粘膜上皮のバリア機能増強用である、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
口腔内のマトリックスメタロプロテアーゼ活性阻害用である、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、口腔用組成物等に関し、より詳細には、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含む、口腔用組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステル(本明細書において、「EPC」と称することがある)は、アスコルビン酸(ビタミンC)とトコフェロール(ビタミンE)とがリン酸を介してエステル結合した化合物であり、抗酸化作用、保湿作用を有し、育毛剤等の化粧料に使用されている(特許文献1)。
【0003】
EPCは、口腔分野での応用が期待されているものの、実際に口腔領域においてどのような効果を発揮するかについては未だ報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Periodontol 2000. 2015 Oct;69(1):7-17. Molecular aspects of the pathogenesis of periodontitis
【非特許文献2】J Periodontal Res. 2016 Dec;51(6):748-757. Influence of retinoic acid on human gingival epithelial barriers
【非特許文献3】Int J Dent. 2012; 2012: 821383.Published online 2012 Jul 26. Host-Bacteria Crosstalk at the Dentogingival Junction
【非特許文献4】Arch Oral Biol. 2016 Jun;66:30-7. The traditional Japanese medicine hangeshashinto alleviates oral ulcer-induced pain in a rat model.
【非特許文献5】Aust Dent J. 2009 Dec;54(4):347-54. Localization of matrix metalloproteinases (MMPs-2, 8, 9 and 20) in normal and carious dentine.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含む、口腔用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩が、口腔粘膜上皮バリア機能の破壊を抑制すること、及びマトリックスメタロプロテアーゼ(Matrix metalloproteinase;MMP)の活性を阻害することを見出し、さらに改良を重ねた。
【0008】
本開示は、例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含む、口腔用組成物(ただし、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を含む、口腔用組成物を除く)。
項2.
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を0.001~1質量%含有する、項1に記載の組成物。
項3.
前記dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩が、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩である、項1又は2に記載の組成物。
項4.
抗歯周病用、抗口腔粘膜炎用、又は抗う蝕用である、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項5.
口腔粘膜上皮のバリア機能増強用である、項1~4のいずれかに記載の組成物。
項6.
口腔内のマトリックスメタロプロテアーゼ活性阻害用である、項1~5のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本開示の組成物は、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含み、口腔粘膜上皮バリア機能の破壊を抑制、及び/又はMMPの活性を阻害し得る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】EPC-K(dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩)を添加した場合の透過率(%)を示す。
【
図2】EPC-Kを添加した場合の透過率(%)を示す。
【
図3】EPC-K、APM(アスコルビン酸リン酸Mg)、VC(アスコルビン酸)、VEA(酢酸トコフェロール)、及びVEN(ニコチン酸トコフェロール)を添加した場合の透過率(%)を示す。
【
図6】テトラオレイン酸ソルベス-60、セバシン酸ジエチル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10、ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル、及びポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテルを添加した場合の細胞生存率(%)を示す。
【
図7】ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル、及びポリオキシエチレングリコールモノラウレートを添加した場合の細胞生存率(%)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に包含される各実施形態について、さらに詳細に説明する。
本開示に包含される口腔用組成物は、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含む。本明細書において当該組成物を、「本開示の口腔用組成物」と表記することがある。
【0012】
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステル(EPC)は、アスコルビン酸(ビタミンC)とトコフェロール(ビタミンE)とがリン酸を介してエステル結合した化合物であり、(アスコルビル/トコフェリル)リン酸とも称される。化学式を以下に示す。
【0013】
【0014】
dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩としては、例えば、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルナトリウム塩、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルリチウム塩等が挙げられる。中でも、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩が好ましい。
また、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩は、モノ塩であってもよく、ジ塩であってもよい。
【0015】
本開示の口腔用組成物に含まれるdl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩の含有量は、例えば、0.001~1質量%程度とすることができる。当該範囲の上限若しくは下限は、例えば0.002、0.005、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、又は0.9質量%程度であってもよい。より具体的には、例えば、0.002~0.5質量%程度であってもよく、0.005~0.3質量%程度であってもよい。
【0016】
本開示の口腔用組成物は、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含むことにより、口腔粘膜上皮バリア機能の破壊を抑制する効果を奏する。このため、本開示の口腔用組成物は、口腔粘膜上皮のバリア機能増強用として好適に用いることができる。口腔粘膜上皮としては、特に限定されず、咀嚼粘膜(例えば、歯肉等)を構成する上皮(例えば、付着上皮、歯肉溝上皮等の歯肉上皮等)、被覆粘膜(例えば、頬粘膜等)を構成する上皮、特殊粘膜(例えば、舌粘膜等)を構成する上皮が挙げられる。
【0017】
また、本開示の口腔用組成物は、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含むことにより、MMPの活性を阻害する効果を奏する。このため、本開示の口腔用組成物は、口腔内のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)活性阻害用として好適に用いることができる。なお、本開示の口腔用組成物は、MMP活性阻害効果を奏することから、既に産生された好中球コラゲナーゼの活性を阻害することができる。
口腔内のマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)としては、例えば、MMP-1、2、3、8、9、13等が挙げられる。中でも、MMP-1及び8が好ましい。なお、MMP-1(EC 3.4.24.7)は、間質コラゲナーゼとも称される。また、MMP-8(EC 3.4.24.34)は、好中球コラゲナーゼとも称される。
【0018】
また、歯肉上皮は、侵入してくる微生物に対するバリアを形成し、歯周組織を感染から守っていることが報告されている(非特許文献1)。また、Porphyromonas gingivalisのような歯周病菌は細菌性プロテアーゼを分泌し、歯肉上皮を破壊することで、歯周組織内への侵入を達成していることが知られている(非特許文献2)。そして、歯周病菌の組織内への侵入が進むと、それを排除するため好中球等の免疫細胞が集積し、MMPsの産生量が増加することが知られている。MMPsは細胞外基質(例えば、I型コラーゲン、II型コラーゲン、III型コラーゲン等のコラーゲン等)を分解するタンパク分解酵素であり、これにより歯周組織が破壊され、歯周病が進行する。実際、歯周病患者の歯肉溝浸出液(GCF)中のMMP-1、2、3、8、9、及び13の増加が観察されている(非特許文献3)。
本開示の口腔用組成物は、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含むことにより、口腔粘膜上皮バリア機能の破壊を抑制する効果、及び/又はMMPの活性を阻害する効果を奏することから、抗歯周病用として好適に用いることができる。つまり、本開示の口腔用組成物は、口腔粘膜上皮のバリア機能増強により、歯周病菌の歯周組織への進行を防ぐことができる。また、本開示の口腔用組成物は、口腔内のマトリックスメタロプロテアーゼ活性阻害により、歯周組織破壊を防ぐことができる。このため、初期から進行した状態まであらゆる歯周病の状況に適用することが期待できる。なお、本明細書において、「抗歯周病」とは、歯周病の発症予防及び/又は歯周病の進行抑制を意味する。
【0019】
また、咬傷、火傷、化学療法や放射線療法等の副作用等で口腔粘膜に潰瘍が形成される(口腔粘膜炎)と上皮のバリア機能が喪失され、口腔細菌の感染が引き起こされることが報告されている(非特許文献4)。本開示の口腔用組成物は、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含むことにより、口腔粘膜上皮バリア機能の破壊を抑制する効果を奏することから、抗口腔粘膜炎用として好適に用いることができる。なお、本明細書において、「抗口腔粘膜炎」とは、口腔粘膜炎の発症予防及び/又は口腔粘膜炎の進行抑制を意味する。
【0020】
また、象牙質は有機質であるコラーゲンを約20%程度含んでおり、象牙質う蝕の進行には脱灰とコラーゲンの分解を伴う。コラーゲンの分解としては、唾液中のMMPsが象牙質に浸透し、分解していると考えられている(非特許文献5)。本開示の口腔用組成物は、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩を含むことにより、MMPの活性を阻害する効果を奏することから、抗う蝕用として好適に用いることができる。なお、本明細書において、「抗う蝕」とは、う蝕の発症予防及び/又はう蝕の進行抑制を意味する。
【0021】
本開示の口腔用組成物の適用対象としては、ヒトを含む哺乳動物(例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、ヒツジ、ウマ、ウシ、サル等)等が例示される。中でもヒトが好ましい。
本開示の口腔用組成物の適用対象となるヒトとしては、例えば、歯周病患者又はその疑いがあるヒト;口腔粘膜炎患者又はその疑いがあるヒト;う蝕患者又はその疑いがあるヒト;口腔粘膜上皮のバリア機能が減弱しているヒト;口腔内のマトリックスメタロプロテアーゼ活性が亢進しているヒト;等に限らず、健常者(例えば、歯周病の発症を予防したいヒト、歯周病の進行を抑制したいヒト、口腔粘膜炎の発症を予防したいヒト、口腔粘膜炎の進行を抑制したいヒト、う蝕の発症を予防したいヒト、う蝕の進行を抑制したいヒト等)等であってもよい。
【0022】
本開示の口腔用組成物は、例えば、固形組成物、液体組成物等で有り得る。また、本開示の口腔用組成物は、常法に従って例えば軟膏剤、ペースト剤、パスタ剤、ジェル剤、液剤、スプレー剤、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、ガム剤、タブレット、ドロップ等の形態(剤形)にすることができる。なかでも、洗口液剤、液体歯磨剤、練歯磨剤、軟膏剤、ペースト剤、液剤、ジェル剤であることが好ましい。
【0023】
本開示の口腔用組成物は、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩の他、例えば口腔用組成物に配合し得る任意成分を単独で又は2種以上さらに含有してもよい。
【0024】
例えば、界面活性剤として、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤または両性界面活性剤を配合することができる。具体的には、例えば、ノニオン界面活性剤としてはショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル、ラクトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル;脂肪酸アルカノールアミド類;グリセリン脂肪酸エステル;ソルビタン脂肪酸エステル;脂肪酸モノグリセライド;セバシン酸ジエチル;ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油;脂肪酸ポリオキシエチレンソルビタン等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩;ラウリルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホコハク酸塩;ココイルサルコシンナトリウム、ラウロイルメチルアラニンナトリウム等のアシルアミノ酸塩;ココイルメチルタウリンナトリウム等が挙げられる。両性イオン界面活性剤としては、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型活性剤;N-ココイル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルエチレンジアミンナトリウム等のイミダゾリン型活性剤等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.1~5質量%である。
なお、本開示の口腔用組成物からは、例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、及びポリオキシエチレン脂肪酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を含む、口腔用組成物が除かれることが好ましい。
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルとしては、例えば、エチレンオキサイドの平均付加モル数が1~40であり、アルキル基の炭素数が7~30であるポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等が挙げられる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルとしては、例えば、エチレンオキサイドの平均付加モル数が1~40であり、アルキル基の炭素数が1~18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル等が挙げられる。ポリオキシエチレン脂肪酸エステルとしては、例えば、エチレンオキサイドの平均付加モル数が1~40であり、アルキル基の炭素数が1~20であるポリオキシエチレン脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0025】
また、香味剤として、例えば、メントール、カルボン、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n-デシルアルコール、シトロネロール、α-テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセテート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d-カンフル、d-ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等の香料を用いることができる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して例えば0.001~1.5質量%配合することができる。
【0026】
また、甘味剤として、例えば、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p-メトキシシンナミックアルデヒド等を用いることができる。これらは、単独または2種以上を組み合わせて組成物全量に対して例えば0.01~1質量%配合することができる。
【0027】
さらに、湿潤剤として、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3―ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、ポリオキシエチレングリコール等を単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0028】
粘結剤としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルエチルセルロース塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウムなどのセルロース誘導体、キサンタンガムなどの微生物産生高分子、トラガントガム、カラヤガム、アラビヤガム、カラギーナン、デキストリン、寒天、ペクチン、プルラン、ジェランガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウムなどの天然高分子または天然ゴム類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸ナトリウムなどの合成高分子、増粘性シリカ、ビーガムなどの無機粘結剤、塩化O-[2-ヒドロキシ-3-(トリメチルアンモニオ)プロピル]ヒドロキシエチルセルロースなどのカチオン性粘結剤が挙げられる。これら粘結剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
防腐剤として、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等を配合することができる。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0030】
着色剤として、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタン等を配合してもよい。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
pH調整剤として、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウム等を配合してもよい。これらは、組成物のpHが4~8、好ましくは5~7の範囲となるよう、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。pH調整剤の配合量は例えば0.01~2重量%であってよい。
【0032】
なお、本開示の口腔用組成物には、さらに、薬効成分として酢酸dl-α-トコフェロール、コハク酸トコフェロール、またはニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、ドデシルジアミノエチルグリシン等の両性殺菌剤、トリクロサン、イソプロピルメチルフェノール等の非イオン性殺菌剤、ラウロイルサルコシンナトリウム等のアニオン系殺菌剤、塩化セチルピリジニウム、塩酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等のカチオン系殺菌剤、デキストラナーゼ、アミラーゼ、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素(リテックエンザイム)等の酵素、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム等のアルカリ金属モノフルオロフォスフェート、フッ化ナトリウム、フッ化第一錫等のフッ化物、トラネキサム酸やイプシロンアミノカプロン酸、アルミニウムクロルヒドロキシルアラントイン、ジヒドロコレステロール、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸、銅クロロフィリンナトリウム、グリセロフォスフェート、クロロフィル、塩化ナトリウム、カロペプタイド、アラントイン、カルバゾクロム、硝酸カリウム、パラチニット等を、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。
【0033】
また、基剤として、アルコール類、シリコン、アパタイト、白色ワセリン、パラフィン、流動パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、スクワラン、プラスチベース等を添加することも可能である。これらは、単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
本開示の口腔用組成物は、公知の方法または公知の方法から容易に想到する方法により調製することができる。例えば、dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルアルカリ金属塩及び必要に応じてその他の成分等を適宜混合することによって調製することができる。
【0035】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。また、本開示は、本明細書に説明した構成要件の任意の組み合わせを全て包含する。
【0036】
また、上述した本開示の各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各特性のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0037】
本開示の内容を以下の実験例を用いて具体的に説明する。しかし、本開示はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を意味する。また、各表に記載される各成分の配合量値も特に断らない限り「質量%」を示す。
【0038】
1.上皮バリア機能評価試験
細胞調整
歯肉上皮細胞株Epi4細胞をコンフルエントになるまでトランスウェル上で培養した。このとき、Epi4細胞は、細胞用培地としてEpilife(サーモフィッシャー)にSupplemental S7(サーモフィッシャー)を100分の1量加えた培地を用いて培養した。なお、トランスウェルは、インサートがウェルの中間にくるよう吊り下げ式にデザインされており、細胞透過性評価を可能とするツールである。
【0039】
細菌調整
P.g菌(Porphyromonas gingivalis W83)は変法GAM培地(日水製薬)で培養し、培養後、10000rpmで遠心することにより回収し、OD600=1.0になるよう細胞用培地でP.g菌濃度を調整した。
【0040】
素材調製
各評価素材を2.5%DMSO含有細胞用培地にそれぞれの評価濃度に調製した。用いた素材は、EPC-K(dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩)、APM(アスコルビン酸リン酸Mg)、VC(アスコルビン酸)、VEA(酢酸トコフェロール)、及びVEN(ニコチン酸トコフェロール)である。
【0041】
バリア機能評価
トランスウェル上に培養したEpi4細胞から培養培地を除去し、調製した各素材含有培地を300μlずつ添加し、1時間37℃、CO
2濃度5%下でインキュベートした。このとき、素材を含まない培地処理をコントロールとした。
次に、調整したP.g菌液100μlを添加し、2時間37℃、CO
2濃度5体積%下でインキュベートした。このとき、コントロールに対しては、P.g菌液添加しインキュベートしたもの(P.g.(+))、及びP.g菌を含まない培地のみ添加し、インキュベートしたもの(P.g.(-))を準備した。
インキュベート後、培地を除去し、PBSでwashし、1mg/mlに調整したFITC(Fluoresceinisothiocyanate)-dextran(4kDa)を添加し、1時間37℃でインキュベートした。トランスウェルを通過したFITC-dextranを回収し、蛍光プレートリーダー(Gemini XPS)にて蛍光強度(励起光:490nm、放出光:520nm)を測定した。コントロールに対してP.g菌液添加した場合(P.g.(+)素材なし)のFITC透過量を100%、コントロールに対してP.g菌を含まない培地のみ添加した場合(P.g.(-))のFITC透過量を0%になるように換算して、各濃度の素材を処理した際の透過率を算出した。結果を
図1~3に示す。なお、図中の素材濃度は、調製時の濃度であり、終濃度(P.g菌添加後の濃度)は、当該濃度値の3/4になる。また、当該透過率が低いほど、上皮バリア機能が高いということができる。
【0042】
図1~3に示すとおり、EPC-Kは、P.g菌による口腔粘膜上皮バリアの破壊を抑制することが確認された。また、アスコルビン酸及びその誘導体であるAPM、並びにトコフェロールの誘導体であるVEA及びVENについては、同様の効果は確認されなかった。
【0043】
2.MMP活性測定試験
素材調製
各評価素材を溶媒(下記記載のキット付属のバッファー+5%DMSO)でそれぞれの評価濃度に調整し、評価素材溶液とした。用いた素材は、EPC-K(dl-α-トコフェロール 2-L-アスコルビン酸リン酸ジエステルカリウム塩)、VC(アスコルビン酸)、VEA(酢酸トコフェロール)、及びVEN(ニコチン酸トコフェロール)である。
【0044】
酵素活性測定
MMP-8(好中球コラゲナーゼ)活性は、MMP-8 fluorimetricdrug discovery kit(Enzo Life Sciences,Inc.,BML-AK415-0001)、MMP-1(線維芽細胞コラゲナーゼ)活性は、MMP-1 fluorimetricdrug discovery kit(Enzo Life Sciences,Inc.,BML-AK405-0001)を用いて評価を実施した。
調製した各素材溶液20μlに、キット付属のMMP-8を0.1μl及びキット付属のバッファーを69.9μl、もしくはキット付属のMMP-1を0.2μl及びキット付属のバッファーを69.8μl混和し、37℃で60分間反応させた。このとき、陽性コントロール(Cont.)として素材を添加せずバッファーを等量加えたサンプル、また基質のみのバックグラウンドの測定のためにMMP-8もしくはMMP-1を添加せずバッファーを等量加えたサンプル(NC)を用意した。
キット付属の蛍光基質をバッファーを用いて10倍希釈し、60分間反応後の溶液に10μl添加した。添加後、MMP-8は37℃で20分、MMP-1は37℃で60分反応させた後に、励起光:328nm、放出光:420nmの蛍光強度を測定した。陽性コントロールサンプル(Cont.)の蛍光強度からバックグラウンドとして基質のみの蛍光強度(NC)を引いた値を100%として、各素材溶液添加サンプルの蛍光強度から基質のみの蛍光強度(NC)をバックグラウンドとして引いた値の比率を酵素活性として算出した。なお、両キット添付の反応基質に対して、MMP-8の方がMMP-1より反応性が高かったため、本試験において反応性を同程度に近い条件で検討するためMMP-8、MMP-1それぞれ希釈率、反応時間を変えて試験を実施した。結果を
図4及び5に示す。なお、図中の素材濃度は、素材調製時の濃度であり、終濃度(蛍光強度測定時の濃度)は、当該濃度値の1/5になる。
【0045】
図4及び5に示すとおり、EPC-Kは、濃度依存的にMMP活性(MMP-8及びMMP-1)を阻害することが確認された。また、アスコルビン酸、並びにトコフェロールの誘導体であるVEA及びVENについては、同様の効果は確認されなかった。
【0046】
3.細胞傷害性評価試験
細胞培養
口腔由来上皮細胞株(Ca9-22細胞)をコンフルエントになるまで96穴プレートで培養した。
【0047】
素材調製
評価溶液中の各界面活性剤の終濃度が、1%になるように0.5%DMSOを含有したPBSを溶媒として調整した。用いた界面活性剤は、ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレングリコールモノラウレート、テトラオレイン酸ソルベス-60、セバシン酸ジエチル、及びポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10である。
【0048】
細胞傷害性評価
培養したCa9-22細胞に調整した評価溶液100μlを添加し、常温で10分間静置した。10分後、PBS200μlで3回洗浄し、WST-1試薬(タカラバイオ)を30分間反応させた。反応後、450nm、600nmの吸光度を測定し、450nmの吸光度から600nmの吸光度を引いた値を算出した。算出した値の内、溶媒のみ処理の値を100%として細胞生存率を算出した。結果を
図6及び7に示す。
【0049】
図6及び7に示すとおり、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(ポリオキシエチレン(10)オクチルフェニルエーテル)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(ポリオキシエチレン(9)ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン(20)セチルエーテル、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテル)、及びポリオキシエチレン脂肪酸エステル(ポリオキシエチレングリコールモノラウレート)については、口腔由来の細胞においては、細胞毒性が生じていることが確認された。一方、テトラオレイン酸ソルベス-60、セバシン酸ジエチル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油10等の他の界面活性剤については、口腔由来の細胞においては、細胞毒性は生じないことが確認された。