(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148051
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】印刷装置及び制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231005BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B41J2/01 307
B41J2/165 101
B41J2/165 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055880
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100182051
【弁理士】
【氏名又は名称】松川 直宏
(72)【発明者】
【氏名】上田 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】吉田 将也
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 凜太郎
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EB23
2C056EB24
2C056EB38
2C056EC22
2C056EC23
2C056EC36
2C056FA13
2C056HA11
2C056JA01
2C056JB04
(57)【要約】
【課題】複数のノズルが形成されたヘッドバーと、エアシリンダとを備える印刷装置において、エアシリンダによってヘッドバーの移動方向を一方向から反対方向に切り替える際に、ヘッドバーの反対方向への飛び出しを防止可能な技術を提供する。
【解決手段】
コントローラ7は、制御指示を受け付けると、エアシリンダ51を制御して、ヘッドバー40を上昇目標位置まで上昇させる。その後、コントローラ7は、制御指示に基づいて、ヘッドバー40の下降目標位置が、第1範囲内であるか、第1範囲よりも上昇目標位置に近い第2範囲内であるか判断する。下降目標位置が第2範囲内であると判断した場合、コントローラ7は、エアシリンダ51を制御して、ヘッドバー40を上昇目標位置に所定時間維持し、所定時間が経過した後、ヘッドバー40を上昇目標位置から下降目標位置まで下降させる。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のノズルが開口するノズル面を有し、前記複数のノズルからインクを吐出するよう構成されたヘッドを備えるヘッドバーと、
前記ヘッドバーを上下に移動させるよう構成されたエアシリンダと、
前記エアシリンダを制御するよう構成されたコントローラとを備え、
前記コントローラは、
制御指示を受け付けたことに応じて、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを上昇目標位置まで上昇させ、
受け付けた前記制御指示に基づいて、前記ヘッドバーの下降目標位置が、第1範囲内であるか、前記第1範囲よりも前記上昇目標位置に近い第2範囲内であるか判断し、
前記下降目標位置が前記第2範囲内であると判断した場合、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置に所定時間維持し、
前記所定時間が経過した後、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させるよう構成されている、印刷装置。
【請求項2】
前記下降目標位置が前記第1範囲内であると判断した場合、前記コントローラは、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを、前記上昇目標位置に前記所定時間維持することなく、前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させるよう構成されている、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
コンベアによって搬送される印刷媒体の少なくとも一つの継ぎ目を検知して、信号を出力するよう構成され、且つ前記コントローラと電気的に接続されたセンサをさらに備え、
前記コントローラは、前記センサから出力された前記信号を受信すると、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置まで上昇させるよう構成されている、請求項1又は2に記載の印刷装置。
【請求項4】
前記ヘッドバーの上昇を前記上昇目標位置で停止させるよう構成された第1ストッパと、
前記ヘッドバーの下降を前記下降目標位置で停止させるよう構成された第2ストッパとをさらに備え、
前記コントローラは、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーの上昇が前記第1ストッパによって停止する際に前記複数のノズル内に形成された前記インクのメニスカスが破壊されない速度で、前記ヘッドバーを上昇させ、
前記コントローラは、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーの下降が前記第2ストッパによって停止する際に前記複数のノズル内に形成された前記インクのメニスカスが破壊されない速度で、前記ヘッドバーを下降させるよう構成されている、請求項1~3のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記下降目標位置を前記第1範囲内又は前記第2範囲内に調整するよう構成された調整機構をさらに備え、
前記コントローラは、
前記ヘッドバーを前記上昇目標位置まで上昇させた後、前記制御指示に基づいて前記下降目標位置の調整が必要かさらに判断し、
前記下降目標位置の調整が必要と判断し、且つ、前記下降目標位置が前記第2範囲内であると判断した場合、
前記所定時間内に、前記調整機構を制御して前記下降目標位置を調整し、
前記所定時間が経過した後に、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させるよう構成されている、請求項1~4のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記コントローラは、前記ヘッドバーが前記下降目標位置まで下降した後、前記ヘッドバーを制御して、前記複数のノズルから印刷媒体に対して前記インクを吐出するよう構成されている、請求項2に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記ノズル面を覆うためのキャップ及び前記ノズル面を拭うためのワイパの少なくともいずれかを含むメンテナンス機構をさらに備え、
前記コントローラは、前記ヘッドバーが前記下降目標位置まで下降した後、前記メンテナンス機構を制御して、前記ヘッドバーのメンテナンスを実行するよう構成されている、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項8】
前記ヘッドバーを、前記上昇目標位置に維持した状態で水平方向に移動させるよう構成された移動機構をさらに備え、
前記コントローラは、
前記ヘッドバーを前記上昇目標位置まで上昇させた後、前記制御指示に基づいて前記水平方向への移動が必要かさらに判断し、
前記水平方向への移動が必要と判断した場合、前記移動機構を制御して、前記ヘッドバーを前記水平方向に移動させ、
前記ヘッドバーの前記水平方向への移動が完了した時点で前記所定時間が経過している場合、前記エアシリンダ―を制御して、前記ヘッドバーを、前記上昇目標位置に前記所定時間維持することなく、前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させるよう構成されている、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項9】
複数のノズルが開口するノズル面を有し、前記複数のノズルからインクを吐出するよう構成されたヘッドバーと、
前記ヘッドバーを上下に移動させるよう構成されたエアシリンダと、
タイマを有し、前記エアシリンダを制御するよう構成されたコントローラとを備え、
前記コントローラは、
制御指示を受け付けたことに応じて、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを上昇目標位置まで上昇させ、
前記ヘッドバーが前記上昇目標位置に到達した時点で前記タイマを起動させ、
受け付けた前記制御指示に基づいて、前記ヘッドバーの下降目標位置が、第1範囲内であるか、前記第1範囲よりも前記上昇目標位置に近い第2範囲内であるか判断し、
前記下降目標位置が前記第2範囲内であると判断した場合、前記タイマによる計測時間が所定時間に到達したか判断し、
前記計測時間が前記所定時間に到達したと判断した場合、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させるよう構成されている、印刷装置。
【請求項10】
前記下降目標位置が前記第1範囲内であると判断した場合、前記コントローラは、
前記タイマによる計測時間が前記所定時間に到達したか判断することなく前記タイマを停止させ、
前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを、前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させるよう構成されている、請求項9に記載の印刷装置。
【請求項11】
コンベアによって搬送される印刷媒体の前記少なくとも一つの継ぎ目を検知して、信号を出力するよう構成され、且つ前記コントローラと電気的に接続されたセンサとをさらに備え、
前記コントローラは、前記センサから出力された前記信号を受信すると、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置まで上昇させるよう構成されている、請求項9又は10に記載の印刷装置。
【請求項12】
前記ヘッドバーの上昇を前記上昇目標位置で停止させるよう構成された第1ストッパと、
前記ヘッドバーの下降を前記下降目標位置で停止させるよう構成された第2ストッパとをさらに備え、
前記コントローラは、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーの上昇が前記第1ストッパによって停止する際に前記複数のノズル内に形成された前記インクのメニスカスが破壊されない速度で、前記ヘッドバーを上昇させ、
前記コントローラは、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーの下降が前記第2ストッパによって停止する際に前記複数のノズル内に形成された前記インクのメニスカスが破壊されない速度で、前記ヘッドバーを下降させるよう構成されている、請求項9~11のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項13】
複数のノズルが開口するノズル面を有し、前記複数のノズルからインクを吐出するよう構成されたヘッドを備えるヘッドバーと、前記ヘッドバーを上下に移動させるよう構成されたエアシリンダとを備える印刷装置の制御方法であって、
制御指示を受け付けることと、
前記制御指示を受け付けたことに応じて、前記エアシリンダによって、前記ヘッドバーを上昇目標位置まで上昇させることと、
受け付けた前記制御指示に基づいて、前記ヘッドバーの下降目標位置が、第1範囲内であるか、前記第1範囲よりも前記上昇目標位置に近い第2範囲内であるか判断することと、
前記下降目標位置が前記第2範囲内であると判断した場合、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置に所定時間維持することと、
前記所定時間が経過した後、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させることとを含む、制御方法。
【請求項14】
複数のノズルが開口するノズル面を有し、前記複数のノズルからインクを吐出するよう構成されたヘッドバーと、前記ヘッドバーを上下に移動させるよう構成されたエアシリンダと、タイマとを備える印刷装置の制御方法であって、
制御指示を受け付けることと、
前記制御指示を受け付けたことに応じて、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを上昇目標位置まで上昇させることと、
前記ヘッドバーが前記上昇目標位置に到達した時点で前記タイマを起動させることと、
受け付けた前記制御指示に基づいて、前記ヘッドバーの下降目標位置が、第1範囲内であるか、前記第1範囲よりも前記上昇目標位置に近い第2範囲内であるか判断することと、
前記下降目標位置が前記第2範囲内であると判断した場合、前記タイマによる計測時間が所定時間に到達したか判断することと、
前記計測時間が前記所定時間に到達したと判断した場合、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させることとを含み、
前記下降目標位置が前記第1範囲内であると判断した場合、
前記タイマによる計測時間が前記所定時間に到達したか判断することなく前記タイマを停止させ、
前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを、前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させる、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドバーと、ヘッドバーを上下動させる機構とを備える、印刷装置、及び当該印刷装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シートを搬送する搬送部と、搬送部により搬送されるシートにインク滴を吐出するインクジェットノズルヘッドと、インクジェットノズルヘッドを搬送部に対して上下動させるエアシリンダとを備える印刷機が知られている(例えば、特許文献1参照)。当該印刷機は、さらに、インクジェットノズルヘッドの搬送部に対する上下方向の位置を調整するため、モータと、モータと連動する第1係合部材と、第1係合部材と係合する第2係合部材とを備える。エアシリンダによってインクジェットノズルヘッドを上昇させることにより、互いに係合していた第1係合部材と第2係合部材とが、上下方向に離間する。この状態でモータを回転させることにより、第1係合部材の高さが調整される。そして、第1係合部材の高さが調整された状態で、エアシリンダによってインクジェットノズルヘッドを下降させることにより、高さが調整された第1係合部材と第2係合部材とが再度係合する。これにより、搬送部に対するインクジェットノズルヘッドの上下方向の位置を調整することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、エアシリンダでは、ロッドの一方向への動作が完了した後、本体の内圧が安定しない状態でロッドの反対方向への動作を開始すると、ロッドが反対方向に飛び出す可能性がある。このため、例えば上記の印刷機では、エアシリンダによってインクジェットノズルヘッドを上昇させた後、エアシリンダの内圧が安定しない状態でインクジェットノズルヘッドの下降を開始する場合、インクジェットノズルヘッドが下方に飛び出すおそれがある。ここで、インクジェットノズルヘッドの下面には複数のノズルが開口しており、各ノズルの開口にはインクのメニスカスが形成されている。このため、インクジェットノズルヘッドが下方に飛び出すことにより複数のノズルに衝撃が加えられると、各ノズルの開口に形成されたインクのメニスカスが破壊され、印字品質に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、複数のノズルが形成されたヘッドバーと、エアシリンダとを備える印刷装置において、エアシリンダによってヘッドバーの移動方向を一方向から反対方向に切り替える際に、ヘッドバーの反対方向への飛び出しを防止可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に従えば、複数のノズルが開口するノズル面を有し、前記複数のノズルからインクを吐出するよう構成されたヘッドを備えるヘッドバーと、
前記ヘッドバーを上下に移動させるよう構成されたエアシリンダと、
前記エアシリンダを制御するよう構成されたコントローラとを備え、
前記コントローラは、
制御指示を受け付けると、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを上昇目標位置まで上昇させ、
前記制御指示に基づいて、前記ヘッドバーの下降目標位置が、第1範囲内であるか、前記第1範囲よりも前記上昇目標位置に近い第2範囲内であるか判断し、
前記下降目標位置が前記第2範囲内であると判断した場合、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置に所定時間維持し、
前記所定時間が経過した後、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させるよう構成されている、印刷装置が提供される。
【0007】
本発明の第2の態様に従えば、複数のノズルが開口するノズル面を有し、前記複数のノズルからインクを吐出するよう構成されたヘッドバーと、
前記ヘッドバーを上下に移動させるよう構成されたエアシリンダと、
タイマを有し、前記エアシリンダを制御するよう構成されたコントローラとを備え、
前記コントローラは、
制御指示を受け付けると、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを上昇目標位置まで上昇させ、
前記ヘッドバーが前記上昇目標位置に到達した時点で前記タイマを起動させ、
前記制御指示に基づいて、前記ヘッドバーの下降目標位置が、第1範囲内であるか、前記第1範囲よりも前記上昇目標位置に近い第2範囲内であるか判断し、
前記下降目標位置が前記第2範囲内であると判断した場合、前記タイマによる計測時間が所定時間に到達したか判断し、
前記計測時間が前記所定時間に到達したと判断した場合、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させるよう構成されている、印刷装置が提供される。
【0008】
本発明の第3の態様に従えば、複数のノズルが開口するノズル面を有し、前記複数のノズルからインクを吐出するよう構成されたヘッドを備えるヘッドバーと、前記ヘッドバーを上下に移動させるよう構成されたエアシリンダとを備える印刷装置の制御方法であって、
制御指示を受け付けると、前記エアシリンダによって、前記ヘッドバーを上昇目標位置まで上昇させることと、
前記制御指示に基づいて、前記ヘッドバーの下降目標位置が、第1範囲内であるか、前記第1範囲よりも前記上昇目標位置に近い第2範囲内であるか判断することと、
前記下降目標位置が前記第2範囲内であると判断した場合、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置に所定時間維持することと、
前記所定時間が経過した後、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させることとを含む、制御方法が提供される。
【0009】
本発明の第4の態様に従えば、複数のノズルが開口するを有し、前記複数のノズルからインクを吐出するよう構成されたヘッドバーと、前記ヘッドバーを上下に移動させるよう構成されたエアシリンダと、タイマとを備える印刷装置の制御方法であって、
制御指示を受け付けると、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを上昇目標位置まで上昇させることと、
前記ヘッドバーが前記上昇目標位置に到達した時点で前記タイマを起動させることと、
前記制御指示に基づいて、前記ヘッドバーの下降目標位置が、第1範囲内であるか、前記第1範囲よりも前記上昇目標位置に近い第2範囲内であるか判断することと、
前記下降目標位置が前記第2範囲内であると判断した場合、前記タイマによる計測時間が所定時間に到達したか判断することと、
前記計測時間が前記所定時間に到達したと判断した場合、前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させることとを含み、
前記下降目標位置が前記第1範囲内であると判断した場合、
前記タイマによる計測時間が前記所定時間に到達したか判断することなく前記タイマを停止させ、
前記エアシリンダを制御して、前記ヘッドバーを、前記上昇目標位置から前記下降目標位置まで下降させる、制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
上記印刷装置及び上記制御方法によれば、下降目標位置が第1範囲よりも上昇目標位置に近い第2範囲内である場合、エアシリンダは、ヘッドバーを上昇目標位置に所定時間維持する。このため、所定時間が経過した後、ヘッドバーを上昇目標位置から下降目標位置まで下降させる際には、エアシリンダの内圧が安定している。この結果、エアシリンダによってヘッドバーの移動を上昇から下降に切り替える際に、ヘッドバーの下方への飛び出しを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係るプリンタの概略を示す平面図である。
【
図2】プリンタが備えるラインヘッドの概略を示す平面図である。
【
図3】プリンタが備えるヘッドバーとメンテナンスユニットを説明するための概略図である。
【
図5】ヘッドバーが下降目標位置に到達した状態を示す説明図である。
【
図6】ヘッドバーを側面から見た状態を示す説明図である。
【
図7】ヘッドバーが上昇目標位置に到達した状態を示す説明図である。
【
図8】(a)は、調整機構を側面から見た状態を示す説明図であり、(b)は、回転体を説明するための斜視図である。
【
図9】プリンタにおける電気的な構成を概略的に示すブロック図である。
【
図10】移動機構、昇降機構、及び調整機構の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るプリンタ1(本発明の印刷装置の一例)を、図面に基づいて説明する。
図1において、媒体M(記録媒体)の搬送方向はプリンタ1の前後方向に対応する。また媒体Mの幅方向はプリンタ1の左右方向に対応する。また前後方向及び左右方向と直交する方向、即ち
図1における紙面に垂直な方向はプリンタ1の上下方向に対応する。
【0013】
図1に示すように、プリンタ1は、筐体2内に収容されたプラテン3、ヘッドバー40、二つの搬送ローラ5A、5B、コントローラ7等を備える。また、
図1には図示されていないが、プリンタ1は、メンテナンスユニット20(
図3参照)、移動機構30(
図9参照)、昇降機構50(
図5参照)、調整機構60(
図5参照)、操作部80(
図9参照)、タイマTM(
図9参照)、スプライスセンサSS(
図9参照)等を備える。
【0014】
図1に示されるように、プラテン3の上面には、媒体Mが載置される。ヘッドバー40は、プラテン3の上方において、プラテン3に対向するように配置されている。ヘッドバー40は、4つのラインヘッド10を有しており、各ラインヘッド10には、インクタンク13(
図3参照)から異なる色のインクが供給される。ヘッドバー40の構造については後ほど詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、二つの搬送ローラ5A、5Bは、プラテン3の前方及び後方にそれぞれ配置されている。二つの搬送ローラ5A、5Bは、図示しないモータによってそれぞれ駆動され、プラテン3上の媒体Mを搬送方向の下流側(後方)へ搬送する。本実施形態において、媒体Mは、複数枚の媒体の端部どうしがテープ等でつなぎ合わされることにより構成された長尺な媒体であり、供給ロールの搬送方向の下流端と、回収ロールの搬送方向の上流端とがテープ等でつなぎ合わされた媒体である。供給ロールは搬送方向上流側の搬送ローラ5Aに取り付けられ、回収ロールは搬送方向下流側の搬送ローラ5Bに取り付けられる。なお、媒体Mは、これに限られず、テープ等でつなぎ合わせていない長尺な媒体であり、搬送方向の上流端を含む供給ロールのみを含むロール状の媒体であってもよい。この場合、供給ロールは搬送方向上流側の搬送ローラ5Aに取り付けられる。
【0016】
コントローラ7は、パーソナルコンピュータ等の外部装置9と相互にデータ通信可能に接続されている。コントローラ7は、外部装置9又は操作部80からの指示や、スプライスセンサSS(
図9参照)から出力された信号に基づいて、プリンタ1の各部の動作を制御する。例えば、コントローラ7は、外部装置9からの印刷指示を受信すると、搬送ローラ5A、5Bを制御して媒体Mを搬送方向に搬送させる。また、これとともに、コントローラ7は、4つのラインヘッド10を制御して、ノズル11aから媒体Mに向けてインクを吐出させる。これにより、媒体Mに画像が印刷される。なお、操作部80は、ユーザがプリンタ1に対して指示を入力するためのインターフェースであり、例えば、ボタンやタッチパネル等が含まれる。また、スプライスセンサSSは、媒体Mにおけるテープ等のつなぎ目を検出するためのものである。スプライスセンサSSは、媒体Mの搬送経路において、搬送ローラ5Aと、ヘッドバー40との間に配置されている。スプライスセンサSSとしては、例えば、公知の反射型フォトセンサ、透過型フォトセンサ、接触型センサ等を用いることができる。
【0017】
図2に示すように、ラインヘッド10は、複数のヘッド11(本実施形態では10個のヘッド11)と、複数のヘッド11を保持するホルダ12を備えている。ホルダ12は、左右方向に長い矩形の板状の部材である。複数のヘッド11は前後方向に並んだ2つのヘッド列を構成している。各ヘッド列には、それぞれ、左右方向に並ぶ5つのヘッド11が含まれている。なお、2つのヘッド列に含まれるヘッド11の位置は、左右方向にずれている。つまり、10個のヘッド11は千鳥状に配置されている。
【0018】
各ヘッド11の下面であるノズル面11bには複数のノズル11aが開口している。
図2に示すように、ヘッド11の複数のノズル11aは、ラインヘッド10(ホルダ12)の長手方向である、左右方向に沿って列状に並んでいる。
【0019】
図3に示すように、複数のヘッド11の上方にはリザーバ14が配置されている。リザーバ14は、インクタンク13にチューブ16を介して接続されている。チューブ16には加圧ポンプ15が配置されている。リザーバ14には、インクタンク13から供給されたインクが一時的に貯留される。リザーバ14の下部は複数のヘッド11に接続されている。複数のヘッド11には、リザーバ14からインクが供給される。
【0020】
図3において矢印で示されるように、ヘッドバー40は昇降機構50により上下方向に移動可能である。また、ヘッドバー40の側方(本実施形態では右側)にはメンテナンスユニット20が配置されており、ヘッドバー40は移動機構30(
図9参照)により、印刷位置とメンテナンス位置との間で左右方向に移動可能である。印刷位置はメンテナンスユニット20から左側に離れた位置であり、プラテン3の上方位置であり、ヘッドバー40がプラテン3と対向する位置である。メンテナンス位置はメンテナンスユニット20の上方位置であり、ヘッドバー40がメンテナンスユニット20と対向する位置である。移動機構30は、ガイドレール、プーリ、及び、プーリに掛け回されヘッドバー40と接続された無端ベルト等を備え、ヘッドバー40を、印刷位置とメンテナンス位置とに、幅方向に移動させる。
【0021】
図4は、メンテナンスユニット20の一部(1つのラインヘッド10に対応する部分)を示す斜視図である。メンテナンスユニット20は、排液パン21と、排液パン21の内部に配置された複数(本実施形態では10個)の吸引ユニット22とを備える。排液パン21は矩形の箱形をなし、上面が開口している。10個の吸引ユニット22はヘッド11に対応して、千鳥状に配置されている。ヘッドバー40がメンテナンス位置にあるとき、吸引ユニット22がヘッド11と上下方向において対向する。各吸引ユニット22は、キャップ23を有している。キャップ23は、例えばゴムのような可撓性のある材料によって形成されている。キャップ23は上面が開口した矩形の箱形の形状を有している。10個のキャップ23は、不図示の吸引ポンプ及び排液タンクと接続されている。吸引ユニット22がヘッド11と上下方向において対向した状態で、後述の昇降機構50によりヘッドバー40を所定の位置まで下降させることにより、キャップ23は、ヘッド11のノズル面11bを覆うようにヘッド11に接触する。
【0022】
キャップ23がヘッド11のノズル面11bを覆うようにヘッド11に接触した状態で、不図示の吸引ポンプを駆動することにより、キャップ23とヘッド11のノズル面11bとの間の空間を減圧することができる。これにより、複数のノズル11aからそれぞれインクが吸引されて排出される。つまり、吸引パージが行われる。吸引パージにより、ノズル11a内の高粘度化したインクがノズル11aから強制的に排出される。この結果、ヘッド11の吐出特性が回復される。吸引パージによって排出されたインクは、不図示の排液タンクに貯留される。
【0023】
図4に示されるように、左右方向に並ぶ二つの吸引ユニット22の間、及び、最も左側の吸引ユニット22の左側には、それぞれワイパ24が配置されている。ワイパ24は、ゴム等の弾性体で構成されている。ワイパ24の上端がヘッド11のノズル面11bに接触した状態で、ヘッド11とワイパ24とを相対的に移動させることにより、ノズル面11bが払拭される。
【0024】
次に、ヘッドバー40の構造について、
図5、6を参照しつつ詳細に説明する。なお、
図6は、ヘッドバー40を、
図5の右側から見た図である。ヘッドバー40は、4つのラインヘッド10と、ラインヘッド10を支持する一対のアーム41と、一対のアーム41が取り付けられた板状の第1フレーム42と、第1フレーム42の下方に配置された第2フレーム43と、第2フレーム43の左右方向両端部から上方に延びる2本のシャフト44とを備える。なお、図面を簡略化するため、
図5においては、ラインヘッド10とアーム41が省略されており、
図6においては、4つのラインヘッド10のうち1つだけが図示されている。
【0025】
アーム41は、第1フレーム42の左右方向の両端部に、それぞれ1つずつ固定されている。
図6に示されるように、アーム41は前後方向に延在する第1腕部41aと、第1腕部41aの前方端部から上向きに延在する傾斜部41bと、傾斜部41bの上端から前方に延在する第2腕部41cとを有する。第2腕部41cの前端は、第1フレーム42に固定されている。一対のアーム41は第1フレーム42の左右方向の両端部に固定されているので、2つのアーム41の第1腕部41aは、左右方向に間隔を空けて対向している。2つのアーム41の第1腕部41aの間にラインヘッド10が架け渡された状態で、ラインヘッド10がアーム41の第1腕部41aに固定されている。
【0026】
2本のシャフト44はそれぞれ、第1フレーム42のリニアブッシュ42aを通って、上下方向に延在している。2本のシャフト44の下端は、それぞれ、第2フレーム43の左右方向両端部に固定されている。2本のシャフト44の上端部には、それぞれ、ストッパ44a(「第1ストッパ」の一例)が配置されている。第1フレーム42は、昇降機構50により、シャフト44に沿って上下方向に移動する。つまり、シャフト44は、第1フレーム42が上下方向に移動する際のガイドとして機能する。そして、ヘッドバー40が昇降機構50により上昇し、第1フレーム42のリニアブッシュ42aがシャフト44のストッパ44aに当接することにより、ヘッドバー40の上昇が停止する(
図7参照)。
【0027】
図5に示されるように、第1フレーム42には、昇降機構50と調整機構60とが配置されている。昇降機構50は、ラインヘッド10を含むヘッドバー40を上下方向に移動させる。調整機構60は、昇降機構50によって上下方向に移動したヘッドバー40(ラインヘッド10)の上下方向の位置を調整する。昇降機構50は、一対のエアシリンダ51と、エアシリンダ51にエアを供給する不図示のエア供給システムを備えている。一対のエアシリンダ51は、左右方向において、一対のシャフト44の内側であって、調整機構60から等間隔に離れた位置に配置されている。なお、調整機構60は、左右方向における、ヘッドバー40のほぼ中央に配置されている。エアシリンダ51は、筒状の本体51aと、エア圧によって本体51aから下方に突出するロッド51bとを有する。本体51aは第1フレーム42に固定されており、ロッド51bの先端は第2フレーム43に固定されている。ロッド51bが本体51aから突出するようにエアシリンダ51を駆動すると、その反力によって、本体51a及び本体51aを固定している第1フレーム42が、シャフト44に沿って上方に移動する(
図5の状態から
図7の状態への変化)。一方、ロッド51bが本体51aに収まるようにエアシリンダ51を駆動すると、第1フレーム42が、シャフト44に沿って下方に移動する(
図7の状態から
図5の状態への変化)。第1フレーム42にはアーム41が固定されており、アーム41にはラインヘッド10が固定されている。そのため、第1フレーム42がシャフト44に沿って上下方向に移動することにより、ラインヘッド10も上下方向に移動する。
【0028】
調整機構60は、第1フレーム42に固定された架台61と、モータ62と、モータ62の回転軸に取り付けられた回転体70と、第2フレーム43に固定されたストッパ65(「第2ストッパ」の一例)とを備える。架台61の下端は第1フレーム42に固定されており、架台61の上部にはモータ62が固定されている。モータ62の回転軸には、カップリングを介して回転体70が取り付けられている。第1フレーム42には不図示の貫通孔が形成されており、回転体70は貫通孔を通って第1フレーム42の下方に延びている。モータ62を駆動することにより、回転体70をモータ62の回転軸の周りに回転させることができる。
【0029】
図8(a)、(b)に示されるように、回転体70は、円筒形状のベース71と、ベース71の下面に配置された5本のロッド72~76を備える。5本のロッド72~76は、互いに長さが異なる円柱形状の部材であり、この順番に長くなっている。ロッド72~76は、ベース71の下面において、この順番で周方向に並んで配置されている。
【0030】
図5、7に示されるように、ストッパ65の下端は第2フレーム43に固定されている。ストッパ65は回転体70と上下方向に対向する位置に配置されている。モータ62を駆動して、回転体70をモータ62の回転軸の周りに回転させることにより、ロッド72~76のいずれか1つが、ストッパ65に対向する。エアシリンダ51を駆動して、第1フレーム42をシャフト44に沿って最も上方に移動させた状態(
図7の状態)で、ロッド72~76のいずれか1つが、ストッパ65に対向するように、回転体70を回転させる。その後、エアシリンダ51により、第1フレーム42がシャフト44に沿って下降し、ロッド72~76の1つとストッパ65とが当接することにより、第1フレーム42の下降が停止する(
図5の状態)。これにより、第1フレーム42及びラインヘッド10の、上下方向の位置を精確に位置決めすることができる。なお、本実施形態において、ロッド72~76は、ステンレス鋼により形成されており、ストッパ65は焼き入れされたステンレス鋼により形成されている。そのため、ストッパ65の硬度はロッド72~76の硬度よりも高い。
【0031】
本実施形態において、ロッド72の上下方向の長さはおよそ30mmであり、ロッド72の下端がストッパ65と当接した場合、ラインヘッド10が最も下方に位置づけられる。本明細書においては、ロッド72とストッパ65とが当接している場合における、ラインヘッド10の上下方向の位置を、第1印刷位置と呼ぶ。印刷用紙Pが普通紙のような薄いシートである場合には、印刷用紙Pへの印刷の際に、ラインヘッド10が第1印刷位置に位置づけられる。
【0032】
本実施形態において、ロッド73の上下方向の長さはおよそ32mmである。ロッド73の下端がストッパ65と当接した場合、ロッド72の下端がストッパ65と当接した場合と比べて、ラインヘッド10の下面とプラテン3の上面との間の間隔が大きくなる。本明細書においては、ロッド73とストッパ65とが当接している場合における、ラインヘッド10の上下方向の位置を、第2印刷位置と呼ぶ。印刷用紙Pへの印刷の際、印刷用紙Pが普通紙よりも厚手のシートである場合には、ラインヘッド10が第2印刷位置に位置づけられる。
【0033】
本実施形態において、ロッド74の上下方向の長さはおよそ105mmである。ロッド74の下端がストッパ65と当接した場合、ロッド73の下端がストッパ65と当接した場合と比べて、ラインヘッド10の下面とプラテン3の上面との間の間隔が大きくなる。本明細書においては、ロッド74とストッパ65とが当接している場合における、ラインヘッド10の上下方向の位置を、キャップ位置と呼ぶ。ラインヘッド10がキャップ位置にあるとき、キャップ23の先端がヘッド11の下面に当接する。これにより、キャップ23がヘッド11のノズル面11bを覆うことができ、ヘッド11のノズル11a内のインクの乾燥を防ぎ、ノズル11a内に異物が混入することを防ぐことができる。
【0034】
本実施形態において、ロッド75の上下方向の長さはおよそ108mmである。ロッド75の下端がストッパ65と当接した場合、ロッド74の下端がストッパ65と当接した場合と比べて、ラインヘッド10の下面とプラテン3の上面との間の間隔が大きくなる。本明細書においては、ロッド75とストッパ65とが当接している場合における、ラインヘッド10の上下方向の位置を、ワイプ位置と呼ぶ。ラインヘッド10がキャップ位置にあるとき、ワイパ24の先端がラインヘッド10の下面に当接する。この状態で移動機構30によりヘッドバー40を左右方向に移動させることにより、ワイパ24がヘッド11の下面(つまり、ノズル11aの開口が形成される面)を払拭することができる。
【0035】
本実施形態において、ロッド76の上下方向の長さはおよそ115mmである。ロッド76の下端がストッパ65と当接した場合、ロッド75の下端がストッパ65と当接した場合と比べて、ラインヘッド10の下面とプラテン3の上面との間の間隔が大きくなる。本明細書においては、ロッド76とストッパ65とが当接している場合における、ラインヘッド10の上下方向の位置を、待避位置と呼ぶ。ラインヘッド10が待避位置にあるとき、ラインヘッド10の下面とプラテン3の上面との間の間隔が充分大きくなるため、ラインヘッド10の下面は筐体2の内部に配置された他の部材と干渉しない。
【0036】
図9に示すように、コントローラ7は、CPU(Central Processing Unit)7aの他に、ROM(Read Only Memory)7b、RAM(Random Access Memory)7c、不揮発性メモリ7d等を備える。ROM7bには、CPU7aが各種動作を制御するためのプログラム及び各種データ等が格納されている。RAM7cは、CPU7aが上記プログラムを実行する際に用いるデータや信号等を一時的に記憶する記憶領域、又は、データ処理を実行する際の作業領域として使用される。不揮発性メモリ7dとしては、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read-Only Memory)を用いることができる。なお、CPU7aに代えてMPU(Microprocessor Unit)又はFPGA(Field Programmable Gate Array)を使用してもよい。
【0037】
コントローラ7は、搬送ローラ5A、5B、4つのラインヘッド10、メンテナンスユニット20、移動機構30、昇降機構50、調整機構60、操作部80、タイマTM、及びスプライスセンサSSのそれぞれと、電気的に接続されている。コントローラ7は、外部装置9又は操作部80からの指示や、スプライスセンサSSから出力された信号に基づいて、搬送ローラ5A、5B、4つのラインヘッド10、メンテナンスユニット20、移動機構30、昇降機構50、調整機構60の動作を制御する。
【0038】
次に、コントローラ7による、移動機構30、昇降機構50、及び調整機構60の制御手順について、
図10を参照しつつ説明する。なお、本明細書においては、ヘッドバー40が昇降機構50によって上昇し、第1フレーム42のリニアブッシュ42aがシャフト44のストッパ44aに当接する際のヘッドバー40の位置を、上昇目標位置と呼ぶ。つまり、上昇目標位置とは、ヘッドバー40の上昇が停止する位置を意味する。一方、ヘッドバー40が昇降機構50によって下降し、ロッド72~76のいずれか1つとストッパ65とが当接する際のヘッドバー40の位置を、下降目標位置と呼ぶ。つまり、下降目標位置とは、ヘッドバー40の下降が停止する位置を意味する。また、本明細書においては、下降目標位置が、第1印刷位置又は第2印刷位置である場合、下降目標位置が第1範囲内であると定義し、下降目標位置が、キャップ位置、ワイプ位置、又は退避位置である場合、下降目標位置が第2範囲内であると定義する。
【0039】
図10に示す制御手順は、コントローラ7が、外部装置9又は操作部80からの指示(「制御指示」の一例)、あるいはスプライスセンサSSから出力された信号を受け付けることにより、開始される。コントローラ7が、外部装置9又は操作部80からの指示、あるいはスプライスセンサSSから出力された信号を受け付けると、コントローラ7は、昇降機構50のエアシリンダ51を制御して、ヘッドバー40を上昇目標位置まで上昇させる(S10)。なお、外部装置9又は操作部80からの指示には、例えば、メンテナンス位置にあるヘッドバー40に対する印刷指示、印刷位置にあるヘッドバー40に対するメンテナンス指示、媒体Mの種類(厚み)の変更指示等が含まれる。また、上述したように、本実施形態の媒体Mは、複数枚の記録用紙の端部どうしがテープ等でつなぎ合わされることにより構成された長尺な媒体でもよい。このような媒体Mを搬送しながら印刷している最中に、ヘッドバー40のノズル面11bがつなぎ目のテープ等と接触して損傷すると、印刷品質に悪影響を及ぼすおそれがある。そこで、本実施形態では、スプライスセンサSSがつなぎ目を検出して信号を出力した場合、コントローラ7は、ヘッドバー40を上昇目標位置まで上昇させ、つなぎ目がヘッドバー40の下方を通過した後に、ヘッドバー40を第1印刷位置又は第2印刷位置まで下降させて、印刷を再開する。
【0040】
ヘッドバー40が上昇目標位置に到達すると、コントローラ7は昇降機構50のエアシリンダ51を制御してヘッドバー40の上昇を停止するとともに、タイマTMを起動してタイムカウントを開始する(S20)。なお、シャフト44のストッパ44aには不図示のセンサが配置されている。当該センサは、第1フレーム42のリニアブッシュ42aがストッパ44aに当接すると、コントローラ7に対して信号を出力する。当該信号を受け付けると、コントローラ7は、昇降機構50によるヘッドバー40の上昇を停止させる。また、コントローラ7は、ヘッドバー40の上昇が停止する際の衝撃で、ヘッドバー40のノズル11aに形成されたインクのメニスカスが破壊されない程度の速度で、ヘッドバー40を上昇させる。
【0041】
次に、コントローラ7は、外部装置9又は操作部80からの指示、あるいはスプライスセンサSSから出力された信号に基づいて、下降目標位置の調整が必要か否か判断する(S30)。下降目標位置の調整とは、例えば、ヘッドバー40の上下方向の位置を第1印刷位置から第2印刷位置に変更する場合のように、調整機構60の回転体70を回転させて、ストッパ65と当接させるロッドを変えることを意味する。
【0042】
下降目標位置の調整が不要と判断した場合(S30:NO)、コントローラ7は、外部装置9又は操作部80からの指示、あるいはスプライスセンサSSから出力された信号に基づいて、下降目標位置が第1範囲内であるか、第2範囲内であるか判断する(S40)。ここで、下降目標位置が第1範囲内である場合、上昇目標位置から下降目標位置までの上下方向の距離は、下降目標位置が第2範囲内である場合と比べて長い。このため、下降目標位置が第1範囲内である場合、ヘッドバー40が上昇目標位置から下降目標位置まで下降するのに要する時間も、下降目標位置が第2範囲内である場合と比べて長くなる。これとは逆に、下降目標位置が第2範囲内である(つまり第1範囲内ではない)場合、上昇目標位置から下降目標位置までの上下方向の距離は、下降目標位置が第1範囲内である場合と比べて短い。このため、下降目標位置が第2範囲内である場合、ヘッドバー40が上昇目標位置から下降目標位置まで下降するのに要する時間も、下降目標位置が第1範囲内である場合と比べて短くなる。
【0043】
下降目標位置が第2範囲内である(つまり第1範囲内ではない)と判断した場合(S40:NO)、コントローラ7は、タイマTMによるタイムカウントが所定時間を経過したか判断する(S50)。ここで、所定時間とは、エアシリンダ51の本体51aの内圧が安定するのに要する時間を意味しており、例えば本実施形態では4秒である。所定時間が経過していない場合(S50:NO)、コントローラ7は、昇降機構50のエアシリンダ51を制御して、所定時間が経過するまでヘッドバー40を上昇目標位置に維持する。
【0044】
そして、所定時間が経過した場合(S50:YES)、コントローラ7は、タイマTMを停止させてタイムカウントを終了し(S60)、昇降機構50のエアシリンダ51を制御してヘッドバー40を下降目標位置まで下降させ(S70)、制御手順を終了する。なお、ストッパ65には不図示のセンサが配置されている。当該センサは、調整機構60が有するロッド72~76のいずれかがストッパ65に当接すると、コントローラ7に対して信号を出力する。この信号を受け付けると、コントローラ7は、昇降機構50によるヘッドバー40の下降を停止させる。また、コントローラ7は、ヘッドバー40が下降目標位置に到達して下降を停止する際の衝撃で、ヘッドバー40のノズル11aに形成されたインクのメニスカスが破壊されない程度の速度で、ヘッドバー40を下降させる。
【0045】
ステップS40において、下降目標位置が第1範囲内であると判断した場合(S40:YES)、コントローラ7は、ステップS50の処理は実行せず(つまり、ヘッドバー40を上昇目標位置に所定時間維持することなく)、ステップS60以降の処理を実行する。
【0046】
ステップS30において、下降目標位置の調整が必要と判断した場合(S30:YES)、コントローラ7は、外部装置9又は操作部80からの指示、あるいはスプライスセンサSSから出力された信号に基づいて、下降目標位置を調整する(S80)。具体的には、コントローラ7は、調整機構60のモータ62を制御して回転体70を回転させる。これにより、コントローラ7は、ステップS10でヘッドバー40を上昇させる前にストッパ65と当接していたロッドを、別のロッドに変更する。なお、下降目標位置を調整する際は、回転体70を回転させて、ストッパ65と当接させるロッドを変更するための時間が必要であり、例えば本実施形態では最大で1秒を要する。
【0047】
下降目標位置を調整した後、コントローラ7は、外部装置9又は操作部80からの指示、あるいはスプライスセンサSSから出力された信号に基づいて、移動機構30によるヘッドバー40の移動が必要か判断する(S90)。例えば、操作部80からメンテナンス指示が入力された場合や、ヘッドバー40のメンテナンスが終了して印刷を開始する場合等に、ヘッドバー40を印刷位置とメンテナンス位置との間で幅方向に移動させる必要がある。ヘッドバー40の移動が必要と判断した場合(S90:YES)、コントローラ7は、移動機構30を制御してヘッドバー40を、印刷位置からメンテナンス位置に、あるいは、メンテナンス位置から印刷位置に移動し(S100)、その後、ステップS40以降の処理を実行する。なお、移動機構30を制御してヘッドバー40を、印刷位置からメンテナンス位置に、あるいは、メンテナンス位置から印刷位置に移動させるには、例えば本実施形態では8秒を要する。
【0048】
ステップS90において、ヘッドバー40の移動が不要と判断した場合(S90:NO)、コントローラ7は、ステップS40以降の処理を実行する。
【0049】
上記実施形態によれば、コントローラ7は、ヘッドバー40を上昇目標位置まで上昇させ(S10)、その後、下降目標位置が第1範囲内であるか判断する(S40)。そして、下降目標位置が第1範囲内ではない(つまり、下降目標位置に到達するまでの時間が短い)と判断した場合(S40:NO)、コントローラ7は、所定時間が経過するまでヘッドバー40を上昇目標位置に維持し、所定時間が経過後にヘッドバー40を下降目標位置まで下降させる(S70)。このため、所定時間の間に、エアシリンダ51の本体51aの内圧を安定させることができ、ヘッドバー40の移動を上昇から下降に切り替える際の、ヘッドバー40の下方への飛び出しを防ぐことができる。一方、下降目標位置が第1範囲内である場合、下降目標位置が第2範囲内である場合と比べて上昇目標位置からの距離が長い。このため、ヘッドバー40の移動を上昇から下降に切り替える際に、ヘッドバー40が下方に飛び出したとしても、回転体70のロッド72又は73はストッパ65と衝突せず、ノズル11aには衝撃は加わらない。そこで、本実施形態では、下降目標位置が第1範囲内であると判断した場合(S40:YES)、コントローラ7は、所定時間が経過するまで待つことなく、ヘッドバー40を下降目標位置まで下降させる(S70)。これにより、不要な待ち時間の発生を防ぐことができる。
【0050】
上記実施形態では、スプライスセンサSSが媒体Mのつなぎ目を検出した場合、コントローラ7は、ヘッドバー40を上昇目標位置まで上昇させる。そして、媒体Mのつなぎ目がヘッドバー40の下方を通過した後、コントローラ7は、ヘッドバー40を第1印刷位置又は第2印刷位置まで下降させて、印刷を再開する。つまり、スプライスセンサSSから出力された信号に基づいて、ヘッドバー40を上昇目標位置まで上昇させた場合、コントローラ7は、下降目標位置が第1範囲内であると判断する(S40:YES)。そして、コントローラ7は、所定時間が経過するまで待つことなく、ヘッドバー40を第1印刷位置又は第2印刷位置まで下降させる。このため、ヘッドバー40の移動を上昇から下降に切り替える際の、ヘッドバー40の下方への飛び出しを防ぐとともに、不要な待ち時間の発生を防ぐことができる。そして、不要な待ち時間が発生しないため、媒体Mに対して印刷が行われないまま媒体Mが搬送される時間を短くすることができる。つまり、媒体Mを効率よく使用することができる。
【0051】
上記実施形態では、下降目標位置の調整が必要と判断した場合(S30:YES)、コントローラ7は、調整機構60のモータ62を制御して回転体70を回転させることにより、下降目標位置を調整する(S80)。そしてさらに、下降目標位置が第1範囲内ではない(つまり、下降目標位置に到達するまでの時間が短い)と判断した場合(S40:NO)、コントローラ7は、所定時間が経過するまでヘッドバー40を上昇目標位置に維持し、所定時間が経過後にヘッドバー40を下降目標位置まで下降させる(S70)。つまり、コントローラ7は、所定時間内に、下降目標位置の調整を行う。このため、ヘッドバー40の移動を上昇から下降に切り替える際の、ヘッドバー40の下方への飛び出しを防ぐとともに、所定時間の他に、下降目標位置を調整するための時間がかかるのを防ぐことができる。
【0052】
上記実施形態では、移動機構30によるヘッドバー40の移動が必要と判断した場合(S90:YES)、コントローラ7は、移動機構30を制御してヘッドバー40を幅方向に移動する(S100)。ここで、移動機構30によりヘッドバー40を印刷位置からメンテナンス位置、あるいはメンテナンス位置から印刷位置への移動に要する時間は、所定時間よりも長い。このため、移動機構30による移動後、下降目標位置が第1範囲内ではないと判断した場合も(S40:NO)、コントローラ7は、所定時間が経過していると判断し(S50:YES)、ヘッドバー40を下降目標位置まで下降させる(S70)。この結果、ヘッドバー40の移動を上昇から下降に切り替える際の、ヘッドバー40の下方への飛び出しを防ぐとともに、不要な待ち時間の発生を防ぐことができる。
【0053】
今回開示した実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではない。上記実施形態で示された各構成は、全てが必須のものではなく、必要に応じて構成を省略することができる。例えば、ラインヘッド10の数や配置、1つのラインヘッドに含まれるヘッド11の数や配置等は適宜変更しうる。また、各ヘッド11に含まれるノズル11aの数や配置等も適宜変更しうる。
【0054】
上記実施形態において、移動機構30、昇降機構50、調整機構60の構造、形状、材質等は適宜変更しうる。例えば、上記実施形態において、調整機構60の回転体70は5本のロッド72~76を備えていた。しかしながら、本発明はこのような態様には限られず、回転体が4本以下、又は6本以上のロッドを有していてもよい。また、上記実施形態においては、回転体70のロッド72~76はステンレス鋼で形成され、ストッパ65は焼き入れされたステンレス鋼で形成されていた。しかしながら、本発明はこのような態様には限られない。ロッド及びストッパは適宜の材料で形成することができる。但し、ストッパの硬度はロッドの硬度よりも大きいことが好ましい。
【0055】
また、本発明はインクを吐出するインクジェット形式の印刷装置には限られない。また、画像等の印刷以外の様々な用途で使用される印刷装置においても本教示は適用されうる。例えば、基板に導電性の液体を吐出して、基板表面に導電パターンを形成する印刷装置にも、本教示を適用することは可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲内での全ての変更及び特許請求の範囲と均等の範囲が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0056】
1 プリンタ
7 コントローラ
10 ラインヘッド
11a ノズル
20 メンテナンスユニット
30 移動機構
40 ヘッドバー
50 昇降機構
51 エアシリンダ
60 調整機構
70 回転体
72~76 ロッド
SS スプライスセンサ
TM タイマ