(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148067
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】破砕チップ
(51)【国際特許分類】
A61F 9/007 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A61F9/007 130B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055909
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000135184
【氏名又は名称】株式会社ニデック
(74)【代理人】
【識別番号】100166785
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 智也
(74)【代理人】
【識別番号】100184550
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 珠美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 寿敏
(57)【要約】
【課題】手術時の安全性と眼組織の破砕力を共に確保することが可能な破砕チップを提供する。
【解決手段】破砕チップ1Aは、超音波振動が付与されることで眼組織を破砕する。破砕チップ1Aの破砕部20Aは、先端が開放された筒状の部材であり、眼組織に接触して眼組織を破砕すると共に、破砕された眼組織を、先端に位置する環状の開口端22Aから内部の吸引流路に導く。破砕部20Aの開口端22Aにおける環状の内縁26Aの少なくとも一部に、鋭利なエッジ部25Aが形成されている。さらに、破砕部20Aの開口端22Aにおける環状の外縁26Aの少なくとも一部に、鋭利な角部が除去された形状の非鋭利部27Aが形成されている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波振動が付与されることで眼組織を破砕する破砕チップであって、
先端が開放された筒状の部材であり、前記眼組織を破砕すると共に、破砕された前記眼組織を、先端に位置する環状の開口端から内部の吸引流路に導く破砕部を備え、
前記開口端における環状の内縁の少なくとも一部に、鋭利なエッジ部が形成されており、
前記開口端における環状の外縁の少なくとも一部に、鋭利な角部が除去された形状の非鋭利部が形成されていることを特徴とする破砕チップ。
【請求項2】
請求項1に記載の破砕チップであって、
前記破砕部のうち先端側を向く先端面が、筒状である前記破砕部の中心軸に対して傾斜しており、
前記開口端における環状の前記内縁のうち、少なくとも最も基端側に前記エッジ部が形成されており、
前記開口端における環状の前記外縁のうち、少なくとも最も先端側に前記非鋭利部が形成されていることを特徴とする破砕チップ。
【請求項3】
請求項2に記載の破砕チップであって、
前記開口端の前記外縁の、先端側端部から基端側端部までの領域のうち、前記先端側端部から少なくとも30%以上の領域に前記非鋭利部が形成されていることを特徴とする破砕チップ。
【請求項4】
請求項2または3に記載の破砕チップであって、
前記開口端における前記外縁の全周のうち、最も先端側を含む一部の領域に、前記非鋭利部が形成されていることを特徴とする破砕チップ。
【請求項5】
請求項2または3に記載の破砕チップであって、
前記開口端における前記外縁の全周に前記非鋭利部が形成されていることを特徴とする破砕チップ。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の破砕チップであって、
前記破砕チップは、回転軸を中心とする回転方向の振動を含む超音波振動が付与されることで眼組織を破砕し、
前記回転軸の方向に延びる筒状の軸部をさらに備え、
前記破砕部は、前記軸部の軸に対して中心軸が傾斜した状態で前記軸部の先端部に接続されることを特徴とする破砕チップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波振動が付与されることで眼組織を破砕する破砕チップに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、白内障によって白濁した水晶体等の眼組織を破砕して吸引する場合等に、破砕チップが使用される。破砕チップは、超音波振動によって眼組織を破砕する。破砕されて乳化した眼組織は、破砕チップ内の吸引経路を通じて吸引される。
【0003】
破砕チップの破砕力が増大すれば、手術が円滑に行われ易くなる。従って、破砕チップによる眼組織の破砕力を増大させるための種々の試みが行われている。例えば、特許文献1に記載の破砕チップは、軸部と破砕部を備える。軸部は、回転軸を中心軸として筒状に形成される。破砕部は、軸部に対して回転軸と交差する傾斜軸の方向に折り曲げられ、軸部の先端に接続される。回転軸に対して先端の破砕部を折り曲げることで、破砕部には、回転軸に沿う前後方向の振動に加え、回転軸を中心とする捩れ振動が生じる。これにより、先端部まで直線状に形成された破砕チップ(ストレートチップ)に比べて破砕力を増大させることを目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
破砕チップのうち、眼組織に接触する先端部を鋭利な形状とすれば、破砕力は向上する。しかし、先端部の鋭利な部分を単純に増やすだけでは、破砕せずに保持する必要のある組織(例えば、水晶体後嚢等)が、破砕チップの鋭利な部分によって傷つけられてしまう可能性が増加する。従って、手術中の安全性が低下することを抑制しつつ、破砕チップの破砕力を確保できることが望ましい。
【0006】
本開示の典型的な目的は、手術時の安全性と眼組織の破砕力を共に確保することが可能な破砕チップを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示における典型的な実施形態が提供する破砕チップは、超音波振動が付与されることで眼組織を破砕する破砕チップであって、先端が開放された筒状の部材であり、前記眼組織を破砕すると共に、破砕された前記眼組織を、先端に位置する環状の開口端から内部の吸引流路に導く破砕部を備え、前記開口端における環状の内縁の少なくとも一部に、鋭利なエッジ部が形成されており、前記開口端における環状の外縁の少なくとも一部に、鋭利な角部が除去された形状の非鋭利部が形成されている。
【0008】
本開示に係る破砕チップによると、手術時の安全性と眼組織の破砕力が共に確保され易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】破砕チップ1が装着されたUSハンドピース2の右側面図(一部断面図)である。
【
図2】第1実施形態の破砕チップ1Aを右斜め上方から見た斜視図である。
【
図3】第1実施形態の破砕チップ1Aの先端部近傍の右側面図である。
【
図4】第1実施形態の破砕チップ1Aの先端部近傍を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図5】
図4の破砕チップ1Aに対し、エッジ部25Aおよび非鋭利部27Aの領域を示した斜視図である。
【
図6】第2実施形態の破砕チップ1Bの先端部近傍を右斜め上方から見た斜視図である。
【
図7】第3実施形態の破砕チップ1Cの先端部近傍の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
本開示で例示する破砕チップは、超音波振動が付与されることで眼組織を破砕する。破砕チップの破砕部は、先端が開放された筒状の部材であり、眼組織に接触して眼組織を破砕すると共に、破砕された眼組織を、先端に位置する環状の開口端から内部の吸引流路に導く。破砕部の開口端における環状の内縁の少なくとも一部に、鋭利なエッジ部が形成されている。さらに、破砕部の開口端における環状の外縁の少なくとも一部に、鋭利な角部が除去された形状の非鋭利部が形成されている。
【0011】
破砕部の先端に位置する開口端の外縁は、内縁に比べて、破砕せずに保持する必要のある組織(以下、「保持対象組織」という)に接触し易い。一方で、開口端の内縁は、外縁に比べて保持対象組織に接触し難く、且つ、吸引流路に向けて吸引される破砕対象組織に接触し易い。さらに、破砕部の外縁によって破砕された組織は、内縁によって破砕された組織に比べて、開口端から吸引されずに周囲に飛散してしまいやすい。破砕された組織が吸引されずに飛散してしまうと、手術の効率が低下する。これに対し、開口端の内縁の少なくとも一部にエッジ部を形成し、且つ、外縁の少なくとも一部に非鋭利部を形成することで、外縁が保持対象組織に接触した際の安全性が向上し、且つ、内縁による破砕対象組織の破砕力が増大する。また、破砕された組織が飛散せずに、開口端から吸引され易くなる。その結果、手術時の安全性と眼組織の破砕力が共に確保され易くなる。
【0012】
なお、本開示におけるエッジ部は、筒状である破砕部の軸を含む断面において、角部の頂点の角度が規定角度以下(規定角度は90度、より望ましくは60度)であり、且つ、頂点を丸めるためのフィレット加工等が施されていない部位である。規定角度は90度であってもよい。筒状の部材を軸に対して垂直に切断するだけで、開口端の内縁における角部の角度が90度となるので、内縁の全周に容易にエッジ部が形成される。より望ましくは、規定角度は60度以下であってもよい。この場合、開口端に吸引された破砕対象組織が、エッジ部によってさらに破砕され易くなる。
【0013】
開口端の内縁にエッジ部を形成するための具体的な方法は、適宜選択できる。例えば、筒状の部材(例えば金属部材)を、軸に交差する方向に切断することで、破砕部の開口端が形成される。この場合、形成された開口端の内縁のうち、前述した角部の頂点の角度が規定角度以下となっている部位が、そのままエッジ部とされてもよい。また、筒状の部材を切断した後に、内縁の少なくとも一部に対して研磨加工等を行うことで、エッジ部が形成されてもよい。
【0014】
また、開口端の内縁のうち、角部の頂点の角度が規定角度よりも大きい部分の少なくとも一部に、角部の頂点を鋭くする加工(例えば研磨加工等)を施してもよい。この場合、開口端の内縁のうち、角部の頂点の角度が規定角度以下である部分に加えて、角度が規定角度よりも大きい部分でも破砕対象組織が破砕され易くなる。また、前述したように、開口端の内縁は、外縁に比べて保持対象組織に接触し難い。従って、安全性が維持された状態で、内縁による破砕対象組織の破砕力がさらに増大する。
【0015】
また、開口端の外縁の少なくとも一部に非鋭利部を形成するための具体的な方法も、適宜選択できる。例えば、外縁の少なくとも一部の角部に対し、頂点を丸めるためのフィレット加工、または、頂点を切り削ぐ面取り加工等を行うことで、外縁に非鋭利部が形成されてもよい。フィレット加工を行う場合、例えば、破砕部の開口端のうち、非鋭利部を形成しない部位(特に、開口端の内縁)にマスキングを施した後に、開口端に対するブラスト加工を行ってもよい。この場合、開口端における適切な部分に非鋭利部が形成される。また、面取り加工にも、例えば旋盤加工、フライス加工、ドリル加工、ヤスリ加工、サンダー加工等の種々の方法を採用できる。
【0016】
破砕部のうち先端側を向く先端面が、筒状である破砕部の中心軸に対して傾斜していてもよい。開口端における環状の内縁のうち、少なくとも最も基端側にエッジ部が形成されていてもよい。開口端における環状の外縁のうち、少なくとも最も先端側に非鋭利部が形成されていてもよい。破砕部の先端部を、中心軸に対して斜めに切断すると、開口端の内縁のうち基端側の部分には、自動的に鋭利なエッジ部が形成される。一方で、開口端の外縁のうち先端側の部分は、切断が完了した時点では鋭利な形状となるが、外縁における少なくとも最も先端側に非鋭利部が形成されることで、外縁によって保持対象組織が傷付くことが抑制される。よって、手術時の安全性と眼組織の破砕力が、より適切に確保される。
【0017】
開口端の外縁の先端側端部から基端側端部までの領域のうち、先端側端部から少なくとも30%以上の領域に非鋭利部が形成されていてもよい。この場合、開口端の外縁のうち、切断加工を行った際に鋭利な形状となる部位に、適切に非鋭利部が形成される。よって、外縁によって保持対象組織が傷付くことが、より適切に抑制される。
【0018】
開口端における外縁の全周のうち、最も先端側を含む一部の領域に非鋭利部が形成されていてもよい。非鋭利部を形成する部位では、非鋭利部を形成しない部位に比べて部材の厚みが減少する場合もある。しかし、外縁のうち、最も先端側を含む一部の領域にのみ非鋭利部を形成することで、開口端の強度の低下が抑制された状態で、外縁における適切な部分に非鋭利部が形成される。また、面取り加工等によって非鋭利部を形成する場合には、非鋭利部の加工領域を外縁の一部に限定することで、加工作業の負担も増加し難くなる。
【0019】
開口端における外縁の全周に非鋭利部が形成されていてもよい。この場合、保持対象組織に接触し易い開口端の外縁の全周が非鋭利となるので、安全性がさらに向上する。また、破砕チップを製造する際に、先端が切断された破砕部の一部にマスキングを施し、マスキングが施されていない部分をブラスト加工等によって非鋭利部とする方法もある。この場合、外縁の一部にのみマスキングを行う方法に比べて、マスキングの工程が簡素化される。また、外縁の全周に非鋭利部が形成される場合には、破砕部の外縁によって破砕された組織が、開口端から吸引されずに周囲に飛散してしまう可能性もさらに低下する。
【0020】
破砕チップは、回転軸を中心とする回転方向の振動を含む超音波振動が付与されることで眼組織を破砕してもよい。破砕チップは、回転軸の方向に延びる筒状の軸部をさらに備えてもよい。破砕部は、軸部の軸に対して中心軸が傾斜した状態で軸部の先端部に接続されていてもよい。この場合、回転方向の振動を含む超音波振動によって、軸部に対して屈曲している破砕部が駆動されるので、高い破砕力が確保され易い。一方で、軸部に対して屈曲した破砕部が回転方向に移動すると、これは外縁が延びる方向と平行な動きとなる。これにより、回転方向の振動では、破砕部の開口端の外縁によって、保持対象組織が切断されてしまう可能性が高くなる。また、開口端の外縁によって破砕された組織が、開口端から吸引されずに周囲に飛散してしまう可能性は、回転方向の振動を含む超音波振動を用いる場合にはさらに増加する。これに対し、本開示の技術によると、開口端の外縁の少なくとも一部に非鋭利部が形成されるので、破砕部が回転方向に移動しても、保持対象組織が切断されてしまう可能性が低下する。開口端の外縁によって破砕された組織が、開口端から吸引されずに周囲に飛散してしまう可能性も低下する。よって、手術時の安全性と眼組織の破砕力が、より適切に確保され易くなる。
【0021】
なお、軸部に対して傾斜している破砕部の先端面が、回転軸に対して傾斜していてもよい。この場合、回転方向の振動を含む超音波振動によって高い破砕力が確保されると共に、開口端の外縁による保持対象組織の損傷が、非鋭利部によって抑制される。よって、より適切に手術が行われ易くなる。
【0022】
ただし、本開示の技術を、軸方向の超音波振動(所謂「縦振動」)によって眼組織を破砕する超音波チップに適用することも可能である。また、破砕部の先端面が、破砕部の中心軸、または回転軸に対して傾斜していない(つまり、軸に対して垂直な)破砕チップに、本開示の技術を適用することも可能である。これらの場合でも、開口端の外縁が保持対象組織に接触した際の安全性と、内縁による破砕対象組織の破砕力が、共に確保される。
【0023】
<実施形態>
(USハンドピース)
以下、本開示に係る典型的な実施形態について、図面を参照して説明する。まず、
図1を参照して、本実施形態の破砕チップ1(1A,1B,1C,1D)が装着されるUSハンドピース2について説明する。USハンドピース2は、先端側に装着された破砕チップ1に超音波振動を付与することで、眼組織(本実施形態では、白内障によって白濁した患者眼の水晶体核)を破砕して乳化し、破砕した眼組織を吸引して除去する。
【0024】
図1に示すように、USハンドピース2は、ハンドピース本体3とスリーブ6を備える。ハンドピース本体3は、ホーン4および吸引流路5を備える。ホーン4の先端には、破砕チップ1が着脱可能に装着される。ホーン4は、振動子(図示せず)が発生させた超音波振動を増幅させて、先端に装着された破砕チップ1に伝導させる。吸引流路5は、ホーン4の先端から内部を通過し、後端側へ延びる。ホーン4の先端に破砕チップ1が装着されると、ハンドピース本体3の吸引流路5は、破砕チップ1の吸引流路11(
図3参照)に接続される。破砕チップ1によって破砕された眼組織と、眼内に供給された灌流液(例えば生理食塩水等)は、吸引装置(図示せず)が発生させる吸引力によって、吸引流路5を通じて眼内から基端側に吸引される。スリーブ6は、筒状(例えば円筒状)に形成され、ハンドピース本体3の先端部に着脱可能に装着される。スリーブ6は、適度な軟性を有するシリコン樹脂等の材質によって形成される。スリーブ6は、破砕チップ1の先端を露出させた状態で、破砕チップ1の基端側を覆う。
【0025】
(破砕チップ)
破砕チップ1(1A,1B,1C)について説明する。以下では、第1実施形態の破砕チップ1A(
図2~
図5参照)、第2実施形態の破砕チップ1B(
図6参照)、および第3実施形態の破砕チップ1C(
図7参照)を例示して説明を行う。
【0026】
本実施形態で例示する3つの破砕チップ1A,1B,1Cでは、先端の破砕部20A,20B,20Cの詳細な構成(後述する鋭利部および非鋭利部の構成)は互いに異なるが、軸部10の構成、および、破砕部20A,20B,20Cの一部の構成は共通する。従って、まず、第1実施形態の破砕チップ1Aを例示して、3つの破砕チップ1(1A,1B,1C)の間で共通する構成について説明を行う。破砕チップ1は、適切な剛性および耐熱性を有する材質(例えばチタン合金等)によって形成されている。
【0027】
図2~
図5に示すように、破砕チップ1は、軸部10と破砕部20Aを備える。軸部10の形状は、筒状(典型的には円筒状)である。つまり、軸部10は、直線状に延びる中空の細管である。本実施形態では、筒状である軸部10の中心軸O1は、破砕チップ1の回転軸Rに一致する。破砕チップ1に超音波振動が付与されると、軸部10は、回転軸Rを中心として所定角度の範囲内を往復回転する。本実施形態の軸部10における、中心軸O1に垂直な断面の形状は、中心軸O1に対して対称である。従って、破砕チップ1に捩れ振動が生じても、軸部10には灌流液からの水圧が加わり難い。
【0028】
図3に示すように、筒状である軸部10の内側には、破砕部20Aによって破砕された眼組織と、眼内に供給された灌流液が通過する吸引流路11が形成される。
図2に示すように、軸部10の基端部には、破砕チップ1をUSハンドピース2におけるホーン4(
図1参照)の先端に着脱可能に装着する着脱部12が形成されている。軸部10の吸引流路11は、軸部10の先端側端部から基端側の着脱部12まで連通している。
【0029】
図2~
図5に示すように、破砕部20Aの形状は、先端が開放された筒状(本実施形態では略円筒状)である。
図3に示すように、破砕部20Aの内側には、破砕された眼組織と灌流液が通過する吸引流路21Aが形成される。破砕部20Aの吸引流路21Aは、軸部10の吸引流路11に接続される。つまり、破砕部20Aは、軸部10と共に内部に吸引流路を形成する。破砕部20Aは、眼組織を破砕すると共に、破砕された眼組織を内部の吸引流路21A,11に導く。
【0030】
図3に示すように、破砕部20Aは、軸部10の中心軸O1(本実施形態では、破砕チップ1の回転軸Rと一致する)に対して破砕部20Aの中心軸O2が角度TAだけ傾斜した状態で、軸部10の先端部に接続される。本実施形態の破砕部20Aは、先端側へ進む程、回転軸Rに対して中心軸O2が
図2の下方へ離間する方向に傾斜している。破砕部20Aが回転軸Rに対して折り曲げられているので、破砕チップ1が回転軸Rを中心として往復回転すると、破砕部20Aは、所定角度の範囲内を往復回転(捩れ振動)する。その結果、先端部まで直線状に形成された破砕チップに比べて、眼組織の破砕力が増大する。
【0031】
図2~
図5に示すように、破砕部20Aの先端には環状の開口端22Aが形成される。
図4および
図5に示すように、開口端22Aのうち先端側を向く環状の面が、破砕部20Aの先端面23Aとなる。本実施形態では、破砕部20Aの先端面23Aが、筒状である破砕部20Aの中心軸O2に対して傾斜している。その結果、破砕部20Aの先端側の端部(
図4および
図5における左下側の端部)の角度が鋭角となっている。詳細には、本実施形態では、破砕部20Aの先端面23Aが、破砕チップ1の回転軸Rと、破砕部20Aの中心軸O2の両方に対して傾斜している。従って、回転方向の振動を含む超音波振動が破砕部20Aに加わることで、より高い破砕力が生じる。
【0032】
開口端22Aのうち内周側の環状の縁部(つまり、先端面23Aと、破砕部20Aの内周面によって形成される陵部)を、開口端22Aの内縁24Aとする。開口端22Aのうち外周側の環状の縁部(つまり、先端面23Aと、破砕部20Aの外周面によって形成される陵部)を、開口端22Aの外縁26Aとする。
【0033】
以上、第1実施形態を例示して説明した破砕チップ1の構成は、第2・第3実施形態でも共通する。従って、後述する第2・第3実施形態の説明では、軸部10等の詳細な説明は省略する。
【0034】
(第1実施形態)
第1実施形態の破砕チップ1Aにおける開口端22Aの構成について、より詳細に説明する。なお、
図5は、
図4の破砕チップ1Aに対し、エッジ部25Aおよび非鋭利部27Aの領域を示した斜視図である。
図5に示すように、開口端22Aにおける環状の内縁24A(本実施形態では、内縁24Aの一部)に、鋭利なエッジ部25Aが形成されている。さらに、開口端22Aにおける環状の外縁26A(本実施形態では、外縁26Aの一部)に、鋭利な角部が除去された形状の非鋭利部27Aが形成されている。開口端22Aの外縁26Aは、内縁24Aに比べて、破砕せずに保持する必要のある保持対象組織(例えば、水晶体後嚢等)に接触し易い。また、開口端22Aの外縁26Aによって破砕された組織は、開口端22Aから吸引流路21Aに吸引されずに周囲に飛散してしまいやすい(回転方向の振動を含む超音波振動が用いられる場合、外縁26Aによって破砕された組織は、さらに飛散し易くなる)。一方で、開口端22Aの内縁24Aは、外縁26Aに比べて、保持対象組織に接触し難く、且つ、吸引流路21A,11(
図3参照)に向けて吸引される破砕対象組織(濁った水晶体核等)に接触し易い。内縁24Aによって破砕された組織は、そのまま開口端22Aから吸引流路21Aに吸引され易い。従って、開口端22Aの内縁24Aに鋭利なエッジ部25Aを形成し、且つ、外縁26Aに非鋭利部27Aを形成することで、外縁26Aが保持対象組織に接触した際の安全性が向上し、且つ、内縁24Aによる破砕対象組織の破砕力が増大する。破砕された組織が吸引されずに飛散してしまう可能性も低下するので、手術効率も向上する。
【0035】
本実施形態では、破砕部20Aの先端面23Aが、筒状である破砕部20Aの中心軸O2に対して傾斜している。
図5に示すように、エッジ部25Aは、開口端22Aにおける環状の内縁24Aのうち、最も基端側の部位241Aを含む領域に形成されている。つまり、本実施形態では、筒状の金属部材を中心軸O2に対して斜めに切断することで、破砕部20Aの開口端22Aが形成される。その結果、開口端22Aの内縁24Aのうち基端側の部分に、鋭利なエッジ部25Aが自動的に形成される。なお、内縁24Aの少なくとも一部に対して研磨加工等を行うことで、鋭利なエッジ部25Aが形成されてもよい。
【0036】
図3にしめすように、本実施形態では、筒状である破砕部20Aの中心軸O2を含む断面において、内縁24Aの角部の角度が規定角度以下(本実施形態では60度以下)であり、且つ、頂点を丸めるためのフィレット加工等が施されていない部位が、エッジ部25Aとされる。本実施形態では、規定角度は60度とされている。
図3に示すように、本実施形態では、エッジ部25Aの角部の角度の最小値は約45度となる。なお、内縁24Aのうち、角部の角度が規定角度よりも大きい部分の少なくとも一部に対して、角部の頂点を鋭くする加工(例えば研磨加工等)を施してもよい。この場合、内縁24Aのうち、角部の頂点の角度が規定角度以下である部分に加えて、角度が規定角度よりも大きい部分でも破砕対象組織が破砕され易くなる。よって、安全性が維持された状態で、内縁24Aによる破砕対象組織の破砕力がさらに増大する。
【0037】
図5に示すように、非鋭利部27Aは、開口端22Aにおける環状の外縁26Aのうち、少なくとも最も先端側の部位261Aを含む領域に形成される。破砕チップ1の製造時において、筒状の金属部材を中心軸O2に対して斜めに切断した時点で、開口端22Aの外縁26Aのうち先端側の部分は鋭利な形状となる。本実施形態では、外縁26Aのうち少なくとも最も先端側に非鋭利部27Aが形成されることで、外縁26Aの鋭利な部分によって保持対象組織が傷付くことが適切に抑制される。
【0038】
詳細には、
図5に示すように、開口端22Aの外縁26Aにおける先端側端部261Aから基端側端部262Aまでの領域のうち、先端側端部261Aから少なくとも30%以上の領域(第1実施形態では50%の領域)に、非鋭利部27Aが形成される。その結果、切断加工を行った際に鋭利な形状となる部位に、適切に非鋭利部27Aが形成される。
【0039】
第1実施形態では、開口端22Aの外縁26Aの全周のうち、先端側端部261Aを含む一部の領域に非鋭利部27Aが形成される。従って、部材の厚みの減少等による開口端22Aの強度の低下が抑制された状態で、外縁26Aにおける適切な部位に非鋭利部27Aが形成される。
【0040】
第1実施形態では、開口端22Aの外縁26Aの角部に対し、頂点を丸めるためのフィレット加工を行うことで、外縁26Aに非鋭利部27Aが形成される。
図3に示すように、破砕部20Aの最も先端側の非鋭利部27Aでは、頂点が丸められることで、保持対象組織が傷付くことが抑制されている。詳細には、本実施形態では、破砕部20Aの開口端22Aのうち、非鋭利部27Aを形成しない部位(特に、開口端22Aの内縁24A)にマスキングを施した後に、開口端22Aに対するブラスト加工を行うことで、外縁26Aの適切な部位にフィレット形状の非鋭利部27Aが形成される。
【0041】
前述したように、本実施形態の破砕チップ1は、回転方向の振動を含む超音波振動が付与されることで眼組織を破砕する。破砕部20Aは、軸部10の中心軸O1に対して中心軸O2が傾斜した状態で軸部10の先端部に接続されている。回転方向の振動を含む超音波振動によって、軸部10に対して屈曲している破砕部20Aが駆動されるので、高い破砕力が確保され易い。一方で、軸部10に対して屈曲した破砕部20Aが回転方向に移動すると、破砕部20Aの開口端22Aの外縁26Aは、外縁26Aが延びる方向と平行に移動する。その結果、保持対象組織が外縁26Aによって切断されてしまう可能性が高くなる。これに対し、本実施形態では、開口端22Aの外縁26Aの少なくとも一部に非鋭利部27Aが形成されるので、破砕部20Aが回転方向に移動しても、保持対象組織が切断されてしまう可能性が低下する。よって、手術時の安全性と眼組織の破砕力が、より適切に確保され易くなる。さらに、本実施形態では、軸部10に対して傾斜している破砕部20Aの先端面23Aが、回転軸Rに対して傾斜している。よって、回転方向の振動を含む超音波振動によってさらに高い破砕力が確保されると共に、開口端22Aの外縁26Aによる保持対象組織の損傷が抑制される。
【0042】
以下、第2・第3実施形態について説明する。第2・第3実施形態のうち、第1実施形態と同様の構成および作用については、説明を省略または簡略化する。
【0043】
(第2実施形態)
図6を参照して、第2実施形態の破砕チップ1Bについて説明する。
図6は、第2実施形態の破砕チップ1Bの先端部近傍を右斜め上方から見た斜視図である。
図6では、
図5と同様に、エッジ部25Bおよび非鋭利部27Bの領域をハッチングで示している。第2実施形態の破砕チップ1Bの破砕部20Bでは、第1実施形態でも説明したフィレット形状の非鋭利部27Bが、開口端22Bにおける環状の外縁26Bの全周に形成されている。つまり、保持対象組織に接触し易い開口端22Bの外縁26Bの全周が非鋭利となるので、安全性がさらに向上する。また、破砕チップ1Bを製造する際に、外縁26Bの全周を露出させた状態で(つまり、外縁26Bの一部にのみマスキングを施す工程を行うことなく)、ブラスト加工によって非鋭利部27Bが形成される。よって、製造工程が複雑になることも抑制される。外縁26Bによって破砕された組織が、吸引されずに飛散してしまう可能性も低下する。なお、内縁24Bに形成されるエッジ部25Bの構成は、第1実施形態のエッジ部25Bの構成と同様である。
【0044】
図7を参照して、第3実施形態の破砕チップ1Cについて説明する。
図7は、第3実施形態の破砕チップ1Cにおける先端部近傍の右側面図である。第3実施形態の破砕チップ1Cの破砕部20Cでは、第1実施形態および第2実施形態で説明したフィレット形状の非鋭利部27A,27Bとは異なり、面取り加工によって形成される非鋭利部27Cが、開口端22Cにおける環状の外縁26Cに設けられている。この場合でも、第1・第2実施形態と同様に、開口端22Cの外縁26Cによって保持対象組織が傷付けられる可能性が、適切に低下する。面取り加工には、例えば、旋盤加工、フライス加工、ドリル加工、ヤスリ加工、サンダー加工等の種々の方法を採用できる。なお、第3実施形態では、第1実施形態と同様に、開口端22Cの外縁26Cにおける先端側端部から基端側端部までの領域のうち、先端側端部50%の領域に、非鋭利部27Cが形成されている。つまり、第3実施形態では、環状の外縁26Cの全周のうち、最も先端側を含む一部の領域に非鋭利部27Cが形成されている。しかし、第2実施形態と同様に、開口端22Cにおける環状の外縁26Cの全周に、面取り加工による非鋭利部27Cが形成されてもよい。また、内縁24Cに形成されるエッジ部25Cの構成は、第1・第2実施形態のエッジ部25A,25Bの構成と同様である。
【0045】
上記実施形態で開示された技術は一例に過ぎない。従って、上記実施形態で例示された技術を変更することも可能である。例えば、本開示の技術を、軸方向の超音波振動(所謂「縦振動」)によって眼組織を破砕する超音波チップに適用することも可能である。また、破砕部の先端面が、破砕部の中心軸、または回転軸に対して傾斜していない(つまり、軸に対して垂直な)破砕チップに、本開示の技術を適用することも可能である。この場合、開口端の外縁の全周に非鋭利部が形成されることで、外縁によって保持対象組織が傷付けられる可能性が、適切に低下する。また、破砕部が軸部に対して屈曲していない破砕チップにも、本開示の技術を適用できる。
【符号の説明】
【0046】
1(1A,1B,1C) 破砕チップ
5 吸引流路
10 軸部
11 吸引流路
20(20A,20B,20C) 破砕部
21A,21C 吸引流路
22A,22B,22C 開口端
23A,23B 先端面
24A,24B,24C 内縁
25A,25B,25C 鋭利部
26A,26B,26C 外縁
27A,27B,27C 非鋭利部
O1 中心軸
O2 中心軸
R 回転軸