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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148082
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】絞り加工方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/26 20060101AFI20231005BHJP
   B21D 22/22 20060101ALI20231005BHJP
   B21D 24/04 20060101ALI20231005BHJP
   B21D 24/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B21D22/26 C
B21D22/26 D
B21D22/22
B21D24/04 F
B21D24/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055930
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100196346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 貴士
(72)【発明者】
【氏名】松浦 侑也
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA06
4E137AA08
4E137AA18
4E137BA01
4E137BB01
4E137CA09
4E137CA11
4E137CA24
4E137CA26
4E137DA13
4E137EA02
4E137GA01
4E137GA16
4E137GB02
4E137HA07
4E137HA08
(57)【要約】
【課題】絞り深さの大きな凸部を有するプレス製品であっても、材料の流入を最小限にして高精度にかつ低コストに成形可能とする。
【解決手段】プレス加工としての絞り加工を板状のブランク材10に施して、ブランク材10に製品凸部4を成形するための方法は、上側ブランクホルダ23と下側ブランクホルダ24とでブランク材10のうち製品部2の周囲に位置する余肉部3aを挟持した状態で、プレス上型21と下側ブランクホルダ24とで製品凸部4と余肉部3aに跨る部位5に凹部6を成形する凹部成形ステップS1と、凹部6を成形した後、プレス下型22によりブランク材10に製品凸部4を成形する下型成形ステップS2とを備える。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス上型と、プレス下型と、上側ブランクホルダと、下側ブランクホルダとを用いて、プレス加工としての絞り加工を板状のブランク材に施して、前記ブランク材に製品凸部を成形するための方法であって、
前記上側ブランクホルダと前記下側ブランクホルダとで前記ブランク材のうち製品部の周囲に位置する余肉部を挟持した状態で、前記プレス上型と前記下側ブランクホルダとで前記製品凸部と前記余肉部に跨る部位に凹部を成形する凹部成形ステップと、
前記凹部を成形した後、前記プレス下型により前記ブランク材に前記製品凸部を成形する下型成形ステップとを備える、絞り加工方法。
【請求項2】
前記凹部成形ステップでは、前記プレス上型と前記下側ブランクホルダとで、前記製品凸部を介して対向する位置に一対の前記凹部を成形する請求項1に記載の絞り加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り加工方法に関し、特にブランク材に絞り深さの大きな製品凸部を絞り加工で成形するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のボデー外板をプレス加工で成形するに際しては、成形自由度の高さや工数の少なさひいては低コスト化の観点から、絞り加工がしばしば用いられる。
【0003】
絞り加工を実施するための装置としては、ダイと呼ばれる上型と、パンチと呼ばれる下型と、上側ブランクホルダと、下側ブランクホルダとを備えたものが一般的である(例えば、特許文献1を参照)。この種の絞り加工装置においては、まず上下のブランクホルダでブランク材とよばれる成形前の板状ワークを保持した後、上下のブランクホルダをパンチに接近させてブランク材をパンチに押し付けていくことで、ブランク材に製品形状が成形される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-159918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、自動車のボデー外板のうち、バックドアアウタのスポイラ部などは、製品の表面側に大きく突出した形状をなしているため、これを特許文献1に記載の如き絞り加工で成形しようとした場合、非常に大きな絞り深さが必要となる。これでは、この種の突出部(凸部)を精度よく成形することは難しい。また、周囲のブランク材(材料)を凸部に向けて多く流入させる必要が生じるため、歩留まりの低下ひいてはコストアップを招く。材料を多く流入させるほど、しわや割れなどの成形不良が発生し易くなるといった問題もある。
【0006】
以上の事情に鑑み、本明細書では、絞り深さの大きな凸部を有するプレス製品であっても、材料の流入を最小限にして高精度にかつ低コストに成形可能とすることを、解決すべき技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題の解決は、本発明に係る絞り加工方法によって達成される。すなわち、この絞り加工方法は、プレス上型と、プレス下型と、上側ブランクホルダと、下側ブランクホルダとを用いて、プレス加工としての絞り加工を板状のブランク材に施して、ブランク材に製品凸部を成形するための方法であって、上側ブランクホルダと下側ブランクホルダとでブランク材のうち製品部の周囲に位置する余肉部を挟持した状態で、プレス上型と下側ブランクホルダとで製品凸部と余肉部とに跨る部位に凹部を成形する凹部成形ステップと、凹部を成形した後、プレス下型によりブランク材に製品凸部を成形する下型成形ステップとを備える点をもって特徴付けられる。なお、本明細書において、凸とは、ブランク材に成形される製品部の表面側に突出している状態を意味し、凹とは、ブランク材に成形される製品部の表面が凹んだ状態を意味する。また、ここでいう製品凸部とは、ブランク材に成形される製品部のうち最も製品の表面側に突出した部分を意味する。
【0008】
このように、本発明に係る絞り加工方法では、プレス上型と下側ブランクホルダとで、製品凸部とこの凸部の周囲に位置する余肉部とに跨る部位に凹部を成形した後、プレス下型によりブランク材に製品凸部を成形するようにした。まずプレス上型により凹部を成形することによって、凹部の内側部分をなす製品凸部の基端側を成形することができる。この場合、製品凸部の下端位置は、上側及び下側ブランクホルダによるブランク材の押さえ位置(すなわち余肉部の挟持位置)よりも低くなるので、この分だけ製品凸部の成形位置を従来よりも下げることができる。よって、従来と同じ条件でプレス下型により製品凸部を成形することで、プレス下型による製品凸部の絞り深さを減らすことができる。これにより、製品凸部への材料の流入を大幅に減らし、又は零にすることが可能となる。従って、絞り深さの大きな製品凸部であっても精度よくかつ低コストに成形することが可能となる。
【0009】
また、本発明に係る絞り加工方法において、凹部成形ステップでは、プレス上型と下側ブランクホルダとで、製品凸部を介して対向する位置に一対の凹部を成形してもよい。
【0010】
このように製品凸部を介して対向する位置に一対の凹部を成形することによって、ブランク材の製品凸部となる部分に凹部が対向配置される向きに均等なテンションを付与することができる。よって、プレス上型でより高精度に凹部(製品凸部の基端側)を成形することができ、ひいてはプレス下型でより高精度に製品凸部を成形することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、絞り深さの大きな凸部を有するプレス製品を、材料の流入を最小限にして高精度にかつ低コストに成形することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る絞り加工方法で得られたプレス加工品の平面図である。
図2図1に示すプレス加工品のA-A断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係るプレス加工装置の図1中B-B断面に対応する位置の断面図である。
図4図3に示すプレス加工装置を用いた絞り加工の一例を示す図で、ブランク材を上側及び下側ブランクホルダで挟持した時点におけるプレス加工装置の断面図である。
図5図3に示すプレス加工装置を用いた絞り加工の一例を示す図で、凹部成形ステップの完了時におけるプレス加工装置の断面図である。
図6図3に示すプレス加工装置を用いた絞り加工の一例を示す図で、下型成形ステップの開始時におけるプレス加工装置の断面図である。
図7図3に示すプレス加工装置を用いた絞り加工の一例を示す図で、下型成形ステップの完了時におけるプレス加工装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る絞り加工方法の内容を図面に基づいて説明する。なお、以下では、車幅方向をX方向、車体鉛直方向をY方向、車体前後方向をZ方向と規定して説明を行う。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る絞り加工方法で得られたプレス加工品1の一例を平面視したものである。図1に示すように、このプレス加工品1は、本実施形態では、自動車のバックドアアウタの中間品であり、製品部2と、製品部2の周囲に位置する余肉部3とを一体に有する。本実施形態では、余肉部3は、製品部2の外周に設けられる第一余肉部3aと、製品部2の内周に設けられる第二余肉部3bとからなる。このうち、第二余肉部3bは、バックドアにおいて窓ガラスが装着される開口部を形成するために製品部2から除去される部分である。双方の余肉部3a,3bは、製品部2の絞り加工による成形後にトリミング等により除去される。
【0015】
製品部2は、鉛直方向上端側に製品凸部としてのバックドアアウタのスポイラ部4を一体に有する。このスポイラ部4は、製品部2の車幅方向に延びている。また、図2に示すように、スポイラ部4は、製品部2の表面2a側に最も突出した部位である。
【0016】
上記形状のプレス加工品1は、例えば図3に示すプレス加工装置20を用いて、板状のブランク材10(後述する図4を参照)に絞り加工を施すことにより得られる。
【0017】
図3は、ブランク材10に対して本発明に係る絞り加工を施すためのプレス加工装置20の断面図を示している。この断面図は、絞り加工により得られるプレス加工品1のスポイラ部4の中腹部の長手方向(車幅方向)に沿ったB-B断面と同じ位置におけるプレス加工装置20の断面図である。このプレス加工装置20は、プレス上型21と、プレス下型22と、上側ブランクホルダ23と、下側ブランクホルダ24とを有する。
【0018】
プレス上型21とプレス下型22は、互いに対応する形状の第一プレス成形面25,26をそれぞれ上下方向で向かい合う位置に有している。また、プレス上型21と下側ブランクホルダ24は、互いに対応する形状の第二プレス成形面27,28をそれぞれ上下方向で向かい合う位置に有している。この場合、第二プレス成形面27,28は、製品部2のうちスポイラ部4の車幅方向両側部4aとなる部分と、この車幅方向両側部4aと隣接する第一余肉部3aとに跨る部位5(図1中、一点鎖線で囲む領域)に凹部6を成形可能に構成されている。また、第一プレス成形面25,26は、製品部2のうち第二プレス成形面27,28で成形される部分(スポイラ部4の車幅方向両側部4a)を除く部分を成形可能に構成されている。
【0019】
なお、図示は省略するが、例えば下側ブランクホルダ24の内周に、プレス下型22及び下側ブランクホルダ24の何れに対しても独立して上下動可能な下型インナーパッドを設けてもよい。この場合、下型インナーパッドは主に、プレス下型22による成形前の段階(下型成形ステップS2より前の時点)で、ブランク材10のうち製品部2内周の第二余肉部3bに相当する部分を支持可能に構成される。
【0020】
次に、図3に示すプレス加工装置20を用いたプレス加工(絞り加工)の一例を、図3図7に基づいて説明する。
【0021】
(S1)凹部成形ステップ
まず図3に示す状態において、下側ブランクホルダ24の上面24a上に板状のブランク材10(図4を参照)を配置する。この時点では、ブランク材10は、下側ブランクホルダ24とのみ接しており、プレス上型21、プレス下型22、及び上側ブランクホルダ23とは離れた状態にある。なお、上面24a上に配置した状態におけるブランク材10の形態は任意であり、ブランク材10全体として平坦な状態であってもよく、あるいはブランク材10全体として上側に凸となるように湾曲した状態であってもよい。
【0022】
然る後、プレス上型21と共に上側ブランクホルダ23を下方向に相対移動させて、ブランク材10の周縁部、すなわち余肉部3(第一余肉部3a)となる部分を上側ブランクホルダ23と下側ブランクホルダ24とで挟持する。そして、ブランク材10を挟持した状態で、プレス上型21を下側ブランクホルダ24に対して下降させて、下方に突出した形状をなすプレス上型21の第二プレス成形面27をブランク材10に押込む。また、第二プレス成形面27と対応する下側ブランクホルダ24の第二プレス成形面28との協働により、ブランク材10の製品部2となる部分と余肉部3となる部分とに跨る部位5に凹部6を成形する(図1及び図5を参照)。これにより、製品凸部としてのスポイラ部4のうち基端側の一部となる車幅方向両側部4aが成形される。この時点では、プレス下型22は未だ、ブランク材10の少なくともスポイラ部4とは離れた状態にある。
【0023】
(S2)下型成形ステップ
このようにしてスポイラ部4の一部がプレス上型21により成形された後、プレス上型21と共に上側及び下側ブランクホルダ23,24を下降させて、ブランク材10をプレス下型22の第一プレス成形面26に押し当てる。これにより、ブランク材10のうち製品部2となる部分をプレス下型22の第一プレス成形面26に倣った形状に成形する。この場合、第一プレス成形面26は、ブランク材10の製品部2のうち最も高い部位、ここでは製品凸部としてのスポイラ部4の幅方向中央部に最初に押し付けられ、プレス上型21の第一プレス成形面25に当接する位置(図6を参照)まで絞り加工が継続する。そのため、スポイラ部4の最大絞り深さをHとした場合、最大絞り深さHは、プレス上型21によるスポイラ部4の絞り深さH1と、プレス下型22によるスポイラ部4の絞り深さH2との総和に等しい。以上より、図1に示すプレス加工品1が得られる。
【0024】
以上述べたように、本実施形態に係る絞り加工方法では、プレス上型21と下側ブランクホルダ24とで、製品凸部としてのスポイラ部4とこのスポイラ部4の周囲に位置する余肉部3(第一余肉部3a)とに跨る部位5に凹部6を成形した後、プレス下型22によりブランク材10に製品凸部としてのスポイラ部4を成形するようにした。このように、まずプレス上型21により凹部6を成形することによって、凹部6の内側部分をなすスポイラ部4の基端側(車幅方向両側部4a)を成形することができる。この場合、スポイラ部4の下端位置は、上側及び下側ブランクホルダ23,24によるブランク材10の押さ位置(すなわち第一余肉部3aの保持位置)よりも低くなるので(図5等を参照)、この分だけスポイラ部4の成形位置を従来よりも下げることができる。よって、従来と同じ条件でプレス下型22によりスポイラ部4を成形することで、プレス下型22によるスポイラ部4の絞り深さH2を従来の絞り深さHよりも小さくすることができる。これにより、スポイラ部4への材料の流入を大幅に減らし、又は零にすることが可能となる。従って、絞り深さHの大きなスポイラ部4であっても精度よくかつ低コストに成形することが可能となる。
【0025】
また、本実施形態では、凹部成形ステップS1において、プレス上型21と下側ブランクホルダ24とで、スポイラ部4を介して対向する位置に一対の凹部6を成形したので、ブランク材10のスポイラ部4となる部分に凹部6が対向配置される向き、すなわちスポイラ部4の長手方向に均等なテンションを付与することができる。よって、プレス上型21でより高精度に凹部6(スポイラ部4の基端側)を成形することができ、これによりプレス下型22でより高精度にスポイラ部4を成形することが可能となる。
【0026】
以上、本発明の一実施形態について述べたが、本発明に係る絞り加工方法は、その趣旨を逸脱しない範囲において、上記以外の構成を採ることも可能である。
【0027】
例えば、上記実施形態では、プレス上型21と下側ブランクホルダ24とで、スポイラ部4を介して対向する位置に一対(二つ)の凹部6を成形した場合を例示したが、もちろん凹部6の成形態様はこれには限られない。例えば図示以外の位置に一対の凹部6を成形してもよいし、一つ又は三つ以上の凹部6を成形してもよい。要は、製品凸部の形態や製品部2内の配置態様に応じて凹部6の数及び位置を設定することが肝要である。
【0028】
もちろん、本発明の適用対象はスポイラ部4には限られない。板状のブランク材10の製品部2の表面2a側に突出する形態である限りにおいて、絞り加工の対象となる製品凸部の部位は任意である。
【符号の説明】
【0029】
1 プレス加工品
2 製品部
2a 表面
3a,3b 余肉部
4 スポイラ部
4a 車幅方向両側部
5 製品凸部と余肉部とに跨る部位
6 凹部
10 ブランク材
20 プレス加工装置
21 プレス上型
22 プレス下型
23 上側ブランクホルダ
24 下側ブランクホルダ
25,26 第一プレス成形面
27,28 第二プレス成形面
S1 凹部成形ステップ
S2 下型成形ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7