(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148100
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】トラクタ
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A01B69/00 303A
A01B69/00 301
A01B69/00 303M
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055960
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】辻 英和
(72)【発明者】
【氏名】都築 洋久
【テーマコード(参考)】
2B043
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB11
2B043BA02
2B043BB01
2B043BB03
2B043DA01
2B043DA04
2B043DA15
2B043DA17
2B043DC03
2B043EA16
2B043EA32
2B043EB04
2B043EB05
2B043EB08
2B043EC02
2B043ED03
2B043ED12
2B043EE01
2B043EE02
2B043EE05
2B043EE06
(57)【要約】
【課題】
本発明は、オペレータが更に運転を行い易い後進時の自動操舵制御可能なトラクタを提供することを課題とする。
【解決手段】
走行車体(3)の後部に昇降装置(10)で昇降動作可能な作業機(11)を搭載し、
作業機(11)は駆動源(5)の駆動を伝動するPTO軸(12)の入り切りにより駆動・非駆動を切り換え可能に構成し、
自動操舵による前進及び後進を可能な制御部(22)を備え、
PTO軸(12)のOFF又はPTO軸(12)のONと昇降装置(10)の下降を条件に後進による自動操舵の走行を可能とするトラクタとする。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体(3)の後部に昇降装置(10)で昇降動作可能な作業機(11)を搭載し、
作業機(11)は駆動源(5)の駆動を伝動するPTO軸(12)の駆動・非駆動を切り換え可能に構成し、
自動操舵による前進及び後進を可能な制御部(22)を備え、
PTO軸(12)のOFF、又はPTO軸(12)のON及び昇降装置(10)の下降を条件に後進による自動操舵の走行を可能とするトラクタ。
【請求項2】
1工程目の前進走行で走行の基準ラインを設定すると共に、作業機(10)の下降位置と上昇位置から第一の距離情報(a)を取得し、
2工程目を自動操舵による前進を行う場合には前記第一の距離情報(a)に相当する距離(a1)から設定距離(b)を差し引いた距離(c)まで走行すると報知手段(50)で報知すると共に、作業機(10)の上昇位置と下降位置から第二の距離情報(a2)を新たに記憶し、
2工程目を自動操舵による後進を行う場合には報知手段(50)による報知を行わないと共に、作業機の上昇・下降にかかわらず距離情報を取得しないで、前記第一の距離情報(a)の記憶を保持する請求項1記載のトラクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動操舵を可能とするトラクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、自動直進操舵機能を有する農作業車で、後進の直進自動操舵機能を備え、後進時は作業を行わず、後進終了位置から前進して作業を行う。畝立て作業等に利用できる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
オペレータが更に運転を行い易い後進時の自動操舵制御可能なトラクタを提供することを課題とする。
【0005】
本発明はことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、請求項1記載の発明は、
走行車体(3)の後部に昇降装置(10)で昇降動作可能な作業機(11)を搭載し、
作業機(11)は駆動源(5)の駆動を伝動するPTO軸(12)の駆動・非駆動を切り換え可能に構成し、
自動操舵による前進及び後進を可能な制御部(22)を備え、
PTO軸(12)のOFF、又はPTO軸(12)のON及び昇降装置(10)の下降を条件に後進による自動操舵の走行を可能とするトラクタとする。
【0007】
請求項2記載の発明は、
1工程目の前進走行で走行の基準ラインを設定すると共に、作業機(10)の下降位置と上昇位置から第一の距離情報(a)を取得し、
2工程目を自動操舵による前進を行う場合には前記第一の距離情報(a)に相当する距離(a1)から設定距離(b)を差し引いた距離(c)まで走行すると報知手段(50)で報知すると共に、作業機(10)の上昇位置と下降位置から第二の距離情報(a2)を新たに記憶し、
2工程目を自動操舵による後進を行う場合には報知手段(50)による報知を行わないと共に、作業機の上昇・下降にかかわらず距離情報を取得しないで、前記第一の距離情報(a)の記憶を保持する請求項1記載のトラクタとする。
【発明の効果】
【0008】
後進作業時に作業機が予期しない作業を圃場に行うことを防止できると共に、後進作業時に作業機を使用することもできる。
【0009】
前進時は作業機による作業状態を確認するために運転席のオペレータは後方を向きがちになるのである程度の距離になると報知手段で報知することで注意を促すことができる。
後進時は運転席のオペレータは常時後ろを向いているので報知手段による報知を必要としないため無駄な報知を要さない。
【0010】
後進時は新たな距離情報を取得せず、前回の距離情報を保持するので、次回の前進による作業時に前回の距離情報による作業を行うことができる。
【0011】
距離による報知のため、安定した位置で報知できる。
【0012】
後進時はオペレータの所望の位置まで後進して、その位置から前進に入り易い。
【0013】
後進時には作業機の上下昇降動作にかかわらず距離情報を取得しないため、誤操作による上下昇降動作による無用な距離情報の取得を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図5】背面から見たステアリングハンドルの周辺を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本実施の形態について、トラクタ3で説明する。
【0016】
前輪1と後輪2により走行するトラクタ3は、車体4の前部に駆動源となるエンジン5を覆うボンネット6を備え、ボンネット6の後方にはステアリングハンドル7と運転座席8を内装するキャビン9を備えている。
【0017】
キャビン9の後方にはリフトアーム等の昇降装置10で上下に昇降する作業機としての耕耘装置11を備えている。
【0018】
耕耘装置11はエンジン5の駆動を伝動するPTO軸12の動力で駆動する。
【0019】
キャビン9内にはトラクタ3の速度を調節する変速レバー13、前後進を設定する前後進レバー14、PTO軸12の入り切りを行うPTOスイッチ15、自動操舵の入り切りを行う自動操舵入り切りスイッチ16、昇降装置10の上昇・下降を操作する昇降レバー17等を備えている。
【0020】
キャビン9の上部には衛星20からの位置情報を取得するGNSS21を搭載している。
【0021】
運転座席8のアームレストについて
図3と
図4に基づいて説明する。
【0022】
アームレスト30の基端部31には肘掛け部である覆いカバー32を設け、先端部33にはレバー設置部34を設けている。
【0023】
覆いカバー32内には各種制御の設定用のスイッチ35を多数設けている。
【0024】
レバー設置部34は左右方向に分ける仕切部36を設け、仕切部36の左右外側には昇降レバー17を設け、左右内側には変速レバー13を設けている。
【0025】
昇降レバー17の前側には昇降スイッチ42を設けている。
【0026】
昇降スイッチ42は耕耘装置11を最上昇位置と最下降位置の昇降用であるのに対し、昇降レバー17は耕耘装置11を所望の位置に昇降する。
【0027】
変速レバー13の後側には無段変速用の変速設定ダイヤル37を設けている。
【0028】
図3と
図4の昇降レバー17と変速レバー13はそれぞれ3つのレバーが記載されているが、便宜上、操作の範囲を示すためのものである。
【0029】
図5に基づいて、キャビン9内のステアリングハンドル7の周辺について説明する。
【0030】
ステアリングハンドル7の周辺には前後進レバー14と、スロットルレバー40とウインカレバー41と耕耘装置11を設けている。
【0031】
キャビン9内のフロア43にはブレーキ45とアクセルペダル46を設けている。
【0032】
ステアリングハンドル7の前方にはメータパネル47を備えており、メータパネル47には車速表示部48と液晶表示部49を備えており、自動操舵の入り切りの情報は液晶表示部49に表示される。
【0033】
トラクタ3の制御部22には自動操舵入り切りスイッチ16、前後進レバー14、変速レバー13、昇降レバー17、PTOスイッチ15の操作情報、GNSS21の位置情報等が入力される。ステアリングハンドル7を自動操舵させる自動操舵ユニット22や前後進クラッチ23や変速クラッチ24等が出力される。
【0034】
次に、往復走行で耕耘作業を行う自動操舵による走行について
図6に基づいて説明する。
【0035】
運転座席8に着座するオペレータが手動でトラクタを発進させ(A0)、任意の作業開始位置まで前進すると耕耘装置11を昇降レバー17又は昇降スイッチ42を操作して下降させ(A1)、下降した位置kを記憶する。前進させながら自動操舵入り切りスイッチ16を入にして自動操舵用の開始点s1を取得し(A2)、耕耘作業を行いながら所定の距離まで前進するとオペレータが手動で自動操舵入り切りスイッチ16を切りにして自動操舵用の終了点s2を取得し(A3)、次いで、昇降レバー17又は昇降スイッチ42を操作して耕耘装置11を上昇させる(A4)。この上昇位置jを記憶する。最初の1工程目の前進走行はオペレータのステアリングハンドル7による操作である。この1工程目で耕耘装置11の下降した位置と上昇した位置の距離aを記憶する。また、図示はしないが昇降動作の不要な作業機を搭載するときには開始点s1と終了点s2の距離を記憶する。オペレータは手動で耕耘装置11を上昇させると共に、ステアリングハンドル7を操作して旋回動作をさせる。2工程目に入るときに手動で耕耘装置11を下降させ(A5)、次いで、自動操舵入り切りスイッチ16を入にすると(A6)、1工程目の開始点s1と終了点s2を結ぶ走行ラインと並行するラインに沿って自動操舵による耕耘作業を行う。自動操舵を開始して距離aに相当するa1から所定の距離bを減算した距離cまで走行すると、所定距離を走行したことを報知する報知手段50が作動する(A7)。さらに前進してオペレータが所望の位置で自動操舵入り切りスイッチ16を切りにすると自動操舵が終了し、次いで、昇降レバー17又は昇降スイッチ42を操作して耕耘装置11を上昇させて旋回動作に入る。以後、この往復工程が繰り返される。
【0036】
この作業は、主として通常の耕耘作業で用いられる。
【0037】
次に、前進して1工程を終了させた後、1工程目と隣接する位置を後進し、該後進した箇所を前進する自動操舵について
図7に基づいて説明する。
【0038】
オペレータが手動でトラクタを発進させ(A0)、任意の作業開始位置まで前進すると耕耘装置11を下降させ(A1)、下降した位置kを記憶する。前進させながら自動操舵入り切りスイッチ16を入にして自動操舵用の開始点s1を取得し(A2)、耕耘作業を行いながら所定の距離まで前進すると自動操舵入り切りスイッチ16を切りにして自動操舵用の終了点s2を取得し(A3)、次いで、耕耘装置11を上昇させる(A4)。この上昇位置jを記憶する。最初の1工程目の前進走行ははオペレータのステアリングハンドル7による操作である。この1工程目で耕耘装置11の下降した位置と上昇した位置の距離aを記憶する。また、昇降動作の無い作業機を搭載するときには開始点s1と終了点s2の距離を記憶する。
【0039】
オペレータは耕耘装置11を上昇させると共に、ステアリングハンドル7を操作して隣接する工程に向けて前進させながらトラクタ3を姿勢変更させる。そして、一旦、トラクタ3を停止させ、前後進レバー14を後進に切り換えて後進を開始する(B0)。
【0040】
所望の位置まで後進させると、自動操舵入り切りスイッチ16を操作して自動操舵に入る(B1)。耕耘装置11を上昇させた状態の非作業による自動操舵で後進走行を行う。このときの後進のラインは1工程目の開始点s1と終了点s2を結ぶ走行ラインと並行するラインである。
【0041】
後進による走行中には、前述の報知手段50による報知機能は作動しない。
【0042】
オペレータは所望の位置に達すると、自動操舵入り切りスイッチ16を操作して自動操舵を終了させ(B2)、次いでオペレータは手動でトラクタ3を停止させる(B3)。
【0043】
トラクタ3の停止位置からオペレータが前後進レバー14を前進側に切り換え発進させ(C0)、所望の位置に達すると耕耘装置11を下降させ(C1)、次いで自動操舵入り切りスイッチ16を入(C2)にして自動操舵による耕耘作業が開始される。すなわち、後進をしたルートを前進することになる。
【0044】
自動操舵を開始して距離aに相当するa1から所定の距離bを減算した距離cまで走行すると、所定距離を走行したことを報知する報知手段50が作動する(C2)。さらに前進してオペレータが所望の位置で自動操舵入り切りスイッチ16を切り(C3)にすると自動操舵が終了し、次いで、耕耘装置11を上昇させて(C4)前述の隣接する工程に向けて前進させながらトラクタ3を姿勢変更させる。以上の工程が以後繰り返される。
【0045】
なお、
図6と
図7について、実線の矢印は前進走行、破線の矢印は後進走行、一点鎖線は距離を示している。また、
図7の後進と2工程目の前進は便宜上別々に図示されているが、実際には略同じ部分を走行する。
【0046】
この作業は耕耘装置に畝立て作業機を搭載した場合等に用いられる。
【0047】
本実施の形態のその他の特徴点について説明する。
【0048】
後進時の自動操舵の入りが可能な条件として、PTO軸12がOFFのときとする。すなわち、後進時には2工程目の開始位置まで単に走行することが目的のケースが多く、PTO軸12が駆動すると、後進時に作業機が予期しない作業を圃場に行うことになるためである。PTO軸12がOFFとは具体的な一例としてPTOクラッチ51を接続していないときである。但し、PTO軸12がONでも昇降装置10が所定よりも下降を検出すると自動操舵の入りを可能とする。すなわち、この場合には、オペレータが後進時の作業を行うという意思表示をしたと認識して後進による自動操舵を行う。昇降装置10の下降又はPTO軸12のONのいずれかの場合には、自動操舵の入りを規制する。
【0049】
自動操舵による走行中にオペレータは変速レバー13による変速操作やスロットルレバー40を適宜操作することができる。
【0050】
前記所定の距離bとは予め設定されている固定値(例えば6m)である。
【0051】
3工程目の報知手段50の報知のタイミングの距離は前回、すなわち2工程目の距離a1に相当する距離となる。すなわち、前の工程の距離が基準となる。
【0052】
耕耘装置11を下降する前に自動操舵入り切りスイッチ16を入り操作した場合は自動操作入り位置が開始点kとなり、耕耘装置11を上昇した後に自動操舵入り切りスイッチ16を切りにした場合には自動操舵切り位置を終了点jとする。
【0053】
本実施の形態では耕耘装置11による耕耘作業を説明しているが、耕耘装置に代えて施肥機等の作業機を用いても良い。昇降が不要な作業機の場合には、自動操舵入り切りスイッチ16の入り操作が開始点kとなり、かつ、切り操作が終了点jとなると共に、基準となるラインの生成を兼ねる。
【0054】
以下、本実施の形態の作用効果について説明する。
【0055】
前進時は作業機による作業状態を確認するために運転席のオペレータは後方を向きがちになるのである程度の距離になると報知手段で報知することで注意を促すことができる。
【0056】
後進時は運転席のオペレータは常時後ろを向いているので報知手段による報知を必要としないため無駄な報知を要さない。
【0057】
後進時は、新たな距離情報を取得せず、前回の距離情報を保持するので、次回の前進による作業時に前回の距離情報による作業を行うことができる。
【0058】
距離による報知のため、安定した位置で報知できる。
【0059】
後進時はオペレータの所望の位置まで後進して、その位置から前進に入り易い。
【0060】
後進時には作業機の上下昇降動作にかかわらず距離情報を取得しないため、誤操作による上下昇降動作による無用な距離情報の取得を防止できる。
【符号の説明】
【0061】
3 走行車体(トラクタ)
5 駆動源(エンジン)
10 昇降装置
11 作業機(耕耘装置)
12 PTO軸
22 制御部