(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148102
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】試料劣化検出装置および検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/16 20060101AFI20231005BHJP
G01N 33/30 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N11/16 Z
G01N33/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055962
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山里 将史
(72)【発明者】
【氏名】堀越 和彦
(72)【発明者】
【氏名】増田 新
(57)【要約】
【課題】試料の劣化を検出する装置を設置する作業者に求められる熟練スキルを低減する。
【解決手段】試料劣化検出装置10は、測定基準面9との間に試料8を挟み込む圧電素子11と、圧電素子11に駆動電圧を印加して、圧電素子11の振動状態を測定する測定部15と、振動状態に基づいて試料8の劣化を判定する判定部16と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定基準面との間に試料を挟み込む圧電素子と、
前記圧電素子に駆動電圧を印加して、前記圧電素子の振動状態を測定する測定部と、
前記振動状態に基づいて前記試料の劣化を判定する判定部と、
を備える、試料劣化検出装置。
【請求項2】
前記圧電素子は、湾曲した状態で配置されている、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記圧電素子を湾曲した状態に保つ保定器をさらに備える、請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記圧電素子は、弾性体上に設けられている、請求項1に記載の検出装置。
【請求項5】
前記測定部は、判定の基準となる基準試料と判定の対象となる対象試料とのそれぞれについて前記振動状態を測定し、
前記判定部は、前記基準試料について測定される前記振動状態と、前記対象試料について測定される前記振動状態とに基づいて、前記対象試料の劣化を判定する、請求項1から4のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項6】
前記判定部の判定結果に基づいて警報を出力する警報部をさらに備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項7】
前記圧電素子は、対向して配置されて前記試料を挟み込む第1の圧電素子および第2の圧電素子を含み、
前記第1の圧電素子は、対向する前記第2の圧電素子の面を前記測定基準面として、前記試料を挟み込み、前記第2の圧電素子は、対向する前記第1の圧電素子の面を前記測定基準面として、前記試料を挟み込む、請求項1から6のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項8】
測定基準面と圧電素子との間に試料を挟み込む挟み込みステップと、
前記圧電素子に駆動電圧を印加して、前記圧電素子の振動状態を測定する測定ステップと、
前記振動状態に基づいて前記試料の劣化を判定する判定ステップと、
を含む、試料劣化検出方法。
【請求項9】
前記測定ステップは、
判定の基準となる基準試料について前記振動状態を測定するステップと、
判定の対象となる対象試料について前記振動状態を測定するステップと、
を含み、
前記判定ステップは、前記基準試料について測定される前記振動状態と、前記対象試料について測定される前記振動状態とに基づいて、前記対象試料の劣化を判定する、請求項8に記載の検出方法。
【請求項10】
前記判定ステップの判定結果に基づいて警報を出力する警報ステップをさらに含む、請求項8または9に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス絶縁開閉装置(GIS)等の電力用の開閉器に備えられている遮断器や断路器等の駆動部分と同じ環境下に設置されて、駆動部分に使用されるグリース等の試料の劣化を検出する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力用の開閉器には、駆動部分の潤滑と気密とを保つために従来からグリースが使用されている。グリースは、例えば電動機などの回転機器の駆動部分に使用される場合、高温過熱や異物混入により特性は劣化する。そのため、回転機器の場合は定期的に運転を止めてグリースの劣化計測が行われている。
【0003】
例えばガス絶縁開閉装置(GIS)等の電力用の開閉器の場合、遮断器や断路器等の駆動部分が動作する頻度は極めて低いため、グリースの使用環境は変成器や電力変換装置などの静止機器に近く、グリースの劣化原因は高温過熱や異物混入とは異なっている。例えば、長い期間系統運用されていたガス絶縁開閉装置の運転を長時間停止した後に、運転を再開して再び動作させると、グリースの基油が蒸発することによりグリースが劣化していて、駆動部分の動作不良が引き起こされる。その結果、異常発生時に電力を遮断することができない動作不良や、アークの駆動に用いるコイル等の電装回路の焼損が引き起こされる。そのため、ガス絶縁開閉装置等の電力用の開閉器におけるグリースの劣化に関する研究が行われている。
【0004】
電力用の開閉器においてグリースの劣化検出を連続して行う装置としては、例えば特許文献1に記載の検出装置が挙げられる。特許文献1の検出装置によると、グリースの劣化検出を連続的に自動で行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の検出装置では、検出装置を開閉器に設置する際に、グリース配置部にグリースを隙間なく配置して隙間や気泡が残らないように、慎重かつ丁寧に作業をする熟練したスキルが作業者に求められている。作業者のスキル不足により隙間や気泡が残っていると検出を誤るおそれがあり、仮にグリースが劣化していても誤って検出されないおそれがある。グリースの劣化を検出する装置を電力用の開閉器に設置する作業者に求められる熟練スキルを低減することが求められている。
【0007】
本発明は、試料の劣化を検出する装置を設置する作業者に求められる熟練スキルを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る試料劣化検出装置は、測定基準面との間に試料を挟み込む圧電素子と、前記圧電素子に駆動電圧を印加して、前記圧電素子の振動状態を測定する測定部と、前記振動状態に基づいて前記試料の劣化を判定する判定部と、を備える。
【0009】
本発明の一態様に係る試料劣化検出方法は、測定基準面と圧電素子との間に試料を挟み込む挟み込みステップと、前記圧電素子に駆動電圧を印加して、前記圧電素子の振動状態を測定する測定ステップと、前記振動状態に基づいて前記試料の劣化を判定する判定ステップと、を含む、
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、試料の劣化を検出する装置を設置する作業者に求められる熟練スキルを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施形態に係る検出装置の概略的な構成を模式的に示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る保定器が圧電素子を収容した状態を示す斜視図である。
【
図3】第1の実施形態に係る圧電素子および保定器の構造を示す図である。
【
図4】第1の実施形態に係る測定部の回路図である。
【
図5】第1の実施形態に係る検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施形態に係る検出装置の概略的な構成を模式的に示す図である。
【
図7】第2の実施形態に係る二つの圧電素子が対向して配置される状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の説明および図面において、同じ符号は同じまたは類似の構成要素を示すこととし、よって、同じまたは類似の構成要素に関する重複した説明を省略する。
【0013】
[発明の概略]
以下に説明する本発明の実施形態に係る試料劣化検出装置(以下、単に検出装置とも記載する)は、試料の劣化を検出する装置である。検出装置は、測定基準面との間に試料を挟み込む圧電素子と、圧電素子に駆動電圧を印加して、圧電素子の振動状態を測定する測定部と、振動状態に基づいて試料の劣化を判定する判定部と、を備える。
【0014】
圧電素子は、湾曲した状態で配置されることができるし、弾性体上に設けられることもできる。
【0015】
測定部は、判定の基準となる基準試料と判定の対象となる対象試料とのそれぞれについて振動状態を測定することができ、判定部は、基準試料について測定される振動状態と、対象試料について測定される振動状態とに基づいて、対象試料の劣化を判定することができる。
【0016】
検出装置は、圧電素子を湾曲した状態に保つ保定器(retainer)をさらに備えることができるし、判定部の判定結果に基づいて警報を出力する警報部をさらに備えることもできる。
【0017】
本発明の実施形態に係る検出装置は、例えばガス絶縁開閉装置(GIS)等の電力用の開閉器に備えられている例えば遮断器や断路器等の駆動部分と同じ環境下に設置される。劣化を判定する対象の試料は検出装置内に配置されている。検出装置は、劣化を判定する対象の試料として、駆動部分に使用されるグリースと同じグリースであり、駆動部分と同じ環境下に配置されたグリースの劣化を検出する。
【0018】
例えば、検出装置が系統運用中のガス絶縁開閉装置に設置される場合、検出装置は、例えばSF6等の絶縁性のガス雰囲気下にあるグリースの劣化を連続的に自動で検出し、劣化状況をモニターする。グリースが劣化していると判定した場合、検出装置は、ガス絶縁開閉装置)においてグリースが劣化している旨の情報を、他の複数の電力設備の運転状況を集中監視する図示しない集中監視装置に、例えばネットワークを介して有線通信または無線通信により送信する。集中監視装置のモニターには、例えばガス絶縁開閉装置においてグリースが劣化している旨の情報と共に、グリースが劣化しているガス絶縁開閉装置のメンテナンスを促すメッセージが表示される。
【0019】
[第1の実施形態]
図1は、第1の実施形態に係る検出装置の概略的な構成を模式的に示す図である。
図2は、第1の実施形態に係る保定器が圧電素子を収容した状態を示す斜視図である。
図3は、第1の実施形態に係る圧電素子および保定器の構造を示す図である。(A)は分解側面図であり、(B)は断面図であり、(C)は上面図である。
【0020】
第1の実施形態では、検出装置10は一つの圧電素子11を用いて試料8の劣化を判定する。第1の実施形態では、測定基準面9は、圧電素子11を設置する対象機器の面と表現することができる。
【0021】
第1の実施形態に係る検出装置10は、圧電素子11と、保定器12と、測定部15と、判定部16と、警報部17とを備える。測定部15と判定部16と警報部17とは互いにデータ通信可能に接続されている。なお以下の説明において信号とは、測定部15と判定部16と警報部17との間で通信されるデータや情報をも含む意味である。
【0022】
圧電素子11は、測定基準面9との間に試料8を挟み込む。測定基準面9は、試料8が配置される面である。本実施形態では、測定基準面9は、ガス絶縁開閉装置に備えられている遮断器や断路器等の駆動部分の表面や、交流送電用の母線を収容する金属管の内側表面である。ガス絶縁開閉装置において、これら駆動部分の表面や金属管の内側表面は、例えばSF6等の絶縁性のガス雰囲気下にある。本実施形態では例示的に、ガス絶縁開閉装置に備えられている遮断器の駆動部分の表面を、測定基準面9として説明する。圧電素子11および試料8は、遮断器の駆動部分の表面に配置される。試料8は、例えば遮断器の駆動部分に使用されるグリースである。本実施形態では、圧電素子11は、保定器12により湾曲した状態に保たれている。
【0023】
保定器12は、圧電素子11を湾曲した状態に保つ。圧電素子11が湾曲していると、圧電素子11が有するばね性(springiness)が増強(enhance)される。ばね性とは、弾性変形に対する復元力を意味している。圧電素子11が有するばね性が増強されると、圧電素子11の振動状態を示す圧電素子11の応答電流111に、試料8と測定基準面9との間の潤滑性がより反映され、測定精度はさらに向上する。
【0024】
本実施形態では、保定器12の側壁121には段122が設けられており、段122には測定基準面9との取り付けに用いられる取付具13が配置される。図示するように、保定器12は、設置される雰囲気に圧電素子11を曝すように、器の少なくとも一部が開放していることが好ましい。図示する態様では、保定器12はアルファベットでいうU字状をしており、側面の一部が開放している。保定器12は、例えば樹脂または金属を用いて形成することができる。圧電素子11を湾曲した状態に保つことが可能である限り、保定器12の材質にはどのような材質を用いてもよい。
【0025】
取付具13には、例えば磁石を用いることができる。保定器12を測定基準面9に設置することが可能である限り、取付具13には磁石以外の例えば粘着剤、接着剤、ねじ止めによる設置や外部からのばね力による設置等の、種々の取り付け態様を採用することができる。
【0026】
図4は、第1の実施形態に係る測定部の回路図である。
【0027】
測定部15は、圧電素子11に駆動電圧を印加して、圧電素子11の振動状態を測定する。駆動電圧は高周波電圧であり、圧電素子11の応答電流111は圧電素子11の振動状態を示している。
【0028】
本実施形態では、測定部15は、高周波電源151と抵抗素子152と電圧計153とメモリ154とを備えている。高周波電源151は、信号線14を通じて圧電素子11に駆動電圧を印加する。抵抗素子152の両端の端子間電圧を電圧計153により測定することにより、圧電素子11の応答電流111が測定される。測定された応答電流111に関するデータは、アナログ-デジタル変換されてメモリ154に記録される。メモリ154に記録されているデータは、判定部16に送信されて判定に使用される。
【0029】
本実施形態では、圧電素子11の振動状態は、判定の基準となる基準試料と、判定の対象となる対象試料とのそれぞれについて測定される。本実施形態では、試料8はガス絶縁開閉装置の遮断器の駆動部分に使用されるグリースである。
【0030】
基準試料とは、駆動部分に使用されるグリースと同じグリースであり、劣化していないことが確認されている例えば未使用のグリースである。対象試料とは、駆動部分に使用されるグリースと同じグリースであり、駆動部分と同じ環境下に配置されて検出装置10により劣化度合が判定される、検出装置10内に別途配置されるグリースである。
【0031】
系統運用という表現を用いて言い換えると、基準試料とは、ガス絶縁開閉装置が系統運用を開始する前に測定基準面9に塗布されているグリースであり、対象試料とは、ガス絶縁開閉装置が系統運用している間に測定基準面9に塗布されているグリースである。ガス絶縁開閉装置が系統運用している間、測定基準面9に塗布されているグリースは劣化する。以下では、検出装置10を設置する対象であるガス絶縁開閉装置が系統運用を開始する前の試料8を基準試料と表現し、ガス絶縁開閉装置が系統運用している間の試料8を対象試料と表現する。
【0032】
なお、基準試料については、圧電素子11の振動状態を、判定部16による判定を行う前に少なくとも一度測定しておく。
【0033】
判定部16は、圧電素子11の振動状態に基づいて、試料8の劣化を判定する。試料8であるグリースの劣化が無くグリースの潤滑性が良いと、グリースが塗布された測定基準面9と圧電素子11との接触面が自由となり、圧電素子11の伸縮が容易となる。このように圧電素子11の伸縮が容易な場合には、圧電素子11の応答電流が増大する。これとは逆に、グリースが劣化して硬化しておりグリースの潤滑性が悪いと、グリースが塗布された測定基準面9と圧電素子11との接触面は動きづらくなり、圧電素子11は伸縮しづらくなる。このように圧電素子11が伸縮しづらい場合には、圧電素子11の応答電流が減少する。したがって、圧電素子11の応答電流の大きさを測定しモニターすることにより、グリースの劣化度合を推定することが可能となる。
【0034】
本実施形態では、基準試料について測定される圧電素子11の振動状態と、対象試料について測定される圧電素子11の振動状態とに基づいて、対象試料の劣化を判定する。圧電素子11の振動状態は、測定部15が備えるメモリ154から、応答電流111に関するデータとして取得する。
【0035】
警報部17は、判定部の判定結果に基づいて警報を出力する。警報部17は必須の構成ではなく任意の構成とすることができる。判定部16において試料8(対象試料)が劣化していると判定した場合、警報部17は、対象試料が劣化している旨の警報を出力する。本実施形態では、警報は、図示しない他の集中監視装置への警報信号であり、警報信号は、例えばネットワーク19を介して有線通信または無線通信により他の集中監視装置へ送信される。
【0036】
判定部16および警報部17には、ハードウェアとしてのCPUおよびメモリ等を備える、例えば公知の汎用コンピュータや、スマートフォン等の種々の情報端末装置を用いることができる。判定部16および警報部17は一体化して構成することができる。
【0037】
図5は、第1の実施形態に係る検出方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0038】
本実施形態では、判定の基準となる基準試料と、判定の対象となる対象試料とのそれぞれについて、圧電素子11の振動状態を測定する。ステップS1~S2は、基準試料を用いて判定の準備をするステップであり、ステップS3~S6は、対象試料について劣化度合を判定するステップである。
【0039】
<準備>
ステップS1(挟み込みステップ)において、基準試料を測定基準面9と圧電素子11との間に挟み込む。本実施形態では、基準試料として未使用のグリースを圧電素子11の表面に塗布して、測定基準面9である遮断器の駆動部分の表面にグリースおよび圧電素子11が接触するように、圧電素子11および保定器12を設置する。
【0040】
ステップS2(測定ステップ)において、圧電素子11に駆動電圧を印加して、基準試料について圧電素子11の振動状態を測定する。基準試料である未使用のグリースについて測定した応答電流111に関するデータは、例えば測定部15のメモリ154に記録しておく。
【0041】
これらステップS1~S2における判定の準備は、ステップS3~S6における劣化度合の判定を行う前のタイミングで、例えばガス絶縁開閉装置が系統運用に入る前のメンテナンス時のタイミングで少なくとも一度実行しておく。
【0042】
<判定>
本実施形態では、圧電素子11および保定器12を遮断器の駆動部分の表面から取り外して基準試料を圧電素子11の表面から取り除くことなく、基準試料として用いた未使用のグリースをそのまま遮断器の駆動部分の表面に残したまま、ガス絶縁開閉装置の系統運用を開始する。すなわち本実施形態では、判定の準備に用いた基準試料のグリースをそのまま、劣化度合を判定する対象である対象試料のグリースとして用いる。ステップS1~S2の処理を実行した後、圧電素子11および保定器12を遮断器の駆動部分の表面に設置したまま、ステップS3から繰り返し処理を行い、対象試料の劣化を連続的に自動で検出して、劣化状況をモニターする。ステップS3~S6における劣化度合の判定は、ガス絶縁開閉装置が系統運用中に自動的に繰り返し実行される。
【0043】
ステップS3(測定ステップ)において、圧電素子11に駆動電圧を印加して、対象試料について圧電素子11の振動状態を測定する。対象試料について測定した応答電流111に関するデータは、例えば測定部15のメモリ154に記録しておく。
【0044】
ステップS4(判定ステップ)において、基準試料について測定される圧電素子11の振動状態と、対象試料について測定される圧電素子11の振動状態とに基づいて、対象試料の劣化を判定する。判定部16は、基準試料について測定される圧電素子11の応答電流111に関するデータと、対象試料について測定される圧電素子11の応答電流111に関するデータとを、測定部15のメモリ154から取得して、これら応答電流111に関するデータに基づいて、対象試料の劣化を判定する。
【0045】
判定の結果、対象試料が劣化している(ステップS5においてYes)場合には、ステップS6(警報ステップ)において警報を出力して処理を終了する。判定の結果、対象試料が劣化していない(ステップS5においてNo)場合には、所定の測定インターバル(例えば1日)が経過した後にステップS3から繰り返し処理を行い、引き続き対象試料の劣化を連続的に自動で検出し、劣化状況をモニターする。
【0046】
[第2の実施形態]
図6は、第2の実施形態に係る検出装置の概略的な構成を模式的に示す図である。
図7は、第2の実施形態に係る二つの圧電素子が対向して配置される状態を示す図である。(A)は斜視図であり(B)は側面図である。なお理解を容易にするために、
図7において保定器の図示は省略している。
【0047】
第2の実施形態では、検出装置20は、対向して配置される二つの圧電素子11A,11Bを用いて試料8の劣化を判定する。第2の実施形態では、測定基準面9は、検出装置20を設置する対象機器の表面を用いて表現するのではなく、対向して配置される二つの圧電素子11A,11Bを用いて表現する。すなわち第2の実施形態では、第1の圧電素子11Aは、対向する第2の圧電素子11Bの面を測定基準面9として試料8を挟み込み、第2の圧電素子11Bは、対向する第1の圧電素子11Aの面を測定基準面9として試料8を挟み込む。
【0048】
以下において説明する第2の実施形態に係る検出装置20の構成は、特に言及しない限り、第1の実施形態に係る検出装置10の構成と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0049】
第2の実施形態に係る検出装置20は、第1の圧電素子11Aと、第2の圧電素子11Bと、第1の保定器12Aと、第2の保定器12Bと、測定部15と、判定部16と、警報部17とを備える。
【0050】
第2の実施形態に係る検出装置20では、第1の実施形態に係る圧電素子11および保定器12のセットを2つ備えている。すなわち、検出装置20は、第1の圧電素子11Aおよび第1の保定器12Aの第1のセットと、第2の圧電素子11Bおよび第2の保定器12Bの第2のセットとを備えており、第1の圧電素子11Aと第2の圧電素子11Bとが対向して配置されるように、第1の保定器12Aと第2の保定器12Bとが組み合わされて取り付けられている。試料8は、対向して配置される第1の圧電素子11Aと第2の圧電素子11Bとの間に挟み込まれている。
【0051】
測定部15は、第1の圧電素子11Aおよび第2の圧電素子11Bのそれぞれについて、信号線14A、14Bを通じて駆動電圧を印加する。
【0052】
対向して配置される第1の圧電素子11Aおよび第2の圧電素子11Bは、遮断器の駆動部分の表面に配置される。試料8は、第1の圧電素子11Aおよび第2の圧電素子11Bと同じ環境下に配置される。
【0053】
以上、本発明の実施形態に係る試料劣化検出装置によると、試料の劣化を検出する装置を設置する作業者に求められる熟練スキルを低減することができる。
【0054】
本発明の実施形態に係る検出装置10,20において、劣化度合を判定する対象である試料8としてのグリースは、測定基準面9と圧電素子11との間に挟み込まれるように配置される。検出装置10,20は、試料8が塗布された測定基準面9に圧電素子11を押し付けることにより設置されている。これにより、検出装置10,20を設置する作業者のスキルに依らず試料8を簡単に配置することができ、安定した判定結果を得ることができる。
【0055】
検出装置10,20は、圧電素子11による応答電流111を測定して判定に用いている。これにより、仮に、試料8であるグリースと測定基準面9との間に隙間や気泡が残っていたとしても、圧電素子11による応答電流111を測定して判定に用いているので、表面弾性波を感知する音響式粘度センサによる従来の判定方法と比べて、より安定した判定結果を得ることができる。試料8の劣化検出も連続的に自動で行うことができる。
【0056】
[その他の形態]
以上、本発明を特定の実施形態によって説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。
【0057】
上記した実施形態では、圧電素子11,11A,11Bは湾曲した状態で配置されているが、圧電素子11の振動状態を測定して試料8の劣化を判定することができる限り、圧電素子11,11A,11Bは湾曲した状態で使用されなくてもよい。圧電素子11,11A,11Bを湾曲した状態で配置する態様に代えて、ばね性を有する弾性体上に圧電素子11,11A,11Bを設けてもよい。このような弾性体は、例えば樹脂または金属を用いて形成することができ、弾性体には、例えばリン青銅を用いることができる。ばね性を有している限り、弾性体の材質にはどのような材質を用いてもよい。
【0058】
上記した実施形態では、基準試料に対する測定と対象試料に対する測定との間で測定結果を比較することにより、対象試料の劣化を判定しているが、対象試料の劣化を判定する方法はこれに限定されない。例えば予め設定された所定の閾値との比較により、対象試料の劣化を判定してもよい。
【0059】
上記した実施形態では、圧電素子11,11A,11Bの応答電流111の大きさを比較することにより対象試料の劣化を判定しているが、比較に用いる測定値はこれに限定されない。応答電流111の大きさに代えて、応答電流111の波形データを比較することにより、対象試料の劣化を判定してもよい。この場合、時間的に変化する応答電流111の波形データを測定部15のメモリ154に記録しておけばよい。
【0060】
対象試料の劣化を判定する方法も、基準試料に対する測定と対象試料に対する測定との間で応答電流111の波形データを比較することに限られない。例えば、系統運用している間の対象試料に対する測定により得られる応答電流111の波形データを学習データとして用い、実際の試料の劣化度合と測定された波形データの変化との関連性を予め機械学習させておくことにより、対象試料に対する測定のみにより、対象試料の劣化を判定してもよい。
【0061】
検出装置10,20を設置する対象機器は、上記したガス絶縁開閉装置に備えられている遮断器の駆動部分の表面に限定されず、断路器等の駆動部分の表面や、交流送電用の母線を収容する金属管の内側表面であってもよいし、変成器や電力変換装置などの静止機器の表面や、電動機などの回転機器の表面であってもよいし、変成器や開閉器等の送変電機器を含む電力設備の表面であってもよい。検出装置10,20を設置する対象は、試料8が劣化する環境下に設けられるなんらかの面であればよい。
【0062】
劣化を判定する対象である試料8は、上記した実施形態において例示するグリースに限定されない。測定基準面9と圧電素子11との間に挟み込んで、圧電素子11による応答電流111を測定することができる限り、グリースに限らず様々な試料8の劣化を判定することができる。
【0063】
判定部16および警報部17は、測定部15と一体化されて構成されていてもよいし、または検出装置10,20の外部に設けられて、有線または無線のネットワーク19を介して検出装置10,20と接続されていてもよい。
【符号の説明】
【0064】
8 試料
9 測定基準面
10 試料劣化検出装置
11(11A,11B) 圧電素子(第1の圧電素子、第2の圧電素子)
12(12A,12B) 保定器(第1の保定器、第2の保定器)
13 取付具
14(14A,14B) 信号線
15 測定部
16 判定部
17 警報部
19 ネットワーク
20 検出装置
111 応答電流
121 側壁
122 段
151 高周波電源
152 抵抗素子
153 電圧計
154 メモリ