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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148106
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】研磨パッド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/24 20120101AFI20231005BHJP
   H01L 21/304 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
B24B37/24 B
H01L21/304 622F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055968
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】後藤 崇将
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 舞子
【テーマコード(参考)】
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
3C158AA07
3C158CB03
3C158DA12
3C158EB09
3C158EB12
3C158EB28
3C158ED00
5F057AA24
5F057BA12
5F057BB09
5F057CA11
5F057DA03
5F057EB03
5F057EB07
5F057EB10
5F057EB30
(57)【要約】
【課題】ウェハの研磨加工において、研磨粒子半固定型の研磨パッドの研磨粒子にダイヤモンド粒子を用いつつ、より高い研磨能率を発揮させる。
【解決手段】本発明の研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材20と、母材20内又は気孔内に保持された研磨粒子30とを有し、被研磨物を研磨する研磨面40aを構成している。気孔は複数の独立気孔20aを含み、研磨粒子30は、独立気孔20a内に保持されたダイヤモンド粒子30aと、母材20に保持されたアルミナ粒子30bとを含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内及び前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、被研磨物を研磨する研磨面を構成する研磨パッドにおいて、
前記気孔は複数の独立気孔を含み、
前記研磨粒子は、前記独立気孔内に保持されたダイヤモンド粒子と、前記母材に保持されたアルミナ粒子とを含むことを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
前記独立気孔は、内径が最も長い箇所の長さが10μm以下であり、
前記ダイヤモンド粒子は平均粒径が1~10μmである請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
前記アルミナ粒子は平均粒径が0.1~5μmである請求項2記載の研磨パッド。
【請求項4】
前記研磨粒子は、前記独立気孔内に保持されたシリカ粒子を含む請求項1乃至3のいずれか1項記載の研磨パッド。
【請求項5】
前記シリカ粒子は平均粒径が0.1~5μmである請求項4で従属する請求項2記載の研磨パッド。
【請求項6】
前記ダイヤモンド粒子を7.1体積%以上含み、前記アルミナ粒子を2.7体積%以上、3.5体積%以下含み、前記シリカ粒子を1.4体積%以上含む請求項4又は5記載の研磨パッド。
【請求項7】
核生成成長型の相分離過程が生じるように、バインダ樹脂を溶剤に溶解した樹脂溶液、ダイヤモンド粒子、アルミナ粒子、シリカ粒子及び気孔形成剤を含むペーストを得る混合工程と、
前記ペーストからシート状の成形体を得る成形工程と、
前記成形体に対して前記相分離過程を経て、前記バインダ樹脂を硬化させるとともに前記独立気孔を形成する気孔形成工程と、を有することを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は研磨パッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1~3に従来の研磨パッドが開示されている。これらの研磨パッドは、母材と、研磨粒子とを有している。母材は、樹脂からなり、複数の気孔が形成されている。樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン、エポキシ樹脂、PES(ポリエーテルスルホン)等が用いられている。研磨粒子は、シリカ等からなり、母材内又は気孔内に保持されている。
【0003】
これらの研磨パッドは、混合工程、成形工程及び気孔形成工程を経て製造される。混合工程では、バインダ樹脂を溶剤に溶解した樹脂溶液、研磨粒子及び気孔形成剤を含むペーストを得る。成形工程では、ペーストからシート状の成形体を得る。気孔形成工程では、成形体に対して相分離過程を経て、バインダ樹脂を硬化させるとともに気孔を形成する。気孔形成工程で得られた中間体は、表面及び/又は裏面が研削され、被研磨物を研磨する研磨面が構成される。
【0004】
こうして得られた研磨パッドは、研磨粒子半固定型研磨パッドであり、研磨粒子を含まない研磨液や単なる水を研磨液として採用しつつ、CMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法の研磨加工に用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-49256号公報
【特許文献2】特開2021-61306号公報
【特許文献3】特許6243009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えばSiCウェハをCMP法により研磨加工する場合、一般に、厚さ調整を行う粗ラッピング加工を行った後、仕上げラッピング加工を行う。これらの研磨加工では、研磨粒子として他の粒子よりも硬いダイヤモンド粒子を用いるのが効率的である。
【0007】
しかし、発明者らの試験結果によれば、上記従来の研磨パッドでは、SiCウェハの研磨加工において、十分な研磨能率が得られない。
【0008】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ウェハの研磨加工において、研磨粒子半固定型の研磨パッドの研磨粒子にダイヤモンド粒子を用いつつ、より高い研磨能率を発揮させることを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気孔が形成された母材と、前記母材内及び前記気孔内に保持された研磨粒子とを有し、被研磨物を研磨する研磨面を構成する研磨パッドにおいて、
前記気孔は複数の独立気孔を含み、
前記研磨粒子は、前記独立気孔内に保持されたダイヤモンド粒子と、前記母材に保持されたアルミナ粒子とを含むことを特徴とする。
【0010】
発明者らは、研磨粒子半固定型研磨パッドの母材の気孔内にダイヤモンド粒子を保持させても、ウェハの研磨加工において十分な研磨能率が得られない理由について鋭意検討した。そして、研磨加工時に多くのダイヤモンド粒子が母材から脱落しており、実質的に研磨加工に寄与しているダイヤモンド粒子が不足しているのではないかと考えた。
【0011】
そこで、研磨加工時における母材に対するダイヤモンド粒子の滞留性を向上させることを指向した。そのためには母材の気孔構造が重要であると考え、母材に独立気孔を形成して独立気孔内にダイヤモンド粒子を保持させることを想起した。こうして得た研磨パッドを用いてウェハを研磨加工する試験を行ったところ、十分な研磨能率が得られることが実証された。
【0012】
また、発明者らの試験結果によれば、母材に複数の独立気孔を形成し、独立気孔内にダイヤモンド粒子を保持しただけでは、加工中の母材がダイヤモンド粒子を露出し難く、研磨能率のさらなる向上が望まれる。これらの知見に基づき、本発明は完成された。
【0013】
本発明の研磨パッドは、研磨粒子として他の粒子と比べて硬いダイヤモンド粒子を含んでいる。また、母材には独立気孔が形成されており、その独立気孔内にダイヤモンド粒子が保持されている。独立気孔とは、母材内で独立して存在するか、一定径以上の細孔と連通していない気孔をいう。独立気孔に対する用語としては、連続気孔が存在するが、連続気孔は、互いに連通しているか、一定径以上の細孔と連通している気孔をいう。細孔は、研磨パッドの製造時に成形体中の溶剤を置換する際に不可避的に生じる。本発明において、発明者らの確認によれば、独立気孔は、1μm以上の細孔と連通していない気孔をいう。上記従来の研磨パッドの気孔は、互いに連通しているか、1μm以上の細孔と連通した連続気孔であり、本発明の研磨パッドにおける独立気孔とは異なる。
【0014】
発明者らの試験結果によれば、本発明の研磨パッドは、例えばSiCウェハを被研磨物として研磨加工したときの研磨能率を向上させることができる。これは、研磨加工時における母材に対するダイヤモンド粒子の滞留性が向上し、実質的に研磨加工に寄与し得るダイヤモンド粒子を十分に確保できたためと考えられる。ダイヤモンド粒子の滞留性が向上する要因は、独立気孔が核生成成長型の相分離によって生じることから、連続気孔が生じるよりも濃度勾配が急であり、連続気孔の側壁よりも厚い側壁を有し、ダイヤモンド粒子が独立気孔内に保持され易くなるためであると推察している。
【0015】
また、本発明の研磨パッドは、研磨粒子が母材に保持されたアルミナ粒子を含んでいる。発明者らの試験結果によれば、母材にアルミナ粒子を含まれば、母材の靭性が低くなる。このため、加工中の母材の後退性が向上し、目潰れしたダイヤモンド粒子が適切な時期に露出して排除され易く、新しいダイヤモンド粒子による研磨を早期に開始できると考えられる。
【0016】
したがって、本発明の研磨パッドによれば、ウェハの研磨加工において、研磨粒子半固定型研磨パッドの研磨粒子にダイヤモンド粒子を用いつつ、より高い研磨能率を発揮できる。
【0017】
本発明の研磨パッドの製造方法は、核生成成長型の相分離過程が生じるように、バインダ樹脂を溶剤に溶解した樹脂溶液、ダイヤモンド粒子、アルミナ粒子、シリカ粒子及び気孔形成剤を含むペーストを得る混合工程と、
前記ペーストからシート状の成形体を得る成形工程と、
前記成形体に対して前記相分離過程を経て、前記バインダ樹脂を硬化させるとともに前記独立気孔を形成する気孔形成工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
混合工程では、気孔形成工程において核生成成長型(Nucleation Growth)の相分離過程が生じるように、バインダ樹脂、溶剤及び研磨粒子の各成分の体積比を適切に調整する。これにより、気孔形成工程において核生成成長型の相分離過程を生じさせる。核生成成長型の相分離が起これば、スピノーダル分解型(Spinodal Decomposition)の相分離過程と異なり、球状で孤立した多数の溶剤リッチ相が樹脂リッチ相中に分散する。これらの溶剤リッチ相はその大きさや相互位置が不規則であり、また、溶剤リッチ相と樹脂リッチ相との界面の濃度勾配が急である。そして、溶剤の除去及びバインダ樹脂の硬化を経ることで、大きさが不規則で不規則に分散した複数の独立気孔を母材に形成することができる。なお、独立気孔内の溶剤は、細孔から場合によっては連続気孔を経て母材外に排出される。こうして得られた母材においては、母材内又は気孔内に研磨粒子が保持されている。
【0019】
発明者らの試験結果によれば、このようなペーストとすることで、母材の気孔構造を適切な大きさの独立気孔を複数有する独立気孔構造とすることができる。
【0020】
また、研磨粒子であるダイヤモンド粒子、アルミナ粒子及びシリカ粒子は樹脂溶液との濡れ性が異なり、ダイヤモンド粒子及びシリカ粒子は独立気孔内に保持され易く、アルミナ粒子は母材内に保持され易い。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ウェハの研磨加工において、研磨粒子半固定型研磨パッドの研磨粒子にダイヤモンド粒子を用いつつ、高い研磨能率を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施例1~4の研磨パッドに係り、気孔形成工程後の中間体を模式的に示す拡大断面図である。
図2図2は、実施例1~4の研磨パッドに係り、切削工程後の研磨パッドを模式的に示す拡大断面図である。
図3図3は、実施例1の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の50000倍のSEM写真である。
図4図4は、実施例1の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の100000倍のSEM写真である。
図5図5は、実施例2の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の50000倍のSEM写真である。
図6図6は、実施例3の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
図7図7は、実施例4の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
図8図8は、比較例1の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
図9図9は、比較例2の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
図10図10は、比較例3の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
図11図11は、比較例4の研磨パッドに係り、研磨面に平行な断面の1000倍のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
独立気孔は内径が最も長い箇所の長さが10μm以下であり、ダイヤモンド粒子は平均粒径が1~10μmであることが好ましい。独立気孔内にダイヤモンド粒子が内包されて作用するため、ダイヤモンド粒子は独立気孔の内径が最も長い箇所の粒径以下であることが好ましい。また、ダイヤモンド粒子の平均粒径が1μm以上であれば、内部に含まれるダイヤモンド粒子の数を制限することができ、ダイヤモンド粒子が単粒的にウェハに作用し、加工後のウェハの表面状態が良好となる。
【0024】
独立気孔の気孔径は、画像解析装置により、研磨面に平行な断面のSEM写真を二値化処理し、例えば二値化画像中で白くつながった部位で囲まれた黒の領域を1つの粒子として認識して測定することができる。
【0025】
母材を構成する樹脂としては、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル、フッ化ビニル・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリエチレン、ポリメタクリル酸メチル等を採用することが可能である。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0026】
ダイヤモンド粒子としては、単結晶ダイヤモンド、多結晶ダイヤモンド、疑似多結晶ダイヤモンドの何れであってもよい。
【0027】
アルミナ粒子が独立気孔を塞がないことが好ましいため、アルミナ粒子は、独立気孔の内径が最も長い箇所である10μmの1/2の5μm以下であることが好ましい。また、アルミナ粒子が0.1μm未満では、比表面積が高く、製造時にペーストの攪拌が困難であるとともに、ペーストの粘度が増加して成形が困難になる。このため、アルミナ粒子は平均粒径が0.1~5μmであることが好ましい。
【0028】
本発明の研磨パッドは、研磨粒子として、ダイヤモンド粒子及びアルミナ粒子以外の研磨粒子を含んでいてもよい。これら以外の研磨粒子としては、シリカ粒子、セリア粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子、マンガン酸化物粒子、炭酸バリウム粒子、酸化クロム粒子、酸化鉄粒子等を挙げることができる。これらは1種でもよく、2種以上が混合されていてもよい。
【0029】
発明者らの試験によれば、研磨粒子は、ダイヤモンド粒子及びアルミナ粒子の他、シリカ粒子を含むことが好ましい。この場合、シリカ粒子がダイヤモンド粒子とともに独立気孔内に保持され、ダイヤモンド粒子と比べて軟質のシリカ粒子がダイヤモンド粒子を適度にウェハに押し付ける緩衝作用を発揮するとともに、シリカ粒子がダイヤモンド粒子との間で潤滑作用を発揮すると考えられる。このため、ウェハに対するダイヤモンド粒子によるスクラッチを抑えることが期待される。また、シリカ粒子によってペーストの粘性が上り、独立気孔を形成し易い。
【0030】
シリカ粒子も独立気孔を塞がないことが好ましいため、シリカ粒子は、独立気孔の内径が最も長い箇所である10μmの1/2の5μm以下であることが好ましい。また、シリカ粒子が0.1μm未満では、比表面積が高く、製造時にペーストの攪拌が困難であるとともに、ペーストの粘度が増加して成形が困難になる。このため、シリカ粒子も平均粒径が0.1~5μmであることが好ましい。
【0031】
発明者らの試験結果によれば、本発明の研磨パッドは、ダイヤモンド粒子を7.1体積%以上含み、アルミナ粒子を2.7体積%以上、3.5体積%以下含み、シリカ粒子を1.4体積%以上含むことが好ましい。この場合、SiCウェハの研磨加工において十分な研磨能率が得られ、またダイヤモンド粒子によるスクラッチを抑制できる研磨パッドを容易に製造することができる。
【0032】
本発明の研磨パッドにおける各成分の体積比は、研磨パッド全体を100体積%としたとき、樹脂:24~43体積%、ダイヤモンド粒子及びアルミナ粒子を含む研磨粒子:9~23体積%、気孔:35~64体積%であることが好ましい。
【0033】
溶剤としては、母材を構成する樹脂を溶解するものであれば何でもよく、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドやジメチルスルホキシド等を用いることができる。
【0034】
気孔形成剤は、母材に形成される気孔構造を調整するために添加される。気孔形成剤としては、油性の溶剤を採用する場合には、水溶性のものを用いることができる。水溶性の気孔形成剤としては、例えば、グラニュー糖を粉状に挽いた粉糖、コーンスターチ等を用いることができる。
【0035】
ペーストには、必要に応じて添加剤を添加してもよい。添加剤としては、溶剤に対する樹脂の溶解性を調整するためのグリセリン等を挙げることができる。
【0036】
成形工程は特に限定されず、Tダイ等の成形装置を用いてシート状の成形体に成形する。この成形方法についてはある程度厚みを揃えることができればこれに限られない。
【0037】
気孔形成工程では、例えば、水温を10°C以下に調整した貯水槽に成形体を所定時間浸漬することにより、核生成成長型の相分離過程を生じさせる。これにより、球状で孤立し、その大きさや相互位置が不規則な多数の溶剤リッチ相が樹脂リッチ相中に分散する。この際、溶剤リッチ相における溶剤は、比重差により水に置換される。
【0038】
このように気孔形成工程においては、油性の溶剤を採用した場合、水道水等の水性の液体を置換液として採用し、この置換液中に成形体を浸漬することで、核生成成長型の相分離過程を経て樹脂リッチ相中に溶剤リッチ相を分散させると同時に、その溶剤リッチ相における溶剤を置換液に置換して成形体から溶剤を取り除くことができる。この際、孤立した各溶剤リッチ相と成形体の外部とは樹脂リッチ相中に形成された細孔を介して連通され、細孔を介して溶剤と置換液とが置換される。このように成形体から溶剤が除去されると、樹脂リッチ相が収縮して硬化するとともに、その樹脂リッチ相中に微小な連続気孔が形成される。また、水道水等の水性の液体を置換液として採用し、この置換液中に成形体を浸漬することで、水溶性の気孔形成剤も同時に除去することができる。
【0039】
溶剤及び気孔形成剤が除去された成形体は、乾燥工程を経ることで、中間体とされる。中間体の表面及び/又は裏面を切削して研磨面を構成し、本発明の研磨パッドとされる。
【0040】
<準備工程>
以下のバインダ樹脂、研磨粒子、溶剤、気孔形成剤及び添加剤を準備した。
【0041】
(バインダ樹脂)
PES(ポリエーテルサルフォン)
(研磨粒子)
ダイヤモンド粒子(平均粒径:5μm)
アルミナ(Al23)粒子(平均粒径:0.3μm)
シリカ(SiO2 )粒子(平均粒径:0.2μm)
(溶剤)
N-メチル-2-ピロリドン
(気孔形成剤)
グラニュー糖の粉糖
(添加剤)
グリセリン
【0042】
<混合工程>
上記バインダ樹脂、研磨粒子、溶剤、気孔形成剤及び添加剤の各成分を表1の調合比(質量部)で混合し、ペーストを得た。この際、気孔形成工程において核生成成長型の相分離過程が生じるように、バインダ樹脂及び溶剤の体積比を適切に調整した。得られたペーストについて、JIS K 7244-10に準じて、平行平板振動レオメータにより40°Cの粘度(Pa・s)を測定した。その結果を表1に併せて示す。また、得られたペーストにおいては、気孔形成工程において核生成成長型の相分離過程が生じるように、バインダ樹脂及び溶剤の体積比が適切に調整されている。
【0043】
【表1】
【0044】
<成形工程>
得られた各ペーストを用い、Tダイを用いてシート状の成形体を得た。
【0045】
<気孔形成工程、乾燥工程>
貯水槽に貯留し、水温を10°C以下に調整した水道水中に成形体を所定時間浸漬した。これにより、成形体において核生成成長型の相分離過程を生じさせ、樹脂リッチ相中に球状で孤立した多数の溶剤リッチ相を分散させるとともに、成形体内の溶剤を水道水で置換して成形体から溶剤及び気孔形成剤を除去した。
【0046】
得られた中間体10を常温の大気中に2日程度放置することにより、中間体10から水分を除去した。実施例1~4の中間体10の模式断面図を図1に示す。
【0047】
各中間体10は、母材20と、研磨粒子30とを有している。母材20は、樹脂からなり、複数の独立気孔20aと、複数の連続気孔(図示せず)と、細孔(図示せず)とが形成されている。独立気孔20aは、1μm未満の細孔とは連通しているが、1μm以上の細孔と連通していない気孔である。連続気孔は、互いに連通しているか、1μm以上の細孔と連通している気孔である。細孔は、独立気孔20a及び連続気孔以外の気孔である。
【0048】
各中間体10の表面を研削し、図2に示すように、被研磨物を研磨する研磨面40aが構成される。こうして研磨パッド40が得られる。各研磨パッド40も、樹脂からなり、複数の気孔20a等が形成された母材20と、母材20内又は独立気孔20aを含む気孔内に保持された研磨粒子30とを有している。研磨粒子30は、ダイヤモンド粒子30aと、アルミナ粒子30bと、シリカ粒子30cとからなる。ダイヤモンド粒子30a及びシリカ粒子30cは、母材20内や連続気孔内に保持されてもいるが、ほとんどが独立気孔20a内に保持されている。アルミナ粒子30bはほとんどが母材20内に保持されている。各研磨パッド40は、直径300mm、厚さ2mmの円板状のものである。
【0049】
各研磨パッドについて、各成分の体積比(vol%)、密度(g/cm3 )及びデュロメータ硬度(ショアD)を測定した。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
また、各研磨パッド40について、研磨面40aと平行な断面のSEM写真を図3~7に示す。図3~5から明らかなように、実施例1~4の研磨パッド40は独立気孔構造を有し、多数の独立気孔20a内に研磨粒子30としてのダイヤモンド粒子30a及びシリカ粒子30cが保持され、母材20内にアルミナ粒子30bが保持されていることがわかる。
【0052】
一方、図6に示すように、比較例1の研磨パッド40では、独立気孔構造が形成されておらず、つまり母材が独立気孔を有しておらず、連続気孔及び細孔のみを有していることがわかる。また、図7に示すように、比較例2の研磨パッド40では、独立気孔構造が形成されているものの、気孔径が10μm以上の独立気孔が約20%占めている構造であることがわかる。
【0053】
実施例1~4及び比較例1~4の各研磨パッド40について、ウェハ研磨試験装置を用いて、以下の加工試験条件でSiCウェハを研磨加工し、研磨能率(加工レート)(μm/分)と、加工後のウェハの面状態とを調べた。加工後のウェハの面状態は、面粗さSa(nm)と、最大深さSz(nm)とで評価した。
【0054】
<試験条件>
試験機:ウェハ研磨装置(Engis EJW-380)
ワーク(被研磨物):SiCウェハ(4インチ)
研磨液:水
研磨液量:10ml/分
加工圧:20kPa
定盤/ワーク回転数:60/60rpm
【0055】
結果を表3に示す。表3から明らかなように、実施例1~4の研磨パッド40は、いずれも比較例1の研磨パッド40よりも加工レートが向上している。また、比較例2の研磨パッド40では、面粗さSaが粗く、かつ最大深さSzが過度に深い。
【0056】
【表3】
【0057】
これは、実施例1~4の研磨パッド40では、独立気孔20a内にダイヤモンド粒子30a及びシリカ粒子30cが良好に保持されることで、研磨加工時において母材20に対するダイヤモンド粒子30aの滞留性が向上し、その結果、実質的に研磨加工に寄与しているダイヤモンド粒子30aを十分に確保できたためと考えられる。また、実施例1~4の研磨パッド40は、研磨粒子30が母材20に保持されたアルミナ粒子30bを含んでいるため、母材20の靭性が低くなり、加工中の母材20の後退性が向上しているためであると考えられる。この場合、目潰れしたダイヤモンド粒子30aが適切な時期に露出して排除され易く、新しいダイヤモンド粒子30aによる研磨を早期に開始できると考えられる。
【0058】
なお、比較例2の研磨パッドの加工レートが比較例1の研磨パッドの加工レートよりも向上したのは、独立気孔構造が形成されていることで、ダイヤモンド粒子30aの滞留性が高いためと考えられる。一方で、気孔径が10μm以上の独立気孔20a内に多数のダイヤモンド粒子30aを含むため、加工時に多数のダイヤモンド粒子30aが同時にワークに作用し、加工後のワークの面状態が粗い結果となっていると考えられる。
【0059】
以上において、本発明を実施例1~4に即して説明したが、本発明は上記実施例1~4に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は半導体デバイスの製造装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
20a…独立気孔
20…母材
30…研磨粒子
30a…ダイヤモンド粒子
30b…アルミナ粒子
30c…シリカ粒子
40a…研磨面
40…研磨パッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11