(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148111
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ガラス体用研磨液及びガラス体研磨方法
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20231005BHJP
B24B 37/24 20120101ALI20231005BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20231005BHJP
B24B 37/10 20120101ALI20231005BHJP
C03C 19/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
B24B37/24 B
B24B37/00 H
B24B37/10
C09K3/14 550Z
C03C19/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055974
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】株式会社ノリタケカンパニーリミテド
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】岸本 正俊
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 将太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
【テーマコード(参考)】
3C158
4G059
【Fターム(参考)】
3C158AA09
3C158AC04
3C158CA06
3C158CB03
3C158CB10
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
3C158EB09
3C158EB10
3C158ED26
4G059AA01
4G059AB03
4G059AC03
(57)【要約】
【課題】ガラス体研磨方法において、研磨液の管理が不要又は容易であり、研磨後のガラス体についての別個の洗浄工程を省略又は簡素化でき、研磨後の研磨液の再利用又は廃棄が容易であるとともに、研磨の持続性も実現可能にする。
【解決手段】本発明のガラス体用研磨液は、被研磨物1と研磨パッド10との間に介在され、所定の面圧の下で被研磨物1と研磨パッド10とを相対移動させることにより、CMP法によって被研磨物1を研磨するガラス体用研磨液11aである。被研磨物1は珪酸を含むガラスからなる。研磨パッド10は、樹脂からなり、複数の気泡が形成された母材と、CeO
2からなり、母材内又は気泡内に保持された研磨粒子とを有している。ガラス体用研磨液11aは、研磨砥粒を含まず、水と、水に溶解する界面活性剤とを研磨時に連続した泡を生じない範囲で含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被研磨物と研磨パッドとの間に介在され、所定の面圧の下で前記被研磨物と前記研磨パッドとを相対移動させることにより、CMP法によって前記被研磨物を研磨するガラス体用研磨液であって、
前記被研磨物は、珪酸を含むガラスからなり、
前記研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気泡が形成された母材と、CeO2からなり、前記母材内又は前記気泡内に保持された研磨粒子とを有し、
研磨砥粒を含まず、水と、水に溶解する界面活性剤とを研磨時に連続した泡を生じない範囲で含むことを特徴とするガラス体用研磨液。
【請求項2】
前記界面活性剤は、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム及びパルミチン酸カリウムの少なくとも1種である請求項1記載のガラス体用研磨液。
【請求項3】
ステアリン酸カリウムが2質量%以下の水溶液である請求項2記載のガラス体用研磨液。
【請求項4】
ステアリン酸ナトリウムが2質量%以下の水溶液である請求項2記載のガラス体用研磨液。
【請求項5】
粘度が25°Cで5~100cPである請求項1乃至4のいずれか1項記載のガラス体用研磨液。
【請求項6】
粘度が25°Cで40~80cPである請求項5記載のガラス体用研磨液。
【請求項7】
被研磨物と研磨パッドとの間にガラス体用研磨液を介在させ、所定の面圧の下で前記被研磨物と前記研磨パッドとを相対移動させることにより、CMP法によって前記被研磨物を研磨する研磨方法において、
前記被研磨物は、珪酸を含むガラスからなり、
前記研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気泡が形成された母材と、CeO2からなり、前記母材内又は前記気泡内に保持された研磨粒子とを有し、
前記ガラス体用研磨液は、研磨砥粒を含まず、水と、水に溶解する界面活性剤とを研磨時に連続した泡を生じない範囲で含むことを特徴とするガラス体研磨方法。
【請求項8】
前記研磨パッドは、前記母材がポリエーテル製であり、前記研磨粒子が、平均粒径が300nmであり、前記研磨パッド100体積%のうちで5~45体積%の割合で前記母材内又は前記気泡内に保持されている請求項7記載のガラス体研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はガラス体用研磨液及びガラス体研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
珪酸を含むガラスからなる被研磨物をCMP(Chemical Mechanical Polishing:化学的機械的研磨)法により研磨するガラス体研磨方法が特許文献1に開示されている。このガラス体研磨方法では、ガラス体としてのガラス基板を研磨するため、被研磨物としてのガラス基板と研磨パッドとの間に研磨粒子を分散させたスラリーを研磨液として介在させ、所定の面圧の下で被研磨物と研磨パッドとを相対移動させる。研磨パッドとしては発泡ウレタン等が採用され、研磨液に分散された研磨粒子としてはセリア(酸化セリウム、CeO2)が採用されている。
【0003】
しかし、上記従来のガラス体研磨方法では、研磨液が研磨粒子を含んでいる。このため、これらのガラス体研磨方法では、研磨液の管理が必要であるとともに、研磨後のガラス体に対して洗浄を行なうことが必要になる。また、研磨液が高価なものとなるため、研磨後の研磨液を回収し、所定の状態に再調整した後で再利用する必要もある。さらに、研磨後の研磨液や洗浄液を廃棄する場合には、それらが環境を犯さないように複雑な処理を行なわなければならない。このため、従来のガラス体研磨方法では、研磨工程以外に複雑な工程が必要になり、研磨コストの高騰化を生じてしまう。
【0004】
この点、出願人は特許文献2のガラス体研磨方法を提案した。このガラス体研磨方法では、CeO2からなる研磨粒子を母材の気泡内に保持した研磨パッドを採用し、研磨液が水のみであるため、研磨液の管理が不要である。また、研磨後のガラス体が研磨液で既に洗浄されたものとなり、別個の洗浄工程を省略又は簡素化できる。また、研磨液が安価なものとなるため、研磨後の研磨液を必ずしも回収して再利用する必要がない。さらに、研磨後の研磨液を廃棄する場合にも、さほどの処理が必要ではない。このため、このガラス体研磨方法及びガラス体研磨装置では、研磨工程以外に複雑な工程が不要になる。このため、このガラス体研磨方法によれば、研磨コストの低廉化を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3531906号公報
【特許文献2】特許第6976282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者らの試験結果によれば、上記特許文献2記載のガラス体研磨方法は研磨の持続性が望まれる。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、ガラス体研磨方法において、研磨液の管理が不要又は容易であり、研磨後のガラス体についての別個の洗浄工程を省略又は簡素化でき、研磨後の研磨液の再利用又は廃棄が容易であるとともに、研磨の持続性も実現可能にすることを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガラス体用研磨液は、被研磨物と研磨パッドとの間に介在され、所定の面圧の下で前記被研磨物と前記研磨パッドとを相対移動させることにより、CMP法によって前記被研磨物を研磨するガラス体用研磨液であって、
前記被研磨物は、珪酸を含むガラスからなり、
前記研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気泡が形成された母材と、CeO2からなり、前記母材内又は前記気泡内に保持された研磨粒子とを有し、
研磨砥粒を含まず、水と、水に溶解する界面活性剤とを研磨時に連続した泡を生じない範囲で含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明のガラス体研磨方法は、被研磨物と研磨パッドとの間にガラス体用研磨液を介在させ、所定の面圧の下で前記被研磨物と前記研磨パッドとを相対移動させることにより、CMP法によって前記被研磨物を研磨する研磨方法において、
前記被研磨物は、珪酸を含むガラスからなり、
前記研磨パッドは、樹脂からなり、複数の気泡が形成された母材と、CeO2からなり、前記母材内又は前記気泡内に保持された研磨粒子とを有し、
前記ガラス体用研磨液は、研磨砥粒を含まず、水と、水に溶解する界面活性剤とを研磨時に連続した泡を生じない範囲で含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のガラス体用研磨液及びガラス体研磨方法では、CeO2からなる研磨粒子を母材内又は気泡内に保持した研磨パッドを採用している。研磨粒子は、気泡内に保持されておれば、研磨パッドから分離するまでは、研磨パッドに弾性的に保持された状態で被研磨物を研磨する。この際、気泡内の研磨砥粒は、遊離型で用いられる研磨砥粒よりも強く、従来の固定型で用いられる研磨砥粒よりも弱い力で研磨パッドに保持される。研磨粒子は、母材内に保持されていても、研磨パッドから分離するまでは、研磨パッドに弾性的に保持された状態で被研磨物を研磨する。この際、母材に保持された研磨砥粒は、遊離型で用いられる研磨砥粒よりも強く、気孔内の研磨砥粒よりも強く、従来の固定型で用いられる研磨砥粒よりも弱い力で研磨パッドに保持される。このため、研磨粒子は、気泡や母材から脱落し難く、スクラッチを生じ難い。
【0011】
また、ガラス体用研磨液は、水だけではないものの、研磨砥粒を含まないため、管理が不要又は容易である。また、研磨後のガラス体が研磨液で既に洗浄されたものとなり、別個の洗浄工程を省略又は簡素化できる。また、研磨液が安価なものとなるため、研磨後の研磨液を必ずしも回収して再利用する必要がない。さらに、研磨後の研磨液を廃棄する場合にも、さほどの処理が必要ではない。このため、このガラス体用研磨液及びガラス体研磨方法では、研磨工程以外に複雑な工程が不要になる。
【0012】
さらに、ガラス体用研磨液は、発明者らの試験結果によれば、水と、水に溶解する界面活性剤とを研磨時に連続した泡を生じない範囲で含むため、研磨の持続性も実現できる。
【発明の効果】
【0013】
ガラス体研磨方法において、研磨液の管理が不要又は容易であり、研磨後のガラス体についての別個の洗浄工程を省略又は簡素化でき、研磨後の研磨液の再利用又は廃棄が容易であるとともに、研磨の持続性も実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、試験に用いたガラス体研磨装置の要部側面図である。
【
図2】
図2は、試験において、研磨時間と研磨レートとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
界面活性剤としては、A(1)脂肪酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、アルファスルホ脂肪酸エステルナトリウム等の脂肪酸系(陰イオン)界面活性剤、(2)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の直鎖アルキルベンゼン系界面活性剤、アルキル硫酸エステルナトリウム、(3)アルキルエーテル硫酸エステルナトリウム等の高級アルコール系(陰イオン)界面活性剤、(4)アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム等のアルファオレフィン系界面活性剤、(5)アルキルスルホン酸ナトリウム等のノルマルパラフィン系界面活性剤のいずれかの陰イオン界面活性剤、B(1)しょ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド等の脂肪酸系(非イオン)界面活性剤、(2)ポリオキシエチレンアルキルエーテル等の高級アルコール系(非イオン)界面活性剤、(3)ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル等のアルキルフェノール系界面活性剤のいずれかの非イオン界面活性剤、C(1)アルキルアミノ脂肪酸ナトリウム等のアミノ酸系界面活性剤、(2)アルキルベタイン等のベタイン系界面活性剤、(3)アルキルアミンオキシド等のアミンオキシド系界面活性剤のいずれかの両性界面活性剤、D(1)アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩等の第四級アンモニウム塩系である陽イオン界面活性剤を用いることができると考えている。これらの界面活性剤を単独で用いてもよく、混合して用いてもよい。
【0016】
ガラス体研磨液は、粘度が25°Cで5~100cP(mPa・秒)であることが好ましく、25°Cで40~80cP(mPa・秒)であることがより好ましい。また、発明者らの試験によれば、界面活性剤は、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム及びパルミチン酸カリウムの少なくとも1種であることが好ましい。これらであれば、水溶性であり、ガラス体用研磨液が連続した泡を発生し難く、研磨の持続性が優れている。特に、発明者らの試験によれば、ガラス体研磨液は、ステアリン酸カリウムが2質量%以下の水溶液又はステアリン酸ナトリウムが2質量%以下の水溶液であることが好ましい。
【0017】
「試験」
まず、以下の材料を用意した。
(母材樹脂)
PES(ポリエーテルサルフォン)
(研磨粒子)
セリア(CeO2)(平均粒径:300nm)
(溶媒)
NMP(N-メチル-2-ピロリドン)
【0018】
これらを母材樹脂20体積%、研磨粒子20体積%、溶媒55体積%で混合し、ペーストを得た。得られたペーストを用い、Tダイ等の成形装置を用いてシート状の成形体に成形した。そして、成形体を置換液に浸漬させ、所定時間経過後に置換液から取り出した。成形体は、全ての溶媒が置換液に置換されて固化し、固化体となっている。固化体を乾燥し、所定の厚みまで研削し、特許第6976282号公報記載の研磨パッド10を得た。
【0019】
この研磨パッド10は、樹脂からなり、複数の気泡が形成された母材と、CeO2からなり、母材内又は気泡内に保持された研磨粒子とを有している。母材はポリエーテル製である。研磨粒子の平均粒径は300nmである。研磨粒子は、研磨パッド100体積%のうちで25体積%の割合で含まれている。発明者らの試験結果によれば、研磨粒子が研磨パッド100体積%のうちで5~45体積%の割合で母材内又は気泡内に保持されておれば、同様の作用効果を生じる。
【0020】
得られた研磨パッド10の表面を研磨面とし、ウェハ研磨装置(ラップマスター製LAPOLISH15)にて、被研磨物としてのウェハ1の研磨を行った。各ウェハ1は、直径4inchの合成石英製である。
【0021】
ウェハ研磨装置は、
図1に示すように、複数のキャリヤ5と、定盤7と、駆動装置9と、研磨液供給装置11とを備えている。
図1には単一のキャリヤ5だけを図示しているが、ウェハ研磨装置は複数のキャリヤ5を有している。各キャリヤ5は水平な円板状をなしている。各キャリヤ5の下面には第2固定面5aが凹設されており、第2固定面5aにはウェハ1が固定されるようになっている。各キャリヤ5の上面にはキャリヤ回転軸5bが垂直に突設されている。
【0022】
定盤7は、全てのキャリヤ5を内包する水平な円板状をなしている。定盤7の下面には定盤回転軸7aが垂直に突設されている。定盤7の上面は第1固定面7bとされている。第1固定面7bには、各ウェハ1と対面するように円板状の研磨パッド10が接着剤によって固定されている。
【0023】
駆動装置9は、主駆動装置9aと、副駆動装置9bと、加圧装置9cとを有している。主駆動装置9aは定盤回転軸7aを第1軸心O1周りで所定速度で回転駆動する。副駆動装置9bは各キャリヤ回転軸5bを第2軸心O2周りで所定速度で回転駆動する。加圧装置9cは各キャリヤ回転軸5b及び副駆動装置9bを定盤7に向けて所定荷重で加圧する。
【0024】
研磨液供給装置11は定盤7の上方に設けられている。研磨液供給装置11は各ウェハ1と研磨パッド10との間にガラス体用研磨液11aを介在させる。
【0025】
ガラス体用研磨液11aとしては、表1に示す水溶液を用いた。各水溶液は、以下の界面活性剤を表1に示す濃度(質量%)で水に溶解して得たものである。
ラウリン酸カリウム(C12H23KO2)
ミリスチン酸カリウム(C14H27KO2)
パルミチン酸カリウム(C16H31KO2)
ステアリン酸カリウム(C18H35KO2)
オレイン酸カリウム(C18H33KO2)
リノール酸カリウム(C18H31KO2)
リノレン酸カリウム(C18H29KO2)
ステアリン酸ナトリウム(C18H35NaO2)
ステアリン酸カルシウム((C18H35O2)2Ca)
【0026】
このウェハ研磨装置において、以下の条件で各ウェハ1を研磨した。
第1定盤及び第2定盤の回転数:60(rpm)
第1、2研磨パッドの大きさ:直径300(mm)
キャリヤの回転数:60(rpm)
加工面圧:60(kPa)
ガラス体用研磨液の供給タイミング:10mL/分
【0027】
ガラス体用研磨液11aについて、泡の発生の有無と、水溶性と、研磨の持続性とを評価した。結果を表1に示す。各ガラス体用研磨液11aの粘度(cP(mPa・秒))も表1に示す。
【0028】
泡の発生の有無は、研磨試験中にガラス体用研磨液11aに泡が発生したか否かを目視によって判断し、泡の発生がなければ◎とし、3mm以下の泡が単発で発生する状態であれば〇とし、連続する泡が発生する状態であれば×とした。
【0029】
水溶性は、目視で判断し、溶質が溶け切った状態であれば〇とし、溶質が残存する状態であれば×とした。
【0030】
研磨の持続性は、
図1の装置を用いた研磨方法で判断し、水のみでの研磨レートより向上すれば〇とし、同等以下であれば×とした。
【0031】
【0032】
また、水のみをガラス体用研磨液11aとして用いた場合と比較し、各ガラス体用研磨液11aの研磨時間(分)と研磨レート(nm/分)との関係も評価した。結果を
図2に示す。
【0033】
表1及び
図2に示すように、界面活性剤がステアリン酸カリウム、ステアリン酸ナトリウム又はパルミチン酸カリウムであれば、水溶性であり、ガラス体用研磨液11aが連続した泡を発生し難く、研磨の持続性が優れている。特に、ステアリン酸カリウムが1質量%の水溶液をガラス体用研磨液11aとして用いれば、水のみをガラス体用研磨液11aとして用いた場合よりも3倍程度、研磨の持続性が延びている。ステアリン酸カリウムが2質量%の水溶液をガラス体用研磨液11aとして用いた場合は、2倍程度、研磨の持続性が延びている。ステアリン酸ナトリウムが2質量%以下の水溶液をガラス体用研磨液11aとして用いた場合は、2倍程度、研磨の持続性が延びている。
【0034】
この際、CeO2粒子の極表面がガラス体であるウェハ1に対して学的な作用を及ぼしていると推察される。すなわち、CeO2粒子のCe3+がH2O中でSi-O結合を弱くし、化学的研磨を生じさせていると推察される。
【0035】
また、ガラス体用研磨液11aは、粘度が25°Cで5~100cP(mPa・秒)であることが好ましく、25°Cで40~80cP(mPa・秒)であることがより好ましいこともわかる。粘度がこの範囲であれば、長時間、Ce3+がSi-Oと接触し、化学的研磨を生じさせ易いと推察される。
【0036】
また、このガラス体研磨方法では、CeO2からなる研磨粒子を母材内又は気泡内に保持した研磨パッド10を採用しているため、研磨粒子が気泡や母材から脱落し難く、スクラッチを生じ難い。
【0037】
また、試験で用いたガラス体用研磨液11aは、水だけではないものの、研磨砥粒を含まないため、管理が不要又は容易である。また、研磨後のウェハ1がガラス体用研磨液11aで既に洗浄されたものとなり、別個の洗浄工程を簡素化できる。また、ガラス体用研磨液11aが安価なものとなるため、研磨後のガラス体用研磨液11aを必ずしも回収して再利用する必要がない。さらに、研磨後のガラス体用研磨液11aを廃棄する場合にも、さほどの処理が必要ではない。
【0038】
以上において、本発明を試験に即して説明したが、本発明は試験で用いたものに制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0039】
例えば、被研磨物は、合成石英からなるウェハ1に限定されず、珪酸を含んでおれば、硼珪酸ガラス、珪酸鉛ガラス等であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、カメラ用ガラスレンズ、ハードディスク、フラットパネルディスプレイ等の製造方法及び製造装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1…被研磨物(ウェハ)
10…研磨パッド
11a…ガラス体用研磨液