(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148123
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法および当該方法に使用する添加剤
(51)【国際特許分類】
A23L 3/00 20060101AFI20231005BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20231005BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20231005BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20231005BHJP
A23L 3/3544 20060101ALN20231005BHJP
A23L 3/358 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
A23L3/00 101A
A23L19/00 A
A23L19/00 Z
A23L35/00
A23L33/10
A23L3/3544 501
A23L3/358
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055992
(22)【出願日】2022-03-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.掲載物 「2021年度事業計画書 公益財団法人 東洋食品研究所」 掲載アドレス https://www.shokuken.or.jp/aboutus/profile.html https://www.shokuken.or.jp/docs/business_plan_2021.pdf 掲載年月日 令和3年3月31日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2.掲載物 「2020年度事業報告書(自 2020年4月1日至2021年3月31日) 2021年6月14日 公益財団法人 東洋食品研究所」 掲載アドレス https://www.shokuken.or.jp/aboutus/profile.html https://www.shokuken.or.jp/docs/business_report_2020.pdf 掲載年月日 令和3年6月14日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 3.発行者名 公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会 刊行物名 「缶詰時報」2021年10月号 100巻10号(通巻1162号) 発行年月日 令和3年10月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 4.掲載物 「缶詰時報Online」 2021年10月号 掲載アドレス https://jca-can.or.jp/jihoonline.html 掲載年月日 令和3年10月1日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 5.掲載物 第70回技術大会プログラム 掲載アドレス https://www.jca-can.or.jp/events/gitaikai_program.html 掲載年月日 令和3年11月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 6.掲載物 自法人のウェブサイトでの「第70回技術大会プログラム」の発表要旨 掲載アドレス https://www.shokuken.or.jp/info/presentation/002677.html 掲載年月日 令和3年11月5日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 7.集会名 第70回技術大会(公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会 主催) 開催場所 ZOOMウェビナーによるオンライン開催 https://us06web.zoom.us/w/84765944585?tk=RCRFB4sZHOZTMtsGuUKsZLFrhTku2GcrSxHP21lvCr0.DQMAAAATvHGrCRZNRjdadld1UFJONms0ZzlCTG5fOTdnAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA&pwd=eml4QUJRb3FybGpoak1SenNvQU0zZz09&uuid=WN_4_ydDl_gQiiJKK45SN1B6w 開催日 令和3年11月12日
(71)【出願人】
【識別番号】507152970
【氏名又は名称】公益財団法人東洋食品研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】井上 竜一
(72)【発明者】
【氏名】梅谷 華奈
【テーマコード(参考)】
4B016
4B018
4B021
4B036
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LC05
4B016LE03
4B016LG08
4B016LK01
4B016LK20
4B016LP05
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4B036LH50
4B036LK06
4B036LP01
4B036LP17
4B036LP19
4B036LP24
(57)【要約】
【課題】喫食直前の加熱によって食材の形状が崩れ難い収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法、および、当該方法に使用する添加剤を提供する。
【解決手段】食材である野菜と、キレート剤を含有するキレート剤溶液と、を収容容器に収容してある収容容器入り加工食品において、収容容器を開封した後に、二価金属化合物を含有した二価金属化合物溶液を含む添加剤を添加する添加工程Dと、添加工程Dの後に加熱調理を行う加熱調理工程Eと、を有する収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法、および、当該方法に使用する添加剤。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材である野菜と、キレート剤を含有するキレート剤溶液と、を収容容器に収容してある収容容器入り加工食品において、
前記収容容器を開封した後に、二価金属化合物を含有した二価金属化合物溶液を含む添加剤を添加する添加工程と、
前記添加工程の後に加熱調理を行う加熱調理工程と、を有する収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項2】
前記二価金属化合物が乳酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウムおよびグルコン酸カルシウムの何れかである請求項1に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項3】
前記添加剤における二価金属化合物溶液の濃度が1mM~4.33Mである請求項1または2に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項4】
前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を1.25mM以下としてある請求項3に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項5】
前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を1.25mMより高く、5mM以下としてある請求項3に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項6】
前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を5mMより高くしてある請求項3に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項7】
前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を1.5mM以下としてある請求項3に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項8】
前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を1.5mMより高く、50mM以下としてある請求項3に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項9】
前記キレート剤溶液の濃度を0.1~0.45%とし、前記二価金属化合物溶液の濃度を1.25~3mMとしてある請求項1~3の何れか一項に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項10】
前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤に加えて、さらにキレート剤を0.025%添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を2~3mMとし、または、さらにキレート剤を0.05%添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を3mM以上としてある請求項1~3の何れか一項に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項11】
前記加熱調理工程を電子レンジで行う請求項1~10の何れか一項に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項12】
前記野菜が根菜類である請求項1~11の何れか一項に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項13】
前記食材の硬度を2×104N/m2より大きく、5×105N/m2以下としてある請求項1~12の何れか一項に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法。
【請求項14】
請求項1~13の何れか一項に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法に使用し、二価金属化合物を含有した二価金属化合物溶液を含む添加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の硬度を有する食材を収容した収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法、および、当該方法に使用する添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食事において、例えば咀嚼困難や嚥下障害が生じると、食事が困難になって低栄養に陥る場合があり、栄養が不足すると褥瘡(床ずれ)にもなり易くなる。食事を単に軟らかくしただけでは、食事のべたつきや口中でのまとまり具合などによって飲み込みが難しくなり、嚥下の機能が損なわれる。例えば食事の飲み込みが難しくなり、誤嚥(ごえん)などが発生した場合は、誤嚥性肺炎などの危険も高まる虞がある。
また、食事が完了して栄養が摂れたとしても、食事自体の見た目や味がしっかりしていないと、本当に食べたいという気持ちにならず、食が細くなり食事をする意欲が失せる虞がある。
【0003】
日本介護食品協会のユニバーサルデザインフードにおいて、介護食品の中でも「舌でつぶせる」区分の商品の登録数が最も多いことから、この区分のニーズが最も高いと考えられる。その製造方法は、レトルトや酵素処理、ミキサーにかけたものを再成形するなど様々である。
【0004】
特許文献1には、視覚を通じて十分に食欲を惹起できる程度の大きさの具材を含みながら、咀嚼・嚥下困難者等が容易に咀嚼・嚥下できる常温保存可能な加工食品について記載してある。具体的には、
1)酵素処理、密封加熱処理の前後において該食品素材の粒径または長辺の長さが15mmを超え、かつ1000mm以下である
2)酵素処理、密封加熱処理後においても食品素材が素材の外観を維持している
3)酵素処理、密封加熱処理後の食品素材のかたさが舌のみで均等につぶせるかたさである、構成を有することが開示してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の手法で製造した食品は、喫食直前までは所望の硬度を有するように処理された食材を有する。喫食前の加熱によって食材は例えば「舌でつぶせる」相当まで軟化させることができるが、硬さにはバラツキがあり、食材の少なくとも一部は形状が崩壊するほど軟化する虞があった。
【0007】
食材の中には、食事自体の見た目によって食事をする意欲が失せる虞があるため、食材の全体が喫食前の加熱直前の形状(少なくとも一部の形状が崩壊する前の形状)を維持しているのが望ましい。
【0008】
従って、本発明の目的は、喫食直前の加熱によって食材の形状が崩れ難い収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法、および、当該方法に使用する添加剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第一特徴構成は、食材である野菜と、キレート剤を含有するキレート剤溶液と、を収容容器に収容してある収容容器入り加工食品において、前記収容容器を開封した後に、二価金属化合物を含有した二価金属化合物溶液を含む添加剤を添加する添加工程と、前記添加工程の後に加熱調理を行う加熱調理工程と、を有する点にある。
【0010】
食材にはペクチンが含まれており、ペクチンは金属イオンで架橋して食材の硬さを構成している。即ち、食材にキレート剤溶液が含侵することで、キレート反応によって当該架橋を外して食材を軟化させることができる。本構成によれば、添加工程は、開封した収容容器の内部の食材に対して添加剤(二価金属化合物溶液)が接触するように、収容容器の内部に二価金属化合物溶液を注入し、二価金属化合物溶液が食材に接触するように添加することができる。当該食材の表面に二価金属化合物溶液を接触させることで、食材に二価金属化合物溶液を含侵させることができる。食材に二価金属化合物溶液を含侵させることで、キレート反応によって架橋が外れたペクチンを再度架橋させることができる。
【0011】
喫食前の加熱によって食材は例えば「舌でつぶせる」相当まで軟化するが、硬さにはバラツキがあり、食材の一部は形状が崩壊するほど軟化する虞がある。添加工程により、例えば食材の所望の部位に二価金属化合物溶液を含侵させることで、軟化した食材の所望の部位におけるペクチンを再度架橋させることで、食材の形状が崩壊するのを未然に防止することができる。
【0012】
加熱調理工程は、食材が喫食可能な温度となる程度まで食材を加熱することができる。
【0013】
従って、本構成では添加工程および加熱調理工程の後、食材の内部および表面は少なくとも「舌でつぶせる」相当の硬度を維持しつつ、その外部形状の崩壊が未然に防止できる。そのため、本構成の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法では、食材の型崩れが生じ難く、当該食材の外観を維持するものであり、食材の見た目がしっかりしたものとなるため、食欲が減衰するのを未然に防止することができる。
【0014】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第二特徴構成は、前記二価金属化合物が乳酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウムおよびグルコン酸カルシウムの何れかとした点にある。
【0015】
本構成によれば、食品添加物として使用可能な二価金属化合物を使用することができる。
【0016】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第三特徴構成は、前記添加剤における二価金属化合物溶液の濃度を1mM~4.33Mとした点にある。
【0017】
後述の実施例4,7に記載したように、二価金属化合物溶液の濃度を本構成の範囲とすることで、食材に二価金属化合物溶液が含侵することで食材の形状の崩壊が抑制できる。
【0018】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第四特徴構成は、前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を1.25mM以下とした点にある。
【0019】
本構成によれば、後述の実施例7に記載したように、二価金属化合物溶液の濃度を本構成の範囲とすることで、食材の硬度を「舌でつぶせる」相当の上限値(2×104N/m2)以下にすることができる。
【0020】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第五特徴構成は、前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を1.25mMより高く、5mM以下とした点にある。
【0021】
本構成によれば、後述の実施例7に記載したように、二価金属化合物溶液の濃度を本構成の範囲とすることで、食材の硬度を「舌でつぶせる」相当の上限値より大きく、「歯ぐきでつぶせる」相当の上限値(5×104N/m2)以下にすることができる。
【0022】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第六特徴構成は、前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を5mMより高くした点にある。
【0023】
本構成によれば、後述の実施例7に記載したように、二価金属化合物溶液の濃度を本構成の範囲とすることで、食材の硬度を「歯ぐきでつぶせる」相当の上限値より大きく、「容易にかめる」相当の上限値(5×105N/m2)以下にすることができる。
【0024】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第七特徴構成は、前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を1.5mM以下とした点にある。
【0025】
本構成によれば、後述の実施例7に記載したように、二価金属化合物溶液の濃度を本構成の範囲とすることで、食材の硬度を「舌でつぶせる」相当の上限値(2×104N/m2)以下にすることができる。
【0026】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第八特徴構成は、前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を1.5mMより高く、50mM以下とした点にある。
【0027】
本構成によれば、後述の実施例7に記載したように、二価金属化合物溶液の濃度を本構成の範囲とすることで、食材の硬度を「舌でつぶせる」相当の上限値より大きく、「歯ぐきでつぶせる」相当の上限値(5×104N/m2)以下にすることができる。
【0028】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第九特徴構成は、前記キレート剤溶液の濃度を0.1~0.45%とし、前記二価金属化合物溶液の濃度を1.25~3mMとした点にある。
【0029】
後述の実施例5,6に記載したように、キレート剤溶液の濃度および二価金属化合物溶液の濃度を本構成の範囲とすることで、食材の崩壊が抑制できる。
【0030】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第十特徴構成は、前記食材を舌でつぶせる相当まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤に加えて、さらにキレート剤を0.025%添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を2~3mMとし、または、さらにキレート剤を0.05%添加した場合、前記二価金属化合物溶液の濃度を3mM以上とした点にある。
【0031】
後述の実施例5,6に記載したように、キレート剤溶液の濃度および二価金属化合物溶液の濃度を本構成の範囲とすることで、食材の崩壊が抑制できる。
【0032】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第十一特徴構成は、前記加熱調理工程を電子レンジで行う点にある。
【0033】
本構成によれば、収容容器入り加工食品の喫食前の加熱を簡便に行うことができる。
【0034】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第十二特徴構成は、前記野菜を根菜類とした点にある。
【0035】
本構成によれば、野菜の硬さに関与する主成分がペクチンである野菜を食材とすることができる。
【0036】
本発明に係る収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法の第十三特徴構成は、前記食材の硬度を2×104N/m2より大きく、5×105N/m2以下とした点にある。
【0037】
本構成によれば、例えば喫食前の加熱を行わない場合は、食材の硬度を、ユニバーサルデザインフード規格の「歯ぐきでつぶせる」相当~「容易にかめる」相当に設定することができる。そのため、食材の硬度を、例えば喫食直前の加熱により「舌でつぶせる」相当となるように設定することができる。
【0038】
本発明に係る添加剤の特徴構成は、第一~十三特徴構成の何れか一項に記載の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法に使用し、二価金属化合物を含有した二価金属化合物溶液を含む点にある。
【0039】
本構成によれば、二価金属化合物溶液を含む添加剤とすることで、当該添加剤を収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法に使用すれば、食材の内部および表面が少なくとも「舌でつぶせる」相当の硬度を維持しつつ、その外部形状の崩壊を未然に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】実施形態の収容容器入り加工食品の製造方法および収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法を示す流れ図である。
【
図2】実施形態の収容容器入り加工食品を示す断面図である。
【
図3】実施形態の収容容器入り加工食品を示す断面図である。
【
図4】ユニバーサルデザインフード規格における食材の硬さの範囲を示した図である。
【
図5】実施例2において食材の硬さを測定した結果を示した図である。
【
図6】実施例3において食材の硬さを測定した結果を示した図である。
【
図7】実施例5において、食材の硬さを測定した結果を示した図である。
【
図8】実施例6において、食材(カブ)の硬さを測定した結果を示した図である。
【
図9】実施例7において、食材(ゴボウ)の硬さを測定した結果を示した図である。
【
図10】実施例7において、食材(ニンジン)の硬さを測定した結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1~3に示したように、本発明の収容容器入り加工食品Xの食材の崩壊を防止する方法は、食材1である野菜と、キレート剤を含有するキレート剤溶液2と、を収容容器10に収容してある収容容器入り加工食品Xにおいて、収容容器10を開封した後に、二価金属化合物を含有した二価金属化合物溶液を含む添加剤20を添加する添加工程Dと、添加工程Dの後に加熱調理を行う加熱調理工程Eと、を有する。
【0042】
本発明では、食材1として野菜を使用する。当該野菜であれば特に限定されるものではないが、細胞壁の成分であるペクチンが野菜の硬さに関与する野菜であれば使用することができる。具体的には、例えば野菜を根菜類、葉茎菜類および果菜類の少なくとも何れかとするのがよい。根菜類、葉茎菜類および果菜類の少なくとも何れかが収容容器10に収容してあればよいため、根菜類、葉茎菜類および果菜類の数や量は特に限定されるものではない。上記の野菜のうち、特に根菜類とするのが好ましい。そのため、本実施形態では、野菜を根菜類とする場合について説明する。
【0043】
根菜類は、例えばゴボウ、ニンジン、ダイコンおよびカブ等であり、葉茎菜類は、例えばキャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、ホウレンソウ、アスパラガスおよびタケノコ等が例示されるが、これらに限定されるものではない。上記の他、食材1としてさやえんどう等の果菜類を使用してもよい。
【0044】
食材1の形状は特に限定されるものではなく、食材の原型をそのまま使用した形状であってもよいし、適当な大きさにカットした態様でもよい。ただし、以下に説明するキレート反応等の効率を鑑みた場合、食材1の厚みは10mm以下とするのがよい。
【0045】
食材1は、喫食直前に例えば電子レンジを用いて加熱・調理する場合は未加熱の食材1とするのが望ましいが、加熱済みもしくは半加熱済みの食材の使用を妨げるものではない。従って、食材1は、未加熱品、加熱済み品もしくは半加熱済み品といった区別なく含むものである。
【0046】
キレート剤溶液2はキレート剤を主成分として含有する。キレート剤は特に限定されるものではないが、食品添加用のキレート剤とするのがよく、例えば縮合リン酸塩および有機リン酸エステルの少なくとも何れかとするのがよい。
【0047】
縮合リン酸塩としては、酸性メタリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素カルシウムおよびピロリン酸第二鉄などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
また、有機リン酸エステルとしてはフィチン酸があげられるが、これに限定されるものではない。
【0049】
本実施形態では、縮合リン酸塩である酸性メタリン酸ナトリウムを含有するニューエフシリンサンF(エフシー化学株式会社製)を使用した場合について説明する。
【0050】
キレート剤溶液2の濃度は、食材1の種類や大きさにもよるが、例えば喫食前の加熱を行わない場合は、食材1の硬度が後述する「歯ぐきでつぶせる」相当~「容易にかめる」相当の食材1を供することができ、喫食直前の加熱により当該硬度が後述する「舌でつぶせる」相当になるように適宜設定するとよい。当該濃度は、例えば0.1~0.45%とすることができる。
【0051】
収容容器10は、常温流通やチルド流通ができる態様であり、実用強度がある成形容器であればよい。また、収容容器10は、加熱殺菌に耐えうる耐熱性や酸素ガスを遮断するバリア性を有してもよい。その容器の態様は、例えばプラスチックフィルム12をヒートシールを使用して密封できるように構成すればよい。このような収容容器10は、例えば単体の材料(例えば樹脂)で作製するのは勿論のこと、複数の樹脂を積層し作製することもできる。樹脂としては、オレフィン系やポリエステルなどの熱可塑性樹脂および生分解性樹脂など、食品に使用できる樹脂を使用することができる。オレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-ポリプロピレン共重合体、ポリブテン-1、或いはこれらのブレンド物等が挙げられる。また、熱可塑性ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート或いはこれらのブレンド物が挙げられる。また、ポリスチレンなどの樹脂も使うことができる。また、生分解性樹脂としては、微生物系(バクテリアやカビ、藻類などの微生物が、代謝の過程で体内に蓄積したポリエステルを利用するタイプで、バイオポリエステルなどの脂肪族ポリエステル類、バクテリアセルロース、プルランやカードランなどの微生物多糖が含まれる)、天然物系(キトサン、セルロース、澱粉、酢酸セルロース、澱粉などを変性して熱可塑性を与えたもの)、化学合成系(化学的・生物学的に合成されたモノマーを重合することにより得られるもの)等が挙げられる。
【0052】
更に、ガスバリアー性および酸素吸収能を付加するために、ガスバリアー性樹脂もしくは、ガスバリアー性樹脂と酸素吸収性樹脂を積層することもできる。ガスバリアー性樹脂としては、エチレンビニルアルコール共重合体、MXD6ナイロン等を挙げることができる。酸素吸収性樹脂としては、鉄、アスコルビン酸等の酸素吸収剤と反応促進剤を含む樹脂もしくは、主鎖或いは側鎖に脂肪族性の炭素・炭素二重結合を有する重合体等の酸化性重合体と酸化開始剤を含む樹脂が挙げられる。収容容器10の容積は特に限定されるものではないが、200~600mL程度であれば殺菌の際に扱い易い。
【0053】
また、収容容器10はプラスチック以外に、紙、ガラス、金属などでもよい。紙を使用した場合は、基本樹脂を積層する形となるため、密封方法はヒートシールとすればよい。ガラスを使用した場合の密封方法は、王冠やスクリューキャップによるキャッピング、樹脂積層ではキャッピングとヒートシールとすればよい。ステンレス、アルミなどの金属を使用した場合は、密封方法は、単体であれば、巻き締め、積層であれば、巻き締めやヒートシールとすればよい。また、収容容器10は、容器強度を高めるため、例えば側面にリブなどを付与してもよい。
【0054】
必要に応じて収容容器10に気体を充填する場合、充填する気体は、空気、窒素ガスなどの不活性ガス、或いは、窒素および二酸化炭素の混合気体等であればよい。このような気体を気体供給装置よりノズルなどを介して収容容器10に充填する。この場合、収容容器10に内部の酸素濃度が1%以下になるようにすればよい。
【0055】
収容容器10には、食材1およびキレート剤溶液2を収容してある。このとき、キレート剤溶液2に少なくとも食材1の一部が浸漬するように収容すればよい。これにより、食材1にキレート剤溶液2を含侵させることができる。食材1にはペクチンが含まれており、ペクチンは金属イオン(主にカルシウム)で架橋して食材1の硬さを構成している。即ち、食材1にキレート剤溶液2が含侵することで、キレート反応によって当該架橋を外して食材1を軟化させることができる。
【0056】
このように食材1は、キレート剤溶液2を食材内部に浸透させることで軟化させたものである。このような軟化処理で軟化させた食材1は、食品素材の外観を維持する固形状態とすることができ、形が崩れない軟らかさ、例えば喫食直前の加熱により「舌でつぶせる」相当となるように処理できる。
【0057】
食材1にキレート剤溶液2を含侵させる場合は常温常圧でもよいが、例えば減圧処理条件下で行ってもよい。減圧処理の条件は特に限定されるものではないが、例えば-80kPa~-100kPaの減圧処理を行えばよい。
【0058】
使用するキレート剤のpHにもよるが、食材1のpHは概ね4.6以下とすることができるが、pH値は特に限定されるものではない。
【0059】
食材1は、上記キレート反応処理の結果、硬度が2×10
4N/m
2より大きく、5×10
5N/m
2以下(ユニバーサルデザインフード規格の「歯ぐきでつぶせる」相当~「容易にかめる」相当:
図4)となるようにするのがよい。この硬度であれば、流通時に食材1の形状が崩れにくい収容容器入り加工食品Xとすることができるだけでなく、咀嚼困難や嚥下障害のある方々が食する場合であっても、健常な外観であるため、食欲が減衰するのを未然に防止することができる。尚、ユニバーサルデザインフード規格において、「容易にかめる」相当の上限値は5×10
5N/m
2、「歯ぐきでつぶせる」相当の上限値は5×10
4N/m
2、「舌でつぶせる」相当の上限値は2×10
4N/m
2、「かまなくてよい」相当の上限値は5×10
3N/m
2となっている。
【0060】
また、収容容器入り加工食品Xが上記の硬度を有することで、喫食直前の加熱により少なくとも「舌でつぶせる」相当の硬さとすることができる。
【0061】
収容容器10には、必要に応じて、食材1の味付け用パウチ容器を収容してもよい。当該味付け用パウチ容器には、例えば市販の調味液をそのまま、または薄めたものであってもよいし、出汁、砂糖、塩、酢、醤油、味噌、味醂、カレー等の香辛料等の調味料としてもよい。
【0062】
収容容器入り加工食品Xにおいて収容容器10は密封するとよい。密封の態様は上述した通りである。食材1およびキレート剤溶液2を収容した収容容器10を密封することで、収容容器入り加工食品Xを例えば常温流通やチルド流通ができる態様とすることができる。
【0063】
収容容器入り加工食品Xは、食材1およびキレート剤溶液2を収容した収容容器10を密封した後に殺菌するとよい。殺菌処理の条件は後述する。
【0064】
食材1は、予備加熱であるブランチングを行ったものを使用することができる。当該ブランチングは、食材1を収容容器10に収容する前に食材1を加熱する予備加熱である。当該ブランチングは、例えば食材1の組織を軟化させたり、酵素を失活させる条件(後述)で行うとよい。
【0065】
(収容容器入り加工食品の製造方法)
収容容器入り加工食品Xの製造方法は、食材1である野菜と、キレート剤を含有するキレート剤溶液2と、を収容容器10に収容する収容工程Aと、収容容器10を密封する密封工程Bと、当該密封工程Bの後に殺菌する殺菌工程Cと、を有する(
図1)。
【0066】
これら工程を行う前に、必要に応じて前処理工程aを行うことができる。当該前処理工程aは、例えば食材1の洗浄、剥皮および適当な大きさにカットする切断および味付け等の準備工程を行うことができる。当該準備工程については、食材1を収容容器10に収容する前に行う処理であれば、特に限定されるものではない。
【0067】
さらに、前処理工程aとして、当該準備工程の後に食材1を予備加熱するブランチング工程を行うことができる。ブランチング工程の条件は、食材1の種類やサイズに応じて設定することが望ましく、例えば70~100℃の湯浴や低温スチームに等により、2~30分の処理時間で行うのがよいが、これらに限定されるものではない。ブランチング工程は、一般的な恒温槽や低温スチーム装置を用いて行うのがよい。ブランチング工程によって食材1を加熱処理することにより、野菜の旨みや甘みを保ちつつ、野菜の酸化を低減し、アクを除去することができる。ブランチング工程を行った後、適宜、例えば4℃で冷蔵保管或いは-20℃で冷凍保管するなど、公知の手法によって保管することができるが、このような保管を行わずに、以下の収容工程Aを行ってもよい。
【0068】
収容工程Aは、食材1およびキレート剤溶液2を収容容器10に収容する。食材1は適宜、上述した前処理工程aを行ったものであり、この食材1の少なくとも一部にキレート剤溶液2が接触(浸漬)するようにこれらを収容容器10に収容するとよい。好ましくは、食材1の全体あるいは少なくとも半分程度がキレート剤溶液2に浸る態様とするのがよい。
【0069】
このとき、収容容器10の底部11に食材1を収容(載置)した状態でキレート剤溶液2が食材1に接触するように収容容器10に所定量のキレート剤溶液2を注いでもよいし、収容容器10に所定量のキレート剤溶液2を収容した状態で食材1を収容容器10に収容(浸漬)させてもよい。これらの態様により、食材1の表面にキレート剤溶液2を接触させることができるため、食材1にキレート剤溶液2を確実に含侵させることができる。食材1の全表面にキレート剤溶液2を接触させることができれば、効率よく食材1にキレート剤溶液2を確実に含侵させることができる。
【0070】
密封工程Bは、収容工程Aの後の収容容器10を密封する。密封の態様は、上述したように、プラスチックフィルム12をヒートシールを使用して密封する等、公知の手法によって行うことができる。このとき、必要に応じて、収容容器10に気体を充填、或いは、味付け用パウチ容器を収容した後、収容容器10を密封するとよい。
【0071】
殺菌工程Cは、密封工程Bの後に食材1およびキレート剤溶液2を収容した収容容器10を殺菌する。殺菌処理の条件は100℃以下、好ましくは80~100℃で、10~60分行うとよい。当該殺菌工程Cは、湯浴殺菌や蒸気殺菌などの加熱殺菌など、公知の手法によって行うことができる。食材1のpHを4.6以下とした場合、当該殺菌工程Cを行うことで、収容容器入り加工食品Xを常温流通させることができる。
【0072】
収容工程Aを終えた直後から食材1にキレート剤溶液2が含侵して食材1の内部でキレート反応が進行する。当該キレート反応は密封工程Bおよび殺菌工程Cにおいても進行しているが、殺菌工程Cの後における保管中や収容容器入り加工食品Xの流通中もキレート反応が進行している。従って、食材1の流通時の形状崩れを発生し難くするため、キレート反応の速度を遅らせるチルド流通によって流通させるのがよい。
【0073】
殺菌工程Cを行った後、適宜、例えば4℃で冷蔵保管或いは-20℃で冷凍保管するなど、公知の手法によって保管することができる。当該保管は、常温の倉庫や冷蔵庫(冷凍庫)に保管することができる。
【0074】
(収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法)
本発明の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法は、上述した収容容器入り加工食品Xにおいて、収容容器10を開封した後に、二価金属化合物を含有した二価金属化合物溶液を含む添加剤20を添加する添加工程Dと、当該添加工程Dの後に加熱調理を行う加熱調理工程Eと、を有する(
図1)。
【0075】
添加工程Dは、開封した収容容器10の内部の食材1に対して二価金属化合物溶液が接触するように、収容容器10の内部に添加剤20を注入する(
図3)。添加工程Dでは二価金属化合物溶液が食材1に接触するように添加剤20を添加すればよい。このとき、収容容器10の内部は、食材1の少なくとも一部にキレート剤溶液2が接触(浸漬)する態様となっているため、当該キレート剤溶液2を収容容器10の内部から除去した後に添加剤20を食材1に対して添加するとよい。キレート剤溶液2を収容容器10の内部から除去する際には、当該キレート剤溶液2が除去されることで好ましくは食材1の表面の大部分が露出するようにキレート剤溶液2を除去するとよい。食材1の表面に添加剤20(二価金属化合物溶液)を接触させることで、食材1に二価金属化合物溶液を含侵させることができる。このとき、食材1の表面の大部分に二価金属化合物溶液を接触させることができれば、効率よく食材1に二価金属化合物溶液を確実に含侵させることができる。食材1に二価金属化合物溶液を含侵させることで、キレート反応によって架橋が外れたペクチンを再度架橋させることができる。
【0076】
添加剤20には、二価金属化合物溶液が含有してあれば他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えば市販の調味液をそのまま、または薄めたものであってもよいし、出汁、砂糖、塩、酢、醤油、味噌、味醂、カレー等の香辛料等の調味料としてもよい。
【0077】
喫食前の加熱によって食材1は「舌でつぶせる」相当まで軟化するが、硬さにはバラツキがあり、食材1の一部は形状が崩壊するほど軟化する虞がある。添加工程Dにより、例えば食材1の所望の部位に二価金属化合物溶液を含侵させることで、軟化した食材1の所望の部位におけるペクチンを再度架橋させることで、食材1の形状が崩壊するのを未然に防止することができる。前記所望の部位は、食材1の形状等によって適宜設定することができ、例えば食材1の一部であってもよく、食材1の全体であってもよい。
【0078】
二価金属化合物溶液は、食品添加物として使用可能な二価金属化合物を含有する態様であれば特に限定されるものではなく、例えば二価金属化合物が乳酸カルシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、硫酸亜鉛、硫酸銅、酢酸カルシウム、アスコルビン酸カルシウムおよびグルコン酸カルシウムの何れかの溶液を使用することができる。これらは栄養強化のため、複数の化合物を使用してもよい。本実施形態では二価金属化合物を乳酸カルシウムとした場合について説明する。
【0079】
添加剤における二価金属化合物溶液の濃度は1mM~4.33Mとするのがよい。二価金属化合物溶液の濃度がこの範囲であれば、食材1に二価金属化合物溶液が含侵することで食材1の形状の崩壊が抑制できる。
【0080】
食材1を「舌でつぶせる相当」まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、上記の濃度範囲において、二価金属化合物溶液の濃度を1.25mM以下とするのがよい。この濃度範囲であれば、食材1の種類や大きさにもよるが、食材1の内部および表面の硬度が、「舌でつぶせる」相当の上限値(2×104N/m2)の硬度を維持しつつ、食材1の形状が崩壊するのを未然に防止することができる。
【0081】
また、食材1を「舌でつぶせる相当」まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、上記の濃度範囲において、二価金属化合物溶液の濃度を1.25mMより高く、5mM以下とするのがよい。この濃度範囲であれば、食材1の種類や大きさにもよるが、食材1の内部および表面の硬度が、「歯ぐきでつぶせる」相当の上限値(5×104N/m2)の硬度を維持しつつ、食材1の形状が崩壊するのを未然に防止することができる。
【0082】
また、食材1を「舌でつぶせる相当」まで軟化させるために必要な最低限のキレート剤を添加した場合、上記の濃度範囲において、二価金属化合物溶液の濃度を5mMより高くするのがよい。この濃度範囲であれば、食材1の種類や大きさにもよるが、食材1の内部および表面の硬度が、「容易にかめる」相当の上限値(5×105N/m2)の硬度を維持しつつ、食材1の形状が崩壊するのを未然に防止することができる。
【0083】
また、食材1の種類や大きさ等を鑑み、上述したキレート剤溶液2の濃度に応じて二価金属化合物の濃度を設定するとよい。例えばキレート剤溶液の濃度を0.1~0.45%とし、二価金属化合物溶液の濃度を1.25~3mMとすることができる。
【0084】
二価金属化合物溶液には調味液を含有させてもよいし、二価金属化合物溶液を添加する前後の何れかに調味液を添加してもよい。
【0085】
加熱調理工程Eは、添加工程Dの後に加熱調理を行う。当該加熱調理は、食材1が十分に軟化する温度(例えば80~95℃程度)となる程度まで食材1を加熱する態様、例えば加熱調理工程Eを電子レンジで行う態様とすることができるが、これに限定されるものではない。前記温度範囲、加熱時間等は適宜設定するとよい。
【0086】
喫食前の加熱によって食材1は「舌でつぶせる」相当まで軟化するが、本構成では添加工程Dおよび加熱調理工程Eの後、食材1の内部および表面は少なくとも「舌でつぶせる」相当の硬度を維持しつつ、その外部形状の崩壊が未然に防止できる。そのため、本発明の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法では、食材1の型崩れが生じ難く、当該食材1の外観を維持するものであり、食材1の見た目がしっかりしたものとなるため、食欲が減衰するのを未然に防止することができる。
【実施例0087】
〔実施例1〕
以下のようにして収容容器入り加工食品Xを製造した。
食材1として野菜は市販のゴボウを使用した。ゴボウを剥皮(準備工程)した後に、湯中で100℃,5分間のブランチング工程を行い、-20℃で冷凍保管した。キレート剤は、食品添加物であるニューエフシリンサンF(エフシー化学株式会社製)を用いた。
【0088】
解凍した20gの食材1および100mLのキレート剤溶液2(0.35%)を収容容器10に収容した(収容工程A)。収容容器10は136×130mmのアルミパウチ(12μmPET/15μmPA/7μmAL/50μmCPP:東洋製罐株式会社製)を使用した。
【0089】
公知の手法により収容容器10を密封し(密封工程B)、湯中で90℃-20分間の殺菌を行った(殺菌工程C)。このようにして収容容器入り加工食品Xを製造した後、4℃の冷蔵庫で保管した。
【0090】
〔実施例2〕
実施例1で製造した収容容器入り加工食品Xにおいて、食材1の硬度を測定した。実施例1で製造した収容容器入り加工食品Xを開封し、食材1(ゴボウ)20gのみを角錐型の容器(下底90mm、上底95mm、高さ23mm)に移した。測定は、電子レンジによる加熱無しの場合と加熱有りの場合について、製造直後~16日経過のサンプルを使用して行った。電子レンジによる加熱有りの場合は、水30mLを入れてラップをした後に、電子レンジで50秒間加熱し、常温に戻った段階で硬さを測定した。
【0091】
測定は、小型卓上試験機EZ-S(株式会社島津製作所製)を用い、φ20mmの円柱状プランジャー、速さ600mm/minでサンプルの高さの80%まで圧縮した際の応力を食材1の硬さとした。結果を
図5および表1に示した。
【0092】
【0093】
この結果、電子レンジによる加熱無しの場合、製造直後~16日経過のサンプルにおいて、食材1の硬度は4.4~8.0×104N/m2となり、「歯ぐきでつぶせる」相当から「容易にかめる」相当を維持していた。一方、電子レンジによる加熱有りの場合、製造直後のサンプルにおいて食材1の硬度は4.6×104N/m2となり、製造1日~16日経過のサンプルにおいて食材1の硬度は0.4~1.8×104N/m2となった。即ち、製造1日~16日経過のサンプルにおいては、食材1の硬度が「舌でつぶせる」相当を維持していた。
【0094】
収容容器入り加工食品Xは、喫食に供するまでは電子レンジによる加熱無しで保管するものである。上記の結果により、収容容器入り加工食品Xは、製造直後~16日経過のサンプルにおいて、喫食に供するまで(電子レンジによる加熱無しの場合)は食材1の硬度が所望の硬度(「歯ぐきでつぶせる」相当から「容易にかめる」相当、即ち、2×104N/m2より大きく、5×105N/m2以下)を維持していたと認められた。また、収容容器入り加工食品Xを喫食直前に電子レンジによる加熱を行った場合は、製造1日~16日経過のサンプルにおいては、食材1の硬度が所望の硬度(「舌でつぶせる」相当、即ち、5×103N/m2より大きく、2×104N/m2以下))まで軟化したことが確認された。尚、収容容器入り加工食品Xの製造から保管・流通によって消費者に届く日数は1日以上要することを鑑みると、製造直後のサンプルにおいて、喫食直前の加熱により食材1の硬度が「舌でつぶせる」相当より硬いことは、実用上は問題ないと認められた。
【0095】
〔実施例3〕
本発明の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法を以下のようにして行った。
収容容器入り加工食品Xは、実施例1で説明した収容容器入り加工食品の製造方法において、キレート剤処理を-98kPaの減圧処理(凍結含侵処理)を行うことでゴボウ内部にキレート剤を浸透させた後、キレート剤溶液中で4℃、24時間反応させて行ったこと以外は同様の方法で製造したものを使用した。
【0096】
製造した収容容器入り加工食品Xにおいて、収容容器10を開封した後に、二価金属化合物を含有した二価金属化合物溶液を含む添加剤20を添加した(添加工程D)。二価金属化合物は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸鉄、硫酸亜鉛および硫酸銅を使用した。二価金属化合物溶液の濃度はそれぞれ50mMとし、30mLの添加剤20を添加した。
【0097】
添加剤20を添加した後に、500Wの電子レンジで50秒間加熱を行うことによって加熱調理を行った(加熱調理工程E)。
【0098】
常温に戻った段階で硬さを測定した。測定は、実施例2に記載の手法で行った。結果を
図6および表2に示した。
図6におけるコントロールは、添加工程Dを行わずに加熱調理工程Eを行ったサンプルとし、測定した硬さは2.47×10
4N/m
2であった。
【0099】
【0100】
この結果、使用した全ての二価金属化合物(二価金属イオン)において、食材1(ゴボウ)は、加熱調理工程Eの後において約16~27×104N/m2程度の硬度を有することが判明した(「容易にかめる」相当)。食材1は少なくとも表面の硬さがこの範囲の硬度を有すると考えられる。従って、本発明の収容容器入り加工食品の食材の崩壊を防止する方法では、添加工程Dおよび加熱調理工程Eを行うことにより、食材1は、コントロールのサンプルに比べて約6.5(16/2.47)~10.9(27/2.47)倍の硬さを呈すると認められた。これにより、収容容器入り加工食品Xは、喫食前の加熱によっても食材1は崩壊し難い硬さを有するため、当該食材1の崩壊を防止できると認められた。
【0101】
〔実施例4〕
上述の二価金属化合物のうち、最も溶解度の高い化合物である塩化マグネシウムの飽和水溶液(濃度4.33M)を用い、ゴボウの硬さに及ぼす影響を調べた。
【0102】
実施例3に従って添加工程Dおよび加熱調理工程Eを行い、硬さを測定した。測定は、実施例2に記載の手法で行った。結果を
図7に示した。
【0103】
その結果、ゴボウの硬さは19×104N/m2(「容易にかめる」相当の上限値5×105N/m2以下)であったことから、4.33Mが上限値となると認められた。下限値は、後述の実施例7より1mMとした。以上より、二価金属化合物溶液の濃度は、1mM~4.33Mとすれば、食材に二価金属化合物溶液が含侵することで食材の形状の崩壊が抑制できると認められた。
【0104】
〔実施例5〕
本実施例では、「舌でつぶせる」相当まで軟化させるために必要なキレート剤濃度が0.4%であるゴボウを使用して食材1の形状崩壊が起こらないカルシウム濃度の範囲を調べた。実施例3に従って添加工程Dおよび加熱調理工程Eを行った。キレート剤溶液2は0.4,0.425,0.45%の濃度を使用し、それぞれの場合について当該範囲を調べた。実験に使用した乳酸カルシウムのカルシウム濃度は、1~3mMの範囲とした。輪郭がくずれたもの、部分的に亀裂が入ったものを形状の崩壊と定義し、崩壊の有無を評価した。結果を表3に示した。
【0105】
【0106】
この結果、キレート剤濃度が0.4%では少なくとも1.25mM以上のカルシウム濃度で崩壊が抑制できることが判明した。ただし、硬さのバラツキのため最小限のキレート剤濃度では「舌でつぶせる」相当まで軟化させることができない可能性があることから、多少は余裕を持ってキレート剤を添加することが望ましい。キレート剤濃度が0.425%では2mM、0.45%では3mMのカルシウムを濃度で崩壊が抑制できることが判明した。
【0107】
〔実施例6〕
食材1として市販のニンジンを使用した場合について説明する。食材1は、「舌でつぶせる」相当まで軟化させるために必要なキレート剤濃度が0.15%であるニンジンを使用した。実施例3に従って添加工程Dおよび加熱調理工程Eを行った。キレート剤溶液2は0.15,0.175,0.2%の濃度を使用し、それぞれの場合について当該範囲を調べた。実験に使用した乳酸カルシウムのカルシウム濃度は、1~3mMの範囲とした。崩壊の評価は、実施例5に従って行った。結果を表4に示した。
【0108】
【0109】
この結果、キレート剤濃度が0.15%では少なくとも1.5mM以上のカルシウム濃度で崩壊が抑制できることが判明した。ただし、硬さのバラツキのため最小限のキレート剤濃度では「舌でつぶせる」相当まで軟化させることができない可能性があることから、多少は余裕を持ってキレート剤を添加することが望ましい。キレート剤濃度が0.175%では3mM、0.2%では3mMのカルシウム濃度で崩壊が抑制できることが判明した。
【0110】
また、食材1として、「舌でつぶせる」相当まで軟化させるために必要なキレート剤濃度が0.10%であるカブを使用した(
図8)。実施例3に従って添加工程Dおよび加熱調理工程Eを行った。実験に使用した乳酸カルシウムのカルシウム濃度は、1~3mMの範囲とした。この結果、キレート剤濃度が0.10%では1.25mMのカルシウム濃度で崩壊が抑制できることが判明した(データは示さない)。
【0111】
実施例5,6より、キレート剤溶液の濃度を0.1~0.45%とし、二価金属化合物溶液の濃度を1.25~3mMとするのがよいと認められた。
【0112】
また、実施例5,6より、キレート剤濃度および崩壊抑制に必要なカルシウム濃度は以下の相関が認められた。
・二価金属イオン含量から推測した「舌でつぶせる」相当まで軟化させるために必要なキレート剤濃度の場合:添加するカルシウム濃度 1.25~1.5mM
・キレート剤濃度を+0.025%とした場合:添加するカルシウム濃度 2~3mM
・キレート剤濃度を+0.05%とした場:添加するカルシウム濃度 3mM以上
【0113】
〔実施例7〕
食材1の硬度が所望の硬度(「歯ぐきでつぶせる」相当、「容易にかめる」相当および「舌でつぶせる」相当)にするために必要な二価金属イオンの濃度を調べた。食材1としてゴボウおよびニンジンを使用した場合について説明する。
【0114】
ゴボウは、「舌でつぶせる」相当まで軟化させるために必要なキレート剤濃度が0.4%であるゴボウを使用し、剥皮し5mm厚にカットして使用した。
また、ニンジンは、「舌でつぶせる」相当まで軟化させるために必要なキレート剤濃度が0.15%であるニンジンを使用し、剥皮後5mm厚の扇型にカットして使用した。
実施例1に従ってブランチング工程からキレート剤処理を行い、実施例3に従って添加工程Dおよび加熱調理工程Eを行った。二価金属化合物は乳酸カルシウムを使用した。乳酸カルシウムは、0~50mMの濃度の溶液を使用した。崩壊の定義は実施例5に従い、崩壊の有無を評価した。硬さの測定は、実施例2に記載の手法で行った。結果を
図9,10および表5に示した。
【0115】
【0116】
この結果、食材1(ゴボウ、
図9)の硬度を「舌でつぶせる」相当の上限値(2×10
4N/m
2)以下にするために必要な二価金属イオン(カルシウムイオン)の濃度は1.25mM以下とすればよいことが判明した。また、当該二価金属イオンの濃度を1mMとした場合であっても、食材1の形状の崩壊が抑制できる硬度が得られていると認められた。
【0117】
また、ゴボウの硬度を「舌でつぶせる」相当の上限値より大きく、「歯ぐきでつぶせる」相当の上限値(5×104N/m2)以下にするために必要な二価金属イオン(カルシウムイオン)の濃度は1.25mMより高く、5mM以下とすればよいことが判明した。
【0118】
さらに、ゴボウの硬度を「歯ぐきでつぶせる」相当の上限値より大きく、「容易にかめる」相当の上限値(5×105N/m2)以下にするために必要な二価金属イオン(カルシウムイオン)の濃度は5mMより高くすればよいことが判明した。
【0119】
一方、食材1(ニンジン,
図10)の硬度を「舌でつぶせる」相当の上限値(2×10
4N/m
2)以下にするために必要な二価金属イオン(カルシウムイオン)の濃度は1.5mM以下とすればよいことが判明した。また、ニンジンの硬度を「舌でつぶせる」相当の上限値より大きく、「歯ぐきでつぶせる」相当の上限値(5×10
4N/m
2)以下にするために必要な二価金属イオン(カルシウムイオン)の濃度は1.5mMより高く、50mM以下とすればよいことが判明した。