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特開2023-148126ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法およびペロブスカイト薄膜系太陽電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148126
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法およびペロブスカイト薄膜系太陽電池
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20231005BHJP
【FI】
H01L31/04 112Z
H01L31/04 182
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022055997
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】石橋 寛隆
【テーマコード(参考)】
5F151
【Fターム(参考)】
5F151AA20
5F151BA12
5F151CB13
5F151CB14
5F151CB15
5F151CB27
5F151CB29
5F151FA02
5F151FA04
5F151FA06
5F151GA02
(57)【要約】
【課題】ペロブスカイト薄膜系太陽電池の大面積化と性能向上との両立を図るペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法を提供する。
【解決手段】ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法は、基材10上に、第1電極層21と、第1キャリア輸送層31と、ペロブスカイト薄膜40と、第2キャリア輸送層32と、第2電極層22とをこの順番に形成する。ペロブスカイト薄膜40の形成工程では、第1キャリア輸送層31上に、大面積化に適した塗布法を用いてペロブスカイト薄膜の材料膜を塗布した後、ペロブスカイト薄膜の材料膜に、ガス状またはミスト状の貧溶媒を吹き付けて、ペロブスカイト薄膜の材料膜を乾燥および結晶化する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、第1電極層と、第1キャリア輸送層と、ペロブスカイト薄膜と、第2キャリア輸送層と、第2電極層とをこの順番に形成するペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法であって、
前記ペロブスカイト薄膜の形成工程では、
前記第1キャリア輸送層上に、大面積化に適した塗布法を用いて前記ペロブスカイト薄膜の材料膜を塗布した後、
前記ペロブスカイト薄膜の材料膜に、ガス状またはミスト状の貧溶媒を吹き付けて、前記ペロブスカイト薄膜の材料膜を乾燥および結晶化する、
ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記大面積化に適した塗布法は、ブレードコート法、ダイコート法、またはスプレーコート法である、請求項1に記載のペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記貧溶媒は、エーテル、酢酸エチル、または1-プロパノールである、請求項1に記載のペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法。
【請求項4】
基材上に、第1電極層と、第1キャリア輸送層と、ペロブスカイト薄膜と、第2キャリア輸送層と、第2電極層とをこの順番に備えるペロブスカイト薄膜系太陽電池であって、
前記ペロブスカイト薄膜におけるペロブスカイト結晶粒径は、800nm以上2000nm以下である、
ペロブスカイト薄膜系太陽電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法およびペロブスカイト薄膜系太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池として、光電変換部に結晶シリコン基板を用いた結晶シリコン系太陽電池、光電変換部にアモルファスシリコン薄膜等の無機系薄膜を用いた薄膜系太陽電池が知られている。また、薄膜系太陽電池として、光電変換部に有機系薄膜(詳細には、有機/無機ハイブリット系薄膜)であるペロブスカイト薄膜を用いたペロブスカイト薄膜系太陽電池が知られている。特許文献1には、ペロブスカイト薄膜系太陽電池が開示されている。
【0003】
ペロブスカイト薄膜系太陽電池は、ガラスまたは樹脂等の基材上に順に形成された、第1電極層(陽極電極または陰極電極)と、第1キャリア輸送層(正孔輸送膜または電子輸送膜)と、ペロブスカイト薄膜と、第2キャリア輸送層(電子輸送膜または正孔輸送膜)と、第2電極層(陰極電極または陽極電極)とを備える。
【0004】
ペロブスカイト薄膜の形成方法としては、スピンコート法(塗布法)を用いて、ペロブスカイト薄膜の材料を溶解または分散させた溶液を塗布しながら、ペロブスカイト化合物にとっての貧溶媒(溶解度が小さい溶媒)を滴下して、ペロブスカイト薄膜の製膜、乾燥および結晶化を行う方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-019203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ペロブスカイト薄膜系太陽電池では、大面積化が望まれている。しかし、上述したスピンコート法(塗布法)および貧溶媒の滴下を用いたペロブスカイト薄膜の製膜、乾燥および結晶化では、大面積(例えば、15cm×15cm以上)のペロブスカイト薄膜の形成が困難である。
【0007】
大面積化の観点では、
・ブレードコート法、ダイコート法、またはスプレーコート法等の塗布法を用いて、ペロブスカイト薄膜の材料を溶解または分散させた溶液を塗布して、材料膜を製膜した後、
・窒素ガス等によるガスクエンチ法を用いて、材料膜を乾燥、結晶化する、
ペロブスカイト薄膜の形成方法が知られている。
【0008】
しかし、本願発明者(ら)の知見によれば、ブレードコート法、ダイコート法、またはスプレーコート法等の塗布法を用いた製膜、および、ガスクエンチ法を用いた乾燥および結晶化の方法では、スピンコート法および貧溶媒の滴下を用いた製膜、乾燥および結晶化の方法と比較して、ペロブスカイト薄膜系太陽電池の性能が低下してしまう。
【0009】
本発明は、ペロブスカイト薄膜系太陽電池の大面積化と性能向上との両立を図るペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法およびペロブスカイト薄膜系太陽電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明者(ら)は、
・ブレードコート法、ダイコート法、またはスプレーコート法等の塗布法を用いて、ペロブスカイト薄膜の材料を溶解または分散させた溶液を塗布して、材料膜を製膜した後、
・ガス状またはミスト状の貧溶媒を、材料膜に吹き付けて、材料膜を乾燥、結晶化する、
ことにより、ペロブスカイト薄膜系太陽電池の大面積化と性能向上との両立を図ることができることを見出した。
【0011】
また、本願発明者(ら)は、ガス状またはミスト状の貧溶媒の吹き付けを用いた乾燥(結晶化)では、ガスクエンチ法を用いた乾燥(結晶化)と比較して、ペロブスカイト薄膜における結晶粒径が大きい(例えば、800nm以上2000nm以下)ことを見出した。
ここで、ウエット法を用いた一般的な製膜では、結晶粒径は乾燥時間に依存し、乾燥時間が短いほど、結晶粒径が小さくなる傾向がある。この点に関し、ガス状またはミスト状の貧溶媒の吹き付けを用いた乾燥(結晶化)では、ガスクエンチ法を用いた乾燥(結晶化)と比較して、乾燥時間が短い。これより、本願発明者(ら)は、ペロブスカイト薄膜の製膜では、ウエット法を用いた一般的な製膜と比較して、乾燥時間と結晶粒径との関係が逆であることも見出した。
【0012】
そこで、本発明に係るペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造方法は、基材上に、第1電極層と、第1キャリア輸送層と、ペロブスカイト薄膜と、第2キャリア輸送層と、第2電極層とをこの順番に形成する。前記ペロブスカイト薄膜の形成工程では、前記第1キャリア輸送層上に、大面積化に適した塗布法を用いて前記ペロブスカイト薄膜の材料膜を塗布した後、前記ペロブスカイト薄膜の材料膜に、ガス状またはミスト状の貧溶媒を吹き付けて、前記ペロブスカイト薄膜の材料膜を乾燥および結晶化する。
【0013】
また、本発明に係るペロブスカイト薄膜系太陽電池は、基材上に、第1電極層と、第1キャリア輸送層と、ペロブスカイト薄膜と、第2キャリア輸送層と、第2電極層とをこの順番に備える。前記ペロブスカイト薄膜におけるペロブスカイト結晶粒径は、800nm以上2000nm以下である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ペロブスカイト薄膜系太陽電池の大面積化と性能向上との両立を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る太陽電池の一例を示す断面図である。
図2】本実施形態に係る太陽電池の他の一例を示す断面図である。
図3A】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1電極層形成工程および第1キャリア輸送層形成工程を示す図である。
図3B】本実施形態に係る太陽電池の製造方法におけるペロブスカイト薄膜形成工程を示す図である。
図3C】本実施形態に係る太陽電池の製造方法におけるペロブスカイト薄膜形成工程を示す図である。
図3D】本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第2キャリア輸送層形成工程および第2電極層形成工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。なお、各図面において同一または相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。また、便宜上、ハッチングや部材符号等を省略する場合もあるが、かかる場合、他の図面を参照するものとする。
【0017】
(太陽電池)
図1は、本実施形態に係る太陽電池の一例を示す断面図であり、図2は、本実施形態に係る太陽電池の他の一例を示す断面図である。図1および図2に示す太陽電池1は、光電変換薄膜としてペロブスカイト薄膜を用いたペロブスカイト薄膜系の太陽電池である。太陽電池1は、基材10と、第1電極層21と、第1キャリア輸送層31と、ペロブスカイト薄膜40と、第2キャリア輸送層32と、第2電極層22とを備える。
【0018】
なお、図1に示す太陽電池1と図2に示す太陽電池1とでは、極性が異なる。具体的には、図1に示す太陽電池1では、第1キャリア輸送層31および第2キャリア輸送層32がそれぞれ正孔輸送層(Hole Transfer Layer:HTL)および電子輸送層(Electron Transport Layer:ETL)であり、第1電極層21および第2電極層22がそれぞれ陽極および陰極である。一方、図2に示す太陽電池1では、第1キャリア輸送層31および第2キャリア輸送層32がそれぞれ電子輸送層(ETL)および正孔輸送層(HTL)であり、第1電極層21および第2電極層22がそれぞれ陰極および陽極である。
【0019】
また、図1および図2に示す太陽電池1は、基材10側、すなわち第1電極層21側が受光面であってもよいし、基材10と反対側、すなわち第2電極層22側が受光面であってもよい。或いは、基材10側および基材10と反対側の両側、すなわち第1電極層21側および第2電極層22側の両側が受光面として機能してもよい。
【0020】
基材10は、絶縁性かつ光透過性を有する透明基板であってもよいし、更にフレキシブル性を有する透明フィルムであってもよい。透明基板としては、ガラスまたは樹脂等の材料で構成された基板が挙げられる。透明フィルムとしては、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等の材料で構成された樹脂フィルムが挙げられる。
【0021】
第1電極層21は、基材10上に形成されており、陽極(図1)または陰極(図2)として機能する。第1電極層21は、導電性かつ光透過性を有する透明導電膜(Transparent Conductive Oxides:TCO)からなる。第1電極層21の材料としては、透明導電性金属酸化物、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタンおよびそれらの複合酸化物等が用いられる。これらの中でも、酸化インジウムを主成分とするインジウム系複合酸化物が好ましい。高い導電率と透明性の観点からは、インジウム酸化物が特に好ましい。更に、信頼性またはより高い導電率を確保するため、インジウム酸化物にドーパントを添加すると好ましい。ドーパントとしては、例えば、Sn、W、Zn、Ti、Ce、Zr、Mo、Al、Ga、Ge、As、Si、またはS等が挙げられる。例えば、インジウム酸化物にスズが添加されたITO(Indium Tin Oxide)が広く知られている。
【0022】
なお、基材10側、すなわち第1電極層21側が受光面である場合、第1電極層21は、グリッド状またはスリット状の金属電極層を含んでいてもよい。或いは、基材10と反対側、すなわち第2電極層22側が受光面である場合、第1電極層21は、例えば基材10側に、面状の金属電極層を含んでいてもよい。金属電極層の材料としては、Ag、Au、Cu等が挙げられる。
【0023】
第1キャリア輸送層31は、第1電極層21上に形成されており、正孔輸送層(HTL)(図1)または電子輸送層(ETL)(図2)として機能する。第1キャリア輸送層31は、光透過性を有する半導体材料からなる。
【0024】
具体的には、図1では、第1キャリア輸送層31は、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの正孔(第1キャリア)を第1電極層21に輸送する正孔輸送層(HTL)として機能する。正孔輸送層(HTL)としての第1キャリア輸送層31の主材料としては、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、PTAA(Poly(bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine))、または、Spiro-MeOTAD等が挙げられる。
【0025】
一方、図2では、第1キャリア輸送層31は、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの電子(第1キャリア)を第1電極層21に輸送する電子輸送層(ETL)として機能する。電子輸送層(ETL)としての第1キャリア輸送層31の主材料としては、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、または、フラーレン等が挙げられる。
【0026】
フラーレンとしては、例えばC60、C70、これらの水素化物、酸化物、金属錯体、アルキル基等を付加した誘導体、例えば、PCBM([6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester)などが挙げられる。第2キャリア輸送層32をリチウムLiを内包させたフラーレンを含む材料から形成することにより、電子の輸送効率を向上することができる。
【0027】
また、第1キャリア輸送層31は、例えば2PACz([2-(9H-Carbazol-9-yl)ethyl]phosphonic Acid)、MeO-2PACz([2-(3,6-Dimethoxy-9H-carbazol-9-yl)ethyl]phosphonic Acid)、Me-4PACz([4-(3,6-Dimethyl-9H-carbazol-9-yl)butyl]phosphonic Acid)等により形成される自己組織化単分子膜(SAM:Self-Assembled Monolayers)であってもよい。また、第1キャリア輸送層31は、多層構造を有してもよい。
【0028】
ペロブスカイト薄膜40は、第1キャリア輸送層31上に形成されており、光電変換層として機能する。ペロブスカイト薄膜40の主材料としては、有機原子A、金属原子B、およびハロゲン原子Xを含む下記式で表される化合物が挙げられる。
ABX
Aとしては、1価の有機アンモニウムイオンおよびアミジニウム系イオンのうちの少なくとも1種を含む有機原子が挙げられる。Bとしては、2価の金属イオンを含む金属原子が挙げられる。Xとしては、ヨウ化物イオンI、臭化物イオンBr、塩化物イオンCl、およびフッ化物イオンFのうちの少なくとも1種を含むハロゲン原子が挙げられる。
【0029】
これらの中でも、有機原子AとしてはメチルアンモニウムMA(CHNH)が好ましく、金属原子Bとしては鉛Pbが好ましく、ハロゲン原子Xとしてはヨウ化物I、臭化物イオンBrおよび塩化物イオンClのうちの少なくとも1つが好ましい。すなわち、ペロブスカイト薄膜40の主材料としては、メチルアンモニウムハロゲン化鉛MAPbX(CHNHPbX)、例えばMAPbI、MAPbBr、MAPbCl等が挙げられる。なお、ハロゲン原子Xとしては複数種類を含んでもよい。例えばヨウ化物Iと他のハロゲン原子Xとを含む場合、ペロブスカイト薄膜40の主材料としては、メチルアンモニウムヨウ化鉛MAPbI(3-y)(CHNHPbI(3-y))、例えばMAPbIBr(3-y)、MAPbICl(3-y)等が挙げられる(yは任意の正の整数)。
【0030】
メチルアンモニウムハロゲン化鉛MAPbX(CHNHPbX)薄膜は、ハロゲン化鉛PbX材料およびハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料を製膜し、これらの材料の薄膜を反応温度で反応させることにより形成される。また、メチルアンモニウムヨウ化鉛MAPbI(3-y)(CHNHPbI(3-y))薄膜は、例えばハロゲン化鉛PbX材料およびヨウ化メチルアンモニウムMAI材料を製膜し、これらの材料の薄膜を反応温度で反応させることにより形成される。更に具体的な一例によれば、メチルアンモニウムヨウ化鉛MAPbI(CHNHPbI)薄膜は、ヨウ化鉛PbI材料およびヨウ化メチルアンモニウムMAI材料を製膜し、これらの材料の薄膜を反応温度で反応させることにより形成される。ペロブスカイト薄膜40の形成方法の詳細は後述する。
【0031】
ペロブスカイト薄膜40におけるペロブスカイト結晶粒径は、800nm以上2000nm以下、好ましくは1000nm以上1500nm以下である。ペロブスカイト結晶粒径が800nm以上であると、性能、例えば光電変換効率、が向上する。一方、ペロブスカイト結晶粒径が2000nm以下であると、結晶が隙間なく並びやすくなるという利点を有する。
【0032】
第2キャリア輸送層32は、ペロブスカイト薄膜40上に形成されており、電子輸送層(ETL)(図1)または正孔輸送層(HTL)(図2)として機能する。第2キャリア輸送層32は、光透過性を有する半導体材料からなる。
【0033】
具体的には、図1では、第2キャリア輸送層32は、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの電子(第2キャリア)を第2電極層22に輸送する電子輸送層(ETL)として機能する。電子輸送層(ETL)としての第2キャリア輸送層32の主材料としては、酸化チタン(TiO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、または、フラーレン等が挙げられる。
【0034】
上述したように、フラーレンとしては、例えばC60、C70、これらの水素化物、酸化物、金属錯体、アルキル基等を付加した誘導体、例えば、PCBM([6,6]-Phenyl-C61-Butyric Acid Methyl Ester)などが挙げられる。第2キャリア輸送層32をリチウムLiを内包させたフラーレンを含む材料から形成することにより、電子の輸送効率を向上することができる。
【0035】
なお、第2キャリア輸送層32が電子輸送層(ETL)の場合、第2キャリア輸送層32と第2電極層22との間、または、第2キャリア輸送層32とペロブスカイト薄膜40との間に、正孔阻止層が設けられていてもよい。正孔阻止層の材料としては、例えば、バソクプロイン(BCP)、被着層へのダメージが比較的小さい原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)により形成されたSnO等が挙げられる。
【0036】
また、第2キャリア輸送層32が電子輸送層(ETL)の場合、第2キャリア輸送層32と第2電極層22との間、または、第2キャリア輸送層32とペロブスカイト薄膜40との間に、電子抽出層が設けられていてもよい。電子抽出層の材料としては、例えば、リチウム(Li)、フッ化リチウム(LiF)等が挙げられる。
【0037】
一方、図2では、第2キャリア輸送層32は、ペロブスカイト薄膜40で光電変換されて生成されたキャリアのうちの正孔(第2キャリア)を第2電極層22に輸送する正孔輸送層(HTL)として機能する。正孔輸送層(HTL)としての第2キャリア輸送層32の主材料としては、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(CuO)、PTAA(Poly(bis(4-phenyl)(2,4,6-trimethylphenyl)amine))、または、Spiro-MeOTAD等が挙げられる。
【0038】
第2電極層22は、第2キャリア輸送層32上に形成されており、陰極(図1)または陽極(図2)として機能する。基材10側、すなわち第1電極層21側が受光面である場合、第2電極層22は、例えば基材10側に、面状の金属電極層を含んでいてもよい。或いは、基材10と反対側、すなわち第2電極層22側が受光面である場合、第2電極層22は、導電性かつ光透過性を有する透明導電膜(Transparent Conductive Oxide:TCO)を含んでいてもよく、更には、グリッド状またはスリット状の金属電極層を含んでいてもよい。
【0039】
透明導電膜TCOの材料としては、透明導電性金属酸化物、例えば、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化チタンおよびそれらの複合酸化物等が用いられる。これらの中でも、酸化インジウムを主成分とするインジウム系複合酸化物が好ましい。高い導電率と透明性の観点からは、インジウム酸化物が特に好ましい。更に、信頼性またはより高い導電率を確保するため、インジウム酸化物にドーパントを添加すると好ましい。ドーパントとしては、例えば、Sn、W、Zn、Ti、Ce、Zr、Mo、Al、Ga、Ge、As、Si、またはS等が挙げられる。例えば、インジウム酸化物にスズが添加されたITO(Indium Tin Oxide)が広く知られている。
金属電極層の材料としては、Ag、Au、Cu等が挙げられる。
【0040】
このような構成により、太陽電池1は、基材10側、すなわち第1電極層21側、または基材10と反対側、すなわち第2電極層22側から入射する光に応じた電流を生成し、第1電極層21および第2電極層22に出力する。
【0041】
(太陽電池の製造方法)
次に、図3A図3Dを参照して、本実施形態の太陽電池の製造方法について説明する。図3Aは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第1電極層形成工程および第1キャリア輸送層形成工程を示す図であり、図3Aおよび図3Cは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法におけるペロブスカイト薄膜形成工程を示す図であり、図3Dは、本実施形態に係る太陽電池の製造方法における第2キャリア輸送層形成工程および第2電極層形成工程を示す図である。
【0042】
まず、図3Aに示すように、基材10上に、第1電極層21として例えば透明導電膜を形成する(第1電極層形成工程)。透明導電膜の形成方法としては、特に限定されないが、真空チャンバを用いたCVD法(化学気相堆積法)、PVD法(物理気相堆積法)またはスパッタリング法等が用いられる。
その後、透明導電膜の表面の洗浄(例えば、PW/IPA(イソプロピルアルコール))、乾燥(例えば、150度、1時間)、およびオゾン処理が行われてもよい。
【0043】
次に、第1電極層21上に、第1キャリア輸送層31を形成する(第1キャリア輸送層形成工程)。第1キャリア輸送層31の形成方法としては、特に限定されないが、例えばCVD法、PVD法またはスパッタリング法等のドライプロセス、或いは塗布法、印刷法等のウエットプロセスが挙げられる。これらの中でも、緻密な膜の製膜の観点から、スパッタリング法が好ましい。
【0044】
次に、第1キャリア輸送層31上に、ペロブスカイト薄膜40を形成する(ペロブスカイト薄膜形成工程)。ペロブスカイト薄膜40の形成方法としては、大面積化に適した塗布法を用いた製膜と、ガス状またはミスト状の貧溶媒の吹き付けを用いた乾燥および結晶化との組み合わせが挙げられる(ウエットプロセス)。
【0045】
具体的には、図3Bに示すように、ハロゲン化金属材料(例えば、上述したハロゲン化鉛PbX材料、ハロゲン化鉛PbX材料、ヨウ化鉛PbI材料)およびハロゲン化有機物材料(例えば、上述したハロゲン化メチルアンモニウムMAX材料、ヨウ化メチルアンモニウムMAI材料、ヨウ化メチルアンモニウムMAI材料)を溶解または分散させた溶液40Yを、ブレードコート法、ダイコート法、またはスプレーコート等の大面積化に適した塗布法を用いて塗布して、図3Cに示すようにペロブスカイト薄膜材料膜40Zを製膜する。
【0046】
その後、図3Cに示すように、ペロブスカイト化合物にとっての貧溶媒(溶解度が小さい溶媒)であって、ガス状またはミスト状の貧溶媒を、ペロブスカイト薄膜材料膜40Zに吹き付けて、ペロブスカイト薄膜材料膜40Zを乾燥、結晶化する。このとき、ハロゲン化金属材料およびハロゲン化有機物材料を適切な反応温度で反応させる。これにより、ペロブスカイト薄膜40が得られる。
【0047】
貧溶媒としては、エーテル、酢酸エチル、または1-プロパノール等が挙げられる。
【0048】
次に、図3Dに示すように、ペロブスカイト薄膜40上に、第2キャリア輸送層32を形成する(第2キャリア輸送層形成工程)。第2キャリア輸送層32の形成方法としては、特に限定されないが、例えばCVD法、PVD法またはスパッタリング法、あるいは蒸着法等のドライプロセス、或いは塗布法、印刷法等のウエットプロセスが挙げられる。
【0049】
次に、第2キャリア輸送層32上に、第2電極層22を形成する。第2電極層22の形成方法としては、特に限定されないが、例えば真空チャンバを用いたCVD法、PVD法またはスパッタリング法、あるいは蒸着法等のドライプロセス、或いは印刷法または塗布法等のウエットプロセスが挙げられる。これらの中でも、スパッタリング法が好ましい。
以上により、図1または図2に示す本実施形態のペロブスカイト薄膜系の太陽電池1が得られる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の太陽電池の製造方法によれば、ペロブスカイト薄膜形成工程では、
・第1キャリア輸送層31上に、大面積化に適したブレードコート法、ダイコート法、スプレーコート等の塗布法を用いてペロブスカイト薄膜材料膜40Zを塗布した後、
・ペロブスカイト薄膜材料膜40Zに、ガス状またはミスト状の貧溶媒を吹き付けて、ペロブスカイト薄膜の材料膜40Zを乾燥および結晶化する。
これにより、大面積のペロブスカイト薄膜40の形成が可能となり、ペロブスカイト薄膜系太陽電池1の大面積化が可能である。また、ガス状またはミスト状の貧溶媒の吹き付けにより、ペロブスカイト薄膜の材料膜40Zの結晶化を促進し、ペロブスカイト薄膜40における結晶粒径を大きくすることができ(例えば、800nm以上2000nm以下)、ペロブスカイト薄膜系太陽電池1の性能を向上することができる。
【0051】
ペロブスカイト薄膜における結晶粒径を大きくする方法としては、ペロブスカイト薄膜の材料膜に添加剤を加える方法が考えられる。しかし、この方法では、添加剤により、ペロブスカイト薄膜の組成が変更されるため、添加剤とペロブスカイト薄膜の組成との最適解を見つける労力が非常に大きくなる。これに対して、本実施形態によれば、ペロブスカイト薄膜の組成が変更されることがない。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。例えば、上述した実施形態では、結晶シリコン系太陽電池またはアモルファスシリコン薄膜系太陽電池と、ペロブスカイト薄膜系太陽電池とを組み合わせたいわゆるタンデム型太陽電池におけるペロブスカイト薄膜系太陽電池の製造にも適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1 ペロブスカイト薄膜系太陽電池
10 基材
21 第1電極層(陽極または陰極)
22 第2電極層(陰極または陽極)
31 第1キャリア輸送層(正孔輸送層または電子輸送層)
32 第2キャリア輸送層(電子輸送層または正孔輸送層)
40 ペロブスカイト薄膜
40Z ペロブスカイト薄膜の材料膜
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D