(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148142
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】つけペン
(51)【国際特許分類】
B43K 1/02 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B43K1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056017
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】守屋 知巳
【テーマコード(参考)】
2C350
【Fターム(参考)】
2C350HA03
2C350HA04
(57)【要約】
【課題】インキ色の変更を簡単に行うことができ、さらに筆記距離を長くすることができるつけペンを得る。
【解決手段】軸体20の前方にペン体30を有したつけペン10であって、軸体20の前方に、ペン体30の裏面33に隣接するインキ貯留体40が固定され、インキ貯留体40が、線材400で螺旋状に構成したコイル部41を有し、コイル部41を前方へ向かって縮径する略円錐状とし、コイル部41の後端部に後方へ向かって延設された脚部42を有し、脚部42にて軸体20の前端21とコイル部41の後端との間に空間部を形成して連結した。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体の前方にペン体を有したつけペンであって、
前記軸体の前方に、前記ペン体の裏面に隣接するインキ貯留体が固定され、
前記インキ貯留体が、
線材で螺旋状に構成したコイル部を有し、該コイル部を前方へ向かって縮径する略円錐状とし、該コイル部の後端部に、後方へ向かって延設された脚部を有し、
前記インキ貯留体の脚部を前記軸体の前端に、前記コイル部の後端との間に空間部を形成して連結したことを特徴とするつけペン。
【請求項2】
前記貯留体のコイル部における線材間の隙間が、後端部側より前端部側が狭く形成されたことを特徴とする請求項1に記載のつけペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸体の前方にペン体を有したつけペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、つけペンは、軸体の前方のペン体をインキ瓶のインキに浸漬させ、ペン体にインキを付着させた上で筆記を行う構造であり、ペン体に付着させることができるインキ量が限定されることから、一度のインキの付着による筆記距離に課題があった。
しかしながら、つけペンは構造が単純であることから、インキ色を変更したい場合には、ペン体に付着したインキを水で洗い流して、異なるインキ色のインキ瓶のインキにペン体を浸漬させ、異なるインキ色の筆跡を得ることが比較的簡単にできる。
【0003】
これに対し、万年筆は、軸筒の内部に、インキを収納したカートリッジや、インキ吸入器などのインキタンクを備えていることから(例えば、特許文献1参照)、インキタンクの内部に連通したペン芯を介して、インキタンク内のインキをペン体に供給させることができ、筆記距離を長くすることができる。
しかしながら、万年筆は、インキ色を変更したい場合には、軸筒の内部に収容されたインキカートリッジを交換したり、インキ吸入器内のインキを洗浄したりする必要があり、ペン芯のインキ溝や櫛溝や空気溝など、細い隙間に入り込んだインキを洗浄する必要があり、インキを除去するのに手間が掛かるという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、インキ色の変更を簡単に行うことができ、さらに筆記距離を長くすることができるつけペンを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるつけペンは、
「1.軸体の前方にペン体を有したつけペンであって、
前記軸体の前方に、前記ペン体の裏面に隣接するインキ貯留体が固定され、
前記インキ貯留体が、
線材で螺旋状に構成したコイル部を有し、該コイル部を前方へ向かって縮径する略円錐状とし、該コイル部の後端部に、後方へ向かって延設された脚部を有し、
前記インキ貯留体の脚部を前記軸体の前端に、前記コイル部の後端との間に空間部を形成して連結したことを特徴とするつけペン。
2.前記貯留体のコイル部における線材間の隙間が、後端部側より前端部側が狭く形成されたことを特徴とする前記1項に記載のつけペン。」である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、インキ色の変更を簡単に行うことができ、さらに筆記距離を長くすることができるつけペンが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示と理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺及び縦横の寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0010】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件並びにそれらの程度を特定する、例えば、「平行」、「直交」、「同一」等の用語や長さや角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲を含めて解釈することとする。
【0011】
図1から
図3は、本発明による一実施の形態を説明するための図であり、
図1Aは平面図、
図1Bは正面図、
図1Cは側面図である。
図2は、縦断面図である。
図3は、筆記時を示す縦断面図である。
【0012】
本実施の形態のつけペン10は、軸体20の前方にペン体30を有しており、ペン体30の下方には、インキ貯留体40が軸体20に固定され隣接されている。
インキ貯留体40は、線材400であるφ0.4mmのばね用ステンレス鋼線である線材400を螺旋状に巻回して、インキの貯留部となるコイル部41を形成してある。また、コイル部41の後端から後方へ向かって延設した脚部42を同線材400にて形成してある。コイル部41は、後端部を最大外径であるφ4.6mmで形成し、前端部を最小外径であるφ1.0mmmで形成し、全体として前方へ向かって縮径する略円錐状としてある。コイル部41の全長は約10.5mmであり、脚部42はコイル部41の中心位置で軸心に沿って曲げられ、8.0mmの長さで形成されている。
【0013】
インキ貯留体40を構成する線材400としては、前述したばね用ステンレス鋼線以外にも、硬鋼線,ピアノ線,オイルテンパー線などを使用することもできるが、インキによる腐食のことを考慮すると、ばね用ステンレス鋼線が好適である。また、線材400の線径はφ0.4mmでなくてもよく、φ0.3mmからφ1.0mmの間で設定すればよい。線材400の線径がφ0.3mmより小さい場合には、コイル部41の形状が崩れやすくなったり、線材400間に形成される隙間が小さくなって貯留できるインキ量が少なくなる。線材400の線径がφ1.0mmより大きい場合には、コイル形状に成形しにくかったり、コストが増えたり、インキ貯留体40が重くなって筆記感が悪くなる場合がある。
さらに、線材400の線径をφ0.3mmからφ0.5mmの間で設定することで、ペン体30にコイル部41が当接した状態であっても、コイル部41の弾発力の影響を受け難く、筆記感を低下させることがない。なお、コイル部41の成形には、スプリングフォーミングマシンを用いることができる。
【0014】
本実施形態では、コイル部41とペン体30との隙間を、後端部41aで0.16mm、前端部41bで0.10mmとなるように形成した。また、コイル部41を構成する線材400間の隙間は、後端部41aで0.16mm、前端部41bで0.10mmとなるように形成した。
【0015】
本実施の形態のつけペン10は、軸体20の前方に開口部22が形成されており、開口部22の内面に形成した雌螺子に、内首50の外面に形成した雄螺子を螺合させて該内首50を軸体20と一体にしてある。内首50に形成した直径0.39mm、深さ6.4mmの孔部51には、インキ貯留体40の脚部42が挿着され、軸体20とインキ貯留体40とが連結されている。コイル部41の後端部41aと軸体20の前端21との間に1.6mmの空間部60が形成される。また、ペン体30は、内首50に形成したスリット52に後方部31を挿着して固定されている。
【0016】
次に、
図3を用いて、本実施形態のつけペンにて筆記を行う状態について説明を行う。
図3は、つけペン10のペン体30を、インキ瓶のインキに浸漬したあとの状態であり、紙面100に対して軸体20が45度傾斜した状態で筆記が行われている状態である。
インキ貯留体40には、インキ(不図示。以下同様)が貯留されている。具体的には、コイル部41を構成する線材400の隙間と、ペン体30の裏面33とコイル部41との隙間に、毛細管力でインキが貯留されている。本実施形態では、筆記により切割り32内のインキが消費されると、ペン体30の裏面33とコイル部41との隙間にあるインキが切割り32に移動し、コイル部41を構成する線材400の隙間にあるインキがペン体30の裏面33とコイル部41との隙間に移動する。
【0017】
本実施形態の切割り32は、後端部の隙間を0.15mmで形成し、前端部が密着するよう、先端32bから後端32aまでの長さ10mmの間で、前方に向かい漸次幅が狭くなるよう形成されている。これにより、切割り32に入ったインキは、毛細管力の強い前端方向へ向かって移動する。
前述の通り、コイル部41とペン体30との隙間が、後端部41aで0.16mm、前端部41bで0.10mmとなるように形成したことから、コイル部41とペン体30との隙間におけるインキは、毛細管力の強い前端方向へ向かって移動することになる。また、コイル部41を構成する線材400間の隙間が、後端部41aで0.16mm、前端部41bで0.10mmとなるように形成したことから、コイル部41におけるインキは毛細管力の強い前端方向へ向かって流れることになる。
また、ペン体30の切割り32の後端32aは、コイル部41の中央部に位置するようにしてあり、ペン体30の裏面33とコイル部41との隙間のインキと、ペン体30の裏面33とコイル部41との隙間のインキが、切割り32における中央部から後方部に直接移動して、ペン体30の先端32bまで、インキ貯留体40に貯留されているインキを効率よく供給させることができる。
【0018】
一般的につけペンは、軸体20を紙面に対して40度から60度の角度で傾斜させて筆記することが多いが、本実施形態では、前述の通り、コイル部41が前方へ向かって縮径する略円錐状であることから、軸体20を傾斜させて筆記を行う際に、コイル部41が紙面に当接しない。
なお、コイル部41の頂角を10度から30度の範囲で設定することで、コイル部41が、紙面に隣接することなく、筆記時における視界の妨げになることがない。
【0019】
また、コイル部41とペン体30との隙間や、コイル部41を構成する線材400間の隙間に入ったインキには、毛細管力が働くことから、筆記時における衝撃で落下して、紙面を汚してしまうことがない。
前述の通り、本実施形態では、コイル部41とペン体30との隙間や、コイル部41を構成する線材400間の隙間に最大0.012mlのインキを貯留させることができることから、長い距離を筆記することが可能となる。
【0020】
次に、つけペン10を洗浄する際について説明を行う。本実施形態では、インキ貯留体40(ペン体30の裏面33側)を上に向け、その上方から水を流すことにより、コイル部41とペン体30との隙間や、コイル部41を構成する線材400間の隙間に水を入り込ませながら、インキを洗浄することができる。これは、コイル部41を構成する線材400の間に隙間があることと、コイル部41とペン体30との間に隙間があることにより得られる効果であり、特に本実施形態では、コイル部41の外周面の曲率を、隣接したペン体30の内面の曲率より大きく形成したことから、コイル部41の外周面とペン体30の裏面33の内面との間に空間が生じて、さらにインキの洗浄がしやすくなる。なお、コイル部41が略円錐状になっており、また、脚部42にて軸体20の前端21とコイル部41の後端41aの間に全長1.6mmの空間部60が形成されていることから、コイル部41の後端部側から水を流すことで、コイル部41の内面にも水が入り込み、効率よく洗浄することが可能となる。
【0021】
以上の通り、本実施形態のつけペン10は、インキを貯留する全ての部分が開放されていることから、簡単にインキを洗浄することができる。
【符号の説明】
【0022】
10…つけペン、
20…軸体、21…前端、22…開口部、
30…ペン体、31…後方部、32…切割り、32a…後端、32b…先端、33…裏面、
40…インキ貯留体、
400…線材、41…コイル部、41a…後端部、41b…前端部、42…脚部、
50…内首、51…孔部、52…スリット、
60…空間部、
100…紙面。