(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148153
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】注入器具及びトンネル構造
(51)【国際特許分類】
E21D 11/00 20060101AFI20231005BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E21D11/00 A
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056029
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000117102
【氏名又は名称】旭有機材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(72)【発明者】
【氏名】▲柳▼ 智裕
(72)【発明者】
【氏名】船津 航平
【テーマコード(参考)】
2D040
2D155
【Fターム(参考)】
2D040AA06
2D040BB03
2D040CB03
2D040DB01
2D040DC01
2D155JA02
2D155LA14
(57)【要約】
【課題】トンネル構造物の表面との間の隙間の形成を抑制することができる注入器具及びトンネル構造を提供する。
【解決手段】本発明の注入器具20は、トンネル構造物11に設けられた孔部12に挿入される注入管21と、注入管21の基端部と連結されてトンネル構造物11の表面に固定される取付治具22と、を備え、取付治具22は、トンネル構造物11の表面に沿って配置される固定部221と、注入管21の基端部と連結される筒部23と、を備え、固定部221は、引張弾性率が1000MPa以上5000MPa以下の熱可塑性樹脂を用いて形成されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル構造物に設けられた孔部に挿入される注入管と、前記注入管の基端部と連結されて前記トンネル構造物の表面に固定される取付治具と、を備え、
前記取付治具は、前記トンネル構造物の表面に沿って配置される固定部と、前記注入管の基端部と連結される筒部と、を備え、
前記固定部は、引張弾性率が1000MPa以上5000MPa以下の熱可塑性樹脂を用いて形成されていることを特徴とする注入器具。
【請求項2】
前記固定部は、板状に形成されている請求項1に記載の注入器具。
【請求項3】
前記固定部の平面積をS1とし、前記孔部の軸方向と直交する断面における面積をS2とした場合に、S1とS2は、5×S2≦S1≦50×S2の関係を満たす請求項1又は2に記載の注入器具。
【請求項4】
前記筒部の高さをhとし、前記孔部の内径をaとした場合に、hとaは、h>aの関係を満たす請求項1乃至3のいずれか一項に記載の注入器具。
【請求項5】
前記固定部の肉厚は、3mm以上10mm以下である請求項1乃至4のいずれか一項に記載の注入器具。
【請求項6】
前記固定部は、平面視で円形状に形成されている請求項1乃至5のいずれか一項に記載の注入器具。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の注入器具が、前記固定部を介してアンカーボルトにより前記トンネル構造物の表面に固定されてなることを特徴とするトンネル構造。
【請求項8】
前記固定部と前記トンネル構造物との間には、シール部が介在されている請求項7に記載のトンネル構造。
【請求項9】
前記シール部は、コーキング剤、樹脂シート、樹脂パッキン、及びOリングからなる群から選択される1種以上を用いて形成されている請求項8に記載のトンネル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル構造物に設けられた孔部を介して、トンネル構造物の内部の空洞等にグラウト材等を充填するために使用される注入器具、及びその注入器具を用いてなるトンネル構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、トンネルは、トンネル構造物である覆工コンクリートで地山などを被覆し、保護する構成を備えるが、地山からの湧水等により、覆工コンクリートの裏面と地山との間に空洞が生じる場合がある。こうした空洞の発生は、トンネルのアーチ構造に掛かる応力に偏りを生じさせて、トンネル構造物の安定性を低下させるため、空洞に液状のグラウト材を充填し、そのグラウト材の硬化により空洞を埋める必要がある。
グラウト材の充填には、注入器具が使用される。こうした注入器具として、特許文献1に記載のグラウト注入器具が挙げられる。グラウト注入器具は、構造物に設けられた孔部に挿入される注入管と、注入管の基端部に取り付けられる取付治具とを備え、取付治具は、孔部の近傍部分に沿って配置可能な当接部を有し、当接部には、構造物表面に対して固定可能な固定手段が取り付けられている。また、特許文献1には、取付治具の材質について、金属、硬質プラスチックスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の注入器具において、取付治具の当接部は、トンネル構造に設けられた孔部の近傍部分に沿って配置されて、固定手段によりトンネル構造物の表面に固定されるが、その固定された状態で、トンネル構造物の表面との間に隙間が形成されやすい。また、トンネル構造に設けられた孔部には、グラウト材の充填時に空洞から逆流した液状のグラウト材が流れ込んだり、地山内を浸透した雨水が流れ込んだりする。そして、上述のように注入器具の当接部とトンネル構造物の表面との間に隙間が形成されていると、その隙間から孔部に流れ込んだ液状のグラウト材の流出や、雨水がトンネル内へ漏れ出て、漏水を発生させるという不具合が生じている。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、トンネル構造物の表面との間の隙間の形成を抑制することができる注入器具及びトンネル構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち、本発明は以下に示す通りである。
[1]本発明の注入器具は、トンネル構造物に設けられた孔部に挿入される注入管と、前記注入管の基端部と連結されて前記トンネル構造物の表面に固定される取付治具と、を備え、
前記取付治具は、前記トンネル構造物の表面に沿って配置される固定部と、前記注入管の基端部と連結される筒部と、を備え、
前記固定部は、引張弾性率が1000MPa以上5000MPa以下の熱可塑性樹脂を用いて形成されていることを要旨とする。
[2]本発明の注入器具では、前記固定部は、板状に形成することができる。
[3]本発明の注入器具では、前記固定部の平面積をS1とし、前記孔部の軸方向と直交する断面における面積をS2とした場合に、S1とS2は、5×S2≦S1≦50×S2の関係を満たすことができる。
[4]本発明の注入器具では、前記筒部の高さをhとし、前記孔部の内径をaとした場合に、hとaは、h>aの関係を満たすことができる。
[5]本発明の注入器具では、前記固定部の肉厚は、3mm以上10mm以下であるものとすることができる。
[6]本発明の注入器具では、前記固定部は、平面視で円形状に形成されているものとすることができる。
[7]本発明のトンネル構造は、前記注入器具が、前記固定部を介してアンカーボルトにより前記トンネル構造物の表面に固定されてなることを要旨とする。
[8]本発明のトンネル構造では、前記固定部と前記トンネル構造物との間には、シール部が介在されているものとすることができる。
[9]本発明のトンネル構造では、前記シール部は、コーキング剤、樹脂シート、樹脂パッキン、及びOリングからなる群から選択される1種以上を用いて形成されているものとすることができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、トンネル構造物の表面との間の隙間の形成を抑制することができる注入器具及びトンネル構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態によるトンネル構造の縦断面図である。
【
図2】実施形態による取付治具の(a)は平面図であり、(b)は
図2(a)中のB-B線における断面図である。
【
図4】(a),(b)は、実施形態による取付治具の変更例を示す断面図である。
【
図5】実施形態によるトンネル構造の使用状態を示す縦断面図である。
【
図6】実施形態によるトンネル構造の使用状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を説明する。ここで示す事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要で、ある程度以上に本発明の構成的な詳細を示すことを意図しておらず、本説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0010】
図1に示すように、本発明の実施形態による注入器具20は、
トンネル構造物11に設けられた孔部12に挿入される注入管21と、注入管21の基端部と連結されてトンネル構造物11の表面に固定される取付治具22と、を備え、
取付治具22は、トンネル構造物11の表面に沿って配置される固定部221と、注入管21の基端部と連結される筒部23と、を備え、
固定部221は、引張弾性率が1000MPa以上5000MPa以下の熱可塑性樹脂を用いて形成されている、ことを特徴とする。
【0011】
トンネル構造物11は、トンネルにおいて掘削された地山13を支保、覆工等する人工物であれば、特に限定されないが、具体的に、トンネル壁面を構成する覆工コンクリートを挙げることができる。
なお、以下の文中では、特にことわりがない限り、トンネル構造物11は覆工コンクリートであるものとして、「表面」はトンネルの内部側の一面を指すものとし、「裏面」は地山13側の他面を指すものとする。
【0012】
トンネル構造物11の裏面には、地山13からの湧水等により、空洞14が形成される場合がある。トンネル構造物11は、アーチ構造に対して上から均等に土圧が加わることで安定するが、空洞14が形成された部位では地山13からの土圧を受けることができず、他の部位で土圧を集中的に受けることで、作用荷重が変化してしまう。こうした作用荷重の変化は、トンネル構造物11の耐久性の低下や構造的な不安定化等の不具合を発生させる。
このようなトンネル構造物11における不具合の発生を抑制するため、トンネル構造物11の裏面の空洞14へのグラウト材の注入、充填が行われる。
【0013】
トンネル構造物11に設けられた孔部12は、トンネル構造物11の表面から裏面を厚さ方向に貫通して形成することができる。
このようにトンネル構造物11を厚さ方向に貫通して形成された孔部12は、トンネル構造物11の裏面に形成された空洞14と通じている。
このため、空洞14と通じる孔部12を用いることにより、孔部12を介した空洞14へのグラウト材の注入、充填が可能となる。
【0014】
空洞14に注入、充填されるグラウト材は、空洞14に注入可能な流動性を有するものであれば、組成等について、特に限定されない。
グラウト材としては、セメント系グラウト材、スラグ系グラウト材、粘土系グラウト材、合成樹脂系グラウト材等を例示することができる。
これらの中でも合成樹脂系グラウト材は、流動性に優れ、使い勝手が良く、好ましい。通常、合成樹脂系グラウト材として、ポリオールを主成分とするA液とポリイソシアネートを主成分とするB液とからなるウレタン系グラウト材を用いることができる。
【0015】
注入器具20は、トンネル構造物11に装着されて、孔部12を介した空洞14へのグラウト材の注入、充填に使用されるものである。
注入器具20は、注入管21と、取付治具22とを備えている。
注入管21は、トンネル構造物11に設けられた孔部12に挿入され、グラウト材を空洞14まで送り届ける機能を奏する。
取付治具22は、注入管21と連結されてトンネル構造物11の表面に固定され、孔部12に挿入された注入管21をトンネル構造物11に対して支持して固定する機能を奏する。
【0016】
注入管21は、上述の機能を奏するのであれば、サイズ、材質、構成等について、特に限定されない。
注入管21のサイズについて、注入管21の長さは、トンネル構造物11の裏面において、孔部12から突出し、その先端が空洞14に達する長さとすることができる。注入管21は、例えば、トンネル構造物11の厚さに応じて、長さの異なるものを適宜選択し、取付治具22と組み合わせて使用することができる。
【0017】
注入管21のサイズについて、注入管21の外径は、その外径をDとし、孔部12の内径をaとした場合に、DとaがD≦aの関係を満たすものとすることができる。Dとaの関係は、好ましくは0.4×a≦D≦0.95×a、より好ましくは0.5×a≦D≦0.9×a、さらに好ましくは0.6×a≦D≦0.8×aとすることができる。
注入管21の外径が孔部12の内径と上述の関係を満たす場合、孔部12へ注入管21を挿入する作業を容易に行うことができる。
注入管21は、例えば、トンネル構造物11に設けられた孔部12の内径a(mm)に応じて、外径D(mm)の異なるものを適宜選択し、取付治具22と組み合わせて使用することができる。
【0018】
具体的に、トンネル構造物11の孔部12の内径a(mm)は、10mm~60mmとすることができ、好ましくは15mm~50mm、より好ましくは20mm~40mmとすることができる。
注入管21の外径D(mm)は、8mm~55mmとすることができ、好ましくは10mm~45mm、より好ましくは15mm~35mmとすることができる。
【0019】
注入管21の材質としては、合成樹脂、金属を例示することができる。
合成樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリフェニレンエーテル(PPE)等を例示することができる。
金属としては、鉄、アルミニウム、ニッケル合金、ステンレス鋼等の金属を例示することができる。
注入管21には、上述した合成樹脂や金属の中の1種のみ又は2種以上を選択して用いることができる。
【0020】
注入管21の構成について、注入管21の基端部には、取付治具22の筒部23と連結するための連結手段を設けることができる。
連結手段として、例えば、外周面に雄ネジが螺刻された筒状の雄ネジ部211を挙げることができる(
図1参照)。
他に、連結手段として、内周面に雌ネジが螺刻された筒状の雌ネジ部(図示略)、取付治具22の筒部23が挿入される筒状の被挿入部(図示略)、取付治具22の筒部23内に嵌挿される筒状の嵌挿部(図示略)等を挙げることができる。
また、注入管21と取付治具22の筒部23とを互いの嵌挿関係又は挿入関係により連結する構成とする場合、注入管21と筒部23は、例えば接着剤等を用いて接合することもできる。
【0021】
図2(a),(b)及び
図3に示すように、取付治具22は、上述の機能を奏するべく、トンネル構造物11の表面に沿って配置される固定部221と、注入管21の基端部と連結される筒部23と、を備えている。
固定部221は、中央に注入口222が設けられた形状にすることができる。
筒部23は、固定部221に設けられた注入口222と対応する位置に、凸状に設けることができる。
取付治具22において、固定部221の注入口222と、筒部23の内部は、互いに連通する構成とすることができる。
【0022】
筒部23は、注入管21の基端部と連結される構成を有しているのであれば、その他の構成、材質、サイズ等について、特に限定されない。
筒部23は、注入管21との連結のための連結手段を有する構成とすることができる。
連結手段として、例えば、筒部23の内周面に螺刻された雌ネジ231を挙げることができる(
図3参照)。
他に、連結手段として、外周面に雄ネジが螺刻された筒状の雄ネジ部232(
図4(a)参照)、注入管21の基端部に設けられた被挿入部に挿入される筒状の挿入部233(
図4(b)参照)、注入管21の基端部に設けられた嵌挿部が内側に嵌挿される被嵌挿部(図示略)等を挙げることができる。
【0023】
筒部23の材質として、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル、ポリカーボネート(PC)、ポリアセタール(POM)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフェニレンオキサイド(PPO)、ポリフェニレンエーテル(PPE)等の熱可塑性樹脂、鉄、アルミニウム、ニッケル合金、ステンレス鋼等の金属を例示することができ、これらの中の1種のみ又は2種以上を選択して用いることができる。
【0024】
筒部23は、固定部221と同じ材質とした場合、固定部221と一体化した構成とすることができる。この場合、取付治具22について、部品点数の削減、構成の簡易化等を図ることができる。なお、筒部23は、固定部221と同じ材質とした場合、射出成型で固定部221と一体的に製造することが可能である。
また、筒部23は、固定部221と異なる材質とした場合、固定部221と別体で形成された構成とし、接着、螺合、熱溶着、一体成型等によって一体化することができる。
【0025】
筒部23のサイズは、筒部23の高さをh(mm)とし、トンネル構造物11に設けられた孔部12の内径をa(mm)とした場合、hとaは、h>aの関係を満たすものとすることができる。この場合、孔部12に筒部23を挿入しやすくすることができる。
具体的に、筒部23の高さh(mm)は、12mm~65mmとすることができ、好ましくは15mm~50mm、より好ましくは20mm~40mmとすることができる。
【0026】
筒部23の内径は、その内径をd2(mm)とし、注入管21の内径をd1(mm)とした場合に、d1とd2は、d1≦d2の関係を満たすものとすることができる。d1とd2の関係は、好ましくは0.2×d2≦d1≦d2、より好ましくは0.3×d2≦d1≦0.9×d2とすることができる。この場合、筒部23から注入管21へグラウト材を好適に流動させることができる。
具体的に、注入管21の内径d1(mm)は、3mm~50mmとすることができ、好ましくは5mm~40mm、より好ましくは10mm~30mmとすることができる。
筒部23の内径d2(mm)は、5mm~55mmとすることができ、好ましくは10mm~45mm、より好ましくは15mm~35mmとすることができる。
【0027】
固定部221は、トンネル構造物11の表面に沿って配置され、取付治具22をトンネル構造物11の表面に固定するためのものである。
固定部221は、引張弾性率が1000MPa以上5000MPa以下の熱可塑性樹脂を用いて形成されている。
トンネル構造物11の表面の形状は、通常、トンネルがアーチ状に形成されているため、曲面状となっている。
固定部221は、上述の引張弾性率の熱可塑性樹脂を用いて形成されることにより、トンネル構造物11の曲面状をなす表面に追従が可能な可撓性を有している。
つまり、上述の引張弾性率の熱可塑性樹脂を用いて形成された固定部221は、トンネル構造物11の表面の形状に追従することで、その表面に隙間なく当接することができるため、トンネル構造物11の表面との間の隙間の形成を抑制することができる。
【0028】
上述の引張弾性率を有する熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂(ABS)を例示することができる。
引張弾性率は、好ましくは1020MPa以上4000MPa以下、より好ましくは1050MPa以上3000MPa以下、さらに好ましくは1100MPa以上2500MPa以下とすることができる。
【0029】
固定部221は、上述の引張弾性率の熱可塑性樹脂を用いて形成され、トンネル構造物11の表面に固定可能な構成を有しているのであれば、形状、サイズ等について、特に限定されない。
固定部221は、トンネル構造物11への固定について、固定孔223を有する構成とすることができる。
固定孔223は、固定部221を厚さ方向に貫通して形成することができ、アンカーボルト16等が挿通される構成とすることができる。
固定孔223は、1つのみ設けることができ、複数設けることができる。固定孔223を複数設ける場合、固定孔223は、注入口222を中心にして、相互に対称位置であり、かつ相互に等間隔に配置することができる。
【0030】
固定部221の形状としては、例えば、平板状、曲面板状、波板状等の板状、あるいは半球状、ドーム状、円錐台状や三角錐台状や四角錐台状などの錐台状等の立体形状などを例示することができる。これら固定部221の形状のなかでも板状、特に平板状は、トンネル構造物11の表面の形状に追従しやすく、好ましい。
固定部221の形状について、全体で一定の肉厚とすることに限らず、例えば、中央部分を薄肉にして撓ませやすくすることができる。また、固定部221は、縁部や角部が面取りされた形状とすることができる。
固定部221の表面及び裏面のうち、トンネル構造物11と接する裏面には、例えばOリングや樹脂パッキン等のシール部17が嵌まる溝部等を設けることができる。
固定部221の表面及び裏面のうち、トンネルの内部側となる表面には、滑り止め等のための凹凸部を設けたり、補強等のためのリブやフランジを設けたりすることができる。
【0031】
固定部221は、平面視で円形状、三角形状、正方形状、長方形状、六角形状等に形成することができる。これらの中でも、円形状は、固定孔223を複数設ける場合に、相互に対称位置であり、かつ相互に等間隔に配置しやすく、有用である。
固定部221の平面積をS1とし、トンネル構造物11に設けられた孔部12の軸方向と直交する断面における面積をS2とした場合に、S1とS2は、5×S2≦S1≦50×S2の関係を満たすことができる。S1とS2の関係は、好ましくは10×S2≦S1≦40×S2、より好ましくは15×S2≦S1≦35×S2とすることができる。この場合、トンネル構造物11に対して固定部221を安定的に固定することができるとともに、固定部221が、これに加わる応力を好適に受けることができる。
固定部221の肉厚T(mm)は、3mm以上10mm以下とすることができる(3mm≦T≦10mm)。肉厚Tは、好ましくは4mm以上8mm以下(4mm≦T≦8mm)、より好ましくは4.5mm以上6mm以下(4.5mm≦T≦6mm)とすることができる。この場合、固定部221は、トンネル構造物11の表面の形状に追従可能な可撓性を維持しながら、剛性の向上を図ることができる。
【0032】
以下、上記の注入器具20の使用方法について説明する。
注入器具20のトンネル構造物11への装着作業について、注入器具20は、装着作業前に注入管21と取付治具22とを連結しておき、予め組み立てられた状態としておく。
装着作業では、トンネル構造物11に孔部12を形成し、その後、注入器具20の注入管21を孔部12に挿入する。
次いで、取付治具22の固定部221に設けられた固定孔223にアンカーボルト16を挿通しながら、そのアンカーボルト16をトンネル構造物11に打ち込み、締付け等を行うことにより、注入器具20の取付治具22がトンネル構造物11に固定され、トンネル構造が構成されて、装着作業は完了する(
図1参照)。
【0033】
装着作業において、取付治具22の固定部221は、アンカーボルト16による締付け等を行った際、その形成に使用された熱可塑性樹脂の引張弾性力による可撓性を発揮することにより、トンネル構造物11の表面の形状に追従し、その形状に応じた形状となる。
これにより、固定部221は、トンネル構造物11の表面に隙間なく密着するように固定される。
【0034】
注入器具20を使用したグラウト材の注入作業について、
図5に示すように、注入作業時には、注入器具20にグラウトホース18が接続される。
グラウトホース18の接続については、注入器具20の取付治具22において、固定部221の中心に設けられた注入口222から、筒部23内にグラウトホース18の先端部が挿入される。
なお、グラウトホース18の接続については、グラウトホース18の先端部に、例えば雄ネジ部等の連結手段を設け、筒部23に設けられた連結手段を構成する雌ネジ231にグラウトホース18の先端部を連結したり、カプラ等を介在させて連結したりするように構成することもできる。
【0035】
注入器具20にグラウトホース18を接続した後、そのグラウトホース18から液状のグラウト材15を、筒部23を介して注入管21へ送り込み、注入管21からトンネル構造物11の裏面の空洞14へ注入する。
グラウト材15の空洞14への注入は、その空洞14の全体がグラウト材15によって充填されるまで続行される。
【0036】
グラウト材15の注入作業は、空洞14の全体がグラウト材15によって充填されることによって完了する。
空洞14の全体に充填された液状のグラウト材15は、時間経過とともに硬化して、地山13の地盤を安定化させる。
グラウト材15の注入作業の完了後、グラウトホース18を注入器具20から取り外し、
図6に示すように、注入器具20にキャップ24を装着して、注入口222を閉塞することができる。
【0037】
本発明のトンネル構造は、上述の注入器具20が、固定部221を介してアンカーボルト16によりトンネル構造物11の表面に固定されてなることを特徴とする(
図1、
図6参照)。
上述のように、固定部221には固定孔223を設けることができる。アンカーボルト16は、固定部221の固定孔223に挿通されて、トンネル構造物11に螺入されている。
【0038】
トンネル構造は、注入器具20がトンネル構造物11の表面に固定されてなるのであれば、空洞14へのグラウト材15の充填の有無について、特に問わない。つまり、トンネル構造は、空洞14へグラウト材15が充填されていない形態(
図1参照)、及び空洞14へグラウト材15が充填された形態(
図6参照)の何れの形態も含むものとする。
トンネル構造は、空洞14へグラウト材15が充填された形態の場合、注入器具20にキャップ24が装着された構成とすることができる(
図6参照)。キャップ24は、注入器具20の固定部221に設けられた注入口222を閉塞するものである。このキャップ24の装着により、トンネル構造は、注入口222からのグラウト材15や地山13からの雨水等の液漏れを防止することができる。
キャップ24の装着については、キャップ24の基端部に、例えば雄ネジ部等の連結手段を設け、筒部23に設けられた連結手段を構成する雌ネジ231にキャップ24の基端部を連結する構成とすることができる。
あるいは、キャップ24の装着については、キャップ24の基端部に、例えば筒状の挿入部を設け、その挿入部を、注入口222を介して筒部23の内側に嵌挿又は挿入する構成とすることができる。この構成の場合、キャップ24に設けられた挿入部を、筒部23に対して、接着等することもできる。
【0039】
トンネル構造は、固定部221とトンネル構造物11との間にシール部17が介在された構成とすることができる。この場合、シール部17により、固定部221とトンネル構造物11との間の隙間の形成を好適に防止することができる。
シール部17は、コーキング剤、樹脂シート、樹脂パッキン、及びOリングからなる群から選択される1種以上を用いて形成することができる。
なお、樹脂シートとしては、ゴム製シートやシリコーン製シート等が挙げられ、樹脂パッキンとしては、ゴム製パッキンやスポンジ製パッキン等が挙げられる。
【0040】
上述の注入器具20及びトンネル構造において、空洞14へ注入された液状のグラウト材15は、孔部12や注入管21へ逆流して、それらの内部にたまり、取付治具22の固定部221に内圧による応力を加える。こうした応力が加わった固定部221は、通常、トンネルの内部へ向かう方向(
図5及び
図6中で下方向)へ撓むことで、トンネル構造物11の表面との間に隙間を形成してしまう。
注入器具20の固定部221は、引張弾性率が1000MPa以上5000MPa以下の熱可塑性樹脂を用いて形成されている。この固定部221は、内圧による応力が加わった状態でなお、その弾性によって応力を緩和し、トンネル構造物11の表面に隙間なく密着した状態を保持するため、隙間の発生を防止することができる。
【0041】
固定部221とトンネル構造物11の表面との間において、隙間の発生が防止された場合、グラウト材15や地山13からの雨水等が、隙間を介してトンネルの内部などへ漏れ出す、所謂「液漏れ」を防止することができる。
こうした液漏れを防止することにより、漏水や結露を原因として、注入器具20をトンネル構造物11に固定するアンカーボルト16が錆びたり、トンネル内の施設が腐食したりすることを防止することができる。
また、トンネルにおいて地震による歪みが発生した場合、固定部221は、引張弾性率が1000MPa以上5000MPa以下の熱可塑性樹脂を用いて形成されているため、その弾性によって歪みによる応力を緩和できることから、注入器具20の破損を防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
土木分野、特にトンネル工事において、地山、地盤、岩盤と、トンネル構造物との間隙へグラウト材を注入し、充填、補強する際、本発明の注入器具の使用により、注入箇所における液漏れを防止することができる。
【符号の説明】
【0043】
11;トンネル構造物、12;孔部、13;地山、14;空洞、15;グラウト材、
16;アンカーボルト、17;シール部、18;グラウトホース、
20;注入器具、
21;注入管、211;雄ネジ部、
22;取付治具、
221;固定部、222;注入口、223;固定孔、
23;筒部、231;雌ネジ、
24;キャップ。