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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148172
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 51/00 20060101AFI20231005BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20231005BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08L51/00
C08K5/521
C08L101/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056065
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】藤井 慎二
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA013
4J002BB232
4J002BN141
4J002BN151
4J002CH052
4J002EW046
4J002FD102
4J002GM00
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】帯電防止性、耐熱変色性を有する樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ゴム強化樹脂(G)を含む樹脂主原料、帯電防止剤(E)、及びアルキルフォスフェート(F)を含む、樹脂組成物。アルキルフォスフェート(F)のアルキル基の炭素数は1~30であることが好ましい。帯電防止剤(E)としてポリエーテルエステルアミドが挙げられる。ゴム強化樹脂(G)及び帯電防止剤(E)以外の熱可塑性樹脂(Z)をさらに含んでもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム強化樹脂(G)を含む樹脂主原料、帯電防止剤(E)、及びアルキルフォスフェート(F)を含む、樹脂組成物。
【請求項2】
アルキルフォスフェート(F)のアルキル基の炭素数が1~30である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
ゴム強化樹脂(G)はグラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含み、
グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体と、前記ゴム質重合体に結合したグラフト鎖によって形成され、グラフト共重合体(A)の総質量に対する前記ゴム質重合体の割合が20質量%超、80質量%以下であり、前記グラフト鎖を構成する単量体成分(a)の割合が20質量%以上、80質量%未満であり、前記ゴム質重合体の割合と前記単量体成分(a)の割合の合計が100質量%であり、
共重合体(B)における芳香族ビニル化合物(b1)由来の単量体単位の含有量が共重合体(B)の総質量に対して50~80質量%である、
請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
ゴム強化樹脂(G)及び帯電防止剤(E)以外の熱可塑性樹脂(Z)をさらに含む、請求項1~3の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
帯電防止剤(E)は、ポリエーテルエステルアミドを含む、請求項1~4の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ゴム強化樹脂(G)の100質量部に対して、帯電防止剤(E)0.1~20質量部、及び、アルキルフォスフェート(F)0.01~5質量部を含む、請求項1~5の何れか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電防止剤を含む樹脂組成物及び成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックの中でもゴム強化樹脂は優れた特性を有することから、機械部品、自動車部品、電気・電子部品、事務機器部品などの多くの用途に用いられる。またこれら用途では、高外観に関する需要が日々高まっている。
高外観では色彩、製品のデザインが重視され、これに応えるべく様々な高発色材料が開発されている。
しかし、高外観な成形品は埃が付着するとかえって埃が目立ち、外観を著しく損なう原因として問題視されていることから埃付着防止の改善が求められていた。
【0003】
帯電防止性を付与する目的で樹脂組成物に帯電防止剤を配合することが広く知られている。帯電防止剤としては、ポリエーテルエステルアミドを使用する方法(特許文献1)が提案されているが、溶融混錬時や射出成形時の熱安定性が悪化する課題がある。また、帯電防止剤として界面活性剤を添加する方法も広く行われている(特許文献2)が、この手法は耐加水分解性を悪化させる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-129026号公報
【特許文献2】特開平6-93176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、帯電防止性、耐熱変色性を有する樹脂組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1] ゴム強化樹脂(G)を含む樹脂主原料、帯電防止剤(E)、及びアルキルフォスフェート(F)を含む、樹脂組成物。
[2] アルキルフォスフェート(F)のアルキル基の炭素数が1~30である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] ゴム強化樹脂(G)はグラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含み、グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体と、前記ゴム質重合体に結合したグラフト鎖によって形成され、グラフト共重合体(A)の総質量に対する前記ゴム質重合体の割合が20質量%超、80質量%以下であり、前記グラフト鎖を構成する単量体成分(a)の割合が20質量%以上、80質量%未満であり、前記ゴム質重合体の割合と前記単量体成分(a)の割合の合計が100質量%であり、共重合体(B)における芳香族ビニル化合物(b1)由来の単量体単位の含有量が共重合体(B)の総質量に対して50~80質量%である、[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4] ゴム強化樹脂(G)及び帯電防止剤(E)以外の熱可塑性樹脂(Z)をさらに含む、[1]~[3]の何れか一項に記載の樹脂組成物。
[5] 帯電防止剤(E)は、ポリエーテルエステルアミドを含む、[1]~[4]の何れか一項に記載の樹脂組成物。
[6] ゴム強化樹脂(G)の100質量部に対して、帯電防止剤(E)0.1~20質量部、及び、アルキルフォスフェート(F)0.01~5質量部を含む、[1]~[5]の何れか一項に記載の樹脂組成物。
[7] [1]~[6]の何れか一項に記載の樹脂組成物を射出成形してなる成形品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば帯電防止性、耐熱変色性を有する樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0009】
≪第一態様≫
本発明の第一態様は、ゴム強化樹脂(G)を含む樹脂主原料、帯電防止剤(E)、及びアルキルフォスフェート(F)を含む樹脂組成物である。
本態様の樹脂組成物は、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲でゴム強化樹脂(G)以外のその他の熱可塑性樹脂(以下、「他の熱可塑性樹脂(Z)」ともいう。)、樹脂成分以外の任意の他の成分(W)を含むことができる。
前記樹脂主原料は、ゴム強化樹脂(G)のみによって形成されていてもよいし、他の樹脂を含んでいてもよい。
【0010】
<ゴム強化樹脂(G)>
ゴム強化樹脂(G)としては、例えば、グラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含むものが挙げられる。
【0011】
[グラフト共重合体(A)]
グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体に単量体成分(a)がグラフト重合した共重合体である。
なお、グラフト共重合体(A)においては、ゴム質重合体に単量体成分(a)がどのように重合しているか特定することは容易ではない。すなわち、グラフト共重合体(A)については、その構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的ではないという事情(不可能・非実際的事情)が存在する。したがって、グラフト共重合体(A)は「ゴム質重合体に単量体成分(a)がグラフト重合した」と規定することがより適切とされる。
【0012】
(ゴム質重合体)
グラフト共重合体(A)を構成するゴム質重合体としては、例えばポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル-ブタジエン共重合体等のブタジエン系ゴム;スチレン-イソプレン共重合体等の共役ジエン系ゴム;ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム;エチレン-プロピレン共重合体等のオレフィン系ゴム;ポリオルガノシロキサン等のシリコーン系ゴムなどが挙げられる。ゴム質重合体は複合ゴム構造やコア/シェル構造をとってもよい。
ゴム質重合体としては、色調と耐衝撃性のバランスが良好である点から、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、又はそれらの複合ゴム質重合体が好ましい。
これらゴム質重合体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0013】
ゴム質重合体の平均粒子径は、0.20~0.50μmが好ましく、0.25~0.40μmがより好ましい。ゴム質重合体の平均粒子径が上記下限値以上であれば、耐衝撃性が向上する。また、ゴム質重合体の平均粒子径が上記上限値以下であれば、成形品表面に分散不良物が点在する不良現象(ブツ)が生じにくく好ましい。また、樹脂組成物の初期流動性が高まる。
ゴム質重合体の平均粒子径は、粒度分布測定器を用いて体積基準の粒子径分布を測定し、得られた粒子径分布より算出することができる。
ゴム質重合体の平均粒子径は、ゴム質重合体の製造時の重合条件(温度、時間など)や、モノマーの種類とその配合割合を調整することで制御できる。
【0014】
ゴム質重合体の製造方法としては特に制限されないが、粒子径の制御が容易であることから乳化重合で製造するのが好ましい。乳化重合は公知の方法が適用でき、使用する触媒、乳化剤等は特に制限なく、各種のものが使用できる。
【0015】
ゴム質重合体は、肥大化された肥大化ゴムであってもよい。また、肥大化操作によって平均粒子径、分布等を調整できる。肥大化方法としては、機械凝集法、化学凝集法、酸基含有共重合体による凝集方法が挙げられる。
化学凝集法としては、ゴム質重合体のラテックスに酸性物質を加えて乳化安定性を不安定にして凝集させ目的粒子径に達したところで、アルカリ物質を加えゴム質重合体のラテックスを再安定化させる方法が挙げられる。酸性物質としては、酢酸、無水酢酸、硫酸、リン酸などが挙げられる。アルカリ物質としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。
【0016】
酸基含有共重合体による凝集方法としては、ゴム質重合体のラテックスと酸基含有共重合体のラテックスとを混合することで、肥大化ゴムのラテックスを得る方法が挙げられる。酸基含有共重合体のラテックスとしては、例えば水中にて、酸基含有単量体(例えば(メタ)アクリル酸等のカルボキシ基含有単量体)、アルキル(メタ)アクリレート単量体、及び必要に応じてこれらと共重合可能な他の単量体を含む単量体成分を重合して得られる酸基含有共重合体のラテックスが挙げられる。
【0017】
(単量体成分(a))
グラフト共重合体(A)のグラフト鎖を構成する単量体成分(a)は、芳香族ビニル化合物(a1)と、シアン化ビニル化合物(a2)と、必要に応じて他のビニル化合物(a3)とを含む。
【0018】
芳香族ビニル化合物(a1)としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン類(p-メチルスチレン等)、ハロゲン化スチレン類(p-ブロモスチレン、p-クロロスチレン等)、p-tert-ブチルスチレン、ジメチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられる。これらの中でもスチレン、α-メチルスチレンが好ましい。
これら芳香族ビニル化合物(a1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0019】
シアン化ビニル化合物(a2)としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリルなどが挙げられる。これらの中でもアクリロニトリルが好ましい。
これらシアン化ビニル化合物(a2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
他のビニル化合物(a3)は、芳香族ビニル化合物(a1)及びシアン化ビニル化合物(a2)と共重合可能なビニル化合物である。このようなビニル化合物としては、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等のメタクリル酸アルキルエステル;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルエステル;N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド化合物;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸等の不飽和カルボン酸化合物等などが挙げられる。
これら他のビニル化合物(a3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
単量体成分(a)中の各ビニル化合物の割合は、単量体成分(a)の総質量に対して、芳香族ビニル化合物(a1)が60~80質量%であり、シアン化ビニル化合物(a2)が20~40質量%であり、他のビニル化合物(a3)が0~20質量%であることが好ましい。各化合物の割合が上記範囲内であれば、樹脂組成物の成形性、機械特性性能バランスが向上する。
【0022】
(ゴム含有量(X))
本態様のグラフト共重合体(A)の総質量に対するゴム質重合体の割合を「グラフト共重合体(A)中のゴム含有量(X)」という。
ゴム質重合体と単量体成分(a)の割合は、グラフト共重合体(A)の総質量に対して、ゴム質重合体が40質量%超であり、単量体成分(a)が60質量%未満であることが好ましい。ゴム質重合体と単量体成分(a)の割合が上記範囲内であれば、機械特性また、成形品の耐衝撃性が向上する。
【0023】
ゴム質重合体の割合(ゴム含有量(X))は、グラフト共重合体(A)の総質量に対して、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、さらには30質量%が好ましい。また、ゴム質重合体の割合は、グラフト共重合体(A)の総質量に対して、80質量%以下が好ましく、75質量%以下がより好ましく、70質量%以下がさらに好ましい。すなわち、ゴム質重合体の割合は、グラフト共重合体(A)の総質量に対して、20質量%超、80質量%以下が好ましく、25~75質量%がより好ましく、25~70質量%、30~70質量%の順にさらに好ましい。
【0024】
単量体成分(a)の割合は、グラフト共重合体(A)の総質量に対して、20質量%以上、80質量%未満が好ましく、25~75質量%がより好ましく、30~75質量%、30~70質量%の順でさらに好ましい。なお、単量体成分(a)とゴム質重合体の合計質量はグラフト共重合体(A)の総質量とほぼ等しい。
【0025】
<グラフト共重合体(A)の製造方法>
グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体の存在下で単量体成分(a)を重合(グラフト重合)することにより得られる。このようにして得られるグラフト共重合体(A)は、単量体成分(a)を重合することによって得られるビニル系共重合体がゴム質重合体にグラフトされた形態を有している。
【0026】
グラフト重合を行う方法としては特に制限されないが、反応が安定して進行するように制御可能であることから乳化重合が好ましい。具体的には、ゴム質重合体のラテックスに単量体成分(a)を一括して仕込んだ後に重合する方法;ゴム質重合体のラテックスに単量体成分(a)の一部を先に仕込み、随時重合させながら残りを重合系に滴下する方法;ゴム質重合体のラテックスに単量体成分(a)の全量を滴下しながら随時重合する方法などが挙げられる。単量体成分(a)の重合は1段で行ってもよく、2段以上に分けて行ってもよい。2段以上に分けて行う場合、各段における単量体成分(a)を構成するビニル化合物の種類や組成比を変えて行うことも可能である。
乳化重合で得られるグラフト共重合体(A)は、通常、ラテックスの状態である。
重合条件は、例えば30~95℃で1~10時間であってよい。
乳化重合には、通常、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤が用いられる。
【0027】
重合開始剤としては、例えばクメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、含糖ピロリン酸、スルホキシレート等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、アゾビスイソブチロニトリル、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシラウレート、tert-ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物などが挙げられる。重合開始剤は、油溶性でも水溶性でもよく、さらにはこれらを組み合わせて用いてもよい。
これら重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤は、ゴム質重合体のラテックスに一括して又は連続的に添加することができる。重合開始剤の使用量は、ゴム質重合体及び単量体成分(a)の合計100質量部に対して0.05~0.25質量部が好ましく、0.08~0.2質量部がより好ましい。
【0028】
連鎖移動剤としては、例えばオクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサメチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、tert-テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類;α-メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。
これら連鎖移動剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
連鎖移動剤は、ゴム質重合体のラテックスに一括して又は連続して添加することができる。連鎖移動剤の使用量は、ゴム質重合体及び単量体成分(a)の合計100質量部に対して0.1~0.3質量部が好ましく、0.1~0.2質量部がより好ましい。
【0029】
乳化剤としては、例えばサルコシン酸ナトリウム、脂肪酸カリウム、脂肪酸ナトリウム、アルケニルコハク酸ジカリウム、ロジン酸カルシウム、不均化ロジン酸カルシウム等のカルボン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩などが挙げられる。
これら乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
乳化剤の使用量は、ゴム質重合体及び単量体成分(a)の合計100質量部に対して0.1~0.4質量部が好ましく、0.1~0.3質量部がより好ましい。
【0030】
グラフト共重合体(A)は、通常、ラテックスの状態で得られる。グラフト共重合体(A)のラテックスからグラフト共重合体(A)を回収する方法としては、例えばグラフト共重合体(A)のラテックスを、凝固剤を溶解させた熱水中に投入することによってスラリー状に凝析する湿式法;加熱雰囲気中にグラフト共重合体(A)のラテックスを噴霧することによって半直接的にグラフト共重合体(A)を回収するスプレードライ法等が挙げられる。
【0031】
湿式法に用いる凝固剤としては、例えば硫酸、塩酸、リン酸、硝酸等の無機酸;塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩などが挙げられ、重合で用いた乳化剤に応じて選定される。例えば、乳化剤としてカルボン酸塩のみが使用されている場合には、上述した凝固剤の1種以上を用いることができる。乳化剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の酸性領域でも安定な乳化力を示す乳化剤を使用した場合には、凝固剤としては金属塩が好適である。
【0032】
湿式法を用いると、スラリー状のグラフト共重合体(A)が得られる。このスラリー状のグラフト共重合体(A)から乾燥状態のグラフト共重合体(A)を得る方法としては、まず残存する乳化剤残渣を水中に溶出させて洗浄し、次いで、このスラリーを遠心又はプレス脱水機等で脱水した後に気流乾燥機等で乾燥する方法;圧搾脱水機や押出機等で脱水と乾燥とを同時に実施する方法等が挙げられる。かかる方法によって、粉体又は粒子状の乾燥グラフト共重合体(A)が得られる。
洗浄条件としては特に制限されないが、乾燥後のグラフト共重合体(A)100質量%中に含まれる乳化剤残渣量が2質量%以下より好ましくは0.5%以下となる条件で洗浄することが好ましい。乳化剤残差が多く残るとポリカーボネート樹脂の熱分解の原因になる。
なお、圧搾脱水機や押出機から排出されたグラフト共重合体(A)を回収せず、直接、樹脂組成物を製造する押出機や成形機に送って成形品とすることも可能である。
【0033】
<共重合体(B)>
共重合体(B)は、芳香族ビニル化合物(b1)と、シアン化ビニル化合物(b2)と、必要に応じて他のモノビニル化合物(b3)とを共重合してなるものである。すなわち、共重合体(B)は、芳香族ビニル化合物(b1)由来の単量体単位と、シアン化ビニル化合物(b2)由来の単量体単位と、必要に応じて他のモノビニル化合物(b3)由来の単量体単位とを有する共重合体である。
なお、共重合体(B)はグラフト共重合体(A)と異なり、ゴム質重合体にグラフトしていない。
【0034】
共重合体(B)における芳香族ビニル化合物(b1)、シアン化ビニル化合物(b2)、及び必要に応じて用いられる他のビニル化合物(b3)はそれぞれ、グラフト共重合体(A)の説明において先に例示した、芳香族ビニル化合物(a1)、シアン化ビニル化合物(a2)、他のビニル化合物(a3)と同様な化合物を使用することができ、好ましい態様も同様である。
【0035】
共重合体(B)における芳香族ビニル化合物(b1)由来の単量体単位の含有量は特に限定されないが、例えば共重合体(B)の総質量に対して50~80質量%が好ましい。
共重合体(B)におけるシアン化ビニル化合物(b2)由来の単量体単位の含有量は特に限定されないが、例えば共重合体(B)の総質量に対して20~50質量%が好ましい。
共重合体(B)における他のビニル化合物(b3)由来の単量体単位の含有量は特に限定されないが、例えば共重合体(B)の総質量に対して0~20質量%が好ましい。
共重合体(B)の質量平均分子量は、例えば50,000~150,000が好ましい。
共重合体(B)の質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)を用いて測定された、標準ポリスチレン換算の値である。
共重合体(B)は、芳香族ビニル化合物(b1)とシアン化ビニル化合物(b2)と、必要に応じて他のビニル化合物(b3)とを共重合することにより製造できる。
重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、塊状重合又はこれらを複合した方法等の公知の重合方法をいずれも適用できる。
【0036】
<帯電防止剤(E)>
一般に帯電防止剤は、分子量で分類される場合と、電荷の有無若しくは種類(非イオン性、カチオン性、アニオン性、両性)で分類される場合とがある。ここでは、数平均分子量が2000以上のものを高分子型帯電防止剤とし、それ未満のものを低分子型帯電防止剤とする。
【0037】
高分子型帯電防止剤としては、例えば、ポリエーテルエステルアミドが挙げられる。ポリエーテルエステルアミドは、例えば、両末端にカルボキシル基を有するポリアミド(e-1)と、ポリアルキルエーテル類(e-2)から誘導することができる。本態様の樹脂組成物がポリカーボネート樹脂(P)を含む場合、ポリカーボネート樹脂(P)との相溶性を高める観点から、両末端にカルボキシル基を有するポリアミドと、ビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物から誘導されるポリエーテルエステルアミドが好ましい。
【0038】
上記e-1の両末端にカルボキシル基を有するポリアミドとして、例えば、(1)ラクタム開環重合体、(2)アミノカルボン酸の重縮合体、(3)ジカルボン酸とジアミノの重縮合体が挙げられる。
【0039】
上記(1)のラクタムとして、例えば、カプロラクタム、エナントラクタム、カプリルラクタム、ラウロラクタムなどが挙げられる。
上記(2)のアミノカルボン酸として、例えば、ω-アミノカプロン酸、ω-アミノエナント酸、ω-アミノカプリル酸、ω-アミノペルゴン酸、ω-アミノカプリン酸、11-アミノウンデカン酸および12-アミノドデカン酸などが挙げられる。
上記(3)のジカルボン酸として、例えば、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジ酸、ドデカンジ酸、イソフタル酸などが挙げられる。また、ジアミンとして、例えば、ヘキサメチレジアミン、ヘプタメチレジアミン、オクタメチレジアミン、デエカメチレンジアミンなどが挙げられる。
これらの中でも、カプロクタム、12-アミノドデカン酸、アジピン酸-ヘキサメチレジアミンが好ましく、カプロラクタムが特に好ましい。
【0040】
上記e-1は、炭素原子数4~20のジカルボン酸成分を分子量調節剤として使用し、これの存在下に上記アミド形成性モノマーを常法により開環重合あるいは重縮合させることによって得られる。炭素原子数4~20のジカルボン酸として、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸などの芳香族ジカルボン酸;コハク酸、シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸などの脂肪酸ジカルボン酸が挙げられる。中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカンジ酸が重合性、物性の点から好ましい。
【0041】
上記e-1の数平均分子量は500~5000が好ましく、より好ましくは500~3000である。数平均分子量が500~5000の範囲であると、十分な耐熱性を有し、ポリエーテルエステルアミドの製造時における反応効率を高めることが可能となる。
【0042】
上記e-2のポリアルキルエーテル類として、例えば、アルキレンオキシドの重合体やポリアルキレンオキシドが付加した化合物が挙げられる。アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、1,4-ブチレンオキシドなどが挙げられる。
【0043】
上記e-2の数平均分子量は1600~3000が好ましい。またエチレンオキシド単位のモル数が32~60モル分含まれるものが好ましい。数平均分子量が1600~3000の範囲であると、良好な帯電防止性能を有し、ポリエーテルエステルアミドの製造時における反応効率を高めることが可能となる。
【0044】
上記e-2として好適なビスフェノール類のアルキレンオキシド付加物におけるビスフェノール類としては、例えば、ビスフェノールA(4,4’-ジヒドロキシジフェニル-2,2-プロパン)、ビスフェノールF(4,4’-ジヒドロキシジフェニルメタン)、ビスフェノールS(4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン)、および4,4’-ジヒドロキシジフェニル-2,2-ブタンなどが挙げられる。これらのうちビスフェノールAが好ましい。
【0045】
上記e-2は、e-1とe-2の合計100質量%中、20~80質量%の範囲で用いられることが好ましい。より好ましくは30~70質量%の範囲である。e-2が20~80質量%の範囲であると、ポリエーテルエステルアミドの耐熱性および帯電防止性の良好な両立が可能となる。
【0046】
上記e-2は、例えば、ビスフェノール類とアルキレンオキサイドをアルカリ触媒存在下、100~200℃の温度で付加反応させる。得られた付加反応物を塩化メチレンなどの多ハロゲン化合物とアルカリ金属の存在下40℃~150℃の温度で反応させてビスフェノール類へのアルキレンオキサイド付加物をより高分子化させる方法である。
【0047】
上記e-2がビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物であるポリエーテルエステルアミドの製造方法としては、例えば、(i)アミド形成性モノマーおよびジカルボン酸を反応させてe-1を形成した後、これにe-2としてビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物を加え、高温・減圧下で重合反応を行う方法、(ii)アミド形成性モノマーおよびジカルボン酸とビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物を同時に反応槽に仕込み、水の存在下または非存在下に高温で加圧反応させることによって中間体としてe-1を生成させ、その後減圧下でe-1とビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加物との重合反応を行う方法が挙げられる。
【0048】
以上で説明した好適なポリエーテルエステルアミドは市販されており、例えば、三洋化成工業株式会社製のペレスタット(登録商標)のシリーズが挙げられる。
【0049】
本態様の帯電防止剤(E)として、溶融混錬時や射出成形時の熱安定性、樹脂組成物の機械特性の観点から、高分子量型帯電防止剤を用いることが好ましく、なかでもポリエーテルエステルアミドを用いることがより好ましい。
帯電防止剤(E)は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0050】
<アルキルフォスフェート(F)>
アルキルフォスフェート(F)は式(2)で表したものが挙げられる。
(HO)-(O=)P-(O-R)3-n・・・(2)
式中、nは1又は2を表し、Rはアルキル基を表す。
Rのアルキル基が有する炭素数は、1~30、4~30、4~20、8~20、10~20の順で好ましい。この中でも炭素数10以上のアルキル基が好ましく、炭素数18であるオクタデシル基が特に好ましい。
Rのアルキル基は直鎖状または分岐鎖状であり、直鎖状が好ましい。
本態様の樹脂組成物に含まれるアルキルフォスフェート(F)は1種でもよいし、2種以上でもよい。例えば、式(2)においてnの値が1もしくは2の構造のものをそれぞれ単独で用いてもよいし、これらの混合物であってもよい。
【0051】
<熱可塑性樹脂(Z)>
その他の樹脂としては、上述のグラフト共重合体(A)、共重合体(B)、帯電防止剤(E)以外の樹脂が挙げられ、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ナイロン樹脂、メタクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、及びこれらの樹脂を相溶化剤や官能基等により変性したものなどが挙げられる。これらの中でも、機械的特性や成形性に優れ、ゴム強化樹脂(G)、帯電防止剤(E)との相溶性にも優れることから、次に説明するポリカーボネート樹脂(P)が好ましい。
これらその他の樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
<ポリカーボネート樹脂(P)>
ポリカーボネート樹脂(P)は、主鎖にカーボネート結合(炭酸エステル結合)を有する樹脂である。ポリカーボネート樹脂(P)としては特に限定されないが、例えば芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、脂肪族-芳香族ポリカーボネート樹脂、芳香族ポリエステルカーボネート樹脂などが挙げられる。これらのポリカーボネート樹脂(P)は、末端がR-CO-基又はR’-O-CO-基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。
【0053】
ポリカーボネート樹脂(P)としては、成形品の耐衝撃性、耐熱性が向上する観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂及び芳香族ポリエステルカーボネート樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、耐衝撃性がより向上する観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂がより好ましい。
【0054】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、一般式-(-O-X1-O-C(=O)-)-で示される構成単位を有する重合体である。前記一般式におけるX1は、1以上の芳香環を有する炭化水素基、又は前記炭化水素基にヘテロ原子又はヘテロ結合を導入した基である。X1において、X1に隣接する酸素原子に直接結合する原子は、芳香環を構成する炭素原子である。
【0055】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、例えば芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応による反応生成物、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの界面重縮合法による重縮合物、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとのピリジン法による重縮合物等が挙げられる。
【0056】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内に芳香環に結合したヒドロキシ基を2つ有する化合物であればよく、例えばヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4,4’-ビフェノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という。)、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、9,9-ビス(p-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、ビス(p-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。
これら芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。この化合物において、炭化水素基としては、例えばアルキレン基が挙げられる。炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。
2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物としては、ビスフェノールA、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3、5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタンなどが挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールAが好ましい。
これら2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。
これら炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0059】
ポリカーボネート樹脂(P)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、粘度平均分子量が互いに異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を併用してもよい。
【0060】
ポリカーボネート樹脂(P)の分子量は任意であり、特に限定されるものではないが、溶液粘度から換算した粘度平均分子量(Mv)は、通常15,000~40,000が好ましく、17,000~30,000がより好ましく、18,000~28,000が特に好ましい。粘度平均分子量が上記下限値以上であれば、ポリカーボネート樹脂の熱分解による耐衝撃性の低下、成型加工性の変化が生じたとしても材料の性能設計に余裕が持てる。また、粘度平均分子量が上記上限値以下であれば、樹脂組成物の初期流動性が向上する。
【0061】
ポリカーボネート樹脂(P)の粘度平均分子量(Mv)は、溶液粘度法により測定される値である。具体的には、塩化メチレン100mLにポリカーボネート樹脂(P)0.7gを溶解して調製した溶液(試料)とウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dl/g)を求めて、下記式(4)より粘度平均分子量(Mv)を求める。
[η]=1.23×10-4×Mv0.83 ・・・(4)
【0062】
<他の成分>
他の成分としては、各種の添加剤、その他の樹脂などが挙げられる。
添加剤としては、例えば公知の酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定剤、離型剤、着色剤(顔料、染料等)、炭素繊維、ガラス繊維、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、シリカ、タルク等の充填材、臭素系難燃剤、リン系難燃剤等の難燃剤、三酸化アンチモン等の難燃助剤、フッ素樹脂等のドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤、シリコーンオイル、カップリング剤などが挙げられる。
これら添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
なお、本発明で用いられる必須成分や任意成分には、何れも、品質に問題がなければ、重合工程や加工工程、成形時等の工程回収品、市場から回収されたリサイクル品を用いることができる。
【0064】
<樹脂組成物中の各成分の含有量>
ゴム強化樹脂(G)の含有量は、本態様の樹脂組成物の総質量に対して、30~99.9質量%が好ましく、40~99.9質量%がより好ましく、45~99.9質量%がさらに好ましい。
【0065】
ゴム強化樹脂(G)の50質量部に対して、帯電防止剤(E)の含有量は、0.1~20質量部が好ましく、0.5~15質量部がより好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、帯電防止性を充分に得ることができる。
上記範囲の上限値以下であると、耐熱変色性をより向上させることができる。
【0066】
ゴム強化樹脂(G)の50質量部に対して、アルキルフォスフェート(F)の含有量は、0.01~3質量部が好ましく、0.05~1質量部がより好ましく、0.1~0.5質量部がさらに好ましい。
上記範囲であると、耐熱変色性をより向上させることができる。
【0067】
熱可塑性樹脂(Z)(ゴム強化樹脂(G)及び帯電防止剤(E)以外のその他の熱可塑性樹脂)の含有量は、ゴム強化樹脂(G)50質量部に対して、10~200質量部が好ましく、20~100質量部がより好ましく、30~70質量部がさらに好ましい。
上記範囲であると、各樹脂の特性を充分に活かすことができる。
【0068】
ゴム強化樹脂(G)及び熱可塑性樹脂(Z)の合計100質量部に対して、帯電防止剤(E)の含有量は、0.1~20質量部が好ましく、0.5~15質量部がより好ましく、1~10質量部がさらに好ましい。
上記範囲の下限値以上であると、帯電防止性を充分に得ることができる。
上記範囲の上限値以下であると、耐熱変色性をより向上させることができる。
【0069】
ゴム強化樹脂(G)及び熱可塑性樹脂(Z)の合計100質量部に対して、アルキルフォスフェート(F)の含有量は、0.01~3質量部が好ましく、0.05~1質量部がより好ましく、0.1~0.5質量部がさらに好ましい。
上記範囲であると、耐熱変色性をより向上させることができる。
【0070】
帯電防止剤(E)の2質量部に対して、アルキルフォスフェート(F)の含有量は、0.01~1質量部が好ましく、0.05~0.4質量部がより好ましく、0.1~0.2質量部がさらに好ましい。
上記範囲であると、耐熱変色性をより向上させることができる。
【0071】
アルキルフォスフェート(F)に該当しないリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤を含有すると、耐加水分解性を向上できるので好ましい。この場合、ゴム強化樹脂(G)の50質量部に対して、又は、ゴム強化樹脂(G)及び熱可塑性樹脂(Z)の合計100質量部に対して、上記酸化防止剤の合計の含有量は、0.01~5質量部が好ましく、0.1~2質量部がより好ましく、0.3~1質量部がさらに好ましい。
【0072】
本態様の樹脂組成物の好適な組成の一例として、次の組成が挙げられる。樹脂組成物の総質量に対して、ゴム強化樹脂(G)と任意に含まれてもよいその他の熱可塑性樹脂(Z)の合計の含有量が50~99.9質量%であり、帯電防止剤(E)の含有量が0.01~15質量%であり、アルキルフォスフェート(F)の含有量が0.001~5質量%である組成が挙げられる。
【0073】
より好適な組成として、前記総質量に対して、ゴム強化樹脂(G)と任意に含まれてもよいその他の熱可塑性樹脂(Z)の合計の含有量が70~99.9質量%であり、帯電防止剤(E)の含有量が0.03~10質量%であり、アルキルフォスフェート(F)の含有量が0.01~2質量%である組成が挙げられる。
【0074】
さらに好適な組成として、前記総質量に対して、ゴム強化樹脂(G)と任意に含まれてもよいその他の熱可塑性樹脂(Z)の合計の含有量が90~99.9質量%であり、帯電防止剤(E)の含有量が0.03~5質量%であり、アルキルフォスフェート(F)の含有量が0.01~1質量%である組成が挙げられる。
【0075】
上記の各好適な組成において、帯電防止剤(E)はポリエーテルエステルアミドを含むことが好ましい。
上記の各好適な組成において、アルキルフォスフェート(F)は前記式(2)に記載のものを含むことが好ましい。
上記の各好適な組成において、ゴム強化樹脂(G)はグラフト共重合体(A)と共重合体(B)を含むことが好ましい。ここで、グラフト共重合体(A)は、ゴム質重合体と、前記ゴム質重合体に結合したグラフト鎖によって形成され、グラフト共重合体(A)の総質量に対する前記ゴム質重合体の割合が20質量%超、80質量%以下であり、前記グラフト鎖を構成する単量体成分(a)の割合が20質量%以上、80質量%未満であり、前記ゴム質重合体の割合と前記単量体成分(a)の割合の合計が100質量%であることが好ましい。また、共重合体(B)における芳香族ビニル化合物(b1)由来の単量体単位の含有量が共重合体(B)の総質量に対して50~80質量%であることが好ましい。
上記の各好適な組成において、熱可塑樹脂(Z)を含む場合、熱可塑性樹脂(Z)はポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0076】
<樹脂組成物の製造方法>
第一態様の樹脂組成物は、例えば、ゴム強化樹脂(G)及び任意成分であるポリカーボネート樹脂(P)の混合物に対して、帯電防止剤(E)、アルキルフォスフェート(F)及び必要に応じて他の成分の1つ以上を混合、混練して製造することができる。
各成分を混合、混練する方法は特に制限されず、一般的な混合、混練方法の何れを採用してもよく、例えば、押出機、バンバリーミキサー、混練ロール等にて混練した後ペレタイザー等で切断しペレット化する方法等が挙げられる。
第一態様の樹脂組成物は、成形して成形品とすることができる。
【0077】
≪成形品≫
本発明の第二態様は、第一態様の樹脂組成物又はこれを含む材料を成形してなる成形品である。
本態様の成形品は、第一態様の樹脂組成物又はこれを含む材料を公知の成形方法によって成形加工して得ることができる。成形方法としては、例えば、射出成形法、プレス成形法、押出成形法、真空成形法、ブロー成形法等が挙げられる。
【0078】
第一態様の樹脂組成物は、耐熱変色性に優れることから、射出成形に用いることが好ましい。つまり、本態様の成形品は射出成形品であることが好ましい。射出成形時の樹脂組成物の溶融温度(シリンダ内での滞留温度)は200℃以上とすることができ、230~260℃とすることもできる。この際の滞留時間は例えば1~20分とすることができ、5~10分が好ましい。
【実施例0079】
以下、「部」、「%」は特に明記しない限り、「質量部」、「質量%」を表す。
【0080】
[グラフト共重合体(A)と共重合体(B)の製造]
【0081】
<合成例1:ゴム質重合体(g-1)の製造>
反応器に水150部、牛脂脂肪酸カリウム塩3.3部、水酸化カリウム0.14部、ピロリン酸ナトリウム0.3部、tert-ドデシルメルカプタン0.20部を仕込み、次いで、1,3-ブタジエン100部を仕込み、62℃に昇温した。次いで、過硫酸カリウム0.12部を圧入して重合を開始した。反応は10時間かけて75℃に到達させて行った。さらに、75℃で1時間反応させた後ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.08部を圧入した。残存する1,3-ブタジエンを除去した後、重合物を取り出し、
ゴム質重合体のラテックス(固形分含量が35%)を得た。得られたゴム質重合体の体積平均粒子径は、0.08μmであった。
得られたゴム質重合体のラテックス100部(固形分換算)に、n-ブチルアクリレート単位85%及びメタクリル酸単位15%からなる平均粒子径0.11μmの共重合体ラテックス2部(固形分換算)を撹拌しながら添加し、30分間攪拌を続け、平均粒子径0.28μmの肥大化ブタジエン系のゴム質重合体(g-1)のラテックスを得た。
【0082】
<合成例2:グラフト共重合体(A-1)の製造>
試薬注入容器、冷却管、窒素置換装置、ジャケット加熱機及び撹拌装置を備えた密閉型反応器内に、水180部(ゴム質重合体(g)のラテックス中の水を含む)、ゴム質重合体(g)のラテックスを固形分換算で70部、及び不均化ロジン酸カリウム0.13部を添加し、窒素置換しながら反応器内部の液温を55℃まで昇温して30分保持した後、ピロリン酸ナトリウム0.15部、硫酸第一鉄7水和物0.008部及びブドウ糖0.3部を、イオン交換水8部に溶解した溶液を加えた。次いでアクリロニトリル7.5部、スチレン22.5部、及びクメンヒドロパーオキシド0.07部、tert-ドデシルメルカプタン0.09部の混合液を5時間にわたって滴下し、重合した。滴下終了後、内温を55℃に保持したまま30分間撹拌した後、冷却し、グラフト共重合体のラテックスを得た。
得られたグラフト共重合体のラテックスを蒸留水で1.25倍に希釈し、50℃の3%硫酸水溶液に徐々に滴下させた。全量滴下後、温度を90℃まで上昇させ5分保持して凝固させた。次いで凝固物を濾布で遠心分離後、湿粉状態のグラフト共重合体を乾燥してグラフト共重合体(A-1)を得た。
得られたグラフト共重合体(A-1:ABS樹脂)のゴム含有量(X)は70質量%であり、グラフト率(Y)は38.6%であった。
なお、本実施例において、ゴム質重合体(g)の仕込み量をゴム含有量(X)とした。
【0083】
グラフト率は以下の式により求めることができる。
グラフト率(質量%)={(T-S)/S}×100
上記式中、Tはグラフト共重合体(A‐1)1gをアセトン20mlに投入し、振とう機により2時間振とうした後、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Sはグラフト共重合体(A‐1)1gに含まれるゴム質重合体(g)の質量(g)である。
なお、単量体成分(a)として芳香族ビニル化合物のみを用いた場合は、アセトンの代わりにメチルエチルケトンを用いて測定する。
【0084】
<合成例3:グラフト共重合体(A-2)の製造>
リボン型攪拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体として、エチレン・プロピレン共重合体{エチレン/プロピレン=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)20、融点(Tm)は40℃、ガラス転移温度(Tg)は-50℃}22部、スチレン55部、アクリロニトリル23部、t-ドデシルメルカプタン0.5部、トルエン110部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間攪拌して均一溶液とした。その後、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温して、100℃に達した後は、この温度を保持しながら、攪拌回転数100rpmとして重合反応を行った。重合反応開始後4時間目から、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合反応を終了した。その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)-プロピオネート0.2部、ジメチルシリコーンオイル;KF-96-100cSt(商品名:信越シリコーン株式会社製)0.02部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し、さらに40mmφベント付き押出機(シリンダ温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化した。得られたグラフト共重合体(A-2:AES樹脂)のゴム含有量は30質量%、グラフト鎖のアクリロニトリルの割合は25質量%、グラフト率は60%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.47dl/gであった。
【0085】
[共重合体(B)の製造]
<合成例4:共重合体(B-1)>
反応器に水125部、リン酸カルシウム0.4部、アルケニルコハク酸カリウム塩0.003部、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート0.05部、1,1-ジ(tert-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン0.04部、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート0.04部、tert-ドデシルメルカプタン0.45部と、アクリロニトリル26部、スチレン74部からなる単量体混合物を仕込み、反応させた。反応は、水、アクリロニトリル、スチレンの一部を逐次添加しながら開始温度65℃から6.5時間昇温加熱後、125℃に到達させて行った。更に、125℃で1時間反応した後、共重合体(B-1)のスラリーを得た。冷却の後、このスラリーを遠心脱水して共重合体(B-1)を得た。得られた共重合体(B-1:AS樹脂)の質量平均分子量は114,000であった。
【0086】
[ゴム強化樹脂(G)の製造]
上記で製造したグラフト共重合体(A-1),(A-2)と共重合体(B)とを表1示す配合で混合することにより、ゴム強化樹脂(G)とした。
【0087】
[ポリカーボネート樹脂(P)]
ポリカーボネート樹脂(P-1):三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製 ノバレックス 7022PJ」(粘度平均分子量(Mv):21,000)を使用した。このポリカーボネート樹脂はビスフェノールAを用いて合成されたものである。
【0088】
[帯電防止剤(E)]
E-1:三洋化成工業社製 ペレスタットNC6321(高分子型帯電防止剤:ポリエーテルエステルアミド)
【0089】
[アルキルフォスフェート(F)]
アルキルフォスフェート(F)として以下のものを準備して用いた。
F-1:ADEKA社製 アデカスタブ AX―71(オクタデシルフォスフェート、アルキル基の炭素数18)
F-2:城北化学工業株式会社製 JAMP―8EH(モノ(2-エチルヘキシル)フォスフェート、アルキル基の炭素数8)
【0090】
[酸化防止剤]
W-1:リン系酸化防止剤、城北化学工業株式会社製 JP-650
W-2:リン系酸化防止剤、株式会社ADEKA製 アデカスタブ PEP-36
W-3:フェノール系酸化防止剤、住友化学株式会社製 SUMILIZER GS(F)
【0091】
<体積平均粒子径の測定方法>
上記の合成例において、動的散乱理論を原理としたマイクロトラック(日機装株式会社製「ナノトラック150」)を用い、測定溶媒として純水を用いて、ゴム質重合体の体積平均粒子径(MV)を測定した。
なお、ゴム質重合体の体積平均粒子径が、そのままグラフト共重合体および樹脂組成物中のゴム質重合体の体積平均粒子径を示すことを、電子顕微鏡の画像解析によって確認した。
【0092】
[実施例1~13、比較例1~9]
表1に示す割合(質量部)で各原料を混合し、さらに着色剤として酸化チタン0.8質量部、着色剤の分散助剤として水添硬化ひまし油0.2質量部を混合して、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を、30mm二軸押出機(株式会社日本製鋼所製「TEX30α」)を用いて、230℃の温度で溶融混練して、それぞれをペレット化し、次の各試験で使用する樹脂組成物のペレットを得た。
【0093】
<埃付着性の評価>
各樹脂組成物を東芝機械製IS-170FA射出成形機によりシリンダ温度230℃(ポリカーボネート樹脂を配合する場合は260℃)、射出圧力50MPa、金型温度60℃、20 mm/sにて射出成形し、縦270mm、横200mm、厚さ3mmの試験片を得た。ASTM D2741の試験法を参考にし、温度23℃、湿度65%に調節したダートチャンバー試験装置に試験片を24時間セットし、その後、カーボンブラック3gを5分間循環ブローする試験を行った。試験後の試験片を目視で観察し、下記評価基準で評価した。ダートチャンバー試験の評価が△以上を埃付着防止性があるとした。
○:わずかな量のカーボンブラックが均一に付着しているか、全く付着していない。
△:カーボンブラックが均一にやや多く付着しているか、わずかに花模様(不均一に付着)が存在している。
×:全体にカーボンブラックが不均一に付着している。
【0094】
<成形品の色度測定>
各樹脂組成物のペレットを、30トン射出成形機(日精樹脂工業株式会社、「NEX30-3E」)を用いて成形温度280℃、金型温度60℃、射出速度30mm/secの条件で射出成形し、試験片(縦80mm×横55mm×厚さ2.4mm)を得た。得られた試験片を分光光度計(日本分光株式会社製紫外可視近赤外分光光度計V-670)を用いて測色を行い、成形品のb*をSCE方式にて測定した。
帯電防止剤とアルキルフォスフェートが配合されてない比較例1の樹脂組成物の試験片の測定値をブランク(基準値)として、各樹脂組成物の試験片のΔb*を求めて以下の基準で評価した。
〇:Δb*が0.5以下であり、目視では変色に気付かない。
△:Δb*が0.6~2.0であり、実用に耐えられる程度の変色である。
×:Δb*が2を超え、変色程度が問題となる。
【0095】
<熱滞留後の成形品の色度測定>
各樹脂組成物のペレットを、30トン射出成形機(日精樹脂工業株式会社、「NEX30-3E」)を用いて280℃のシリンダ内に10分滞留させた後、金型温度60℃、射出速度30mm/secの条件で射出成型を行い、試験片(縦80mm×横55mm×厚さ2.4mm)を得た。得られた試験片を分光光度計(日本分光株式会社製紫外可視近赤外分光光度計V-670)を用いて測色を行い、成形品のb*をSCE方式にて測定した。
帯電防止剤とアルキルフォスフェートが配合されてない比較例1の樹脂組成物の試験片の測定値をブランク(基準値)として、各樹脂組成物の試験片のΔb*を求めて以下の基準で評価した。
〇:Δb*が0.5以下であり、目視では変色に気付かない。
△:Δb*が0.6~2.0であり、実用に耐えられる程度の変色である。
×:Δb*が2を超え、変色程度が問題となる。
【0096】
本発明に係る実施例の樹脂組成物にあっては、埃付着性、成形品の色度測定、熱滞留後の成形品の色度測定の評価が優れていた。これらの色度測定の評価が高いことは、射出成形時の加熱による変色を防止する効果(耐熱変色性)が優れていることを意味している。特に、炭素数が10以上のアルキル基を有するアルキルフォスフェートを含む実施例2~8では格別顕著に優れた耐熱変色性を示した。
一方、帯電防止剤(E)及びアルキルフォスフェート(F)を含まない比較例1は埃付着性が劣っていた(色度は未測定)。また、アルキルフォスフェート(F)を含まない比較例2~5は耐熱変色性が劣っていた。さらに、アルキルフォスフェート(F)を含まない代わりに、リン系酸化防止剤の配合量を増やしたり、2種のリン系酸化防止剤を用いたりした比較例6~9でも、成形時の加熱処理が少し長くなると(熱滞留を行うと)、変色を防止できず、劣っていた。
【0097】
【表1A】
【0098】
【表1B】