(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148207
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】細胞製剤用非凍結保存液
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20231005BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20231005BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20231005BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20231005BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20231005BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20231005BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20231005BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20231005BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C12N5/02
C12N5/0775
A61K47/36
A61K47/02
A61K9/10
A61K47/42
A61K35/28
A61L27/38
A61K47/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056110
(22)【出願日】2022-03-30
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮下(原田) 美乃里
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BA21
4B065BB02
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4B065BB19
4B065BD12
4B065CA44
4C076AA16
4C076AA22
4C076CC29
4C076DD23Q
4C076DD41
4C076DD41Q
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4C081AB00
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4C081DA15
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087MA05
4C087MA23
4C087NA03
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、冷蔵温度で細胞生存率を良好に保つことが可能な非凍結細胞保存液及び保存方法、及び可能な限り少ない工程数での適用が可能な細胞製剤を開発し、提供することである。
【解決手段】0.5~12(w/v)%のデキストラン、及びナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩を含む溶液を含む細胞製剤用非凍結保存液、細胞製剤用非凍結保存液及び細胞を含む細胞製剤、並びに細胞の維持方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む細胞製剤用非凍結保存液:
0.5~12(w/v)%のデキストラン、及び
ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩を含む溶液。
【請求項2】
前記ナトリウム塩、前記カリウム塩及び前記カルシウム塩のいずれか一以上が塩化物である、請求項1に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
【請求項3】
前記溶液がリンゲル液である、請求項2に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
【請求項4】
前記リンゲル液が、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液及び重炭酸リンゲル液からなる群から選択されるいずれか一以上のリンゲル液である、請求項3に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
【請求項5】
アルブミンをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
【請求項6】
前記アルブミンの濃度が15(w/v)%以下である、請求項5に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
【請求項7】
前記アルブミンがヒトアルブミンである、請求項5又は6に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
【請求項8】
間葉系細胞用である、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
【請求項9】
前記間葉系細胞が間葉系幹細胞を含む、請求項8に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
【請求項10】
前記間葉系幹細胞が脂肪組織由来である、請求項9に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
【請求項11】
ナイアシン非含有である、請求項1~10のいずれか一項に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞製剤用非凍結保存液及び細胞を含む、細胞製剤。
【請求項13】
局所投与用である、請求項12に記載の細胞製剤。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の細胞製剤及び容器を含む、細胞投与用デバイス。
【請求項15】
細胞を、請求項1~11のいずれか一項に記載の細胞製剤用非凍結保存液に懸濁する懸濁工程、及び
0℃~37℃の温度下で保存する保存工程
を含む、細胞の維持方法。
【請求項16】
請求項1~11に記載のいずれか一項に記載の細胞製剤用非凍結保存液に細胞を懸濁する懸濁工程、及び
懸濁液を容器中に充填する充填工程
を含む、細胞投与用デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞製剤用非凍結保存液、細胞製剤用非凍結保存液及び細胞を含む細胞製剤、並びに細胞の維持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細胞研究の進歩により再生医療の技術的障壁が低くなりつつある。生きた細胞を患者へ移植して治療を行う細胞移植は、当初、主に血液難病の患者へ造血幹細胞を移植する骨髄移植において利用されていたが、その用途に広がりを見せている。
【0003】
例えば、重篤な疾患の治療用途として、がん免疫細胞療法がすでに広く利用されている。これは、患者の血液から免疫細胞を採取し、がんに対する攻撃性等に基づく選択及び培養を体外で行い、その後、再び患者体内へ移植することでがんに対する免疫を強化する治療法である。このような重篤な疾患の治療に加えて、最近では、さらにより軽度な疾患及び状態に対する処置、特に整形外科等の領域においても細胞移植が利用され始めている。具体的には、例えば、障害又は加齢等による関節症において、病変部分に間葉系幹細胞を注入することによる関節機能の回復術や、幹細胞及び/又は幹細胞から分化増殖させた脂肪細胞を注入することによる瘢痕、しわ、及びたるみの改善等に使用されている(特許文献1)。
【0004】
これまで細胞治療は、高度な医療設備を有する医療機関において主に行われてきた。しかし、上述のような再生医療や細胞移植の用途の広範な広がりから、今日、個人病院等の小規模な医療機関も、軽度な疾患及び状態に対する処置を目的とした細胞の提供を希望する傾向にある。小規模な医療機関では、通常、外部の専門機関で調製された細胞移植用細胞製剤を患者に投与する。小規模な医療機関において再生医療や細胞移植を利用するためには細胞製剤の輸送や保存が必要である。
【0005】
ところが、現在、非凍結温度で輸送や投与準備にかかる期間にわたり、細胞生存率を良好に保つことが可能な非凍結保存方法は実用化されていない。そのため、細胞を凍結保存して輸送するのが一般的である。凍結保存液中には、通常DMSO等の添加剤が含まれている。しかし、これらの添加剤の多くは人体に害を及ぼす恐れがあり、医療機関において移植治療を行う前に添加剤を除去するための遠心分離機等の設備が必要となるが、小規模な医療機関においては、そのような設備を有していない所も多い。一方で、コンタミネーションを防ぐ観点から、医療機関での作業は、清潔な環境で、かつ可能な限り少ない工程数で行われることが好ましい。そのため、有害な添加剤を含まずに細胞生存率を良好に保つことができ、かつ、医療機関において追加の操作が不要な細胞保存液の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、冷蔵温度で細胞生存率を良好に保つことが可能な非凍結細胞保存液、それを用いた細胞の維持方法、及び医療機関において少ない工程数での投与が可能な細胞製剤を開発し、提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明者らは、鋭意研究を行い、特定の濃度のデキストランを含むリンゲル液において細胞を保存した場合に、冷蔵温度でも比較的長期間にわたり高い細胞生存率が維持されることを見出した。本発明は、以上の新規知見に基づくものであり、以下を提供する。
【0009】
(1)以下を含む細胞製剤用非凍結保存液:
0.5~12(w/v)%のデキストラン、及び
ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩を含む溶液。
(2)前記ナトリウム塩、前記カリウム塩及び前記カルシウム塩のいずれか一以上が塩化物である、(1)に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
(3)前記溶液がリンゲル液である、(2)に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
(4)前記リンゲル液が、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液及び重炭酸リンゲル液からなる群から選択されるいずれか一以上のリンゲル液である、(3)に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
(5)アルブミンをさらに含む、(1)~(4)のいずれかに記載の細胞製剤用非凍結保存液。
(6)前記アルブミンの濃度が15(w/v)%以下である、(5)に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
(7)前記アルブミンがヒトアルブミンである、(5)又は(6)に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
(8)間葉系細胞用である、(1)~(7)のいずれかに記載の細胞製剤用非凍結保存液。
(9)前記間葉系細胞が間葉系幹細胞を含む、(8)に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
(10)前記間葉系幹細胞が脂肪組織由来である、(9)に記載の細胞製剤用非凍結保存液。
(11)ナイアシン非含有である、(1)~(10)のいずれかに記載の細胞製剤用非凍結保存液。
(12)(1)~(11)のいずれかに記載の細胞製剤用非凍結保存液及び細胞を含む、細胞製剤。
(13)局所投与用である、(12)に記載の細胞製剤。
(14)(12)又は(13)に記載の細胞製剤及び容器を含む、細胞投与用デバイス。
(15)細胞を、(1)~(11)のいずれかに記載の細胞製剤用非凍結保存液に懸濁する懸濁工程、及び0℃~37℃の温度下で保存する保存工程を含む、細胞の維持方法。
(16)(1)~(11)に記載のいずれかに記載の細胞製剤用非凍結保存液に細胞を懸濁する懸濁工程、及び懸濁液を容器中に充填する充填工程を含む、細胞投与用デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の細胞製剤用非凍結保存液及び細胞の維持方法によれば、冷蔵温度でも高い細胞生存率を維持したまま、細胞を保存することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】各組成の保存液を用いた場合の細胞生存率の経時的変化を示す図である。相対細胞生存率は保存開始後0時間の細胞生存率を100%とした相対値を示し、エラーバーは標準誤差を示す。
【
図2】各組成の保存液を用いた場合の細胞の倍加時間の経時的変化を示す図である。
【
図3】異なる濃度のデキストランを含有する保存液を用いた場合の細胞生存率の経時的変化を示す図である。相対細胞生存率は保存開始後0時間の細胞生存率を100%とした相対値を示す。
【
図4】2(w/v)%のヒト血清アルブミン、及び異なる濃度のデキストランを含有する保存液を用いた場合の細胞生存率の経時的変化を示す図である。相対細胞生存率は保存開始後0時間の細胞生存率を100%とした相対値を示す。
【
図5】3(w/v)%のデキストラン、及び異なる濃度のヒト血清アルブミンを含有する保存液を用いた場合の細胞生存率の経時的変化を示す図である。相対細胞生存率は保存開始後0時間の細胞生存率を100%とした相対値を示す。
【
図6】輸送をした場合及び輸送をしなかった場合の細胞生存率の経時的変化を示す図である。相対細胞生存率は保存開始後0時間の細胞生存率を100%とした相対値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.細胞製剤用非凍結保存液
1-1.概要
本発明の第1の態様は細胞製剤用非凍結保存液である。本発明の細胞製剤用非凍結保存液は、デキストラン、並びにナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩を含む溶液を必須の構成成分として含み、冷蔵温度下にて非凍結条件での細胞の保存を可能にする。本発明の細胞製剤用非凍結保存液は、本発明の第2態様の細胞製剤における必須の構成成分となり得る。
【0013】
1-2.定義
本明細書において「細胞製剤用非凍結保存液(以下、本明細書においては、しばしば「非凍結保存液」と略称する)」とは、細胞の非凍結保存が可能な溶液を指す。
【0014】
本明細書において「非凍結保存」とは、水が凍結しない温度、圧力等の物理条件下での保存を指す。
【0015】
本明細書において「非凍結温度」とは、大気圧下で水が凍結しない温度を指す。例えば、1気圧下ならば0℃を超える温度を指す。
【0016】
本明細書において「保存」及び「維持」とは、対象物である生細胞の機能及び効果を損なわない程度に、生細胞を生存させ、及び/又はその機能を保持することを意味する。
【0017】
本明細書において「細胞製剤」とは、対象に適用可能な、生細胞を含有する組成物を指す。
【0018】
「デキストラン」とは、化学式(C6H10O5)nで表される、D-グルコースからなる多糖であって、α-1,6グリコシド結合によって連結したグルコース鎖を主鎖とするもの、その誘導体、及びその塩を指す。デキストランは分岐を有していてもよい。本明細書のデキストランは、高分子量デキストランも低分子量デキストランも含む。低分子量デキストランは、典型的には、分子量の平均又は中央値が100kDa以下のものを指し、高分子量デキストランは、典型的には、分子量の平均又は中央値が100kDaを超えるものを指す。
【0019】
本明細書において「ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩を含む溶液(以下、本明細書においては、しばしば単に「溶液」と称する)」とは、ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩を含む任意の水溶液を指す。浸透圧、イオン組成、及びpHは特に限定しない。溶液の具体例としては、リンゲル液等の細胞外液補充液、低張性電解質液、末梢静脈栄養輸液、高カロリー輸液、及び代用血漿増量剤等の輸液としても使用される溶液等が挙げられる。
【0020】
「ナトリウム塩」とは、陽イオンとしてナトリウムイオンを含む化合物及びその水和物を指す。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及びそれらの水和物が含まれる。
【0021】
「カリウム塩」とは、陽イオンとしてカリウムイオンを含む化合物及びその水和物を指す。具体的には、例えば、塩化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酢酸カリウム、乳酸カリウム、ヨウ化カリウム、臭化カリウム、硫酸カリウム、グルコン酸カリウム、クエン酸カリウム及びそれらの水和物が含まれる。
【0022】
「カルシウム塩」とは、陽イオンとしてカルシウムイオンを含む化合物及びその水和物を指す。具体的には、例えば、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、酢酸カルシウム、乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸二水素カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム及びそれらの水和物が含まれる。
【0023】
「塩化物」とは、陰イオンとして塩化物イオンを含む化合物及びその水和物を指す。具体的には、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム及びそれらの水和物が含まれる。
【0024】
本明細書において「リンゲル液」とは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び塩化カルシウムを含み、細胞が生存可能な浸透圧を有する溶液を指す。リンゲル液には、典型的には、リンゲル基礎液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、及び重炭酸リンゲル液が含まれる。
【0025】
本明細書において「リンゲル基礎液」とは、リンゲル液の一種であり、ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩の全てが塩化物である溶液を指す。
【0026】
本明細書において「乳酸リンゲル液」とは、陰イオンとして乳酸イオンを含むリンゲル液を指す。典型的には、乳酸イオンを含む結果、ナトリウムイオン濃度が塩化物イオン濃度より高くなる。
【0027】
本明細書において「酢酸リンゲル液」とは、陰イオンとして酢酸イオンを含むリンゲル液を指す。典型的には、酢酸イオンを含む結果、ナトリウムイオン濃度が塩化物イオン濃度より高くなる。
【0028】
本明細書において「重炭酸リンゲル液」とは、陰イオンとして炭酸水素イオンを含むリンゲル液を指す。典型的には、炭酸水素イオンを含む結果、ナトリウムイオン濃度が塩化物イオン濃度より高くなる。
【0029】
「アルブミン」とは、アルブミンファミリーに属する球状タンパク質を指す。本明細書におけるアルブミンは、任意の恒温動物、例えば、哺乳動物及び鳥類から得られたアルブミンを含む。アルブミンは、一般に恒温動物の体液中に最も多く含まれるタンパク質としても知られる。
【0030】
本明細書において「ヒトアルブミン」とは、ヒトの生体内に存在し得るアルブミンに基づくタンパク質を指す。具体的には、例えば、ヒト血漿から調製あるいは単離したアルブミンやそのアミノ酸配列を有するよう人工的に合成されたタンパク質、又はそのアミノ酸配列に対応する遺伝子を発現する植物等の組換え体から製造されるものやそれらの変異体等が挙げられる。例えば、25%ヒト血清アルブミン、CSLベーリング(組成等は2019年10月改訂(第22版)添付文書を参照)に含有されるアルブミン及びその変異体等が含まれる。本明細書におけるヒトアルブミンは翻訳後修飾を受けたヒトアルブミン等を含む。
【0031】
「細胞」とは、生物の構成単位をいう。本明細書における生物としては、例えば、ヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコ、インコ等のペット動物、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリ等の家畜動物、マウス、ラット等の齧歯類、動物園で飼育される動物等の哺乳動物及び鳥類が挙げられる。
【0032】
本明細書において「生体組織」とは、生物の生体を構成する組織をいう。
【0033】
本明細書において「間葉系細胞」とは、中胚葉性組織を構成する全ての細胞が含まれ、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞等が挙げられるがこれらに限定されない。本発明における間葉系細胞には、間葉系間質細胞及び間葉系幹細胞も含まれる。
【0034】
「幹細胞」とは、様々な細胞への分化能、及び自己複製能を持つ細胞をいう。例えば、体性幹細胞、及び多能性幹細胞等が挙げられる。
【0035】
「体性幹細胞」とは、成体の各組織中に存在し、最終的な分化をしておらず、複数種類の細胞に分化可能な多分化能を有する複能性幹細胞をいう。
【0036】
「多能性幹細胞」とは、生体を構成するほぼ全ての種類の細胞に分化可能な多分化能を有する幹細胞をいう。
【0037】
本明細書において「間葉系幹細胞(Mesenchymal Stem Cell:MSC)」とは、以下の定義を満たす細胞を示し、中胚葉性組織に属する一種類以上の細胞に分化可能な、分化能を有する体性幹細胞を指す。本明細書における間葉系幹細胞には、任意の組織から得られた間葉系幹細胞及び体外で調製された間葉系幹細胞のいずれも含まれる。
i)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す。標準培地は、基礎培地(例:αMEM培地)に血清、血清代替試薬又は増殖因子を添加した培地である。
ii)表面抗原のCD73、CD90が陽性であり、CD45、CD326が陰性。
【0038】
本明細書において「脂肪組織」とは、生物の生体を構成する結合組織の一種であり、複数の脂肪細胞を含む組織を指す。
【0039】
本明細書において「対象」とは、本発明の細胞製剤の適用対象をいう。例えば、組織、器官又は個体である。具体的には上に例示した生物の組織、器官又は個体である。
【0040】
1-3.構成
本発明の細胞製剤用非凍結保存液は必須の構成成分としてデキストラン、及びナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩を含む溶液を含み、任意の構成成分としてアルブミンを含む。以下、具体的に説明する。
【0041】
<デキストラン>
本態様の細胞製剤用非凍結保存液は、0.5~12(w/v)%のデキストランを必須の構成成分として含む。
【0042】
本発明に使用されるデキストランの種類は特に限定しない。例えば、本発明のデキストランは、天然のデキストランであっても、天然のデキストランを加工したものであっても、人工合成したデキストランであってもよく、任意の修飾を含んでもよい。また、デキストランの由来は限定しない。例えば、化学合成、微生物、又は酵素による生産等のいずれの公知の方法で製造したものを用いることができる。市販品を用いてもよい。本発明に使用されるデキストランは、デキストランのみからなっていても、デキストラン誘導体又はデキストラン塩であっても、デキストランを含む組成物であっても、又はそれらの組合せであってもよい。
【0043】
具体的なデキストラン誘導体としては、例えば、カルボキシル化デキストラン(例えばカルボキシメチルデキストラン等)、カチオン化デキストラン(例えばジエチルアミノエチル(DEAE)-デキストラン、2-ヒドロキシプロピルトリアンモニウムデキストラン等)等が挙げられる。
【0044】
具体的なデキストランやその誘導体の塩としては、例えば、無機酸付加塩(例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、リン酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩等)、有機酸付加塩(例えばプロピオン酸塩、トルエンスルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、グリコール酸塩、メタンスルホン酸塩、酪酸塩、吉草酸塩、クエン酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩等)、塩基性塩(例えばアンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩等)、金属塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等)等が挙げられる。これらの塩は、水和物又は溶媒和物を形成していてもよい。
【0045】
具体的なデキストランを含む組成物としては、例えば、デキストラン製剤等のデキストランを含む医薬組成物(例えば、デキストラン含有注射液、デキストラン含有輸液、デキストラン含有代用血漿又は血漿増量剤等)等が挙げられる。デキストランを含む組成物として、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、デキストラン40(東京化成工業)、デキストラン70(東京化成工業)、低分子デキストランL注(10(w/v)%デキストラン含有乳酸リンゲル液)(大塚製薬工場)等が挙げられる。
【0046】
本発明に使用されるデキストランの分子量は特に限定しない。例えば、高分子量デキストラン、低分子量デキストラン及びその組合せを使用することができる。具体的には、分子量の平均又は中央値が、例えば、約10kDa~約1000kDa、約20kDa~約800kDa、約25kDa~約500kDa、約30kDa~約300kDa、約30kDa~約200kDa、約30kDa~約150kDa、約35kDa~約125kDa、約35kDa~約100kDa、約35kDa~約80kDa、又は約40kDa~約70kDaの分子量を有するデキストランであってよい。特に、例えばデキストラン40(分子量の平均又は中央値が約40kDa)やデキストラン70(分子量の平均又は中央値が約70kDa)は、低分子量デキストランとして当技術分野において広く知られており、多くの製品が存在する。分子量の異なるデキストランを組み合わせて使用する場合、その含有量比は特に限定しない。
【0047】
本態様の非凍結保存液に含まれるデキストランの濃度は、0.5~12(w/v)%であれば特に限定しない。デキストランの濃度の具体的な下限は、例えば、0.5(w/v)%以上、0.6(w/v)%以上、0.7(w/v)%以上、0.8(w/v)%以上、0.9(w/v)%以上、1(w/v)%以上、1.1(w/v)%以上、1.2(w/v)%以上、1.3(w/v)%以上、1.4(w/v)%以上、1.5(w/v)%以上、1.6(w/v)%以上、1.7(w/v)%以上、1.8(w/v)%以上、1.9(w/v)%以上、2(w/v)%以上、2.2(w/v)%以上、2.4(w/v)%以上、2.6(w/v)%以上、2.8(w/v)%以上又は3(w/v)%以上である。また、濃度の上限は、例えば、12(w/v)%以下、11(w/v)%以下、10.8(w/v)%以下、10.6(w/v)%以下、10.5(w/v)%以下、10.4(w/v)%以下、10.3(w/v)%以下、10.2(w/v)%以下、10.1(w/v)%以下、10(w/v)%以下、9.9(w/v)%以下、9.8(w/v)%以下、9.5(w/v)%以下、9(w/v)%以下、8.5(w/v)%以下、8(w/v)%以下、7.5(w/v)%以下、7.4(w/v)%以下、7.2(w/v)%以下、7.1(w/v)%以下、7(w/v)%以下、6.9(w/v)%以下、6.8(w/v)%以下、6.5(w/v)%以下、6(w/v)%以下、5.8(w/v)%以下、5.7(w/v)%以下、5.5(w/v)%以下、5.4(w/v)%以下、5.2(w/v)%以下、5.1(w/v)%以下、5(w/v)%以下、4.9(w/v)%以下、4.5(w/v)%以下又は4(w/v)%以下である。
【0048】
ここで、デキストラン誘導体、デキストラン塩又はデキストランを含む組成物を使用する場合には、デキストラン濃度はデキストランの重量に換算して考えるものとする。
【0049】
<溶液>
本態様の細胞製剤用非凍結保存液は、必須の構成成分として、ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩を含む溶液を含む。
【0050】
本発明に使用されるナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩の種類は特に限定しない。それぞれの塩は、一種類の塩からなってもよく、複数種類の塩からなってもよい。それぞれの塩の具体例は定義にて上述した通りであるが、それらに限定されない。
【0051】
溶液に含まれる塩として、さらに塩化物を含むことができる。ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩のいずれでもない塩として塩化物を含んでも、それらの塩の一以上が塩化物を含んでも、それらの塩全てが塩化物を含んでもよい。また、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩及び前記カルシウム塩のいずれか一以上が塩化物であってもよい。塩化物の具体例は定義にて上述した通りであるが、それらに限定されない。
【0052】
ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及び塩化物は、デキストランと独立して溶液中に含むことができるが、少なくともその一部をデキストラン塩として溶液中に含んでもよい。具体的には、例えば、デキストランナトリウムを含む場合、デキストランナトリウム及びその他のナトリウム塩の濃度を合わせてナトリウム塩濃度を換算することができる。
【0053】
溶液に含まれるナトリウム塩及び塩化物の濃度はいずれも特に限定しないが、それぞれ、例えば、30mmol/L以上、35mmol/L以上、40mmol/L以上、45mmol/L以上、50mmol/L以上、60mmol/L以上、70mmol/L以上、75mmol/L以上、77mmol/L以上、80mmol/L以上、85mmol/L以上、90mmol/L以上、100mmol/L以上、109mmol/L以上、110mmol/L以上、115mmol/L以上、120mmol/L以上、125mmol/L以上、126mmol/L以上、127mmol/L以上、128mmol/L以上、129mmol/L以上、又は130mmol/L以上である。また、ナトリウム塩の濃度の上限は、例えば、160mmol/L以下、155mmol/L以下、154mmol/L以下、150mmol/L以下、147.5mmol/L以下である。また、塩化物の濃度の上限は、例えば、180mmol/L以下、170mmol/L以下、165mmol/L以下、160mmol/L以下である。溶液中のナトリウム塩及び塩化物の電解質濃度は、それぞれ1mmol/L=1mEq/Lにより算出することができる。
【0054】
溶液に含まれるカリウム塩の濃度は特に限定しないが、例えば、0.5mmol/L以上、1mmol/L以上、1.5mmol/L以上、2mmol/L以上、2.5mmol/L以上、3mmol/L以上、3.5mmol/L以上である。また、カリウム塩の濃度の上限は、例えば、40mmol/L以下、35mmol/L以下、30mmol/L以下、25mmol/L以下、20mmol/L以下、15mmol/L以下、10mmol/L以下、8mmol/L以下、7.5mmol/L以下、7mmol/L以下、6mmol/L以下、又は5mmol/L以下である。溶液中のカリウム塩の電解質濃度は、1mmol/L=1mEq/Lにより算出することができる。
【0055】
溶液に含まれるカルシウム塩の濃度は特に限定しないが、例えば、0.1mmol/L以上、0.5mmol/L以上、又は1mmol/L以上である。また、カルシウム塩の濃度の上限は、例えば、10mmol/L以下、8mmol/L以下、7mmol/L以下、6mmol/L以下、5mmol/L以下、4mmol/L以下、3mmol/L以下、2.5mmol/L以下である。溶液中のカルシウム塩の電解質濃度は、1mmol/L=2mEq/Lにより算出することができる。
【0056】
溶液に含まれるナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩の濃度比は特に限定しない。ナトリウム塩の電解質濃度は、例えば、カルシウム塩を1とした場合に10~100、20~90、30~80、35~70、36~60、36.5~50、37~49、40~48、42~47、又は43~46.7である。また、カリウム塩の電解質濃度は、例えば、カルシウム塩を1とした場合に0.1~10、0.25~7.5、0.5~7、0.6~5、0.7~4、0.8~3、0.875~2、0.9~1.75、1~1.6、1.1~1.5、又は1.2~1.4である。
【0057】
塩化物とナトリウム塩の濃度比は特に限定しないが、例えば、塩化物イオンの濃度は、ナトリウムイオン濃度を1とした場合に0.5~1.5、0.75~1、0.8~1.09、0.81~1.08、0.82~1.07、又は0.83~1.06である。
【0058】
溶液のpHは、保存する細胞が生存可能であれば特に限定しない。具体的なpHは、例えば、3.5~8.5、4~8、4.5~7.5、又は5~7.5である。
【0059】
溶液の浸透圧は、保存する細胞が生存可能であれば特に限定しない。例えば、低張液(250mOsm/L未満)、等張液(250~380mOsm/L)、又は高張液(380mOsm/Lを超える)であることができる。具体的な浸透圧は、例えば、150mOsm/L~750mOsm/L、200mOsm/L~700mOsm/L、250mOsm/L~650mOsm/L、250mOsm/L~610mOsm/L、250mOsm/L~550mOsm/L、250mOsm/L~500mOsm/L、250mOsm/L~450mOsm/L、250mOsm/L~400mOsm/L、250mOsm/L~250mOsm/L、250mOsm/L~350mOsm/L、250mOsm/L~310mOsm/L、250mOsm/L~300mOsm/L、250mOsm/L~280mOsm/L、又は250mOsm/L~270mOsm/Lである。浸透圧は、生理食塩水(例えば、306mOsm/L)との浸透圧比で表されてもよい。
【0060】
溶液の粘度は、保存する細胞が生存可能であれば特に限定しない。例えば、細胞の懸濁及び/又は保存時の温度において8mPas以上であることが好ましく、18mPas以下であることが好ましい。非凍結保存液の粘度は、例えば、TV-20形粘度計(東機産業社)を用いて回転数10rpmで測定することができる。
【0061】
また、溶液は、これらの塩以外に、任意の他の塩を追加で含むことができる。具体的には、例えば、乳酸塩、酢酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸一水素塩、リン酸二水素塩、硫酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、コハク酸塩、塩酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、ホウ酸塩、マグネシウム塩、亜鉛塩及びその水和物等が挙げられる。
【0062】
本発明の溶液は、自ら調製したものであっても、市販のものであってもよい。本発明の溶液として利用可能な成分の具体例は上述した通りであるが、これらに限定されない。例えば、溶液として好ましくはリンゲル液を使用することができる。リンゲル液は、典型的には、ナトリウム塩、カリウム塩及びカルシウム塩の全てが塩化物を含み、浸透圧が150~750mOsm/L(例えば、260mOsm/L)、pHが3.5~8.5であり、ナトリウム塩の電解質濃度が125~150mEq/L、カリウム塩及びカルシウム塩の電解質濃度がそれぞれ2.5~5mEq/L、塩化物の電解質濃度が105~160mEq/Lの溶液である。また、溶液として、リンゲル基礎液や、ナトリウム塩濃度が塩化物濃度より高いリンゲル液、例えば、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、又はそれらの組合せを使用することができる。市販のものとしては、実施例において使用しているものの他、例えば、リンゲル液「フソー」(扶桑薬品工業(組成等は2011年3月改訂(第7版)添付文書を参照))等のリンゲル基礎液、ニソリ輸液(ファイザー(組成等は2013年1月改訂(第10版)添付文書を参照))、ラクテックD輸液(大塚製薬工場(組成等は2012年4月改訂(第9版)添付文書を参照))又はラクトリンゲルS注「フソー」(扶桑薬品工業(組成等は2012年4月改訂(第12版)添付文書を参照))等の乳酸リンゲル液、ヴィーン(登録商標)D輸液(扶桑薬品工業(組成等は2017年8月改訂(第2版)添付文書を参照))又はフィジオ140輸液(大塚製薬工場(組成等は2011年4月改訂(第9版)添付文書を参照))等の酢酸リンゲル液、ビカネイト(登録商標)輸液(大塚製薬工場(組成等は2011年4月改訂(第2版)添付文書を参照))又はビカーボン輸液(陽進堂(組成等は2016年10月改訂(第3版)添付文書を参照))等の重炭酸リンゲル液を挙げることができる。
【0063】
<アルブミン>
本発明の細胞製剤用非凍結保存液は、任意の成分としてアルブミンをさらに含む。
【0064】
本発明に使用されるアルブミンの種類は特に限定しない。例えば、天然のアルブミンであっても、天然のアルブミンを加工したものであっても、人工合成したアルブミンであってもよい。アルブミンの由来は限定しない。例えば、哺乳動物及び鳥類の体液に由来することができる。また、アルブミンは、例えば、上に例示した生物、対象と同種生物又はその組合せに由来してもよい。具体的には、ヒトアルブミンを使用することができる。
【0065】
アルブミンは、化学合成、動物による生産、遺伝子組換え生物による生産等の公知の方法で製造したものを用いてもよく、市販品を用いてもよい。本発明に使用されるアルブミンは、タンパク質のみからなっても、翻訳後修飾等の修飾を受けたものであっても、アルブミンを含む組成物であっても、又はそれらの組合せであってもよい。
【0066】
天然のアルブミンが動物由来の抽出物の場合、典型的には、動物の体液に由来する。体液の種類は特に限定しないが、例えば、血液(血清、血漿及び間質液を含む)、リンパ液、髄液、各組織又は細胞の抽出液、又はその組合せ等が挙げられる。具体的には、例えば、血清アルブミン、より具体的にはヒト血清アルブミンを使用することができる。アルブミンが血液から得られる場合、血液の種類は特に限定しない。具体的には、例えば、全血、動脈血、静脈血、臍帯血、末梢血等が挙げられる。
【0067】
アルブミンの濃度は特に限定しない。例えば、15(w/v)%以下の濃度でよい。アルブミンの濃度の下限は、例えば、0.05(w/v)%以上、0.07(w/v)%以上、0.09(w/v)%以上、0.1(w/v)%以上、0.15(w/v)%以上、0.2(w/v)%以上、0.25(w/v)%以上、0.3(w/v)%以上、0.35(w/v)%以上、0.4(w/v)%以上、0.45(w/v)%以上、0.5(w/v)%以上、0.55(w/v)%以上、0.6(w/v)%以上、0.7(w/v)%以上、0.8(w/v)%以上、0.9(w/v)%以上、1(w/v)%以上、1.2(w/v)%以上、1.5(w/v)%以上、1.8(w/v)%以上、2(w/v)%以上、2.5(w/v)%以上、 3(w/v)%以上、3.5(w/v)%以上である。また、濃度の上限は、例えば、20(w/v)%以下、15(w/v)%以下、14(w/v)%以下、13.5(w/v)%以下、13(w/v)%以下、12(w/v)%以下、11(w/v)%以下、10.5(w/v)%以下、10.25(w/v)%以下又は10.1(w/v)%以下である。
【0068】
ここで、アルブミンを含む組成物を使用する場合には、アルブミン濃度はアルブミンの重量に換算して考えるものとする。
【0069】
本発明の非凍結保存液は、任意の糖をさらに含むことができる。具体的には、例えば、グルコース、スクロース、フルクトース、ソルビトール、マルトース、トレハロース、混合糖(例えばGFX等)又はその組合せ等が挙げられる。ただし、本発明の非凍結保存液は特定の糖、例えば、トレハロースの含有量が低いことが好ましく、例えばトレハロースの含有量として、1.5(w/v)%以下、1(w/v)%以下、0.5(w/v)%以下、0.1(w/v)%以下、0.05(w/v)%以下であり、より好ましくはトレハロース非含有である。
【0070】
本発明の非凍結保存液は、安定剤(例えば、ポリエチレングリコール等)、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、キレート剤(例えば、EDTA、EGTA、クエン酸、サリチレート)、アミノ酸(例えば、グルタミン、アラニン、アスパラギン、セリン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、チロシン、ナイアシン等の非必須アミノ酸)、ビタミン類(例えば、塩化コリン、パントテン酸、葉酸、ニコチンアミド、塩酸ピリドキサル、リボフラビン、塩酸チアミン、アスコルビン酸、ビオチン、イノシトール等)、溶解補助剤、保存剤、酸化防止剤等の添加物を必要に応じて適宜含んでいてもよい。ここで、本発明の非凍結保存液は特定の添加剤、例えば、ナイアシンの含有量が低いことが好ましく、例えばナイアシンの含有量として、0.5(w/v)%以下、0.1(w/v)%以下、0.05(w/v)%以下であり、より好ましくはナイアシン非含有である。
【0071】
本発明の非凍結保存液は細胞製剤用の細胞保存液である。そのため、対象個体又は細胞等に有害な成分を含まないか、有害な影響を示さない量で含むことが好ましい。例えば、薬学的に許容可能な成分のみを含んでもよい。具体的には、例えば、凍結保護剤非含有であることが好ましい。
【0072】
「凍結保護剤」とは、凍結保存の際に氷の結晶の生成を抑制する作用を持つ化合物をいう。本明細書における凍結保護剤は凍結防止剤や抗凍結剤を含む。具体的な凍結保護剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide;DMSO)、グリセリン、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ジメチルアセトアミド、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。例えば、本発明の非凍結保存液はDMSO非含有であることが好ましい。
【0073】
本発明の非凍結保存液は、希釈して使用されるために高濃度で提供されてもよい。この場合、上述した濃度となるように希釈された上で細胞の保存に使用される。
【0074】
本発明の非凍結保存液は、無菌状態であってもよい。無菌状態か否かの判断は、例えば、当技術分野において公知の無菌試験により判断することができる。具体的には、例えば、製品サンプルの増殖培地への直接の接種や、製品サンプルをろ過したメンブレンフィルター等の増殖培地への接種等が挙げられる。無菌状態を達成する方法については第4態様に記載の通りである。
【0075】
1-4.用途
本発明の細胞製剤用非凍結保存液は、細胞の保存に使用される。
【0076】
本発明の保存対象となる細胞の由来は特に限定しない。細胞は、任意の一以上の生物、例えば、定義の項に例示した生物に由来することができる。例えば、本発明の非凍結保存液は、哺乳動物細胞用又はヒト細胞用であってもよい。
【0077】
また、保存対象となる細胞の種類は特に限定しない。例えば、生体組織に由来する細胞、生体組織に由来する細胞から派生した細胞、幹細胞、幹細胞から分化した細胞、又はその組合せが挙げられる。対象として間葉系細胞を使用する場合、本発明の非凍結保存液は間葉系細胞用であると称することができる。また、例えば、本発明の非凍結保存液を間葉系幹細胞用とすることもできる。保存対象となる細胞については、以下の第2態様において詳述する。
【0078】
本発明の細胞製剤用非凍結保存液を用いた細胞の保存方法、保存期間、及び保存温度は非凍結保存であれば特に限定しないが、例えば、第4態様の記載内容に準ずることができる。ただし、本発明の非凍結保存液をそのまま、つまり、細胞を含まない状態で保存する場合には凍結保存が可能である。
【0079】
2.細胞製剤
2-1.概要
本発明の第2の態様は細胞製剤である。本発明の細胞製剤は、必須の構成成分として細胞製剤用非凍結保存液及び細胞を含む。本発明の細胞製剤によれば、細胞製剤中の細胞を所望の目的に利用可能な状態を維持することができる。
【0080】
2-2.構成
2-2-1.構成成分
本発明の細胞製剤の構成成分について説明する。本発明の細胞製剤は、必須の構成成分として第1態様に記載の細胞製剤用非凍結保存液及び細胞を含み、任意選択可能な構成成分として担体を含む。以下、各構成成分について具体的に説明をする。
【0081】
(1)必須の構成成分
細胞製剤用非凍結保存液については第1態様において詳述したため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0082】
本発明に使用される細胞の由来は特に限定しない。細胞は、任意の一以上の生物、例えば、第1態様の定義の項に例示した生物に由来することができる。例えば、哺乳動物細胞、ヒト細胞、適用対象と同種生物由来の細胞、適用対象個体由来の細胞又はその組合せを使用することができる。
【0083】
本発明に使用される細胞の種類は特に限定しない。例えば、生体組織に由来する細胞、生体組織に由来する細胞から派生した細胞、幹細胞、幹細胞から分化した細胞、又はその組合せ等が挙げられる。
【0084】
例えば、生体組織に由来する細胞としては、上皮組織由来細胞、結合組織由来細胞、筋組織由来細胞、神経組織由来細胞、又はその組合せ等が挙げられる。また、例えば、結合組織由来細胞及び筋組織由来細胞等は、間葉系細胞とまとめて呼ぶことができる。
【0085】
間葉系細胞を使用する場合、例えば、骨髄、脂肪組織、臍帯、胎盤、滑膜、関節液、歯髄、心臓等に由来する細胞を使用することができる。具体的な間葉系細胞としては、例えば、皮膚線維芽細胞、骨芽細胞、腱・靱帯線維芽細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、腱細胞、心筋細胞、平滑筋細胞、骨格筋細胞、ムチン産生細胞、内分泌腺由来の細胞(例えば、β島細胞等のインスリン産生細胞)等が挙げられる。また、例えば、結合組織の一つである血液の場合、血球は他の間葉系細胞とは異なり造血幹細胞から分化した細胞であるが、本明細書においてはこれらも間葉系細胞として扱う。具体的には、例えば、樹状細胞、単球、ナチュラルキラー(NK)細胞、T細胞(例えば、アルファ・ベータ(αβ)T細胞、ガンマ・デルタ(γδ)T細胞、細胞障害性T細胞(cytotoxic T lymphocyte;CTL)、ヘルパーT細胞等)、B細胞、マクロファージ、好中球、好酸球等も間葉系細胞に含まれるものとする。また、これら間葉系細胞は、例えば後述する多能性幹細胞から分化したものであってもよく、具体的にはiPS細胞由来の心筋細胞、軟骨細胞、神経細胞等であってもよい。
【0086】
幹細胞を使用する場合、例えば、体性幹細胞、多能性幹細胞、又はその組合せ等を使用することができる。体性幹細胞としては、例えば、間葉系幹細胞、神経幹細胞、腸管上皮幹細胞、毛包幹細胞、乳腺幹細胞、色素幹細胞等が挙げられる。多能性幹細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞:embryonic stem cell)、胚性生殖幹細胞(EG細胞:embryonic germ cell)、生殖系幹細胞(GS細胞:Germline stem cell)、及び人工多能性幹細胞(iPS細胞:induced pluripotent stem cell)等が挙げられる。
【0087】
幹細胞、特に体性幹細胞を使用する場合、細胞の由来する組織は特に限定しない。例えば、間葉系幹細胞のように多様な組織に存在する幹細胞の場合、いずれの組織に由来する細胞を使用してもよく、また、複数種類の組織に由来する細胞を組み合わせて使用してもよい。間葉系幹細胞が由来し得る組織としては、間葉系細胞について例示した組織を挙げることができる。具体的には、例えば、間葉系幹細胞は結合組織由来であってもよく、脂肪組織由来であってもよい。
【0088】
細胞集団を細胞の種類で称する場合、含まれる細胞全てがその種類である必要はなく、その種類の細胞を含むことを指すものとする。また、細胞集団が複数種類の組織に由来する細胞を含む場合、いずれかの組織の名称を代表として用いて、その細胞集団を称することができる。例えば、細胞集団を脂肪組織由来の間葉系細胞と称する場合、その細胞集団は脂肪組織由来の間葉系細胞を含めばよく、他の組織由来の間葉系細胞を含んでも、他の細胞種を含んでもよい。
【0089】
本態様の細胞製剤に使用する細胞には、保存液と接触させる以前に任意の処理を施すことができる。具体的な処理は特に限定しないが、例えば、凍結、融解、培養、洗浄、選別、形質転換、遺伝子操作、又はその組合せ等が挙げられる。
【0090】
本態様の細胞製剤中の細胞の状態は、単一細胞の状態であってもよいし、スフェロイド等の細胞塊の状態であってもよい。好ましくは、単一細胞の状態である。本明細書において「単一細胞の状態」とは、細胞が単体で存在し、凝集していない状態を意味する。細胞を単一細胞の状態にする方法は特に限定しない。例えば、第4態様に記載の分散方法を使用することができる。細胞製剤中の全細胞中の単一細胞の状態の細胞の割合は、例えば、70%以上、90%以上、95%以上、99%以上、又は100%である。細胞製剤中の単一細胞の状態の細胞の割合は、任意の方法を用いて測定することができる。例えば、細胞を緩衝液(例えば、PBS)中に分散させ、無作為に選択された複数個の細胞について、顕微鏡下で観察して凝集の有無を調べることにより測定することができる。
【0091】
細胞製剤中の細胞は、浮遊していても、容器の内壁等に接触していてもよい。好ましくは浮遊している。本明細書において「浮遊」とは、細胞が、細胞製剤を入れた容器の内壁に接着等によって固定されていないことをいう。例えば、細胞製剤中の全細胞中の浮遊している細胞の割合は、例えば、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、90%以上、95%以上、99%以上、又は100%である。
【0092】
本発明の細胞製剤に含まれる単位用量あたりの細胞数は、特に限定はしない。一般に細胞数は、細胞の種類、投与経路、投与目的、及び後述する他の構成成分である担体の種類によって異なる。したがって、それぞれの条件を勘案して適宜定めればよい。例えば、単回適用量の細胞製剤に十分な細胞数が含有されていればよい。具体的な単位用量あたりの細胞数は特に限定しないが、例えば、1×103~1×1011個/mLである。具体的には、例えば、1×104~1×1010個/mL、1×105~1×109個/mL、1×106~7.5×108個/mL、2×106~5×108個/mL、4×106~4×108個/mL、5×106~2×108個/mL、又は7.5×106~1.5×108個/mLである。複数回に分けて投与する場合には、総合量で十分な数の細胞を含んでいればよい。また、本発明の細胞製剤を希釈して投与する場合、希釈後の製剤が所望の効果を得る上で十分な数の細胞を含んでいればよい。
【0093】
(2)担体
本発明の細胞製剤は、必要に応じて薬学的に許容可能な担体を含むことができる。「薬学的に許容可能な担体」とは、製剤技術分野において通常使用する添加剤をいう。例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、流動添加調節剤、滑沢剤等が挙げられる。
【0094】
賦形剤には、例えば、単糖、二糖類、シクロデキストリン及び多糖類のような糖、金属塩、クエン酸、酒石酸、グリシン、ポリエチレングリコール、プルロニック、カオリン、ケイ酸、又はそれらの組合せが挙げられる。
【0095】
結合剤には、例えば、植物デンプンを用いたデンプン糊、ペクチン、キサンタンガム、単シロップ、グルコース液、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック、パラフィン、ポリビニルピロリドン又はそれらの組合せが挙げられる。
【0096】
崩壊剤としては、例えば、前記デンプンや、乳糖、カルボキシメチルデンプン、架橋ポリビニルピロリドン、アガー、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、アルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド又はそれらの塩が挙げられる。
【0097】
乳化剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが例として挙げられる。
【0098】
流動添加調節剤及び滑沢剤としては、ケイ酸塩、タルク、ステアリン酸塩又はポリエチレングリコールが例として挙げられる。
【0099】
上記の他にも、必要であれば医薬組成物や細胞製剤等において通常用いられる可溶化剤、懸濁剤、希釈剤、分散剤、界面活性剤、無痛化剤、安定剤、吸収促進剤、増量剤、付湿剤、保湿剤、湿潤剤、吸着剤、矯味矯臭剤、崩壊抑制剤、コーティング剤、着色剤、保存剤、防腐剤、抗酸化剤、緩衝剤、pH調節剤、等張化剤等を適宜含むこともできる。
【0100】
担体は、対象の体内で酵素等による前記有効成分の分解を回避又は抑制する他、製剤化や投与方法を容易にし、剤形及び薬効を維持するために用いられるものであり、必要に応じて適宜使用すればよい。
【0101】
本発明の細胞製剤は、好ましくは無菌状態である。無菌状態の確認方法については第1態様に記載の通りである。また、無菌状態を達成する方法については第4態様に記載の通りである。
【0102】
2-2-2.剤形
本発明の細胞製剤の剤形は、液剤である。液剤には、流動性を有する任意の製剤が含まれる。具体的には、例えば、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、注射剤、懸濁液剤等が挙げられる。具体的な容量等については、いずれもそれぞれの剤形において当技術分野で公知の範囲内にあればよく、特に限定はしない。本発明の細胞製剤の製造方法については、当技術分野の常法に従って製剤化すればよい。
【0103】
2-3.適用方法
本発明の細胞製剤の適用方法は非経口投与である。非経口投与は、さらに全身投与と局所投与に細分できる。局所投与には、例えば、皮下経路、皮内経路、静脈内経路、筋肉内経路、関節内経路、滑液嚢内経路、髄腔内経路、病巣内経路、頭蓋内経路、組織投与、及び器官投与が該当し、非経口投与の全身投与には、循環器内投与(例えば静脈内投与(静注)、動脈内投与及びリンパ管内投与)、腹腔内投与、経直腸投与、鼻内投与、頬内投与、膣内投与等が挙げられる。例えば、本発明の細胞製剤は局所投与することができるが、その場合には、例えば、注射等で目的の部位(口腔内を含む)に直接投与することができる。また、例えば、適用時に、クリーム、軟膏、ゲル、懸濁液又は任意の他の適切な物質中に含ませて使用することもできる。全身投与する場合には、例えば、静注等の循環器内への投与を行うことができる。投与量は、細胞が奏効する上で有効な量であればよい。有効量は、前述のように対象の情報に応じて適宜選択される。例えば、ホーミングの能力を有する細胞(例えば、間葉系幹細胞等)を使用する場合、特定の部位への投与を目的とする場合であっても、単なる全身投与により、細胞を目的の部位に送達し得る場合がある。
【0104】
本発明の細胞製剤の適用方法や適用量は対象の情報によっても変わり得る。本明細書において「対象の情報」とは、対象の特徴や状態に関する様々な情報である。例えば、対象がヒト個体の場合には、年齢、体重、性別、全身の健康状態、疾患の有無、疾患の進行度や重症度、薬剤感受性、併用薬物の有無及び治療に対する耐性等が挙げられる。
【0105】
本発明の細胞製剤は適用前に保存することができる。具体的な保存方法、保存期間、及び保存温度は非凍結保存であれば特に限定しないが、例えば、第4態様の記載内容に準ずることができる。
【0106】
また、本発明の細胞製剤は、そのまま対象に適用する必要はない。具体的には、例えば、本発明の細胞製剤を含むリザーバーの移植によって、又は細胞製剤をさらに培養する等して形成された組織の移植によって適用することができる。さらなる培養は、細胞数の増加、細胞の分化、形質転換、細胞への遺伝子導入等を目的として行うことができる。
【0107】
また、本発明の細胞製剤は、一種類以上の公知の細胞製剤と併用することもできる。
【0108】
2-4.適用対象
本発明の細胞製剤の適用対象は特に限定しない。例えば、第1態様の定義の項に例示した生物の組織、器官又は個体に適用することができる。
【0109】
本発明の細胞製剤の適用対象は健常であっても、何らかの疾患又は状態に罹患していてもよい。疾患及び状態としては、例えば、がん、白血病、血管系疾患、幹細胞疲弊疾患、骨疾患、軟骨疾患、虚血性疾患、神経病、やけど、慢性炎症、虚血性心筋症や拡張型心筋症といった心疾患、免疫不全、クローン病、糖尿病、関節症、顔面脂肪萎縮症、乳房切除、瘢痕、しみ、しわ、たるみ等が挙げられる。
【0110】
また、適用目的は特に限定しない。例えば、疾患及び状態の改善、治療及び予防、及び美容整形等の目的で使用することができる。具体的には、例えば、組織陥没症等の組織増大のため、若しくは変形性膝関節症の治療のための再生医療、T細胞療法、NKT細胞療法、樹状細胞移入療法等の免疫療法、遺伝子導入した細胞を用いる遺伝子療法、豊胸、乳房再建、しわ取り、しみ取り、その他細胞移植療法等が挙げられる。具体的には、例えば、本発明の細胞製剤は、脂肪と混ぜて患者(例えば、乳房切除を受けた患者等、乳房再建を必要とする患者)に投与することにより、乳房再建のために使用することもできる。
【0111】
本発明の細胞製剤の適用によって、適用した細胞の少なくとも一部は対象中で内在細胞と同様に機能し得る。
【0112】
3.細胞投与用デバイス
3-1.概要
本発明の第3の態様は細胞投与用デバイスである。本発明の細胞投与用デバイスは、必須の構成要素として細胞製剤及び容器を含む。本発明の細胞投与用デバイスによれば、細胞製剤中の細胞を細胞投与に即時利用可能な状態で提供することができる。
【0113】
3-2.構成
本発明の細胞投与用デバイスの構成について説明する。本発明の細胞投与用デバイスは、必須の構成要素として細胞製剤及び容器を含む。以下、各構成成分について具体的に説明をする。
【0114】
細胞製剤については第2態様において詳述したため、ここでの詳細な説明は省略する。
【0115】
容器は、細胞投与に使用可能な容器であれば特に限定しない。具体的には、例えば、ボトル、バイアル、試験管、シリンジ、及び輸液バッグ等の可塑性のバッグ等が挙げられる。容器中の細胞製剤は無菌状態であることが好ましい。また、容器は外環境から微生物が移入しない容器であることが好ましい。具体的には、例えば、密封された容器、開口部にフィルター及び/又は弁の付いた容器等が挙げられる。
【0116】
容器には、カテーテル又は滅菌チューブ等のチューブ、鋭針又は鈍針等の針、又はキャップ等が接続されていてもよい。
【0117】
前記容器には細胞情報及び/又は被検体情報が付されることが好ましい。ここで、「細胞情報」とは、細胞投与用シリンジ中に含まれる治療用細胞の種類、株、性質、起源、由来等に関する情報であって、細胞の同定に有用な情報を意味し、「被検体の情報」とは治療用細胞の懸濁液の投与を受ける被検体の氏名、年齢、性別、疾患名等に関する情報であって、被検体の同定に有用な情報を意味する。これにより、細胞製剤を投与されるべき被検体に確実に投与することが可能となる。
【0118】
容器に含まれる細胞製剤の量は特に限定しない。例えば、容器の容量に応じて、又は適用対象、使用態様、投与経路等に応じて決定することができる。具体的には、例えば、容器の容量の40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上又は100%の量含むことができる。また、例えば、1回用量の0.25倍以上、0.5倍以上、1倍以上、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、又は10倍以上の量含むことができる。
【0119】
本発明の細胞投与用デバイスは、そのまま細胞の投与に使用することができるが、追加の操作を行ってもよい。追加の操作としては、例えば、デバイス内の気体の除去、デバイス温度の平衡化、デバイス内の細胞製剤の再懸濁、溶媒及び/又は成分の添加等が挙げられる。
【0120】
細胞の投与は、任意の目的で使用することができる。具体的には、例えば、再生医療、免疫療法、遺伝子療法、細胞移植療法等のために使用することができる。
【0121】
4.細胞の維持方法
4-1.概要
本発明の第4の態様は細胞の維持方法である。本態様の方法は、懸濁工程及び保存工程を必須工程として含み、分散工程を任意工程として含む。本態様の方法によれば、細胞を非凍結条件下で、かつ高い細胞生存率で維持することができる。
【0122】
4-2.構成
4-2-1.分散工程
「分散工程」は、任意工程であり、細胞培養後の培養容器等から細胞を剥離する及び/又は互いに結合した細胞を分散させる工程である。剥離方法及び分散方法は特に限定しない。当技術分野において公知の方法を用いればよい。例えば、機械的方法及び化学的方法等が挙げられるが、そのいずれも使用することができる。機械的方法としては、例えば、容器に物理的な衝撃を与える方法、セルスクレーパー等の機器を用いた方法が挙げられる。化学的方法としては、トリプシン、コラゲナーゼ等のタンパク質分解酵素、EDTA等のキレート剤、尿素等のその他の化合物を用いた方法が挙げられる。
【0123】
4-2-2.懸濁工程
「懸濁工程」は、必須工程であり、第1態様に記載の非凍結保存液に細胞を懸濁する工程である。分散工程を行う場合、本工程は、分散工程と同時又はその後に行うことができる。
【0124】
非凍結保存液及び細胞については第1態様及び第2態様の記載に準ずる。
【0125】
細胞の非凍結保存液への懸濁に使用される方法は特に限定しない。例えば、通気、液体の環流、その他の機械的撹拌により懸濁することができる。具体的な方法としては、例えば、ピペッティングやタッピング等の方法が挙げられる。
【0126】
懸濁後の液中の細胞の状態(単一細胞の状態か否か、及び浮遊しているか否か等)は、第2態様の記載に準ずる。
【0127】
本工程により調製された細胞懸濁液は、第2態様に記載の細胞製剤として使用することができる。そのため、本工程を第2態様に記載の細胞製剤の生産方法として使用することができる。
【0128】
本工程実施時の温度や湿度等のその他の条件は特に限定しない。好ましくは、本工程は無菌条件下で実施されるか、滅菌処理を含む。
【0129】
無菌条件とは、所望の時間、対象物を無菌状態に保つことができる条件を指す。また、無菌状態とは、生存可能な微生物(菌、細菌、ウイルス等を含む)を実質的に含まないことを指す。無菌状態であることの確認方法は、第1態様に記載の通りである。
【0130】
目的の細胞を死滅させない限り、無菌状態を達成する方法は特に限定しない。例えば、無菌操作法を使用することができる。無菌操作法は、製品の製造過程を無菌条件下で行うか、製造過程が滅菌処理を含む方法である。
【0131】
無菌条件は、任意の公知の方法により達成することができ、使用される方法は特に限定しない。具体的には、例えば、クリーンベンチ、アイソレータ、無菌作業室、アクセス制限バリアシステム又はこれらの組合せによって達成することができる。
【0132】
使用される滅菌処理は、本発明の目的が達成される程度に対象物中の微生物を死滅又は除去可能であれば、特に限定しない。例えば、エタノール及び次亜塩素酸ナトリウム等による薬液滅菌、高圧蒸気滅菌や乾熱滅菌等の加熱滅菌、オゾンガス、酸化エチレンガス及びプラズマ化過酸化水素ガス等によるガス滅菌、紫外線、ガンマ線及び電子線による放射線滅菌、滅菌ろ過等を使用することができる。滅菌には、例えば、殺菌も含まれる。滅菌法は、一般に、微生物の種類、汚染状況、滅菌される対象物の性質及び状態に応じて、適切な方法及び条件を選択することができる。例えば、日本の厚生労働省から提供される「最終滅菌法による無菌医薬品の製造に関する指針」及び「無菌操作法による無菌医薬品の製造に関する指針」、及び世界保健機関(WHO)から提供される「WHO good manufacturing practices for sterile pharmaceutical products」等を参考にしてもよい。
【0133】
4-2-3.保存工程
「保存工程」は、0℃~37℃の温度下で保存する工程である。本工程は懸濁工程と同時に又はその後に行うことができる。
【0134】
保存温度は、細胞懸濁液が凍結せず、細胞が生存可能な温度であれば特に限定しない。具体的には、例えば、0~37℃、0~30℃、0~25℃、0~20℃、0~17℃、0~15℃、0~14℃、0~13℃、0~12℃、0~11℃、0~10℃、0.1~9℃、0.2~8℃、0.5~7℃、1~6℃、1.5~5℃、又は2~5℃で保存することができる。保存温度は一定でなくてもよい。例えば、保存中に意図して保存温度を変更しても、自然に温度が変化してもよい。
【0135】
保存期間は特に限定しない。例えば、4時間以上、6時間以上、8時間以上、10時間以上、12時間以上、18時間以上、1日以上、2日以上、3日以上、4日以上保存することができる。また、保存期間の上限は、例えば、30日以下、25日以下、20日以下、16日以下、15日以下、14日以下、10日以下、7日以下、6日以下、5日以下である。
【0136】
保存中に、細胞及び/又は細胞懸濁液に任意の処理を施すことができる。具体的には、例えば、混和、化学的及び物理的刺激の付与、運搬、輸送、貯蔵等が挙げられるが、これに限定されない。保存中に細胞懸濁液に微生物が移入しないことが好ましい。例えば、微生物が外環境から移入しない容器を使用して、又は無菌条件下で保存を行うことができる。
【0137】
本発明の維持方法によれば、細胞の保存中に細胞生存率が高く維持される。細胞生存率は、例えば、トリパンブルー染色法、TUNEL法、Nexin法、FLICA法、細胞計数機器を用いた方法及びそれらの組合せ等の細胞死を検出できる公知の方法を用いて計数することができる。
【0138】
細胞生存率は、例えば、公知の非凍結細胞保存液(例えば、生理食塩水等)中で保存した場合と比較して、本発明の非凍結保存液を用いた場合に、特定の期間保存した後の細胞生存率が高くなる。具体的な期間は、例えば、24時間、48時間、72時間、又は96時間である。また、例えば、特定の期間保存した後の細胞生存率は、例えば、保存開始時の細胞生存率に対して80%以上、85%以上、90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、95.5%以上、96%以上、96.5%以上、97%以上、又は97.5%以上である。
【0139】
5.細胞投与用デバイスの製造方法
5-1.概要
本発明の第5の態様は細胞投与用デバイスの製造方法である。本態様の方法は、懸濁工程及び充填工程を必須工程として含み、分散工程及び/又は保存工程を任意工程として含む。本態様の方法によれば、第3態様に記載の細胞投与用デバイスを生産することができる。
【0140】
5-2.構成
5-2-1.分散工程
「分散工程」は、任意工程であり、培養容器等から細胞を剥離する及び/又は互いに結合した細胞を分散させる工程である。
【0141】
本工程の基本的方法は、第4態様に記載の分散工程に準ずる。したがって、ここでの具体的な説明は省略する。
【0142】
5-2-2.懸濁工程
「懸濁工程」は、第1態様に記載の非凍結保存液に細胞を懸濁する工程である。分散工程を行う場合、本工程は、分散工程と同時又はその後に行うことができる。
【0143】
本工程の基本的方法は、第4態様に記載の懸濁工程に準ずる。したがって、ここでの具体的な説明は省略する。
【0144】
5-2-3.充填工程
「充填工程」は、懸濁液を容器中に充填する工程である。本工程は懸濁工程と同時に又はその後に行うことができる。
【0145】
容器に関しては、第3態様の記載に準ずる。
【0146】
充填方法は、容器中に所望の量の懸濁液を含めることが可能な方法であれば特に限定しない。具体的な充填方法は、容器の形状等に応じて、当技術分野において公知の任意の方法を使用することができる。具体的には、例えば、液を注ぐことによって、吸入によって、汲み入れによって、又はこれらの組合せによって充填することができる。好ましくは、本工程は無菌条件下で行われるか、滅菌処理を含む。無菌条件及び滅菌処理の内容は、第4態様の記載に準ずる。
【0147】
充填後の容器中の懸濁液の含有量は特に限定しないが、第3態様の記載に準ずることができる。
【0148】
本工程において、必要に応じて任意の器具を容器に接続することができる。器具は、例えば、充填操作のために、無菌操作のために、又は液漏れを防ぐために接続することができる。例えば、ノズル等の流入口、アスピレーター等のポンプ、カテーテル又は滅菌チューブ等のチューブ、鋭針又は鈍針等の針、又はキャップ等が挙げられる。本工程中に複数の器具が接続されてよく、例えば、複数の目的のために別々の器具が接続されてもよい。
【0149】
5-2-4.保存工程
「保存工程」は、任意工程であり、0℃~37℃の温度下で保存する工程である。本工程は懸濁工程及び充填工程と同時に又はその後に行うことができる。
【0150】
本工程の基本的方法は、第4態様に記載の保存工程に準ずる。したがって、ここでの具体的な説明は省略する。
【実施例0151】
<実施例1.保存液の種類と細胞の生存率の関係>
(目的)
間葉系幹細胞の非凍結保存に適した細胞保存液の組成を検討する。
【0152】
(方法)
1.細胞の維持
凍結保管していた吸引脂肪由来MSCを解凍し、生理食塩水で洗浄した後、洗浄液を細胞保存液に置換して懸濁することにより、1×107個/mLの濃度の細胞懸濁液を調製した。本実施例で使用した細胞保存液の組成は以下に示す通りである。以下の実施例において、(w/v)%で記載した濃度は目的の成分の終濃度を示す。
生理食塩液(大塚製薬工場(組成等は2016年12月改訂(第6版)添付文書を参照))(生理食塩水;Sal:標本数 n=4)
生理食塩液+ヒト血清アルブミン(HSA;25%ヒト血清アルブミン、CSLベーリング(組成等は2019年10月改訂(第22版)添付文書を参照))2(w/v)%(2%HSA添加生理食塩水;Sal+2H:標本数 n=5)
乳酸リンゲル液(ラクテック注、大塚製薬工場(組成等は2016年12月改訂(第9版)添付文書を参照))+HSA 2(w/v)%(2%HSA添加乳酸リンゲル液;LacR+2H:標本数 n=3)
酢酸リンゲル液(ソルアセトF輸液、テルモ(組成等は2014年9月改訂(第6版)添付文書を参照))+HSA 2(w/v)%(2%HSA添加酢酸リンゲル液;AceR+2H:標本数 n=3)
【0153】
調製した細胞懸濁液を1.5mLマイクロチューブ(Watson社)に入れて4℃の冷蔵庫内で維持し、保存開始から0時間後、24時間後、48時間後、及び72時間後に細胞を回収した。
【0154】
2.細胞生存率の測定
回収された細胞懸濁液中の細胞数及び細胞生存率をNucleoCounter NC-100(chemometec社)を用いて測定した。本測定における死細胞濃度は、死細胞を染色するPI溶液が封入されたカセット(エムエステクノシステムズ社、型番:941-0002)を用いて、総細胞濃度は、NC-100用細胞処理試薬(エムエステクノシステムズ社)を用いて測定した。
【0155】
細胞濃度測定の数値から、得られた脂肪由来MSCの細胞数及び生存率を算出した。算出する計算式は以下の通り実施した。
脂肪由来MSCの生存率(%)=100-(死細胞濃度(個/mL)/(総細胞濃度(個/mL)×3(測定時の希釈倍率))×100)
【0156】
細胞生存率は、保存開始から0時間後の値を100%として標準化した。
【0157】
(結果)
結果を
図1に示す。
図1は、各保存液を用いた場合の細胞生存率の経時的変化を示す。
【0158】
いずれの保存液を使用した場合においても、経時的に細胞生存率は低下する傾向が見られた。細胞生存率が最も高い水準で維持されたのは、2%HSA添加乳酸リンゲル液を使用した場合であり、保存開始72時間後の細胞生存率は約90%であった(
図1のLacR+2H)。それ以外の保存液を使用した場合は、いずれも類似した細胞生存率の低下を示し、保存開始72時間後の細胞生存率は約85%であった。
【0159】
このことから、2%HSAを添加した乳酸リンゲル液を用いた場合、冷蔵温度での保存においても細胞生存率の経時的な低下が比較的少ないことがわかった。
【0160】
<実施例2.保存液の種類と細胞の増殖能の関係>
(目的)
間葉系幹細胞の非凍結保存に適した細胞保存液の組成を検討する。
【0161】
(方法)
細胞の維持は実施例1と同様に行った。回収した細胞を培養液(5%のヒト血小板溶解物を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle))中で培養し、細胞密度が80%以上になった時点において培養容器から細胞を細胞懸濁液として回収した。回収された細胞懸濁液中の細胞数をNucleoCounter NC-100を用いて測定した。倍加時間は、以下の式に基づいて算出した。
(倍加時間)=Log2/((Log(回収細胞数)-Log(播種細胞数))/(細胞を回収した時間-細胞を播種した時間))
【0162】
(結果)
結果を
図2に示す。
図2は、各保存液を用いた場合の細胞の倍加時間の経時的変化を示す図である。
【0163】
生理食塩水及び2%HSA添加生理食塩水を保存液として使用した場合、保存開始48時間後以降に細胞の倍加時間が増加したことから(
図2のSal及びSal+2H)、これらの保存液中で維持した細胞においては、その増殖能が経時的に低下することがわかった。一方、2%HSAを添加した乳酸リンゲル液及び酢酸リンゲル液で保存した細胞は、低い倍加時間を示し(
図2のLacR+2H、AceR+2H)、72時間の保存後においても高い増殖能が維持されていることがわかった。
【0164】
また、2%HSAを添加した乳酸リンゲル液及び酢酸リンゲル液で保存した場合、保存後の細胞におけるVEGF等のタンパク質の分泌量は、顕著に多かった(データ示さず)。
【0165】
このことから、2%HSAを添加した乳酸リンゲル液及び酢酸リンゲル液を用いた場合、増殖能等の細胞の活性は高く維持され、望ましい状態での細胞の維持が可能であることがわかった。
【0166】
以下の詳細な検討においては、乳酸リンゲル液に基づく保存液を使用した。
【0167】
<実施例3.デキストランの濃度と細胞生存率の関係>
(目的)
本実施例では、間葉系幹細胞の細胞生存率と細胞保存液中のデキストランの濃度の関係を検討する。
【0168】
(方法)
細胞の維持及び細胞生存率の測定は実施例1と同様に行った。本実施例で使用した保存液の組成は以下に示す通りである。
乳酸リンゲル液(Dex無添加乳酸リンゲル液:LacR)
乳酸リンゲル液+デキストラン(10%低分子デキストランL注、大塚製薬工場(組成等は2012年1月改訂(第7版)添付文書を参照))1(w/v)%(1%Dex添加乳酸リンゲル液:LacR+1D)
乳酸リンゲル液+デキストラン 3(w/v)%(3%Dex添加乳酸リンゲル液:LacR+3D)
乳酸リンゲル液+デキストラン 5(w/v)%(5%Dex添加乳酸リンゲル液:LacR+5D)
乳酸リンゲル液+デキストラン 7(w/v)%(7%Dex添加乳酸リンゲル液:LacR+7D)
乳酸リンゲル液+デキストラン 10(w/v)%(10%Dex添加乳酸リンゲル液:LacR+10D)
Dex添加乳酸リンゲル液の調製は、低分子デキストランL注(10%デキストラン含有:大塚製薬工場)をデキストランが所望の終濃度になるように乳酸リンゲル液で希釈することで行った。
【0169】
(結果)
結果を
図3に示す。
図3は、各保存液を用いた場合の細胞生存率の経時的変化を示す図である。
【0170】
いずれの保存液を使用した場合においても、経時的に細胞生存率は低下する傾向が見られた。また、細胞生存率の低下の幅は、Dex無添加乳酸リンゲル液において最も大きく(
図3のLacR)、その幅はDexの濃度が増加すると小さくなった。本実施例では、Dex濃度が3%、5%、7%及び10%の場合に、保存開始72時間後の細胞生存率は90%以上であった(
図3のLacR+3H、LacR+5D、LacR+7H及びLacR+10D)。また、Dex濃度が1%の場合も、保存開始72時間後の細胞生存率は約87%と高水準であった。
【0171】
このことから、保存液中にデキストランを含むことにより、細胞生存率が向上することがわかった。
【0172】
<実施例4.デキストランの細胞生存率向上効果にアルブミンが及ぼす影響>
(目的)
デキストランの間葉系幹細胞の細胞生存率向上効果にアルブミンの添加が及ぼす影響を検討する。
【0173】
(方法)
細胞の維持及び細胞生存率の測定は実施例1と同様に行った。本実施例で使用した保存液の組成は以下に示す通りである。
乳酸リンゲル液+HSA 2(w/v)%(Dex無添加HSA含有乳酸リンゲル液:2HLacR)
乳酸リンゲル液+HSA 2(w/v)%+デキストラン 1(w/v)%(1%Dex添加HSA含有乳酸リンゲル液:2HLacR+1D)
乳酸リンゲル液+HSA 2(w/v)%+デキストラン 3(w/v)%(3%Dex添加HSA含有乳酸リンゲル液:2HLacR+3D)
乳酸リンゲル液+HSA 2(w/v)%+デキストラン 5(w/v)%(5%Dex添加HSA含有乳酸リンゲル液:2HLacR+5D)
乳酸リンゲル液+HSA 2(w/v)%+デキストラン 7(w/v)%(7%Dex添加HSA含有乳酸リンゲル液:2HLacR+7D)
乳酸リンゲル液+HSA 2(w/v)%+デキストラン 10(w/v)%(10%Dex添加HSA含有乳酸リンゲル液:2HLacR+10D)
Dex添加乳酸リンゲル液の調製は、実施例3と同様に行った。
【0174】
(結果)
結果を
図4に示す。
図4は、各保存液を用いた場合の細胞生存率の経時的変化を示す図である。
【0175】
いずれの保存液を使用した場合においても、保存により細胞生存率は低下する傾向が見られた。また、細胞生存率の低下の幅は、Dex無添加HSA含有乳酸リンゲル液において最も大きかった(
図4の2HLacR)。デキストランを含有する細胞保存液へのHSAの添加により、保存開始72時間後の細胞生存率は最低でも約95%と高い水準となったが、デキストランの濃度によっては、細胞生存率に大きな差は見られなかった。
【0176】
このことから、デキストランを含有する細胞保存液へのアルブミンの添加により、デキストランの細胞生存率の向上効果が増強されること、その増強効果はデキストランの濃度にはあまり影響されないことがわかった。
【0177】
<実施例5.デキストランの細胞生存率向上効果にアルブミンが及ぼす影響>
(目的)
デキストランの、間葉系幹細胞の細胞生存率向上効果にアルブミンの添加が及ぼす影響を検討する。
【0178】
(方法)
細胞の維持及び細胞生存率の測定は実施例1と同様に行った。本実施例で使用した保存液の組成は以下に示す通りである。
乳酸リンゲル液+デキストラン 3(w/v)%(HSA無添加Dex含有乳酸リンゲル液:3DLacR)
乳酸リンゲル液+デキストラン 3(w/v)%+HSA 0.5(w/v)%(0.5%HSA添加Dex含有乳酸リンゲル液:3DLacR+0.5H)
乳酸リンゲル液+デキストラン 3(w/v)%+HSA 1(w/v)%(1%HSA添加Dex含有乳酸リンゲル液:3DLacR+1H)
乳酸リンゲル液+デキストラン 3(w/v)%+HSA 2(w/v)%(2%HSA添加Dex含有乳酸リンゲル液:3DLacR+2H)
乳酸リンゲル液+デキストラン 3(w/v)%+HSA 5(w/v)%(5%HSA添加Dex含有乳酸リンゲル液:3DLacR+5H)
乳酸リンゲル液+デキストラン 3(w/v)%+HSA 10(w/v)%(10%HSA添加Dex含有乳酸リンゲル液:3DLacR+10H)
Dex含有乳酸リンゲル液の調製は、実施例3と同様に行った。
【0179】
(結果)
結果を
図5に示す。
図5は、各保存液を用いた場合の細胞生存率の経時的変化を示す。
【0180】
いずれの保存液を使用した場合においても、保存により細胞生存率は低下する傾向が見られた。また、細胞生存率の低下の幅は、HSA無添加Dex含有乳酸リンゲル液において最も大きかったが(
図5の3DLacR)、それでも、保存開始72時間後の細胞生存率は90%以上であった。HSAの添加により、細胞生存率は最低でも約95%と高い水準となったが、HSAの濃度によっては、細胞生存率に明確な差は見られなかった。
【0181】
このことから、デキストランを含有する細胞保存液へのアルブミンの添加により、デキストランの細胞生存率の向上効果が増強されること、その増強効果はHSAの濃度には影響されないことがわかった。
【0182】
また、これらの細胞生存率を調べたところ、既存の非凍結保存用の細胞保存液を使用した場合の細胞生存率に比べ、優れたものであることが確認された。
【0183】
<実施例6.デキストラン及びアルブミンを含む細胞保存液を用いたシリンジ中での保存及び輸送が細胞生存率に及ぼす影響>
(目的)
デキストラン及びアルブミンを含む細胞保存液を用いた間葉系幹細胞のシリンジ中での保存及び輸送が細胞生存率に及ぼす影響を検討する。
【0184】
(方法)
細胞の解凍及び保存は、基本として実施例1と同様に行った。保存容器として10mLシリンジ(テルモ)を使用した。2×107個/mLの濃度の懸濁液を5mLの液量でシリンジに充填した。また、本実施例で使用した保存液の組成は以下に示す通りである。
乳酸リンゲル液+デキストラン 4(w/v)%+HSA 1.5(w/v)%(4%Dex+1.5%HSA添加乳酸リンゲル液)
Dex添加乳酸リンゲル液の調製は、実施例3と同様に行った。
【0185】
保温は、4℃に調温済みのTACPack(登録商標)(4℃用;株式会社カネカ)にシリンジを収納することにより行った。
【0186】
輸送条件では、チルドゆうパック(登録商標)を利用して冷蔵温度下で神戸-横浜間を1.5往復させた。
【0187】
細胞を保存開始0時間後、48時間後、72時間後及び96時間後に回収し、実施例1と同様の方法で細胞生存率を測定した。
【0188】
(結果)
結果を
図6に示す。
図6は、シリンジを用いて保存した場合と、さらにそれを輸送した場合の細胞生存率の経時的変化を示す。
【0189】
シリンジを用いて保存を行った場合も、保存開始72時間後の細胞生存率は約95%であり容器の違いは細胞生存率に大きな影響を及ぼさないことがわかった(
図6の輸送なし)。また、輸送を行った場合であっても、輸送を行わなかった場合と同様の高い細胞生存率が維持され(
図6の輸送あり)、96時間保存した場合であっても、輸送の有無にかかわらず約93%の高い細胞生存率が維持されることがわかった。
【0190】
このことから、本発明の細胞保存液が、保存中における輸送等のストレスによって影響されず、安定した細胞保存効果を発揮できることがわかった。