(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148212
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 27/12 20060101AFI20231005BHJP
D06M 11/76 20060101ALI20231005BHJP
D06M 11/55 20060101ALI20231005BHJP
D06M 11/45 20060101ALI20231005BHJP
D06M 23/08 20060101ALI20231005BHJP
D21H 17/63 20060101ALI20231005BHJP
D21H 27/30 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B32B27/12
D06M11/76
D06M11/55
D06M11/45
D06M23/08
D21H17/63
D21H27/30 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056116
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【弁理士】
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】大川 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】松本 寛人
(72)【発明者】
【氏名】氏原 真未子
【テーマコード(参考)】
4F100
4L031
4L055
【Fターム(参考)】
4F100AA01A
4F100AA07A
4F100AA08A
4F100AA18A
4F100AA19A
4F100AB12A
4F100AB17A
4F100AB18A
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4F100AK07B
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4F100AK41C
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4F100AK57C
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4F100JK04
4L031AA02
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4L055BE13
4L055BE14
4L055EA04
4L055EA05
4L055EA08
4L055EA13
4L055FA13
4L055FA19
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、繊維上に無機粒子が定着した複合繊維を含んでなるシートについて、優れた難燃性と耐水性を付与する技術を開発することである。
【解決手段】ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、ポリフェニレンサルファイドのいずれか1つ以上を含む樹脂でラミネートすることによって、繊維上に無機粒子が定着した複合繊維を含んでなるシートに、優れた難燃性と耐水性を付与することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機粒子と繊維との複合繊維を含有する層と、ラミネート層と、を含む積層体であって、
ラミネート層が、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、または、ポリフェニレンサルファイドのいずれか1つ以上を含む、上記積層体。
【請求項2】
前記繊維がセルロース繊維である、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記無機粒子が、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アルミニウムの金属塩、チタン、銅、亜鉛を含む金属粒子、またはケイ酸塩、からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記無機粒子が、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ハイドロタルサイトからなる群より選択されるいずれか1つ以上である、請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記無機粒子と繊維との複合繊維が、繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されている複合繊維である、請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、
繊維を含有する溶液中において無機粒子を合成して、複合繊維を得る工程、
前記複合繊維を含有する水性スラリーをシート化する工程、および、
前記複合繊維を含有するシート上に、ラミネート層を設ける工程、
を含む、上記方法。
【請求項7】
前記ラミネート層を、ドライラミネート法によって設ける、請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維と無機粒子の複合繊維を含んでなるシートを樹脂でラミネートした積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維と無機粒子を結合させることによって、繊維と無機粒子の双方の特徴を持ち合わせたユニークな複合体を得ることができる。例えば、特許文献1には、繊維と無機粒子の複合体を含んでなるシートから積層体を製造することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、繊維上に炭酸マグネシウムが定着した複合繊維をシート化し、そのシートを低密度ポリエチレンでラミネートすることが記載されている。しかし、特許文献1に記載の積層体は、ラミネートした低密度ポリエチレンのために耐水性が付与されるものの、難燃性が低いという課題があった。
【0005】
このような状況に鑑み、本発明の課題は、繊維上に無機粒子が定着した複合繊維を含んでなるシートについて、優れた難燃性と耐水性を付与する技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、繊維上に無機粒子が定着した複合繊維を含むシートに対して特定の樹脂をラミネートすることによって、優れた難燃性と耐水性を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、これに制限されるものでないが、以下の発明を包含する。
[1] 無機粒子と繊維との複合繊維を含有する層と、ラミネート層と、を含む積層体であって、ラミネート層が、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、または、ポリフェニレンサルファイドのいずれか1つ以上を含む、上記積層体。
[2] 前記繊維がセルロース繊維である、[1]に記載の積層体。
[3] 前記無機粒子が、カルシウム、マグネシウム、バリウム、アルミニウムの金属塩、チタン、銅、亜鉛を含む金属粒子、またはケイ酸塩、からなる群より選ばれる少なくとも1つを含む、[1]または[2]に記載の積層体。
[4] 前記無機粒子が、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ハイドロタルサイトからなる群より選択されるいずれか1つ以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5] 前記無機粒子と繊維との複合繊維が、繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されている複合繊維である、[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の積層体を製造する方法であって、
繊維を含有する溶液中において無機粒子を合成して、複合繊維を得る工程、
前記複合繊維を含有する水性スラリーをシート化する工程、および、
前記複合繊維を含有するシート上に、ラミネート層を設ける工程、
を含む、上記方法。
[7] 前記ラミネート層を、ドライラミネート法によって設ける、[6]に記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、繊維上に無機粒子が定着した複合繊維を含むシートに対して、優れた難燃性と耐水性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、製造例2で用いた反応装置の模式図である(P:ポンプ)。
【
図2】
図2は、製造例3で用いた反応装置の模式図である(P:ポンプ)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明では、繊維上に無機粒子が定着した複合繊維を含むシート上に、特定の樹脂を含むラミネート層を設けることによって、優れた難燃性と耐水性を併せ持つ積層体を製造する。
【0011】
ラミネート層
本発明においては、無機粒子と繊維との複合繊維を含むシートに対して、特定の樹脂を含むラミネート層を設ける。そのため、本発明に係る積層体は、無機粒子と繊維との複合繊維を含有する層と、熱可塑性樹脂を含有するラミネート層と、を含むことになる。
【0012】
本発明においては、熱可塑性樹脂として、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラート、または、ポリフェニレンサルファイド樹脂のいずれか1つ以上を使用する。さらに、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、テフロン(登録商標)、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリフッ化ビニリデン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリイミド、またはエチレンとアクリル酸又はアクリル酸エステルの共重合体などを使用してもよい。また、この熱可塑性樹脂には無機顔料などの充填材を添加してもよい。この充填材としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、シリカ、タルク、カオリン、カーボンブラック、金属粉体などが挙げられる。
【0013】
本発明の一態様における積層シートの製造法としては、ドライラミネート法、または押出しラミネート法を用いる。ドライラミネート法はフィルムシートを、例えばウレタン系樹脂の主剤にイソシアネート系の硬化剤を添加した二液型接着剤で貼り合わせて積層シートを得る。押出しラミネート法は熱可塑性樹脂を押出成形することによりシート層を形成し、押出成形された熱可塑性樹脂が固化する前に、このシート層とジェル前駆体層とを貼合して積層シートを得る。
【0014】
ドライラミネート法における貼合温度、貼合速度などの操業条件は、用いるフィルムの種類や装置によって適宜設定すればよく特に制限されないが、一般には、例えば、貼合温度は60~150℃程度、貼合速度は0.5~250m/分程度である。
【0015】
押出しラミネート法における、樹脂の溶融温度、積層速度などの操業条件は、用いる樹脂の種類や装置によって適宜設定すればよく特に制限されないが、一般には、例えば、溶融温度は200~350℃程度、積層速度は10~200m/分程度である。また、ニップロールとしては硬度70度以上(JIS K-6253)のものを用い、線圧は15kgf/cm以上で押圧・圧着を行うことが好ましい。
【0016】
また、シート層を複数の熱可塑性樹脂層で形成する場合など、2以上の熱可塑性樹脂層を積層するときは、熱可塑性樹脂層間の密着性および生産効率の点から、複数台の押出機を用いて各熱可塑性樹脂を溶融状態でそれぞれのTダイに導き、各Tダイから同時に押出して積層接着する方法が適している。このような多層の熱可塑性樹脂層を同時に形成可能な方法は、押出しラミネート法の中で特に共押出しラミネート法と呼ばれる。さらに、熱可塑性樹脂層同士の間に接着性樹脂層を挟んで、樹脂層間の接着性を高めてもよい。なお、いずれの場合でも、必要に応じてジェル前駆体層や熱可塑性樹脂の接着性を向上させるために、コロナ処理、オゾン処理等を行ってもよい。
【0017】
無機粒子と繊維の複合繊維を含む層
本発明に係る積層体は、繊維上に無機粒子が定着した複合繊維を含む層を有する。複合繊維を含む層は、公知の方法によって複合繊維をシート化することによって得られる。
【0018】
シート化の方法としては、例えば、複合繊維スラリーを連続抄紙機に供して、スラリー由来のシートを連続的に抄紙する方法が挙げられる。また、複数の種類の複合繊維含有スラリーを連続抄紙機に供して、各スラリー由来のシートが積層するように連続的に抄紙して積層シートを製造してもよい。
【0019】
(繊維)
複合体を構成する繊維は、繊維であれば特に制限されないが、例えば、天然の繊維はもちろん、レーヨンやリヨセルなどの再生繊維(半合成繊維)や合成繊維などを制限なく使用することができる。繊維の原料としては、パルプ繊維(木材パルプや非木材パルプ)、セルロースナノファイバー、バクテリアセルロース、ホヤなどの動物由来セルロース、藻類が例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
【0020】
木材原料(木質原料)などの天然材料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。
【0021】
非木材由来のパルプとしては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。
【0022】
パルプ繊維は、未叩解及び叩解のいずれでもよく、複合体シートの物性に応じて選択すればよいが、叩解を行う方が好ましい。これにより、シート強度の向上並びに無機粒子の定着促進が期待できる。
【0023】
また、これらセルロース原料はさらに処理を施すことで、微粉砕セルロース、酸化セルロースなどの化学変性セルロース、およびセルロースナノファイバー:CNF(ミクロフィブリル化セルロース:MFC、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、カルボキシメチル化CNF、機械粉砕CNFなど)として使用することもできる。本発明で用いる微粉砕セルロースとしては、一般に粉末セルロースと呼ばれるものと、上記機械粉砕CNFのいずれも含む。粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを未処理のまま機械粉砕したもの、もしくは、酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けするといった方法により製造される棒軸状である一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を用いてもよいし、KCフロック(日本製紙製)、セオラス(旭化成ケミカルズ製)、アビセル(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は好ましくは100~1500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は好ましくは70~90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは1μm以下100μm以下である。本発明で用いる酸化セルロースは、例えばN-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することで得ることができる。セルロースナノファイバーとしては、上記セルロース原料を解繊する方法が用いられる。解繊方法としては、例えばセルロースや酸化セルロース等の化学変性セルロースの水懸濁液等を、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸または多軸混練機、ビーズミル等による機械的な磨砕、ないし叩解することにより解繊する方法を使用することができる。上記方法を1種または複数種類組み合わせてセルロースナノファイバーを製造してもよい。製造したセルロースナノファイバーの繊維径は電子顕微鏡観察などで確認することができ、例えば5nm~1000nm、好ましくは5nm~500nm、より好ましくは5nm~300nmの範囲にある。このセルロースナノファイバーを製造する際、セルロースを解繊及び/又は微細化する前及び/又は後に、任意の化合物をさらに添加してセルロースナノファイバーと反応させ、水酸基が修飾されたものにすることもできる。修飾する官能基としては、アセチル基、エステル基、エーテル基、ケトン基、ホルミル基、ベンゾイル基、アセタール、ヘミアセタール、オキシム、イソニトリル、アレン、チオール基、ウレア基、シアノ基、ニトロ基、アゾ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、アミド基、イミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2-ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2-プロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、オキシル基、チイラン基、チエタン基等が挙げられる。これらの置換基の中の水素が水酸基、カルボキシ基等の官能基で置換されても構わない。また、アルキル基の一部が不飽和結合になっていても構わない。これらの官能基を導入するために使用する化合物としては特に限定されず、例えば、リン酸由来の基を有する化合物、カルボン酸由来の基を有する化合物、硫酸由来の基を有する化合物、スルホン酸由来の基を有する化合物、アルキル基を有する化合物、アミン由来の基を有する化合物等が挙げられる。リン酸基を有する化合物としては特に限定されないが、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウムが挙げられる。更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムが挙げられる。更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムが挙げられる。更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましいが、特に限定されない。カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸などトリカルボン酸化合物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。上記カルボン酸由来の基を有する化合物のうち、工業的に適用しやすく、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましいが、特に限定されない。また、化学的に結合させなくても、修飾する化合物がセルロースナノファイバーに物理的に吸着する形でセルロースナノファイバーを修飾してもよい。物理的に吸着する化合物としては界面活性剤等が挙げられ、アニオン性、カチオン性、ノニオン性いずれを用いてもよい。セルロースを解繊及び/又は粉砕する前に上記の修飾を行った場合、解繊及び/又は粉砕後にこれらの官能基を脱離させ、元の水酸基に戻すこともできる。以上のような修飾を施すことで、セルロースナノファイバーの解繊を促進したり、セルロースナノファイバーを使用する際に種々の物質と混合しやすくしたりすることができる。
【0024】
合成繊維と繊維との複合繊維も本発明の一態様において使用することができ、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル繊維、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維などと繊維との複合繊維も使用することができる。
【0025】
以上に示した繊維は単独で用いても良いし、複数を混合しても良い。中でも、木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプ及び/又は合成繊維との組み合わせを含むことが好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。
【0026】
好ましい態様において、本発明の複合体を構成する繊維はセルロース繊維、またはパルプ繊維である。また、例えば、製紙工場の排水から回収された繊維状物質を本発明の炭酸化反応に供給してもよい。このような物質を反応槽に供給することにより、種々の複合粒子を合成することができ、また、形状的にも繊維状粒子などを合成することができる。
【0027】
本発明の一態様においては、繊維の他にも、炭酸化反応には直接的に関与しないが、生成物である無機粒子に取り込まれて複合粒子を生成するような物質を用いることができる。本発明の一態様においては、パルプ繊維を始めとする繊維を使用するが、それ以外にも無機粒子、有機粒子、ポリマーなどを含む溶液中で無機粒子を合成することによって、さらにこれらの物質が取り込まれた複合粒子を製造することが可能である。
【0028】
複合化する繊維の繊維長は特に制限されないが、例えば、平均繊維長が0.1μm~15mm程度とすることができ、1μm~12mm、100μm~10mm、500μm~8mmなどとしてもよい。
【0029】
(無機粒子)
本発明の一態様において、繊維と複合化する無機粒子は特に制限されないが、水に不溶性または難溶性の無機粒子であることが好ましい。無機粒子の合成を水系で行う場合があり、また、複合体を水系で使用することもあるため、無機粒子が水に不溶性または難溶性であると好ましい。
【0030】
ここで言う無機粒子とは、金属もしくは金属化合物のことを言う。また金属化合物とは、金属の陽イオン(例えば、Na2+、Ca2+、Mg2+、Al3+、Ba2+など)と陰イオン(例えば、O2-、OH-、CO3
2-、PO4
3-、SO4
2-、NO3
-、Si2O3
2-、SiO3
2-、Cl-、F-、S2-など)がイオン結合によって結合してできた、一般に無機塩と呼ばれるものを言う。無機粒子の具体例としては、例えばカルシウム、マグネシウム、バリウム、アルミニウムの金属塩、チタン、銅、亜鉛を含む金属粒子、またはケイ酸塩、からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属を含む化合物が挙げられる。また、炭酸カルシウム(軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム)、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、ステアリン酸亜鉛、二酸化チタン、ケイ酸ナトリウムと鉱酸から製造されるシリカ(ホワイトカーボン、シリカ/炭酸カルシウム複合繊維、シリカ/二酸化チタン複合繊維、ケイ酸アルミニウム、アルミノケイ酸)、硫酸カルシウム、ゼオライト、ハイドロタルサイトが挙げられる。炭酸カルシウム-シリカ複合物としては、炭酸カルシウム及び/又は軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物以外に、ホワイトカーボンのような非晶質シリカを併用してもよい。以上に例示した無機粒子については、繊維を含む溶液中で、互いに合成する反応を阻害しない限り、単独でも2種類以上の組み合わせで用いてもよい。複合繊維に難燃性の機能を持たせる場合には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ハイドロタルサイト、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、シリカ、ケイ酸アルミニウムが好ましく、特に好ましくは、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ハイドロタルサイトである。
【0031】
これら無機粒子の合成法は公知の方法によることができ、気液法と液液法のいずれでも良い。気液法の一例としては炭酸ガス法があり、例えば水酸化マグネシウムと炭酸ガスを反応させることで、炭酸マグネシウムを合成することができる。液液法の例としては、酸(塩酸、硫酸など)と塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を中和によって反応させたり、無機塩と酸もしくは塩基を反応させたり、無機塩同士を反応させたりする方法が挙げられる。例えば、水酸化バリウムと硫酸を反応させることで硫酸バリウムを得たり、硫酸アルミニウムと水酸化ナトリウムを反応させることで水酸化アルミニウムを得たり、炭酸カルシウムと硫酸アルミニウムを反応させることでカルシウムとアルミニウムが複合化した無機粒子を得ることができる。また、このようにして無機粒子を合成する際、反応液中に任意の金属もしくは金属化合物を共存させることもでき、この場合はそれらの金属もしくは金属化合物が無機粒子中に効率よく取り込まれ、複合化できる。例えば、炭酸カルシウムにリン酸を添加してリン酸カルシウムを合成する際に、二酸化チタンを反応液中に共存させることで、リン酸カルシウムとチタンの複合粒子を得ることができる。
【0032】
(複合繊維の合成)
本発明の一態様において、複合体は、繊維の存在下で無機粒子を合成することによって得ることができる。繊維表面が、無機粒子の析出における好適な場となるため、無機粒子と繊維との複合体を合成しやすいためである。
【0033】
本発明に係る複合体の合成方法は、繊維を含む溶液において無機粒子を合成することを必須とするものである。例えば、繊維と無機粒子の前駆体を含む溶液を開放型の反応槽中で撹拌、混合して複合体を合成しても良いし、繊維と無機粒子の前駆体を含む水性懸濁液を反応容器内に噴射することによって合成してもよい。無機物の前駆体の水性懸濁液を反応容器内に噴射する際に、キャビテーション気泡を発生させ、その存在下で無機粒子を合成してもよい。
【0034】
無機粒子の前駆体の一方がアルカリ性の場合、あらかじめ繊維をアルカリ性前駆体の溶液に分散させておくと繊維を膨潤させることができるため、効率よく無機粒子と繊維の複合体を得ることができる。混合後15分以上撹拌することで繊維の膨潤を促進してから反応を開始することもできるが、混合後すぐに反応を開始してもよい。また、硫酸アルミニウム(硫酸バンド、ポリ塩化アルミニウム等)のようにセルロースと相互作用しやすい物質を無機粒子の前駆体の一部として用いる場合には、硫酸アルミニウム側をあらかじめ繊維と混合しておくことで、無機粒子が繊維に定着する割合を向上させられることもある。
【0035】
本発明の一態様においては、反応容器内にキャビテーション気泡を生じさせるような条件で液体を噴射してもよいし、キャビテーション気泡を生じさせないような条件で噴射してもよい。また、反応容器はいずれの場合においても圧力容器であることが好ましい。なお、本発明における圧力容器とは0.005MPa以上の圧力をかけることのできる容器のことである。キャビテーション気泡を生じさせないような条件の場合、圧力容器内の圧力は、静圧で0.005MPa以上0.9MPa以下であることが好ましい。
【0036】
一つの好ましい態様として、本発明の複合体における無機粒子の平均一次粒子径を、例えば、1μm以下とすることができるが、平均一次粒子径が500nm以下の無機粒子や平均一次粒子径が200nm以下の無機粒子、さらには平均一次粒子径が100nm以下の無機粒子、平均一次粒子径が50nm以下の無機粒子を用いることができる。また、無機粒子の平均一次粒子径は10nm以上とすることも可能である。なお、平均一次粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置、電子顕微鏡写真で測定することができる。
【0037】
本発明の一態様において、複合体を製造する際には、さらに公知の各種助剤を添加することができる。例えば、キレート剤を添加することができ、具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などのポリヒドロキシカルボン酸、シュウ酸などのジカルボン酸、グルコン酸などの糖酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸などのアミノポリカルボン酸およびそれらのアルカリ金属塩、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸などのポリリン酸のアルカリ金属塩、グルタミン酸、アスパラギン酸などのアミノ酸およびこれらのアルカリ金属塩、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸アリルなどのケトン類、ショ糖などの糖類、ソルビトールなどのポリオールが挙げられる。また、表面処理剤としてパルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、脂環族カルボン酸、アビエチン酸等の樹脂酸、それらの塩やエステルおよびエーテル、アルコール系活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル類、アミド系やアミン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、長鎖アルキルアミノ酸、アミンオキサイド、アルキルアミン、第四級アンモニウム塩、アミノカルボン酸、ホスホン酸、多価カルボン酸、縮合リン酸などを添加することができる。また、必要に応じ分散剤を用いることもできる。この分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸-マレイン酸共重合体アンモニウム塩、メタクリル酸-ナフトキシポリエチレングリコールアクリレート共重合体、メタクリル酸-ポリエチレングリコールモノメタクリレート共重合体アンモニウム塩、ポリエチレングリコールモノアクリレートなどがある。これらを単独または複数組み合わせて使用することができる。また、添加のタイミングは合成反応の前でも後でも良い。このような添加剤は、無機粒子に対して、好ましくは0.001~20重量%、より好ましくは0.1~10重量%の量で添加することができる。
【0038】
本発明の一態様において、複合体を合成する場合、反応条件は特に制限されず、用途に応じて適宜設定することができる。例えば、合成反応の温度は0~90℃とすることができ、10~80℃とすることが好ましく、50~70℃がより好ましく、60℃程度とすると特に好ましい。反応温度は、反応液の温度を温度調節装置によって制御することができ、温度が低いと反応効率が低下しコストが高くなる一方、90℃を超えると粗大な無機粒子が多くなる傾向がある。
【0039】
また、本発明の一態様において、反応はバッチ反応とすることもでき、連続反応とすることもできる。一般に、反応後の残存物を排出する便利さから、バッチ反応工程を行うことが好ましい。反応のスケールは特に制限されないが、100L以下のスケールで反応させてもよいし、100L超のスケールで反応させてもよい。反応容器の大きさは、例えば、10L~100L程度とすることもできるし、100L~1000L程度としてもよい。
【0040】
さらに、反応は、例えば、反応液のpHをモニターすることにより制御することができ、反応液のpHプロファイルに応じて、炭酸カルシウムの炭酸化反応であれば、例えばpH9未満、好ましくはpH8未満、より好ましくはpH7のあたりに到達するまで反応を行うことができる。
【0041】
一方、反応液の電導度をモニターすることにより反応を制御することも出来る。炭酸カルシウムの炭酸化反応であれば、例えば電導度が1mS/cm以下に低下するまで炭酸化反応を行うことが好ましい。
【0042】
さらにまた、単純に反応時間によって反応を制御することができ、具体的には、反応物が反応槽に滞留する時間を調整して制御することができる。その他、本発明の一態様においては、反応槽の反応液を攪拌したり、反応を多段反応としたりすることによって反応を制御することもできる。
【0043】
繊維と無機粒子の重量比は、5/95~95/5とすることができ、10/90~90/10、20/80~80/20、30/70~70/30、40/60~60/40としてもよい。
【0044】
本発明の一態様においては、反応生成物である複合体が懸濁液として得られるため、必要に応じて、貯蔵タンクに貯蔵したり、濃縮、脱水、粉砕、分級、熟成、分散などの処理を行ったりすることができる。これらは公知の工程によることができ、用途やエネルギー効率などを考慮して適宜決定すればよい。例えば濃縮・脱水処理は、遠心脱水機、沈降濃縮機などを用いて行われる。この遠心脱水機の例としては、デカンター、スクリューデカンターなどが挙げられる。濾過機や脱水機を用いる場合についてもその種類に特に制限はなく、一般的なものを使用することができるが、例えば、フィルタープレス、ドラムフィルター、ベルトプレス、チューブプレス等の加圧型脱水機、オリバーフィルター等の真空ドラム脱水機などを好適に用いて炭酸カルシウムケーキとすることができる。粉砕の方法としては、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、石臼型ミル、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、叩解機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。分級の方法としては、メッシュ等の篩、アウトワード型もしくはインワード型のスリットもしくは丸穴スクリーン、振動スクリーン、重量異物クリーナー、軽量異物クリーナー、リバースクリーナー、篩分け試験機等が挙げられる。分散の方法としては、高速ディスパーザー、低速ニーダーなどが挙げられる。
【0045】
本発明の一態様によって得られた複合体は、完全に脱水せずに懸濁液の状態で用いることもできるが、乾燥して粉体とすることもできる。この場合の乾燥機についても特に制限はないが、例えば、気流乾燥機、バンド乾燥機、噴霧乾燥機などを好適に使用することができる。
【0046】
本発明の一態様においては、懸濁液の調製などに水を使用するが、この水としては、通常の水道水、工業用水、地下水、井戸水などを用いることができる他、イオン交換水や蒸留水、超純水、工業廃水、製造工程中に得られる水を好適に用いることできる。
【0047】
本発明の一態様によって得られる複合体は、公知の方法によって改質することが可能である。例えば、ある態様においては、その表面を疎水化し、樹脂などとの混和性を高めたりすることが可能である。
【0048】
本発明に係る繊維の複合体は、一つの態様において、繊維表面の15%以上が無機粒子で被覆されており、このような面積率で繊維表面が被覆されていると無機粒子に起因する特徴が大きく生じるようになる一方、繊維表面に起因する特徴が小さくなる。被覆率は、30%以上や50%以上、60%以上、さらには80%以上としてもよい。被覆率は、電子顕微鏡にて撮影した画像から、目視で概算することができる。また、電子顕微鏡画像から、無機物が存在する個所を(白)、繊維が存在する個所を(黒)となるように二値化処理し、画像全体に対する白色部分、すなわち無機物が存在する部分の割合(面積率)を算出することもできる。被覆率の算出には、例えば、画像処理ソフト(Image J、アメリカ国立衛生研究所)を使用することができる。
【0049】
本発明の一態様において、繊維と無機粒子の複合体は、単に繊維と無機粒子が混在しているのではなく、バインダーなどを介さずに、水素結合等によって繊維と無機粒子が結着しているので、離解処理によっても無機粒子が脱落することが少ない。複合体における繊維と無機粒子の結着の強さは、例えば、灰分歩留(%)、すなわち、(シートの灰分÷離解前の複合体の灰分)×100といった数値によって評価することができる。具体的には、複合体を水に分散させて固形分濃度0.2%に調整してJIS P 8220-1:2012に規定される標準離解機で5分間離解後、JIS P 8222:1998に従って150メッシュのワイヤーを用いてシート化した際の灰分歩留を評価に用いることができ、好ましい態様において灰分歩留は20質量%以上であり、より好ましい態様において灰分歩留は50質量%以上である。
【実施例0050】
以下、具体例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において、特に断らない限り、「%」はすべて「重量%」であり、数値範囲はその端点を含むものとする。
【0051】
実験1:複合繊維の製造
1-1.製造例1:水酸化アルミニウムとセルロース繊維の複合繊維
容器(マシンチェスト、容積:4m3)に2%のパルプスラリー(NBKP100%、CSF=400mL、平均繊維長:約1.3mm、固形分188kg)と水酸化ナトリウム(日本軽金属、濃度48%、972kg)を投入して混合後、ペリスターポンプを用いて硫酸アルミニウム(硫酸バンド、濃度27%、1117kg)を約32kg/minで滴下した。滴下終了後、そのまま30分間撹拌を継続して複合繊維を得た。得られた複合繊維を分析したところ、無機粒子の重量割合(灰分)は約70%、無機粒子の平均一次粒径は約100nmであった。また、繊維表面が無機粒子で被覆されている部分の面積率を目視で評価したところ、被覆率は約90%であった。
【0052】
1-2.製造例2:ハイドロタルサイトとセルロース繊維の複合繊維
ハイドロタルサイト(HT)としてMg6Al2(OH)16CO3・4H2Oを合成するため、アルカリ溶液(A溶液)として、Na2CO3およびNaOHの混合水溶液、酸溶液(B溶液)として、MgCl2およびAlCl3の混合水溶液を調製した。なお、Na2CO3、NaOH、MgCl2、AlCl3は、いずれも、富士フイルム和光純薬製の試薬を使用した。
・アルカリ溶液(A溶液、Na2CO3濃度:0.05M、NaOH濃度:0.8M)
・酸溶液(B溶液、Mg系、MgCl2濃度:0.3M、AlCl3濃度:0.1M)
複合化する繊維として、セルロース繊維を使用した。具体的には、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、日本製紙製)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、日本製紙製)を8:2の重量比で含み、シングルディスクリファイナー(SDR)を用いてカナダ標準濾水度を390mlに調整したパルプ繊維を用いた(平均繊維長0.8mm)。
【0053】
アルカリ溶液にパルプ繊維を添加し、パルプ繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ繊維濃度:1.56%、pH:約12.4)。この水性懸濁液(パルプ固形分30g)を10L容の反応容器に入れ、水性懸濁液を撹拌しながら、酸溶液(Mg系)を滴下してハイドロタルサイト微粒子と繊維との複合体を合成した。
図1に示すような装置を用いて、反応温度は60℃、滴下速度は22ml/minであり、反応液のpHが約7になった段階で滴下を停止した。滴下終了後、30分間、反応液を撹拌し、10倍量の水を用いて水洗して塩を除去することで、複合繊維を得た(無機粒子の平均一次粒径:20nm、無機粒子の重量割合:約70%、繊維表面の被覆率:約80%)。
【0054】
1-3.製造例3:炭酸マグネシウムとセルロース繊維の複合繊維
水酸化マグネシウム490g(宇部マテリアルズ、UD653)とクラフトパルプ350g(LBKP/NBKP=1/1、CSF:370ml、平均繊維長:0.9mm)を水中に添加して水性懸濁液を準備した。
【0055】
図2に示すように、この水性懸濁液35Lをキャビテーション装置(45L容)に入れ、反応溶液を循環させながら、反応容器中に炭酸ガスを吹き込んで炭酸ガス法によって炭酸マグネシウム微粒子と繊維との複合体を合成した。反応開始温度は約40℃、炭酸ガスは市販の液化ガスを供給源とし、炭酸ガスの吹き込み量は20L/分とした。反応液のpHが約7.8になった段階で炭酸ガスの導入を停止し(反応前のpHは10.3)、その後30分間、キャビテーションの発生と装置内でのスラリーの循環を続け、炭酸マグネシウム微粒子とパルプ繊維の複合繊維を得た(無機粒子の平均一次粒径:0.8μm、無機粒子の重量割合:約70%、繊維表面の被覆率:約80%)。
【0056】
複合繊維の合成においては、反応溶液を循環させて反応容器内に噴射することよって、反応容器内にキャビテーション気泡を発生させた。具体的には、ノズル(ノズル径:1.5mm)を介して高圧で反応溶液を噴射してキャビテーション気泡を発生させたが、噴流速度は約70m/秒であり、入口圧力(上流圧)は7MPa、出口圧力(下流圧)は0.3MPaだった。
【0057】
複合繊維に含まれる無機粒子の重量割合は、ろ紙を用いて複合体スラリー(固形分換算で3g)を吸引濾過した後、残渣をオーブンで乾燥し(105℃、2時間)、さらに525℃で有機分を燃焼させ、燃焼前後の重量から算出した。
【0058】
実験2:複合繊維シートの製造と評価
2-1.サンプル1
製造例1で得られた複合繊維の水性スラリー(複合繊維の濃度:1重量%)に、カチオン性の歩留剤(ND300、ハイモ)とアニオン性の歩留剤(FA230、ハイモ)を対固形分で100ppmずつ添加して紙料スラリーを調製した。次いで、長網抄紙機を用いて、抄速5m/minの条件でこの紙料スラリーからシートを製造した(坪量:300g/m2、厚さ:416μm)。
【0059】
次に、得られたシートに、ドライラミネート法でラミネート層を設けた。具体的には、ローラーラミネーター(アスカ社、L405A3)を用いて、ポリエチレンテレフタレート(フタムラ化学製、密度:1.38g/cm3、融点:255℃)をシート両面に貼合させた(貼合温度:約140℃、貼合速度:約1.0m/分)。ラミネート層の重量は、両面合計で約32g/m2であった。
【0060】
2-2.サンプル2
ポリエチレンテレフタレートの代わりに、ポリプロピレン(フタムラ化学製、密度:0.91g/cm3、融点:160℃)を用いた以外は、サンプル1と同様にして、ラミネート層を両面に有するシートを作成した。
【0061】
2-3.サンプル3
ポリエチレンテレフタレートの代わりに、ポリフェニレンサルファイド(東レ製、密度:1.35g/cm3、融点:275℃)を用いた以外は、サンプル1と同様にして、ラミネート層を両面に有するシートを作成した。
【0062】
2-4.サンプル4
製造例1で得られた複合繊維の代わりに、製造例2で得られた複合繊維を用いてシートを製造した以外は、サンプル1と同様にして、ラミネート層を両面に有するシートを作成した。
【0063】
2-5.サンプル5
製造例1で得られた複合繊維の代わりに、製造例2で得られた複合繊維を用いてシートを製造した以外は、サンプル1と同様にして、ラミネート層を両面に有するシートを作成した。
【0064】
2-6.サンプル6
サンプル1と同様にして紙料スラリーからシートを製造した後、押出ラミネート法でポリエチレンテレフタレートのラミネート層をシートの両面に設けた。具体的には、Tダイを備えた押出成形機(ムサシノキカイ製、タンデムエクストルージョンラミネータ)を用いて、ポリエチレンテレフタレート(ユニチカ製、密度1.38g/cm3、融点255℃)を、溶融温度300℃にて片面の厚さが30μmとなるように押出ラミネーションで両面を貼合し、直ちにクーリングロールとニップロール(硬度70度)により線圧15kgf/cmで押圧・圧着した。
【0065】
2-7.サンプル7(比較例)
パルプスラリー(LBKP/NBKP=8/2、CSF=380mL、平均繊維長:1.5mm)にカチオン性歩留剤(ND300、ハイモ)とアニオン性歩留剤(FA230、ハイモ)を対固形分で100ppmずつ添加して、長網抄紙機を用いて紙を製造した(坪量:300g/m2、厚さ:350μm、含水率:8.0質量%)。次いで、得られた紙の両面に、サンプル1と同様にして、ラミネート層を設けた。
【0066】
2-8.サンプル8(比較例)
ポリエチレンテレフタレートの代わりに、ポリプロピレン(フタムラ化学製、密度0.91g/cm3、融点160℃)を用いた以外は、サンプル7と同様にして、ラミネート層を有するシートを作成した。
【0067】
2-9.サンプル9(比較例)
ラミネート層を設けない以外は、サンプル1と同様にしてシートを作成した。
2-10.サンプル10(比較例)
ポリエチレンテレフタレートの代わりに、ポリエチレン(日本ポリエチレン、LC602A、密度:0.92g/cm3、融点:107℃)を用いた以外は、サンプル1と同様にして、ラミネート層を両面に有するシートを作成した。
【0068】
実験3:複合繊維シートの評価
実験2で得られたサンプルについて、下記の手順に基づいて評価した。
3-1.強度(ISO曲げ抵抗)
得られたシートについて、L&W BENDING TESTERを用い、ISO2493-1に基づいて曲げ抵抗を測定した。具体的には、試料を15°曲げた時の抵抗値(荷重)を測定し、下記の計算式からISO曲げ抵抗を算出した。
ISO曲げ抵抗(mN/m)=曲げ荷重(mN)×0.003352
強度に関する評価基準は以下の通りである。
〇(良好):ISO曲げ抵抗が2.5mN/m以上
△(通常):ISO曲げ抵抗が1.5mN/m以上2.5mN/m未満
×(不良):ISO曲げ抵抗が1.5mN/m未満
3-2.難燃性(防炎等級)
サンプルを支持枠(25cm×16cm)に取り付けて、たるみのないように燃焼性試験装置に装着した。ガスバーナーに点火後、1分間サンプルを加熱し、サンプルの難燃性を評価した
この燃焼試験には、45°燃焼性試験器(スガ試験機製、FL-45M)を用いた。加熱には、メッケルバーナー(高さ160mm、内径20mm)を用い、1次空気を混入しないでガスだけを送入して燃焼させた。燃料は液化石油ガス5号(ブタンおよびブチレンを主体とするもの、JIS K 2240)を用い、サンプルを取り付けない状態で、炎の長さが65mmになるように調整した。
【0069】
JIS A 1322(JIS Z 2150)に基づいて、炭化長、残炎時間、残じん時間を測定した上で、サンプルの防炎等級を決定した。
(炭化長) 試験体の加熱面の炭化部分(炭化して明らかに強度が変化)している部分について支持枠の長手方向の最大長さを測定する。
(残炎時間) 加熱終了時から試験体が炎をあげて燃え続ける時間を測定する。
(残じん) 加熱終了時から無炎燃焼している時間を測定する。
・防炎1級:炭化長5cm以下、残炎なし、残じんが1分後に存しない
・防炎2級:炭化長10cm以下、残炎なし、残じんが1分後に存しない
・防炎3級:炭化長15cm以下、残炎なし、残じんが1分後に存しない
3-3.耐水性
シートへ水1滴(0.05ml)を滴下し、全てがシートへ浸み込む時間を測定した。耐水性に関する評価基準は以下のとおりである。
〇(良好):シートへ浸み込む時間が30秒より長い
△(通常):シートへ浸み込む時間が5~30秒
×(不良):シートへ浸み込む時間が5秒未満
【0070】
【0071】
本発明の積層体は、比較例で示す積層体と比較して、強度や難燃性を維持しつつ、耐水性に優れていた。特に、サンプル10(ラミネート材:ポリエチレン)は難燃性が悪いのに対し、本発明に係る特定の樹脂でラミネートしたシートは、強度、難燃性を維持しつつ、優れた耐水性を有していた。