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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148213
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】導電性顔料ペーストを製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/02 20060101AFI20231005BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20231005BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231005BHJP
   B02C 17/14 20060101ALI20231005BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231005BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20231005BHJP
   H01M 4/04 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C09D201/02
C09D5/24
C09D7/61
B02C17/14 Z
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056117
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 浩司
(72)【発明者】
【氏名】橋村 昌尚
(72)【発明者】
【氏名】北村 貴志
(72)【発明者】
【氏名】湯川 嘉之
【テーマコード(参考)】
4D063
4J038
5H050
【Fターム(参考)】
4D063FF14
4D063FF34
4J038GA03
4J038GA06
4J038GA09
4J038GA13
4J038GA14
4J038GA15
4J038HA026
4J038KA06
4J038KA12
4J038MA10
4J038MA14
4J038NA04
4J038NA20
4J038NA25
4J038PA18
4J038PB09
5H050AA12
5H050BA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050DA10
5H050DA18
5H050EA09
5H050EA10
5H050EA23
5H050FA17
5H050GA10
5H050GA22
5H050GA29
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】顔料分散性及び貯蔵安定性に優れる導電性顔料ペースト及び合材ペーストを製造する方法、並びに仕上がり性及び導電性等に優れる塗工膜を製造する方法。
【解決手段】顔料分散樹脂(A)、導電性顔料(B)、及び溶媒(C)を含有するペーストをアニュラー型ビーズミルにより分散して導電性顔料ペーストを製造する方法であって、顔料分散樹脂(A)が、アミド基、イミド基、エーテル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、シラノール基、アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の極性官能基を有し、かつ顔料分散樹脂(A)の極性官能基濃度が9~23mmol/gであり、導電性顔料(B)の平均1次粒子径が、10~80nmであり、顔料分散樹脂(A)の溶解性パラメーターδAと溶媒(C)の溶解性パラメーターδCとが、|δA-δC|<2.0の関係である、導電性顔料ペーストを製造する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料分散樹脂(A)、導電性顔料(B)、及び溶媒(C)を含有するペーストをアニュラー型ビーズミルにより分散して導電性顔料ペーストを製造する方法であって、
顔料分散樹脂(A)が、アミド基、イミド基、エーテル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、シラノール基、アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の極性官能基を有し、かつ顔料分散樹脂(A)の極性官能基濃度が9~23mmol/gであり、
導電性顔料(B)の平均1次粒子径が、10~80nmであり、
顔料分散樹脂(A)の溶解性パラメーターδAと溶媒(C)の溶解性パラメーターδCとが、|δA-δC|<2.0の関係である、
導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項2】
顔料分散樹脂(A)の固形分含有量が、導電性顔料ペーストの固形分総量を基準として、0.1~20質量%である、請求項1に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項3】
導電性顔料(B)の含有量が、導電性顔料ペーストの固形分総量を基準として、10~99.9質量%であり、かつ導電性顔料ペーストの総量を基準として、5~99.9質量%である、請求項1又は2に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項4】
顔料分散樹脂(A)の溶解性パラメーターδAが9.3以上であり、かつ溶媒(C)の溶解性パラメーターδCが10.4~15.0である、請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法で得られた導電性顔料ペーストを溶媒で希釈し、レーザ回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる平均粒子径(D50)が700~1,300nmである、導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項6】
前記導電性顔料(B)が、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、グラフェン、黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電性カーボンである、請求項1~5のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項7】
さらに、導電性顔料(B)を基準として、高極性低分子量成分を0.01~500質量%含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項8】
さらに重量平均分子量10万以上、かつ溶解性パラメーターδDが9.3未満である皮膜形成樹脂(D)を含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の方法で得られた導電性顔料ペーストが、導電性顔料(B)として少なくとも1種のアセチレンブラックを含有し、更にカーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブ含有ペーストとを混合する、導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の方法で得られた導電性顔料ペーストが、実質的に水を含有しない、導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の方法で得られた導電性顔料ペーストが、実質的に導電性金属を含有しない、導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項12】
アニュラー型ビーズミルにより分散する際に、所望の濃度になるまで導電性顔料(B)の添加と前記分散を繰り返す、請求項1~11のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項13】
アニュラー型ビーズミルが、2軸駆動方式のアニュラー型ビーズミルである、請求項1~12のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項14】
アニュラー型ビーズミルの内部面が、導電性の金属以外の材質である、請求項1~13のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の方法により製造された導電性顔料ペーストに、樹脂、顔料、溶媒、及び添加剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を混合して得られる合材ペーストの製造方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか1項に記載の方法により製造された導電性顔料ペーストに、少なくとも1種の電極活物質を添加する、合材ペーストの製造方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法により得られた合材ペーストを被塗物に塗工して得られる塗工膜の製造方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法により得られた合材ペーストを集電材に塗工して得られる電池用電極層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高顔料濃度においても、顔料分散性、貯蔵安定性、仕上がり性、及び導電性等に優れる導電性顔料ペーストを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、顔料を顔料分散樹脂及び溶媒等の混合物中に分散させたペースト状の顔料分散体が、塗料、電池用電極、塗工材、コーティング材、電磁波シールド、ディスプレイパネル、タッチスクリーンパネル、着色フィルム、着色シート、化粧材、保護材、磁石改質材、印刷用インキ、デバイス部材、電子機器部材、プリント配線板、太陽電池、機能性ゴム部材、樹脂成形膜等の分野で広く用いられている。さらに、これらの材料に静電塗装性、導電性、電磁波シールド性、帯電防止性等の機能を付与するために導電性顔料や導電性高分子等を含有させている。
【0003】
これらの分野では、顔料の分散性、貯蔵安定性、塗工性、導電性、仕上がり性等の性能向上がますます要求されており、そのため、優れた顔料分散能力と、形成された顔料分散体中の顔料粒子を再凝集させないだけの優れた顔料分散安定性を有する顔料分散樹脂及び顔料ペーストの開発がなされつつある。
【0004】
顔料ペーストの設計にあたっては、顔料分散樹脂が塗工膜等の最終製品そのものの導電性能等に悪い影響を及ぼさないように、あるいは溶媒及び顔料分散樹脂の使用量を低減することや乾燥時の使用エネルギーを低減する観点から、少量の顔料分散樹脂で高濃度かつ均一に分散された顔料ペーストを作製することが重要となっている。
【0005】
例えば、特許文献1には、分散樹脂(A-1)、ポリフッ化ビニリデン(B)、導電カーボン(C)、及び溶媒(D)を含有する混合液を分散して分散液を得る工程、次いで、上記分散液に分散樹脂(A-2)を添加する工程を含むリチウムイオン電池正極用導電ペーストの製造方法であって、分散樹脂(A-1)及び/又は分散樹脂(A-2)が、多環芳香族炭化水素基及び/又はアミド基を有する樹脂を含む方法が開示されている。しかしながら、高顔料濃度及び/又は高粘度のペーストの場合は、均一な分散ができないことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-61755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高顔料濃度及び/又は高粘度のペーストにおいても顔料分散性と貯蔵安定性に優れる導電性顔料ペーストの製造方法を提供することであって、さらに、仕上がり性、及び導電性等に優れる塗工膜(電池用電極層)の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、顔料分散樹脂(A)、導電性顔料(B)、及び溶媒(C)を含有するペーストをアニュラー型ビーズミルにより分散して導電性顔料ペーストを製造する方法であって、顔料分散樹脂(A)が、特定の極性官能基を有し、かつ顔料分散樹脂(A)の極性官能基濃度が9~23mmol/gであり、導電性顔料(B)の平均1次粒子径が、10~80nmであり、顔料分散樹脂(A)の溶解性パラメーターδAと溶媒(C)の溶解性パラメーターδCとが、|δA-δC|<2.0の関係である導電性顔料ペーストを製造する方法によって、上記課題の解決が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の導電性顔料ペースト、合材ペースト、及び電池用電極層の製造方法を提供するものである。
項1.顔料分散樹脂(A)、導電性顔料(B)、及び溶媒(C)を含有するペーストをアニュラー型ビーズミルにより分散して導電性顔料ペーストを製造する方法であって、顔料分散樹脂(A)が、アミド基、イミド基、エーテル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、シラノール基、アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の極性官能基を有し、かつ顔料分散樹脂(A)の極性官能基濃度が9~23mmol/gであり、導電性顔料(B)の平均1次粒子径が、10~80nmであり、顔料分散樹脂(A)の溶解性パラメーターδAと溶媒(C)の溶解性パラメーターδCとが、|δA-δC|<2.0の関係である、導電性顔料ペーストを製造する方法。
項2.顔料分散樹脂(A)の固形分含有量が、導電性顔料ペーストの固形分総量を基準として、0.1~20質量%である、前記項1に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
項3.導電性顔料(B)の含有量が、導電性顔料ペーストの総量を基準として、10~99.9質量%であり、かつ導電性顔料ペーストの固形分総量を基準として、5~99.9質量%である、前記項1又は2に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
項4.顔料分散樹脂(A)の溶解性パラメーターδAが9.3以上であり、かつ溶媒(C)の溶解性パラメーターδCが10.4~15.0である、前記項1~3のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
項5.前記項1~4のいずれか1項に記載の方法で得られた導電性顔料ペーストを溶媒で希釈し、レーザ回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる平均粒子径(D50)が700~1,300nmである、導電性顔料ペーストを製造する方法。
項6.前記導電性顔料(B)が、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、グラフェン、黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の導電性カーボンである、前記項1~5のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
項7.さらに、導電性顔料(B)を基準として、高極性低分子量成分を0.01~500質量%含有する、前記項1~6のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
項8.さらに重量平均分子量10万以上、かつ溶解性パラメーターδDが9.3未満である皮膜形成樹脂(D)を含有する、前記項1~7のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
項9.前記項1~8のいずれか1項に記載の方法で得られた導電性顔料ペーストが、導電性顔料(B)として少なくとも1種のアセチレンブラックを含有し、更にカーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブ含有ペーストとを混合する、導電性顔料ペーストを製造する方法。
項10.前記項1~9のいずれか1項に記載の方法で得られた導電性顔料ペーストが、実質的に水を含有しない、導電性顔料ペーストを製造する方法。
項11.前記項1~10のいずれか1項に記載の方法で得られた導電性顔料ペーストが、実質的に導電性金属を含有しない、導電性顔料ペーストを製造する方法。
項12.アニュラー型ビーズミルにより分散する際に、所望の濃度になるまで導電性顔料(B)の添加と前記分散を繰り返す、前記項1~11のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
項13.アニュラー型ビーズミルが、2軸方式のアニュラー型ビーズミルである、前記項1~12のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
項14.アニュラー型ビーズミルの内部面が、導電性の金属以外の材質である、前記項1~13のいずれか1項に記載の導電性顔料ペーストを製造する方法。
項15.前記項1~14のいずれか1項に記載の方法により製造された導電性顔料ペーストに、樹脂、顔料、溶媒、及び添加剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を混合して得られる合材ペーストの製造方法。
項16.前記項1~15のいずれか1項に記載の方法により製造された導電性顔料ペーストに、少なくとも1種の電極活物質を添加する、合材ペーストの製造方法。
項17.前記項16に記載の方法により得られた合材ペーストを被塗物に塗工して得られる塗工膜の製造方法。
項18.前記項16に記載の方法により得られた合材ペーストを集電材に塗工して得られる電池用電極層の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の導電性顔料ペーストの製造方法は、高顔料濃度及び/又は高粘度においても、顔料の分散性、貯蔵安定性に優れ、比較的少ない分散樹脂の配合量で充分にペーストの粘度を低下させることができる。さらに、仕上がり性、及び導電性等に優れる塗工膜(電池用電極層)を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0012】
なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。
【0013】
本発明では、まず適度な分散状態の導電性顔料(B)を有する導電性顔料ペーストを調整し、さらに諸性能を満足する塗工膜を得るため、導電性顔料ペーストに各種成分を追加して合材ペーストを製造するものである。
【0014】
なお、本発明においては、導電性顔料ペーストを塗工するために各種成分をさらに配合して調整したペーストを「合材ペースト」という。合材ペーストを被塗物に塗工して乾燥したものを「塗工膜」という。塗工膜が電池用電極に用いられる場合は「電極層」と言い換えることができる。
【0015】
本発明の導電性顔料ペーストを製造する方法は、顔料分散樹脂(A)、導電性顔料(B)、及び溶媒(C)を含有するペーストをアニュラー型ビーズミルにより分散して導電性顔料ペーストを製造する方法であって、顔料分散樹脂(A)が、アミド基、イミド基、エーテル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、シラノール基、アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の極性官能基を有し、かつ顔料分散樹脂(A)の極性官能基濃度が9~23mmol/gであり、導電性顔料(B)の平均1次粒子径が、10~80nmであり、顔料分散樹脂(A)の溶解性パラメーターδAと溶媒(C)の溶解性パラメーターδCとが、|δA-δC|<2.0の関係である。また、|δA-δC|<1.8の関係であることが好ましく、|δA-δC|<1.6の関係であることがより好ましい。
【0016】
ここで、溶解性パラメーターとは、一般にSP値(ソルビリティ・パラメーター)とも呼ばれるものであって、溶媒や樹脂の親水性又は疎水性の度合い(極性)を示す尺度である。また、溶媒と樹脂、樹脂間の溶解性や相溶性を判断する上で重要な尺度となるものであり、溶解性パラメーターの値が近い(溶解性パラメーターの差の絶対値が小さい)と、一般的に溶解性や相溶性が良好となる。
【0017】
<顔料分散樹脂(A)>
上記導電性顔料ペーストの成分として用いることができる顔料分散樹脂(A)は、アミド基、イミド基、エーテル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、シラノール基、アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の極性官能基を含有する。また、上記樹脂(A)の極性官能基濃度は、分散性、貯蔵安定性、及び溶媒との相溶性の観点から、通常9~23mmol/gであり、好ましくは13~23mmol/gであり、より好ましくは15~23mmol/gであることが好適である。
【0018】
また、顔料分散樹脂(A)の溶解性パラメーターδAとしては、分散性、貯蔵安定性、及び溶媒との相溶性の観点から、9.3以上が好ましく、10.0~13.0がより好ましく、11.0~12.5が更に好ましい。
【0019】
樹脂の溶解性パラメーターは、当業者に公知の濁度測定法をもとに数値定量化されるものであり、具体的には、K.W.SUH、J.M.CORBETTの式(Journal of Applied Polymer Science,12,2359,1968)に準じて求めることができる。
なお、本発明における溶解性パラメーター(樹脂及び溶媒)の単位は「(cal/cm1/2」である。
【0020】
顔料分散樹脂(A)が2種以上の場合の「顔料分散樹脂(A)の溶解性パラメーターδA」は、各樹脂の溶解性パラメーター値に質量分率を乗じたものを合計した値である。
【0021】
樹脂の種類としては、具体的には、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂、及びこれらの複合樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0022】
なかでも、該ペーストから形成される導電性塗工膜の優れた導電性を低下させることなく、導電性塗工膜に十分な造膜性を付与する観点から、顔料分散樹脂(A)としては、下記式(1)の重合性不飽和基含有モノマーを含むモノマーを重合又は共重合することにより得られるビニル(共)重合体(A-1)を含有することが好ましい。尚、本発明の「(共)重合体」とは、1種類のモノマーを重合した重合体と2種以上のモノマーを共重合した共重合体の両方を含むものである。
C(-R)=C(-R) ・・・式(1)
〔上記式において、Rは、それぞれ同じでも異なってもよく、水素原子又は有機基である。〕
【0023】
上記ビニル(共)重合体(A-1)としては、その構造中に「-CH-CH(-X)-」で表される構造単位(ただし、Xは極性官能基を有する有機基である。)を含むものが好ましく、当該構造単位中の極性官能基を有する有機基Xとしては、アミド基、イミド基、エーテル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、シラノール基、アミノ基からなる群より選ばれる少なくとも一種の極性官能基を含有するものである。
【0024】
上記ビニル(共)重合体(A-1)としては、例えば、水酸基含有ビニル(共)重合体、カルボキシル基含有ビニル(共)重合体、ピロリドン基含有ビニル(共)重合体、アミド基含有ビニル(共)重合体、スルホン酸基含有ビニル(共)重合体、リン酸基含有ビニル(共)重合体、アミノ基含有ビニル(共)重合体等が挙げられる。これらの(共)重合体は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
水酸基含有ビニル(共)重合体としては、例えば、ポリヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール-脂肪酸ビニル共重合体、ビニルアルコール-エチレン共重合体、ビニルアルコール-(N-ビニルホルムアミド)共重合体、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとその他の重合性不飽和モノマーとの共重合体等が挙げられる。(共)重合体中のビニルアルコール単位は脂肪酸ビニル単位を(共)重合した後に加水分解して得られたものでも良い。
【0026】
カルボキシル基含有ビニル(共)重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸の重合体、又はポリ(メタ)アクリル酸とその他の重合性不飽和モノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0027】
ピロリドン基含有ビニル(共)重合体としては、例えば、ポリビニルピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン-エチレン共重合体、N-ビニル-2-ピロリドン-酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
【0028】
アミド基含有ビニル(共)重合体としては、例えば、(メタ)アクリルアミドの重合体、又は(メタ)アクリルアミドとその他の重合性不飽和モノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0029】
スルホン酸基含有ビニル(共)重合体としては、例えば、アリルスルホン酸又はスチレンスルホン酸等の重合体、アリルスルホン酸及び/又はスチレンスルホン酸とその他の重合性不飽和モノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0030】
リン酸基含有ビニル(共)重合体としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシアルキルアシッドホスフェートの重合体、又は(メタ)アクリロイルオキシアルキルアシッドホスフェートとその他の重合性不飽和モノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0031】
アミノ基含有ビニル(共)重合体としては、例えば、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートの重合体、又はジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートとその他の重合性不飽和モノマーとの共重合体等が挙げられる。
【0032】
これらのビニル(共)重合体(A-1)の中でも、分散性を向上させる観点、及び導電性塗工膜の表面抵抗率を低減させる観点から、水酸基含有ポリビニル(共)重合体、カルボキシル基含有ポリビニル(共)重合体、ピロリドン基含有ポリビニル(共)重合体が好ましく、なかでも水酸基含有ポリビニル(共)重合体がより好ましく、ポリビニルアルコール(共)重合体が更に好ましい。
【0033】
なお、上記ビニル(共)重合体(A-1)は、上記の「-CH-CH(-X)-」で表される構造単位と共に、必要に応じて、共重合可能な重合性不飽和基含有モノマー由来の構造単位を含んでいてもよい。共重合可能な重合性不飽和基含有モノマーとしては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酢酸イソプロペニル、バレリン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ピバリン酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン類;スチレン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル類;メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸モノエチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、フマル酸ジメチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジイソプロピル等のエチレン性不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体;メチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル等のビニルエーテル単量体;(メタ)アクリロニトリル等のエチレン性不飽和ニトリル単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体又はビニリデン単量体;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;エチレンスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有単量体;3-(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム基含有単量体;ビニルトリメトキシシラン、N-ビニルホルムアミド、メタアクリルアミド等が挙げられる。これらの単量体は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
上記ビニル(共)重合体(A-1)の重合方法は、それ自体既知の重合方法で製造することができ、例えば溶液重合を用いることが好ましいが、これに限られるものではなく、バルク重合や乳化重合や懸濁重合等でもよい。溶液重合を行う場合には、連続重合でもよいしバッチ重合でもよく、単量体は一括して仕込んでもよいし、分割して仕込んでもよく、あるいは連続的又は断続的に添加してもよい。
【0035】
溶液重合において使用する重合開始剤は、特に限定するものではないが、具体的には、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルパレロニトリル、アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルパレロニトリル)等のアゾ化合物;アセチルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキシド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート等の過酸化物;ジイソプピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、α-クミルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビスメトキシバレロニトリル等の公知のラジカル重合開始剤を使用することができる。
【0036】
重合反応温度は、特に限定するものではないが、通常30~200℃程度の範囲で設定
することができる。
【0037】
このようにして得ることができるビニル(共)重合体(A-1)は、重合度が100~4,000であることが好ましく、100~3,000、150~700であることがより好ましい。
【0038】
また、重量平均分子量としては、1,000~200,000であることが好ましく、2,000~100,000、7,000~50,000であることがより好ましい。
【0039】
上記ビニル(共)重合体(A-1)は、合成終了後に脱溶媒及び/又は溶媒置換することで、固体又は任意の溶媒に置き換えた樹脂溶液にすることができる。
【0040】
脱溶媒の方法としては、常圧で加熱により行ってもよいし、減圧下で脱溶媒してもよい。溶媒置換の方法としては、脱溶媒前、脱溶媒途中、又は脱溶媒後のいずれの段階で置換溶媒を投入してもよい。
【0041】
顔料分散樹脂(A)の固形分含有量としては、顔料分散性と貯蔵安定性の観点から、導電性顔料ペーストの固形分総量を基準として、0.1~20質量%が好ましく、0.3~15質量%がより好ましく、0.5~10質量%が特に好ましい。
【0042】
<導電性顔料(B)>
上記導電性顔料ペーストで用いることができる導電性顔料(B)としては、形成される塗工膜に導電性を付与することができるものであれば特に制限はなく、粒子状、フレーク状、ファイバー(ウィスカー含む)状の形状の顔料を挙げることができる。
【0043】
上記導電性顔料(B)の種類としては、特に導電性カーボン(B-1)を好適に使用することができ、具体的には、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、グラフェン、黒鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、なかでも少なくとも1種のアセチレンブラック(B-2)を含有することが好ましい。これらの導電性顔料(B)は、1種を単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
【0044】
上記アセチレンブラック(B-2)の平均1次粒子径としては、粘度及び導電性の関係から、10~80nmの範囲内であり、20~50nmの範囲内であることが好ましい。
【0045】
ここで、本発明の平均1次粒子径とは、顔料を電子顕微鏡で観察し、100個の粒子について、それぞれ投影面積を求めてその面積に等しい円を仮定したときの直径を求め、100個の粒子の直径を単純平均して求めた1次粒子の平均径をいう。なお、顔料が凝集状態になっていた場合は、凝集粒子を構成している1次粒子で計算をする。
【0046】
上記導電性顔料(B)の比表面積としては、粘度及び導電性の関係から、1~500m/gの範囲内であることが好ましく、30~150m/gの範囲内であることがさらに好ましい。
【0047】
上記アセチレンブラック(B-2)のジブチルフタレート(DBP)吸油量としては、顔料分散性及び導電性の関係から、60~1,000ml/100gの範囲内であることが好ましく、150~800ml/100gの範囲内であることがさらに好ましい。
【0048】
また、上記アセチレンブラック(B-2)は、導電性の観点から、1次粒子が鎖状構造(ストラクチャー)を形成している状態が好ましく、ストラクチャー指数が1.5~4.0の範囲内であることがより好ましく、1.7~3.2の範囲内であることが特に好ましい。
【0049】
ストラクチャー自体は電子顕微鏡で撮影した画像でも比較的容易に観察できるが、ストラクチャー指数はストラクチャーの度合いを定量化した数値である。ストラクチャー指数は一般的にDBP吸油量(ml/100g)を比表面積(m/g)で割った値で定義することができる。ストラクチャー指数が1.5未満であると、ストラクチャーが発達していないために、十分な導電性が得ることができず、また、4.0を超えるとDBP吸油量に対して粒子径が大きいために導電経路が減少し、十分な導電性を示さなくなるか、又はペーストの粘度が高くなる恐れがある。
【0050】
上記導電性顔料(B)の含有量としては、導電性と顔料分散性の観点から、導電性顔料ペーストの固形分総量を基準として、10~99.9質量%が好ましく、50~99.5質量%がより好ましく、70~99質量%が特に好ましい。
また、導電性顔料ペーストの総量を基準として、5~99.9質量%が好ましく、7~60質量%がより好ましく、10~50質量%がさらに好ましく、15~40質量%が特に好ましい。
【0051】
<溶媒(C)>
上記導電性顔料ペーストで用いることができる溶媒(C)としては、従来公知のものを特に制限なく使用することができる。具体的には、例えば、n-ブタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロブタン等の炭化水素系溶剤;トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;n-ブチルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコール等のエーテル系溶剤;酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系溶剤;エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、イソブタノール等の等のアルコール系溶剤;エクアミド(商品名、出光興産株式会社製、アミド系溶剤)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N-メチルプロピオアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド系溶剤等を挙げることができる。これらの溶剤は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0052】
なかでも、導電性顔料ペーストで用いることができる溶媒(C)は、顔料分散樹脂(A)の溶解性及び導電性顔料ペーストの分散安定性の観点から、水酸基、カルボキシル基、アミド基、アミノ基、エーテル基等の極性官能基を持つ溶媒を含有することが好ましい。
【0053】
また、導電性顔料ペーストの分散性や樹脂を変質又は加水分解させない観点から、実質的に水を含まないことが好ましい。ここで「実質的に水を含まない」とは、導電性顔料ペーストの全量を基準として、水の含有量が、通常1質量%以下であり、好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下であることをいう。
【0054】
本発明において、導電性顔料ペーストの水の分含有量は、カールフィッシャー電量滴定法にて測定することができる。具体的には、カールフィッシャー水分率計(京都電子工業株式会社製、製品名:MKC-610)を用い、該装置に備えられた水分気化装置(京都電子(株)製、ADP-611)の設定温度は130℃として測定することができる。
【0055】
また、顔料分散樹脂(A)の溶解性及び導電性顔料ペーストの分散安定性の観点から、溶媒(C)の溶解性パラメーター(SP値)が、10.0(cal/cm1/2以上であることが好ましく、10.4~15.0(cal/cm1/2の範囲内であることがさらに好ましく、10.5~13.0(cal/cm1/2の範囲内であることが特に好ましい。
【0056】
溶媒の溶解性パラメーターは、J.Brandrup及びE.H.Immergut編“Polymer Handbook” VII Solubility Parameter Values,pp519-559(John Wiley& Sons社、第3版1989年発行)に記載される方法に従って求めることができる。2種以上の溶媒を組合せて混合溶媒として用いる場合、その混合溶媒の溶解性パラメーターは、実験的に求めることができ、また、簡便な方法として、個々の液状溶媒のモル分率と溶解性パラメーターとの積の総和により求めることもできる。
【0057】
本発明の「溶媒(C)の溶解性パラメーター」とは、導電性顔料ペーストに含まれる全ての溶媒(混合溶媒)の溶解性パラメーターのことである。
【0058】
<導電性顔料ペースト>
本発明の製造方法で用いることができる導電性顔料ペーストは、上記の顔料分散樹脂(A)、導電性顔料(B)、溶媒(C)の他に、必要に応じて、その他の成分を含有することができる。
【0059】
その他の成分としては、顔料分散樹脂(A)以外の顔料分散樹脂、皮膜形成樹脂、中和剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤、可塑剤、導電性顔料(B)以外の顔料等を挙げることができる。
【0060】
顔料分散樹脂(A)以外の顔料分散樹脂及び皮膜形成樹脂としては、例えば、上記顔料分散樹脂(A)以外のアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、スチレン系樹脂、ジエン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びこれらの複合樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0061】
なかでも、皮膜形成樹脂(D)を含有することが好ましい。皮膜形成樹脂(D)は、塗工膜の膜形成を目的とする樹脂であり、顔料分散樹脂(A)が必須成分としている極性官能基を実質的に含有していない低極性の樹脂であり、例えば、極性官能基濃度としては10mmol/g未満であり、好ましくは5mmol/g以下であり、より好ましくは1mmol/g以下であることが好適である。
【0062】
皮膜形成樹脂(D)としては、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂、スチレン系樹脂、ジエン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂及びこれらの複合樹脂等を好適に用いることができる。これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0063】
皮膜形成樹脂(D)は、顔料分散時に含有していてもよく、あるいは顔料分散後に添加して含有してもよい。皮膜形成樹脂(D)の重量平均分子量としては、基材との密着性、塗膜物性の補強、及び耐溶剤性の観点から、100,000以上であることが好ましく、500,000~3,000,000であることがより好ましい。また、皮膜形成樹脂(D)の溶解性パラメーターとしては、10未満であることが好ましく、9.3未満であることがより好ましい。
【0064】
また、本発明の導電性顔料ペーストは、導電性顔料のぬれ性及び/又は分散安定性を上げる観点から、高極性低分子量成分を含有することが好ましい。
【0065】
高極性低分子量成分としては、塩基性又は酸性のものが好ましく、一部又は全部が塩であっても良い。なかでも、顔料が酸性の場合は塩基含有低分子量成分が好ましく、顔料が塩基性の場合は酸基含有低分子量成分が好ましい。
【0066】
高極性低分子量成分は、溶媒蒸発(加熱乾燥)後の塗工膜にできる限り残留しないことが耐水性等の観点から好適であり、分子量としては、1,000未満が好ましく、400未満がより好ましく、200未満がより好ましい。沸点としては、400℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、200℃以下がさらに好ましい。
【0067】
高極性低分子量成分としては、例えば、有機酸、無機酸、有機塩基及び無機塩基を用いることができる。有機酸としては、有機カルボン酸(ギ酸、グルタミン酸、酢酸、プロピオン酸、安息香酸、フタル酸等)、有機スルホン酸(ベンゼンスルホン酸等)等が、無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等が、有機塩基としては、アミン化合物(ピリジン、メチルエタノールアミン、ベンジルアミン、トリエチルアミン、アニリン等)等が、無機塩基としては、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等)等が、それぞれあげられる。
なかでもアミノ基を含有する少なくとも1種のアミン化合物が好ましい。
上記アミン化合物のアミン価としては、通常5~1000mgKOH/g、好ましくは50~1000mgKOH/g、より好ましくは105~1000mgKOH/gの範囲内であることが好適である。
【0068】
上記高極性低分子量成分の含有量下限値としては、導電性顔料(B)の濡れ性及び/又は貯蔵安定性を上げる観点から、導電性顔料(B)の固形分100質量%を基準として、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、含有量上限値としては、通常500質量%以下、好ましくは450質量%以下、より好ましくは400質量%以下、更に好ましくは300質量%以下である。
【0069】
導電性顔料(B)以外の顔料としては、例えば、チタン白、亜鉛華等の白色顔料;シアニンブルー、インダスレンブルー等の青色顔料;シアニングリーン、緑青等の緑色顔料;アゾ系やキナクリドン系等の有機赤色顔料、ベンガラ等の赤色顔料;ベンツイミダゾロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系及びキノフタロン系等の有機黄色顔料、チタンイエロー、黄鉛等の黄色顔料等が挙げられる。これらの顔料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。これらの導電性顔料(B)以外の顔料は、導電性を大きく損なわない範囲内で色調整や膜の物性補強等の目的で使用することができ、顔料分散樹脂(A)と導電性顔料(B)と共に同時に分散してもよく、また、顔料分散樹脂(A)と導電性顔料(B)を分散してペーストを作成した後に顔料又は顔料ペーストとして混ぜても良い。
【0070】
また、導電性顔料ペーストを電池用電極の材料として使用する場合、比較的大きな導電性異物が混入していると短絡して発火等の原因となることから、導電性顔料ペースト中に導電性金属を実質的に含有しないことが好ましい。本発明において「導電性金属を実質的に含有しない」とは、導電性顔料ペースト中に導電性金属が通常1質量%以下のことであり、好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下であることをいう。また、後述する合材ペーストとしては電極活物質(少なくとも1種のアルカリ金属及び少なくとも1種の遷移金属元素を有する複合酸化物)を含んでいても良い。
【0071】
上記導電性顔料(B)以外の顔料の含有量としては、導電性顔料ペースト中の全顔料を基準として、10質量以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0072】
導電性顔料ペースト中の顔料分散樹脂(A)の固形分含有量は、ペーストの固形分総量を基準として、通常30質量%以下、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%であることが、顔料分散時の粘度、顔料分散性、分散安定性、生産効率及び導電性等の面から好適である。
【0073】
また、導電性顔料ペーストを溶媒で希釈し、レーザ回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる平均粒子径(D50)としては、400~1,500nmの範囲内であることが好ましく、700~1,300nmの範囲内であることがより好ましく、650~1,150nmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0074】
また、導電性顔料(B)の1次粒子の平均粒子径(D50)を1とした場合、上記導電性顔料ペーストを溶媒(C)で希釈し、レーザ回折散乱法による体積基準の粒度分布測定により得られる平均粒子径(D50)は、15~30となるのが好ましく、18~25がより好ましい。
【0075】
なお、上記粒度分布測定において、導電性顔料ペースト中に導電性顔料(B)以外の顔料が含有されていた場合、導電性顔料(B)のみを用いて作成した導電性顔料ペーストを測定するものとする。
【0076】
なお、本発明においては、レーザ回折散乱法による体積基準の粒度分布測定は、溶媒(C)で希釈し、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、製品名マイクロトラックMT3000)により行った。
【0077】
また、導電性顔料ペーストの粘度としては、貯蔵時に高粘度であり、剪断応力がかかる製造時(配合、攪拌、ポンプ輸送等)又は塗工時に低粘度になる、いわゆる擬塑性のペ-ストであることが貯蔵安定性(顔料の沈降性)、製造性、塗工性、及び仕上がり性の観点から好ましい。
【0078】
本発明の導電性顔料ペーストは製造後(分散後)に他の導電性顔料と混合することができる。
本発明の製造方法で用いる導電性顔料ペーストの導電性顔料(B)としてはアセチレンブラックが好ましく、製造(分散)後に混合する導電性顔料としては、導電性の観点からカーボンナノチューブが好ましい。上記カーボンナノチューブとしては、分散剤や溶媒等を含んだ分散液(ペースト)であっても良い。
また、導電性顔料(B)としてアセチレンブラックを用いた合材ペースト(後述)を製造後に、該合材ペーストとカーボンナノチューブ又はカーボンナノチューブ含有ペーストとを混合しても良い。
本発明の製造方法で用いる導電性顔料ペースト又は合材ペースト(後述)中に、アセチレンブラック及びカーボンナノチューブを含有する場合、アセチレンブラックとカーボンナノチューブの含有比率としては、固形分質量の比率で1/99~99/1が好ましく、50/50~99/1がより好ましい。
【0079】
<導電性顔料ペーストの製造方法>
【0080】
本発明の導電性顔料ペーストの製造方法としては、以上に述べた各成分を、アニュラー型ビーズミルで分散する方法である。
本発明において、アニュラー型ビーズミルとは、円筒状のローターを有するベセル容器内部にビーズが充填されているビーズミルである。回転するローターとベセル容器の内壁面との間を分散されるペーストが通過する際に分散が行われる機構となっている。他の方式に比べて比較的狭い領域をペーストが通過することから、ビーズの偏りやショートパスが少なく、ペーストの分散効率が均一となる。アニュラー型ビーズミルの市販品としては、例えば、EIRICH社製:商品名DCPミル、(株)井上製作所製:商品名スパイクミル、浅田鉄工(株)製:タフミル、アシザワ・ファインテック(株)社製:商品名スターミルLMZ等が挙げられる。
【0081】
上記アニュラー型ビーズミルは、分散性の観点から、2軸駆動方式であることがより好ましい。本発明において、2軸駆動方式のアニュラー型ビーズミルとは、円筒状のローターの内側にステータ、スクリュー、及びスクリーン等が形成されたビーズミルであり、1軸駆動方式よりもビーズの偏りやショートパスが軽減される。
2軸駆動方式のアニュラー型ビーズミルとしては、具体的には、例えば、特開平10-005560号公報、特開2003-1082号公報、特開2006-7128号公報等に記載されたビーズミルが挙げられる。
【0082】
上記2軸駆動方式のアニュラー型ビーズミルは、分散性の観点から、ローターの内側のステータ、スクリュー、及びスクリーン等が回転する事が好ましい。ローターの回転と逆の方向に回転させることで、高濃度のペーストを分散させることができる。
【0083】
上記2軸駆動方式のアニュラー型ビーズミルにおいて、分散されたペーストを分離する機構としては、上記特開平10-005560号公報等ではスクリーンタイプを用いているが、本発明においてはスクリーンタイプに限定されず、遠心分離タイプ、ギャップタイプなどを用いてもよい。
上記アニュラー型ビーズミルの分散速度は、周速5m/s~25m/sが好ましく、8m/s~20m/sがより好ましい。
【0084】
また、本発明の製造方法においては、上記導電性顔料ペースト及びビーズが攪拌装置で攪拌され、次いで配管を通って分散装置(ビーズミル)に送付され、分散されたペーストが別の配管を通って再び攪拌装置に戻る循環分散システムを用いることが好ましい。
上記循環分散システムにおいては、当初は低い顔料濃度で分散し、ある程度粘度が下がったところで顔料を攪拌装置に投入(添加)し、ペーストの顔料濃度が所望の値になるまで顔料投入と分散処理を繰り返すことが好ましい。
上記製造方法では、「顔料投入」と「分散処理」とを繰り返すことによって、分散装置内のペースト粘度を低く維持したまま顔料濃度を所望の値に近づけていくことができ、これによって高分散及び高濃度のペーストを得ることができる。
【0085】
なお、上記アニュラー型ビーズミルにおいては、導電性の金属異物がペースト内に混入することを防止するため、ペーストと接する内部面が導電性の金属以外の材質(例えば無機材質)であることが好ましい。
【0086】
[合材ペーストの製造方法]
本発明の合材ペーストの製造方法としては、前記導電性顔料ペーストに、樹脂、顔料、溶媒、及び添加剤からなる群より選ばれる少なくとも1種の成分を混合して合材ペーストを得る製造方法である。
【0087】
上記樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエーテル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリカーボネート樹脂、シリケート樹脂、塩素系樹脂、フッ素系樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、及びこれらの複合樹脂等が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0088】
上記顔料としては、例えば、着色顔料、光輝性顔料、体質顔料、防錆顔料、金属粒子等が挙げられる。これらの顔料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
なかでも、合材ペーストを電池用電極層の材料として用いる場合は電極活物質を含有することが好ましい。電極活物質としては、少なくとも1種のアルカリ金属及び少なくとも1種の遷移金属元素を有する複合酸化物が好ましく、例えば、ナトリウム複合酸化物(Na2/3Ni1/3Mn2/3等)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、のリチウム複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/32等)などが挙げられる。これらの電極活物質は、1種単独で、又は2種以上を混合して用いることができる。
電極活物質を含有する場合、上記合材ペースト固形分中の電極活物質の固形分含有量は、通常70~99.9質量%、好ましくは80~99質量%であることが、電池容量及び電池抵抗などの面から好適である。
【0089】
上記溶媒としては、特に制限はないが、前述した溶媒(C)と同様の溶媒を好適に用いることができる。溶媒は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0090】
上記添加剤としては、中和剤、顔料分散剤、消泡剤、防腐剤、防錆剤、可塑剤、粘性調整剤等が挙げられる。
【0091】
合材ペースト中の顔料分散樹脂(A)の含有量は、合材ペースト中の固形分総量を基準として、通常0.01~80質量%、好ましくは0.02~50質量%、より好ましくは0.05~20質量%、特に好ましくは0.08~10質量%であることが、顔料分散時の粘度、顔料分散性、貯蔵安定性、生産効率、及び導電性等の面から好ましい。
【0092】
合材ペーストは、以上に述べた各成分を、例えば、ディスパー、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、ペブルミル、LMZミル、DCPパールミル、遊星ボールミル、ホモジナイザー、二軸混練機、薄膜旋回型高速ミキサー等の従来公知の撹拌機又は分散機を用いて均一に混合又は分散させることにより調製することができる。
【0093】
[塗工膜(電極層)の製造方法]
前記合材ペーストを被塗物に塗布(塗工)することで塗工膜を製造することができる。
【0094】
本発明において、塗工膜とは、液状の合材ペーストを被塗物(基材)に塗布して加熱乾燥した固形状の膜のことであり、被塗物から剥がして導電性フィルムを得ることや、板状被塗物(基材)の片面又は両面に塗工して導電性材料を得ることもできる。
【0095】
被塗物は特に限定されるものではなく、例えば、金属材;各種プラスチック材;ガラス、セメント、コンクリート等の無機材料;木材;繊維材料(紙、布等)等を挙げることができ、これらの複合材料であってもよい。また、これらの被塗物は、必要に応じて適宜、脱脂処理、表面処理等することができる。
なお、電池用電極層としては集電材(好ましくはアルミ集電材)に塗布(塗工)することが好ましい。
上記電極層は、例えば、リチウムイオン電池の正極または負極として用いることができる。
【0096】
塗布方法としては、一定の膜厚範囲内で塗布できるものであれば特に限定されず、例えば、ローラー塗装、刷毛塗装、霧化塗装、ディッピング塗装、アプリケーター塗装、シャワーコート塗装、ロールコーター塗装、ダイコーター塗装等が挙げられる。
【0097】
膜厚としては、乾燥膜厚で1~200μmが好ましく、2~150μmがより好ましい。
乾燥温度としては、60~300℃の温度が好ましく、80~200℃の温度がより好ましい。
【0098】
加熱乾燥することにより、合材ペーストに含まれる溶媒が80%以上消失することが好ましく、90%以上消失することがより好ましく、95%以上消失することが特に好ましい。また、高極性低分子量成分を含有している場合、上記の加熱乾燥により、一部又は全部が消失することが好ましい。
【実施例0099】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。各例中の「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0100】
<顔料分散樹脂(A)の製造方法>
製造例1 顔料分散樹脂A1の製造
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル97部及びビニルスルホン酸3部、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて、約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥し、スルホン酸変性酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体(顔料分散樹脂A1)を得た。得られた顔料分散樹脂A1は、けん化度が97mol%、SP値が12.5(cal/cm1/2、水酸基濃度が21.1mmol/g、スルホン酸基濃度が0.65mmol/g、重量平均分子量が15,000であった。
【0101】
製造例2 顔料分散樹脂A2の製造
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル90部及びアクリル酸10部、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて、約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥し、カルボン酸変性酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体(顔料分散樹脂A2)を得た。得られた顔料分散樹脂A2は、けん化度が90mol%、SP値が12.5(cal/cm1/2、水酸基濃度が19.2mmol/g、カルボキシル基濃度が2.1mmol/g、重量平均分子量が17,000であった。
【0102】
製造例3 顔料分散樹脂A3の製造
温度計、環流冷却管、窒素ガス導入管および撹拌機を備えた反応容器に、重合性モノマーとして酢酸ビニル90及びアクリル酸10部、溶媒としてメタノール、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを用いて、約60度の温度で共重合反応を行った後、減圧下に未反応のモノマーを除去し、樹脂溶液を得た。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を添加してケン化反応を行い、よく洗浄した後、熱風乾燥機で乾燥し、カルボン酸変性酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体(顔料分散樹脂A3)を得た。得られた顔料分散樹脂A3は、けん化度50mol%、SP値が10.6(cal/cm1/2、水酸基濃度が5.9mmol/g、カルボキシル基濃度が1.5mmol/g、重量平均分子量が20,000であった。
【0103】
<導電性顔料ペーストの製造方法>
実施例1~26、比較例1~7
下記表1~2に記載した原料を配合し、続いて表中に記載の分散条件(分散機及びパス回数)にて分散を行い、導電性顔料ペースト(X-1~X-33)を得た。表中の樹脂配合量は固形分の値である。
【0104】
尚、パス回数とは理論処理回数を示す単位であり、以下の計算式より求められる。
1パスに必要な処理時間(h)=ペースト液量(L)÷分散機の処理速度(L/h)
パス回数(理論処理回数)=処理時間(h)÷1パスに必要な処理時間(h)

また、下記表1~2に、製造した導電性顔料ペーストにおける、SP値差(|δA-δC|)、平均粒子径(D50)、評価試験結果(初期粘度、分散性、貯蔵安定性、仕上がり性、導電性、耐溶剤性)を下記表1~2にあわせて記載する。
尚、導電性顔料ペースト(X-1~X-33)の水分含有量をカールフィッシャー電量滴定法にて測定したが、全て0.1質量%以下であった。
【0105】
本発明においては、評価試験における全項目の性能に優れていることが重要であり、いずれか1つに「D(不合格)」の評価がある場合、その導電性顔料ペーストは不合格となる。
尚、比較例1、2、3、4、5及び7に関しては、初期粘度、分散性及び貯蔵安定性の1つ以上の評価結果が「D(不合格)」であったため、評価試験のうちの仕上がり性、導電性、及び耐溶剤性についての試験は行わなかった。
【0106】
【表1】
【0107】
【表2】
【0108】
なお、上記表1~2中の略称は下記の通りである。
【0109】
[顔料分散樹脂(A)]
A1:スルホン酸変性酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体(けん化度97mol%、SP値:12.5、水酸基濃度:21.1mmol/g、スルホン酸基濃度:0.65mmol/g、重量平均分子量:15,000)
A2:カルボン酸変性酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体(けん化度90mol%、SP値:12.5、水酸基濃度:19.2mmol/g、カルボキシル基濃度:2.1mmol/g、重量平均分子量:17,000)
A3:カルボン酸変性酢酸ビニル-ビニルアルコール共重合体(けん化度50mol%、SP値:10.6、水酸基濃度:5.9mmol/g、カルボキシル基濃度:1.5mmol/g、重量平均分子量:20,000)
A4:ポリアクリルアミド(SP値12.0、アミド基濃度14.1mmol/g、重量平均分子量18,000)
A5:ヒドロキシエチルアクリレート=アクリル酸共重合体(SP値11.8、水酸基濃度4.3mmol/g、カルボキシル基濃度6.9mmol/g、重量平均分子量13,000)
A6:ポリアクリル酸(SP値:13.0、カルボキシル基濃度:13.9mmol/g、重量平均分子量:15,000)
A7:ポリメタクリル酸メチル(SP値:9.23、極性基濃度0mmol/g、重量平均分子量:21,000)。
【0110】
[導電性顔料(B)]
B1:カーボンブラック(アセチレンブラック)(平均1次粒子径25nm、pH:9、BET比表面積115m/g)
B2:カーボンブラック(アセチレンブラック)(平均1次粒子径35nm、pH:9、BET比表面積70m/g)
B3:カーボンブラック(アセチレンブラック)(平均1次粒子径50nm、pH:9、BET比表面積36m/g)
B4:カーボンブラック(アセチレンブラック)(平均1次粒子径55nm、pH:9、BET比表面積28m/g)
B5:カーボンブラック(アセチレンブラック)(平均1次粒子径90nm、pH:9、BET比表面積9m/g)。
【0111】
[溶媒(C)]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン(SP値11.1)
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド(SP値11.2)
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値10.4)。
【0112】
[被膜形成樹脂(D)]
PVDF:ポリフッ化ビニリデン(重量平均分子量:80万、SP値9.1)。
【0113】
[高極性低分子量成分]
ベンジルアミン(分子量107)
ギ酸(分子量46)
グルタミン酸(分子量147)。
【0114】
[SP値差(|δA-δC|)]
顔料分散樹脂(A)の溶解性パラメーターδAと溶媒(C)の溶解性パラメーターδCとの関係|δA-δC|は、顔料分散樹脂(A)のδAであるSP値から溶媒(C)のSP値を引いた値の絶対値であって、下記の式により算出した。なお、
|δA-δC|=|顔料分散樹脂(A)のSP値-溶媒(C)のSP値|。
【0115】
[分散機]
2軸アニュラー型:特開平10-005560号公報に記載の2軸駆動型のアニュラー型ビ
ーズミル
1軸アニュラー型:アシザワ・ファインテック(株)社製、商品名スターミルLMZ(1軸
駆動型のアニュラー型ビーズミル)
ディスク型:(株)シンマルエンタープライゼス社製、商品名DYNO-MILL(ディ
スク型ビーズミル)
フィルミックス:プライミクス(株)社製分散機(非メジア型分散機)。
【0116】
[平均粒子径(D50)]
導電性顔料ペーストを溶媒(C)で希釈し、レーザ回折散乱法を用いて体積基準の平均粒子径(D50)を算出した。上記測定は、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル社製、製品名マイクロトラックMT3000)を用いた。
【0117】
[評価試験]
<初期粘度>
得られた導電性顔料ペーストをコーン&プレート型粘度計(HAAKE社製、商品名Mars2、直径35mm、2°傾斜のコーン&プレート)を用い、せん断速度0.1s-1で粘度(mPa・s)を測定し、下記基準により評価した。
A:粘度が、500mPa・sより高く、かつ1,000mPa・sより低い。
B:粘度が、1,000mPa・s以上、かつ2,500mPa・sより低い。
C:粘度が、2,500mPa・s以上、かつ5,000mPa・sより低い。
D:粘度が、5,000mPa・s以上。
【0118】
<分散性>
得られた導電性顔料ペーストをJIS K-5600-2-5の分散度試験に準じ、ツブゲージを用いて下記基準により分散性を評価した。
S:顔料が10μm未満で分散されている。分散性は非常に良好である。
A:顔料が10μm以上、かつ15μm未満で分散されている。分散性は良好である。
B:顔料が15μm以上、かつ20μm未満で分散されている。分散性はやや良好である。
C:顔料が20μm以上で分散されているが、目視で凝集物は確認できない。分散性はやや劣る。
D:目視で凝集物が確認される。分散性は非常に劣る。
【0119】
<貯蔵安定性(導電性顔料ペースト)>
得られた導電性顔料ペーストを50℃の温度で1ヶ月貯蔵を行い、初期粘度と貯蔵後の粘度の比較を行なった。粘度は、コーン&プレート型粘度計(HAAKE社製、商品名Mars2、直径35mm、2°傾斜のコーン&プレート)を用い、せん断速度1.0s-1で測定し、下記式により粘度上昇率を求め、下記の基準により貯蔵安定性を評価した。
【0120】
粘度上昇率(%)=貯蔵後粘度(mPa・s)/初期粘度(mPa・s)×100-100
S:貯蔵後の粘度上昇率(%)が、10%未満である。
A:貯蔵後の粘度上昇率(%)が、10%以上、かつ50%未満である。
B:貯蔵後の粘度上昇率(%)が、50%以上、かつ100%未満である。
C:貯蔵後の粘度上昇率(%)が、100%以上、かつ200%未満である。
D:貯蔵後の粘度上昇率(%)が、200%以上である。
【0121】
<仕上がり性>
後述する導電性の評価試験で得られた試験板の外観を観察し、目視での仕上がり性を評価した。
S:極めて均一な外観を有している。
A:均一な外観を有している。
B:ややムラがあると視認される部分があるものの、ほぼ均一な外観を有している。
C:ムラが視認され、やや不良である。
D:外観が明らかに不均一であり、不良である。
【0122】
<導電性>
ポリプロピレン板(10cm×15cm×3mm)の上にアルミ箔テープ(住友3M社製、No.425)を3cm間隔で平行に2本貼り付けた。次いで、得られた導電性顔料ペーストをアルミ箔テープの間に長さ5cm、乾燥膜厚15μmになるようにアプリケーターで塗装し、室温で2分間放置してから、80℃で10分間加熱乾燥し、幅3cm×長さ5cm×膜厚15μmの乾燥塗膜を作成した。
【0123】
アルミ箔テープ間に塗装した乾燥塗膜の抵抗率を計測機(横河計測社製、商品名ディジタルマルチメーターMODEL73401)を用いて20℃、相対湿度65%の状態下で測定し、下記基準により導電性を評価した。
S:抵抗率が、0.005Ωm未満であり、導電性は最も良好である。
A:抵抗率が、0.005Ωm以上、かつ0.0065Ωm未満であり、導電性は非常に良好である。
B:抵抗率が、0.0065Ωm以上、かつ0.008Ωm未満であり、導電性は良好である。
C:抵抗率が、0.008Ωm以上、かつ0.01Ωm未満であり、導電性はやや劣る。D:抵抗率が、0.01Ωm以上であり、導電性は非常に劣る。
【0124】
<耐溶剤性>
上記導電性試験で用いた乾燥塗膜の上にシクロヘキサノンを接触させた。3日後に溶剤
を除去して指でラビング後の塗膜状態を観察し、下記基準により耐溶剤性を評価した。
A:塗膜の状態に変化なし。
B:塗膜に溶媒の跡(白濁状)がある。
C:塗膜が軟化する。
D:塗膜の一部又は全部が剥離する。
【0125】
[応用例Y-1及びY-21]
<合材ペースト及び正極電極層の製造>
実施例1及び実施例21で得られた導電性顔料ペースト(X-1)598部と(X-21)598部に、それぞれN-メチル-2-ピロリドンを300部及びカーボンナノチューブ(多層、平均外径9nm、平均長さ20μm)2部を混合し、ディスパーを用いて60分間混合攪拌し、導電性顔料ペースト(X-1-1)及び(X-21-1)を得た。次いで、それぞれ電極活物質(リチウム複合酸化物、LiNi1/3Co1/3Mn1/32)を120部加え、ディスパーを用いて60分間混合攪拌し、合材ペースト(Y-1)及び(Y-21)を得た。
【0126】
続いて、アルミ箔を被塗物として、上記合材ペースト(Y-1)及び(Y-21)をアプリケーターで乾燥膜厚50μmになるように塗工し、180℃の温度で40分乾燥し、正極電極層を得た。
【0127】
得られた電極層(2種類)は、いずれも残存溶媒量が1%未満であり、仕上がり性及び電池性能は良好であった。
【0128】
[応用例Z-1~Z-26]
<合材ペースト及び正極電極層の製造>
実施例1~26で得られた導電性顔料ペースト(X-1~X-26)100部に、N-メチル-2-ピロリドンを50部、及び、電極活物質(リチウム複合酸化物、LiNi1/3Co1/3Mn1/32)を20部加え、ディスパーを用いて60分間混合攪拌し、それぞれ合材ペースト(Z-1~Z-26)を得た。
【0129】
続いて、アルミ箔を被塗物として、上記合材ペーストをそれぞれアプリケーターで乾燥膜厚50μmになるように塗工し、180℃の温度で40分乾燥し、正極電極層を得た。
【0130】
得られた電極層は、いずれも残存溶媒量が1%未満であり、仕上がり性及び電池性能は良好であった。