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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148218
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】カムシャフト
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/047 20060101AFI20231005BHJP
   F02B 67/04 20060101ALI20231005BHJP
   F16D 1/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F01L1/047
F02B67/04 G
F16D1/06 230
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056123
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099966
【弁理士】
【氏名又は名称】西 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100134751
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 隆一
(72)【発明者】
【氏名】畑田 浩平
【テーマコード(参考)】
3G016
【Fターム(参考)】
3G016AA02
3G016AA08
3G016AA19
3G016BA28
3G016CA58
3G016GA01
(57)【要約】
【課題】一端部にカム角度検出用のシグナルロータと補機駆動用ボス部とを有して、ボス部には補機の係合突起が噛合する係合溝を形成しているカムシャフトにおいて、カム角度の検出精度や補機駆動機能を阻害することなく短縮化を可能にする。
【解決手段】カムシャフト3の後端のジャーナル部4に設けた後ろ向き張り出し部7に、カム角度検知用のシグナルロータ9と補機駆動用のボス部10とが形成されている。ボス部10に形成した係合溝30に、補機の回転軸19に設けた係合突起29が噛合するが、係合溝30をシグナルロータ9の肉厚部内に入り込ませている。係合溝30をシグナルロータ9にオーバーラップできるため、エンジンの全長を短くしてコンパクト化できる。シグナルロータ9の歯部11~13には加工不要であるため、カム角度の検出精度には影響しない。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カム軸本体と、前記カム軸本体の一端に設けた大径のシグナルロータとを有し、前記シグナルロータに欠歯部が形成されており、かつ、前記シグナルロータの端面に、補機を駆動するための係合突起が噛み合う係合溝を有するボス部が突設されているカムシャフトであって、
前記係合溝が前記シグナルロータの肉厚部内に入り込んでいる、
カムシャフト。
【請求項2】
前記シグナルロータには、軸心を挟んで両側に開口するように一対の前記欠歯部が形成されており、前記係合溝は、前記一対の欠歯部と連通するように形成されている、
請求項1に記載したカムシャフト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、エンジン(内燃機関)に使用するカムシャフトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カムシャフトはバルブを開閉するものであり、回転角度を検知する必要がある。そこで、その一端部に、外周に複数の欠歯部が形成されたシグナルロータを一体に設けて、外周面に対してセンサを臨ませることが行われている。
【0003】
また、カムシャフトでオイルポンプやブレーキブースターアシスト用真空ポンプのような補機を駆動することも行われており、その例が特許文献1に開示されている。この特許文献1では、カムシャフトの一端面に一文字状の係合溝を形成し、オイルポンプのロータに設けた一文字状の突起を係合溝に噛合させることにより、カムシャフトによってオイルポンプを駆動している。すなわち、特許文献1には、オイルポンプのロータとカムシャフトの一端部とをカップリング機構によって噛合させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08-270410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
さて、カムシャフトの一端部にカム角度検出用のシグナルロータと補機駆動用ボス部とを設けることも行われており、この場合は、ボス部をシグナルロータの端面から突設させることになる。他方、エンジンの小型化のためにカムシャフト及びシリンダヘッドの長さを短くせねばならない場合があるが、カムシャフトにシグナルロータとボス部とを一体に設けた従来の構造では、カムシャフトの長さを詰める方法が無くて、エンジンの小型化を実現できないという問題があった。
【0006】
本願発明はこのような現状を背景に成されたものであり、センサによるセンシング機能を損なうことなくエンジンのコンパクト化を実現しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明はカムシャフトに関するものであり、
「カム軸本体と、前記カム軸本体の一端に設けた大径のシグナルロータとを有し、前記シグナルロータに欠歯部が形成されており、かつ、前記シグナルロータの端面に、補機を駆動するための係合突起が噛み合う係合溝を有するボス部が突設されているカムシャフトであって、
前記係合溝が前記シグナルロータの肉厚部内に入り込んでいる」
という構成になっている。
【0008】
本願発明は、様々に具体化できる。その例として請求項2では、
「前記シグナルロータには、軸心を挟んで両側に開口するように一対の前記欠歯部が形成されており、前記係合溝は、前記一対の欠歯部と連通するように形成されている」
という構成になっている。
【発明の効果】
【0009】
本願発明では、係合溝がシグナルロータに入り込んでいる。すなわち、シグナルロータとクラック部とが軸方向に重なっている。従って、シグナルロータのセンシング機能と補機の駆動機能とを確保しつつ、カムシャフトの全長を短くしてエンジンのコンパクト化に貢献できる。
【0010】
シグナルロータの検知は、欠歯部の間の歯部をセンサで検知しているため、係合溝が欠歯部に連通していても、センサの検出機能には影響しない。そして、係合溝が欠歯部に連通していることにより、係合溝はシグナルロータの端面をフライス加工することによって容易に形成できる。従って、係合溝加工の容易性とセンサ機能及び補機駆動機能の確実性を損なうことなく、エンジンをコンパクト化できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】カム軸及びシリンダヘッドの一部をやや下方から見た縦断側面図である。
図2】(A)はカム軸を図1に対して90°回転させた状態での縦断側面図、(B)は(A)のB-B視断面図である。
図3】(A)は係合溝を横から見た状態での要部の分離側面図、(B)は(A)のB-B視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車の多気筒エンジンに適用している。以下では方向を特定するため前後の文言を使用するが、前後方向はクランク軸線方向及びカム軸線方向であり、タイミングチェーンが配置されている側を前として、ミッションが配置されている側を後ろとしている。
【0013】
(1).構造の説明
本実施形態では、シリンダヘッドは、吸気ポートや排気ポートが形成された本体(図示せず)に、図1に示したカムハウジング1を上から重ね固定した構造になっており、カムハウジング1に設けた複数の半円状軸受部2に、カムシャフト(排気側又は吸気側のカムシャフト)3のジャーナル部4がカムキャップ5を介して回転自在に保持されている。符号6で示すのは、バルブを開閉するカムロブである。
【0014】
カムシャフト3は、後端のジャーナル部4の後方に突出した後ろ向き張り出し部7を備えており、後ろ向き張り出し部7に、カム角度センサ8で検知するためのシグナルロータ9と、シグナルロータ9の後端面から突出したボス部10とを設けている。シグナルロータ9はカムロブ6よりも少し大径に設定されており、図3(B)に明示するように、外周部に、第1~第3の3つの欠歯部14~16と、隣り合った欠歯部14~16の間に位置した3つの歯部11~13とが形成されている。
【0015】
3つずつの欠歯部14~16と歯部11~13とは、周方向の長さが相違している。便宜的に、歯部11~13は、周方向の長さが短い順に第1歯部11、第2歯部12、第3歯部13と呼んで、欠歯部14~16は、周方向の長さが長い順に、第1欠歯部14、第2欠歯部15、第3欠歯部16と呼ぶこととする。
【0016】
図1のとおり、カムハウジング1を構成する後ろ壁17の端面に、補機の一例としての真空ポンプ18が図示しないボルトで固定されている。真空ポンプ18はブレーキブースタをアシストするためのものであり、羽根車又はロータを備えた回転軸19が、後ろ壁17を貫通した状態でカムシャフト3と同心に配置されている。ポンプ室は下方に膨れており、後面に、入口ポート20と出口ポート21とを設けている。ブレーキブースタは入口ポート20に接続されて、出口ポート21は大気に開放されている。
【0017】
図2に明示するように、カム角度センサ8はシグナルロータ9の上方に配置されている。カム角度センサ8は、下半部がヘッドカバー22に貫通してシグナルロータ9に向いた本体部23と、ヘッドカバー22の上面に重なって本体部23に繋がった締結部24とを有しており、締結部24がボルト(図示せず)で固定されている。また、本体部23の上端部にはOリング25を装着しており、ヘッドカバー22に形成された筒状ボス部26の内周にOリング25が密嵌している。
【0018】
本体部23の下端は近接スイッチ等の検知部になっており、シグナルロータ9の各歯部11~13を検知することにより、カムシャフト3の回転位相が割り出される。そして、カム角度センサ8による角度検出と図示しないVVTによる進角制御又は遅角制御との組合せにより、バルブの開閉タイミングが制御される。
【0019】
真空ポンプ18の回転軸19は、カムシャフト3によって駆動される。そこで、回転軸19の前端にビス27で固定された回転体(円板)28の前端に一文字状の係合突起29を形成して、この係合突起29を、カムシャフト3のボス部10に形成した一文字状の係合溝30に噛合させている。回転体28は、オイルシール31を介してカムハウジング1に回転自在に保持されている。回転軸19は、カムハウジング1に装着した軸受部材32によって回転自在に保持される。
【0020】
そして、係合溝30は、ボス部10の全長を分断しつつ、シグナルロータ9の一部まで入り込んでおり、かつ、係合溝30は、軸心を挟んで両側に位置した第1欠歯部14と第3欠歯部16とに連通している。すなわち、係合溝30の両端は、第1欠歯部14と第3欠歯部16との箇所で外周方向(放射方向)に開放されている。
【0021】
(2).まとめ
以上の構成において、係合突起29と係合溝30との噛み合わせによるカップリング機構により、真空ポンプ18の回転軸19はカムシャフト3によって駆動されるが、係合溝30はシグナルロータ9の肉厚部内(板厚部内)に入り込んでいるため、カムシャフト3の全長を短くして、シリンダヘッド(カムハウジング1)の全長を短くできる。従って、エンジンのコンパクト化に貢献できる。
【0022】
そして、カム角度センサ8は、シグナルロータ9の歯部11~13を検知するものであるため、係合溝30をシグナルロータ9の肉厚部内に入り込ませても、カム角度センサ8による検知精度には影響しない。従って、バルブの開閉タイミングの制御機能を阻害することなく、エンジンをコンパクト化できる。
【0023】
係合溝30はシグナルロータ9のうち歯部11~13の箇所に形成することも可能であるが、この場合は、カム角度センサ8による正確な検知のためには歯部11~13の外周面には所定の幅寸法が必要であることから、係合溝30は歯部11~13の外周面に至らないようにエンドミルによって加工せねばならず、すると、加工に手間がかかる問題がある。
【0024】
これに対して、本実施形態のように係合溝30を一対の欠歯部14,16に開口させると、係合溝30はフライス加工によって迅速かつ高精度で形成できる。従って、カム角度センサ8の検出精度を阻害することなく、係合溝30を容易に加工できる。
【0025】
本実施形態では、係合突起29は欠歯部14~16の箇所に位置しているが、係合突起29の先端面は欠歯部14~16の内周面よりも軸心側に位置している。換言すると、係合突起29の外接円の直径は欠歯部14~16の内径よりも小径に設定されている。このため、カム角度センサ8が係合突起29を誤って検出することはない。この点でも、カム角度センサ8は検知精度に優れている。
【0026】
以上、本願発明の実施形態を説明したが、本願発明は他にも様々に具体化できる。例えば、係合突起と係合溝とは、例えば十字状に形成することも可能である。補機としては、オイルポンプやウォータポンプも採用できる。2本のカムシャフトのうち一方でオイルポンプ又はウォータポンプを駆動して、他方で真空ポンプを駆動するといったことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本願発明はエンジンのカムシャフトに具体化できる。従って、産業上利用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 シリンダヘッドを構成するカムハウジング
2 軸受部
3 カムシャフト
4 ジャーナル部
5 カムキャップ
6 カムロブ
7 後ろ向き張り出し部
8 カム角度センサ
9 シグナルロータ
10 ボス部
11~13 歯部
14~16 欠歯部
18 補機の一例としての真空ポンプ
19 真空ポンプの回転軸
23 カム角度センサの本体部
28 回転体(円板)
29 係合突起
30 係合溝
図1
図2
図3