(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148236
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ダンパー装置
(51)【国際特許分類】
F16F 9/53 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
F16F9/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056146
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】391064005
【氏名又は名称】株式会社アツミテック
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】金取 正樹
(72)【発明者】
【氏名】石本 淳一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友孝
(72)【発明者】
【氏名】清水 大海
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069BB10
3J069DD25
3J069EE62
(57)【要約】
【課題】小型で広範囲の荷重に対応可能な、磁気粘性流体を使用したダンパー装置を提供する。
【解決手段】磁界の印加に応じて粘度が変化する磁気粘性流体を封入したシリンダ6と、シリンダ6内を移動しつつ第1隔室8及び第2隔室9に区画するピストン7と、第1隔室8と第2隔室9とを連通する流体通路30と、電磁コイル11及び鉄心パイプ12、14を有する電磁石3、5と、を有し、電磁コイル11に通電して流体通路30に磁界を印加し、流体通路30内での磁気粘性流体の流動抵抗を増加させて、ピストン7に接続した対象物に対して移動抵抗を付加するMRダンパー1において、流体通路30は、鉄心パイプ12、14の一端部に面して配置され、当該電磁コイル11によって磁界が印加される第1流体通路31と、鉄心パイプ12、14内を通過する第2流体通路32、33と、を備えた。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁界の印加に応じて粘度が変化する磁気粘性流体を封入したシリンダと、
前記シリンダ内を移動しつつ第1隔室及び第2隔室に区画する移動体と、
前記第1隔室と前記第2隔室とを連通する流体通路と、
電磁コイル及び鉄心を有する電磁石と、を有し、
前記電磁コイルに通電して前記流体通路に磁界を印加し、前記流体通路内での前記磁気粘性流体の流動抵抗を増加させて、前記移動体の移動に対して抵抗を付加するダンパー装置において、
前記流体通路は、
前記鉄心の一端部に面して配置され、当該電磁コイルによって磁界が印加される第1流体通路と、
前記鉄心内を通過する第2流体通路と、を備えた
ことを特徴とするダンパー装置。
【請求項2】
前記第2流体通路は、前記第1流体通路の一端と前記第1隔室とを接続する流路と、前記第1流体通路の他端と前記第2隔室とを接続する流路と、を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のダンパー装置。
【請求項3】
前記電磁石は、3個以上並列に配置され、
前記第1流体通路は、並列した前記電磁石の鉄心の一端部に沿って配置され、
前記第2流体通路は、並列した前記電磁石のうちの両端に位置する前記電磁石の鉄心の内部を夫々通過するように配置される
ことを特徴とする請求項2に記載のダンパー装置。
【請求項4】
前記第1流体通路に面して前記電磁石のヨークになる金属板を設けた
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のダンパー装置。
【請求項5】
前記第1流体通路は、積層した複数のプレートの間に形成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のダンパー装置。
【請求項6】
前記第1流体通路と前記第2流体通路とは、角度を有して接続されている
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のダンパー装置。
【請求項7】
前記第1流体通路の前記第2流体通路との接続部の近傍位置に、前記第1流体通路の流路断面積を変更する流路断面積変更手段を備えた
ことを特徴とする請求項6に記載のダンパー装置。
【請求項8】
前記第1流体通路はヨークの内部に備えられるとともに、前記第2流体通路は前記鉄心内に備えられ、前記ヨークに前記鉄心が挿入されて接続され、
前記流路断面積変更手段は、前記ヨークに対する前記鉄心の挿入量を変更して接続することで、前記第1流体通路の流路断面積を変更する
ことを特徴とする請求項7に記載のダンパー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気粘性流体を使用したダンパー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、磁気粘性流体を使用したダンパー装置(以下、MRダンパーという)が開発されている。磁気粘性流体は、磁界を印加されると粘度が増加する流体である。
【0003】
特許文献1には、ピストンシリンダタイプのMRダンパーが開示されている。特許文献1のMRダンパーは、シリンダ内で移動するピストンの両側に隔室を設け、両側の隔室を細径の連通路によって連通して密閉し、当該連通路の周囲に電磁石を配置した構成になっている。そして、電磁石によって磁界を印加し磁気粘性流体の粘度を増加させることで、連通路を移動する磁気粘性流体の流動抵抗を増加させる。これにより、ピストンの移動が抑制され、ピストンに接続した物体を制振させることができる。更に、電磁石へ供給する電流を変更することで磁気粘性流体の流動抵抗を変化させ、容易に減衰力を変更することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のようなシリンダタイプの磁気粘性流体を使用したダンパー装置は、例えば自動車のサスペンション装置や建物の制振用に使用され、負荷の大きな用途に使用されることが多い。しかしながら、大きな負荷に対応するために、電磁石を多数設置するあるいは大きくする必要があり、ダンパー装置が大型化してしまうといった問題点がある。
【0006】
また、電磁石を小型化することでダンパー装置を小型化することは可能であるが、流動抵抗の制御範囲が小さくなり、減衰力の変更可能な範囲、即ち負荷荷重の対応可能な範囲が狭くなってしまうといった問題点がある。
【0007】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、小型で広範囲の負荷荷重に対応可能な、磁気粘性流体を使用したダンパー装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のダンパー装置は、磁界の印加に応じて粘度が変化する磁気粘性流体を封入したシリンダと、前記シリンダ内を移動しつつ第1隔室及び第2隔室に区画する移動体と、前記第1隔室と前記第2隔室とを連通する流体通路と、電磁コイル及び鉄心を有する電磁石と、を有し、前記電磁コイルに通電して前記流体通路に磁界を印加し、前記流体通路内での前記磁気粘性流体の流動抵抗を増加させて、前記移動体の移動に対して抵抗を付加するダンパー装置において、前記流体通路は、前記鉄心の一端部に面して配置され、当該電磁コイルによって磁界が印加される第1流体通路と、前記鉄心内を通過する第2流体通路と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
好ましくは、前記第2流体通路は、前記第1流体通路の一端と前記第1隔室とを接続する流路と、前記第1流体通路の他端と前記第2隔室とを接続する流路と、を有するとよい。
【0010】
好ましくは、前記電磁石は、3個以上並列に配置され、前記第1流体通路は、並列した前記電磁石の鉄心の一端部に沿って配置され、前記第2流体通路は、並列した前記電磁石のうちの両端に位置する前記電磁石の鉄心の内部を夫々通過するように配置されるとよい。
【0011】
好ましくは、前記第1流体通路に面して前記電磁石のヨークになる金属板を設けるとよい。
【0012】
好ましくは、前記第1流体通路は、積層した複数のプレートの間に形成されるとよい。
【0013】
好ましくは、前記第1流体通路と前記第2流体通路とは、角度を有して接続されているとよい。
【0014】
好ましくは、前記第1流体通路の前記第2流体通路との接続部の近傍位置に、前記第1流体通路の流路断面積を変更する流路断面積変更手段を備えるとよい。
【0015】
好ましくは、前記第1流体通路はヨークの内部に備えられるとともに、前記第2流体通路は前記鉄心内に備えられ、前記ヨークに前記鉄心が挿入されて接続され、前記流路断面積変更手段は、前記ヨークに対する前記鉄心の挿入量を変更して接続することで、前記第1流体通路の流路断面積を変更するとよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、流体通路を通過する磁気粘性流体の流動抵抗により移動体の移動が抑制される。これにより、例えば移動体に接続した被制振体の振動を抑制することができる。また、電磁石によって第1流体通路に磁界が印加されることで、流体通路を通過する磁気粘性流体の粘度を増加させて流動抵抗を増加させることができる。したがって、電磁石の電磁コイルに通電することで、移動体の移動を容易に強く抑制することができる。
【0017】
更に、流体通路は、電磁石の鉄心の一端部に面して配置され、当該電磁コイルによって磁界が印加される第1流体通路と、前記鉄心の内部を通過する第2流体通路と、を備えているので、電磁コイルへの通電により第1流体通路を通過する磁気粘性流体の流動抵抗を増加させるだけでなく、鉄心内の第2流体通路を通過する際にも磁界が印加されることで、第1流体通路との接続部の流動抵抗が集中的に増加する。
【0018】
これにより、小型の電磁石によって、流体通路を通過する磁気粘性流体の粘度を大きく増加させて流動抵抗を大幅に増加させることができ、広範囲の負荷荷重に対応可能なダンパー装置にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態のMRダンパーの形状を示す斜視図である。
【
図2】本実施形態のMRダンパーの内部構造を示す縦断面図である。
【
図3】本実施形態のMRダンパーにおける第1流体通路の形状を示す説明図である。
【
図4】本実施形態のMRダンパーにおける鉄心パイプとヨークとの接続部の構造を示す縦断面図である。
【
図5】本実施形態のMRダンパーにおける流体経路及び発生する磁界の説明図である。
【
図6】他の実施形態のMRダンパーの概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態のMRダンパー1(ダンパー装置)の形状を示す斜視図である。
図2は、本実施形態のMRダンパー1の内部構造を示す縦断面図である。なお、
図1では、後述する電磁コイルの巻き線部の記載を省略している。
【0022】
MRダンパーは、磁気粘性流体(Magneto-Rheological Fluid)を使用したダンパーである。磁気粘性流体は、例えば鉄粉を含有した流体であり、磁界を印加されると粘度が増加する。
【0023】
MRダンパーは、電磁石により磁界を印加して磁気粘性流体の粘度を増加させることで、容易に減衰性能を変化させることができる。MRダンパーは、例えば車両のサスペンション装置や建物の免振装置に使用されている。
【0024】
本実施形態のMRダンパー1は、例えば車両のシフト装置に使用されるような比較的小型のものである。
【0025】
図1、2に示すように、本実施形態のMRダンパー1は、ピストンシリンダタイプのMRダンパーである。MRダンパー1は、ピストンシリンダ2及び3個の電磁石3、4、5を備えている。
【0026】
ピストンシリンダ2は、外形が直方体である筒状のシリンダ6内を移動可能なピストン7(移動体)によって第1隔室8と第2隔室9とに区画されている。
【0027】
電磁石3、4、5は、ボビン10に電線を巻いて略円筒状に構成された電磁コイル11と、ボビン10内に挿入された鉄心12、13、14を備えている。電磁石3、4、5は、シリンダ6に隣接しシリンダ6の軸線方向に並んで配置されている。
【0028】
鉄心12、13、14は、一端部がシリンダ6の一側壁15に支持され、シリンダ6の軸線方向に対して垂直に離間する方向に延び、他端部が矩形板状のヨーク20に支持されている。
【0029】
ヨーク20は、シリンダ6の一側壁15と離間して平行に配置され、例えば4本のボルト21によってシリンダ6に固定されている。即ち、シリンダ6の一側壁15とヨーク20との間に、3個の電磁石3、4、5がシリンダ6の軸線方向に並んで配置されている。
【0030】
また、3個並んだ電磁石3、4、5のうちの中央の電磁石4の鉄心13は円柱状であり、両外側の電磁石3、5の鉄心12、14は、円筒状になっている。なお、両外側の電磁石3、5の鉄心12、14について、以降は鉄心パイプ12、14という。
【0031】
ヨーク20は、矩形平板状の2枚のプレート22、23に1枚のスペーサー24を挟み、例えば四隅をねじ25によって固定して構成されている。2枚のプレート22、23及びスペーサー24は、外形が略同一である。スペーサー24は、例えば厚さが1mm弱程度のアルミニウム等の非磁性体であり、
図3に示すように内部が長手方向に延びるように刳り貫かれている。2枚のプレート22、23が1枚のスペーサー24を挟むことで、スペーサー24の刳り貫かれた部分が、厚さ1mm弱程度の内部空間である第1流体通路31になっている。
【0032】
2枚のプレート22、23のうちのシリンダ6側のカバープレート22は、厚さが数mm程度のアルミニウム等の非磁性体で形成されている。シリンダ6とは反対側のヨークプレート23は、ヨーク本体であり、比較的厚い鉄製の板(金属板)等の磁性体である。カバープレート22には、中央に位置する電磁石4の鉄心13の他端部が当接するとともに、鉄心パイプ12、14の他端部が挿入される穴が夫々設けられている。カバープレート22の2個の穴は、ヨーク20の第1流体通路31の両端部付近で連通している。即ち、鉄心パイプ12、14内の穴がヨーク20内の第1流体通路31を介して連通した構造になっている。
【0033】
MRダンパー1には、第1隔室8と第2隔室9とを連通する流体通路30が形成されている。
【0034】
流体通路30は、ヨーク20内に形成された内部空間である第1流体通路31と、鉄心パイプ12、14内の穴である第2流体通路32、33と、により構成されている。
【0035】
鉄心パイプ12内に設けられた第2流体通路32は、第1流体通路31の一端と第1隔室8とを接続するように構成されている。鉄心パイプ14内に設けられた第2流体通路33は、第1流体通路31の他端と第2隔室9とを接続するように構成されている。
【0036】
シリンダ6の第1隔室8、第2隔室9、及び流体通路30は、外部に対して密閉されており、上述の磁気粘性流体が隙間なく封入されている。
【0037】
シリンダ6内のピストン7には、ピストンロッド35が接続されている。ピストンロッド35は、シリンダ6の両端部から外方に夫々突出している。そして、シリンダ6は、例えば基台に固定され、ピストンロッド35の端部は移動抵抗を付加する対象物に接続されている。
【0038】
図4は、鉄心パイプ12、14とヨーク20との接続部の形状を示す縦断面図である。
【0039】
カバープレート22とスペーサー24との間、及びヨークプレート23とスペーサー24との間には、夫々薄板状のシール部材41が設けられている。シール部材41は、スペーサー24と外形が略同一であるとともに、第1流体通路31と同一形状に刳り貫かれている。
【0040】
鉄心パイプ12、14のヨーク20側の端部は、外周壁面側を削って板厚が薄く形成されている。これにより、鉄心パイプ12、14の端部には、内壁面側が突出する突出部42が形成されるとともに、突出部42の外周側に段差43が形成されている。
【0041】
また、カバープレート22と鉄心パイプ12、14の段差43との間には、鉄心パイプ12、14とヨーク20との接続部における流体の外部への漏れを防止するために、ゴム等のような弾性を有するとともに比較的厚いリング状のシール部材44が挟持されている。
【0042】
そして、ボルト21の締め付け量を変更することで、ヨーク20に対する鉄心パイプ12、14の挿入量を変更することができる。例えばボルト21の締め付け量を大きくすることで、
図4において2点鎖線で記載されているように、鉄心パイプ12、14の突出部42の先端とヨークプレート23の第1流体通路31側の表面23aとの間の隙間が小さくなり、鉄心パイプ12、14とヨーク20との接続部付近の第1流体通路31の流路断面積が減少する。
【0043】
また、厚さが異なる数種類のスペーサー24をあらかじめ用意しておき、スペーサー24を交換してその厚さを変更することで、第1流体通路31の流路断面積を変更するようにしてもよい。
【0044】
なお、鉄心パイプ12、14とヨーク20との接続部付近における、突出部42等による第1流体通路31の流路断面積を変更させる構造が、本発明の流路断面積変更手段に該当する。
【0045】
以上のような構成により、MRダンパー1は、ピストン7が左右のいずれかに移動すると、
図5中の破線に示すように、第1隔室8及び第2隔室9の一方から他方に向かって、流体通路30(第1流体通路31及び第2流体通路32、33)を介して磁気粘性流体が移動する。このとき、磁気粘性流体は、厚さ1mm弱程度の空間である第1流体通路31を通過するので、第1流体通路31での流動抵抗により磁気粘性流体の移動が抑制される。なお、この第1流体通路31となる空間の厚さ1mm弱程度は一例であって、設定する厚さの範囲を広げてもよい。例えば厚さの範囲は、0.2mm~2mmであり、より好ましくは0.3mm~1mmの範囲である。
【0046】
これにより、ピストン7の移動が抑制され、シリンダ6に接続された基台に対して、ピストンロッド35に接続された対象物に対して移動抵抗を付加することができる。
【0047】
また、電磁石3、4、5の電磁コイル11に例えば直流電流を供給することで、
図5中の一点鎖線に示すように、鉄心12、13、14及びその周囲に磁界が発生する。電磁石3、5と電磁石4とが互いに逆向きに磁界が発生するように電磁石3、4、5に通電して鉄心12、13、14及びその周囲に磁界が印加されることで、電磁石3、4、5の鉄心12、13、14の端部に面して配置された第1流体通路31を通過する磁気粘性流体の粘度を増加させて流動抵抗を増加させることができる。したがって、電磁石3、4、5に通電することで、ピストン7の移動抵抗を増加させることができる。
【0048】
更に、第1隔室8と第2隔室9とを接続する磁気粘性流体の流体通路30は、第1流体通路31だけでなく、電磁石3、5の鉄心パイプ12、14内を通過する第2流体通路32、33を備えているので、電磁石3、5の電磁コイル11への通電により第2流体通路32、33を通過する際にも磁界が印加されて第2流体通路32、33と第1流体通路31との接続部付近において流動抵抗が更に増加する。また、鉄心パイプ12、14内に第2流体通路32、33を設けることにより、より垂直な磁界が効果的に掛けられる。なお、電磁石3、4、5への通電によって、磁気粘性流体の粘度が増加する部位を、
図5中の2点鎖線で示している。
【0049】
これにより、小型の電磁石3、4、5によって、流体通路30を通過する磁気粘性流体の流動抵抗を大きく増加させ、ピストン7の移動抵抗を更に増加させることができる。
【0050】
また、本実施形態では、第1流体通路31に面して外側(シリンダ6とは反対側)に金属板であるヨークプレート23を設け、このヨークプレート23を電磁石3、4、5のヨークにしている。したがって、第1流体通路31に面して、特に第1流体通路31と第2流体通路32との接続部付近において、電磁石3、4、5による磁界をより集中させることができ、磁気粘性流体の流動抵抗を更に大きく増加させることができる。
【0051】
また、ヨーク20はプレート22とスペーサー24とプレート23とを積層して構成されており、第1流体通路31はプレート22とプレート23との間に形成されている。したがって、プレート22、23の間に挟まれるスペーサー24を厚さの異なるものに交換することで、第1流体通路31の流路断面積を容易に変更することができる。これにより、ピストン6の移動抵抗の設定可能範囲、延いてはMRダンパー1の減衰力の設定可能範囲を容易に異なる仕様に変更することが可能になる。
【0052】
本実施形態では、シリンダ6の一側壁に3個の電磁石3、4、5が並んで配置され、第1流体通路31は、並列した電磁石3、4、5の電磁コイル11の一端部に沿って配置され、第2流体通路32、33は、並列した電磁石3、4、5のうちの両端に位置する電磁石3、5の鉄心パイプ12、14の内部を夫々通過するように配置されている。
【0053】
したがって、3個の電磁石3、4、5、及び第1隔室8と第2隔室9とを接続する磁気粘性流体の流体通路30を、シリンダ6とともにコンパクトに構成することができる。
【0054】
また、第1流体通路31と第2流体通路32、33とは、90度の角度で接続されている。したがって、この接続部を磁気粘性流体が通過する際に流動抵抗が増加する。特に、第1流体通路31の流路断面積が比較的小さく形成されているので、第2流体通路32、33から第1流体通路31に流入する際に、磁気粘性流体の流動抵抗が大きく増加する。
【0055】
更に、第2流体通路32、33において磁界が印加されるので、第2流体通路32、33から第1流体通路31に流入する前に磁気粘性流体の粘度を増加させ、第2流体通路32、33から第1流体通路31に流入する際の流動抵抗をより大きく増加させることができる。
【0056】
また、本実施形態では、ボルト21の締め付け量を変更することで、ヨーク20に対する鉄心パイプ12、14の挿入量を容易に変更することができる。ヨーク20に対する鉄心パイプ12、14の挿入量を変更することで、ヨーク20と鉄心パイプ12、14との接続部付近、即ち第1流体通路31と第2流体通路32、33との接続部付近において、第1流体通路31の流路断面積を容易に変更することができる。したがって、コンパクトかつ簡単な構成によって、第1流体通路31と第2流体通路32、33との接続部付近を通過する際の磁気粘性流体の流動抵抗を容易に変更することができる。
【0057】
また、ヨーク20に対する鉄心パイプ12、14の挿入量を変更して、第1流体通路31と第2流体通路32、33との接続部付近の第1流体通路31の流路幅を狭くすることで、当該狭くした磁気粘性流体の流路部での電磁石3、4、5による磁束密度が増加し、磁気粘性流体の粘度の更なる増加と、せん断抵抗の増加とによって、磁気粘性流体の流動抵抗を更に増加させることができる。
【0058】
このように、ヨーク20に対する鉄心パイプ12、14の挿入量を変更することで、磁気粘性流体の流動抵抗の増加と磁気粘性流体に印加する磁界の磁束密度の増加とが相まって、磁気粘性流体の流動抵抗を大幅に増加させることが可能になり、MRダンパー1におけるピストン7の移動抵抗を容易に大きく変更することが可能になる。
【0059】
また、第2流体通路32、33から第1流体通路31に向かって流体通路30が屈曲した直後の流路断面積の小さい第1流体通路31の流路断面積を変更する構成であるので、流路断面積を小さく変更しても流動抵抗を大きく変更することができる。
【0060】
例えば、第2流体通路32、33の周囲ではなく外部に電磁石を設けて磁界を印加した場合のように電磁石3、5内に第2流体通路32、33を有しない比較例、詳しくは第1流体通路31のみに磁界を印加させる構造であり、第1流体通路31及び第2流体通路32、33の流路断面積、長さ、接続角度、電磁石3、4、5における電磁コイル11の巻き数、通電電流といったその他の条件が本実施形態と同一である比較例と、本実施形態とを比較すると、本実施形態のように電磁石3、5の鉄心内に流路(第2流体通路32、33)を設けた方が、電磁コイル11の通電電流を増加させることで、ピストン7の移動抵抗を大きく増加させることができる。
【0061】
このように、電磁石3、5の鉄心パイプ12、14内に第2流体通路32、33を有することにより、電磁石3、4、5の電流変化に対してピストン7の移動抵抗を大きく変化させることができる。特に、第2流体通路32、33と流路断面積の小さい第1流体通路31とを90度の角度で接続した構成を組み合わせることで、電磁石3、4、5の電流変化に対してピストン7の移動抵抗をより大幅に変化させることができる。したがって、小型でありながら広範囲な負荷荷重に対応して移動抵抗(減衰力)を大きく変更できるMRダンパー1を提供することができる。
【0062】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態ではピストンシリンダタイプのMRダンパー1に本発明を適用しているが、ロータリーシリンダタイプのMRダンパーにも本発明を適用することができる。例えば
図6に示すように、ロータリーシリンダ51の2つの隔室52、53間を接続する流体通路54に、本実施形態のような電磁石3、4、5及び第1流体通路31、及び第2流体通路32、33を配置したユニットを備えてMRダンパー50(ダンパー装置)を構成すればよい。
【0063】
また、本実施形態では、3個の電磁石3、4、5を備えているが、3個以上電磁石を設けてもよいし、両端の電磁石3、5のみにしてもよい。両端の電磁石3、5のみにした場合、電磁石3、5の磁力線はいずれも同一の鉄心パイプ12、14を通過するので、磁界を打ち消さないように、電磁石3、5の電磁コイル11に供給する直流電流の向きを設定すればよい。
【0064】
また、上記の各実施形態において、各種部品の詳細な構造については適宜変更することができる。例えば非通電時、通電時の夫々における移動抵抗(減衰力)といったMRダンパーの要求仕様に応じて、第1流体通路31の形状を適宜変更してもよい。
【0065】
また、上記のMRダンパー1は、変速機のシフト装置において、例えばシフトレバーを各ポジションに移動した際にクリック感を与えるためのアクチュエータとして使用される。これにより、シフトレバーの操作フィーリングを任意にかつ容易に変更することができる。しかしながら、本実施形態のMRダンパー1、50を制振用として使用してもよい。本発明は、変速機のシフト装置以外にも各種用途に使用されるMRダンパーに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0066】
1、50 MRダンパー(ダンパー装置)
3、5 電磁石
6 シリンダ
7 ピストン(移動体)
8 第1隔室
9 第2隔室
11 電磁コイル
12、14 鉄心パイプ(鉄心)
22 カバープレート(プレート)
23 ヨークプレート(プレート、ヨーク)
24 スペーサー
30、54 流体通路
31 第1流体通路
32、33 第2流体通路
42 突出部(流路断面積変更手段)