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特開2023-148254蓄電池のデータ抽出装置及び蓄電池のデータ抽出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148254
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】蓄電池のデータ抽出装置及び蓄電池のデータ抽出方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20231005BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20231005BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20231005BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20231005BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/367
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H02J7/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056167
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】沖田 優斗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 翔治
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 涼
(72)【発明者】
【氏名】長岡 直人
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA21
2G216CB12
2G216CB13
2G216CB34
5G503AA01
5G503BA01
5G503BB01
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503EA09
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS03
5H030FF41
(57)【要約】
【課題】蓄電池の劣化診断に有用なより多くのデータを抽出することができる蓄電池のデータ抽出装置及び蓄電池のデータ抽出方法を提供する。
【解決手段】蓄電池の劣化診断に係るデータ抽出は、検出電流値(I)が急変する変動区間(T)とその前区間Tとの両区間の検出値データが有用な解析用データかを判定する。前区間では、検出電流値の変動が閾値ΔI以下で前区間以上継続する安定推移かを判定する。変動区間では、検出電流値の変動の頂点Iの設定とともに、検出電流値の頂点までの変動が変動第1区間Tb1以内に閾値ΔI以上変動する急変推移かを判定する。頂点以降では、頂点からの検出電流値の一定変動が閾値(ΔI)以下の変動幅内で変動第2区間Tb2以上継続、若しくは頂点からの検出電流値の減少変動が減少過程での閾値(ΔI)以下の増加変動を含み変動第2区間以上継続する頂点後推移かを判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電池の劣化診断に係る検出値データを連続的に格納する記憶部と、
前記記憶部に連続的に格納した前記検出値データの中から有用な解析用データを抽出するデータ抽出部と、を備えた蓄電池のデータ抽出装置であって、
前記データ抽出部は、前記蓄電池のCレート値又は電流値若しくは電力値のいずれかである検出値が急変する変動区間と前記変動区間の前区間とに分け、
前記前区間では、前記検出値の変動が第1閾値以下で第1時間以上継続する安定推移の判定と、
前記変動区間では、前記検出値の変動の頂点の設定とともに、前記検出値の前記頂点までの変動が第2時間以内に第2閾値以上変動する急変推移の判定と、前記頂点以降において、前記頂点からの前記検出値の一定変動が第3閾値以下の変動幅内で第3時間以上継続する、若しくは前記頂点からの前記検出値の減少変動が減少過程での第4閾値以下の増加変動の許容を含み第4時間以上継続する頂点後推移の判定と、を実施し、
前記各判定に基づき、前記前区間及び前記変動区間を含む所定区間の前記検出値データを前記解析用データとして前記記憶部から抽出するように構成された、
蓄電池のデータ抽出装置。
【請求項2】
前記データ抽出部は、
前記前区間内で変動の基準として設定する前記検出値の内の基準検出値を、前記変動区間の急変推移の判定にも用いるように構成された、
請求項1に記載の蓄電池のデータ抽出装置。
【請求項3】
前記データ抽出部は、
前記変動区間での前記検出値の前記頂点の設定の際、仮頂点の設定から第5時間以内に前記検出値が再び前記仮頂点以上に変動した後の頂点を前記検出値の前記頂点として設定するように構成された、
請求項1又は請求項2に記載の蓄電池のデータ抽出装置。
【請求項4】
前記データ抽出部のデータ抽出対象の前記蓄電池は定置用蓄電池である、
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の蓄電池のデータ抽出装置。
【請求項5】
蓄電池の劣化診断に係る検出値データを連続的に記憶部に格納し、
前記記憶部に連続的に格納した前記検出値データの中から有用な解析用データを抽出する、蓄電池のデータ抽出方法であって、
前記蓄電池のCレート値又は電流値若しくは電力値のいずれかである検出値が急変する変動区間と前記変動区間の前区間とに分け、
前記前区間では、前記検出値の変動が第1閾値以下で第1時間以上継続する安定推移を判定し、
前記変動区間では、前記検出値の変動の頂点の設定とともに、前記検出値の前記頂点までの変動が第2時間以内に第2閾値以上変動する急変推移を判定し、前記頂点以降において、前記頂点からの前記検出値の一定変動が第3閾値以下の変動幅内で第3時間以上継続する、若しくは前記頂点からの前記検出値の減少変動が減少過程での第4閾値以下の増加変動の許容を含み第4時間以上継続する頂点後推移を判定し、
前記各判定に基づき、前記前区間及び前記変動区間を含む所定区間の前記検出値データを前記解析用データとして前記記憶部から抽出する、
蓄電池のデータ抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の劣化診断を行うためのデータ抽出を行う蓄電池のデータ抽出装置及び蓄電池のデータ抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーの有効利用や災害時の電力供給等を目的とした定置用蓄電池設備の導入が拡大しつつある。蓄電池は次第に劣化していくため、蓄電池の現状を把握することはシステムを健全に運用していく上で非常に重要である。そのため、蓄電池の劣化状態を診断することが行われている。
【0003】
蓄電池の劣化診断の一例としては、稼動中の蓄電池の過渡応答特性を用いる例えば特許文献1に開示されているような技術がある。開示の劣化診断技術は、蓄電池が所定の過渡応答特性を示した時の電流等の検出値データを解析用データとして抽出し、抽出した解析用データを用いて劣化診断がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-16991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記開示の劣化診断技術は、蓄電池の検出値データから劣化診断に適するデータをより多く抽出できるかが劣化診断の精度を向上させる上での検討事項の一つである。すなわち、本発明者は、蓄電池の劣化診断に有用なより多くのデータを抽出し得る手法を様々検討していた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する蓄電池のデータ抽出装置は、蓄電池の劣化診断に係る検出値データを連続的に格納する記憶部と、前記記憶部に連続的に格納した前記検出値データの中から有用な解析用データを抽出するデータ抽出部と、を備えた蓄電池のデータ抽出装置であって、前記データ抽出部は、前記蓄電池のCレート値又は電流値若しくは電力値のいずれかである検出値が急変する変動区間と前記変動区間の前区間とに分け、前記前区間では、前記検出値の変動が第1閾値以下で第1時間以上継続する安定推移の判定と、前記変動区間では、前記検出値の変動の頂点の設定とともに、前記検出値の前記頂点までの変動が第2時間以内に第2閾値以上変動する急変推移の判定と、前記頂点以降において、前記頂点からの前記検出値の一定変動が第3閾値以下の変動幅内で第3時間以上継続する、若しくは前記頂点からの前記検出値の減少変動が減少過程での第4閾値以下の増加変動の許容を含み第4時間以上継続する頂点後推移の判定と、を実施し、前記各判定に基づき、前記前区間及び前記変動区間を含む所定区間の前記検出値データを前記解析用データとして前記記憶部から抽出するように構成された。
【0007】
上記蓄電池のデータ抽出装置によれば、データ抽出部は、蓄電池の劣化診断に係る検出値が急変する変動区間と変動区間の前区間とに分け、前区間及び変動区間の検出値データが有用な解析用データかを判定する。前区間では、検出値の変動が第1閾値以下で第1時間以上継続する安定推移かが判定される。変動区間では、検出値の変動の頂点の設定とともに、検出値の頂点までの変動が第2時間以内に第2閾値以上変動する急変推移かが判定される。頂点以降においては、頂点からの検出値の一定変動が第3閾値以下の変動幅内で第3時間以上継続する、若しくは頂点からの検出値の減少変動が減少過程での第4閾値以下の増加変動の許容を含み第4時間以上継続する頂点後推移かが判定される。そして、各判定に基づき、前区間及び変動区間の検出値データが有用なデータと判定されると、前区間及び変動区間を含む所定区間の検出値データが解析用データとして記憶部から抽出される。すなわち、蓄電池の検出値データが劣化診断に有用なデータかの判定は、蓄電池の検出値が急変する変動区間及び前区間での変動条件を充足するかで行われる。また、変動区間での検出値の頂点以降では、蓄電池の検出値の変動条件が一定変動若しくは減少変動のいずれでも判定可能であるため、有用なデータの抽出機会の増加が期待できる。
【0008】
上記蓄電池のデータ抽出装置において、前記データ抽出部は、前記前区間内で変動の基準として設定する前記検出値の内の基準検出値を、前記変動区間の急変推移の判定にも用いるように構成された。
【0009】
上記構成によれば、前区間内で変動の基準として設定する検出値の内の基準検出値が変動区間の急変推移の判定にも用いられるため、区間毎に判定値を個々に設定しなくてもよく、判定を簡略的に行うことが可能である。
【0010】
上記蓄電池のデータ抽出装置において、前記データ抽出部は、前記変動区間での前記検出値の前記頂点の設定の際、仮頂点の設定から第5時間以内に前記検出値が再び前記仮頂点以上に変動した後の頂点を前記検出値の前記頂点として設定するように構成された。
【0011】
上記構成によれば、変動区間での仮頂点の設定から第5時間以内に検出値が再び仮頂点以上に変動した後の頂点が検出値の頂点として設定される。検出値の頂点の設定を適切に行うことが期待でき、データ抽出を適切に行うことに繋がる。
【0012】
上記蓄電池のデータ抽出装置において、前記データ抽出部のデータ抽出対象の前記蓄電池は定置用蓄電池である。
上記構成によれば、データ抽出対象が定置用蓄電池であるため、定置用蓄電池の劣化診断に係るデータ抽出を好適に行うことが可能である。
【0013】
上記課題を解決する蓄電池のデータ抽出方法は、蓄電池の劣化診断に係る検出値データを連続的に記憶部に格納し、前記記憶部に連続的に格納した前記検出値データの中から有用な解析用データを抽出する、蓄電池のデータ抽出方法であって、前記蓄電池のCレート値又は電流値若しくは電力値のいずれかである検出値が急変する変動区間と前記変動区間の前区間とに分け、前記前区間では、前記検出値の変動が第1閾値以下で第1時間以上継続する安定推移を判定し、前記変動区間では、前記検出値の変動の頂点の設定とともに、前記検出値の前記頂点までの変動が第2時間以内に第2閾値以上変動する急変推移を判定し、前記頂点以降において、前記頂点からの前記検出値の一定変動が第3閾値以下の変動幅内で第3時間以上継続する、若しくは前記頂点からの前記検出値の減少変動が減少過程での第4閾値以下の増加変動の許容を含み第4時間以上継続する頂点後推移を判定し、前記各判定に基づき、前記前区間及び前記変動区間を含む所定区間の前記検出値データを前記解析用データとして前記記憶部から抽出する。
【0014】
上記蓄電池のデータ抽出方法によれば、上記蓄電池のデータ抽出装置と同様、有用なデータの抽出機会の増加が期待できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の蓄電池のデータ抽出装置及び蓄電池のデータ抽出方法によれば、蓄電池の劣化診断に有用なより多くのデータを抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】一実施形態における蓄電池のデータ抽出及び劣化診断に係るシステム全体の構成図である。
図2】同実施形態の蓄電池のデータ抽出に係るフロー図である。
図3】同実施形態の蓄電池のデータ抽出に係る説明図である。
図4】(a)(b)は同実施形態の蓄電池のデータ抽出に係る説明図である。
図5】(a)~(d)は同実施形態の蓄電池のデータ抽出に係る説明図である。
図6】同実施形態の蓄電池のデータ抽出の優位性を示す表図である。
図7】同実施形態の蓄電池のデータ抽出の優位性を示す表図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、蓄電池のデータ抽出装置及び蓄電池のデータ抽出方法について説明する。
[蓄電池15のデータ抽出部20を有する劣化診断装置17を含む全体構成]
図1に示すように、再生可能エネルギー発電設備11は、例えば太陽光発電設備であり、太陽光パネル12及び太陽光発電用パワーコンディショナ13等を備えている。再生可能エネルギー発電設備11は、太陽光パネル12で発電された直流電力を太陽光発電用パワーコンディショナ13にて商用交流電力に変換し、変換した交流電力を系統連系設備10を介して電力系統に供給可能に構成されている。蓄電池設備14は、例えば定置用リチウムイオン蓄電池よりなる蓄電池15及び蓄電池用パワーコンディショナ16等を備えている。蓄電池設備14は、再生可能エネルギー発電設備11に併設されている。蓄電池設備14は、発電電力が大きく変動し得る再生可能エネルギー発電設備11の出力電力の変化率が所定値以下となるように蓄電池15を充放電させ、蓄電池用パワーコンディショナ16の電力変換を通じて電力系統に対する出力変動を抑制するものである。
【0018】
劣化診断装置17は、稼動中の蓄電池15を対象とした劣化診断を行う装置である。劣化診断装置17は、計測部18、記憶部19、データ抽出部20及び劣化診断部21を備えている。
【0019】
計測部18は、電流計18a、電圧計18b及び温度計18c等を備えている。計測部18は、蓄電池15の充放電電流の検出、蓄電池15の入出力電圧の検出及び蓄電池15の温度を検出し、各検出信号を記憶部19に出力する。記憶部19は、計測部18からの各検出信号のサンプリングにて取得する電流値データ、電圧値データ及び温度データの各検出値データを連続的に格納する。
【0020】
データ抽出部20は、本実施形態では蓄電池15の電流値が所定電流値を超えたことを抽出条件として、記憶部19に連続的に格納されている各検出値データから解析用データの抽出を行う。データ抽出部20は、抽出した解析用データを時刻データとともに劣化診断部21に出力する。劣化診断部21は、データ抽出部20にて抽出された解析用データを用い、本実施形態では例えば蓄電池15の過渡応答特性を用いた等価回路解析を行う。そして、劣化診断部21は、該解析に基づいて蓄電池15の劣化状態の診断を行う。
【0021】
[蓄電池15のデータ抽出の詳細]
本実施形態のデータ抽出処理は、図2に示すフローに沿って行われる。
ステップS11では、計測及びデータ抽出開始点探索として、計測部18にて計測された蓄電池15のその時々の電流値、電圧値及び温度が連続的なデータとして記憶部19に格納される。データ抽出部20では、連続的な電流値データの中から、劣化診断部21に用いる解析用データとして抽出するためのデータ抽出開始点の探索が行われる。
【0022】
ちなみに、本処理で扱う電流値としては「Cレート値」が用いられる。Cレート値[C]は電流値の大きさを相対的に表現したもので、電流値[A]/電池容量[Ah]で表される。つまり、電池容量の異なる蓄電池15に対して共通して用いることができるパラメータである。本処理はステップS12に進む。
【0023】
ステップS12では、図3に示すその時々の検出電流値I(この場合絶対値|I|)と判定電流値Ia0との比較による抽出開始点の探索が行われる。検出電流値Iは正負に変化するため、絶対値|I|の判定電流値Ia0との比較となる。データ抽出開始点の検出に用いる判定電流値Ia0は、例えば0~0.1[C]に設定されている。検出電流値Iの絶対値|I|が判定電流値Ia0より大きい場合(|I|>Ia0)、本処理はステップS11に戻る。一方、検出電流値Iの絶対値|I|が判定電流値Ia0以下となった場合(|I|≦Ia0)、本処理は次のステップS13に進む。
【0024】
ステップS13では、検出電流値Iが安定推移し始めたとして、図3に示すように|I|≦Ia0となった時刻aが設定される。時刻aでは、|I|≦Ia0となった検出電流値Iが基準電流値Iとして設定される。また、時刻aから前区間Tの時間計時が行われる。前区間Tは、蓄電池15の所望の過渡応答特性を得るために、検出電流値Iの大きく変化する変動区間T前の安定推移を見るための区間として設定される。前区間Tは、例えば1~100[s]に設定されている。本処理はステップS14に進む。
【0025】
ステップS14では、時刻aの基準電流値Iに対するその時々の検出電流値Iの電流変化量ΔIが閾値ΔI以下であり、かつ前区間T以上継続するかが判定される。閾値ΔIは、例えば0~0.1[C]に設定されている。ここでは、時々の検出電流値Iが所望の安定推移となっているかが判定されている。前区間T内に検出電流値Iの電流変化量ΔIが閾値ΔIより大きくなると、本処理はステップS11に戻る。一方、図3に示すように、検出電流値Iの電流変化量ΔIが閾値ΔI以内でかつ前区間T以上継続すると、つまり前区間T以上となってから電流変化量ΔIが閾値ΔIより大きくなると、本処理は次のステップS15に進む。
【0026】
ステップS15では、検出電流値Iの電流変化量ΔIが閾値ΔIより大きくなった直前の時刻が時刻abとして設定される。時刻abは、前区間Tと次の変動区間Tとの境界点となる。時刻abから時間計時が開始され、先ず変動区間Tの前半区間である変動第1区間Tb1の計時開始となる。変動第1区間Tb1は、例えば1~100[s]に設定されている。変動第1区間Tb1以内における検出電流値Iの頂点Iの探索が行われる。この場合、変動第1区間Tb1以内において上記基準電流値Iからの変動が最も大きい検出電流値Iが頂点Iとして選定される。本処理はステップS16に進む。ちなみに、変動区間Tは変動第1区間Tb1と後述の変動第2区間Tb2との合計値であり、変動区間Tとしては特に設定されない。
【0027】
ステップS16では、変動第1区間Tb1以内の検出電流値Iの頂点Iが上記基準電流値Iから閾値ΔI以上の変化が生じたかが判定される。基準電流値Iから頂点Iへの検出電流値Iの電流変化量ΔI、この場合変化する側を正とした電流変化量ΔIと閾値ΔIとが比較される。閾値ΔIは、例えば0.1~1.0[C]に設定されている。ここでは、検出電流値Iの所望の急変が生じたかが判定されている。基準電流値Iから頂点Iへの電流変化量ΔIが閾値ΔI未満の場合、本処理はステップS11に戻る。一方、図3に示すように、基準電流値Iから頂点Iへの電流変化量ΔIが閾値ΔI以上であると、本処理は次のステップS17に進む。
【0028】
ステップS17では、検出電流値Iの頂点Iの設定及び頂点Iの時刻pの設定とともに、時刻pから変動第2区間Tb2の時間計時が開始される。変動第2区間Tb2は、例えば1~100[s]に設定されている。本処理は次のステップS18に進む。
【0029】
ステップS18では、頂点I以降の変動第2区間Tb2における検出電流値Iが所望の変動をしたかが判定されて、上記変動第1区間Tb1と合わせて変動区間Tにおける検出電流値Iの変動条件を充足したかが判定される。頂点I以降の本実施形態の判定については次の通りである。
【0030】
図4(a)は、頂点I以降に検出電流値Iがステップ状に変動する場合の判定の一例である。図4(b)は、ステップ状以外で変動する場合の判定の一例である。図4(a)(b)は、検出電流値Iが充電時又は放電時に変動する側をいずれも正としている。頂点I以降で頂点Iを基準とした検出電流値Iの電流変化量ΔIが変動第2区間Tb2において閾値ΔI以下で略一定推移していれば、図4(a)に示すようなステップ波形の所望変動と判定される。閾値ΔIは、例えば0~0.1[C]に設定されている。図4(a)に示すようなステップ波形の所望変動は、変動区間Tでの検出電流値Iの一つの変動充足条件である。
【0031】
また、頂点I以降で頂点Iからの変動が上記閾値ΔIを超えて次第に減少に転じる場合、次いで検出電流値Iの都度の電流変化量ΔIと閾値ΔIとが比較される。都度の電流変化量ΔIは、所定サンプリング毎の電流の変化量である。頂点I以降で都度の電流変化量ΔIが閾値ΔI以下の増加変動を含んで変動第2区間Tb2において略減少推移していれば、図4(b)に示すようなステップ波形以外の所望変動と判定される。閾値ΔIは、例えば0~0.1[C]に設定されている。図4(b)に示すようなステップ波形以外の所望変動は、変動区間Tでの検出電流値Iの別の変動充足条件である。
【0032】
なお、図5(a)についても同様に、頂点Iが設定された以降において検出電流値Iの都度の電流変化量ΔIが閾値ΔI以下の増加変動を含んで変動第2区間Tb2にて減少変動する態様が示されている。つまり、変動第2区間Tb2で検出電流値Iが所望変動している態様である。そのため、変動区間Tとしての検出電流値Iの変動条件が充足すると判定されて、本処理は次のステップS19に進む。
【0033】
これに対し、図5(b)は、変動第2区間Tb2の間で都度の電流変化量ΔIが閾値ΔIより大きく増加した態様が示されている。したがって、変動第2区間Tb2で検出電流値Iが所望変動していない態様のため、変動条件が充足せずと判定されて、本処理はステップS11に戻る。
【0034】
なお説明が前後するが、図5(c)(d)は、検出電流値Iの頂点Iの設定についての補足を示している。検出電流値Iの仮頂点Ireが生じてから反転許容時間Tre以内に検出電流値Iが再び仮頂点Ire以上に変動する図5(c)の態様では、仮頂点Ireは頂点Iとして設定されない。この頂点設定処理は上記変動第1区間Tb1内で繰り返され、検出電流値Iの真の頂点Iの設定が行われる。図5(d)の態様のように、反転許容時間Tre以内に検出電流値Iが仮頂点Ire以上に変動せずその後に仮頂点Ire以上に変動した場合、頂点Iは設定されない。図5(c)(d)に示す態様は、検出電流値Iの頂点Iの設定の一例である。
【0035】
ステップS19では、変動第2区間Tb2、すなわち変動区間Tでの検出電流値Iの変動条件を充足した時刻が時刻endとして設定される。上記時刻aから時刻endまでの区間がデータ抽出区間として確定される。
【0036】
そして、上記時刻aから時刻endまでの検出電流値Iの検出値データは、上記ステップS12~S18を通過した有用データであって、解析用データとしてデータ抽出部20から抽出される。抽出された解析用データは、劣化診断部21での過渡応答解析等による蓄電池15の劣化診断に用いられる。このような一連のデータ抽出処理は、処理停止となるまで上記ステップS11からステップS19までを繰り返すものとなっている。
【0037】
[本実施形態の作用]
本実施形態の作用について説明する。
図6は、本案及び比較例の各データ抽出処理によるデータ抽出頻度についての比較結果の一例である。なお、図6中のケース1(Case1)及びケース2(Case2)は再生可能エネルギー発電設備11を太陽光発電設備としたもの、ケース3(Case3)は風力発電設備としたものである。各ケース1~3は、1年間稼動させた場合のデータ抽出頻度をシミュレーションした結果である。本案のデータ抽出処理は、上記したように図3に示す前区間T及び変動区間Tにおける検出電流値Iの変動条件に基づくデータ抽出である。本案のデータ抽出処理では、ケース1~3のいずれにおいても毎月かつ1年間通してデータ抽出がなされる。データ抽出頻度としてはケース1が最も多く、ケース3が最も少ない。
【0038】
これに対し、比較例のデータ抽出処理は、前区間T及び変動区間Tに加えて図3に示す後区間Tを含めた検出電流値Iの変動条件に基づくデータ抽出である。後区間Tでの検出電流値Iの変動条件は、前区間Tと同様にゼロ付近で安定推移することが要求される。比較例のデータ抽出処理では、各ケース1~3のデータ抽出頻度の傾向としては本案と同じでケース1が最も多く、ケース3が最も少なかった。その中でケース1においては毎月かつ1年間通してデータ抽出がなされたものの、ケース2,3においてはデータ抽出がなされない月があった。特にケース3では、データ抽出がなされない月が5ヵ月もあった。比較例のデータ抽出処理は、蓄電池15のデータ抽出機会ひいては劣化診断機会という点のみに着目すると見劣りする。
【0039】
図7は、本案及び比較例それぞれのケース3で抽出されたデータに基づいて模擬劣化診断を行った比較結果の一例である。本案のデータ抽出数は「91件」であり、比較例のデータ抽出数は「12件」である。2回の充放電による過渡応答解析が行われた。そして、本案及び比較例の各解析値の平均値を真値と仮定し、それぞれの相対誤差が図7に示されている。
【0040】
比較例では、解析相対誤差としては1回目で「7%以内」、2回目で「5%以内」となり、解析精度としては極めて高いことが窺い知れる。しかしながら、上記したようにデータ抽出数は少ない。
【0041】
これに対し本案では、解析相対誤差としては1回目で1件のみを除き「10%以内」、2回目で「9%以内」となり、解析精度としては比較例より若干低くなるが、十分に高い精度であると言える。加えて、上記したようにデータ抽出数も多く確保することが可能である。データ抽出数が多く、解析精度も十分な高さを見込めることから、本案では高い解析精度を安定して発揮することが可能であると言える。
【0042】
[本実施形態の効果]
本実施形態の効果について説明する。
(1)データ抽出部20は、蓄電池15の劣化診断に係る検出電流値Iが急変する変動区間Tと変動区間Tの前区間Tとに分け、前区間T及び変動区間Tの検出値データが有用な解析用データかを判定する。前区間Tでは、検出電流値Iの変動(ΔI)が閾値ΔI以下で前区間T以上継続する安定推移かが判定される。変動区間Tでは、検出電流値Iの変動の頂点Iの設定とともに、検出電流値Iの頂点Iまでの変動が変動第1区間Tb1以内に閾値ΔI以上変動する急変推移かが判定される。頂点I以降においては、頂点Iからの検出電流値Iの一定変動が閾値ΔI以下の変動幅内で変動第2区間Tb2以上継続する頂点後推移かが判定される。若しくは、頂点Iからの検出電流値Iの減少変動が減少過程での閾値ΔI以下の増加変動の許容を含み変動第2区間Tb2以上継続する頂点後推移かが判定される。そして、各判定に基づき、前区間T及び変動区間Tの検出値データが有用なデータと判定されると、前区間T及び変動区間Tを含む所定区間(本実施形態では時刻aから時刻endの区間)の検出値データが解析用データとして記憶部19から抽出される。すなわち、蓄電池15の検出値データが劣化診断に有用なデータかの判定は、蓄電池15の検出電流値Iが急変する変動区間T及び前区間Tでの変動条件を充足するかで行われる。また、変動区間Tでの検出電流値Iの頂点I以降では、蓄電池15の検出電流値Iの変動条件が一定変動若しくは減少変動のいずれでも判定可能であるため、有用なデータの抽出機会の増加を十分に期待することができる。
【0043】
なお、閾値ΔIは第1閾値、閾値ΔIは第2閾値、閾値ΔIは第3閾値、閾値ΔIは第4閾値にそれぞれ相当する。また、前区間Tは第1時間、変動第1区間Tb1は第2時間、変動第2区間Tb2は第3時間及び第4時間にそれぞれ相当する。
【0044】
(2)前区間T内で変動の基準として設定する検出電流値Iの内の基準電流値Iが変動区間Tの急変推移の判定にも用いられる。そのため、前区間T及び変動区間T毎に判定値を個々に設定しなくてもよく、判定を簡略的に行うことができる。なお、基準電流値Iは基準検出値に相当する。
【0045】
(3)変動区間Tでの仮頂点Ireの設定から反転許容時間Tre以内に検出電流値Iが再び仮頂点Ire以上に変動した後の頂点が検出電流値Iの頂点Iとして設定される。検出電流値Iの頂点Iの設定を適切に行うことが期待でき、データ抽出を適切に行うことに繋がる。なお、反転許容時間Treは第5時間に相当する。
【0046】
(4)本実施形態のデータ抽出対象の蓄電池15は定置用リチウムイオン蓄電池であるため、本実施形態のように定置用蓄電池の劣化診断に係るデータ抽出を好適に行うことができる。
【0047】
[変更例]
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0048】
・上記した各種の数値は一例であり、適宜変更してもよい。
・電流値にCレート値[C]を用いたが、電流値そのもの[A]を用いてもよい。また、電流値が含まれる電力値を用いてもよい。
【0049】
・各判定に電流値を用いたが、更に電圧値を加味して判定してもよい。また、環境温度、ノイズ等を考慮して判定してもよい。
・蓄電池15の劣化診断として充放電に伴う過渡応答解析を用いたが、これ以外で蓄電池15の劣化診断の可能な種々の解析手法を用いてもよい。
【0050】
図2に示したデータ抽出処理は一例であり、適宜変更してもよい。
・時間計時はタイマによる計時の他、サンプリング数のカウントによる計時等も含む。
・蓄電池15は太陽光発電設備よりなる再生可能エネルギー発電設備11に併設されるものであったが、太陽光発電設備以外であってもよい。また、蓄電池15は定置用蓄電池以外であってもよい。
【0051】
[付記]
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)データ抽出部にて抽出した解析用データに基づいて蓄電池の劣化診断を行う劣化診断部を備えた、蓄電池の劣化診断装置。
【0052】
(ロ)抽出した解析用データに基づいて蓄電池の劣化診断を行う、蓄電池の劣化診断方法。
上記蓄電池の劣化診断装置及び蓄電池の劣化診断方法によれば、有用なデータの抽出機会の増加が期待できるため、安定して高い劣化診断精度を発揮することが期待できる。
【符号の説明】
【0053】
15…蓄電池
19…記憶部
20…データ抽出部(データ抽出装置)
I…検出電流値(検出値)
…基準電流値(基準検出値)
…頂点
re…仮頂点
ΔI…閾値(第1閾値)
ΔI…閾値(第2閾値)
ΔI…閾値(第3閾値)
ΔI…閾値(第4閾値)
…前区間(第1時間)
…変動区間
b1…変動第1区間(第2時間)
b2…変動第2区間(第3時間及び第4時間)
re…反転許容時間(第5時間)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7