(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148313
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】揮発性成分分析装置およびそれを用いた分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/04 20060101AFI20231005BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20231005BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20231005BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20231005BHJP
G01N 30/08 20060101ALI20231005BHJP
G01N 33/02 20060101ALI20231005BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N30/04 A
G01N30/06 G
G01N30/88 A
G01N30/26 M
G01N30/08 G
G01N33/02
G01N1/22 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056261
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】596072586
【氏名又は名称】高田香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】弁理士法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中本 幸志
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA24
2G052AB25
2G052AD02
2G052AD22
2G052BA22
2G052EA02
2G052EB11
2G052ED06
2G052ED09
2G052GA24
2G052GA27
2G052JA08
(57)【要約】
【課題】飲食後の残り香等を客観的に評価することができる簡便で高感度な揮発性成分のサンプリング及び分析可能な揮発性成分分析装置と分析方法の提供。
【解決手段】 キャリアガスを供給するためのラインの途中に設けられ、分析対象に接触可能且つキャリアガスが内部を通過可能な中空糸膜を有するサンプリング部と、該サンプリング部よりもラインの下流側に設けられた加熱脱着装置、ガスクロマトグラフ及び検出器とを備え、流路切り替えバルブにより、キャリアガスの流路がサンプリング部を経由して加熱脱着装置へと至る流路と、サンプリング部を経由せずにバイパスラインを経由して加熱脱着装置へと至る流路に切り替え可能に形成された揮発性成分分析装置。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガスを供給するためのラインの途中に設けられ、分析対象に接触可能且つキャリアガスが内部を通過可能な中空糸膜を有するサンプリング部と、該サンプリング部よりもラインの下流側に設けられた加熱脱着装置、ガスクロマトグラフ及び検出器とを備え、流路切り替えバルブにより、キャリアガスの流路がサンプリング部を経由して加熱脱着装置へと至る流路と、サンプリング部を経由せずにバイパスラインを経由して加熱脱着装置へと至る流路に切り替え可能に形成された揮発性成分分析装置。
【請求項2】
前記中空糸膜が再生セルロースからなることを特徴とする請求項1に記載の揮発性成分分析装置。
【請求項3】
前記中空糸膜が略ループ状に屈曲していることを特徴とする請求項1または2に記載の揮発性成分分析装置。
【請求項4】
前記ガスクロマトグラフがキャピラリーカラムを用いていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の揮発性成分分析装置。
【請求項5】
前記検出器が、水素炎イオン化検出器に代表される汎用検出器または質量分析計であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の揮発性成分分析装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の分析装置を用いて揮発性成分を分析する方法であって、
分析対象にサンプリング部の中空糸膜を接触させ、キャリアガスがサンプリング部を通過する際に分析対象に含まれる揮発性成分を中空糸膜により分離し、キャリアガスとともに加熱脱着装置へと導き、吸着剤へ保持させる工程と、
流路切り替えバルブを切り替え、サンプリング部を経由せずにバイパスライン経由でキャリアガスを加熱脱着装置へ導き、揮発性成分とともに吸着された水分を吸着剤中から除水する工程と、
加熱脱着装置内を加熱し、吸着剤に吸着した揮発性成分を脱着し、分析装置にて分析する工程を含むことを特徴とする揮発性成分分析方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法を利用して、飲食物の揮発性成分を分析する方法。
【請求項8】
請求項1ないし5のいずれかに記載の分析装置を用いて揮発性成分を分析する方法であって、
ヒトの口腔内にサンプリング部の中空糸膜を接触させ、キャリアガスがサンプリング部を通過する際に分析対象に含まれる揮発性成分を中空糸膜により分離し、キャリアガスとともに加熱脱着装置へと導き、吸着剤へ保持させる工程と、
流路切り替えバルブを切り替え、サンプリング部を経由せずにバイパスライン経由でキャリアガスを加熱脱着装置へ導き、揮発性成分とともに吸着された水分を吸着剤中から除水する工程と、
加熱脱着装置内を加熱し、吸着剤に吸着した揮発性成分を脱着し、分析装置にて分析する工程を含むことを特徴とする揮発性成分分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揮発性成分、特に、飲食物に含まれる香気成分としての揮発性成分の分析装置およびそれを用いた分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
揮発性成分のうち、香りとして感じられる揮発性成分は香気成分といわれる。特に、食物や飲料に含まれる香気成分はフレーバーとも呼ばれ、その構成成分を分析して同定し、それらの香気組成を明らかにすることは香料開発にとって不可欠である。また、香気成分は多成分の混合物であってかつ含有量が微少であるため、これまで、多くの飲食物のマトリックスから香気成分を取り出すための装置や方法が考案されてきた。
【0003】
飲料においては、その中に、たんぱく質や脂質、炭水化物のほかにも果汁や色素、乳化剤や安定剤などが含まれる。一般的に、飲料などの液体中の香気成分の分析方法は、飲料マトリックスから揮発性成分のみを取り出すサンプリング工程を経て、得られた揮発性成分を分析機器であるガスクロマトグラフに供する。
【0004】
そのサンプリング工程は、有害な有機溶媒を多量に要し、複雑で人の手による工程をともない、結果として操作は煩雑となる。一方で、ヘッドスペース法を利用しロボット化された揮発性成分のみを取り出す装置や固相マイクロ抽出(SPME)を利用した簡便な方法もあるが、高度にロボット化されている場合、装置は非常に高価となり、簡便な方法では揮発性成分の中でも吸着しやすい、吸着しにくい成分といった選択性を有する。そのため香料開発において、簡便な香気分析を目的とする場合や、ヒトを対象とした香気分析を目的とする場合には、既存の装置や方法ではそれらの要求に十分に応えられないものであった。
【0005】
例えば、特許文献1に開示された水中に含まれる揮発性有機化合物を監視する装置は、シリコン製の中空糸膜を用いて試料中の揮発性有機化合物をキャリアガスに分離する分離部を有している。しかしながら、非特許文献1において中空糸シリコン膜が特に塩素系、芳香族、硫黄化合物に対しての濃縮の効果があるとの記載を考慮すると、揮発性成分分析のサンプリング装置においては、このように顕著な選択性があることは、香気成分組成を知る上で適切ではない。また、特許文献1は、水中に含まれる揮発性成分をモニターする装置であり、対象となるのは、水道水の水質基準や環境水の環境基準、排水の排水基準であり、飲料と比べた場合には、清浄度の高い水であるといえる。
【0006】
また、特許文献2に開示されたオンライン揮発性有機物の分析器については、あくまでも気体における揮発性有機物オンライン分析器であり、香気分析における既存のヘッドスペース法の一例に過ぎない。
【0007】
非特許文献1においては、中空糸シリコン膜を用いて、液体中の揮発性有機化合物の抽出効率を調べているが、特に塩素系、芳香族、硫黄化合物に対しての濃縮の効果があると記載がある。揮発性成分分析のサンプリング装置においては、このように顕著な選択性があることは、香気成分組成を知る上で適切ではない。
【0008】
さらに、非特許文献2においては、再生セルロースの微小透析膜ファイバーを使い、液体から非選択的に揮発性成分を高速ガスクロマトグラフ-水素炎イオン化検出器に導入し分析している。この装置では、微小透析膜ファイバーによってサンプリングされた揮発性成分と水分がそのまま高速GCに導入されるため、検出器として質量分析計を使用することに適さず、香気分析の場合、成分同定が困難である。
【0009】
従って、香料を開発するうえで、たんぱく質や脂質、炭水化物、果汁や色素、乳化剤または安定剤などが含まれる飲料の香気成分を分析することや、さらには、嗜好性の高い飲食物を開発するうえで、飲食後の口腔内に残留する唾液と混合された揮発性成分を分析し、飲食後の残り香を客観的に評価することができる簡便で高感度な揮発性成分のサンプリング及び分析可能な装置と方法の開発が課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9-304374
【特許文献2】特表2014-529080
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Journal of Enviromental Chemistry Vol.5 , No.1, pp.73-79, 1995,「クロマトグラフィにおける中空糸シリコン膜を用いた試料導入法および抽出法」
【非特許文献2】Analytical chemistry, 80(1), 123-128,「Analysis and monitoring of volatile analytes from aqueous solutions by extractions into the gas phase using microdialysis membranes and coupling to fast GC.」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明は、従来の揮発性成分分析装置のかかる欠点を克服し、飲食後の残り香を客観的に評価することができる簡便で高感度な揮発性成分のサンプリング及び分析可能な揮発性成分分析装置と分析方法の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するものであり、キャリアガスを供給するためのラインの途中に設けられ、分析対象に接触可能且つキャリアガスが内部を通過可能な中空糸膜を有するサンプリング部と、該サンプリング部よりもラインの下流側に設けられた加熱脱着装置、ガスクロマトグラフ及び検出器とを備え、流路切り替えバルブにより、キャリアガスの流路がサンプリング部を経由して加熱脱着装置へと至る流路と、サンプリング部を経由せずにバイパスラインを経由して加熱脱着装置へと至る流路に切り替え可能に形成された揮発性成分分析装置である。
【0014】
また本発明は、前記中空糸膜が再生セルロースからなることを特徴とする揮発性成分分析装置である。
【0015】
また本発明は、前記中空糸膜が略ループ状に屈曲していることを特徴とする揮発性成分分析装置である。
【0016】
また本発明は、前記ガスクロマトグラフがキャピラリーカラムを用いていることを特徴とする揮発性成分分析装置である。
【0017】
また本発明は、前記検出器が、水素炎イオン化検出器に代表される汎用検出器または質量分析計であることを特徴とする揮発性成分分析装置である。
【0018】
また本発明は、前記分析装置を用いて揮発性成分を分析する方法であって、
分析対象にサンプリング部の中空糸膜を接触させ、キャリアガスがサンプリング部を通過する際に揮発性成分を中空糸膜により分離し、キャリアガスとともに加熱脱着装置へと導き、吸着剤へ保持させる工程と、
流路切り替えバルブを切り替え、サンプリング部を経由せずにバイパスライン経由でキャリアガスを加熱脱着装置へ導き、揮発性成分とともに吸着された水分を吸着剤中から除水する工程と、
加熱脱着装置内を加熱し、吸着剤に吸着した揮発性成分を脱着し、分析装置にて分析する工程を含むことを特徴とする揮発性成分分析方法である。
【0019】
また本発明は、前記の方法を利用して飲食物の揮発性成分を分析する方法である。
【0020】
さらに本発明は、前記分析装置を用いて揮発性成分を分析する方法であって、
ヒトの口腔内にサンプリング部の中空糸膜を接触させ、キャリアガスがサンプリング部を通過する際に分析対象に含まれる揮発性成分を中空糸膜により分離し、キャリアガスとともに加熱脱着装置へと導き、吸着剤へ保持させる工程と、
流路切り替えバルブを切り替え、サンプリング部を経由せずにバイパスライン経由でキャリアガスを加熱脱着装置へ導き、揮発性成分とともに吸着された水分を吸着剤中から除水する工程と、
加熱脱着装置内を加熱し、吸着剤に吸着した揮発性成分を脱着し、分析装置にて分析する工程を含むことを特徴とする揮発性成分分析方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の揮発性成分分析装置及び分析方法によると、簡便で高感度な揮発性成分分析が可能である。特に、サンプリング部の中空糸膜が再生セルロースからなるものは、揮発性成分に対して非選択的にサンプリングが可能となる。
【0022】
また、本発明の揮発性成分分析装置及び分析方法は、オンライン方式により分析対象である試料とキャリアガスの流れるサンプリング経路、加熱脱着装置及び分析装置が中空糸膜を介して物理的に遮断されているため、加熱脱着装置および分析装置内へ難揮発性成分が意図せず流入することを防ぐことができる。
【0023】
また、本発明の揮発性成分分析装置及び分析方法は、キャリアガスにて分析対象中の揮発性成分を抽出し、加熱脱着装置にて揮発性成分を濃縮し、除水を行うため、分析装置として汎用のキャピラリーガスクロマトグラフを使用でき、検出器として質量分析計が使用可能となる。
【0024】
また、本発明の揮発性成分分析装置及び分析方法は、従来の有機溶媒等を使用した煩雑な前処理を不要とし、サンプリング部の中空糸膜を分析対象に接触させるだけであり簡易且つ便利である。
【0025】
さらに、本発明の揮発性成分分析装置及び分析方法は、分析対象に接触させるだけで揮発性成分のサンプリングと濃縮、分析が可能であるため、ヒトの口腔内に接触させることにより、唾液と混合された揮発性成分の分析が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る揮発性成分分析装置の構成を模式的に表した図。
【
図2】本発明に係る揮発性成分分析装置の構成を模式的に表した図。
【
図3】本発明に係る揮発性成分分析装置の中空糸膜の一実施態様を示す図。
【
図4】試験例1における実施品1による揮発性成分の分析結果と香料の直接分析による分析結果を示したグラフ。
【
図5】試験例1における比較品1による揮発性成分の分析結果と香料の直接分析による分析結果を示したグラフ。
【
図6】試験例1における比較品2による揮発性成分の分析結果と香料の直接分析による分析結果を示したグラフ。
【
図7】試験例2における揮発性成分分析装置の定量性の分析結果を示すグラフ。
【
図8】
図7に示した成分1から4までのピーク面積値とサンプリング時間をプロットしたグラフ。
【
図9】試験例3における水分除去パージの分析結果を示すグラフ。
【
図10】試験例3における水分除去パージの分析結果を示すグラフ。
【
図11】試験例4における口腔内における残留物の揮発性成分の分析結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の揮発性成分分析装置の実施態様を、図面に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれら実施態様に何ら制約されるものではない。
【0028】
図1は、本発明にかかる揮発性成分分析装置の構成を模式的に表した図である。図に示すように、本発明の揮発性成分分析装置は、キャリアガスを供給するためのライン7の途中に設けられたサンプリング部1、該サンプリング部1よりもライン7の下流側に設けられた加熱脱着装置3、ガスクロマトグラフ4及び検出器5を備える。サンプリング部1は流路切り替えバルブ2に連接されており、かかる流路切り替えバルブ2により、キャリアガスの流路がサンプリング部1を経由しないバイパスライン8へと切り替え可能に形成されている。以下、各部について詳しく説明する。
【0029】
サンプリング部1は、内部にキャリアガスが通過可能で、且つ、表側は分析対象のサンプルに接触可能な中空糸膜11を備える。中空糸膜11は、その両端にキャリアガスの流路となるライン7b、7cが連接されている。かかる中空糸膜11の素材としては、再生セルロース材を好適に利用することができる。このように、中空糸膜11の素材を再生セルロースとすることにより、揮発性成分に対して非選択的にサンプリングが可能となるため、好ましい。
【0030】
中空糸膜11は、口腔内に挿入しやすく、また口腔内においては舌上に載せることができるように、
図3に示すように全体を屈曲させて略ループ状に形成することが好ましい。また、中空糸膜内の体積に対して表面積を増やし、キャリアガス量に対して効率的にサンプリングができるように、内径が0.05mm~0.8mmのものが好ましく、内径が0.1mm~0.4mmのものがより好ましい。さらに、中空糸膜11は長い方がサンプリング効率も上がるが、口腔内における作業性を損なわず、舌上に載置可能なサイズとして、全長が100mm~150mmのものであることが好ましい。
【0031】
加熱脱着装置3は、内部に吸着剤31が充填され、内部を通過するキャリアガスに含まれる揮発性成分を捕集する。そして、かかる揮発性成分を捕集した吸着剤31を加熱することにより、吸着した揮発性成分を脱着することができる。
【0032】
加熱脱着装置3の下流側にはガスクロマトグラフ4が連接されている。ガスクロマトグラフ4としては、キャピラリーカラム41を備える汎用のガスクロマトグラフを使用することができる。また、検出器5としては、汎用検出器である水素炎イオン化検出器(FID)や質量分析計(MS)などを適宜使用することができる。
【0033】
流路切り替えバルブ2は、一般的な6ポート2ポジションの六方バルブを使用することができる。流路切り替えバルブ2のポート21には、他端がキャリアガス供給部7に接続されているライン7aが接続され、ポート22、23には、他端が中空糸膜11の端部に接続されたライン7b、7cがそれぞれ接続されている。また、ポート24には、他端が加熱脱着装置3に接続されたライン7dが接続されている。さらに、ポート25、26には、バイパスライン8の両端が接続されている。
【0034】
図1のポジションに流路切り替えバルブ2をセットすると、キャリアガスはサンプリング部1を経由して加熱脱着装置3へと流れる。一方、
図2のポジションでは、キャリアガスの流路はバイパスライン8へと切り替わり、サンプリング部1を経ずに加熱脱着装置3へと流れる。
【0035】
本発明の揮発性成分分析装置による分析の工程は以下の通りである。
<工程1>
分析対象にサンプリング部1の中空糸膜11の表側を接触させ、キャリアガス供給部6よりライン7a、7bを介してサンプリング部1へとキャリアガスを供給し、キャリアガスがサンプリング部1の中空糸膜11内を通過する際、分析対象に含まれる揮発性成分を中空糸膜11により分離し、キャリアガスとともに加熱脱着装置3へと導き、吸着剤31へ保持させる。
【0036】
<工程2>
流路切り替えバルブ2を切り替えてサンプリングを中止し、サンプリング部1を経由せずにバイパスライン8経由でキャリアガスを加熱脱着装置3へ導き、揮発性成分とともに吸着された水分を吸着剤31中から除水する。
【0037】
<工程3>
加熱脱着装置3内を加熱し、吸着剤31に吸着した揮発性成分を脱着し、分析装置にて分析、データ採取・処理する。
【0038】
本発明にかかる揮発性成分分析装置および分析方法の分析対象は飲料などの液体のみならず、固形状もしくはゾル・ゲル状の食品であってもよい。分析対象が液体の場合は、前記工程1において、液体中に中空糸膜11を浸せばよく、また、固形状もしくはゾル・ゲル状の場合は、それらの物性に応じて、中空糸膜11の表側をそれらの対象物の表面に接触させたり、あるいは、それらの内部に埋没させたりすればよい。
【0039】
また、本発明にかかる揮発性成分分析装置および分析方法によりヒトの口腔内において揮発性成分の分析を行う場合は、前記工程1において、中空糸膜11に一部ないし全部を口腔内に挿入し、中空糸膜11の表側を口腔内、例えば舌上に接触させればよい。飲食後や飲食中に中空糸膜11を口腔内に接触させることにより、口腔内における揮発性成分の分析ができる。
【0040】
以下に、実施例等を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【実施例0041】
試験例1:異なる中空糸膜の材質による特性評価
以下の方法で実施品1および比較品1、2を準備した。これらを用いて揮発性成分を捕集・分析し、香料の直接分析時の揮発性成分と比較した。
【0042】
<製造方法>
実施品1:
本発明の揮発性成分分析装置のサンプリング部を以下の要領で作成した。
再生セルロース材で作られた中空糸透析膜(Spectra/Por(登録商標) In Vivo Microdialysis Hollow Fibers MWCO:13kD)の両端を不活性化フューズドシリカキャピラリーの片端にそれぞれ5mm挿入し、接合部にはエポキシ樹脂を塗布し室温で24時間静置し、樹脂を固化させた。その後、不活性化フューズドシリカキャピラリーの残りの片端にアダプターを介して不活性化ステンレス管をそれぞれつないだ。
【0043】
蒸留水にパイナップル香料を0.1%(w/w)添加し、サンプリング装置の中空糸膜を接触させ、加熱脱着装置の吸着剤入りガラスライナー部の温度を20℃、ガスクロマトグラフの注入口圧力を75kPaに設定し、6方バルブを
図1のポジションで5分間保持し、前記蒸留水に中空糸膜を接触させた状態でキャリアガス供給部よりHeキャリアガスを流入し、揮発性成分を加熱脱着装置に捕集した。その後、6方バルブを
図2のポジションに切り替えて下記の条件にて分析した。その結果を
図4に示す。
[分析条件]
加熱脱着装置
・初期温度:20℃
・昇温条件:毎秒12℃、240℃に到達後10分間保持
ガスクロマトグラフ
・注入口:溶媒ベントモード
・Heキャリアガス流量:毎分1.8mL
・オーブン:初期温度50℃で5分間保持した後、毎分5℃昇温、220℃に到達後保持
・カラム:DB-WAX、長さ60m、内径0.25、膜厚250μm(J&W)
・検出器:FID
【0044】
本発明の揮発性成分分析装置による分析結果と比較するために、ガスクロマトグラフの注入口温度を250℃に設定し、マイクロシリンジにて0.2μLの香料を取り、スプリットモード(スプリット比10:1)の注入口へ導入して、下記条件により香料を直接分析した。
[分析条件]
・Heキャリアガス流量:毎分1.8mL
・オーブン:初期温度50℃で5分間保持した後、毎分5℃昇温、220℃に到達後保持
・カラム:DB-WAX、長さ60m、内径0.25mm、膜厚250μm(J&W)
・検出器:FID
【0045】
香料を直接分析した場合と比較すると、実施品1の揮発性成分分析装置による分析では、
図4に示すクロマトグラム上の5分から30分までで揮発性成分のバランスが類似していた。なお、香料の直接分析で見られるエタノールやエチルマルトール、グリセリンは親水性の高い成分であり、従来の溶媒抽出法においても回収が困難な揮発性成分である。このように、本発明の揮発性成分分析装置によれば、簡便に飲料の香気成分の分析が可能であった。
【0046】
比較品1:
サンプリング部の中空糸膜として、FB-210EGeco中空糸型透析器(ニプロ株式会社)から取り出したセルローストリアセテート材の中空糸膜を15.24cmの長さにカットしたものを用い、実施品1と同様の要領でサンプリング部を作成した。かかるサンプリング部を用い、実施品1と同様の条件にて分析した。その結果を
図5に示す。
【0047】
図5から明らかな通り、セルロース系であるセルローストリアセテート材の中空糸膜を使用したサンプリング装置では、香気成分がほとんど捕集されていなかった。
【0048】
比較品2:
サンプリング部の中空糸膜として、PES-21Mαeco中空糸型透析器(ニプロ株式会社)から取り出した合成高分子系であるポリエーテルスルホン材の中空糸膜を15.24cmの長さにカットしたものを用い、実施品1と同様の要領でサンプリング部を作成した。かかるサンプリング部を用い、実施品1と同様の条件にて分析した。その結果を
図6に示す。
【0049】
図6に示す通り、合成高分子系であるポリエーテルスルホン材の中空糸膜を使用したサンプリング装置では、香気成分は捕集された。しかし、クロマトグラム上の5分から30分までにおいて、香料の直接分析時の揮発性成分のバランスとは類似していない。
【0050】
試験例2:揮発性成分分析装置の定量性
試験例1の分析条件をもとに、実施品1のサンプリング装置の中空糸膜を、いちご風味の乳製品乳酸菌飲料に5分間、2分30秒間、1分15秒間または37.5秒間接触させ揮発性成分を分析した結果を
図7、8に示す。
【0051】
図7に示したクロマトグラムから成分1、2、3および4に代表される成分の検出量とサンプリング時間に相関が認められ、1から4までのピーク面積値とサンプリング時間をプロットした
図8に示す通り、特にサンプリング時間が37.5秒から2分50秒での直線性が良好であった。
【0052】
試験例3:飲料の揮発性成分分析における加熱脱着装置での水分除去
いちご風味の乳製品乳酸菌飲料に実施品1のサンプリング部の中空糸膜を接触させ、加熱脱着装置の吸着剤入りガラスライナー部の温度を60℃、40℃または20℃とし、ガスクロマトグラフ-質量分析計の注入口圧力を75kPaに設定し、6方バルブを
図1のポジションで5分間保持し、揮発性成分を加熱脱着装置に捕集した。その後、6方バルブを
図2のポジションに切替えてヘリウムキャリアガスによる水分除去パージを実施し、下記の条件にて分析した。その結果を
図9に示す。
[分析条件]
加熱脱着装置
・初期温度:60℃、40℃または20℃
・水分除去パージ時間:5分間
・昇温条件:毎秒12℃、240℃に到達後10分間保持
ガスクロマトグラフ
・注入口:溶媒ベントモード
・Heキャリアガス流量:毎分1.8mL
・オーブン:初期温度40℃、毎分5℃昇温、220℃に到達後保持
・カラム:TC-FFAP、長さ30m、内径0.25mm、膜厚250μm(ジーエルサイエンス社)
・検出器:5973MSD、SIM/Scanモード、SIM:m/z=18、 Scan:m/z=35から350
【0053】
水分除去をしていない場合、
図9に示すようにm/z=18のSIMクロマトグラム最上段には保持時間2分から4分にかけて水のピークがみられるが、ヘリウムキャリアガスによる5分間の水分除去パージを実施した2段目、3段目および4段目のSIMクロマトグラムにおいて、保持時間2分から4分の水ピークは消失した。
【0054】
また、
図10に示すように、加熱脱着装置の初期温度を40℃や20℃に設定した場合、60℃でのヘリウムキャリアガスによる5分間の水分除去パージによって減少するブタン酸エチルが、40℃または20℃で保持されるほか、加熱脱着装置の初期温度を20℃にした場合、初期温度が60℃や40℃の場合には見えていなかった沸点77.1℃の酢酸エチルも検出が可能となった。
【0055】
試験例4:口腔内における残留物の揮発性成分分析
試験例1の分析条件をもとに、サンプリング装置の中空糸膜を、いちご風味の乳製品乳酸菌飲料飲用後の口腔内に5分間または1分間接触させ、揮発性成分を分析し、
図11にクロマトグラムを示した。口腔内でのサンプリング時間が1分間においても、クロマトグラム上の成分1、2、3および4は検出されていた。また口腔内の残留物の揮発性成分は成分1のブタン酸メチルや成分2のヘキサン酸メチルよりも蒸気圧の低い成分3の(Z)-3-ヘキセノールや成分4のリナロールの方が残留し易かった。
【0056】
以上のように、オンライン揮発性成分分析装置にて口腔内の残留物を測定することは、飲食後の残り香を客観的に評価するうえで有用であり、嗜好性の高い飲食物を開発につながる。
本発明の揮発性成分分析装置および分析方法は、飲食物に含まれる揮発性成分のみならず、洗口液に含まれる揮発性成分など、その他の揮発性成分の分析にも利用することができる。