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特開2023-148320ウエットシート用基材及びウエットシート用基材にイオン液体を含浸したウエットシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148320
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ウエットシート用基材及びウエットシート用基材にイオン液体を含浸したウエットシート
(51)【国際特許分類】
   D06M 11/79 20060101AFI20231005BHJP
   D04H 1/4342 20120101ALI20231005BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20231005BHJP
   D06M 13/463 20060101ALI20231005BHJP
   D06M 13/352 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
D06M11/79
D04H1/4342
D06M13/513
D06M13/463
D06M13/352
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056268
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
(72)【発明者】
【氏名】塩野 一郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 久実
【テーマコード(参考)】
4L031
4L033
4L047
【Fターム(参考)】
4L031AA21
4L031AB31
4L031BA20
4L031DA17
4L033AA08
4L033AB04
4L033AC15
4L033BA56
4L033BA86
4L033BA96
4L033DA03
4L047AA24
4L047AB02
4L047CA06
4L047CA19
4L047CC03
(57)【要約】
【課題】布状体のウエットシート用基材にイオン液体を含浸してウエットシートとし、シート上に真空熱処理で寸法変化し易い製品を配置して熱処理したときに製品の寸法変化を小さくするウエットシート用基材を提供する。
【解決手段】全芳香族ポリアミド繊維からなる布状体により構成された25g/m2~900g/m2の目付を有するウエットシート用基材である。布状体の繊維表面にシリカゾルがゲル化した膜が形成され、シリカゾルがゲル化した膜の布状体の単位面積当たりの質量が0.1g/m2~30g/m2である。このウエットシート用基材に、前記布状体の単位面積当たり15g/m2~425g/m2の質量で、フッ素含有イオン液体を含むウエットシートである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全芳香族ポリアミド繊維からなる布状体により構成された25g/m2~900g/m2の目付を有するウエットシート用基材であって、
前記布状体の繊維表面にシリカゾルがゲル化した膜が形成され、前記シリカゾルがゲル化した膜の前記布状体の単位面積当たりの質量が0.1g/m2~30g/m2であることを特徴とするウエットシート用基材。
【請求項2】
前記シリカゾルがゲル化した膜が、エポキシ基、アルキル基、フェニル基、アクリル基、メタクリル基、イソシアネート基、ビニル基、アルキレン基、アミノオキシ基、アミノ基及びメルカプト基からなる群より選ばれた1又は2以上の官能基の成分を含有する請求項1記載のウエットシート用基材。
【請求項3】
請求項1又は2記載のウエットシート用基材に、前記布状体の単位面積当たり15g/m2~425g/m2の質量で、フッ素含有イオン液体を含むウエットシート。
【請求項4】
前記フッ素含有イオン液体は、前記フッ素含有イオン液体を、200℃の温度で大気を5L/分の流量で供給しながら12時間加熱したときに前記フッ素含有イオン液体の加熱前後の重量変化率が2%以内である液体である請求項3記載のウエットシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全芳香族ポリアミド繊維からなる布帛、不織紙などの布状体により構成され、布状体の繊維表面にシリカゾルがゲル化した膜が形成されたウエットシート用基材に関する。更に詳しくは、イオン液体を含浸してウエットシートとし、シート上に真空熱処理等で寸法変化し易い製品を配置して熱処理したときに製品の寸法変化を小さくするウエットシート用基材に関する。また、このウエットシート用基材にイオン液体を含浸したウエットシートに関する。本明細書において、布帛とは織布、不織布、編布などをいう。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミド樹脂(一般にアラミド樹脂と呼ばれる)は剛直な芳香族環を連結させた構造をとり、耐熱性、力学特性、耐薬品性等に優れた素材として、主として繊維の形で防弾繊維、電気絶縁材料、各種補強剤等に広く利用されており工業的に重要性が高いことが知られている。
【0003】
従来、下記式(A)及び(B)の構成単位から主としてなる全芳香族ポリアミド100重量部と平均粒子径1~500nmのコロイダルシリカ0.01~10重量部とからなる全芳香族ポリアミド樹脂組成物及びこの樹脂組成物からなるコンポジットファイバーが開示されている(特許文献1(請求項1、請求項5、段落[0003]、段落[0008]、段落[0023])参照。)。
-NH-Ar1-NH- (A)
-OC-Ar2-CO- (B)
(Ar1、Ar2は各々独立に炭素数6~20の2価の芳香族基を表す。)
【0004】
このコンポジットファイバーは、アミド系溶媒又は酸溶媒を用いて、全芳香族ポリアミドとコロイダルシリカの混合溶液を調製し、この混合溶液から紡糸することにより作られる。こうして作られたコンポジットファイバーは、力学特性、特に繊維方向の引っ張り特性、特に弾性率が大幅に向上するメリットを有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-298650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
真空熱処理炉、真空焼成炉などで、自動車のエンジン部品等の機械部品、半導体製品等の製品を熱処理する際、近年においては製品の寸法が変化しないことが求められている。しかし、真空中では、熱が伝わりにくいため、真空熱処理炉等で製品を熱処理したときに製品に熱が均一に伝わらず、製品に伝熱ムラに起因した歪みが発生し、その寸法精度を保つことができない課題があった。
【0007】
その改善策として、イオン液体が伝熱性を有し、真空中でも蒸発しにくい特性を有するため、イオン液体を真空中での熱伝導媒体として用いることが考えられる。しかし、イオン液体は液体であるため、製品に接触した状態で、固定化することができない課題があった。そこで、イオン液体を固定化するために、特許文献1に示されるポリアミド繊維からなるコンポジットファイバーで構成された布にイオン液体を含浸させる試験を行ったが、イオン液体のポリアミド繊維に対する濡れ性が悪く、布にイオン液体を浸透させることができない課題があった。
【0008】
本発明の目的は、布状体のウエットシート用基材にイオン液体を含浸してウエットシートとし、シート上に真空熱処理等で寸法変化し易い製品を配置して熱処理したときに製品の寸法変化を小さくするウエットシート用基材を提供することにある。本発明の別の目的は、ウエットシート用基材にイオン液体を含浸してシート上に真空熱処理等で寸法変化し易い製品を配置して熱処理したときに製品の寸法変化を小さくするウエットシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、全芳香族ポリアミド繊維からなる布状体により構成された25g/m2~900g/m2の目付を有するウエットシート用基材であって、前記布状体の繊維表面にシリカゾルがゲル化した膜が形成され、前記シリカゾルがゲル化した膜の前記布状体の単位面積当たりの質量(以下、単に「膜の布状体に対する質量」ということもある。)が0.1g/m2~30g/m2であることを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記シリカゾルがゲル化した膜が、エポキシ基、アルキル基、フェニル基、アクリル基、メタクリル基、イソシアネート基、ビニル基、アルキレン基、アミノオキシ基、アミノ基及びメルカプト基からなる群より選ばれた1又は2以上の官能基の成分を含有するウエットシート用基材である。
【0011】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点のウエットシート用基材に、前記布状体の単位面積当たり15g/m2~425g/m2の質量で、フッ素含有イオン液体を含むウエットシートである。以下、ウエットシート用基材にフッ素含有イオン液体を布状体の単位面積当たり含む質量を単に「イオン液体の含有量」ということもある。
【0012】
本発明の第4の観点は、第3の観点に基づく発明であって、前記フッ素含有イオン液体は、前記フッ素含有イオン液体を、200℃の温度で大気を5L/分の流量で供給しながら12時間加熱したときに前記フッ素含有イオン液体の加熱前後の重量変化率が2%以内である液体であるウエットシートである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の観点のウエットシート用基材は、全芳香族ポリアミド繊維からなる布状体により構成されるため、真空熱処理したときに耐熱性に優れる。またこのウエットシート用基材は、所定の目付を有し、かつ布状体の繊維表面に所定の質量でシリカゾルがゲル化した膜が形成されるため、イオン液体を含浸したときに、イオン液体が布状体に円滑にかつ十分に浸透するとともに、イオン液体を確実に保持する効果を有する。
【0014】
本発明の第2の観点のウエットシート用基材では、シリカゾルがゲル化した膜が、エポキシ基、アルキル基、フェニル基、アクリル基、メタクリル基、イソシアネート基、ビニル基、アルキレン基、アミノオキシ基、アミノ基及びメルカプト基からなる群より選ばれた1又は2以上の官能基の成分を含有するため、イオン液体を含浸したときに、イオン液体がウエットシート用基材に浸透し易くなる効果を有する。
【0015】
本発明の第3の観点のウエットシートは、ウエットシート用基材に、前記布状体の単位面積当たり15g/m2~425g/m2の質量で、フッ素含有イオン液体を含むため、このウエットシート上に真空熱処理等で寸法変化し易い製品を配置して熱処理したときに、イオン液体が布状体を介して熱を製品に均一に伝導し、熱処理による製品の寸法変化を小さくすることができる。
【0016】
本発明の第4の観点のウエットシートでは、フッ素含有イオン液体が、200℃の温度で大気を5L/分の流量で供給しながら12時間加熱したときにフッ素含有イオン液体の加熱前後の重量変化率が2%以内であるため、上記効果が更に高まる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0018】
〔ウエットシート用基材〕
本実施形態のウエットシート用基材は、全芳香族ポリアミド繊維からなる布状体により構成された25g/m2~900g/m2の目付を有する。全芳香族ポリアミド繊維は芳香族ポリアミドが分子として直鎖状の構造を有するため、ウエットシート用基材が高強度で耐熱性があり、ウエットシートとして使用したときに繰り返しの使用が可能となり、機械的にも熱的にも高い耐久性を有する。布状体としては、布帛、不織紙などが挙げられる。ここで、布帛とは織布、不織布、編布などをいう。不織紙としては、帝人デュポンフィルム社製のノーメックス410-2mil、目付41g/m2、ノーメックス410-30mil、目付852g/m2等が挙げられる。不織布としては、日本バイリーン社製のZXL―1030、目付30g/m2、ZXL―1060、目付60g/m2等が挙げられる。布状体の目付が25g/m2未満では、ウエットシートとしてイオン液体を含浸したときにイオン液体の保持量が不足し、ウエットシートの伝熱性に劣る。また布状体の目付が900g/m2を超えると、布状体を入手することが困難となる。好ましい布状体の目付は30g/m2~850g/m2である。
【0019】
全芳香族ポリアミド繊維は元来液体との濡れ性が低い繊維であるが、布状体の繊維表面に形成されるシリカゾルがゲル化した膜は、全芳香族ポリアミド繊維に、液体、特にイオン液体との濡れ性を高める役割を有する。この膜がエポキシ基、アルキル基、フェニル基、アクリル基、メタクリル基、イソシアネート基、ビニル基、アルキレン基、アミノオキシ基、アミノ基及びメルカプト基からなる群より選ばれた1又は2以上の官能基の成分を含有すると、イオン液体との相溶性が良好な官能基を有するため、シリカゾルがゲル化した膜は、より一層イオン液体との濡れ性が高まる。
【0020】
また布状体の繊維表面に形成される膜をシリカゾルがゲル化した膜とするのは、こうしたシリカゾルがゲル化した物質は、上述したイオン液体との高い濡れ性に加えて、バインダーとして繊維表面に強固に結着する機能と、耐熱性機能を有するからである。またこの膜の布状体に対する質量が0.1g/m2~30g/m2であるのは、下限値未満では、イオン液体を含浸したときに、イオン液体の全芳香族ポリアミド繊維への濡れ性に劣り、上限値を超えるとシリカゾルがゲル化した膜が繊維表面から剥離する。好ましい膜の布状体に対する質量は、0.2g/m2~27g/m2である。
【0021】
〔ウエットシート用基材の製造方法〕
次に、ウエットシート用基材の製造方法について説明する。
先ず、シリカゾルを調製する。このシリカゾルは、ケイ素アルコキシドと、シランカップリング剤と、有機溶媒とを混合し、更に水を添加混合して調製される。このシリカゾルに触媒を加えることにより、シリカゾルが加水分解した液組成物になる。ここで、ケイ素アルコキシドとしては、テトラメトキシシラン、そのオリゴマー又はテトラエトキシシラン、そのオリゴマーが挙げられる。シランカップリング剤としては、エポキシ基、アルキル基、フェニル基、アクリル基、メタクリル基、イソシアネート基、ビニル基、アルキレン基、アミノオキシ基、アミノ基、メルカプト基又はこれらの複合基の官能基を有するカップリング剤やそのオリゴマーが挙げられる。
【0022】
ビニル基を官能基とするシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、製品名:KBM-1003)、ビニルエトキシシラン(同社製、製品名:KBE-1003)、メチル基を官能基とするシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン(同社製、製品名:KBM-13)、メチルトリエトキシシラン(同社製、製品名:KBE-13)、エポキシ基を官能基とするシランカップリング剤としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(同社製、製品名:KBM-303)、メタクリル基とメチル基を官能基とするシランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(同社製、製品名:KBM-502)、メチル基とフェニル基の2つの官能基を有するオリゴマー(同社製、商品名:KR-500)、アミノオキシ基を官能基とするシランカップリング剤としては、MCP-03-00003-SIC(医化学創薬社製)、アミノ基を官能基とするシランカップリング剤としてはKBM-903(信越化学工業社製)、メルカプト基を含有するシランとしてはKBM-803(信越化学工業社製)等が挙げられる。それ以外に、製品名が、KBM-22、KBM-403、KBM-503(いずれも信越化学工業社製)が挙げられる。
【0023】
有機溶媒としては、炭素数が1~4のアルコールが挙げられる。触媒としては、有機酸、無機酸、チタン化合物等が挙げられる。有機酸としてはギ酸、酢酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示され、チタン化合物としてはテトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、乳酸チタン等が例示される。触媒は上記のものに限定されない。炭素数1~4の範囲にあるアルコールは、この範囲にある1種又は2種以上のアルコールが挙げられる。このアルコールとしては、例えば、メタノール(沸点64.7℃)、エタノール(沸点約78.3℃)、n-プロパノール(沸点97-98℃)、イソプロパノール(沸点82.4℃)、1-ブタノール(沸点117℃)、2-メチル-1-プロパノール(沸点108℃)、2-ブタノール(沸点99℃)、2-メチル-2-プロパノール(沸点82.4℃)が挙げられる。特にメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、ケイ素アルコキドとの混合がしやすいためである。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。ケイ素アルコキシド、シランカップリング剤及び炭素数1~4の範囲にあるアルコールと水を添加して、好ましくは10~30℃の温度で5~20分間撹拌することにより混合液を調製する。
【0024】
次いで、上記シリカゾルが加水分解した液組成物を有機溶媒で希釈することにより、希釈液を調製する。有機溶媒としては、上記炭素数が1~4のアルコールが挙げられる。この希釈液に上述した25g/m2~900g/m2の目付を有する全芳香族ポリアミド繊維からなる布状体をディッピングした後、希釈液から布状体を引上げ、大気中、室温で布状体を水平な金網などの上に拡げて一定の液分量になるまで脱液する。別法として、引き上げた布状体を振り払って余分な液を除去するか、或いは引き上げた布状体をマングルロール(絞り機)に通して脱液する。脱液した布状体を大気中、15℃~200℃で0.5時間~48時間乾燥する。これにより、布状体の繊維表面にシリカゾルがゲル化した膜が形成され、ウエットシート用基材が製造される。シリカゾルがゲル化した膜にはSiO2分が0.1質量%~10質量%含まれることが、上述した膜の機能を発揮する上で、好ましい。
【0025】
〔ウエットシートの製造方法〕
本実施形態のウエットシートは、ウエットシート用基材に、前記布状体の単位面積当たり15g/m2~425g/m2の質量で、フッ素含有イオン液体を含む。このウエットシートは、フッ素含有イオン液体にウエットシート用基材をディッピングした後、フッ素含有イオン液体からウエットシート用基材を引上げ、大気中、室温で布状体を水平な金網などの上に拡げて一定の液分量になるまで脱液することにより、製造される。別法として、このウエットシートは、引き上げたウエットシート用基材を振り払って余分な液を除去するか、又は引き上げたウエットシート用基材をマングルロール(絞り機)に通して脱液することにより、製造される。或いはウエットシート用基材にフッ素含有イオン液体を滴下し、ローラー等で塗り広げることにより、製造される。イオン液体の含有量が15g/m2未満では、このウエットシート上に真空熱処理等で寸法変化し易い製品を配置して熱処理したときに、イオン液体が布状体を介して熱を製品に均一に伝導することができず、熱処理による製品の寸法変化を小さくすることができない。またイオン液体の含有量が425g/m2を超えても製品の寸法変化率は変わらず、フッ素含有イオン液体の過剰な使用になる。好ましいイオン液体の含有量は、18g/m2~400g/m2である。イオン液体の含有量は、水平な金網などの上に拡げてフッ素含有イオン液体を脱液する時間、マングルロールの加圧量又はフッ素含有イオン液体の滴下量で調整する。
【0026】
〔フッ素含有イオン液体〕
ウエットシート用基材に含浸させるフッ素含有イオン液体としては、熱重量示差熱分析装置(TG-DTA)を用い、試料であるフッ素含有イオン液体をアルミニウム製のパンに入れ、200℃の温度で大気を5L/分の流量で供給しながら12時間加熱したときに前記フッ素含有イオン液体の加熱前後の重量変化率が2%以内であるフッ素含有イオン液体であることが好ましい。例えば、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム=ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(重量変化率:+0.3%)、1‐エチル‐1‐メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(重量変化率:-0.7%)、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドテトラエチルアンモニウム塩(重量変化率:-0.5%)、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(重量変化率:-0.5%)、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸塩(重量変化率:-0.2%)等が挙げられる。フッ素含有のイオン液体は、耐熱性のあるイオン液体であるため、このイオン液体は真空高温下で熱伝導性に優れる。
【実施例0027】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。先ず、シリカゾルが加水分解した液組成物を合成するための合成例1~9を説明する。次いで、これらの合成例1~9で得られたシリカゾルが加水分解した液組成物をアルコールで希釈した希釈液を調製するための実施例1~9及び比較例1、2を説明する。次に、これらの実施例1~9及び比較例1、2で得られた希釈液を用いてウエットシート用基材並びにウエットシートを製造するための製造例1~9及び比較製造例1~3を説明する。
【0028】
<合成例1>
ケイ素アルコキシドとしてテトラメトキシシラン(TMOS)の3~5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)4.80gと、メチル基を官能基とするシランカップリング剤であるメチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名:KBM-13)1.20gと、有機溶媒としてエタノール(EtOH)(沸点78.3℃)11.67gとを混合し、更にイオン交換水2.30gを添加して、セパラブルフラスコ内で25℃の温度で5分間撹拌することにより混合液を調製した。またこの混合液に、触媒として濃度35質量%の塩酸0.03gを添加し、40℃で2時間撹拌した。これにより、シリカゾルが加水分解した液組成物を合成した。合成例1の合成条件を以下の表1に示す。
【0029】
【表1】
【0030】
<合成例2~9>
合成例2~9のシリカゾルが加水分解した液組成物を合成するに際して、ケイ素アルコキシドの種類と配合割合を合成例1と同一又は変更し、シランカップリング剤の種類と配合割合を合成例1と同一又は変更した。またイオン交換水とエタノール(EtOH)は合成例1と同一にした。更に触媒の種類と配合割合を合成例1と同一又は変更した。即ち合成例7では、ケイ素アルコキシドとしてTEOS(テトラエトキシシラン)を用い、シランカップリング剤としてメチル基とフェニル基の2つの官能基を有するオリゴマー(信越化学工業社製、商品名:KR-500)を用いた。合成例1と同様にして、合成例2~9のシリカゾルが加水分解した液組成物を合成した。合成例2~9の合成条件を上記表1に示す。
【0031】
<実施例1>
合成例1で得られたシリカゾルが加水分解した液組成物0.40gに、工業アルコール(日本アルコール産業社製、AP-7)19.60gを添加混合して、液組成物の希釈液を調製した。実施例1の希釈液の液組成物と工業用アルコールの各配合割合を以下の表2に示す。
【0032】
【表2】
【0033】
<実施例2~9>
実施例2~9の液組成物の希釈液を調製するに際して、合成例2~9でそれぞれ得られたシリカゾルが加水分解した液組成物0.40gに、工業アルコール(日本アルコール産業社製、AP-7)19.60gを実施例1と同様に添加混合して、液組成物の希釈液を得た。実施例2~9の希釈液の液組成物と工業用アルコールの各配合割合を上記表2に示す。
【0034】
<比較例1>
合成例4で得られたシリカゾルが加水分解した液組成物0.05gに、工業アルコール(日本アルコール産業社製、AP-7)19.95gを実施例1と同様に添加混合して、比較例1の希釈液を調製した。
【0035】
<比較例2>
合成例9で得られたシリカゾルが加水分解した液組成物10.00gに、工業アルコール(日本アルコール産業社製、AP-7)10.00gを実施例1と同様に添加混合して、比較例2の希釈液を調製した。実施例2~9及び比較例1、2のシリカゾルが加水分解した液組成物と工業用アルコールの各配合割合を上記表2に示す。
【0036】
<製造例1>
布状体として、全芳香族ポリアミド繊維からなる、たて297mm、よこ210mm、厚さ0.05mmの不織紙(帝人デュポンフィルム社製ノーメックス410-2mil 目付41g/m)を用いた。実施例1で得られた希釈液に、上記布状体を30秒間ディッピングした。希釈液から基材を引上げ、水平の金網の上に拡げ、室温で30分間放置して、脱液した。その後120℃に維持された乾燥機に基材を30分間入れて乾燥し、シリカゾルがゲル化した膜が布状体の繊維表面に形成されたウエットシート用基材を得た。布状体の目付及びシリカゾルがゲル化した膜の布状体に対する質量(g/m2)を以下の表3に示す。シリカゾルがゲル化した膜の布状体に対する質量は、ディッピング前後の布状体の質量変化から算出した。
【0037】
フッ素含有イオン液体として、 1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム=ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを用いた。このフッ素含有イオン液体を、上記得られたウエットシート用基材に滴下した後、ローラーで均一に塗り広げ、ウエットシートを製造した。ウエットシート用基材に含まれるイオン液体の量(g/m2)は、フッ素含有イオン液体の滴下前後の質量差から算出した。イオン液体の含有量も以下の表3に示す。
【0038】
【表3】
【0039】
<製造例2~9及び比較製造例2、3>
製造例2~9及び比較製造例2、3のウエットシート用基材を製造するに際して、実施例1と同一又は異なる目付の全芳香族ポリアミド繊維からなる不織紙(布状体)を用意した。この布状体のたてとよこの寸法は同じであった。これらの布状体を、実施例2~9及び比較例1、2で得られた希釈液にそれぞれ別々に製造例1と同様にディッピングし、脱液し、乾燥して、製造例2~9及び比較製造例2、3のウエットシート用基材を得た。
【0040】
続いて、製造例2~9及び比較製造例2、3のウエットシート用基材を製造例1と同じフッ素含有イオン液体を滴下し、ローラーで塗り広げることで、ウエットシートを製造した。
【0041】
<比較製造例1>
比較製造例1では、製造例1と同一の全芳香族ポリアミド繊維からなる不織紙(布状体)に対して、そのままの状態で、製造例1で用いたフッ素含有イオン液体を滴下した。フッ素含有イオン液体は粒状態であったため、フッ素含有イオン液体はローラーで布状体に均一に塗り広げることができなかった。これを比較製造例1のシートとした。
製造例2~9及び比較製造例1~3のウエットシート用基材及びウエットシートの内容を上記表3に示す。
【0042】
<比較試験>
製造例1~9及び比較製造例2,3の各ウエットシート並びに比較製造例1のシートを試料として用いた。真空度30Paの雰囲気下にある水平な加熱ステージに上記試料を敷いた。上記試料の上面に直径150mmで厚さ1mmのSUS316製の試験片を試料に密着するように配置し、温度250℃で1時間加熱した。加熱した試料を室温まで徐冷し、加熱前後の寸法を測定した。また試料における加熱後のシリカゾルがゲル化した膜の剥離の有無を目視で調べた。これらの結果を上記表3に示す。
【0043】
<評価>
表3から明らかなように、比較製造例1では、フッ素含有イオン液体を含有しない全芳香族ポリアミド繊維からなる不織紙(布状体)のままのシートを試料としたため、加熱前後の試料の寸法変化率は7%と非常に高かった。
【0044】
比較製造例2では、シリカゾルがゲル化した膜の不織紙(布状体)に対する質量が0.05g/m2と低過ぎたため、フッ素含有イオン液体の全芳香族ポリアミド繊維への濡れ性に劣り、イオン液体の含有量は2g/m2と低過ぎた。この結果、試料の加熱前後の試料の寸法変化率は6%と非常に高かった。
【0045】
比較製造例3では、シリカゾルがゲル化した膜の不織紙(布状体)に対する質量が45.0g/m2と高過ぎたため、試料のシリカゾルがゲル化した膜が不織紙の繊維表面から剥離していた。このため、イオン液体の含有量は415g/m2と高かったが、フッ素含有イオン液体を不織紙が十分に保持することができなかった。この結果、試料の加熱前後の試料の寸法変化率は4%と高かった。
【0046】
これらに対して、製造例1~9の試料は、30g/m2~852g/m2の目付を有する全芳香族ポリアミド繊維からなる布状体を用い、0.2g/m2~25g/m2の質量のシリカゾルがゲル化した膜を布状体の繊維表面に有する。またイオン液体の含有量が17g/m2~400g/m2である。このため、本発明の第1の観点及び第3の観点の各要件を満たし、比較試験において優れた効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のウエットシートは、真空熱処理炉、真空焼成炉等において、自動車のエンジン部品等の機械部品、半導体製品等の製品を熱処理する際の製品の熱的な寸法精度が求められる分野で利用することができる。ただし、本発明のウエットシートは、熱的接触の向上を必要とする真空装置内部の部材間に適用することができ、本明細書で開示した利用分野に限定されるものではない。