(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148327
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ペダル式操作装置
(51)【国際特許分類】
B60W 50/16 20200101AFI20231005BHJP
G05G 1/30 20080401ALI20231005BHJP
【FI】
B60W50/16
G05G1/30 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056279
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】建部 崇典
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 直人
【テーマコード(参考)】
3D241
3J070
【Fターム(参考)】
3D241BA59
3D241BB01
3J070AA32
3J070BA17
3J070BA41
3J070BA90
3J070CD21
3J070DA02
(57)【要約】
【課題】乗員による戻し操作の精度を向上できるペダル式操作装置を提供する。
【解決手段】足踏み式のペダル30により車両の運転操作が行われるペダル式操作装置を、ペダルを加振する加振部501と、ペダルの動作を検出する動作検出部と、動作検出部が検出するペダルの戻し動作に応じて、加振部に、10乃至50Hzの周波数成分と100乃至300Hzの周波数成分との少なくとも一方を含む加振波形でペダルを加振させる加振制御部500とを備える構成とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
足踏み式のペダルにより車両の運転操作が行われるペダル式操作装置であって、
前記ペダルを加振する加振部と、
前記ペダルの動作を検出する動作検出部と、
前記動作検出部が検出する前記ペダルの戻し動作に応じて、前記加振部に、10乃至50Hzの周波数成分と100乃至300Hzの周波数成分との少なくとも一方を含む加振波形で前記ペダルを加振させる加振制御部と
を備えることを特徴とするペダル式操作装置。
【請求項2】
前記動作検出部は、前記ペダルの操作速度を検出し、
前記加振制御部は、前記操作速度の増加に応じて前記加振波形の振幅を増加させること
を特徴とする請求項1に記載のペダル式操作装置。
【請求項3】
前記ペダルは、戻し方向の操作量に応じて制動力を増加させる制動操作を行う機能を有し、
前記加振制御部は、前記制動操作に応じた制動力の増加に応じて前記加振波形の振幅を増加させること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のペダル式操作装置。
【請求項4】
前記ペダルは、可動範囲における前記制動力を発生させない領域での踏み込み方向の操作量に応じて駆動力を増加させる駆動力操作を行う機能を有すること
を特徴とする請求項3に記載のペダル式操作装置。
【請求項5】
路面からの振動入力を検出する振動入力検出部を備え、
前記加振制御部は、前記振動入力の振幅増加に応じて、前記加振波形の振幅を増加させること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のペダル式操作装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転操作等に用いられるペダル式操作装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両において、加速操作(アクセル操作)、減速操作(ブレーキ操作)を、足踏み式のペダル式操作装置(アクセルペダル、ブレーキペダル)によって行うことが知られている。
また、近年の電動車両では、アクセル操作、及び、回生発電ブレーキによる緩制動操作を、単一のペダルの踏み込み操作、及び、戻し操作によってそれぞれ行う、いわゆるワンペダル式のものが知られている。
【0003】
車両用のペダル式操作装置に関する技術として、例えば、特許文献1には、運転者に確実に情報を報知するため、ペダル部材の踏込み操作に応じて反力を付加する反力付加手段と、ペダル部材を加振する加振手段とを備え、ペダル部材の共振周波数に基づいて、加振手段による加振の振動周波数を制御することが記載されている。
特許文献2には、運転者に不快感、違和感を与えることなく、確実な情報提示を行うため、振動の周波数、振動の提示時間、振動振幅、及び、複数の振動子の提示時間間隔の少なくとも一つを人間の触感覚特性に合わせ、かつ、ドライバによって仮現運動現象が知覚されるように、検出された危険状態に対して予め定められた順序で、ペダル等を加振する選択された複数の振動子に振動を与えて検出された危険状態を示す警告情報を提示する車両用情報提示装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007- 22396号公報
【特許文献2】特開2008- 77631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
BEV(バッテリ電気自動車)や、HEV(エンジンハイブリッド電気自動車)などの電動車両では、アクセル操作と回生ブレーキによるブレーキ操作とを、共通のペダル(典型的にはアクセルペダル)によって行うことができる。
このように、共通のペダルでアクセル操作とブレーキ操作とを可能とした場合、アクセル操作とブレーキ操作とを別のペダルで行う場合のペダルの踏み替えによる疲労の軽減や、踏み替えによって生じる制動までの空走時間の短縮を図ることができる。さらに、回生発電の頻度向上による車両のエネルギ効率の向上を図ることもできる。
【0006】
しかし、例えばアクセルペダルの戻し操作によってブレーキ操作を行う場合、制動力の微調整が難しく、運転者に違和感を与えることが懸念される。
すなわち、通常のブレーキペダルを用いたブレーキ操作では、足にかかる圧力感(圧力勾配や操作量に対する圧力の相関)を感じて操作、調整を行っているが、アクセルペダルの戻し操作によってブレーキ操作を行う場合、力を抜く方向の動作であることから、足とペダルとの接触面は減少傾向となり、圧力感(圧力変化)を感じにくくなる。
特に、ブレーキペダルがブレーキ装置との間に機械的な連結をもたないブレーキバイワイヤ式の場合には、例えば液圧式の摩擦ブレーキのように、ブレーキ作動時にペダルに伝達される振動も感じにくくなる。
このため、運転者は、減速加速度や車体のピッチング挙動により車両の減速を認識してからペダルの操作量を調整することになるが、この場合制動に対する準備動作が不十分となり、唐突感や違和感をもつことが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、乗員による戻し操作の精度を向上できるペダル式操作装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明のペダル式操作装置は、足踏み式のペダルにより車両の運転操作が行われるペダル式操作装置であって、前記ペダルを加振する加振部と、前記ペダルの動作を検出する動作検出部と、前記動作検出部が検出する前記ペダルの戻し動作に応じて、前記加振部に、10乃至50Hzの周波数成分と100乃至300Hzの周波数成分との少なくとも一方を含む加振波形で前記ペダルを加振させる加振制御部とを備えることを特徴とする。
人による操作力(反力)の認識には、深部感覚と皮膚感覚とがあり、それぞれに対応する受容体(受容器)が反応することで反力を感じ取っている。ここで、反力が微小であるペダルの踏み始めの領域においては、皮膚感覚が支配的となる。
これによれば、ペダルの戻し動作に応じて、皮膚感覚を司る受容体であるパチニ小体の感度が良好な周波数帯域(100乃至300Hz)と、マイスナー小体の感度が良好な周波数帯域(10乃至50Hz)との少なくとも一方でペダルを加振することにより、これらの受容体が刺激され、運転者が足の裏から受ける圧力を感じやすくなる。特に、皮膚感覚において最も応答が早いとされるパチニ小体の感度が良好な周波数帯域でペダルを加振することにより、より効果的にこのような効果を得ることができる。
これにより、通常はペダルからの反力感を感じにくい戻し方向の操作であっても、運転者がペダルの操作量を知覚する空間分解能が向上し、精度が高いペダル操作を行うことが可能となる。
このため、車両の運転しやすさや、走行のスムーズさを改善することができる。
この場合、回生ブレーキ量の増加に応じて加振波形の振幅が増幅されるよう調整する構成とすることができる。
これによれば、ブレーキ操作の反力感に強弱をつけることで、回生による制動が開始されるタイミングの予見性を向上し、操作性をより改善することができる。
【0008】
本発明において、前記動作検出部は、前記ペダルの操作速度を検出し、前記加振制御部は、前記操作速度の増加に応じて前記加振波形の振幅を増加させる構成とすることができる。
これによれば、ペダルの操作速度の増加に応じて加振波形の振幅を増加させることで、ペダルの戻し動作を行う際における運転者の反力の感じやすさを効果的に向上することができる。特に、操作速度が速い場合は、加振振幅を増大させて反力感(圧感)を強調することで、操作速度に応じた変化を運転者に感じさせ、減衰項として作用させることができる。
【0009】
本発明において、前記ペダルは、戻し方向の操作量に応じて制動力を増加させる制動操作を行う機能を有し、前記加振制御部は、前記制動操作に応じた制動力の増加に応じて前記加振波形の振幅を増加させる構成とすることができる。
これによれば、ペダルからの反力を、踏み込み側に対して感じ取り難い戻し側の操作で制動操作を行う場合であっても、乗員のペダルの操作量に対する空間的分解能を向上し、精確な制動操作を可能とすることができる。
【0010】
本発明において、前記ペダルは、可動範囲における前記制動力を発生させない領域での踏み込み方向の操作量に応じて駆動力を増加させる駆動力操作を行う機能を有する構成とすることができる。
これによれば、アクセル操作と制動操作とを単一のペダルにより行ういわゆるワンペダル式のペダル式操作装置において、アクセル操作に対して制動操作が難しくなり、運転のスムーズさが損なわれることを抑制できる。
【0011】
本発明において、路面からの振動入力を検出する振動入力検出部を備え、前記加振制御部は、前記振動入力の振幅増加に応じて、前記加振波形の振幅を増加させる構成とすることができる。
これによれば、例えば路面やタイヤのパターン形状が粗いことなどにより、路面から伝達される振動が増大する場合であっても、加振波形の振幅を増加させることによって、上述した効果を確保することができる。
ここで、振動入力検出部として、例えば、車両のバネ下部分(サスペンション装置のストロークに伴い、車体本体に対して可動する部分)の加速度を検出する加速度センサ、パワーステアリング装置においてステアリングシャフトに作用するトルクを検出するトルクセンサなどを用いることができる。
ここで、加振制御部は、路面からの振動入力の特定の周波数帯域(典型的には100乃至300Hzを含む帯域)を抽出し、抽出された帯域における振幅の増加に応じて加振波形の振幅を増加させる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、乗員による戻し操作の精度を向上できるペダル式操作装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明を適用したペダル式操作装置の実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図2】実施形態におけるペダル部の構成を示す模式図である。
【
図3】実施形態における振動子制御ユニットの構成を模式的に示す図である。
【
図4】実施形態における加振波形の一例を模式的に示す図である。
【
図5】皮膚が圧力を受けた際に受容体が発する電気パルスのタイミングを模式的に示す図である。
【
図6】パチニ小体及びマイスナー小体の周波数に対する感度分布を示す図である。
【
図7】第1ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
【
図8】第2ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
【
図9】加速度センサの出力履歴の一例を模式的に示す図である。
【
図10】振動振幅演算部におけるトルク振幅の算出手法を模式的に示す図である。
【
図11】第3ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を適用したペダル式操作装置の実施形態について説明する。
実施形態のペダル式操作装置は、例えば、乗用車等の自動車(車両)に設けられ、ドライバが足踏み操作によって加速操作(アクセル操作)、および、回生発電ブレーキによる緩制動操作を行うものである。
車両は、一例として、永久磁石式同期電動機を有するモータジェネレータを走行用動力源とする、バッテリ電気自動車(BEV)、エンジン電気ハイブリッド車(HEV)、燃料電池車(FCV)などの電動車両である。
図1は、実施形態のペダル式操作装置(アクセルペダル)を有する車両のシステム構成を模式的に示す図である。
図2は、実施形態におけるペダル部の構成を示す模式図である。
【0015】
車両1は、ブレーキ制御ユニット100、ハイドロリックコントロールユニット200、モータジェネレータ制御ユニット300、アクセルペダル30(
図2参照)、パワーステアリング制御ユニット400、振動子制御ユニット500等を有する。
これらの各ユニットは、それぞれCPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイコンを備える。
また、各ユニットは、例えばCAN通信システムなどの車載LANを介して、あるいは直接に接続され、相互に通信を行うことが可能となっている。
【0016】
ブレーキ制御ユニット100は、図示しないブレーキペダルの操作に応じて、液圧式摩擦ブレーキと、回生発電ブレーキとを協調制御するものである。
また、ブレーキ制御ユニット100は、アンチロックブレーキ制御、挙動安定化制御を行う機能を有する。
アンチロックブレーキ制御は、制動中に車輪の回転が固着するホイールロックを検出した場合に、当該車輪の制動力を周期的に低減するものである。
挙動安定化制御は、アンダーステア挙動又はオーバステア挙動の発生時に、左右車輪の制動力差により復元方向のヨーモーメントを発生させるものである。
ブレーキ制御ユニット100には、車速センサ101、加速度センサ102、ブレーキペダルセンサ110、反力発生装置120が接続されている。
また、車両1のブレーキ装置は、さらにマスタシリンダ130を有する。
【0017】
車速センサ101は、車輪を回転可能に支持する図示しないハブベアリングハウジングに設けられ、各車輪の回転角速度に応じた車速信号を発生する。
ブレーキ制御ユニット100は、車速センサ101の出力に基づいて、車両1の走行速度(車速)を演算する。
【0018】
加速度センサ102は、車輪を車体に対してストローク可能に支持する図示しないサスペンション装置において、いわゆるばね下部分に設けられている。
加速度センサ102は、例えば、サスペンションアーム、ハブベアリングハウジングなどのばね下側に設けられる部品の上下方向加速度を検出する。
加速度センサ102は、路面からの振動入力を検出する振動入力検出部である。
また、ブレーキ制御ユニット100には、上述した挙動安定化制御等のため、図示しない車体前後加速度センサ、車体左右加速度センサ、ヨーレートセンサ等が設けられる。
【0019】
ブレーキペダルセンサ110は、ブレーキペダルの操作量(踏込量)を検出するエンコーダを有する。
反力発生装置120は、ブレーキ制御ユニット100からの指令に応じて、ブレーキペダルが初期位置(踏み込まれていない位置)に戻る方向の反力を発生させるものである。
反力発生装置120は、例えば電動アクチュエータ等の駆動用動力源を用いて、回生発電ブレーキが利用される場合などに反力の発生を行う。
【0020】
マスタシリンダ130は、ブレーキペダルの踏面部の踏み込み動作に応じて、摩擦ブレーキの作動流体であるブレーキフルードを加圧するものである。
マスタシリンダ130が発生したブレーキフルード液圧は、配管を介してハイドロリックコントロールユニット200に伝達される。
【0021】
ハイドロリックコントロールユニット(HCU)200は、各車輪のホイルシリンダ210のブレーキフルード液圧を個別に調節する機能を有する液圧制御装置である。
ハイドロリックコントロールユニット200は、ブレーキフルードを加圧する電動ポンプ、及び、各ホイルシリンダのブレーキフルード液圧を制御する増圧弁、減圧弁、圧力保持弁などを備えている。
【0022】
ハイドロリックコントロールユニット200には、ブレーキフルード配管を介して、マスタシリンダ130、ホイルシリンダ210等が接続されている。
マスタシリンダ130が発生したブレーキフルード液圧は、ハイドロリックコントロールユニット200を経由して、ホイルシリンダ210に伝達されるようになっている。
ハイドロリックコントロールユニット200は、マスタシリンダ130が発生するブレーキフルード液圧にオーバライドして、各ホイルシリンダのブレーキフルード液圧を増減する機能を有する。
ホイルシリンダ210は、各車輪に設けられ、例えばディスクロータにブレーキパッドを押圧し、ブレーキフルード液圧に応じた摩擦力(制動力)を発生させる。
【0023】
また、ブレーキ制御ユニット100における回生協調制御において、回生発電ブレーキの制御分担比が発生、増加した場合には、ハイドロリックコントロールユニット200は、マスタシリンダ130から伝達されるブレーキフルードの液圧を、減圧又は遮断する機能を備えている。
この場合には、液圧式摩擦ブレーキの使用時を模擬した感覚を運転者に与えるため、ブレーキ制御ユニット100は、反力発生装置120を用いて、ブレーキペダルの反力を発生させる。
さらに、ブレーキ制御ユニット100は、アクセルペダル30の所定位置からの戻し動作に応じて、回生発電ブレーキによる緩制動(一例として減速度が0.1乃至0.3G程度まで)を行う機能を有する。
ブレーキ制御ユニット100は、アクセルペダル30の操作に応じた回生発電ブレーキによる最大制動力を、複数のレベルから乗員が選択する機能を有する。
【0024】
モータジェネレータ制御ユニット300は、モータジェネレータ310及びその補機類を統括的に制御するものである。
モータジェネレータ310は、車両1の走行用動力源として用いられる回転電機である。
モータジェネレータ制御ユニット300は、走行用バッテリ等の電源から供給される電力を、モータジェネレータ310に供給するためのインバータ等を有する。
【0025】
モータジェネレータ310は、例えば、車体(ばね上部分)にマウントされ、デファレンシャル(差動機構)、ドライブシャフト等を介して、車輪に駆動力を伝達する構成とすることができるが、これに限らず、例えばインホイールモータとしてもよい。
モータジェネレータ制御ユニット300は、モータジェネレータ310が出力トルクを発生する駆動モードと、モータジェネレータ310が回生発電を行い、車輪側から伝達されるトルクを吸収し、制動力を発生する回生発電モードとを切り換える。
【0026】
駆動モードにおいては、モータジェネレータ制御ユニット300は、アクセルペダル30の操作量等に基づいて設定される要求トルクに、モータジェネレータ310が実際に発生する実トルクが一致するよう制御する。
回生発電モードにおいては、モータジェネレータ制御ユニット300は、ブレーキ制御ユニット100から指令される要求制動力に応じて、モータジェネレータ310における吸収トルクを制御する。
【0027】
図2に示すアクセルペダル30は、運転者がアクセル操作及びブレーキ操作を行う足踏み式の操作部(本発明のペダル式操作装置のペダル)である。
アクセルペダル30は、ブラケット31、レバー部32、踏面部33等を有する。
ブラケット31は、レバー部32を、車幅方向に沿った回転軸回りに回動可能に支持する基部である。
ブラケット31は、レバー部32を、復元方向(初期位置側)に付勢する図示しないスプリングを有する。
ブラケット31は、車室前部に設けられた隔壁であるトーボードTに取り付けられている。
レバー部32は、ブラケット31から下方側かつ斜め後方側へ突出した部材である。
踏面部33は、レバー部32の突端部(ブラケット31側とは反対側の端部)に設けられ、乗員の足の裏面と当接する部分である。
【0028】
図2に示すように、踏面部33は、レバー部32のブラケット31側の支点(ピボット)を中心に、前後方向に揺動可能となっている。
踏面部33が乗員の足に押圧されていない状態の位置である初期位置P0と、乗員の足により踏面部33がストッパ当たりするまで踏み込まれた全開位置P2との間には、ニュートラル位置P1が設定されている。
アクセルペダル30は、ニュートラル位置P1から全開位置P2までの領域を用いてアクセル操作を行い、ニュートラル位置P1から初期位置P0までの領域を用いてブレーキ操作を行うようになっている。
回生発電ブレーキによる制動力(減速G)は、ニュートラル位置P1から初期位置P0側への変位量(戻し量)に応じて増加する。
【0029】
モータジェネレータ制御ユニット300には、アクセルペダルセンサ301が接続されている。
アクセルペダルセンサ301は、アクセルペダル30のレバー部32の回転角度位置を検出するエンコーダを有する。
アクセルペダルセンサ301は、ブラケット31に設けられている。
モータジェネレータ制御ユニット300は、アクセルペダルセンサ301の出力に基づいて、踏面部33の初期位置からの前進量(踏込量)を検知する。
アクセルペダルセンサ301の検出値は、ブレーキ制御ユニット100に伝達される。
【0030】
パワーステアリング制御ユニット400は、車両1の操向輪(典型的には前輪)を操舵する図示しない操舵装置に、運転者の操舵操作に応じたアシスト力や、自動操舵時における操舵力を与える電動パワーステアリング装置を統括的に制御する。
パワーステアリング制御ユニット400には、舵角センサ410、トルクセンサ420、モータ430等が接続されている。
【0031】
舵角センサ410は、操舵装置における操舵角を検出するセンサ(舵角検出部)である。
トルクセンサ420は、運転者が操舵操作を行う図示しないステアリングホイールが接続されたステアリングシャフトに負荷されるトルクを検出するセンサである。
パワーステアリング制御ユニット400は、トルクセンサ420が検出したトルク等に応じて、アシスト力の制御を行う。
モータ430は、操舵装置にアシスト力、操舵力を与え、ラック推力を発生させる電動アクチュエータである。
モータ430の出力は、パワーステアリング制御ユニット400により制御される。
【0032】
振動子制御ユニット500は、振動子501に、所定の加振波形を有する駆動電流、電圧を供給する加振制御部である。
振動子501は、アクセルペダル30の踏面部33等を加振する加振部である。
振動子501として、例えば、供給される電圧の変動に応じた振動を発生するボイスコイル及び振動板を有する構成とすることができる。
例えば、振動子501として、小型のスピーカを利用することができる。
振動子501は、例えば、
図2に示すように、アクセルペダル30のブラケット31に取り付けられる。
振動子501の振動は、ブラケット31、レバー部32、踏面部33を順次伝搬して、運転者の足に伝達される。
【0033】
図3は、実施形態における振動子制御ユニットの構成を模式的に示す図である。
振動子制御ユニット500は、波形生成部510、第1ゲイン調整部520、第2ゲイン調整部530、路面振動モニタ部540、振動振幅演算部550、第3ゲイン調整部560等を有する。
【0034】
波形生成部510は、振動子501の駆動電力の電圧波形である加振波形の基本波(ゲイン等が未調整であるもの)を生成する。
図4は、実施形態における加振波形の一例を模式的に示す図である。
図4において、横軸は時間を示し、縦軸は電圧を示している。
図4に示すように、加振波形は、一例として、矩形波とすることができるが、これに限定されず他の波形であってもよい。
【0035】
実施形態において、加振波形の周波数は、例えば、100乃至300Hzの範囲に卓越周波数を有するように設定することができる。
なお、本明細書において、卓越周波数とは、他の周波数の振幅に対して振幅が特に大きい周波数を示すものとする。一般に、このような卓越周波数は、複数の固有値(固有振動数)のなかで特に振幅が大きいものと一致する場合が多い。
以下、その理由について説明する。
【0036】
踏面部33に触れる運転者の足が、触感(皮膚感覚)を取得する感覚受容体(触覚センサ)として、メルケル細胞、マイスナー小体、パチニ小体などがある。
図5は、皮膚が物体に触れた際に受容体が発する電気パルスのタイミングを模式的に示す図である。
図5において、横軸は時間を示し、縦軸は上段から順に、圧力、及び、メルケル細胞、マイスナー小体、パチニ小体の電気パルス発生状態を示している。
【0037】
メルケル細胞は、応答が比較的遅く、直流成分に対応する。
マイスナー小体は、接触圧力の変化率(速度)が発生しているときに対応する。
マイスナー小体は、速度が出ているときに常に反応することから、仮にノイズ信号としてマイスナー小体の感度が高い周波数のものを用いた場合、ドライバが振動として感じやすくなると考えられる。
パチニ小体は、過渡的変化の瞬間に対応し、これらの受容体のなかでは最も感度が高いとされる。
ドライバが微小操作の反力を感じ取る受容体として、パチニ小体が支配的であると考えられる。
【0038】
図6は、パチニ小体及びマイスナー小体の周波数に対する感度分布を示す図である。
図6において、横軸は周波数を示し、縦軸は閾値上の振幅を示しており、値が小さいほど感度が良いことを表わす。
図6に示すように、パチニ小体は、100乃至300Hz付近の領域において、良好な感度を示すことから、実施形態においては、100乃至300Hzの周波数帯域内に卓越周波数を有する加振波形を用いている。
また、加振波形にさらに10乃至50Hzの周波数帯域の成分を加えることにより、マイスナー小体を刺激する効果を得ることもできる。
【0039】
第1ゲイン調整部520は、加振波形に対して、以下説明する第1のゲイン調整を行うものである。
第1のゲイン調整は、アクセルペダル30の戻し動作に応じた回生発電ブレーキによる車両減速Gの変化(回生発電ブレーキによる制動力の変化)に応じて、加振波形のゲインを変化させるものである。車両減速Gは、例えば、車体前後加速度センサの出力や、ブレーキ制御ユニット100により設定される回生発電ブレーキの目標制動力から求めることができる。
図7は、第1ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
図7において、横軸は車両の減速方向への回生量又は加速度(減速G)を示し、縦軸は加振波形に乗算されるゲインを示している。
ゲインは、例えば、回生量又は減速Gの増加に応じて増加する構成とすることができる。特に、回生量に応じてゲイン調整を行う場合には、回生量やその指示値の変化のほうが車両挙動の変化よりも早期となるため、回生ブレーキによる制動力の発生をドライバが予見しやすくなり、操作のしやすさにつながる。
また、回生量又は減速Gがゼロである場合には、ゲインはゼロとなり、振動子501による加振は中止される。
【0040】
第2ゲイン調整部530は、第1のゲイン調整後の加振波形に対して、さらに以下説明する第2のゲイン調整を行うものである。
第2のゲイン調整は、アクセルペダル30の戻し方向、及び、踏み込み方向それぞれの操作速度に応じたゲイン調整を行うものである。
アクセルペダル30の操作速度(踏面部33が回動する角速度)は、アクセルペダルセンサ301が検出するアクセルペダル30の操作量(踏込量)の時間微分によって求めることができる。
【0041】
図8は、第2ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
図8において、横軸はペダル操作速度(一例として、踏面部33の角速度)を示し、縦軸は加振波形に乗算されるゲインを示している。
横軸において、左側は戻し側への操作速度を示し、右側は踏み込み側への操作速度を示している。
ゲインの絶対値は、例えば、ペダル操作速度の絶対値の増加に応じて、増加する構成とすることができる。
ここで、ペダル操作速度の絶対値に対するゲインの絶対値の増加率は、ペダルの操作速度が小さい領域において、操作速度の絶対値が大きい領域に対して大きくなり、かつ、ペダル操作速度の絶対値の増加に応じて漸減するよう設定されている。
また、操作速度の絶対値が同等の場合におけるゲインの絶対値は、戻し側において踏み込み側よりも大きくなるよう設定されている。
【0042】
路面振動モニタ部540は、加速度センサ102の出力をモニタし、かつ、所定の期間にわたって履歴を保持する機能を有する。
図9は、加速度センサの出力履歴の一例を模式的に示す図である。
図9において、横軸は時間を示し、縦軸は加速度センサ102の検出値(ばね下の上下方向加速度)を示している。
加速度センサ102の出力履歴に関するデータは、振動振幅演算部550に提供される。
【0043】
振動振幅演算部550は、路面振動モニタ部540から提供された加速度センサ102の出力に、バンドパスフィルタ処理を施して特定の周波数領域の成分を抽出し、この周波数領域の振動振幅を演算するものである。
図10は、振動振幅演算部における振動振幅の算出手法を模式的に示す図である。
図10において、横軸は周波数を示し、縦軸は加速度センサ102の検出値を示している。
バンドパスフィルタは、例えば、100乃至300Hzの帯域に含まれる一部(一例として250Hz近傍)の周波数帯域を抽出する構成とすることができる。
抽出された周波数帯域における振動振幅(一例として周波数帯域の平均値)Aは、第3ゲイン調整部560に提供される。
【0044】
第3ゲイン調整部560は、第2のゲイン調整後のノイズ信号に対して、さらに以下説明する第3のゲイン調整を行うものである。
第3ゲイン調整部560は、路面振動モニタ部540、振動振幅演算部550の出力に基づいて、第3のゲイン調整を行う。
【0045】
図11は、第3ゲイン調整部におけるゲイン調整の一例を模式的に示す図である。
図11において、横軸は振動振幅演算部550が演算したトルク振幅を示し、縦軸は加振波形に乗算されるゲインを示している。
図11に示すように、第3ゲイン調整部560は、路面からの振動振幅の増加に応じて、ゲインを増加させる。
振動子501は、波形生成部510が生成した加振波形に、上述した第1乃至第3のゲイン調整を行った後、ゲイン調整後の加振波形に基づいて駆動される。
第3ゲイン調整部560において、振動子501から付加する加振振幅をΔA、振動振幅演算部550から得た路面からの振動振幅をAとした場合、ΔA/Aは、ウェーバー比Wと考えらえる。
そこで、このウェーバー比Wが予め設定された所定値となるようにゲイン調整を行うことで、ウェーバー・フェヒナーの法則から、安定した効果を得られると考えられる。
【0046】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)アクセルペダル30の戻し動作に応じて、皮膚感覚を司る受容体であるパチニ小体及びマイスナー小体の感度が良好な周波数帯域で、アクセルペダル30を加振することにより、これらの受容体が刺激され、運転者が足の裏から受ける圧力を感じやすくなる。
これにより、通常はアクセルペダル30からの反力感を感じにくい戻し方向の操作であっても、運転者が踏面部33の操作量を知覚する空間分解能が向上し、精度が高いペダル操作を行うことが可能となる。このため、車両1の運転しやすさや、走行のスムーズさを改善することができる。
(2)アクセルペダル30の操作速度の増加に応じて加振波形の振幅を増加させることで、ペダルの戻し動作を行う際における運転者の反力の感じやすさを効果的に向上することができる。特に、操作速度が速い場合は、加振振幅を増大させて反力感(圧感)を強調することで、操作速度に応じた変化を運転者に感じさせ、減衰項として作用させることができる。
(3)アクセルペダル30が戻し操作によって回生発電ブレーキによる緩制動を行う機能を有することにより、アクセルペダル30からの反力を、踏み込み側に対して感じ取り難い戻し側の操作で制動操作を行う場合であっても、乗員のペダルの操作量に対する空間的分解能を向上し、精確な制動操作を可能とすることができる。
また、アクセル操作と制動操作とを単一のペダルにより行ういわゆるワンペダル式のアクセルペダル30において、アクセル操作に対して制動操作が難しくなり、運転のスムーズさが損なわれることを抑制できる。
(4)路面からの振動入力の振幅増加に応じて、加振波形の振幅を増加させることにより、例えば路面やタイヤのパターン形状が粗いことなどにより、路面から伝達される振動が増大する場合であっても、加振波形の振幅を増加させることによって、上述した効果を確保することができる。
【0047】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)ペダル式操作装置やこれにより制御される機能、及び、車両の構成は、上述した実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、本発明は、エンジン-電気ハイブリッド車両(HEV)や、内燃機関のみを走行用動力源とする車両にも適用することができる。
例えば、本発明は、アクセル操作のみを行うアクセルペダルや、制動操作のみを行うブレーキペダルにも適用することができる。この場合であっても、アクセルペダルの戻し操作、ブレーキペダルの戻し操作の精確さを向上することができる。
(2)実施形態においては、路面からの振動をサスペンション装置のばね下部分の加速度に基づいて検出しているが、路面からの振動を検出する手法はこれに限らず、適宜変更することができる。
例えば、ばね下部分に設けられるホイルシリンダに接続されたブレーキフルードの配管(ブレーキライン)に振動ピックアップを設けてもよい。
また、パワーステアリング装置のトルクセンサの出力に基づいて、路面からの振動を検出するようにしてもよい。
(3)実施形態では、加振波形として、一例として矩形波のものを用いているが、これに限らず、例えば正弦波、三角波、ランダム波など、他の波形のノイズ信号を用いてもよい。また、ゲインの調整手法も実施形態の構成に限定されず、適宜変更することができる。
(4)振動子(加振部)の具体的な構成や、加振の原理、設置箇所などは、実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
(5)実施形態におけるアクセルペダル(ペダル式操作装置)の構成は一例であって、本発明は、他の形態のペダル式操作装置にも適用することができる。例えば、本発明は、踏面部を回動させる支軸が踏面部の下方に設けられたいわゆるオルガン式のペダル式操作装置にも適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 車両
100 ブレーキ制御ユニット 101 車速センサ
102 加速度センサ 110 ブレーキペダルセンサ
120 反力発生装置 130 マスタシリンダ
200 ハイドロリックコントロールユニット
210 ホイルシリンダ
300 モータジェネレータ制御ユニット
310 モータジェネレータ
30 アクセルペダル 31 ブラケット
32 レバー部 33 踏面部
400 パワーステアリング制御ユニット
301 アクセルペダルセンサ
410 舵角センサ 420 トルクセンサ
430 モータ
500 振動子制御ユニット 501 振動子
510 波形生成部 520 第1ゲイン調整部
530 第2ゲイン調整部 540 路面振動モニタ部
550 振動振幅演算部 560 第3ゲイン調整部