(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148350
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】線条体ファントムパーツ及び線条体ファントム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/161 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
G01T1/161 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056316
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000230250
【氏名又は名称】日本メジフィジックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】村田 彰宏
【テーマコード(参考)】
4C188
【Fターム(参考)】
4C188EE02
4C188FF04
4C188JJ27
(57)【要約】
【課題】線条体部分とその周囲のバックグラウンドとの間においてRI液の放射能の濃度調整が不要となる線条体ファントムパーツ及び線条体ファントムを提供する。
【解決手段】線条体ファントムパーツ1は、板状の第1中空部2aを有する第1液体貯留部2と、第1中空部2aと接続された第2中空部3aを有し、第1液体貯留部2と一体的に形成され不図示の線条体に対応する第2液体貯留部3と、を備える。第1中空部2aは、第1中空部2aの厚さ方向において第2中空部3aよりも薄く形成され、厚さ方向に対して垂直な面方向において第2中空部3aよりも大きく形成されている。第1中空部2aと第2中空部3aとが厚さ方向に重なり合う位置に配設されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
線条体の核医学撮影画像の評価に用いられる線条体ファントムパーツであって、
板状の第1中空部を有する第1液体貯留部と、
前記第1中空部と接続された第2中空部を有し、前記第1液体貯留部と一体的に形成され線条体に対応する第2液体貯留部と、を備え、
前記第1中空部は、
前記第1中空部の厚さ方向において前記第2中空部よりも薄く形成され、
前記厚さ方向に対して垂直な面方向において前記第2中空部よりも大きく形成され、
前記第1中空部と前記第2中空部とが前記厚さ方向に重なり合う位置に配設されていることを特徴とする線条体ファントムパーツ。
【請求項2】
前記第2液体貯留部は、前記第1液体貯留部を挟んで前記厚さ方向の上側部分と下側部分とで構成されている請求項1に記載の線条体ファントムパーツ。
【請求項3】
前記第1中空部の厚さと検査対象領域となる3次元関心領域の高さとの比は、異なる濃度の放射性薬剤を入れて核医学撮影画像の評価する場合のバックグラウンドに収容された前記放射性薬剤の濃度と前記線条体に対応するものに収容された前記放射性薬剤の濃度との比に等しい請求項1又は2に記載の線条体ファントムパーツ。
【請求項4】
前記第2液体貯留部は、前記厚さ方向にみて、前記第1液体貯留部の中心に対してずれた位置に1つだけ配設されている請求項1から3のいずれか一項に記載の線条体ファントムパーツ。
【請求項5】
前記第2液体貯留部は、
前記厚さ方向にみて、前記第1液体貯留部の中心を挟んで両側に複数設けられており、
複数の前記第2液体貯留部のそれぞれの前記第2中空部の内容量が異なる請求項1から3のいずれか一項に記載の線条体ファントムパーツ。
【請求項6】
前記第1液体貯留部の内側面は、曲面状に形成されている請求項1から5のいずれか一項に記載の線条体ファントムパーツ。
【請求項7】
前記第2液体貯留部の内側面は、曲面状に形成されている請求項1から6のいずれか一項に記載の線条体ファントムパーツ。
【請求項8】
前記第1液体貯留部の肉厚方向にみて、前記第2中空部は楕円形状に形成されており、その楕円形状の長軸長さを長辺の長さとし、短軸の長さを短辺の長さとして、前記第2中空部に外接する仮想長方形は、前記第1中空部に内包されている請求項1から7のいずれか一項に記載の線条体ファントムパーツ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項の線条体ファントムパーツと、
前記線条体ファントムパーツを収容する収容容器と、を備える線条体ファントム。
【請求項10】
前記収容容器は、前記線条体ファントムパーツを収容する容器本体と、該容器本体及び前記線条体ファントムパーツとが取り付けられる座部と、を備え、
前記容器本体には、前記線条体ファントムパーツを内部に収容する際に通す通し孔が形成されており、
前記第1液体貯留部は、扁平状に形成されていて長径寸法が前記通し孔の最大径寸法よりも大きく形成されており、
前記第1液体貯留部は、その長尺方向において、前記通し孔の縁に重なるように配置されている請求項9に記載の線条体ファントム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断装置の校正に用いられる線条体ファントムパーツ及び線条体ファントムに関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症、パーキンソン症候群などの種々の脳機能障害の診断や研究においては、大脳基底核の中の線条体におけるドパミンやアセチルコリンなどの神経伝達物質の定量的な検出がおこなわれている。その検出にあたっては、ポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET:Positron Emission Tomography)やシングル・フォトン・エミッション・コンピューテッド・トモグラフィ(SPECT:Single-Photon Emission Computed Tomography)などの画像診断技術を用いて、線条体を含む脳を画像化することが一般的である。PETやSPECTでは、放射性同位体をトレーサーとして被験者の体内に注入し、体内から放出されるガンマ線を検出することにより、この放射性トレーサーの分布を断層画像化する。
【0003】
上記の脳機能障害を発症すると、黒質から線条体に投射するドパミン神経やアセチルコリン神経が変性する。ニューロンから放出されたドパミンは、ドパミン受容体に結合し、又はドパミントランスポーターによって再取り込みされる。ここで、放射性同位体であるヨウ素123をイオフルパンに結合させた放射性薬剤(以下、「RI液」という場合がある。)であるイオフルパン(123I)は、ドパミントランスポーターに結合する。
【0004】
この原理に基づき、被験者の体内にRI液を注入してPET画像やSPECT画像などの核医学画像を撮影することにより、受容体の増加やドパミントランスポーターの低下などを検出することができる。RI液はイオフルパン(123I)のほか、症例に応じて種々に選択される。
【0005】
PETやSPECTを用いた核医学画像診断装置の性能検査やキャリブレーションには、撮影対象部位の形状及び寸法に対応した人体模型(ファントム)が用いられる。このファントムに予め既知の濃度に調整されたRI液を貯留してPET画像やSPECT画像を撮影することで、核医学画像診断装置の評価、すなわち診断性能の検査や診断結果のキャリブレーションなどをおこなうことができる。
【0006】
特許文献1には、放射性薬剤を含んだ液体であるRI液を貯留した液体貯留部と、液体貯留部が内部にセットされた収容容器と、を備える線条体ファントムが開示されている。
そして、収容容器の空洞部に、液体貯留部のRI液よりも低濃度のRI液を貯留することが記載されており、核医学画像診断装置の専用カメラで線条体ファントムを撮影して核医学画像を収集することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、特許文献1には、液体貯留部(線条体部分)と収容容器の空洞部(バックグラウンド)内とに異なる濃度のRI液を封入することが記載されている。
しかし、例えばファントム内において、液体貯留部(線条体部分)とその周囲のバックグラウンドとを、PET、SPECT画像で映し出すためには、それぞれの空洞内に封入されるRI液について、放射能の濃度調整が必要である。この調整は、ファントムを使った実験により、補正係数を算出することにより行っていたが煩雑であった。
また、簡略化したファントムを用いた場合においても、その補正係数の正確さに関して改善の余地があった。
【0009】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、線条体部分とその周囲のバックグラウンドとの間においてRI液の放射能の濃度調整が不要となる線条体ファントムパーツ及び線条体ファントムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、線条体の核医学撮影画像の評価に用いられる線条体ファントムパーツであって、板状の第1中空部を有する第1液体貯留部と、前記第1中空部と接続された第2中空部を有し、前記第1液体貯留部と一体的に形成され線条体に対応する第2液体貯留部と、を備え、前記第1中空部は、前記第1中空部の厚さ方向において前記第2中空部よりも薄く形成され、前記厚さ方向に対して垂直な面方向において前記第2中空部よりも大きく形成され、前記第1中空部と前記第2中空部とが前記厚さ方向に重なり合う位置に配設されていることを特徴とする線条体ファントムパーツが提供される。
また、前記線条体ファントムパーツと、前記線条体ファントムパーツを収容する収容容器と、を備える線条体ファントムが提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、線条体部分とその周囲のバックグラウンドとの間においてRI液の放射能の濃度調整が不要となる線条体ファントムパーツ及び線条体ファントムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る線条体ファントムを示す上方斜視図である。
【
図2】線条体ファントムから容器本体を取り除いて、線条体ファントムの内部にある線条体ファントムパーツ及び座部を示す斜視図である。
【
図3】線条体ファントムパーツ及び座部を示す平面図である。
【
図4】線条体ファントムパーツ及び座部を示す正面図である。
【
図5】線条体ファントムパーツを容器本体内に通し孔を介して収容しようとしている状態を示す模式図である。
【
図6】線条体ファントムパーツを容器本体内に収容した状態を示す模式図である。
【
図7】線条体ファントムパーツを押さえ棒でフランジ部の内部に押さえつけている状態を示す説明図である。
【
図8】支柱部を支持突起に取り付けた状態を示す説明図である。
【
図9】フランジ部に座部を取り付けた状態を示す説明図である。
【
図10】変形例に係るファントムパーツを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る線条体ファントムパーツ1及び線条体ファントム100について図面に基づいて説明する。
なお、本実施形態で用いる図面は、本発明の線条体ファントムパーツ、線条体ファントムの構成、形状、これらを構成する各部材の配置を例示するものであり、本発明を限定するものではない。
また、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。
【0014】
<概要>
はじめに、本実施形態の概要について、
図1及び
図2を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る線条体ファントム100を示す上方斜視図、
図2は、線条体ファントム100から容器本体60を取り除いて、線条体ファントム100の内部にある線条体ファントムパーツ1及び座部50を示す斜視図である。
なお、
図1においては、線条体ファントムパーツ1は、収容容器30の内部にあるため、その図示を省略している。
【0015】
線条体ファントムパーツ1は、線条体の核医学撮影画像の評価に用いられるものである。
線条体ファントムパーツ1は、板状の第1中空部2aを有する第1液体貯留部2と、第1中空部2aと接続された第2中空部3aを有し、第1液体貯留部2と一体的に形成され不図示の線条体に対応する第2液体貯留部3と、を備える。
第1中空部2aは、第1中空部2aの厚さ方向において第2中空部3aよりも薄く形成され、厚さ方向に対して垂直な面方向において第2中空部3aよりも大きく形成されている。第1中空部2aと第2中空部3aとが厚さ方向に重なり合う位置に配設されていることを特徴とする。
【0016】
「線条体に対応する」とは、第2液体貯留部3と第1液体貯留部2との容積比が、RI液を投与したときの線条体のRI液の濃度とバックグラウンドのRI液の濃度の比に一致するように、第2液体貯留部3の容積が設定されていることを意味する。このため、第2液体貯留部は、線条体の形状と完全に一致するものに限定されず、本実施形態に記載の第2液体貯留部3のように、楕円柱状であってもよく、円柱状や球状、その他の形状であってもよい。
さらには、第2液体貯留部3の配置についても、線条体がある位置に限定されず、線条体ファントム100のいずれの位置に設けられていてもよい。例えば、第2液体貯留部3は、頭部中央に配置されていてもよいが、校正精度の観点から、第2液体貯留部3から脳骨部材62までの距離が、ヒトの頭部における線条体と頭蓋骨との距離に近いと好適である。このため本実施形態における第2液体貯留部3は、頭部中央から横方向(X方向)にずれた位置に設けられている。
上記構成によれば、形状の異なる第1中空部2aと第2中空部3aに放射性同位元素を含む濃度一定の溶液を封入した線条体ファントムパーツ1を用いて、診断装置の校正を行うことができる。
【0017】
また、
図1に示す線条体ファントム100は、
図2に示す線条体ファントムパーツ1と、線条体ファントムパーツ1を収容する収容容器30と、を備える。
上記構成によれば、線条体ファントムパーツ1を用いることによる効果を線条体ファントム100によっても享受できる。
【0018】
<全体構成>
次に、全体構成について
図1及び
図2を主に参照して説明する。
上記のように、線条体ファントム100は、
図2に示す線条体ファントムパーツ1と、線条体ファントムパーツ1を収容する収容容器30と、を備える。
収容容器30は、線条体ファントムパーツ1を収容する容器本体60と、容器本体60の上部に設けられた上部台座32と、線条体ファントムパーツ1及び容器本体60の下面が取り付けられる座部50と、を備える。
容器本体60は、下端部に設けられたフランジ部34と、脳骨部材62と、を備える。
また、容器本体60には、線条体ファントムパーツ1を内部に収容する際に通す通し孔60a(
図5参照。)が形成されている。
線条体ファントムパーツ1と脳骨部材62との間の空間に散乱吸収体として水が収容される。
【0019】
なお、必ずしも水を収容することが必須ではなく、例えば、液体を収容していない中空としたり、他の液体を収容したりしてもよく、後述するVOI5のアクティビティを算出する際には別途補正演算を行うようにしてもよい。
【0020】
<線条体ファントムパーツ>
次に、線条体ファントムパーツ1について、
図2に加え、
図3及び
図4を主に参照して説明する。
図3は、線条体ファントムパーツ1及び座部50を示す平面図、
図4は、線条体ファントムパーツ1及び座部50を示す正面図である。
【0021】
線条体ファントムパーツ1は、
図4に示すように、後述する第2液体貯留部3に連設された支柱部16と、後述する第1液体貯留部2に連接された支柱17と、を備える。
支柱部16、17は、座部50の支持突起51に挿し込まれた状態で固定される部位である。特に、支柱部16、17は、筒状に形成されている。このため、RI液を、支柱部16又は17を介して第2中空部3a及び第1中空部2aに送り込むことができるように構成されている。このように、RI液が第2中空部3a及び第1中空部2aに送り込まれた後に、栓体18によって支柱部16又は17の中空部分は閉止される。
【0022】
なお、第1中空部2aと第2中空部3aとが連通しているため、支柱部16、17の一方のみからRI液を供給して、第1中空部2aと第2中空部3aとに送り込むようにしてもよい。このようにして、同じ濃度のRI液を、第1液体貯留部2の第1中空部2aと、第2液体貯留部3の第2中空部3aとに満たすことができる。
【0023】
また、座部50には、10個のネジ穴57が設けられており、
図9に示して後述する、フランジ部34の10個のネジ穴38とそれぞれ重なる位置にあてがわれた状態でねじで締結されることにより、フランジ部34に取り付けられることになる。
【0024】
(第1液体貯留部)
線条体ファントムパーツ1は、上記のように、板状の第1中空部2aを有する第1液体貯留部2を備える。
第1液体貯留部2の第1中空部2aは、従来のファントムにおいて線条体を模したものと収容容器30との間にあったバックグラウンドにおけるアクティビティ(放射能量)と等しいアクティビティとなる、つまり仮想バックグラウンドとなるものである。
【0025】
第1中空部2aは、
図3に示すように、平面視において後述するVOI5を包含するだけの十分な面積で形成されている。
これにより、後述するように、第1中空部2aの厚さをVOI5の高さ÷所望のSBR(specific binding ratio)に関する値(線条体とバックグラウンドの設定濃度比が8:1の場合は8(なお、SBRの値は7である。))で決定することができる。
【0026】
第1液体貯留部2は、楕円板状に形成されており、第1液体貯留部2の内側面は、曲面状に形成されている。
上記構成によれば、第1液体貯留部2の内側面が曲面状であることで、角張った側面から形成されるものと比較して、第1液体貯留部2の側方に放出された放射線を検出する際のアーチファクトを抑制できる。
なお、本実施形態における第1液体貯留部2は、楕円板状に形成されているが、内側面が曲面状に形成されていればよく、例えば円板状であってもよい。
【0027】
(第2液体貯留部)
第2液体貯留部3は、上記のように、不図示の線条体に対応するものであり、第1中空部2aと接続された第2中空部3aを有し、第1液体貯留部2と一体的に形成されている。
【0028】
本実施形態に係る第2液体貯留部3は、第1液体貯留部2を挟んで厚さ方向の上側部分3bと下側部分3cとで構成されている。
【0029】
上記構成によれば、第2液体貯留部3が、第1液体貯留部2を挟んで配置された上側部分3bと下側部分3cとで構成されていることで、上下に挟む第2液体貯留部3に重複するように後述するVOI5を設定したときに、板状の第1液体貯留部2をVOI5の高さ方向中央よりに位置させることでき、また、脳骨を模した脳骨部材62に干渉することを抑制できる。
【0030】
しかしながら、本発明はこのような構成に限定されず、第2液体貯留部3の第2中空部3aに収容されるRI液のアクティビティが後述する所定の値となればよく、第2中空部3aの内容積が等しくなるようにすれば、その形状、個数は問わない。
【0031】
図2から
図4に示すように、本実施形態に係る第2液体貯留部3は、厚さ方向にみて、第1液体貯留部2の中心に対してずれた位置に1つだけ配設されている。
具体的には、第2液体貯留部3は、厚さ方向にみて、第1液体貯留部2の中心を通り長軸側に上下に延在する中心線に対して、左方向(又は右方向)にずれて配置されている。
第2液体貯留部3は、線条体に対応するものであるが、実際の線条体と同様に2つ設けられていなくても、1つのみで線条体とバックグラウンドと集積濃度比(SBR)をチェックできる。
【0032】
特に、第2液体貯留部3は、厚さ方向に見て、線条体が設けられる位置と同じ位置に設けられていると、RI液から放出されるガンマ線をガンマカメラで検出する際に、ガンマ線の吸収、散乱の条件を等しくすることができるため、好適である。
【0033】
第2液体貯留部3は、楕円柱状に形成されており、第2液体貯留部3の内側面は、曲面状に形成されている。
上記構成によれば、第2液体貯留部の内側面が曲面状であることで、角張った側面から形成されるものと比較して、第2液体貯留部の側方に放出された放射線を検出する際のアーチファクトを抑制できる。
【0034】
本実施形態においては、
図3及び
図4に示すように、第2液体貯留部3を台形状に囲んだ1スライス上の関心領域をROI(Region Of Interest)4とし、ROI4のスライスに対して、厚さ方向(Z方向)に44mm(本実施形態においては、39番目のスライスから65番目のスライスの厚み)だけ積み重ねた3次元の関心領域をVOI(Volume Of Interest)5とする。ROI4及びVOI5は、後処理の演算処理で用いる検査対象領域を示すものである。
【0035】
本実施形態に係るROI4(1スライス)の厚さは、1.72mmであるが、その厚さは任意であり、補正係数を乗じることによって各種スライスの厚さに対応可能である。また、演算処理ソフトに応じて、VOI5の厚さである44mmの値も変更可能である。
なお、第2液体貯留部3の第2中空部3aは、すべてVOI5の中に収まるように設計されている。
また、上記のように、
図3に示す平面視において、第1中空部2aがVOI5を包含しているため、当然、第1中空部2aはVOI5内に収まる第2中空部3aを包含している。
【0036】
線条体を模した部位とバックグラウンドとでアクティビティの異なる従来のファントムについて、次の式が成り立つ。
【0037】
(数式1)
Va1=Sv1×Sa+(Vv-Sv1)×Ba1
Va1は従来のファントムについてのVOIの放射能の総量を示し、Sv1は線条体を模した部分の内容積を示し、Saは線条体を模した部分に収容されたRI液による単位体積当たりの放射能の強さを示し、VvはVOIの体積を示し、Ba1はバックグラウンドに収容されたRI液による単位体積当たりの放射能の強さを示すものとする。
【0038】
線条体とバックグラウンドの設定濃度比(単位体積当たりの放射能の強さ)が8:1の場合(SBRが7の場合)、Saは8、Ba1は1となる。この場合に例えばSv1が12mLであるとき、Va1は、84+Vvとなる。
【0039】
線条体に対応する部位(第2中空部3a)と仮想的なバックグラウンド(第1中空部2a)とで、単位体積当たりの放射能の強さの等しい本実施形態のファントムについて、次の式が成り立つ。
【0040】
(数式2)
Va2=Sv×Sa+Vv×(Th/Vh)×Ba2
Va2は本実施形態に係るファントムについてのVOI5の放射能の総量を示し、Svは第1中空部2aの内容積を示し、Thは第1中空部2aの厚さを示し、VhはVOI5の高さを示し、Ba2は、第1中空部2aに収容されたRI液による単位体積当たりの放射能の強さを示す。本実施形態においては、上記のように、第2中空部3aと第1中空部2aとが連通しており、これらに同じ濃度のRI液が収容されており、単位体積当たりの放射能の強さが等しいため、SaとBa2は等しい。
例えば、SBRが7の場合、Sa及びBa2はともに8となる。このとき例えば、Vhを44である場合に、Thを5.5に設定し、Th/Vhを5.5/44である1/8とする。
【0041】
このようにThを設定することで、線条体に対応する第2中空部3aとバックグラウンドに対応する第1中空部2aとで設定濃度比が1:1である(単位体積当たりの放射能の強さが等しい)本実施形態に係るファントムのVa2を、線条体とバックグラウンドの設定濃度比が8:1である従来のファントムのVa1と、等しくすることができる。
具体的には、本実施形態のように、VOI5の高さに対する第1中空部2aの厚さの比である(VOI5に対する第1中空部2aの体積比でもある)Th/Vhを設定濃度比の逆数となる値(1/8)にしてVvに乗じることで、SaとBa2が等しいファントムにおけるVa2を従来のファントムVa1と等しくすることができる。
【0042】
つまり、第1中空部2aの厚さ(Th)と検査対象領域となる3次元関心領域(VOI5)の高さ(Vh)との比は、異なる濃度の放射性薬剤を入れて核医学撮影画像の評価する場合(従来のファントムを用いる場合)のバックグラウンドに収容された放射性薬剤の濃度(単位体積当たりの放射能の強さ(Ba1))と線条体に対応するもの(線条体を模したもの)に収容された放射性薬剤の濃度(単位体積当たりの放射能の強さ(Sa))との比に等しい。
つまり、Thの値は、従来のバックグラウンドの放射能の総量と第1中空部2aの放射能の総量が同じになるように定められている。
このようにすることで、第2中空部3aに収容するRI液と同じ濃度のRI液を用いて、仮想バックグラウンドに係るSBRを算出することができる。
また、Va2を従来のファントムの放射能の総量であるVa1に等しいものとして、数式1と数式2からSvの値を求めると、10.5mLとなる。
【0043】
本実施形態においては、上記のように、第2液体貯留部3が、第1液体貯留部2を挟んで厚さ方向の上側部分3bと下側部分3cとで構成されており、上側部分3bの中空部の内容積と、下側部分3cの中空部の内容積を合わせた体積が10.5mLとなる。
上記の条件のうち、例えばSBRが3(線条体とバックグラウンドの設定濃度比が4:1)の場合には、Svは9mLとなる。
【0044】
好ましい数値範囲としては、VOI5の高さ(Vh)が40mm以上、60mm以下であり、第1中空部2aの厚さ(Th)は4mm以上、30mm以下、好ましくは、5mm以上、20mm以下である。
第1中空部2aの内容積(Sv)の好ましい範囲は、線条体体積(大人の一般的な線条体の片側の体積である、例えば12mL)÷2以上、線条体体積以下、より好ましくは6mL以上、11mL以下である。
【0045】
図3に示すように、第1液体貯留部2の肉厚方向にみて、第2中空部3aは楕円形状に形成されており、その楕円形状の長軸長さを長辺の長さとし、短軸の長さを短辺の長さとして、第2中空部3aに外接する仮想長方形9は、第1中空部2aに内包されていると好ましい。
上記構成によれば、第1中空部2aが第2中空部3aに外接する仮想長方形9よりも大きいことで、肉厚方向に垂直な軸状断方向の面積を確保して、2aに収容されるRIを厚さ方向に凝縮することができ、第1中空部2aの厚みを小さく抑えることができる。
【0046】
<線条体ファントムパーツの収容容器への取り付け方>
次に、
図5から
図9を参照して、線条体ファントムパーツ1の容器本体60(収容容器30)内への取り付け方について説明する。
【0047】
図5は、線条体ファントムパーツ1を容器本体60内に通し孔60aを介して収容しようとしている状態を示す模式図、
図6は、線条体ファントムパーツ1を容器本体60内に収容した状態を示す模式図である。
図7は、線条体ファントムパーツ1を押さえ棒70でフランジ部34の内部に押さえつけている状態を示す説明図、
図8は、支柱部16、17を支持突起51に取り付けた状態を示す説明図、
図9は、フランジ部34に座部50を取り付けた状態を示す説明図である。
なお、
図5及び
図6においては、容器本体60のうちフランジ部34のみを図示している。
【0048】
まず、
図5に示すように、線条体ファントムパーツ1(第1液体貯留部2)の短尺方向が、楕円形に形成された通し孔60aの長尺方向に一致する向きに線条体ファントムパーツ1を傾けて、通し孔60aに少なくとも一部を通す。
線条体ファントムパーツ1の半分以上が通し孔60aを通った後に、
図6に示すように、水平面において、線条体ファントムパーツ1を容器本体60に対して90度回転させつつ、通し孔60aに通しきる。
このとき、線条体ファントムパーツ1(第1液体貯留部2)の短尺方向が楕円形に形成された通し孔60aの短尺方向に一致する向きとなる。
【0049】
図6に示すように、第1液体貯留部2は、扁平状(楕円形状)に形成されていて長径寸法が通し孔60aの最大径寸法よりも大きく形成されている。
図6に示すように、第1液体貯留部2は、その長尺方向において、通し孔60aの縁に重なるように配置されている。
【0050】
次に、
図7に示すように、線条体ファントムパーツ1を押さえ棒70で、フランジ部34の内面に押さえつけた状態で維持する。このとき、支柱部16、17は、フランジ部34から外方に突出している。
そして、
図8に示すように、フランジ部34から突出した支柱部16、17に、座部50の支持突起51をねじ止めする。
最後に、
図9に示すように、押さえ棒70の押さえつけを解除して、ネジ穴38とネジ穴57が重なるように、座部50をフランジ部34に重ね合わせる。そして、フランジ部34に座部50をねじ止めすることで、第1液体貯留部2を、フランジ部34から離間した、収容容器30の上下方向中央近傍に位置させた状態にできる。
【0051】
<変形例>
次に、変形例に係る線条体ファントムパーツ1Xについて
図10を主に参照して説明する。
図10は、変形例に係る線条体ファントムパーツ1Xを示す正面図である。
【0052】
変形例に係る線条体ファントムパーツ1Xにおいて、第2液体貯留部3、23は、厚さ方向にみて、第1液体貯留部2の中心を挟んで両側に複数(2個)設けられており、複数(2個)の第2液体貯留部3、23のそれぞれの第2中空部3a、23aの内容量が異なる。そして、第2液体貯留部23の第2中空部23aは、第1液体貯留部2の第1中空部2aと連通している。
【0053】
本例においては、1つの第2液体貯留部23は、第1液体貯留部2の上方のみに設けられていることで、その第2中空部23aの内容量は、上方及び下方に設けられた第2液体貯留部3に対する第2中空部3aよりも小さい内容量となっている。
上記構成によれば、RI液を異なる内容量の第2液体貯留部3、23に収容して、診断装置の校正を異なるレンジで行うことができる。
【0054】
なお、本例において、第2液体貯留部23が、第1液体貯留部2の上方のみに設けられている構成を説明したが、第2液体貯留部3と第2液体貯留部23とで内容積が異なるものであれば、このような構成に限定されない。例えば、第2液体貯留部3に対して水平断面積が異なるもの、厚さが異なることで、その内容積が異なるものであってもよい。
【0055】
本発明の線条体ファントム100の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はない。複数の構成要素が単一の構成要素として構成されていること、一つの構成要素が複数の構成要素に分割されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【0056】
上記実施形態は、以下の技術思想を包含するものである。
(1)線条体の核医学撮影画像の評価に用いられる線条体ファントムパーツであって、板状の第1中空部を有する第1液体貯留部と、前記第1中空部と接続された第2中空部を有し、前記第1液体貯留部と一体的に形成され線条体に対応する第2液体貯留部と、を備え、前記第1中空部は、前記第1中空部の厚さ方向において前記第2中空部よりも薄く形成され、前記厚さ方向に対して垂直な面方向において前記第2中空部よりも大きく形成され、前記第1中空部と前記第2中空部とが前記厚さ方向に重なり合う位置に配設されていることを特徴とする線条体ファントムパーツ。
(2)前記第2液体貯留部は、前記第1液体貯留部を挟んで前記厚さ方向の上側部分と下側部分とで構成されている(1)に記載の線条体ファントムパーツ。
(3)前記第1中空部の厚さと検査対象領域となる3次元関心領域の高さとの比は、異なる濃度の放射性薬剤を入れて核医学撮影画像の評価する場合のバックグラウンドに収容された前記放射性薬剤の濃度と前記線条体に対応するものに収容された前記放射性薬剤の濃度との比に等しい(1)又は(2)に記載の線条体ファントムパーツ。
(4)前記第2液体貯留部は、前記厚さ方向にみて、前記第1液体貯留部の中心に対してずれた位置に1つだけ配設されている(1)から(3)のいずれか一項に記載の線条体ファントムパーツ。
(5)前記第2液体貯留部は、前記厚さ方向にみて、前記第1液体貯留部の中心を挟んで両側に複数設けられており、複数の前記第2液体貯留部のそれぞれの前記第2中空部の内容量が異なる(1)から(3)のいずれか一項に記載の線条体ファントムパーツ。
(6)前記第1液体貯留部の内側面は、曲面状に形成されている(1)から(5)のいずれか一項に記載の線条体ファントムパーツ。
(7)前記第2液体貯留部の内側面は、曲面状に形成されている(1)から(6)のいずれか一項に記載の線条体ファントムパーツ。
(8)前記第1液体貯留部の肉厚方向にみて、前記第2中空部は楕円形状に形成されており、その楕円形状の長軸長さを長辺の長さとし、短軸の長さを短辺の長さとして、前記第2中空部に外接する仮想長方形は、前記第1中空部に内包されている(1)から(7)のいずれか一項に記載の線条体ファントムパーツ。
(9)(1)から(8)のいずれか一項の線条体ファントムパーツと、前記線条体ファントムパーツを収容する収容容器と、を備える線条体ファントム。
(10)前記収容容器は、前記線条体ファントムパーツを収容する容器本体と、該容器本体及び前記線条体ファントムパーツとが取り付けられる座部と、を備え、前記容器本体には、前記線条体ファントムパーツを内部に収容する際に通す通し孔が形成されており、前記第1液体貯留部は、扁平状に形成されていて長径寸法が前記通し孔の最大径寸法よりも大きく形成されており、前記第1液体貯留部は、その長尺方向において、前記通し孔の縁に重なるように配置されている(9)に記載の線条体ファントム。
【符号の説明】
【0057】
1、1X 線条体ファントムパーツ
2 第1液体貯留部
2a 第1中空部
3 第2液体貯留部
3a 第2中空部
3b 上側部分
3c 下側部分
4 ROI
5 VOI
9 仮想長方形
16、17 支柱部
18 栓体
23 第2液体貯留部
23a 第2中空部
30 収容容器
32 上部台座
34 フランジ部
38 ネジ穴
50 座部
51 支持突起
57 ネジ穴
60 容器本体
60a 通し孔
62 脳骨部材
70 押さえ棒
100 線条体ファントム