(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148355
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】複合部材
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20231005BHJP
B32B 15/20 20060101ALI20231005BHJP
C23C 8/16 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B32B15/08 A
B32B15/20
C23C8/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056324
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 大未
(72)【発明者】
【氏名】光岡 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】井川 泰爾
(72)【発明者】
【氏名】北住 幸介
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA19B
4F100AB10A
4F100AK01C
4F100AK52C
4F100AK53C
4F100AL06C
4F100BA03
4F100BA07
4F100JA11B
4F100JK07C
4F100JK15A
4F100JK15B
(57)【要約】
【課題】基材表面の凹凸の有無に関わらず、樹脂層の接合性を向上させることが可能な複合部材を提供する。
【解決手段】複合部材1は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成される基材11と、基材11の表面に形成されており、水酸化アルミニウム121を含む改質層12と、改質層12の表面に接合された樹脂層13と、を有している。改質層12の厚みは、50nm以下とされる。水酸化アルミニウム121の結晶構造は、ベーマイトまたは擬ベーマイトであることが好ましい。基材11の表面は平滑であることが好ましい。改質層12の表面は平滑であることが好ましい。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成される基材(11)と、
上記基材の表面に形成されており、水酸化アルミニウム(121)を含む改質層(12)と、
上記改質層の表面に接合された樹脂層(13)と、を有しており、
上記改質層の厚みが50nm以下である、
複合部材(1)。
【請求項2】
上記水酸化アルミニウムの結晶構造が、ベーマイトまたは擬ベーマイトである、
請求項1に記載の複合部材。
【請求項3】
上記基材の表面が平滑である、
請求項1または請求項2に記載の複合部材。
【請求項4】
上記改質層の表面が平滑である、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の複合部材。
【請求項5】
上記樹脂層は、
上記改質層との界面周辺におけるヤング率が、上記樹脂層全体における平均ヤング率の90%以上である、
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成される基材の表面を改質した後、樹脂層を接合してなる複合部材が知られている。例えば、特許文献1には、ブラスト加工により形成した鋭角の突起からなる凹凸を表面に有するアルミニウム板を90℃の純水に5分間浸漬することにより、凹凸表面をベーマイト膜にて覆って丸み付けした後、この丸み付けされた凹凸内に繊維強化樹脂を入り込ませて硬化させた複合部材が開示されている。
【0003】
なお、特許文献2には、耐食性および強度に優れたアルミニウム合金材が開示されている。特許文献2では、アルミニウム合金材の表面に、所定の前処理を行った後、水蒸気処理を行うことにより、ベーマイトまたはAl系層状複水酸化物とスピネル酸化物とを含む皮膜を形成する点が記載されている。上記皮膜の厚みとしては、皮膜の微小な傷や皮膜の割れ、剥離を回避する観点から、0.05μm~100μmとする点が記載されている。また、上記水蒸気処理の処理時間としては、緻密な防食膜の形成、基材の軟化防止の観点から、0.5時間~72時間とする点が記載されている。実施例では、具体的には、上記水蒸気処理の処理時間を6時間、12時間、24時間、48時間としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-62497号公報
【特許文献2】国際公開2019/225674号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術には、次の課題がある。すなわち、特許文献1の技術は、アンカー効果を利用して樹脂層を接合する技術であるため、基材表面をブラスト加工により粗面化し、凹凸を付与することが必須となる。そのため、基材表面に凹凸を付与しない場合には適用することができない。また、特許文献2の技術は、優れた耐食性を付与する目的で、水蒸気処理により基材表面に比較的厚みのある緻密な皮膜を形成する技術である。そのため、特許文献2では、皮膜の上に樹脂層を接合することは想定されていない。したがって、この技術を、ベーマイト膜の表面にさらに樹脂層を接合する特許文献1の技術に適用することは難しい。特に、特許文献2の技術によれば、耐食性を発揮させる厚い皮膜の表面に強度の低い粗大な針状結晶が生じる。そのため、仮に、特許文献1の技術に特許文献2の技術を適用し、皮膜表面に樹脂層を接合したとしても、樹脂層の剥離が生じやすく、接合性が悪い。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、基材表面の凹凸の有無に関わらず、樹脂層の接合性を向上させることが可能な複合部材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成される基材(11)と、
上記基材の表面に形成されており、水酸化アルミニウム(121)を含む改質層(12)と、
上記改質層の表面に接合された樹脂層(13)と、を有しており、
上記改質層の厚みが50nm以下である、
複合部材(1)にある。
【発明の効果】
【0008】
上記複合部材は、上記構成を有している。そのため、上記複合部材によれば、基材表面の凹凸の有無に関わらず、樹脂層の接合性を向上させることができる。つまり、上記複合部材によれば、基材表面が粗面化されていない状態、粗面化された状態のいずれの状態であっても、上記改質層による改質効果により、樹脂層の接合性を向上させることができる。
【0009】
なお、特許請求の範囲および課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る複合部材を模式的に示した図である。
【
図2】
図2(a)は、実施形態1に係る複合部材における、基材の表面が平滑である状態の一例を模式的に示した図であり、
図2(b)は、実施形態1に係る複合部材における、基材の表面が粗面化されている状態の一例を模式的に示した図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る複合部材における要部を拡大して模式的に示した図である。
【
図4】
図4(a)は、実施形態1に係る複合部材における改質層の表面状態に関する説明図であり、
図4(b)は、比較形態に係る複合部材における改質層の表面状態に関する説明図である。
【
図5】
図5(a)は、実験例1にて作製した試料1の複合部材における接合面に垂直な断面の透過型電子顕微鏡(TEM)画像であり、
図5(b)は、上記断面のエネルギー分散型X線分析(EDX)画像である。
【
図6】
図6は、実験例1にて作製した試料1の複合部材における、樹脂層が接合される前の改質層表面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像である。
【
図7】
図7は、実験例2にて得られた、改質層表面の最大高さ粗さRz(nm)(横軸)と複合部材試料のせん断強度(MPa)(縦軸)との関係を示した図である。
【
図8】
図8は、実験例3にて得られた、改質層における水酸化アルミニウムの結晶構造がベーマイトである複合部材試料の溶媒浸漬による剥離試験結果である。
【
図9】
図9は、実験例3にて得られた、改質層がαアルミナから構成された複合部材試料の溶媒浸漬による剥離試験結果である。
【
図10】
図10は、実験例4にて得られた、樹脂層の断面における接合界面から樹脂層側への距離(μm)(横軸)と樹脂層のヤング率(縦軸)との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の複合部材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成される基材と、基材の表面に形成されており、水酸化アルミニウムを含む改質層と、改質層の表面に接合された樹脂層と、を有している。改質層の厚みは、50nm以下とされている。
【0012】
本実施形態の複合部材は、上記構成を有している。そのため、本実施形態の複合部材によれば、基材表面の凹凸の有無に関わらず、樹脂層の接合性を向上させることができる。つまり、本実施形態の複合部材によれば、基材表面が粗面化されていない状態、粗面化された状態のいずれの状態であっても、改質層による改質効果により、樹脂層の接合性を向上させることができる。これは次の理由によるものと考えられる。改質層の厚みが上記特定範囲と極薄い場合には、改質層の表面に水酸化アルミニウムの粗大な針状結晶がない状態となる。そのため、上記特定範囲の厚みの改質層の表面に樹脂層が接合されることにより、強度の低い粗大な針状結晶の水酸化アルミニウムが界面結合に関与せず、改質層と樹脂層との界面結合性が向上する。そのため、本実施形態の複合部材は、樹脂層の接合性を向上させることができる。以下、これを詳説する。
【0013】
(実施形態1)
実施形態1の複合部材について、
図1~
図4を用いて説明する。
図1および
図3に例示されるように、本実施形態の複合部材1は、基材11と、基材11の表面に形成された改質層12と、改質層12の表面に接合された樹脂層13と、を有している。
【0014】
基材11は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されている。アルミニウム合金としては、例えば、1000系Al合金、2000系Al合金、3000系Al合金、4000系Al合金、5000系Al合金、6000系Al合金、7000系Al合金、ADC12等のアルミダイカスト合金などを挙げることができる。なお、基材11を構成するアルミニウムまたはアルミニウム合金は、樹脂層13が接合される接合部分の表面の全体または一部に、自然酸化皮膜を有していてもよいし、自然酸化皮膜を有していなくてもよい。
【0015】
基材11の表面は、平滑であることができる。基材11の表面が平滑であるとは、樹脂層13との間でアンカー効果を生じさせるような表面凹凸110が基材11の表面に導入されておらず、基材11の表面が粗面化されていない状態をいう。したがって、基材11の表面が厳密に平坦になっていない場合も、基材11の表面が平滑であるとの概念に含まれる。具体的には、例えば、
図2(a)に例示されるように、基材11の表面を平坦にする平坦化処理(圧延など)によって基材11の表面に形成された平坦化処理の跡(圧延痕など)や、仕上げ加工の跡、自然なうねりなどは、基材11の表面を積極的に粗面化した結果生じたものではないから、このような表面状態Aは、基材11の表面が平滑であるとの概念に含まれる。また、例えば、基材11の表面程度を示す指標として、仕上げ方法によりXL、SL、LF、HB、BF、PF、MLといった指標が知られているが、表面程度が少なくともMLである場合には、基材11の表面が平滑であるということができる。
【0016】
基材11の表面は、粗面化されていてもよい。この場合、基材11の表面は、
図2(b)に例示されるように、粗面化加工により、樹脂層13との間でアンカー効果を生じさせるような表面凹凸110が付与された状態にある。なお、
図2(b)は、
図2(a)に対応して描かれたものであって、
図2(a)に示される平坦な基材11の表面に粗面化加工による表面凹凸110が形成された状態を例示したものである。
【0017】
基材11の表面が平滑な場合には、基材11の表面が粗面化されている場合に比べ、以下の利点がある。基材11の表面が平滑な場合には、粗面化加工による表面凹凸110がないため、一般的には、樹脂層13との間でアンカー効果を期待することが難しい。しかしながら、複合部材1は、後から詳述する改質層12を有することにより、粗面化加工による表面凹凸110がなくても、樹脂層13との接合性を確保することができる。また、例えば、上述した特許文献1の技術によれば、ブラスト加工により基材11表面を粗面化して凹凸を形成するため、過度な凹凸が生じた場合に基材11部分にてせん断されるおそれがある。また、複合部材1の製造時に、基材11の表面の凹凸に樹脂を入り込ませる(浸透させる)ため、樹脂に圧力をかける必要があり、減圧時間も必要となる。そのため、上述した特許文献1の技術は、生産性が悪い。特に、樹脂が繊維やフィラーを含む場合には、これらが凹凸に入り難いため、より高い圧力による生産が必要になる。また、凹凸に繊維やフィラーが入らない場合には、接合強度が低下するおそれがある。これらに対して、基材11の表面が平滑な場合には、接合時に樹脂にかける圧力を低下させることができ、減圧時間も不要になるため、生産性を向上させることができる。
【0018】
基材11の表面が平滑な場合、基材11と樹脂層13との接合面に対して垂直に切断した断面において、基材11の表面の最大高さ粗さRzは、具体的には、0.01μm以上3μm以下とすることができる。基材11の表面の最大高さ粗さRzは、好ましくは、2.3μm以下、より好ましくは、2μm以下、さらに好ましくは、1.5μm以下とすることができる。基材11の表面の最大高さ粗さRzは、好ましくは、0.1μm以上、より好ましくは、0.3μm以上、さらに好ましくは、0.5μm以上とすることができる。基材11の表面のRzは、JIS B 0601:2001に準拠して測定することができる。基材11の表面のRz測定時における基準長さは0.25mmとする。また、上記断面において、走査型電子顕微鏡(SEM)や光学顕微鏡などを使用して特定した基材11と改質層12との境界部分が、原則、基材11の表面による表面線となる。但し、改質層12は後述するように極めて薄いため、基材11の表面のRzは、基材11および改質層12を一体として計測することとする。つまり、基材11の表面のRzを改質層12込みで計測した場合には、改質層12分のズレが発生することになるが、改質層12は極めて薄いため、計測誤差として容認できるものとする。基材11の表面のRzは、高い方の測定値5点の算術平均値と、低い方の測定値5点の算術平均値の差として算出することができる。
【0019】
また、基材11の表面が平滑な場合、基材11の表面の算術平均粗さRaは、具体的には、1.0μm以下とすることができる。基材11の表面のRaは、複合部材1の生産性などの観点から、例えば、0.01μm以上とすることができ、好ましくは、0.1μm以上、より好ましくは、0.2μm以上、さらに好ましくは、0.3μm以上とすることができる。基材11の表面のRaは、JIS B 0601:2001に準拠して測定することができる。基材11の表面のRa測定時における基準長さは0.25mmとする。この際、上記と同様に、改質層12は極めて薄いため、基材11の表面のRaを改質層12込みで計測することとする。この場合には、改質層12分のズレが発生することになるが、改質層12は極めて薄いため、計測誤差として容認できるものとする。なお、上述した基材11の表面の表面程度がMLである場合には、Raは0.3μm以上1.0μm以下とされる。基材11の表面のRaは、樹脂層13が接合されていない基材11を用いて計測してもよいし、他にも、樹脂層13を溶解除去した後に計測してもよいし、X線CTを用いて基材11の表面の形状を計測してもよい。
【0020】
改質層12は、
図3に例示されるように、水酸化アルミニウム121を含んでいる。水酸化アルミニウム121は、アルミニウムの水酸化物であり、水酸化アルミニウム121の語は、Al(OH)
3のみならず、AlO(OH)(水酸化酸化アルミニウム)を含む広義の意味で用いる。改質層12は、水酸化アルミニウムによる結晶層より構成されていてもよいし、当該結晶層以外にも、非結晶層を有していてもよい。
図3では、改質層12の表面に水酸化アルミニウム121が露出している例が示されている。改質層12が水酸化アルミニウム121を有することにより、水酸化アルミニウム121のOH基と樹脂層13を構成する樹脂成分との間で化学結合を形成することができる。そのため、基材11の表面が平滑であっても(基材11の表面にアンカー効果を生じさせるような表面凹凸110がなくても)、樹脂層13の接合性が向上する。
【0021】
改質層12の厚みは、50nm以下とされる。改質層12の厚みが上記特定範囲を上回ると、
図4(b)に示した比較形態の複合部材のように、改質層12の表面に水酸化アルミニウム121の粗大な針状結晶121aがある状態となる。つまり、改質層12の厚みが上記特定範囲を上回ると、改質層12の表面に水酸化アルミニウム121の粗大な針状結晶121aが発達形成される。これに対し、改質層12の厚みが上記特定範囲と極薄い場合には、
図4(a)に例示されるように、改質層12の表面に水酸化アルミニウム121の粗大な針状結晶121aがない状態となる。つまり、改質層12の厚みが上記特定範囲と極薄い場合には、改質層12の表面に水酸化アルミニウム121の粗大な針状結晶121aが発達形成されず、水酸化アルミニウム121の微細な結晶が形成された状態に留まっている。
【0022】
このような改質層12は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成される基材11の表面を、例えば、95℃以上300℃以下の過熱水蒸気にて短時間、表面改質することにより形成することができる。詳しくは、実験例にて示す。本実施形態の複合部材1によれば、ロウ付けのように高温にしなくても、比較的低温でアルミニウム系の基材11を劣化させることなく樹脂層13との接合性を高めることができる。また、本実施形態の複合部材1によれば、改質したい部分を部分的に表面改質すればよいため、この点においも、溶液浸漬による表面改質などに比べ、生産性の向上に有利である。なお、基材11に用いられるアルミニウム金属材料は、表面改質前に自然酸化皮膜を有していてもよいし、自然酸化皮膜が除去されていてもよい。自然酸化皮膜を有するアルミニウム金属材料を用いた場合には、自然酸化皮膜の一部のみ、自然酸化皮膜の全体、自然酸化皮膜およびアルミニウム金属部分のいずれかが表面改質されることができる。また、自然酸化皮膜が除去されたアルミニウム金属材料を用いた場合には、アルミニウム金属部分が表面改質されることができる。
【0023】
改質層12の厚みは、樹脂層との接合性、改質時の処理時間長さなどの観点から、好ましくは、50nm未満、より好ましくは、45nm以下、さらに好ましくは、40nm以下、さらにより好ましくは、35nm以下、さらにより一層好ましくは、30nm以下とすることができる。改質層12の厚みは、改質層12の確保、接合安定性(あまりに薄いと、接合までの時間の間に表面が酸化などにより元に戻ってしまうおそれがある)などの観点から、好ましくは、0.5nm以上、より好ましくは、1nm以上、さらに好ましくは、3nm以上とすることができる。なお、改質層12の厚みは、基材11と樹脂層13との接合面に対して垂直に切断した断面について、透過型電子顕微鏡(TEM)-エネルギー分散型X線分析(EDX)を実施し、水酸化アルミニウム121を含む改質層12に由来する元素による元素マッピングにおいて測定した改質層12の厚み測定値10点の算術平均値である。
【0024】
改質層12における水酸化アルミニウム121の結晶構造としては、具体的には、ベーマイト、擬ベーマイト、ダイアスポア、バイヤライト、ギブサイトなどが挙げられる。水酸化アルミニウム121は、1種または2種以上の結晶構造を含んでいてもよい。水酸化アルミニウム121の結晶構造としては、OH基が外側を向いているものが好ましい。OH基が外側を向いている場合には、樹脂層13を構成する樹脂成分との間で化学結合を形成しやすく、樹脂層13との接合性を確保しやすくなる。水酸化アルミニウム121の結晶構造は、好ましくは、ベーマイトまたは擬ベーマイトであり、より好ましくは、ベーマイト(γ-AlOOH)であるとよい。ベーマイトおよび擬ベーマイトは、接合の耐久性を確保しやすい。また、ベーマイトおよび擬ベーマイト、とりわけ、ベーマイトは、基材11の表面を改質処理してから樹脂層13の接合までの時間が比較的長くても、結晶構造の安定性が高いため良好な接合性が得られる。そのため、この場合には、接合までの時間の制約が少なくなり、生産性の向上に有利である。また、樹脂層13の接合安定性も確保しやすくなる。なお、ベーマイトおよび擬ベーマイトは、OH基が外側を向く結晶構造を有している。水酸化アルミニウム121の結晶構造は、基材11と樹脂層13との接合面に対して垂直に切断した断面についてTEM-EDX分析を実施して改質層12を特定した後、当該特定された改質層12について電子エネルギー損失分光法(EELS)分析を実施することにより特定することができる。なお、水酸化アルミニウムの結晶構造の特定については、既知の文献等を適宜参酌することができる。
【0025】
改質層12の表面は、平滑であることができる。この構成によれば、樹脂層13の接合時に、改質層12の表面に存在するOH基を有効に利用することができるため、樹脂層13の接合性を向上させやすくなる。改質層12の表面が平滑であるとは、以下のことをいう。すなわち、基材11と樹脂層13との接合面に対して垂直に切断した断面についてTEM画像を取得する。取得したTEM画像において、改質層12の表面における接合面方向に基準長さ100nmを定める。その基準長さの範囲内において、改質層12の表面から突出する水酸化アルミニウム121の結晶粒子を特定する。当該特定された水酸化アルミニウム121の結晶粒子のアスペクト比が2以下である場合には、改質層12の表面が平滑であるとされる。なお、上記アスペクト比は、TEM画像から把握される水酸化アルミニウム121の結晶粒子の長径/短径で表される。水酸化アルミニウム121の結晶粒子の長径は、改質層12の表面を基準面としたとき、基準面から突出する結晶粒子の先端までの長さである。また、水酸化アルミニウム121の結晶粒子の短径は、基準面から突出する結晶粒子の短径である。
【0026】
改質層12の表面の最大高さ粗さRzは、具体的には、0.01nm以上70nm以下とすることができる。改質層12の表面のRzは、JIS B 0601:2001に準拠して測定することができる。改質層12の表面のRz測定時における基準長さは200nmとする。改質層12の表面のRzは、高い方の測定値5点の算術平均値と、低い方の測定値5点の算術平均値の差として算出することができる。改質層12の表面の最大高さ粗さRzは、せん断強度向上などの観点から、好ましくは、65nm以下、より好ましくは、62nm以下、さらに好ましくは、60nm以下とすることができる。
【0027】
樹脂層13を構成する樹脂としては、各種の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂などを適用することができる。樹脂層13を構成する樹脂が熱可塑性樹脂である場合において、基材11の表面が平滑であるときには、接合時に樹脂にかける圧力を低下させることができ、減圧時間も不要になる。そのため、低圧射出や熱圧着などがしやすくなるなど、生産性を向上させることができる。また、バリなどの発生も抑制しやすくなる。一方、樹脂層13を構成する樹脂が熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂である場合において、基材11の表面が平滑であるときには、接合時に樹脂を含浸する際の圧力を低下させることができ、減圧時間も不要になる。そのため、含浸処理時間が短くなり、含浸処理がしやすくなるなど、生産性を向上させることができる。樹脂層13を構成する樹脂としては、具体的には、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂などを挙げることができる。これら樹脂のうち、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂は、樹脂層13を構成する樹脂として好適に用いることができる。なお、樹脂層13を構成する樹脂は、必要に応じて、樹脂に一般的に配合される各種の添加材を1種または2種以上含んでいてもよい。
【0028】
樹脂層13を構成する樹脂は、少なくとも接合前の状態において、改質層12の水酸化アルミニウム121が有するOH基との化学反応により共有結合を形成可能な官能基を有していることが好ましい。この場合には、樹脂層13の接合時に、改質層12の水酸化アルミニウム121が有するOH基と、樹脂層13を構成する樹脂が有する上記官能基との間の化学反応により共有結合を生じることができる。そのため、樹脂層13における、改質層12と樹脂層13との界面付近の強度を向上さることができる。それ故、この場合には、樹脂層13の接合性向上に有利である。例えば、エポキシ樹脂のエポキシ基は、改質層12の水酸化アルミニウム121が有するOH基との化学反応により共有結合を生じることができる。また、シリコーン樹脂は、改質層12の水酸化アルミニウム121が有するOH基と脱水縮合反応により共有結合を生じることができる。
【0029】
樹脂層13は、改質層12との界面周辺におけるヤング率が、樹脂層13全体における平均ヤング率の90%以上であるとよい。この場合には、樹脂層13における改質層12との界面周辺の硬度が維持されるため、安定した接合状態を維持することができる。なお、樹脂層13における改質層12との界面周辺とは、改質層12と樹脂層13との界面から樹脂層13側へ0.6μmまでの領域をいう。
【0030】
改質層12との界面周辺における樹脂層13のヤング率は、樹脂層13の接合安定性などの観点から、樹脂層13全体における平均ヤング率の、好ましくは、85%以上、より好ましくは、90%以上、さらに好ましくは、95%以上とすることができる。また、改質層12との界面周辺における樹脂層13のヤング率は、樹脂硬化による靭性劣化などの観点から、樹脂層13全体における平均ヤング率の、好ましくは、150%以下、より好ましくは、140%以下、さらに好ましくは、125%以下とすることができる。
【0031】
改質層12との界面周辺における樹脂層13のヤング率、樹脂層13全体における平均ヤング率は、改質層12と樹脂層13との界面に垂直な樹脂層13の断面につき、走査型プローブ顕微鏡を用いて測定することができる。具体的には、改質層12と樹脂層13との界面に垂直な樹脂層13の断面を有する測定試料を採取する。走査型プローブ顕微鏡としては、島津製作所社製 走査型プローブ顕微鏡「SPM9500」を用いることができる。なお、当該機種が廃番となり入手できない場合にはその後継機種を用いることができる。プローブには、Si3N4製AFM用カンチレバー(日立ハイテクサイエンス社製 「SN-AF01」(バネ定数0.08N/m))を用いる。走査型プローブ顕微鏡の測定モードは、コンタクトモードとし、動作モードは、フォースカーブモードとする。測定時の周波数は1Hz、コンタクト電圧は0.5Vとする。上記走査型プローブ顕微鏡を用い、測定試料における樹脂層13の断面に現われている上記界面と垂直な方向に沿って上記界面から樹脂層13側への距離を少しずつ離しながら、樹脂層13の各位置におけるフォースカーブを測定する。つまり、上記界面から樹脂層13の内方への距離を徐々に変化させ、樹脂層13断面の各位置におけるフォースカーブを測定する。次いで、樹脂層13断面の各位置におけるフォースカーブから、樹脂層13断面の各位置におけるヤング率(弾性率)を求める。なお、走査型プローブ顕微鏡による測定によれば、測定試料の表面にカンチレバーを接近させ、測定試料にカンチレバーが接触すると、カンチレバーに斥力側のたわみが発生する。そして、カンチレバーが測定試料から離れ始めると、カンチレバーのたわみが減少するが、測定試料の表面とカンチレバーとの間に生じる吸着力によって上記とは逆に引力側のたわみが発生する。その後、測定試料の表面からカンチレバーが完全に離脱する。ヤング率は、カンチレバーが斥力側にたわんだ部分に相当するフォースカーブ部分のたわみ量から求めることができる。これにより、改質層12と樹脂層13との界面から樹脂層13側への距離とヤング率との関係図が得られる。また、樹脂層13全体にわたって測定された各ヤング率測定値の算術平均値を平均ヤング率として求める。そして、改質層12と樹脂層13との界面から樹脂層13側へ0.6μmまでの各位置におけるヤング率が、上記平均ヤング率の何%に当たるか求める。これにより、改質層12との界面周辺における樹脂層13のヤング率と、樹脂層13全体における平均ヤング率との関係を確認することができる。
【0032】
なお、複合部材1は、図示はしないが、他にも例えば、基材11とは別個のアルミニウムまたはアルミニウム合金より構成される基材と、この別個の基材の表面に形成された上記改質層12と同様の改質層と、この改質層の表面に接合された上記樹脂層13とを有していてもよい。つまり、この場合の複合部材1は、基材11の表面に形成された改質層12の表面と、上記別個の基材の表面に形成された上記と同様の改質層の表面との両方に、樹脂層13が接合された接合構造を有している。
【0033】
複合部材1は、例えば、基材11表面の樹脂コート、基材11表面の樹脂封止、アルミニウム製の配管と配管部材(例えば、継手部材、固定部材等)との接合、配管同士の接合や、熱交換器の部材同士の接合、熱交換器と配管との接合等の熱交換器と熱交換器周辺の部品との接合など、種々の用途に適用することができる。
【0034】
(実験例)
<実験例1>
長さl=80mm、幅w=20mm、厚みt=2mmの形状を有する自然酸化皮膜付きのアルミニウム合金板からなる基材を2枚準備した。なお、各基材を構成するアルミニウム合金は、1000系合金とした。また、各基材の表面は、いずれも粗面化加工が施されていない。次いで、各基材における片側表面を、190℃、大気圧、噴霧量20kg/h(ノズル径16.4mm)の過熱水蒸気に60秒間暴露することにより改質した。次いで、2枚の基材の各端部における上記改質した基材面に、長さ5mmの範囲にわたって重複するようにシリコーン樹脂材料(エポキシ変性されたシリコーン樹脂材料、ダウ・東レ社製、「DOWSIL SE1714」)を常圧下で塗布し、各端部の基材面間の間隔が250μmとなるように貼り合わせて積層体を形成した。次いで、得られた積層体を加熱し、140℃で5分間保持した後、さらに加熱温度を上げ、170℃で5分間保持した後、自然冷却した。これにより、2つのアルミニウム合金製の基材における各改質層の表面に樹脂層が接合してなる試料1の複合部材を得た。なお、本実験例では、複合部材は、引張りせん断強度測定に供される試験片形状を呈している。また、樹脂層の接合は、基材表面の改質後すぐに実施した。
【0035】
次に、試料1の複合部材の作製において、300℃を超える過熱水蒸気に180秒間暴露した点以外は同様にして、試料1Cの複合部材を得た。
【0036】
次に、試料1の複合部材の作製において、基材の表面を130℃、大気圧、噴霧量40kg/h(ノズル径16.4mm)の過熱水蒸気に3600秒間暴露した点以外は同様にして、試料2Cの複合部材を得た。
【0037】
次に、試料1の複合部材の作製において、基材の表面を過熱水蒸気に短時間暴露させる表面改質に代えて、基材を、5質量%のトリエタノールアミンを入れた95℃の水に60分間浸漬した点以外は同様にして、試料3Cの複合部材を得た。
【0038】
作製した複合部材の改質層について、各種調査を行った。
図5(a)に、試料1の複合部材における接合面に垂直な断面のTEM画像、
図5(b)に、上記断面のEDX画像を示す。
図5に示されるように、試料1の複合部材は、基材11の表面に、50nm以下の厚み、具体的には数nm程度の厚みの改質層を有していることが確認された。また、上記改質層についてEELS分析を実施した結果、結晶構造がベーマイトである水酸化アルミニウムの存在が確認された。
【0039】
これに対して、試料1Cの複合部材における改質層についてEELS分析を実施した結果、改質層はアルミナから構成されていることが確認された。これは、試料1Cの複合部材の作製では、表面改質時の処理温度が過度に高かったため、基材表面に酸化物が形成されたためと考えられる。なお、過熱水蒸気の温度と水蒸気量と生成する水酸化アルミニウムの結晶構造とを示す状態図によれば、過熱水蒸気の温度を約300℃以下とすることにより各種の結晶構造の水酸化アルミニウムを生成させることができる。例えば、95℃以上300℃以下の過熱水蒸気を用いた場合には、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成される基材の表面にベーマイト、擬ベーマイトを好適に生成させることができる。
【0040】
図6に、試料1の複合部材における、樹脂層を接合する前の改質層表面のSEM画像を示す。
図6に示されるように、改質層の表面には、水酸化アルミニウムの粗大な針状結晶が見られなかった。これは、改質層の厚みを50nm以下と極薄い状態としたためである。このような極薄い改質層は、耐食性を発揮することが難しい。なお、試料1の複合部材において、樹脂層を接合する前における改質層の表面の最大高さ粗さRzは、21nmであった。また、試料1の複合部材は、接合面に対して垂直な断面で見て、基材の表面の最大高さ粗さRzが、0.6μmであった。また、試料1の複合部材は、接合面に対して垂直な断面で見て、改質層12の表面に、アスペクト比が2を超えるような突出した水酸化アルミニウムの結晶粒子が見られず、改質層の表面は平滑であった。
【0041】
これに対し、試料2Cの複合部材は、過熱水蒸気による暴露時間が極めて長い。そのため、試料2Cの複合部材では、改質層の厚みが100~200nm程度あった。このような厚みのある改質層は、耐食性を発揮することができるものの、改質層の表面に粗大な針状結晶が生成しており、表面が荒れていた。なお、試料3Cの複合部材において、樹脂層を接合する前における改質層12の表面の最大高さ粗さRzは、78nmであった。また、試料3Cの複合部材は、改質層の表面に粗大な針状結晶が生成しており、改質層の表面が、試料2Cの複合部材に比べて極めて荒れていた。
【0042】
次に、試料1の複合部材および試料2Cの複合部材について、引張りせん断強度を測定した。測定には、万能試験装置(島津製作所製、「オートグラフ」)を用いた。測定条件は、引張りせん断速度5mm/分、せん断面積5mm×20mm、測定数n=6とした。その結果、試料1の複合部材は、試料2Cの複合部材に比べ、初期の引張りせん断強度が高かった。
【0043】
以上の結果から、試料1の複合部材は、基材表面の凹凸の有無に関わらず、樹脂層の接合性を向上させることができることが確認できた。これは、改質層の厚みが極薄い場合には、改質層の表面に水酸化アルミニウムの針状結晶がない状態となり、強度が低い粗大な針状結晶の水酸化アルミニウムが界面結合に関与せず、改質層と樹脂層との界面結合性が向上したためであると考えられる。
【0044】
<実験例2>
実験例1における試料1の複合部材の作製と同様にして、改質層の厚みが50nm以下であって、かつ、改質層表面の最大高さ粗さRzが異なる6種類の複合部材試料を作製した。なお、上記6種類の複合部材試料の作製では、過熱水蒸気の暴露時間を変更することにより、改質層表面の最大高さ粗さRzを調節した。
【0045】
また、実験例1における試料2Cの複合部材の作製と同様にして、改質層表面の最大高さ粗さRzが異なる4種類の複合部材試料を作製した。なお、上記4種類の複合部材試料の作製では、過熱水蒸気の暴露時間を変更することにより、改質層表面の最大高さ粗さRzを調節した。
【0046】
次いで、改質層表面の最大高さ粗さRzが異なる各複合部材試料について、実験例1と同様にして、引張りせん断強度を測定した。
図7に、改質層表面の最大高さ粗さRz(nm)(横軸)と複合部材試料のせん断強度(MPa)(縦軸)との関係を示す。なお、
図7において、左から数えて6つ目までのプロットは、上記6種類の複合部材試料によるデータであり、左から7つ目以降のプロットは、上記4種類の複合部材試料によるデータである。
【0047】
図7に示されるように、改質層表面の最大高さ粗さRzが70nmを超えると、複合部材試料のせん断強度が低下することがわかる。
【0048】
次いで、改質層表面の最大高さ粗さRzが70nm以下であった各複合部材試料について、基材と樹脂層との接合面に対して垂直に切断した断面のTEM画像を取得した。取得したTEM画像を用い、改質層の表面における接合面方向に基準長さ100nmの範囲内において、改質層の表面から突出する水酸化アルミニウム結晶粒子のアスペクト比を上述の方法にて算出した。その結果、改質層の表面の最大高さ粗さRzが70nm以下であった各複合部材試料は、いずれも、上記アスペクト比が2以下であった。したがって、改質層の表面の最大高さ粗さRzが70nm以下であった各複合部材試料は、改質層の表面が平滑であるといえる。
【0049】
本実験例によれば、改質層の表面が平滑である場合には、樹脂層の接合性を向上させやすいことがわかる。これは、樹脂層の接合時に、改質層の表面に存在するOH基を有効に利用することができるためであると考えられる。
【0050】
<実験例3>
実験例1における試料1の複合部材の作製において、過熱水蒸気の温度を変化させることにより、改質層を構成する水酸化アルミニウムの結晶構造を変化させた。具体的には、過熱水蒸気の温度を150℃、170℃、190℃、240℃とすることにより、改質層における水酸化アルミニウムの結晶構造をギブサイト、擬ベーマイト、ベーマイト、バイヤライトとした。また、実験例1における試料1の複合部材の作製において、過熱水蒸気の温度を270℃とするとともに過熱水蒸気の噴霧を大気圧、噴霧量20kg/h(ノズル径16.4mm)程度とすることにより、改質層の結晶構造をαアルミナとした。
【0051】
本実験例では、改質層の結晶構造毎に、基材表面の改質後に樹脂層を接合するまでの時間を1日、3日、2週間、1か月と変化させて各複合部材試料を作製した。
【0052】
各複合部材試料を溶媒(ヘキサン)に48時間浸漬させ、溶媒浸漬前後について、実験例1と同様にして、引張りせん断強度を測定した。そして、溶媒に48時間浸漬させた後の引張りせん断強度が、溶媒に48時間浸漬させる前の引張りせん断強度に対して50%以上低下するか否かを確認した。
【0053】
その結果、水酸化アルミニウムの結晶構造がベーマイトである複合部材試料は、基材表面の改質後に樹脂層を接合するまでの時間が2週間までであれば、引張りせん断強度の低下が50%未満であることが確認された。同様に、水酸化アルミニウムの結晶構造が擬ベーマイトである複合部材試料は、基材表面の改質後に樹脂層を接合するまでの時間が3日までであれば、引張りせん断強度の低下が50%未満であることが確認された。水酸化アルミニウムの結晶構造がギブサイト、バイヤライトである複合部材試料は、基材表面の改質後に樹脂層を接合するまでの時間が1日までであれば、引張りせん断強度の低下が50%未満であることが確認された。改質層がαアルミナから構成された複合部材試料は、基材表面の改質後に樹脂層を接合するまでの時間が1日の段階で、引張りせん断強度の低下が50%以上となった。なお、
図8に、改質層における水酸化アルミニウムの結晶構造がベーマイトである複合部材試料の上記溶媒浸漬による剥離試験結果を示す。また、
図9に、改質層がαアルミナから構成された複合部材試料の溶媒浸漬による剥離試験結果を示す。
【0054】
上記において、基材表面の改質後に樹脂層を接合するまでの時間が長くなると、引張せん断強度が低下する傾向が見られるのは、水分子が抜けたり、OH基同士が結合したりすることなどにより、薄膜である改質層における水酸化アルミニウムの結晶構造が別の構造に変わるためであると考えられる。そのため、基材表面の改質による接合性の発現の期間に好適な期間が存在するといえる。水酸化アルミニウムの結晶構造がベーマイト、擬ベーマイトである場合には、基材の表面を改質処理してから樹脂層の接合までの時間が比較的長くても、結晶構造の安定性が高いため良好な接合性が得られ、接合までの時間の制約が少ないため生産性の向上に有利であることが確認できた。
【0055】
<実験例4>
実験例1における試料1の複合部材の作製において、基材の表面を190℃の過熱水蒸気に60秒間暴露することにより改質した点以外は、同様にして、試料2の複合部材を得た。
【0056】
実験例1における試料1の複合部材の作製において、基材の表面を190℃の過熱水蒸気に300秒間暴露することにより改質した点以外は、同様にして、試料3の複合部材を得た。
【0057】
実験例1における試料1の複合部材の作製において、基材の表面を過熱水蒸気に暴露することなく未改質とした点以外は、同様にして、試料4Cの複合部材を得た。
【0058】
各複合部材から改質層と樹脂層との界面に垂直な樹脂層の断面を有する測定試料を採取した。次いで、各接着層の断面について、上述した測定条件にて走査型プローブ顕微鏡による表面観察を行い、樹脂層の断面における接合界面から樹脂層側への距離と、樹脂層のヤング率との関係を測定した。その結果を、
図10に示す。
【0059】
図10に示されるように、試料4Cの複合部材では、基材表面が改質されておらず、自然酸化皮膜からなる不働態皮膜に樹脂層が接合されている。そのため、試料4Cの複合部材は、基材との界面周辺における樹脂層のヤング率が、樹脂層全体における平均ヤング率の90%未満となった。そのため、試料4Cの複合部材は、基材との界面周辺における樹脂層の接合性が低く(界面における樹脂強度が弱く)、安定した接合状態を維持することが難しいといえる。
【0060】
これに対し、試料2、試料3の複合部材では、基材表面の改質により、特定範囲の厚みの改質層が形成され、この改質層の表面に樹脂層が接合されている。そのため、試料2、試料3の複合部材は、基材との界面周辺における樹脂層のヤング率が、樹脂層全体における平均ヤング率の90%以上を維持することができている。そのため、試料2、試料3の複合部材は、基材との界面周辺における樹脂層の接合性が高く(界面における樹脂強度が維持され)、安定した接合状態を維持することができるといえる。
【0061】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 複合部材
11 基材
12 改質層
121 水酸化アルミニウム
13 樹脂層