(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148372
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20231005BHJP
A23L 29/10 20160101ALI20231005BHJP
C12G 3/055 20190101ALI20231005BHJP
A23L 9/20 20160101ALI20231005BHJP
A23C 11/10 20210101ALI20231005BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23L29/10
C12G3/055
A23L9/20
A23C11/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056350
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大宅 駿平
(72)【発明者】
【氏名】熨斗 洋星
(72)【発明者】
【氏名】井上 悠
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寛俊
【テーマコード(参考)】
4B001
4B025
4B026
4B035
4B115
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC03
4B001AC08
4B001AC16
4B001AC44
4B001BC02
4B001EC99
4B025LB21
4B025LG14
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4B115LG02
4B115LG03
4B115LH11
4B115LH12
4B115LP02
(57)【要約】
【課題】本発明は、乳由来の原料を使用せず、飲料用アルコール含有時に乳化安定性が良好であり、かつホイップ性が良好な、アルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明により、飲料用アルコール、及び脂質/蛋白質含量比が重量基準で1以上である大豆抽出物を含有することで、乳由来の原料を使用せず、飲料用アルコール含有時に乳化安定性が良好であり、かつホイップ性が良好な、アルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物を提供することができることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂質/蛋白質含量比が重量基準で1以上である大豆抽出物を含有する、アルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物。
【請求項2】
飲料用アルコールとの混合後のアルコール含量が1~20%(ml容量/ml容量)である、請求項1に記載の起泡性水中油型乳化組成物。
【請求項3】
飲料用アルコール、及び脂質/蛋白質含量比が重量基準で1以上である大豆抽出物を含有する、飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物。
【請求項4】
該大豆抽出物の固形分中の蛋白質含量が25重量%以上である、請求項1~3いずれか1項に記載の起泡性水中油型乳化組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項に記載の起泡性水中油型乳化組成物を起泡させてなる、アルコール含有含起泡飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料用アルコールと混合してアルコール含有含起泡飲食品が製造可能な起泡性水中油型乳化組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
起泡性水中油型乳化組成物はホイップクリームとも称され、多くの菓子に使用される等、万人に好まれる食品である。
乳蛋白などの乳原料を使用した起泡性水中油型乳化組成物が一般的であるが、乳由来原料を使用しないものも存在する。大豆蛋白をはじめとする植物蛋白素材は、昨今の大豆に対する健康イメージから、各種の製品に乳の代わりに用いられる場合がある。
【0003】
一方、我が国では、清酒、ワインおよびビールなどの醸造酒、ウィスキー、ブランデーおよび焼酎などの蒸留酒がアルコール飲料として飲まれているが、最近では酒類に対する嗜好が更に多様化している。各種の酒をブレンドした混合酒や各種カクテル類を、レモン、ライム、プラムなど様々な果汁や炭酸水で割ったものは、爽やかで自分の好みの配合で手軽に飲めるアルコール飲料として、若年層特に女性に人気がある。
【0004】
アルコールを含む水中油型乳化物に関連する出願としては、例えば特許文献1~3が存在する。特許文献1では、「アルコール、水、脂肪類、糖類及び乳化安定剤を含有するクリームリカー組成物において、該乳化安定剤として、シヨ糖パルミチン酸エステル及び/又はシヨ糖ステアリン酸エステルを主成分とする乳化安定剤を用いてなることを特徴とするクリームリカー組成物」に関して記載されている。特許文献2では、「酸性の豆乳、飲料用アルコールおよび水溶性ヘミセルロースを含有することを特徴とするアルコール飲料」について記載されている。特許文献3では、「油脂類、水、乳化剤及び濃縮豆乳を混合して乳化させることにより水中油型乳化物を調製する乳化工程を含む濃縮豆乳含有水中油型乳化物の製造方法」について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-219885号公報
【特許文献2】特開2000-139442号公報
【特許文献3】特開2018-42520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
アルコールを起泡性水中油型乳化組成物に含有させることで、その用途や市場の拡大が期待される。
また、近年の健康志向や、原料の安定的な供給の問題から、乳由来の原料を使用せず、植物性の原料を用いた起泡性水中油型乳化組成物が望まれている。
【0007】
本発明は、乳由来の原料を使用せず、飲料用アルコール含有時に乳化安定性が良好であり、かつホイップ性が良好な、アルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
大豆蛋白をはじめとする植物蛋白素材は、昨今の植物性素材に対する健康イメージから、各種の製品に乳の代わりに用いられる場合があるが、植物性蛋白素材を起泡性水中油型乳化組成物に用いることは、乳蛋白を用いるよりも乳化状態が不安定になりやすいという課題を有していた。
【0009】
また、飲料用アルコールは風味が良好であるため、食品への風味付与目的で使用したい風味のひとつとされる。飲料用アルコールを起泡性水中油型乳化組成物に含有させると、良好な風味となると想定され、また、その食感はふわふわであり、若年層主に女性から求められる飲食品となり得る。また、より軽い口当たりとなり、さらに飲むだけではなく「泡を食べる」新たな食シーンも提供することができる。
【0010】
なお、特許文献1では、「クリームリカーは、アルコール、水、脂肪類、糖類、及び乳化安定剤等を含有してなるアルコール性飲料」であり、本発明では起泡性水中油型乳化組成物であるため、本発明を完成させる上で参考とはならなかった。特許文献2では、「酸性かつアルコール存在下でも蛋白の沈殿分離を生じないアルコール飲料」に関する発明であり、本願とは技術的思想が異なるため、本発明を完成させる上で参考とはならなかった。
また、特許文献3は「濃縮豆乳含有水中油型乳化物及びその製造方法」という濃縮豆乳を必須としている発明であるが、本発明では脂質/蛋白質含量比が重量基準で1以上である大豆抽出物を必須としているため、参考とならなかった。
【0011】
本発明者らは、飲料用アルコール、及び脂質/蛋白質含量比が重量基準で1以上である大豆抽出物を含有することで、乳由来の原料を使用せず、飲料用アルコール含有時に乳化安定性が良好であり、かつホイップ性が良好な、アルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物を得ることが可能となった。
【0012】
即ち本発明は、
(1)脂質/蛋白質含量比が重量基準で1以上である大豆抽出物を含有する、アルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物、
(2)飲料用アルコールとの混合後のアルコール含量が1~20%(ml容量/ml容量)である、(1)に記載の起泡性水中油型乳化組成物、
(3)飲料用アルコール、及び脂質/蛋白質含量比が重量基準で1以上である大豆抽出物を含有する、飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物、
(4)該大豆抽出物の固形分中の蛋白質含量が25重量%以上である、(1)~(3)いずれか1項に記載の起泡性水中油型乳化組成物、
(5)(1)~(4)いずれか1項に記載の起泡性水中油型乳化組成物を起泡させてなる、アルコール含有含起泡飲食品、
に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、乳由来の原料を使用せず、飲料用アルコール含有時に乳化安定性が良好であり、かつホイップ性が良好な、アルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(アルコール含有含起泡飲食品用)
本発明に係るアルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物は、飲料用アルコールを混合する前の起泡性水中油型乳化組成物であり、飲料用アルコールを混合した場合においても乳化安定性が良好であり、さらにアルコールと混合後に起泡させた場合において、ホイップ性が良好な起泡性水中油型乳化組成物である。
該起泡性水中油型乳化組成物に飲料用アルコールを添加及び混合したものが、飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物であり、その後起泡させたものが、アルコール含有含起泡飲食品である。
本発明に係るアルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物は、飲料用アルコール、及び脂質/蛋白質含量比が重量基準で1以上である大豆抽出物を含有することに特徴がある。
【0015】
ここで言う起泡性水中油型乳化組成物は、油脂、蛋白質、水などの基礎原料に、乳化剤を併用した水中油型乳化物であり、ホイップ用クリームとも称される。これを泡立器具、又は専用のミキサーを用いて空気を抱き込ませるように攪拌したとき、いわゆる、ホイップド・クリームまたはホイップクリームと称されるものになる。
なお、泡立器具、又は専用のミキサーを用いて空気を抱き込ませるように攪拌する前までは、本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物は、起泡されていない、液状で流通、保管、販売される。
【0016】
(飲料用アルコール)
本発明で使用する飲料用アルコールは、市販の酒類のいずれでもよく、原料アルコール、焼酎、ウォッカ及びブランデー等の蒸留酒やワイン、日本酒等の醸造酒、梅酒、カルーアなどの各種リキュール等の混成酒などが使用できる。添加量については、含気させる前の起泡性水中油型乳化組成物のアルコール含量が、アルコール濃度として1~20%(ml容量/ml容量)の範囲が好ましく、より好ましくは2~15%(ml容量/ml容量)であり、さらに好ましくは3~10%(ml容量/ml容量)が好ましい。アルコール濃度が20%(ml容量/ml容量)を超えるとアルコールのために蛋白質が不安定になって、沈殿を起こしやすくなるし、1%(ml容量/ml容量)以下では飲料用アルコールの風味が感じにくい傾向にある。本発明では、特に、カルーア、梅酒、又は日本酒を用いることが好ましい。
【0017】
(大豆抽出物)
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物には、大豆抽出物を使用する。大豆抽出物を用いることにより、起泡性水中油型乳化組成物の乳化安定性が良好で、かつ良好なホイップ性を有することができる。
【0018】
ここで大豆抽出物とは、大豆蛋白質が脂質と水中油型に乳化されている素材であって、豆乳や大豆よりも固形分中の脂質の含量が高いものをいう。特に豆乳や大豆よりも該脂質が濃縮されたものや、該脂質が油脂の添加により増量されたものが挙げられる。なお、日本食品標準成分表2020年版(八訂、文部科学省)によれば、豆乳の固形分中の脂質含量は約21.7重量%、大豆は産地や品種により変動があるが約22.3~24.6重量%であり、大豆抽出物の脂質含量はこれらよりも高いことが好ましく、固形分中25重量%以上が好ましく、又は35重量%以上などがより好ましい。脂質含量の上限は特に限定されないが、固形分中80重量%以下、又は99重量%以下などであってもよい。
【0019】
該大豆抽出物の乾物中の蛋白質含量は下限が25重量%以上、又は27重量%以上であるのが好ましく、上限が60重量%以下、又は50重量%以下であるのが好ましい。なお、日本食品標準成分表2020年版(八訂、文部科学省)によれば、豆乳の固形分中の蛋白質含量は約39.1重量%、大豆は産地や品種により変動があるが約36.6~38.6重量%である。
【0020】
また、該大豆抽出物中の脂質/蛋白質含量比は、重量基準で下限が1以上、1.2以上、1.5以上又は2以上であるのが好ましい。また上限は3.5以下又は3以下が好ましい。なお、日本食品標準成分表2020年版(八訂、文部科学省)によれば、豆乳中の脂質/蛋白質含量比は重量基準で約0.56、大豆は産地や品種により変動があるが重量基準で約0.58~0.67である。
【0021】
アルコール含有含起泡飲食品用起泡性水中油型乳化組成物中の大豆抽出物の配合率は、例えば、下限を固形分換算で4重量%以上、5重量%以上、又は6重量%以上などとすることができ、上限を固形分換算で12重量%以下、又は10重量%以下又は9重量%以下などとすることができる。かかる上限と下限の固形分換算相当量の範囲内であれば、より良好な乳化安定性および風味を付与することができ、より好ましい。
【0022】
また、飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物中の大豆抽出物の配合率は、例えば、下限を固形分換算で4重量%以上、5重量%以上、又は6重量%以上などとすることができ、上限を固形分換算で10重量%以下、又は9.5重量%以下又は9重量%以下などとすることができる。かかる上限と下限の固形分換算相当量の範囲内であれば、より良好な乳化安定性および風味を付与することができ、より好ましい。
【0023】
大豆抽出物の典型的な製法としては、大豆と水を原料として脂質が濃縮された画分を取得する方法が挙げられる。例えば大豆から抽出した豆乳を遠心分離して比重が軽く脂質の多い画分を回収する方法、大豆から豆乳を抽出して分離されたオカラから再度水抽出により脂質の多い画分を取得する方法、大豆から水抽出し豆乳とオカラに分離する前のスラリー液を遠心分離して脂質の多い画分を取得する方法、大豆から抽出した豆乳を酸やミネラル酵素で凝集させた後に凝集物から脂質の多い画分を取得する方法等が挙げられる。
また大豆抽出物の別の製法として、大豆粉及び水との分散液、豆腐を磨りつぶしたペーストや豆乳等と、油脂とを必要により乳化剤と共に混合し、均一に乳化して脂質を増量する方法が挙げられる。
【0024】
なお、大豆抽出物の原料である大豆は、水溶性窒素指数(NSI)が80以上の水溶性の高いものでも良いし、NSIが特定の範囲、例えば20~77程度になるまであらかじめ変性処理を施した大豆を用いることもできる。特に風味の点で後者の大豆が好ましい。かかる原料から脂質が濃縮された画分を取得して得られる大豆抽出物は、含まれる蛋白質のうち、グリシニンやβ-コングリシニン以外の脂質親和性蛋白質(あるいは別の指標としてリポキシゲナーゼ蛋白質)の割合が特に高い。このため、中性脂質および極性脂質を多く含む大豆乳化組成物となる。この大豆乳化組成物は、乾物あたりの蛋白質含量が20重量%以上、脂質含量が蛋白質含量に対して100重量%以上であって、LCI値(Lipophilic Proteins Content Index)が55%以上、より好ましくは60%以上であることを主要な特徴とするものである。ここで、LCI値は、蛋白質中の脂質親和性蛋白質の割合を推定する指標である。この大豆乳化組成物の蛋白質および脂質の組成の詳細および製法については、特開2012-16348号公報の記載を援用するので、これを参考に入手することができる。
【0025】
(油脂類)
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物に含まれる油脂類は、ヤシ油、パーム核油及びパーム油からなる群より選ばれる1以上の油脂に由来する油脂を用いることができる。なお、これらの油脂はそのまま、乃至分別、硬化及びエステル交換から選ばれる1以上の工程により加工したものを使用することもできる。本発明では、特にパーム核油を用いることが好ましい。
また、本発明の目的が、起泡性水中油型乳化組成物であることから、食す温度乃至口中温度において融解状態である油脂を使用することが望ましく、使用する油脂の融点が望ましくは25~45℃、より望ましくは27~38℃、更に望ましくは29~36℃である。なお、ここでの融点は上昇融点を指し、日本油化学会制定 規準油脂分析試験法(1)に記載される方法で測定されるものであり、毛細管に充填した試料が、所定条件での加熱により、軟化して上昇を始める温度を言う。
【0026】
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物に含まれる油脂類には、上記の油脂以外の他の油脂を使用してもよい。植物性の油脂であって、通常食用として用いられるもの、例えば、大豆油,菜種油,キャノーラ油,サフラワー油,ひまわり油,米糠油,コーン油,綿実油,落花生油,カポック油,オリーブ油,パーム油,パーム核油,ヤシ油等の植物油脂が例示でき、或いはこれらの硬化,分別,エステル交換したもののいずれでもよく、これらのうち1種又は2種以上の油脂を調合して使用することもできる。
【0027】
本発明に係るアルコール含有含起泡飲食品用起泡性水中油型乳化組成物中の油脂の含量は、上記油脂以外の原料中に含まれる脂質も含めた脂質含量として、25重量%以上、27重量%以上、28重量%以上、29重量%以上、30重量%以上又は33重量%以上などとすることができる。また、さらに48重量%以下、47重量%以下、46重量%以下又は45重量%以下などとすることができる。
【0028】
また、本発明に係る飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物中の油脂の含量は、上記油脂以外の原料中に含まれる脂質も含めた脂質含量として、23重量%以上、24重量%以上、25重量%以上、27重量%以上、29重量%以上、30重量%以上又は31重量%以上などとすることができる。また、さらに48重量%以下、47重量%以下、46重量%以下又は45重量%以下などとすることができる。
【0029】
(乳化剤)
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物には、乳化剤を含有することが好ましい。乳化剤としては、一般に食用の乳化物の製造に用いられる乳化剤であれば、いずれのものであってもよい。レシチン、酵素分解レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート等の乳化剤が例示でき、これらの乳化剤の中から1種又は2種以上を選択して適宜使用することができる。本発明では、特に、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、及びポリソルベートからなる群より選ばれる1種または2種以上の乳化剤を含有することが好ましい。
【0030】
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、用途に応じて、糖類、増粘多糖類、塩類を添加することが好ましい。増粘多糖類としては、例えば、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、ウェランガム、カラヤガム、サイリウムシードガム、プルラン、白キクラゲ抽出物、アルギン酸塩、水溶性大豆多糖類、カラギーナン、タマリンド種子ガム及びタラガムから選択される1種又は2種以上の増粘多糖類を選択し、適宜使用することができる。また、塩類としては、例えば、第二リン酸塩、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸塩、重曹等を1種又は2種以上混合使用することができる。その他、本発明の効果を妨げない範囲で、所望により、香料、色素、保存料等を添加することができる。
【0031】
(粘度)
また、本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物は、飲料用アルコールと混合した場合に、特定範囲の粘度であることが好ましい。粘度は、東機産業株式会社製のBM形粘度計(VISCOMETER TV-10)にてローターNo.21を用いて5℃で測定した時の粘度が10cP以上1500cP以下であることが好ましく、より好ましくは15cP以上1000cP以下であり、更に好ましくは20cP以上500cP以下である。
上記範囲の粘度であることで、乳化安定性が良く、ホイップ性が良好な起泡性水中油型乳化組成物を提供することができる。
【0032】
(粒子径)
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物は、飲料用アルコールと混合した場合に、ある特定範囲の粒子径であることが好ましい。粒子径は、レーザー回折・光散乱法を用いた粒子径測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-7100」)にて測定した時の粒子径が、2.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは1.6μm以下であることが好ましい。
上記範囲の粒子径であることで、より長期的に安定的な乳化状態を保ちながら、1500cPよりも低い粘度による流動性を維持した、良好な起泡性水中油型乳化組成物を提供することができる。
【0033】
以下、本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物の調製方法を説明する。
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物の調製法は、通常の起泡性水中油型乳化組成物と基本的には同じである。まず、水相と油相を調製する。ここで水相とは、原材料のうち、水溶性の原材料を水に溶解したものである。
【0034】
次に、水相へ油相を添加し、十分に攪拌した後、高圧ホモゲナイザーによる均質化を行い、更に殺菌を行なう。なお、殺菌と均質化の順は、適宜変更が可能である。ここで殺菌は、蒸気の直接吹き込みによる加熱殺菌であることが望ましい。
その後、冷却してエージングし、容器に充填したものを、アルコール含有含起泡飲食品用起泡性水中油型乳化組成物とする。その後、所望のアルコール濃度になるよう、飲料用アルコールを添加し、混合したものを、飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物とする。
なお、飲料用アルコールを含まない状態である、アルコール含有含起泡飲食品用起泡性水中油型乳化組成物の状態で、販売及び流通させる場合は、ホイップする直前に、所望のアルコール濃度になるよう飲料用アルコールを添加及び混合することができる。また、飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物の状態で製品とし、販売及び流通させることも可能である。
【0035】
以下に実施例を記載する。以下「%」及び「部」は特に断りのない限り「重量%」及び「重量部」を意味するものとする。
【実施例0036】
○アルコール含有含起泡飲食品用起泡性水中油型乳化組成物の調製
表1の配合に従い、各起泡性水中油型乳化組成物を調製した。起泡性水中油型乳化組成物の調製は、油脂及び油溶性乳化剤を添加し、混合溶解し油相とした。これとは別に上記以外の原材料を溶解し水相を調製した。上記油相と水相を攪拌した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって直接加熱方式による殺菌処理を行った後、ホモゲナイザーにより圧力を加えて均質化した。その後、直ちに5℃に冷却した。冷却後約24時間エージングして、起泡性水中油型乳化組成物1(実施例1)及び起泡性水中油型乳化組成物2(比較例1)を得た。脂質/蛋白質含量比が重量基準で1以上である大豆抽出物を含有する起泡性水中油型乳化組成物1を、アルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物とした。
【0037】
○飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物の調製
「○アルコール含有含起泡飲食品用起泡性水中油型乳化組成物の調製」で調製した起泡性水中油型乳化組成物1~2を用い、各起泡性水中油型乳化組成物89.95部、及びエチルアルコール(アルコール濃度99.5%)10.05部を混合し、最終アルコール濃度10%(ml容量/ml容量)である飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物を得た。実施例2及び比較例2の飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物の最終配合を表2に示した。
【0038】
表1.起泡性水中油型乳化組成物の配合
・油脂は、不二製油株式会社製の植物油脂である「精製パーム核油」(融点28℃)、「ニューメラリン-38」(融点38℃)、「パルケナH」(融点35℃)を混合したものを使用した。
・大豆抽出物は、「濃久里夢(こくりーむ)」(不二製油(株)製、固形分:20%、蛋白質含量:5.5%、脂質含量:13.3%、固形分中の蛋白質含量:27.5%、固形分中の脂質含量:66.5%、脂質/蛋白質比:重量換算で2.4)を使用した。
・液糖は、日本コーンスターチ株式会社製「コーソデキストリン65」を使用した。
・澱粉は、Ingredion Germany GmbH製「NOVATION 2600」を使用した。
・乳製品は、雪印メグミルク株式会社製「北海道フレッシュクリーム47H」、高梨乳業株式会社製「タカナシ脱脂濃縮乳」、Molkerei MEGGLE Wasser burg GmbH & Co., KG製「Fondolac SL」、オーム乳業株式会社製「TFC400」ナチュラルチーズを使用した。
・乳蛋白は、株式会社ラクト・ジャパン製「WPC 80%」を使用した。
・乳化剤は、辻製油株式会社製「SLP-ペースト」、三菱ケミカル株式会社製「リョートーシュガーエステルS-570」、及び、阪本薬品工業株式会社製「SYグリスター MS-5S」を使用した。
・pH調整剤は、米山化学工業株式会社製の「メタリン酸ナトリウム」を使用した。
【0039】
表2.飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物の配合
【0040】
○評価法
実施例2及び比較例2について、ホイップ性の評価を行った。また、粒子径測定、及び粘度測定を実施した。
なお、該起泡性水中油型乳化組成物のホイップは、品温5℃の各起泡性水中油型乳化組成物1kgをホバートミキサー(HOBART CORPORATION製 MODEL N-5)で、3速(300rpm)にてホイップし、最適起泡状態となった段階でホイップを終了し起泡済みのホイップクリームを得た。
オーバーラン:[(一定容積の起泡性水中油型乳化組成物重量)-(一定容積の起泡後 の起泡物重量)]÷(一定容積の起泡後の起泡物重量)×100 [単位:%]
【0041】
(1)粒子径の測定、(2)粘度測定は、以下のように評価した。
(1)粒子径の測定:起泡性水中油型乳化組成物の粒子径は、レーザー回折・光散乱法を用いた粒子径測定装置(株式会社島津製作所製「SALD-7100」)で、起泡性水中油型乳化組成物を水に少量分散させ、25℃で測定したときの粒子径を測定した。[単位:μm]
粒子径は、2.0μm以下を合格とした。更に、合格範囲の中でも、1.6μm以上2.0μm以下を「○」、1.6μm以下をより良好な乳化安定性があるとして「◎」と評価した。
【0042】
(2)粘度測定:品温5℃の起泡性水中油型乳化組成物の粘度は、BM形粘度計(東機産業株式会社製「VISCOMETER TV-10」)にてローターNo.21を用いて測定した。[単位:cP]
なお、測定時のローター回転数は、粘度が500cP以下の場合は60rpm、粘度が500cP~1000cPの場合は30rpm、粘度が1000cP~2500cPの場合は12rpmの条件で測定した。
粘度は、10cP以上1500cP以下を合格とした。
【0043】
【0044】
表3の結果より、実施例2において、粒子径測定、及び粘度測定の両結果が合格であった。また、ホイップ性については、比較例2は、攪拌がスタートしたはじめから、気泡を抱き込まずに固まっている状態であった。一方、実施例2は、気泡を抱き込んでいる状態であり、ホイップ性が良好であった。
以上の結果より、飲料用アルコール、及び脂質/蛋白質含量比が重量基準で1以上である大豆抽出物を含有することで、飲料用アルコール含有時に乳化安定性が良好であり、かつホイップ性が良好な、アルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物を得ることができた。
【0045】
アルコールと混合しても物性良好であることが確認されたため、更に風味相性の良好なアルコール飲料を探索した。
【0046】
○アルコール含有含起泡飲食品の官能評価
各飲料用アルコールを用い、起泡性水中油型乳化組成物1に、最終アルコール濃度が3%(ml容量/ml容量)となるように添加及び混合した。なお、実施例3は、起泡性水中油型乳化組成物1を70部、及び梅酒(チョーヤ梅酒株式会社製「さらりとした梅酒」、アルコール濃度10%)30部を混合した。実施例4は、起泡性水中油型乳化組成物1を85部、及びカルーア(サントリーホールディングス会社製「サントリー カルーア コーヒー」、アルコール濃度20%)15部を混合した。実施例5は、起泡性水中油型乳化組成物1を77部、及び日本酒(月桂冠製「つき」、アルコール濃度13%)23部を混合した。飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物を調製し、ホイップしたアルコール含有含起泡飲食品を官能評価した。官能評価は、パネラー10名にて盲検にて試食を行い、飲料用アルコールが有する独自の良好なアルコール風味について、合議にて以下の基準に従って評価した。
なお、本評価におけるパネラーは、従前から起泡性水中油型乳化組成物の研究に従事し、熟練したパネラー10名であった。
【0047】
<官能評価>
5点:非常に良好(非常に良好なアルコール風味が感じられる)
4点:良好(良好なアルコール風味が感じられる)
3点:許容できる
2点:やや不良(アルコール風味が弱い、又は起泡性水中油型乳化組成物の風味とアルコール風味の相性がやや悪い)
1点:不良(起泡性水中油型乳化組成物の風味とアルコール風味の相性が悪い)
【0048】
各パネラーの評点の平均値を求めた。そして平均値より、
A:4.5点以上
B:3.5点以上4.5点未満
C:3.0点以上3.5点未満
D:1.5点以上3.0点未満
E:1.5点未満
の5段階で評価付けを行い、官能評価がC評価以上のものを、合格品質とした。結果を表4に示した。
【0049】
【0050】
表4の結果より、実施例3~5について、官能評価がC以上であり、合格であった。
【0051】
考察
以上の結果より、本発明において、飲料用アルコール、及び脂質/蛋白質含量比が重量基準で1以上である大豆抽出物を含有することで、乳由来の原料を使用せず、飲料用アルコール含有時に乳化安定性が良好であり、かつホイップ性が良好な、アルコール含有含起泡飲食品用である起泡性水中油型乳化組成物を提供することができることを見出した。また、得られた飲料用アルコール含有起泡性水中油型乳化組成物をホイップしたアルコール含有含起泡飲食品は、風味が良好なものであった。