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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148376
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ヒドロキシアルカン酸塩組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 59/01 20060101AFI20231005BHJP
   A23L 33/115 20160101ALI20231005BHJP
【FI】
C07C59/01
A23L33/115
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056354
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉本 雅行
(72)【発明者】
【氏名】石川 沙恵
【テーマコード(参考)】
4B018
4H006
【Fターム(参考)】
4B018MD02
4B018MD03
4B018MD09
4B018ME02
4B018ME14
4B018MF02
4H006AA03
4H006AB10
4H006AC47
4H006BN10
4H006BS10
(57)【要約】
【課題】3HB等のヒドロキシアルカン酸のアルカリ金属塩の吸湿性をさらに低減したヒドロキシアルカン酸塩組成物を提供する。
【解決手段】ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩と、ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩とを含有し、前記ヒドロキシアルカン酸塩組成物におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量を100モル%として、前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量が、アルカリ金属量に換算して1~70モル%であり、前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩の含有量が、アルカリ土類金属量に換算して30~99モル%であり、且つ、非晶質である、ヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩と、ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩とを含有するヒドロキシアルカン酸塩組成物であって、
前記アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量を100モル%として、前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量が、アルカリ金属量に換算して1~70モル%であり、
前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩の含有量が、アルカリ土類金属量に換算して30~99モル%であり、且つ、
非晶質である、
ヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【請求項2】
前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩が、ヒドロキシアルカン酸のナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【請求項3】
前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩が、ヒドロキシアルカン酸のマグネシウム塩、カルシウム塩及びバリウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【請求項4】
前記ヒドロキシアルカン酸が、3-ヒドロキシ酪酸である、請求項1~3のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【請求項5】
CuKα線によるX線回折パターンにおいて、±0.5°の許容範囲で、回折角2θ=6.38°の位置に半値全幅が0.50°以下のピークを有さないか、回折角2θ=6.70°及び7.08°の位置に半値全幅が0.50°以下のピークを有さないか、或いは、ハローのみを有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【請求項6】
前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩及びヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩の立体配置がR体を含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【請求項7】
経口摂取用ヒドロキシアルカン酸塩組成物である、請求項1~6のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物を含有する、栄養補助食品。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物、又は請求項8に記載の栄養補助食品の製造方法であって、
ヒドロキシアルカン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属とを溶液中で混合する工程を備え、
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量を100モル%として、前記混合水溶液中のアルカリ金属の含有量が1~70モル%であり、前記混合溶液中のアルカリ土類金属塩の含有量が30~99モル%となるように調整する、製造方法。
【請求項10】
前記溶液を構成する溶媒が極性溶媒である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記溶液を構成する溶媒が水である、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記混合の後に、
得られた混合物を濃縮及び/又は乾燥する工程
を備える、請求項9~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記乾燥が、スプレードライによる乾燥粉末化である、請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒドロキシアルカン酸塩組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
3-ヒドロキシ酪酸(以下、単に「3HB」ともいう。)に代表されるヒドロキシアルカン酸は、もともとヒトの体内に存在する物質であり、糖質に替わる画期的なエネルギー源として注目されている。
【0003】
3HB等のヒドロキシアルカン酸は、例えばココナッツオイル等に含まれる中鎖脂肪酸(MCT)を摂取することで、その後体内で代謝されて血流に乗り、エネルギーに変換される。当該工程は、解糖系を経由する糖質よりも速やかにエネルギーに変換される。つまり、3HB等のヒドロキシアルカン酸を外部から摂取することで、解糖系を経由する糖質よりも速やかにエネルギーに変換される。
【0004】
さらには、3HB等のヒドロキシアルカン酸には細胞が脂肪及び糖を吸収することを抑制する効果がある。つまり、3HB等のヒドロキシアルカン酸を外部から摂取することで、糖の吸収を抑制し脂肪の燃焼を促進するダイエットの効果を有する。
【0005】
これに加えて3HB等のヒドロキシアルカン酸は、単なるエネルギー源としての役割だけでなく、認知機能及び長期持続記憶機能の改善効果、並びにアルツハイマー病の予防に有効であることが確認されている。
【0006】
こうした3HB等のヒドロキシアルカン酸の有する機能に鑑み、3HB等のヒドロキシアルカン酸をアスリート向けのエネルギー物質又はダイエット・健康食品として応用することが検討されている。
【0007】
3HB等のヒドロキシアルカン酸は、吸湿性が高いため、そのままの状態での取り扱いが困難である。また、強い酸味を有するため、経口摂取するうえで不快感を伴う。ヒドロキシアルカン酸の取扱い性を高めるために、固結防止剤として二酸化ケイ素、ケイ酸カルシウム、デキストリン等を添加することも考えられるが、これらの成分には摂取上限が定められていたり、糖質が含まれていたりすることから、3HB等のヒドロキシアルカン酸との組み合わせにおいては好ましくない。このため、3HB等のヒドロキシアルカン酸は、一般に、中和塩の形態で粉末として提供されており、その中和塩として、特許文献1には、ミネラルとして人体の摂取許容量が大きいナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等を用いる例が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第10736861号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した中和塩には、過剰摂取、いわゆる塩分過多の懸念がある。ミネラルの中でもナトリウムやカリウムは、摂取許容量が多いものの、ナトリウムは通常の食事で食塩として摂取する機会が多く、食事以外での摂取には制限が生じる。
【0010】
このため、3HB等のヒドロキシアルカン酸の摂取量を増大させるには、カリウム塩での摂取が求められる。しかし、カリウム塩は、水蒸気の吸着等温線において、相対湿度約35%の低湿度環境下で水蒸気吸着量が大幅に上昇する挙動を示す化合物であって、吸湿性が極めて高い。このため、カリウム塩は製造自体が困難であり、ほとんど流通していないのが現状である。
【0011】
また、ナトリウム塩も、相対湿度約45%の環境下で水蒸気吸着量が大幅に上昇する化合物であって、吸湿性を示す。吸湿性の程度がカリウム塩ほどではないため、市場に流通しているものの、高湿度環境下では製造が困難であり、保存にも適さない。
【0012】
以上から、3HBカリウム塩等を含むヒドロキシアルカン酸塩組成物については、その吸湿性を低減させることが求められている。そこで、本発明の主な目的は、吸湿性の低いヒドロキシアルカン酸塩組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒドロキシアルカン酸を、アルカリ金属塩とアルカリ土類金属塩との混合塩としつつ、アルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩の含有量を所定の範囲に設定したときは、例えば乾燥することによってヒドロキシアルカン酸塩組成物の結晶性を低下させて、非晶質性を発現させることができること、ひいては、その吸湿性を低減できることを見出し、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の構成を包含する。
【0014】
項1.ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩と、ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩とを含有するヒドロキシアルカン酸塩組成物であって、
前記アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量を100モル%として、前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量が、アルカリ金属量に換算して1~70モル%であり、
前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩の含有量が、アルカリ土類金属量に換算して30~99モル%であり、且つ、
非晶質である、
ヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【0015】
項2.前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩が、ヒドロキシアルカン酸のナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【0016】
項3.前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩が、ヒドロキシアルカン酸のマグネシウム塩、カルシウム塩及びバリウム塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項1又は2に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【0017】
項4.前記ヒドロキシアルカン酸が、3-ヒドロキシ酪酸である、項1~3のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【0018】
項5.CuKα線によるX線回折パターンにおいて、±0.5°の許容範囲で、回折角2θ=6.38°の位置に半値全幅が0.50°以下のピークを有さないか、回折角2θ=6.70°及び7.08°の位置に半値全幅が0.50°以下のピークを有さないか、或いは、ハローのみを有する、項1~4のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【0019】
項6.前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩及びヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩の立体配置がR体を含有する、項1~5のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【0020】
項7.経口摂取用ヒドロキシアルカン酸塩組成物である、項1~6のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物。
【0021】
項8.項1~7のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物を含有する、栄養補助食品。
【0022】
項9.項1~7のいずれか1項に記載のヒドロキシアルカン酸塩組成物、又は項8に記載の栄養補助食品の製造方法であって、
ヒドロキシアルカン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属とを溶液中で混合する工程
を備え、
アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量を100モル%として、前記混合溶液中のアルカリ金属の含有量が1~70モル%であり、前記混合溶液中のアルカリ土類金属塩の含有量が30~99モル%となるように調整する、製造方法。
【0023】
項10.前記溶液を構成する溶媒が極性溶媒である、項9に記載の製造方法。
【0024】
項11.前記溶液を構成する溶媒が水である、項9又は10に記載の製造方法。
【0025】
項12.前記混合の後に、
得られた混合物を濃縮及び/又は乾燥する工程
を備える、項9~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【0026】
項13.前記乾燥が、スプレードライによる乾燥粉末化である、項12に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、3HB等のヒドロキシアルカン酸のアルカリ金属塩の吸湿性をさらに低減したヒドロキシアルカン酸塩組成物を提供することができる。
【0028】
特に、本発明によれば、製造が極めて困難であったカリウムを含む塩も、アルカリ土類金属塩を含ませることにより製造することが可能であり、また、特定の組成を有し且つ非晶質のヒドロキシアルカン酸塩組成物を得ることができ、このような組成物によれば、吸湿性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施例1~2及び比較例1~5で得られた粉末の試験例1の吸湿性試験の結果である。
図2】実施例2~5、並びに比較例1、3及び6で得られた粉末の試験例2の吸湿性試験の結果である。
図3】実施例1~2及び比較例1で得られた粉末の試験例3の水蒸気の吸湿等温線の結果である。
図4】実施例6~7及び比較例4~5で得られた粉末の試験例3の水蒸気の吸湿等温線の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本明細書において、「含有」は、「含む(comprise)」、「実質的にのみからなる(consist essentially of)」、及び「のみからなる(consist of)」のいずれも包含する概念である。
【0031】
また、本明細書において、数値範囲を「A~B」で示す場合、A以上B以下を意味する。
【0032】
以下、本発明の実施形態を説明するが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能である。
【0033】
1.ヒドロキシアルカン酸塩組成物
本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物は、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩と、ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩とを含有し、
前記ヒドロキシアルカン酸塩組成物におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量を100モル%として、前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量が、アルカリ金属量に換算して1~70モル%であり、前記ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩の含有量が、アルカリ土類金属量に換算して30~99モル%であり、且つ、非晶質である。
【0034】
(1-1)ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩
ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩におけるヒドロキシアルカン酸としては、例えば、ヒドロキシ酢酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)、4-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシデカン酸等が挙げられる。これらのヒドロキシアルカン酸は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、エネルギー源としやすく、脂肪及び糖の吸収を抑制しやすく、認知機能及び長期持続記憶機能を改善しやすく、アルツハイマー病を予防しやすいという観点から、炭素数3~12の3-ヒドロキシアルカン酸が好ましく、炭素数3~8の3-ヒドロキシアルカン酸がより好ましく、炭素数4~6の3-ヒドロキシアルカン酸がさらに好ましく、下記式で表される3-ヒドロキシ酪酸(3HB)が最も好ましい。
【0035】
【化1】
【0036】
ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩におけるアルカリ金属塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩等が挙げられる。これらのアルカリ金属塩は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。いずれのアルカリ金属塩においても、単独では、水蒸気の吸着等温線において、水蒸気の吸着量が大幅に上昇する相対湿度点を有する(例えば、ナトリウム塩の場合は45%、カリウム塩の場合は35%)ため、高湿度環境では製造が難しく、保存にも適していなかったが、本発明のように、アルカリ土類金属塩との混合塩としつつ含有量を特定範囲とし、非晶質とすることにより、水蒸気の吸着量が大幅に上昇する相対湿度点が存在しなくなり、製造することができ、保存も可能である。
【0037】
さらに、カリウム塩を採用した場合には、単独では吸湿性が著しく高いために製造することも困難であったところ、本発明のように、アルカリ土類金属塩との混合塩としつつ含有量を特定範囲とすることにより、吸湿性を低減して製造及び保管が可能となる点において特に有用であり、ミネラルの摂取目安量の大きいカリウム塩を有効活用し、ヒドロキシアルカン酸の摂取量を特に増大させやすい。
【0038】
以上から、アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が好ましく、カリウム塩がより好ましい。
【0039】
ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0040】
ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の立体構造は、R配置(R体)であってもよいし、S配置(S体)であってもよく、両方の立体構造が任意の割合で混合されていてもよい。エネルギー源としやすく、脂肪及び糖の吸収を抑制しやすく、認知機能及び長期持続記憶機能を改善しやすく、アルツハイマー病を予防しやすいという観点から、R配置(R体)が好ましく、R配置(R体)を95~100モル%含むことがより好ましい。
【0041】
本発明において使用するヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の製造方法は特に制限されることなく、従来公知の方法によりヒドロキシアルカン酸を製造し、さらに、従来から慣用されている造塩工程、脱塩工程、塩交換工程等により、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩を製造することができる。
【0042】
本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物において、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量は、本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量を100モル%として、アルカリ金属量に換算して1~70モル%、好ましくは5~65モル%、さらに好ましくは10~60モル%である。この範囲では、ヒドロキシアルカン酸塩組成物が結晶化することはなく、非晶質の材料となるため、吸湿性を低減することができる。この範囲内を満たしながらヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量をできるだけ大きくする、つまり、20モル%以上、特に30モル%以上、さらには40モル%以上、さらに特には50モル%以上等とすると、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩は摂取目安量が多いためにヒドロキシアルカン酸の摂取量を増大させることが可能である。なお、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量が1モル%未満では、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量が少ないために、ヒドロキシアルカン酸の摂取量を増大させることができない。一方、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量が70モル%をこえると、ヒドロキシアルカン酸塩組成物が結晶性の材料となり、吸湿性が高いために製造も困難であり、保存も困難である。
【0043】
(1-2)ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩
ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩におけるヒドロキシアルカン酸としては、上記したヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩におけるヒドロキシアルカン酸と同じものを使用することもできるし、異なるものを使用することもできる。
【0044】
ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩におけるヒドロキシアルカン酸としては、例えば、ヒドロキシ酢酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)、4-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ吉草酸、3-ヒドロキシイソ吉草酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸、3-ヒドロキシデカン酸等が挙げられる。これらのヒドロキシアルカン酸は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。なかでも、エネルギー源としやすく、脂肪及び糖の吸収を抑制しやすく、認知機能及び長期持続記憶機能を改善しやすく、アルツハイマー病を予防しやすいという観点から、炭素数3~12の3-ヒドロキシアルカン酸が好ましく、炭素数3~8の3-ヒドロキシアルカン酸がより好ましく、炭素数4~6の3-ヒドロキシアルカン酸がさらに好ましく、3-ヒドロキシ酪酸(3HB)が最も好ましい。
【0045】
ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩におけるアルカリ土類金属塩としては、例えば、マグネシウム塩、カルシウム塩、バリウム塩等が挙げられる。これらのアルカリ土類金属塩は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。いずれのアルカリ土類金属塩においても、アルカリ金属塩との混合塩としつつ含有量を特定範囲とすることにより、アルカリ金属塩単独の場合と比較して、吸着量を低減することができ、水蒸気の吸着量が大幅に上昇する相対湿度点が存在せず、高湿度環境でも製造することができ、保存も可能であるとともに、アルカリ金属塩を含むためにヒドロキシアルカン酸の摂取量を増大させることができる。
【0046】
なかでも、アルカリ土類金属塩としては、マグネシウム塩、カルシウム塩等が好ましく、マグネシウム塩がより好ましい。
【0047】
ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0048】
ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩の立体構造は、R配置(R体)であってもよいし、S配置(S体)であってもよく、両方の立体構造が任意の割合で混合されていてもよい。エネルギー源としやすく、脂肪及び糖の吸収を抑制しやすく、認知機能及び長期持続記憶機能を改善しやすく、アルツハイマー病を予防しやすいという観点から、R配置(R体)が好ましく、R配置(R体)を95~100モル%含むことがより好ましい。
【0049】
本発明において使用するヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩の製造方法は特に制限されることなく、従来公知の方法によりヒドロキシアルカン酸を製造し、さらに、従来から慣用されている造塩工程、脱塩工程、塩交換工程等により、ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩を製造することができる。
【0050】
本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物において、ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩の含有量は、本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物におけるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量を100モル%として、30~99モル%、好ましくは35~95モル%、さらに好ましくは40~90モル%である。この範囲内を満たしながらヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩の含有量をできるだけ小さくする、つまり、80モル%以下、特に70モル%以下、さらには60モル%以下、さらに特には50モル%以下等とすると、摂取目安量が多いヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量を相対的に増大させることができ、ヒドロキシアルカン酸の摂取量を増大させることが可能である。なお、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量が30モル%未満では、ヒドロキシアルカン酸塩組成物が結晶性の材料となり、吸湿性が高いために製造も困難であり、保存も困難である。ヒドロキシアルカン酸アルカリ土類金属塩の含有量が99モル%をこえると、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量が少ないために、ヒドロキシアルカン酸の摂取量を増大させることができない。
【0051】
(1-3)その他の成分
本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物は、本発明の目的及び効果を損なわない範囲でその他の成分を適宜含むことも好ましい。このようなその他の成分としては、可食性であれば特に制限はされないが、例えば、食用油脂、プロテイン、糖質、食物繊維等が挙げられる。
【0052】
食用油脂としては、特に制限はなく、種々様々なものを使用することができる。
【0053】
食用油脂としては、例えば、乳脂肪、シア脂、オリーブ油、大豆油、サフラワー油、コーン油、ひまわり油、菜種油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、パーム分別油等の植物性油脂;ラード、魚油等の動物性油脂等が挙げられる。
【0054】
なお、これらの食用油脂には、グリセリンと脂肪酸とから合成した油脂、これらの分別油、エステル交換油、水素添加油等も包含される。
【0055】
グリセリンと脂肪酸とから合成した油脂としては、例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)油脂等が挙げられる。
【0056】
分別油としては、例えば、パームオレイン、パームスーパーオレイン、パームステアリン、パームミッドフラクション等のパーム油の分別油等が挙げられる。
【0057】
エステル交換油としては、例えば、上記した油脂又はその分別油と他の液状油脂のエステル交換油、又は中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)油脂と植物性油脂等とのエステル交換油等を使用することができる。
【0058】
水素添加油は、上記した油脂やその分別油の水素添加油の他、エステル交換油の水素添加油等が挙げられる。
【0059】
また、これらの食用油脂には精製油脂も包含されており、精製油脂を採用する場合の油脂の精製方法としては、特に制限はないが、例えば、ケミカル精製(ケミカルリファイニング)、フィジカル精製(フィジカルリファイニング)等が挙げられる。ケミカル精製は、原料から圧搾及び抽出した原油を、脱ガム処理、脱酸処理、脱色処理、脱ろう処理、脱臭処理等に供することで精製する方法である。フィジカル精製は、原料から圧搾した原油を、脱ガム処理、脱色処理、脱酸・脱臭処理等に供することで精製する方法である。
【0060】
これらの食用油脂は、単独で用いることもでき、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0061】
また、これらの食用油脂の形状は特に制限はなく、組成物が固体となればよい。
【0062】
プロテインとしては、特に制限はなく、ホエイプロテイン、カゼインプロテイン、ソイプロテイン(大豆プロテイン)、エンドウ豆プロテイン、小麦プロテイン、エッグプロテイン、ライスプロテイン等をいずれも使用することができる。本発明では、ホエイプロテイン等の水溶性のホエイプロテインのみならず、非水溶性のプロテインであっても、3HBの潮解及び酸味を抑制しつつ、水分散性を向上させることが可能である。なかでも、水分散性、潮解抑制、酸味抑制等の観点から、ホエイプロテイン、カゼインプロテイン、ソイプロテイン(大豆プロテイン)等が好ましく、ホエイプロテインがより好ましい。
【0063】
これらのプロテインは、水分散性及び吸収性を向上させやすいために部分分解物であってもよい。このような部分分解物としては、具体的には、プロテイン原料を蛋白分解酵素、酸等を用いてそこに含まれるタンパク質を部分的に分解することにより得られる水溶性のタンパク分解物等が挙げられる。
【0064】
プロテインは、その使用に際して粉末状であることが好ましい。プロテインの形態は、いわゆる粉砕状、粉状、粉末状、フレーク状、顆粒状、粒状等が挙げられ、その個々の形状は厳格に制限されることはない。
【0065】
以上のようなプロテインは、特に制限はなく、公知又は市販品を使用することができる。
【0066】
糖質は、通常、食物繊維以外の炭水化物を意味する。糖質としては、例えば、単糖、二糖、オリゴ糖、糖アルコール、異性化糖、澱粉分解物等の可食性の糖類を挙げることができる。より具体的には、ぶどう糖(単糖)、砂糖、麦芽糖(マルトース)、乳糖、トレハロース(以上、二糖)、マルチトール、パラチニット(以上、糖アルコール)、ぶとう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖(以上、異性化糖)、水飴(ぶどう糖、麦芽糖、及びデキストリンの混合物)、デキストリン(澱粉分解物)等が挙げられる。
【0067】
食物繊維としては、例えば、小麦ふすま、コーンふすま、オーツブラン、植物から抽出したセルロースを主体とする繊維(例えば、コーンファイバー、大豆食物繊維、ビートファイバー等)、セルロース、結晶セルロース、寒天、キトサン、キチン、ヘミセルロース、リグニン、グルカン等を例示することができる。
【0068】
これら他の成分を含む場合、その含有量は、本発明の目的及び効果を損なわない範囲が好ましい。ただし、本発明は、他の成分を使用せずとも吸湿性を低減してヒドロキシアルカン酸塩組成物の製造及び保存ができるものであり、摂取目安量が多いヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩の含有量を可能な限り多くすることでヒドロキシアルカン酸の摂取量を増大させることが期待されるため、これら他の成分の含有量は、極力少ないことが好ましい。例えば、本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物以外の他の成分の含有量は、吸湿性、潮解抑制、酸味抑制、ヒドロキシアルカン酸の摂取量等の観点から、本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物の総量を100質量%として、0~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましい。
【0069】
(1-4)ヒドロキシアルカン酸塩組成物
以上のような成分を有する本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物は、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩単独の場合とは異なり、非晶質の材料とすることができる。
【0070】
本発明において、ヒドロキシアルカン酸塩組成物が非晶質の材料であることは、CuKα線によるX線回折パターンにおいて、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩に特徴的なピークを有さないことを意味する。具体的には、±0.5°(好ましくは±0.3°、より好ましくは±0.2°)の許容範囲で、例えば、3-ヒドロキシ酪酸カリウムの場合は回折角2θ=6.38°の位置のピーク、3-ヒドロキシ酪酸ナトリウムの場合は回折角2θ=6.70、7.08°の位置のピークの半値全幅が0.50°以下(好ましくは0.01~0.50°、より好ましくは0.03~0.40°、さらに好ましくは0.05~0.25°)であるピークを有さないことが好ましい。
【0071】
また、本発明において、ヒドロキシアルカン酸塩組成物が非晶質の材料であることは、CuKα線によるX線回折パターンにおいて、5~85°の範囲のハローの面積を(S1)、ハローをこえる部分の結晶質状態のヒドロキシアルカン酸塩組成物由来のピークの面積を(S2)とした場合、
式:[(S2)/(S1)+(S2)]×100
で算出される比率が0~5%、特に0~3%、さらには0~2%であることが好ましい。
【0072】
また、本発明においては、CuKα線によるX線回折パターンにおいて、5~85°の範囲において、ハローのみが存在することが好ましい。この場合、組成物の結晶性の低減(非晶質性の増大)を図ることができ、ひいては、組成物の吸着性を低減させることができる。
【0073】
本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物は、固体とすることもできるし、液体(水分散液)とすることもできる。つまり、粉末等の固体として保管し、そのまま又は水と併用して経口摂取することもできるし、水に分散させた水分散液として経口摂取することもできる。
【0074】
いずれにしても、吸湿性を低減することができ、高度に監視することなく保管することが可能であるため、経口摂取用途として適切であり、エネルギー源であるヒドロキシアルカン酸を好適に摂取することができるため、栄養補助食品(サプリメント)等として有用である。
【0075】
2.ヒドロキシアルカン酸塩組成物の製造方法
本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物の製造方法は、
ヒドロキシアルカン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属とを溶液中で混合する工程
を備え、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量を100モル%として、前記混合溶液中のアルカリ金属の含有量が1~70モル%であり、前記混合溶液中のアルカリ土類金属塩の含有量が30~99モル%となるように調整する。
【0076】
この場合、ヒドロキシアルカン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属とを混合する際の溶液の液体成分は、水やアルコール(エタノール等)等の各種溶媒(好ましくは極性溶媒、より好ましくは水)を1種又は2種以上使用することができ、特に制限されない。
【0077】
混合方法としては、特に限定はなく、公知の方法により混合することができる。例えば、ミキサー又はミルを使用して機械的混合する方法を例示することができる。
【0078】
また、ヒドロキシアルカン酸と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属とを溶液中で混合する際には、特に制限はなく、例えば、ヒドロキシアルカン酸溶液と、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の混合溶液とを混合することができる。例えば、ヒドロキシアルカン酸溶液(好ましくはヒドロキシアルカン酸水溶液)に、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含む溶液(好ましくはアルカリ金属及びアルカリ土類金属を含む水溶液)を滴下することもできるし、アルカリ金属及びアルカリ土類金属を含む溶液(好ましくはアルカリ金属及びアルカリ土類金属を含む水溶液)に、ヒドロキシアルカン酸溶液(好ましくはヒドロキシアルカン酸水溶液)を滴下することもできる。
【0079】
本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物が固体である場合は、溶媒を除去し固体を取り出す方法としては、常法により濃縮及び/又は乾燥を行うことができる。例えば、エバポレーター、スプレードライヤー、フリーズドライヤー等を使用して混合物に残留する溶媒を蒸発(揮発)させること、得た固体物を濾別すること、減圧下に乾燥すること等が挙げられるが特に限定されない。
【0080】
一方、本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物の製造方法は、
ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩固体及びヒドロキシアルカリ土類金属塩固体を含む混合物を溶融する工程を備え、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の総量を100モル%として、前記混合物のアルカリ金属の含有量が1~70モル%であり、前記混合物のアルカリ土類金属塩の含有量が30~99モル%となるように調整することもできる。
【0081】
この場合、微量(混合物100質量部に対して1~20質量部程度)の水やアルコール(エタノール等)等の各種溶媒1種又は2種以上の存在下又は非存在下で溶融することができる。
【0082】
原料として使用する混合物中には、さらに、ヒドロキシアルカン酸が含まれていてもよい。この場合、最終的に本発明のヒドロキシアルカン酸塩組成物と同様の組成となるように調整することが好ましい。
【0083】
また溶融する前に、ヒドロキシアルカン酸アルカリ金属塩固体及びヒドロキシアルカリ土類金属塩固体を事前に混合しておくことも可能である。
【0084】
当該混合方法としては、特に限定はなく、公知の方法により混合することができる。例えば、ミキサー又はミルを使用して機械的混合する方法を例示することができる。
【0085】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこうした例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【実施例0086】
以下、実施例に基づき、本発明の実施形態をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されるものではない。
【0087】
なお、以下の実施例において、(R)-3-ヒドロキシ酪酸は、特開2019-176839号公報の実施例1に記載された方法に従って製造したR-3-ヒドロキシ酪酸水溶液を、70℃に設定したエバポレーターで水分が出なくなるまで濃縮し、濃縮液の重量に対して30質量%の酢酸エチルとR-3-ヒドロキシ酪酸の種結晶を入れて4℃に一晩放置することで得た。以下の実施例ではこれを濾別、乾燥したものを用いた。
【0088】
<分析方法>
・粉末X線回折測定
全自動多目的水平型粉末X線回折装置SmartLab(株式会社リガク製)を用いて、CuKα(λ=1.542Å)を線源とし、出力1.2kW、操作角5~85°の条件で測定した。
【0089】
比較例1:3HB-K
R-3-ヒドロキシ酪酸(R-3HB)20g(0.19モル)と蒸留水30gとをビーカーに入れて混合し、R-3HB水溶液を作製した。別のビーカーに蒸留水20gを入れ、水酸化カリウム10.7 g(0.20モル)を入れ、混合した。R-3HB水溶液へ、水酸化カリウム水溶液を滴下し、pH9へ調整した。R-3HB水溶液へ蒸留水を添加し重量を136.1g、固形分を約20質量%に合わせた。これをスプレードライヤーにて乾燥し、R-3HBのカリウム塩の粉末を得た。スプレードライヤーには日本ビュッヒ製のB-290を用いた。
【0090】
得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、R-3HBのカリウム塩の結晶に由来する、以下の回折ピークが認められた:
回折角度2θ=6.38°(半値全幅0.10°)、7.14°、12.76°、18.20°、19.26°、19.52°、20.82°、22.46°、25.76°、26.78°、30.02°、31.10°、31.84°、32.28°、32.38°、35.12°。
【0091】
比較例2:3HB-Ca
比較例1で使用する塩基を水酸化カリウムから水酸化カルシウムに変更し、同様にpH7の20質量%溶液を調製し乾燥することで、R-3HBのカルシウム塩の粉末を得た。得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、R-3HBのカルシウム塩に由来する、アモルファスに特徴的な以下のハローのみが認められた:
回折角度2θ=7.16°(半値全幅2.62°)、21.46°(半値全幅12.56°)。
【0092】
比較例3:3HB-Mg
比較例1で使用する塩基を水酸化カリウムから酸化マグネシウムに変更し、同様にpH7の20質量%溶液を調製し乾燥することで、R-3HBのマグネシウム塩の粉末を得た。得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、R-3HBのマグネシウム塩に由来する、アモルファスに特徴的な以下のハローのみが認められた:
回折角度2θ=8.00°(半値全幅3.70°)、21.14°(半値全幅13.00°)。
【0093】
比較例4:3HB-Na
比較例1で使用する塩基を水酸化カリウムから水酸化ナトリウムに変更し、同様にpH7の20質量%溶液を調製し乾燥することで、R-3HBのナトリウム塩の粉末を得た。得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、R-3HBのナトリウム塩の結晶に由来する、以下の回折ピークが認められた:
回折角度2θ=6.70°(半値全幅0.18°)、7.08°(半値全幅0.18°)、8.34°、11.68°、12.08°、16.86°、18.76°、20.20°、20.64°、20.68°、22.08°、22.44°、23.14°、23.44°、27.60°、28.80°、28.88°、29.40°、30.00°、30.20°、30.26°、30.50°、33.18°、37.06°。
【0094】
実施例1:3HB-KCa
R-3-ヒドロキシ酪酸(R-3HB)20g(0.19モル)と蒸留水30gとをビーカーに入れて混合し、R-3HB水溶液を作製した。別のビーカーに蒸留水20gを入れ、水酸化カルシウム4.88 g(0.066モル)及び水酸化カリウム3.70g(0.066モル)を入れ、混合した。R-3HB水溶液へ、水酸化カリウム及び水酸化カルシウム混合水溶液を滴下し、pH9へ調整した。R-3HB水溶液へ蒸留水を添加し重量を124.3g、固形分を約20質量%に合わせた。これをスプレードライヤーにて乾燥し、R-3HBのカリウム及びカルシウムの混合塩であって、カリウム及びカルシウムのモル比が1:1である粉末を得た。スプレードライヤーには日本ビュッヒ製のB-290を用いた。
【0095】
得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、結晶に由来する回折は見られず、R-3HBのカリウム及びカルシウム混合塩に由来する、アモルファスに特徴的な以下のハローのみが認められた:
回折角度2θ=6.90°(半値全幅2.22°)、21.30°(半値全幅8.98°)。
【0096】
実施例2:3HB-KMg1:1
実施例1で使用する水酸化カルシウムを酸化マグネシウムに変更し、同様にpH9の20質量%溶液を調製し乾燥することで、R-3HBのカリウム及びマグネシウムの混合塩であって、カリウム及びマグネシウムのモル比が1:1である粉末を得た。
【0097】
得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、結晶に由来する回折は見られず、R-3HBのカリウム及びマグネシウム混合塩に由来する、アモルファスに特徴的な以下のハローのみが認められた。:
回折角度2θ=6.90°(半値全幅3.18°)、21.36°(半値全幅13.54°)。
【0098】
比較例5:3HB-KNa
実施例1で使用する水酸化カルシウムを水酸化ナトリウムに変更し、同様にpH9の20質量%溶液を調製し乾燥することで、R-3HBのカリウム及びナトリウムの混合塩であって、カリウム及びナトリウムのモル比が1:1である粉末を得た。
【0099】
得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、R-3HBのカリウム及びナトリウムの混合塩の結晶に由来する、以下の回折ピークが認められた:
回折角度2θ=6.54°(半値全幅0.18°)、6.80°(半値全幅0.10°)、13.62°、13.80°、18.26°、18.80°、19.98°、20.42°、20.78°、21.56°、21.90°、22.56°、23.36°、23.58°、24.38°、24.90°、25.76°、25.96°、26.32°、26.36°、26.42°、26.52°、27.08°、27.16°、27.40°、27.72°、29.20°、29.82°、29.86°、29.94°、30.08°、31.18°、31.26°、31.32°、31.48°、31.80°、31.90°、32.02°、32.06°、32.1°、32.18°、32.32°、33.82°、33.90°、34.00°、34.06°、34.42°、37.02°、37.54°、38.22°。
【0100】
実施例3:3HB-KMg1:4
実施例1で使用する水酸化カルシウムを水酸化マグネシウムに変更し、同様にpH9の20質量%溶液を調製し乾燥することで、R-3HBのカリウム及びマグネシウムの混合塩であって、カリウム及びマグネシウムのモル比が1:4である粉末を得た。
【0101】
得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、結晶に由来する回折は見られず、R-3HBのカリウム及びマグネシウム混合塩に由来する、アモルファスに特徴的なハローのみが観測された。
【0102】
実施例4:3HB-KMg2:3
実施例1で使用する水酸化カルシウムを水酸化マグネシウムに変更し、同様にpH9の20質量%溶液を調製し乾燥することで、R-3HBのカリウム及びマグネシウムの混合塩であって、カリウム及びマグネシウムのモル比が2:3である粉末を得た。
【0103】
得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、結晶に由来する回折は見られず、R-3HBのカリウム及びマグネシウム混合塩に由来する、アモルファスに特徴的なハローのみが観測された。
【0104】
実施例5:3HB-KMg3:2
実施例1で使用する水酸化カルシウムを水酸化マグネシウムに変更し、同様にpH9の20質量%溶液を調製し乾燥することで、R-3HBのカリウム及びマグネシウムの混合塩であって、カリウム及びマグネシウムのモル比が3:2である粉末を得た。
【0105】
得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、結晶に由来する回折は見られず、R-3HBのカリウム及びマグネシウム混合塩に由来する、アモルファスに特徴的なハローのみが観測された。
【0106】
比較例6:3HB-KMg4:1
実施例1で使用する水酸化カルシウムを水酸化マグネシウムに変更し、同様にpH9の20質量%溶液を調製し乾燥することで、R-3HBのカリウム及びマグネシウムの混合塩であって、カリウム及びマグネシウムのモル比が4:1である粉末を得た。
【0107】
得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、R-3HBのカリウム及びマグネシウム混合塩の結晶に由来する、以下の回折ピークが認められた:
回折角度2θ=6.38°(半値全幅0.22°)、6.60°(半値全幅0.14°)。
【0108】
実施例6:3HB-NaCa
実施例1で使用する水酸化カリウムを水酸化ナトリウムに変更し、同様にpH9の20質量%溶液を調製し乾燥することで、R-3HBのナトリウム及びカルシウムの混合塩であって、ナトリウム及びカルシウムのモル比が1:1である粉末を得た。
【0109】
得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、結晶に由来する回折は見られず、R-3HBのナトリウム及びカルシウム混合塩に由来する、アモルファスに特徴的なハローのみが観測された。
【0110】
実施例7:3HB-NaMg
実施例1で使用する水酸化カリウムを水酸化ナトリウムに変更し、水酸化カルシウムを水酸化マグネシウムに変更し、同様にpH9の20質量%溶液を調製し乾燥することで、R-3HBのナトリウム及びマグネシウムの混合塩であって、ナトリウム及びマグネシウムのモル比が1:1である粉末を得た。
【0111】
得られたサンプルの粉末X線回折パターンからは、結晶に由来する回折は見られず、R-3HBのナトリウム及びマグネシウム混合塩に由来する、アモルファスに特徴的なハローのみが観測された。
【0112】
試験例1:吸湿性試験(その1)
実施例1~2及び比較例1~5で得られた粉末それぞれ1gを、恒温恒湿機内、25℃、湿度40%にて20時間保管し、その重量増加率を測定し、吸湿性を比較した。結果を図1に示す。
【0113】
この結果、比較例1のカリウム単独塩は吸湿性が高く、保管に適さないことが理解できる。また、比較例4のナトリウム単独塩の吸湿性は低かったものの、カリウムとの混合塩とした場合には吸湿性が高いため、カリウムとナトリウムとを混合しても吸湿性の低減効果は得られなかった。それに対して、実施例1及び2では、カリウムとマグネシウム又はカルシウムとの混合塩、つまり、アルカリ金属とアルカリ土類金属との混合塩を採用しているため、カリウム単独塩と比較して吸湿性を大幅に低減することができた。なかでも、実施例1のカリウムとカルシウムとの混合塩においては、比較例2~3のカルシウム単独塩及びマグネシウム単独塩と同程度又はそれ以上にまで吸湿性を低減することができた。このため、本発明では、アルカリ金属とアルカリ土類金属との混合塩を採用しているため、吸湿性を大幅に低減することができ、製造及び保管に適しているとともに、摂取目安量の多いアルカリ金属塩を含んでいるためにヒドロキシアルカン酸の摂取量を増大させることが期待できる。
【0114】
試験例2:吸湿性試験(その2)
実施例2~5、並びに比較例1、3及び6で得られた粉末それぞれ1gを、恒温恒湿機内、25℃、湿度40%にて20時間保管し、その重量増加率を測定し、吸湿性を比較した。結果を図2に示す。
【0115】
この結果、実施例2~5では、マグネシウムの含有量が十分であるため、同様に吸湿性を低減することができていたが、比較例6では、マグネシウムの含有量が不十分であるため、吸湿性の低減効果は十分とは言えなかった。このため、本発明では、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の含有量を所定範囲としているため、吸湿性を大幅に低減することができ、製造及び保管に適しているとともに、摂取目安量の多いアルカリ金属塩を含んでいるためにヒドロキシアルカン酸の摂取量を増大させることが期待できる。
【0116】
試験例3:水蒸気の吸着等温線
高精度蒸気吸着量測定装置BELSORP-aqua3(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて、実施例1~2及び6~7、並びに比較例1及び4~5で得られた粉末について、25℃、平衡待ち時間300秒における水蒸気の吸着等温線を測定した。結果を図3及び4に示す。
【0117】
この結果、比較例1、4及び5では、吸着量が大幅に増大する相対湿度点が存在するが、実施例1~2及び6~7ではそのような傾向はなく、緩やかに吸着量が増大した。このため、本発明では、高湿度環境においても、製造及び保管に適しているとともに、摂取目安量の多いアルカリ金属塩を含んでいるためにヒドロキシアルカン酸の摂取量を増大させることが期待できる。
図1
図2
図3
図4