(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148391
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ヘリカルブローチ
(51)【国際特許分類】
B23F 21/26 20060101AFI20231005BHJP
B23D 43/02 20060101ALI20231005BHJP
B23D 43/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
B23F21/26
B23D43/02
B23D43/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056378
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】大田 拓矢
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 智志
【テーマコード(参考)】
3C050
【Fターム(参考)】
3C050BA00
3C050BD04
(57)【要約】
【課題】歯厚上がり刃で歯溝の歯面を切削するときに、切削量にばらつきが生じにくく、高精度な切削が可能なヘリカルブローチを提供する。
【解決手段】中心軸を中心として軸方向に延びるブローチ本体と、ブローチ本体の外周面に配置され、径方向外側へ向けて突出する複数の切れ刃と、を備え、複数の切れ刃が、軸方向へ向かうに従い周方向に向けて捩れて配列されたヘリカルブローチであって、複数の切れ刃は、環状をなすワークの内周部の歯溝Gを、径方向外側に追い込み切削する複数の外径上がり刃と、外径上がり刃よりも軸方向の後側に配置され、歯溝Gの周方向を向く歯面A,Bを追い込み切削する複数の歯厚上がり刃7と、を含み、複数の外径上がり刃のうち少なくとも1つは、歯溝Gの径方向外側の端部にガイド溝Dを切削し、歯厚上がり刃7は、ガイド溝Dの内面に摺動するガイド部14を有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を中心として軸方向に延びるブローチ本体と、
前記ブローチ本体の外周面に配置され、径方向外側へ向けて突出する複数の切れ刃と、を備え、
前記複数の切れ刃が、軸方向へ向かうに従い周方向に向けて捩れて配列されたヘリカルブローチであって、
前記複数の切れ刃は、
環状をなすワークの内周部の歯溝を、径方向外側に追い込み切削する複数の外径上がり刃と、
前記外径上がり刃よりも軸方向の後側に配置され、前記歯溝の周方向を向く歯面を追い込み切削する複数の歯厚上がり刃と、を含み、
前記複数の外径上がり刃のうち少なくとも1つは、前記歯溝の径方向外側の端部にガイド溝を切削し、
前記歯厚上がり刃は、前記ガイド溝の内面に摺動するガイド部を有する、
ヘリカルブローチ。
【請求項2】
前記ガイド部は、
前記ガイド溝の内面のうち、径方向内側を向く端面に摺動する上ガイド面と、
前記ガイド溝の内面のうち、周方向を向く側面に摺動する横ガイド面と、を有する、
請求項1に記載のヘリカルブローチ。
【請求項3】
前記横ガイド面は、前記ガイド部に一対設けられ、
一対の前記横ガイド面は、周方向において互いに反対方向を向く、
請求項2に記載のヘリカルブローチ。
【請求項4】
前記横ガイド面は、第1ガイド面を有し、
前記第1ガイド面は、前記歯厚上がり刃を前側から見て、前記ガイド部の周方向の中心を通り径方向に延びる中心線との間の周方向の距離が、軸方向の後側へ向かうに従い大きくなる、
請求項2または3に記載のヘリカルブローチ。
【請求項5】
前記横ガイド面は、第2ガイド面を有し、
前記第2ガイド面は、前記歯厚上がり刃を前側から見て、前記ガイド部の周方向の中心を通り径方向に延びる中心線に対する傾斜角が、軸方向の後側へ向かうに従い小さくなり、かつ、軸方向の後側へ向かうに従い前記側面との接触面積が大きくなる、
請求項2から4のいずれか1項に記載のヘリカルブローチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリカルブローチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載のヘリカルブローチが知られている。ヘリカルブローチは、軸状のブローチ本体と、ブローチ本体の外周面に径方向外側へ向けて突設された複数の切れ刃と、を備えている。ブローチ本体の外周面において複数の切れ刃は、ブローチ本体の中心軸が延びる軸方向へ向かうに従い、中心軸回りの周方向に向けて捩れて配列している。
【0003】
ヘリカルブローチは、筒状やリング状の金属材料からなる被削材(ワーク)の下孔に挿入され、ブローチ本体の外周面に配列する切れ刃の配列方向(リード)に沿うように、ワークに対して軸方向の前側へ送られつつ、周方向に回転させられる。これにより、ヘリカルブローチは、ワークの下孔の内周部にヘリカル内歯車(はすばの内歯車)等の捩れ溝を加工する。
ヘリカルブローチによれば、例えば、自動変速機用のプラネタリーインターナルギアなどの高精度が要求される製品を、一回の切削加工で、荒加工から仕上げ加工まで行うことができる。
【0004】
ブローチ本体の外周面に配列する複数の切れ刃のうち、ブローチ本体の前側部分に配置される複数の切れ刃は、外径上がり刃(荒刃)とされ、後側部分に配置される複数の切れ刃は、歯厚上がり刃(仕上げ刃)とされる。
複数の外径上がり刃は、ブローチ本体の径方向外側へ向けた各切れ刃の突出高さが、ブローチ本体の後側へ向かうに従い増大させられている。これらの外径上がり刃は、被削材に歯溝(捩れ溝)を形成するとともに、歯溝を歯丈方向(ブローチ本体の径方向外側)に追い込み切削する。
【0005】
また、複数の歯厚上がり刃は、外径上がり刃によって形成された歯溝の一対の歯面(周方向を向く一対の壁面)を、歯厚方向(ブローチ本体の周方向、歯溝の溝幅方向)に追い込み切削する。
具体的には、例えば、複数の歯厚上がり刃のうち、前側に位置する歯厚上がり刃は、歯溝の周方向一方側の歯面を追い込み切削する。また、後側に位置する歯厚上がり刃は、歯溝の周方向他方側の歯面を追い込み切削する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この種のヘリカルブローチでは、ブローチ本体がワークに対して周方向に回転しながら前方移動することで、ワークに捩れ溝を形成する。このため、歯厚上がり刃で歯溝の一対の歯面をそれぞれ追い込み切削するときに、周方向一方側の歯面と周方向他方側の歯面とで、切削量にばらつきが生じやすかった。
【0008】
本発明は、歯厚上がり刃で歯溝の歯面を切削するときに、切削量にばらつきが生じにくく、高精度な切削が可能なヘリカルブローチを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの態様は、中心軸を中心として軸方向に延びるブローチ本体と、前記ブローチ本体の外周面に配置され、径方向外側へ向けて突出する複数の切れ刃と、を備え、前記複数の切れ刃が、軸方向へ向かうに従い周方向に向けて捩れて配列されたヘリカルブローチであって、前記複数の切れ刃は、環状をなすワークの内周部の歯溝を、径方向外側に追い込み切削する複数の外径上がり刃と、前記外径上がり刃よりも軸方向の後側に配置され、前記歯溝の周方向を向く歯面を追い込み切削する複数の歯厚上がり刃と、を含み、前記複数の外径上がり刃のうち少なくとも1つは、前記歯溝の径方向外側の端部にガイド溝を切削し、前記歯厚上がり刃は、前記ガイド溝の内面に摺動するガイド部を有する。
【0010】
本発明では、歯厚上がり刃がガイド部を有しており、このガイド部は、外径上がり刃が歯溝に切削したガイド溝の内面と摺動する。ガイド部によって、歯厚上がり刃の切削時の位置決めを行うことができる。このため、歯厚上がり刃で歯溝の歯面を切削するときに、切削量にばらつきが生じることを抑制できる。本発明のヘリカルブローチによれば、精度の高いブローチ加工が可能である。
【0011】
前記ヘリカルブローチにおいて、前記ガイド部は、前記ガイド溝の内面のうち、径方向内側を向く端面に摺動する上ガイド面と、前記ガイド溝の内面のうち、周方向を向く側面に摺動する横ガイド面と、を有することが好ましい。
【0012】
この場合、ガイド部の上ガイド面がガイド溝の端面に摺動することで、歯厚上がり刃の径方向の位置決めを精度よく行うことができる。また、ガイド部の横ガイド面がガイド溝の側面に摺動することで、歯厚上がり刃の周方向の位置決めを精度よく行うことができる。歯厚上がり刃によって、より精度の高い安定した切削加工を行うことが可能である。
【0013】
前記ヘリカルブローチにおいて、前記横ガイド面は、前記ガイド部に一対設けられ、一対の前記横ガイド面は、周方向において互いに反対方向を向くことが好ましい。
【0014】
この場合、ガイド部の一対の横ガイド面が、ガイド溝の一対の側面に、それぞれ摺動する。すなわち、歯厚上がり刃の周方向一方側の位置決めと、周方向他方側の位置決めとを、両方ともに行うことができる。このため、歯厚上がり刃による切削精度が、より安定して高められる。
【0015】
前記ヘリカルブローチにおいて、前記横ガイド面は、第1ガイド面を有し、前記第1ガイド面は、前記歯厚上がり刃を前側から見て、前記ガイド部の周方向の中心を通り径方向に延びる中心線との間の周方向の距離が、軸方向の後側へ向かうに従い大きくなることが好ましい。
【0016】
この場合、ガイド部がガイド溝内を軸方向の前側へ進むにつれ、第1ガイド面が、ガイド溝の側面に近づいていき、徐々に摺動させられる。上記構成によれば、歯厚上がり刃がワークに切り込む際に、歯厚上がり刃のすくい面と第1ガイド面とが接続される稜線部が、意図せずに切れ刃として作用しガイド溝の側面近傍を切削してしまうような不具合を抑制できる。このため、歯厚上がり刃による歯溝の加工精度がより安定して高められる。
【0017】
前記ヘリカルブローチにおいて、前記横ガイド面は、第2ガイド面を有し、前記第2ガイド面は、前記歯厚上がり刃を前側から見て、前記ガイド部の周方向の中心を通り径方向に延びる中心線に対する傾斜角が、軸方向の後側へ向かうに従い小さくなり、かつ、軸方向の後側へ向かうに従い前記側面との接触面積が大きくなることが好ましい。
【0018】
この場合、ガイド部がガイド溝内を軸方向の前側へ進むにつれ、第2ガイド面が、ガイド溝の側面に近づいていき、徐々に摺動させられる。上記構成によれば、歯厚上がり刃がワークに切り込む際に、歯厚上がり刃のすくい面と第2ガイド面とが接続される稜線部が、意図せずに切れ刃として作用しガイド溝の側面近傍を切削してしまうような不具合を抑制できる。このため、歯厚上がり刃による歯溝の加工精度がより安定して高められる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の前記態様のヘリカルブローチによれば、歯厚上がり刃で歯溝の歯面を切削するときに、切削量にばらつきが生じにくく、高精度な切削が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本実施形態のヘリカルブローチを示す側面図である。
【
図2】
図2は、外径上がり刃によってワークに切削される歯溝の形状、及び、本実施形態の歯厚上がり刃の形状を概略的に示す前面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の歯厚上がり刃を示す前面図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の歯厚上がり刃を示す斜視図であり、詳しくは、歯溝の周方向一方側の歯面を切削する歯厚上がり刃を表す。
【
図5】
図5は、本実施形態の歯厚上がり刃を示す斜視図であり、詳しくは、歯溝の周方向他方側の歯面を切削する歯厚上がり刃を表す。
【
図6】
図6は、本実施形態の歯厚上がり刃の他の例を示す斜視図であり、詳しくは、歯溝の周方向一方側の歯面及び周方向他方側の歯面を切削する歯厚上がり刃を表す。
【
図7】
図7は、外径上がり刃によってワークに切削される歯溝の形状、及び、本実施形態の第1変形例の歯厚上がり刃の形状を概略的に示す前面図である。
【
図8】
図8は、本実施形態の第1変形例の歯厚上がり刃を示す前面図である。
【
図9】
図9は、本実施形態の第1変形例の歯厚上がり刃を示す斜視図である。
【
図10】
図10は、外径上がり刃によってワークに切削される歯溝の形状、及び、本実施形態の第2変形例の歯厚上がり刃の形状を概略的に示す前面図である。
【
図11】
図11は、本実施形態の第2変形例の歯厚上がり刃を示す前面図である。
【
図12】
図12は、本実施形態の第2変形例の歯厚上がり刃を示す斜視図である。
【
図13】
図13は、外径上がり刃によってワークに切削される歯溝の形状、及び、従来の歯厚上がり刃の形状を概略的に示す前面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の一実施形態のヘリカルブローチ10について、
図1~
図6を参照して説明する。
本実施形態のヘリカルブローチ10は、金属製等の環状をなすワーク(被削材)の下孔の内周部に、ヘリカル内歯車(はすばの内歯車)等の捩れ溝加工を施す切削工具である。特に図示しないが、ワークは、例えば筒状やリング状等である。
【0022】
ヘリカルブローチ10は、例えば、自動変速機用のプラネタリーインターナルギア等の高精度が要求される製品の切削加工に用いられる。ヘリカルブローチ10は、一回の切削により、ワークに対して荒加工から仕上げ加工までを行うことができる。
【0023】
図1に示すように、ヘリカルブローチ10は、中心軸Oを中心とする軸状または柱状をなすブローチ本体1と、前掴み部2と、後掴み部3と、刃部4と、を備える。
【0024】
〔方向の定義〕
本実施形態では、ブローチ本体1の中心軸Oが延びる方向を、軸方向と呼ぶ。
図1において、軸方向は、矢印Fが示す方向に相当する。軸方向のうち、切削時にワークに対してブローチ本体1が移動させられる向き(+F側)を、前側または工具送り方向と呼び、これとは反対の方向(-F側)を、後側または反工具送り方向と呼ぶ。
【0025】
中心軸Oと直交する方向を径方向と呼ぶ。各図において、径方向は、矢印Yが示す方向に相当する。径方向のうち、ブローチ本体1の中心軸Oに接近する向き(-Y側)を径方向内側と呼び、ブローチ本体1の中心軸Oから離れる向き(+Y側)を径方向外側と呼ぶ。
【0026】
中心軸O回りに周回する方向を周方向と呼ぶ。各図において、周方向は、矢印θが示す方向に相当する。本実施形態では、周方向のうち+θ側を周方向一方側と呼び、-θ側を周方向他方側と呼ぶ。
【0027】
〔ブローチ本体〕
ブローチ本体1は、例えば高速度工具鋼等の硬質材料からなる金属製である。
図1に示すように、ブローチ本体1は、軸方向に延びる。本実施形態ではブローチ本体1が、組立型である。具体的に、ブローチ本体1は、中心軸Oを中心とする多段柱状の本体部と、本体部の一部(後述する小径部分1A)に嵌合するシェル8と、シェル8の後側に配置され、本体部の一部に嵌合するロックナット9と、を有する。
【0028】
ブローチ本体1の本体部は、大径部分1Cと、大径部分1Cよりも小径とされ、大径部分1Cよりも後側に配置される小径部分1Aと、を有する。大径部分1Cと小径部分1Aとは、一体に形成されている。小径部分1Aの外周面には、この外周面から径方向外側に突出するキー1Bが設けられる。キー1Bは、小径部分1Aの前端部に配置される。
【0029】
シェル8は、中心軸Oを中心とする円筒状である。シェル8の内部には、小径部分1Aが嵌め入れられる。シェル8の前端面は、大径部分1Cの後端面と接触する。シェル8は、キー溝8Aを有する。キー溝8Aは、シェル8の前端部に配置される。キー溝8Aは、シェル8の前端面から後側に窪む凹状であり、シェル8の周壁を径方向に貫通する。キー溝8Aは、キー1Bと嵌め合わされる。
【0030】
ロックナット9は、中心軸Oを中心とするリング状である。ロックナット9の内部には、小径部分1Aが嵌め入れられる。ロックナット9は、シェル8の後端面に、後側から接触する。ロックナット9は、シェル8を前側に押し付けた状態で、ネジ等の締結部材により小径部分1Aに固定される。これにより、シェル8は、大径部分1Cとロックナット9との間で軸方向の両側から挟まれ、ブローチ本体1の本体部に固定される。また、ロックナット9は小径部分1Aに着脱可能とされており、シェル8も小径部分1Aに着脱可能とされる。
【0031】
〔前掴み部、後掴み部〕
前掴み部2及び後掴み部3は、ヘリカルブローチ10を図示しないブローチ盤に取り付けるための部分である。前掴み部2は、ブローチ本体1の前端部に配置される。後掴み部3は、ブローチ本体1の後端部に配置される。ヘリカルブローチ10を使用する際には、ワークに形成された下孔にブローチ本体1を挿通した状態で、前掴み部2及び後掴み部3が、それぞれブローチ盤に固定される。
【0032】
〔刃部〕
刃部4は、ブローチ本体1のうち、軸方向において前掴み部2と後掴み部3との間に位置する中間部分(すなわち、ブローチ本体1の軸方向の両端部間に位置する部分)に配置される。
【0033】
刃部4は、複数の切れ刃6,7を有する。すなわち、ヘリカルブローチ10は、複数の切れ刃6,7を備える。複数の切れ刃6,7は、ブローチ本体1の外周面に配置され、径方向外側へ向けて突出する。複数の切れ刃6,7は、軸方向へ向かうに従い周方向に向けて捩れて配列されている。
【0034】
具体的に、複数の切れ刃6,7は、軸方向の後側(-F側)へ向かうに従い周方向他方側(-θ側)に向けて捩れる螺旋状をなすように、かつ互いに間隔をあけて配列されている。
図1に、切れ刃6,7の配列方向(リード)を、符号Lで概略的に示す。また、このような螺旋状の切れ刃6,7の列が、周方向に互いに間隔をあけて、複数列設けられている。
【0035】
切削加工時においてヘリカルブローチ10は、ワークの下孔に挿入され、ブローチ本体1の外周面に配列する切れ刃6,7の配列方向(リード)Lに沿うように、ワークに対して工具送り方向(+F側)へ送られつつ、周方向一方側(+θ側)に回転させられる。
【0036】
この際、刃部4はその前端からワークの下孔内に挿入されていき、複数の切れ刃6,7がこの下孔の内周部に順次切り込むことで、ワークの内周部には、螺旋状の歯溝が周方向に互いに間隔をあけて複数形成される。これによりヘリカルブローチ10は、ワークの下孔の内周部に、ヘリカル内歯車(はすばの内歯車)等の捩れ溝加工を施す。
【0037】
図1及び
図2に示すように、複数の切れ刃6,7は、ワークの内周部の歯溝Gを、径方向外側(+Y側)に追い込み切削する複数の外径上がり刃(荒刃)6と、外径上がり刃6よりも軸方向の後側(-F側)に配置され、歯溝Gの周方向を向く歯面A,Bを追い込み切削する複数の歯厚上がり刃(仕上げ刃)7と、を含む。なお刃部4には、ワークの下孔の最内周部分(小径部)を切削する丸刃がさらに備えられていてもよい。丸刃は、例えば、刃部4の軸方向の中央部よりも後側に複数配置される。
【0038】
図1に示すように、外径上がり刃6は、刃部4のうち前側部分に配置されている。本実施形態では外径上がり刃6が、大径部分1Cの外周面に配置される。複数の外径上がり刃6は、ブローチ本体1の径方向外側へ向けた各切れ刃の突出高さが、軸方向の後側へ向かうに従い徐々に増大させられている。これらの外径上がり刃6は、ワークに歯溝Gを形成するとともに、この歯溝Gを歯丈方向(ブローチ本体1の径方向外側、
図2においては+Y側)に追い込み切削する。
【0039】
外径上がり刃6によって切削されたワークの歯溝Gは、その一対の歯面A,Bが、外径上がり刃6の配列方向(リード)Lに沿って形成される。また、後述する歯厚上がり刃7によって切削される歯面A,Bも、歯厚上がり刃7の配列方向Lに沿って形成される。すなわち、切れ刃6,7の配列方向Lと、これら切れ刃6,7によって切削されるワークの歯面A,Bとは、互いに平行とされる。
外径上がり刃6によって切削されたワークの歯溝Gの形状を、
図2に破線として表す。
【0040】
複数の外径上がり刃6のうち少なくとも1つは、歯溝Gの径方向外側の端部にガイド溝Dを切削する。具体的には、複数の外径上がり刃6のうち、軸方向の後側に配置される1つ以上の外径上がり刃6が、ワークにガイド溝Dを切削する。なお、
図2に符号Cで示す一点鎖線は、歯溝Gのガイド溝Dの周方向(矢印θ方向)の中心を通り径方向(矢印Y方向)に延びる中心線Cを表す。
【0041】
ガイド溝Dは、ガイド溝Dの内面のうち周方向を向く一対の側面Da,Dbと、ガイド溝Dの内面のうち径方向内側(-Y側)を向く端面Dcと、を有する。具体的に、一対の側面Da,Dbのうち周方向一方側(+θ側)に配置される一方の側面Daは、周方向他方側(-θ側)を向く壁面である。また、一対の側面Da,Dbのうち周方向他方側(-θ側)に配置される他方の側面Dbは、周方向一方側(+θ側)を向く壁面である。
【0042】
本実施形態では、一対の側面Da,Dbが、互いに略平行である。なお、一対の側面Da,Dbは、径方向外側(+Y側)へ向かうに従い、周方向において互いの間の距離が小さくされていたり、あるいは大きくされていたりしてもよい。
【0043】
図1に示すように、歯厚上がり刃7は、刃部4のうち後側部分に配置されている。本実施形態では歯厚上がり刃7が、シェル8の外周面に配置される。複数の歯厚上がり刃7は、外径上がり刃6によって形成された
図2に示す歯溝Gの一対の歯面A,Bを、歯厚方向(ブローチ本体1の周方向、歯溝Gの溝幅方向)に追い込み切削する。
【0044】
詳しくは、複数の歯厚上がり刃7のうち、前側に位置する歯厚上がり刃7(一方の歯厚上がり刃7A)が、歯溝Gの周方向一方側(+θ側)の歯面(例えば鋭角側歯面)Aを追い込み切削する。また、歯面Aを追い込み切削する歯厚上がり刃7よりも後側に位置する歯厚上がり刃7(他方の歯厚上がり刃7B)が、歯溝Gの周方向他方側(-θ側)の歯面(例えば鈍角側歯面)Bを追い込み切削する。すなわち、本実施形態の歯厚上がり刃7は、歯溝Gの一対の歯面A,Bを、片方ずつ順番に追い込み切削する。
【0045】
なお、上記鋭角側歯面とは、ワークの内周部を径方向内側から見て、歯溝Gの一対の歯面A,Bのうち、刃部4が挿入されるワークの入口側の端面に対して、鋭角に交差する歯面Aを指す。また、上記鈍角側歯面とは、ワークの内周部を径方向内側から見て、歯溝Gの一対の歯面A,Bのうち、ワークの入口側の端面に対して、鈍角に交差する歯面Bを指す。
【0046】
図3~
図5に示すように、歯厚上がり刃7は、工具送り方向(+F側)を向くすくい面11と、周方向一方側(+θ側)または周方向他方側(-θ側)を向く逃げ面12と、すくい面11と逃げ面12とが接続される稜線部に配置される切削刃13と、歯厚上がり刃7の径方向外側(+Y側)の端部に配置されるガイド部14と、を有する。
なお、
図3及び
図4は、周方向一方側の歯面Aを切削する一方の歯厚上がり刃7Aを表しており、
図5は、周方向他方側の歯面Bを切削する他方の歯厚上がり刃7Bを表している。
【0047】
一方の歯厚上がり刃7Aの逃げ面12は、周方向一方側の歯面Aと対向する。一方の歯厚上がり刃7Aの切削刃13は、周方向一方側の歯面Aを切削する。
他方の歯厚上がり刃7Bの逃げ面12は、周方向他方側の歯面Bと対向する。他方の歯厚上がり刃7Bの切削刃13は、周方向他方側の歯面Bを切削する。
【0048】
図2に示すように、ガイド部14は、ガイド溝D内に挿入され、ガイド溝Dの内面に摺動する。ガイド部14は、歯厚上がり刃7の配列方向Lに沿って延びるリブ状をなす(
図4及び
図5を参照)。
図2及び
図3に示すように、ガイド部14の周方向の中心を通り径方向に延びる中心線Cは、歯溝Gのガイド溝Dの中心線Cと一致する。
【0049】
図2~
図5に示すように、ガイド部14は、ガイド溝Dの内面のうち端面Dcに摺動する上ガイド面14cと、ガイド溝Dの内面のうち側面Da,Dbに摺動する横ガイド面14a,14bと、を有する。
【0050】
上ガイド面14cは、ガイド部14の径方向外側を向く頂面に配置される。また、横ガイド面14a,14bは、ガイド部14の周方向を向く壁面に配置される。上ガイド面14c及び横ガイド面14a,14bは、それぞれ、歯厚上がり刃7の配列方向Lに沿って延びる。本実施形態では、上ガイド面14c及び横ガイド面14a,14bが、それぞれ、略平面状をなす。
【0051】
横ガイド面14a,14bは、ガイド部14に一対設けられる。一対の横ガイド面14a,14bは、周方向において互いに反対方向を向く。
【0052】
具体的に、一対の横ガイド面14a,14bのうち、周方向一方側(+θ側)に位置する一方の横ガイド面14aは、周方向一方側を向く壁面である。一方の横ガイド面14aは、ガイド溝Dの周方向一方側の側面Daと摺動する。一対の横ガイド面14a,14bのうち、周方向他方側(-θ側)に位置する他方の横ガイド面14bは、周方向他方側を向く壁面である。他方の横ガイド面14bは、ガイド溝Dの周方向他方側の側面Dbと摺動する。
【0053】
本実施形態では、一対の横ガイド面14a,14bが、互いに略平行である。なお、一対の横ガイド面14a,14bは、一対の側面Da,Dbの形状に応じて、径方向外側(+Y側)へ向かうに従い、周方向において互いの間の距離が小さくされていたり、あるいは大きくされていたりしてもよい。
【0054】
ここで、
図6は、本実施形態の歯厚上がり刃7の他の例を示す。
図6に示す例では、歯厚上がり刃7が、すくい面11と、一対の逃げ面12と、一対の切削刃13と、ガイド部14と、を有する。この他の例の歯厚上がり刃7は、歯溝Gの一対の歯面A,Bを、両方ともに追い込み切削する。
本実施形態においては、前述の歯厚上がり刃7A,7Bとともに、またはこれらに代えて、
図6に示す両刃の歯厚上がり刃7を用いることとしてもよい。
【0055】
〔本実施形態による作用効果〕
以上説明した本実施形態のヘリカルブローチ10では、歯厚上がり刃7がガイド部14を有しており、このガイド部14は、外径上がり刃6が歯溝Gに切削したガイド溝Dの内面と摺動する。ガイド部14によって、歯厚上がり刃7の切削時の位置決めを行うことができる。このため、歯厚上がり刃7で歯溝Gの歯面A,Bを切削するときに、切削量にばらつきが生じることを抑制できる。本実施形態のヘリカルブローチ10によれば、精度の高いブローチ加工が可能である。
【0056】
ここで、
図13は、外径上がり刃によってワークに切削される歯溝Gの形状、及び、従来の歯厚上がり刃107の形状を概略的に示す前面図である。従来の歯厚上がり刃107は、本実施形態の歯厚上がり刃7と異なり、ガイド溝Dの内面に摺動するガイド部14を有していない。このため、従来のヘリカルブローチでは、本実施形態と同様の作用効果を得ることはできなかった。
【0057】
また本実施形態では、
図2に示すように、ガイド部14が、ガイド溝Dの内面のうち、径方向内側(-Y側)を向く端面Dcに摺動する上ガイド面14cと、ガイド溝Dの内面のうち、周方向(矢印θ方向)を向く側面Da,Dbに摺動する横ガイド面14a,14bと、を有する。
この場合、ガイド部14の上ガイド面14cがガイド溝Dの端面Dcに摺動することで、歯厚上がり刃7の径方向(矢印Y方向)の位置決めを精度よく行うことができる。また、ガイド部14の横ガイド面14a,14bがガイド溝Dの側面Da,Dbに摺動することで、歯厚上がり刃7の周方向の位置決めを精度よく行うことができる。歯厚上がり刃7によって、より精度の高い安定した切削加工を行うことが可能である。
【0058】
また本実施形態では、ガイド部14に、周方向において互いに反対方向を向く一対の横ガイド面14a,14bが設けられており、一対の横ガイド面14a,14bは、ガイド溝Dの一対の側面Da,Dbに、それぞれ摺動させられる。これにより、歯厚上がり刃7の周方向一方側(+θ側)の位置決めと、周方向他方側(-θ側)の位置決めとを、両方ともに行うことができる。このため、歯厚上がり刃7による切削精度が、より安定して高められる。
【0059】
〔本発明に含まれるその他の構成〕
本発明は前述の実施形態に限定されず、例えば下記に説明するように、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成の変更等が可能である。なお、変形例の図示においては、前述の実施形態と同じ構成要素には同一の符号を付し、下記では主に異なる点について説明する。
【0060】
図7~
図9は、前述の実施形態で説明したヘリカルブローチ10の歯厚上がり刃7の第1変形例を示す。この第1変形例では、歯厚上がり刃7の横ガイド面14a,14bが、第1ガイド面15と、第2ガイド面16と、を有する。図示の例では、一対の横ガイド面14a,14bが、それぞれ、第1ガイド面15と、第2ガイド面16と、を有する。
【0061】
第1ガイド面15と第2ガイド面16とは、径方向(矢印Y方向)の位置が互いに異なる。図示の例では、第1ガイド面15が、横ガイド面14a,14bのうち、径方向外側(+Y側)の部分に配置される。また、第2ガイド面16が、横ガイド面14a,14bのうち、径方向内側(-Y側)の部分に配置される。
【0062】
第1ガイド面15は、
図7及び
図8に示すように歯厚上がり刃7を前側から見て、ガイド部14の周方向(矢印θ方向)の中心を通り径方向に延びる中心線Cとの間の周方向の距離が、軸方向の後側へ向かうに従い大きくなる(
図9を参照)。すなわち、第1ガイド面15は、径方向外側(+Y側)から見て、歯厚上がり刃7の配列方向Lに対して傾斜して延びる。一対の横ガイド面14a,14bの各第1ガイド面15同士は、軸方向の後側へ向かうに従い、互いの周方向の間の距離が大きくなる。
【0063】
また、第2ガイド面16は、その軸方向の全長にわたって、中心線Cとの間の周方向の距離が一定である。すなわち、第2ガイド面16は、径方向外側(+Y側)から見て、歯厚上がり刃7の配列方向Lと平行に延びる。
【0064】
この第1変形例では、ガイド部14がガイド溝D内を軸方向の前側(+F側)へ進むにつれ、第1ガイド面15が、ガイド溝Dの側面Da,Dbに近づいていき、徐々に摺動させられる。そして、ガイド部14の軸方向の後端部がガイド溝Dを通過する際には、
図2に示すように、横ガイド面14a,14bの全体、すなわち第1ガイド面15及び第2ガイド面16が、ガイド溝Dの側面Da,Dbに摺動する。
【0065】
上記第1変形例によれば、歯厚上がり刃7がワークに切り込む際に、歯厚上がり刃7のすくい面11と第1ガイド面15とが接続される稜線部が、意図せずに切れ刃として作用しガイド溝Dの側面Da,Db近傍を切削してしまうような不具合を抑制できる。このため、歯厚上がり刃7による歯溝Gの加工精度がより安定して高められる。
【0066】
図10~
図12は、前述の実施形態で説明したヘリカルブローチ10の歯厚上がり刃7の第2変形例を示す。この第2変形例においても、歯厚上がり刃7の横ガイド面14a,14bは、第1ガイド面15と、第2ガイド面16と、を有する。
【0067】
第2変形例では、第2ガイド面16が、
図11に示すように歯厚上がり刃7を前側から見て、中心線Cに対する傾斜角αが軸方向の後側へ向かうに従い小さくなる。
図10及び
図12に示すように、第2ガイド面16は、軸方向の後側へ向かうに従い、ガイド溝Dの側面Da,Dbとの接触面積が大きくなる。
【0068】
この第2変形例では、ガイド部14がガイド溝D内を軸方向の前側(+F側)へ進むにつれ、第2ガイド面16が、ガイド溝Dの側面Da,Dbに近づいていき、徐々に摺動させられる。そして、ガイド部14の軸方向の後端部がガイド溝Dを通過する際には、
図2に示すように、横ガイド面14a,14bの全体、すなわち第1ガイド面15及び第2ガイド面16が、ガイド溝Dの側面Da,Dbに摺動する。
【0069】
上記第2変形例によれば、歯厚上がり刃7がワークに切り込む際に、歯厚上がり刃7のすくい面11と第2ガイド面16とが接続される稜線部が、意図せずに切れ刃として作用しガイド溝Dの側面Da,Db近傍を切削してしまうような不具合を抑制できる。このため、歯厚上がり刃7による歯溝Gの加工精度がより安定して高められる。
【0070】
また、前述の実施形態では、ブローチ本体1が組立型である例を挙げたが、これに限らない。ブローチ本体1は、本体部とシェル8とが一体に形成された一体型であってもよい。ただし、ブローチ本体1が組立型の場合には、本体部に対してシェル8が移動しやすくなり歯厚上がり刃7の位置決め精度がより要求されることから、本発明による効果がより格別顕著なものとなる。
【0071】
本発明は、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態及び変形例等で説明した各構成を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態等によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のヘリカルブローチによれば、歯厚上がり刃で歯溝の歯面を切削するときに、切削量にばらつきが生じにくく、高精度な切削が可能である。したがって、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0073】
1…ブローチ本体
6…外径上がり刃(切れ刃)
7…歯厚上がり刃(切れ刃)
7A…一方の歯厚上がり刃
7B…他方の歯厚上がり刃
10…ヘリカルブローチ
14…ガイド部
14a,14b…横ガイド面
14c…上ガイド面
15…第1ガイド面
16…第2ガイド面
A,B…歯面
C…中心線
D…ガイド溝
Da,Db…側面
Dc…端面
G…歯溝
O…中心軸
α…傾斜角