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特開2023-148401セラミック電子部品およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148401
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】セラミック電子部品およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
H01G4/30 201C
H01G4/30 201D
H01G4/30 311D
H01G4/30 513
H01G4/30 516
H01G4/30 517
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056392
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】松岡 亜友美
【テーマコード(参考)】
5E001
5E082
【Fターム(参考)】
5E001AB03
5E001AC09
5E001AC10
5E001AE01
5E001AE02
5E001AE03
5E001AE04
5E001AF06
5E001AH01
5E001AH03
5E001AJ01
5E082AA01
5E082AB03
5E082BC33
5E082EE04
5E082EE23
5E082EE35
5E082EE37
5E082FF05
5E082FG04
5E082FG26
5E082FG46
5E082GG10
5E082GG11
5E082GG28
5E082JJ03
5E082JJ12
5E082JJ23
5E082PP09
(57)【要約】
【課題】 絶縁性を維持しつつクラックの発生を抑制することができるセラミック電子部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 複数の誘電体層と、主成分金属と当該主成分金属よりも低融点の添加金属を含む内部電極層とが交互に積層され、第1端面と第2端面とに複数の内部電極層が交互に露出するように形成された積層チップと、第1端面および第2端面に設けられた外部電極と、を備え、第1端面に対して露出する内部電極層は、第1内部電極層および第2内部電極層を含み、積層方向の中央部では、第2内部電極層が幅bで第1端面に露出し、第2内部電極層よりも積層方向の上部および下部では第1内部電極層が幅aで第1端面に露出し、幅bに対する幅aの比であるa/b比は0.3以上、0.8以下であり、第1内部電極層および第2内部電極層の総積層数dに対する第1内部電極層の総積層数cの比であるc/d比は、0.1を上回る。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層と、主成分金属と当該主成分金属よりも低融点の添加金属を含む複数の内部電極層とが交互に積層され、略直方体形状を有し、前記略直方体形状の対向する第1端面と第2端面とに前記複数の内部電極層が交互に露出するように形成された積層チップと、
前記第1端面および前記第2端面に設けられた外部電極と、を備え、
前記第1端面に対して露出する内部電極層は、第1内部電極層および第2内部電極層を含み、
積層方向の中央部では、前記第2内部電極層が幅bで前記第1端面に露出し、前記第2内部電極層よりも積層方向の上部および下部では前記第1内部電極層が幅aで前記第1端面に露出し、
幅bに対する幅aの比であるa/b比は0.3以上、0.8以下であり、
前記第1内部電極層および前記第2内部電極層の総積層数dに対する前記第1内部電極層の総積層数cの比であるc/d比は、0.1を上回ることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項2】
前記第1内部電極層は、前記幅bを有する大幅部と、前記幅aを有する小幅部とを有し、前記小幅部によって前記第1端面に露出することを特徴とする請求項1に記載のセラミック電子部品。
【請求項3】
前記第2内部電極層よりも積層方向の上部の前記第1内部電極層の積層数c1と、前記第2内部電極層よりも積層方向の下部の前記第1内部電極層の積層数c2とが同じであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のセラミック電子部品。
【請求項4】
複数の誘電体層と、主成分金属と当該主成分金属よりも低融点の添加金属を含む複数の内部電極層とが交互に積層され、略直方体形状を有し、前記略直方体形状の対向する第1端面と第2端面とに前記複数の内部電極層が交互に露出するように形成された積層チップと、
前記第1端面および前記第2端面に設けられた外部電極と、を備え、
前記第1端面に対して露出する内部電極層は、第1内部電極層、第2内部電極層、および第3内部電極層を含み、
積層方向の中央部では前記第2内部電極層が幅bで前記第1端面に露出し、前記第2内部電極層よりも積層方向の上部および下部では前記第1内部電極層が幅aで前記第1端面に露出し、前記第1内部電極層と前記第2内部電極層との間では前記第3内部電極層が幅aと幅bとの間の幅で露出し、幅bに対する幅aの比であるa/b比は0.3以上、0.8以下であり、前記第1内部電極層、前記第2内部電極層、および前記第3内部電極層の総積層数dに対する、前記第1内部電極層および前記第3内部電極層の総積層数eの比であるe/d比は、0.2を上回ることを特徴とするセラミック電子部品。
【請求項5】
前記第2内部電極層から前記第1内部電極層に向かって、隣り合う内部電極層の幅の低下率は、5%~30%の範囲であることを特徴とする請求項4に記載のセラミック電子部品。
【請求項6】
前記第2内部電極層よりも積層方向の上部の前記第1内部電極層および前記第3内部電極層の積層数e1と、前記第2内部電極層よりも積層方向の下部の前記第1内部電極層および前記第3内部電極層の積層数e2とが同じであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のセラミック電子部品。
【請求項7】
前記第1内部電極層は、前記幅bを有する大幅部と、前記幅aを有する小幅部とを有し、当該小幅部によって前記第1端面に露出し、
前記第3内部電極層は、前記幅bを有する大幅部と、前記幅aと前記幅bとの間の幅を有する小幅部とを有し、当該小幅部によって前記第1端面に露出することを特徴とする請求項4から請求項6のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項8】
前記主成分金属に対する前記添加金属の量は、0.1at%以上、3.0at%以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項9】
前記添加金属は、Sn、Zn、Al、In、Au、およびGeの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項10】
前記外部電極において、前記第1端面に接する層は、Cuを主成分とすることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載のセラミック電子部品。
【請求項11】
誘電体グリーンシートと、主成分金属と当該主成分金属よりも低融点の添加金属を含む内部電極層用の内部電極パターンと、を交互に積層して略直方体形状のセラミック積層体を形成し、前記セラミック積層体の対向する第1端面と第2端面とに、積層された前記内部電極パターンを交互に露出させる工程と、
前記セラミックの積層体の焼成時または焼成後に、前記第1端面および前記第2端面に外部電極を形成する工程と、を含み、
前記第1端面に対して露出する内部電極層は、第1内部電極層および第2内部電極層を含み、
積層方向の中央部では、前記第2内部電極層が幅bで前記第1端面に露出し、前記第2内部電極層よりも積層方向の上部および下部では前記第1内部電極層が幅aで前記第1端面に露出し、
幅bに対する幅aの比であるa/b比は0.3以上、0.8以下であり、
前記第1内部電極層および前記第2内部電極層の総積層数dに対する前記第1内部電極層の総積層数cの比であるc/d比は、0.1を上回ることを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【請求項12】
誘電体グリーンシートと、主成分金属と当該主成分金属よりも低融点の添加金属を含む内部電極層用の内部電極パターンと、を交互に積層して略直方体形状のセラミック積層体を形成し、前記セラミック積層体の対向する第1端面と第2端面とに、積層された前記内部電極パターンを交互に露出させる工程と、
前記セラミックの積層体の焼成時または焼成後に、前記第1端面および前記第2端面に外部電極を形成する工程と、を含み、
前記第1端面に対して露出する内部電極層は、第1内部電極層、第2内部電極層、および第3内部電極層を含み、
積層方向の中央部では前記第2内部電極層が幅bで前記第1端面に露出し、前記第2内部電極層よりも積層方向の上部および下部では前記第1内部電極層が幅aで前記第1端面に露出し、前記第1内部電極層と前記第2内部電極層との間では前記第3内部電極層が幅aと幅bとの間の幅で露出し、幅bに対する幅aの比であるa/b比は0.3以上、0.8以下であり、前記第1内部電極層、前記第2内部電極層、および前記第3内部電極層の総積層数dに対する、前記第1内部電極層および前記第3内部電極層の総積層数eの比であるe/d比は、0.2を上回ることを特徴とするセラミック電子部品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック電子部品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話を代表とする高周波通信用システムにおいて、更なる機能性付与のために、小型大容量の積層セラミックコンデンサが求められている。小型大容量化のためには、誘電体層および内部電極層を薄層化し、積層数を増やすことが有効である。しかしながら、誘電体層を薄層化することでコンデンサ使用時の電界強度が増加し、絶縁信頼性の面で不利となってしまう。そこで、薄い誘電体層での絶縁信頼性を担保するための方策として、Snなどの異種金属元素である添加金属を内部電極層に添加し、絶縁性を確保することが検討されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2015/016309号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、内部電極層に添加金属として低融点金属を添加すると、添加金属と外部電極との相互拡散により外部電極から内部電極層への金属成分の拡散が増え、これによる内部電極層の膨張で外部電極付近にクラックを誘発してしまう問題が生じる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、絶縁性を維持しつつクラックの発生を抑制することができる積層セラミック電子部品およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るセラミック電子部品は、複数の誘電体層と、主成分金属と当該主成分金属よりも低融点の添加金属を含む複数の内部電極層とが交互に積層され、略直方体形状を有し、前記略直方体形状の対向する第1端面と第2端面とに前記複数の内部電極層が交互に露出するように形成された積層チップと、前記第1端面および前記第2端面に設けられた外部電極と、を備え、前記第1端面に対して露出する内部電極層は、第1内部電極層および第2内部電極層を含み、積層方向の中央部では、前記第2内部電極層が幅bで前記第1端面に露出し、前記第2内部電極層よりも積層方向の上部および下部では前記第1内部電極層が幅aで前記第1端面に露出し、幅bに対する幅aの比であるa/b比は0.3以上、0.8以下であり、前記第1内部電極層および前記第2内部電極層の総積層数dに対する前記第1内部電極層の総積層数cの比であるc/d比は、0.1を上回ることを特徴とする。
【0007】
上記セラミック電子部品において、前記第1内部電極層は、前記幅bを有する大幅部と、前記幅aを有する小幅部とを有し、前記小幅部によって前記第1端面に露出してもよい。
【0008】
上記セラミック電子部品において、前記第2内部電極層よりも積層方向の上部の前記第1内部電極層の積層数c1と、前記第2内部電極層よりも積層方向の下部の前記第1内部電極層の積層数c2とが同じであってもよい。
【0009】
本発明に係る他のセラミック電子部品は、複数の誘電体層と、主成分金属と当該主成分金属よりも低融点の添加金属を含む複数の内部電極層とが交互に積層され、略直方体形状を有し、前記略直方体形状の対向する第1端面と第2端面とに前記複数の内部電極層が交互に露出するように形成された積層チップと、前記第1端面および前記第2端面に設けられた外部電極と、を備え、前記第1端面に対して露出する内部電極層は、第1内部電極層、第2内部電極層、および第3内部電極層を含み、積層方向の中央部では前記第2内部電極層が幅bで前記第1端面に露出し、前記第2内部電極層よりも積層方向の上部および下部では前記第1内部電極層が幅aで前記第1端面に露出し、前記第1内部電極層と前記第2内部電極層との間では前記第3内部電極層が幅aと幅bとの間の幅で露出し、幅bに対する幅aの比であるa/b比は0.3以上、0.8以下であり、前記第1内部電極層、前記第2内部電極層、および前記第3内部電極層の総積層数dに対する、前記第1内部電極層および前記第3内部電極層の総積層数eの比であるe/d比は、0.2を上回ることを特徴とする。
【0010】
上記セラミック電子部品において、前記第2内部電極層から前記第1内部電極層に向かって、隣り合う内部電極層の幅の低下率は、5%~30%の範囲であってもよい。
【0011】
上記セラミック電子部品において、前記第2内部電極層よりも積層方向の上部の前記第1内部電極層および前記第3内部電極層の積層数e1と、前記第2内部電極層よりも積層方向の下部の前記第1内部電極層および前記第3内部電極層の積層数e2とが同じであってもよい。
【0012】
上記セラミック電子部品において、前記第1内部電極層は、前記幅bを有する大幅部と、前記幅aを有する小幅部とを有し、当該小幅部によって前記第1端面に露出し、前記第3内部電極層は、前記幅bを有する大幅部と、前記幅aと前記幅bとの間の幅を有する小幅部とを有し、当該小幅部によって前記第1端面に露出してもよい。
【0013】
上記セラミック電子部品において、前記主成分金属に対する前記添加金属の量は、0.1at%以上、3.0at%以下であってもよい。
【0014】
上記セラミック電子部品において、前記添加金属は、Sn、Zn、Al、In、Au、およびGeの少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0015】
上記セラミック電子部品の前記外部電極において、前記第1端面に接する層は、Cuを主成分としてもよい。
【0016】
本発明に係るセラミック電子部品の製造方法は、誘電体グリーンシートと、主成分金属と当該主成分金属よりも低融点の添加金属を含む内部電極層用の内部電極パターンと、を交互に積層して略直方体形状のセラミック積層体を形成し、前記セラミック積層体の対向する第1端面と第2端面とに、積層された前記内部電極パターンを交互に露出させる工程と、前記セラミックの積層体の焼成時または焼成後に、前記第1端面および前記2端面に外部電極を形成する工程と、を含み、前記第1端面に対して露出する内部電極層は、第1内部電極層および第2内部電極層を含み、積層方向の中央部では、前記第2内部電極層が幅bで前記第1端面に露出し、前記第2内部電極層よりも積層方向の上部および下部では前記第1内部電極層が幅aで前記第1端面に露出し、幅bに対する幅aの比であるa/b比は0.3以上、0.8以下であり、前記第1内部電極層および前記第2内部電極層の総積層数dに対する前記第1内部電極層の総積層数cの比であるc/d比は、0.1を上回ることを特徴とする。
【0017】
本発明に係る他のセラミック電子部品の製造方法は、誘電体グリーンシートと、主成分金属と当該主成分金属よりも低融点の添加金属を含む内部電極層用の内部電極パターンと、を交互に積層して略直方体形状のセラミック積層体を形成し、前記セラミック積層体の対向する第1端面と第2端面とに、積層された前記内部電極パターンを交互に露出させる工程と、前記セラミックの積層体の焼成時または焼成後に、前記第1端面および前記2端面に外部電極を形成する工程と、を含み、前記第1端面に対して露出する内部電極層は、第1内部電極層、第2内部電極層、および第3内部電極層を含み、積層方向の中央部では前記第2内部電極層が幅bで前記第1端面に露出し、前記第2内部電極層よりも積層方向の上部および下部では前記第1内部電極層が幅aで前記第1端面に露出し、前記第1内部電極層と前記第2内部電極層との間では前記第3内部電極層が幅aと幅bとの間の幅で露出し、幅bに対する幅aの比であるa/b比は0.3以上、0.8以下であり、前記第1内部電極層、前記第2内部電極層、および前記第3内部電極層の総積層数dに対する、前記第1内部電極層および前記第3内部電極層の総積層数eの比であるe/d比は、0.2を上回ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、絶縁性を維持しつつクラックの発生を抑制することができる積層セラミック電子部品およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】積層セラミックコンデンサの部分断面斜視図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3図1のB-B線断面図である。
図4】外部電極の拡大断面図である。
図5】(a)および(b)はクラックを例示する図である。
図6】外部電極を透過して積層チップの第1端面を見た場合の透過図である。
図7】(a)は第2内部電極層をZ軸方向から見た場合の透過図であり、(b)は第1内部電極層をZ軸方向から見た場合の透過図である。
図8】外部電極を透過して積層チップの第1端面を見た場合の透過図である。
図9】外部電極を透過して積層チップの第1端面を見た場合の透過図である。
図10】第3内部電極層をZ軸方向から見た場合の透過図である。
図11】積層セラミックコンデンサの製造方法のフローを例示する図である。
図12】(a)および(b)は積層工程を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0021】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の部分断面斜視図である。図2は、図1のA-A線断面図である。図3は、図1のB-B線断面図である。図1図3で例示するように、積層セラミックコンデンサ100は、略直方体形状を有する積層チップ10と、積層チップ10のいずれかの対向する2端面に設けられた外部電極20a,20bと、を備える。なお、積層チップ10の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。外部電極20a,20bは、積層チップ10の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、外部電極20aと外部電極20bとは、互いに離間している。
【0022】
なお、図1図3において、X軸方向は、積層チップ10の長さ方向であって、積層チップ10の2端面が対向する方向であり、外部電極20aと外部電極20bとが対向する方向である。Y軸方向は、内部電極層の幅方向であり、積層チップ10の4側面のうち2端面以外の2側面が対向する方向である。Z軸方向は、積層方向であり、積層チップ10の上面と下面とが対向する方向である。X軸方向と、Y軸方向と、Z軸方向とは、互いに直交している。
【0023】
積層チップ10は、誘電体として機能するセラミック材料を含む誘電体層11と、金属を主成分とする内部電極層12とが、交互に積層された構成を有する。言い換えると、積層チップ10は、互いに対向する複数の内部電極層12と、複数の内部電極層12の間に各々挟まれた誘電体層11と、を備えている。各内部電極層12が延伸される方向の端縁は、積層チップ10の外部電極20aが設けられた第1端面と、外部電極20bが設けられた第2端面とに対して、交互に露出している。外部電極20aに接続される内部電極層12は、外部電極20bには接続されていない。外部電極20bに接続される内部電極層12は、外部電極20aには接続されていない。したがって、各内部電極層12が、外部電極20aと外部電極20bとに、交互に導通する。また、誘電体層11と内部電極層12との積層体において、積層方向の最上層には内部電極層12が配置され、積層方向の最下層にも内部電極層12が配置され、当該積層体の上面および下面は、カバー層13によって覆われている。カバー層13は、セラミック材料を主成分とする。例えば、カバー層13は、誘電体層11と組成が同じであっても、異なっていても構わない。
【0024】
積層セラミックコンデンサ100のサイズは、例えば、長さ0.25mm、幅0.125mm、高さ0.125mmであり、または長さ0.4mm、幅0.2mm、高さ0.2mm、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.3mmであり、または長さ0.6mm、幅0.3mm、高さ0.110mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mmであり、または長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.1mmであり、または長さ3.2mm、幅1.6mm、高さ1.6mmであり、または長さ4.5mm、幅3.2mm、高さ2.5mmであるが、これらのサイズに限定されるものではない。
【0025】
誘電体層11は、例えば、一般式ABOで表されるペロブスカイト構造を有するセラミック材料を主相とする。なお、当該ペロブスカイト構造は、化学量論組成から外れたABO3-αを含む。例えば、当該セラミック材料として、BaTiO(チタン酸バリウム),CaZrO(ジルコン酸カルシウム),CaTiO(チタン酸カルシウム),SrTiO(チタン酸ストロンチウム),MgTiO(チタン酸マグネシウム),ペロブスカイト構造を形成するBa1-x-yCaSrTi1-zZr(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1)等のうち少なくとも1つから選択して用いることができる。Ba1-x-yCaSrTi1-zZrは、チタン酸バリウムストロンチウム、チタン酸バリウムカルシウム、ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸カルシウムおよびチタン酸ジルコン酸バリウムカルシウムなどである。
【0026】
誘電体層11には、添加物が添加されていてもよい。誘電体層11への添加物として、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含むガラスが挙げられる。
【0027】
内部電極層12は、Ni,銅(Cu),スズ(Sn)等の卑金属を主成分とする。内部電極層12の主成分として、白金(Pt),パラジウム(Pd),銀(Ag),金(Au)などの貴金属やこれらを含む合金を用いてもよい。内部電極層12は、主成分の金属よりも低融点の添加金属を異種金属元素として含んでいる。
【0028】
図2で例示するように、外部電極20aに接続された内部電極層12と外部電極20bに接続された内部電極層12とが対向する領域は、積層セラミックコンデンサ100において静電容量を生じる領域である。そこで、当該静電容量を生じる領域を、容量部14と称する。すなわち、容量部14は、異なる外部電極に接続された隣接する内部電極層同士が対向する領域である。
【0029】
外部電極20aに接続された内部電極層12同士が、外部電極20bに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域を、第1エンドマージン15aと称する。また、外部電極20bに接続された内部電極層12同士が、外部電極20aに接続された内部電極層12を介さずに対向する領域は、第2エンドマージン15bである。すなわち、エンドマージンは、同じ外部電極に接続された内部電極層が異なる外部電極に接続された内部電極層を介さずに対向する領域である。第1エンドマージン15aおよび第2エンドマージン15bは、静電容量を生じない領域である。第1エンドマージン15aおよび第2エンドマージン15bは、容量部14の誘電体層11と同じ組成であってもよく、異なる組成であってもよい。
【0030】
図3で例示するように、積層チップ10において、積層チップ10の2側面から内部電極層12に至るまでの領域をサイドマージン16と称する。すなわち、サイドマージン16は、上記積層構造において積層された複数の内部電極層12が2側面側に延びた端部を覆うように設けられた領域である。サイドマージン16も、静電容量を生じない領域である。サイドマージン16は、容量部14の誘電体層11と同じ組成であってもよく、異なる組成であってもよい。
【0031】
図4は、外部電極20a付近の拡大断面図である。図4では、ハッチを省略している。図4で例示するように、外部電極20aは、下地層21上に、めっき層22が設けられた構造を有している。下地層21は、Ni、Cuなどを主成分とする。下地層21は、BaTiOなどのセラミック粒子を共材として含んでいてもよく、ガラス成分を含んでいてもよい。めっき層22は、Cu、Ni、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、Snなどの金属またはこれらの2以上の合金を主成分とする。めっき層22は、単一金属成分のめっき層でもよく、互いに異なる金属成分の複数のめっき層でもよい。例えば、めっき層22は、下地層21側から順に、第1めっき層23、第2めっき層24および第3めっき層25が形成された構造を有する。第1めっき層23は、例えば、Cuめっき層である。第2めっき層24は、例えば、Niめっき層である。第3めっき層25は、例えば、Snめっき層である。なお、図4では、外部電極20aについて例示しているが、外部電極20bも同様の積層構造を有する。
【0032】
本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100においては、内部電極層12は、主成分の金属に加えて、当該主成分の金属よりも低融点の添加金属を含んでいる。添加金属は、例えば、Sn、Zn、Al、インジウム(In)、Au、ゲルマニウム(Ge)などである。この添加金属は、内部電極層12と誘電体層11との間に偏析し、電気的障壁を形成する。それにより、誘電体層11の絶縁性が向上する。しかしながら、内部電極層12に低融点の添加金属が添加されていると、相互拡散により、外部電極20a,20bから内部電極層12への拡散量が増える。
【0033】
この場合、図5(a)で例示するように、外部電極20a付近における内部電極層12の膨張により、クラック40が発生するおそれがある。また、外部電極20b付近における内部電極層12の膨張により、クラック40が発生するおそれがある。
【0034】
図5(b)は、各内部電極層12がY軸方向に同一の幅を有すると仮定した場合の、YZ平面における第1エンドマージン15aの断面図である。図5(b)で例示するように、クラック40は、YZ断面において、各角部に発生し得る。第2エンドマージン15bにおいても、YZ断面の各角部にクラック40が発生し得る。
【0035】
そこで、本実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100は、絶縁性を維持しつつ、各角部におけるクラックの発生を抑制することができる構成を有している。
【0036】
図6は、外部電極20aを透過して積層チップ10の第1端面を見た場合の透過図である。図6で例示するように、第1端面に露出する内部電極層12は、第1内部電極層12aと第2内部電極層12bとを含んでいる。第1内部電極層12aは積層方向の上部および下部に配置され、第2内部電極層12bは積層方向の中央部に配置されている。積層チップ10の第1端面において、第2内部電極層12bのY軸方向の幅が広く、第1内部電極層12aのY軸方向の幅が狭くなっている。
【0037】
図7(a)は、第2内部電極層12bをZ軸方向から見た場合の透過図である。図7(a)で例示するように、第2内部電極層12bは、Y軸方向に幅bを有している。したがって、図6で例示するように、第2内部電極層12bは、積層チップ10の第1端面に対して幅bを有して露出する。
【0038】
図7(b)は、第1内部電極層12aをZ軸方向から見た場合の透過図である。図7(b)で例示するように、第1内部電極層12aは、Y軸方向に大きい幅を有する大幅部121と、大幅部121よりもY軸方向に小さい幅を有する小幅部122とを有し、小幅部122を介して外部電極20aと接続されている。したがって、第1内部電極層12aは、積層チップ10の第1端面に対して幅aを有して露出する。小幅部122は、X軸方向において大幅部121よりも短くなっている。例えば、X軸方向において、大幅部121および容量部14の長さが一致し、小幅部122および第1エンドマージン15aの長さが一致する。なお、第1内部電極層12aは、必ずしも大幅部121を有していなくてもよい。
【0039】
図6で例示するように、第2内部電極層12bよりも積層方向の上部における第1内部電極層12aの積層数を積層数c1とする。第2内部電極層12bよりも積層方向の下部における第1内部電極層12aの積層数を積層数c2とする。第1内部電極層12aの合計の積層数を積層数c=c1+c2とする。積層数c1と積層数c2とは、同数であることが好ましいが、異なっていてもよい。また、積層チップ10内において、内部電極層12の総積層数を積層数dとする。
【0040】
本実施形態においては、積層方向の上部および下部の第1内部電極層12aが小幅部122を有することから、外部電極20aから第1内部電極層12aへの金属成分の拡散量を低減することができる。それにより、クラックの発生を抑制することができる。また、第1エンドマージン15aのYZ断面において、積層チップ10の各角部と第1内部電極層12aのY軸方向における端部との距離が長くなる。それにより、角部におけるクラックの発生を抑制することができる。すなわち、図6で説明すると、第1内部電極層12aの左右の端部と各角部との距離をより長くすることができると言える。また、第1内部電極層12aから外部電極20aへの添加金属の拡散量を低減することができる。それにより、添加金属の効果が十分に得られ、誘電体層11の絶縁性が向上し、積層セラミックコンデンサ100の寿命を延ばすことができる。
【0041】
小幅部122がY軸方向に十分に小さい幅を有していないと、外部電極20aからの金属成分の拡散量を十分に低減できず、また第1エンドマージン15aのYZ断面において積層チップ10の各角部と第1内部電極層12aとの距離が十分に長くならず、クラックが発生するおそれがある。そこで、幅bに対する幅aの比率であるa/b比に上限を設ける。本実施形態においては、a/b比は、0.8以下であり、0.6以下であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
【0042】
小幅部122のY軸方向の幅が小さすぎると、第1内部電極層12aと外部電極20aとが十分に接触せず、十分な静電容量が得られないおそれがある。そこで、a/b比に下限を設ける。本実施形態においては、a/b比は、0.3以上であり、0.4以上であることが好ましく、0.6以上であることがより好ましい。
【0043】
また、第1内部電極層12aの積層数が少ないと、十分にクラック発生を抑制できないおそれがある。そこで、本実施形態においては、総積層数dに対する積層数cの比であるc/d比に下限を設ける。本実施形態においては、c/d比は0.1を上回り、0.2以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。なお、接触確保の観点から、c/d比は1でも構わないが、1未満であることが好ましく、0.5以下であることがより好ましい。
【0044】
内部電極層12における添加金属量が少ないと、誘電体層11が十分な絶縁性を実現しないおそれがある。そこで、内部電極層12における添加金属量に下限を設けることが好ましい。例えば、内部電極層12において、主成分金属を100at%と仮定した場合に、添加金属の濃度を0.1at%以上とすることが好ましく、0.3at%以上とすることがより好ましく、1.0at%以上とすることがさらに好ましい。
【0045】
内部電極層12における添加金属量が多いと、誘電体側への拡散が大きくなり、誘電特性を大きく変化させるおそれがある。そこで、内部電極層12における添加金属量に上限を設けることが好ましい。例えば、内部電極層12において、主成分金属を100at%と仮定した場合に、添加金属の濃度を3.0at%以下とすることが好ましく、1.5at%以下とすることがより好ましく、1.0at%以下とすることがさらに好ましい。
【0046】
積層チップ10の第1端面において、第1内部電極層12aは、幅aを有して露出しているが、誤差が生じる場合がある。例えば、積層チップ10の第1端面において、各第1内部電極層12aの幅aは、平均値に対して±5%の誤差が生じる場合がある。また、積層チップ10の第1端面において、第2内部電極層12bは、幅bを有して露出しているが、誤差が生じる場合がある。例えば、積層チップ10の第1端面において、各第2内部電極層12bの幅bは、平均値に対して±5%の誤差が生じる場合がある。
【0047】
図6図7(b)では外部電極20a側について説明したが、外部電極20b側でも、各内部電極層が同様の構造を有していてもよい。
【0048】
(第2実施形態)
第1実施形態では、一部の内部電極層12が第1内部電極層12aであったが、それに限られない。第2実施形態では、第1実施形態と異なる点について説明する。
【0049】
図8は、外部電極20aを透過して積層チップ10の第1端面を見た場合の透過図である。図8で例示するように、全ての内部電極層12が第1内部電極層12aとなっている。したがって、本実施形態においては、第1内部電極層12aの合計の積層数である積層数cが総積層数dと一致する。すなわち、c/d比が1.0となる。この構成では、積層チップ10の第1端面に露出する全ての内部電極層が小幅部122を有することになるため、外部電極20aから第1内部電極層12aへの金属成分の拡散量を低減することができる。それにより、クラックの発生を抑制することができる。また、第1エンドマージン15aのYZ断面において、積層チップ10の各角部と、積層チップ10の第1端面に露出する全ての第1内部電極層12aとの距離が長くなる。それにより、クラックの発生をより効果的に抑制することができる。また、第1内部電極層12aから外部電極20aへの添加金属の拡散量を低減することができる。それにより、添加金属の効果が十分に得られ、誘電体層11の絶縁性が向上し、積層セラミックコンデンサ100の寿命を延ばすことができる。
【0050】
図8では外部電極20a側について説明したが、外部電極20b側でも、各内部電極層が同様の構造を有していてもよい。
【0051】
(第3実施形態)
第3実施形態では、第1実施形態と異なる点について説明する。本実施形態においては、積層チップ10の第1端面に露出する内部電極層12は、第1内部電極層12a、第2内部電極層12bに加えて、第3内部電極層12cを含んでいる。
【0052】
図9は、外部電極20aを透過して積層チップ10の第1端面を見た場合の透過図である。図9で例示するように、本実施形態においては、第1実施形態と同様に、第1内部電極層12aは積層方向の上部および下部に配置され、第2内部電極層12bは積層方向の中央部に配置されている。ただし、第1内部電極層12aと第2内部電極層12bとの間に、1層または複数層の第3内部電極層12cが配置されている。
【0053】
第3内部電極層12cは、図10で例示するように、図7(b)で例示した第1内部電極層12aと同様に、大幅部121および小幅部122を備えている。しかしながら、小幅部122のY軸方向の幅が幅aよりも広く、幅bよりも狭くなっている。したがって、積層チップ10の第1端面において、第3内部電極層12cは、幅aよりも広く幅bよりも狭い幅で露出している。なお、第3内部電極層12cは、必ずしも大幅部121を有していなくてもよい。
【0054】
積層チップ10の第1端面において、2層以上の第3内部電極層12cが連続する場合には、積層方向外側に向かってY軸方向の幅が1層ごとに徐々に狭くなっている。例えば、最上層の第2内部電極層12bから当該第2内部電極層12bよりも上側の第1内部電極層12aに向かって、隣り合う2層の内部電極層12の幅の1層ごとの低下率は、5%~30%の範囲となっており、または8%~25%の範囲となっており、または10%~20%の範囲となっている。最下層の第2内部電極層12bから当該第2内部電極層12bよりも下側の第1内部電極層12aに向かって、隣り合う2層の内部電極層12の幅の1層ごとの低下率も、5%~30%の範囲となっており、または8%~25%の範囲となっており、または10%~20%の範囲となっている。
【0055】
本実施形態においては、図9で例示するように、最上層の第2内部電極層12bよりも上側において、第3内部電極層12cおよび第1内部電極層12aの合計積層数を積層数e1とする。最下層の第2内部電極層12bよりも下側において、第3内部電極層12cおよび第1内部電極層12aの合計積層数を積層数e2とする。第3内部電極層12cおよび第1内部電極層12aの合計の積層数を積層数e=e1+e2とする。積層数e1と積層数e2とは、同数であることが好ましいが、異なっていてもよい。
【0056】
本実施形態においては、積層方向の上部および下部の第1内部電極層12aおよび第3内部電極層12cが小幅部122を有することから、外部電極20aから第1内部電極層12aおよび第3内部電極層12cへの金属成分の拡散量を低減することができる。それにより、クラックの発生を抑制することができる。また、第1エンドマージン15aのYZ断面において、積層チップ10の各角部と、第1内部電極層12aおよび第3内部電極層12cとの距離が長くなる。それにより、角部におけるクラックの発生を抑制することができる。また、第1内部電極層12aおよび第3内部電極層12cから外部電極20aへの添加金属の拡散量を低減することができる。それにより、添加金属の効果が十分に得られ、誘電体層11の絶縁性が向上し、積層セラミックコンデンサ100の寿命を延ばすことができる。
【0057】
積層数eが少ないと、十分にクラック発生を抑制できないおそれがある。そこで、本実施形態においては、総積層数dに対する積層数eの比であるe/d比に下限を設ける。本実施形態においては、e/d比は0.2を上回り、0.25以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。
【0058】
図9および図10では外部電極20a側について説明したが、外部電極20b側でも、各内部電極層が同様の構造を有していてもよい。
【0059】
続いて、第1実施形態~第3実施形態に係る積層セラミックコンデンサ100の製造方法について説明する。図11は、積層セラミックコンデンサ100の製造方法のフローを例示する図である。
【0060】
(原料粉末作製工程)
まず、誘電体層11を形成するための誘電体材料を用意する。誘電体層11に含まれるAサイト元素およびBサイト元素は、通常はABOの粒子の焼結体の形で誘電体層11に含まれる。例えば、BaTiOは、ペロブスカイト構造を有する正方晶化合物であって、高い誘電率を示す。このBaTiOは、一般的に、二酸化チタンなどのチタン原料と炭酸バリウムなどのバリウム原料とを反応させてチタン酸バリウムを合成することで得ることができる。誘電体層11の主成分セラミックの合成方法としては、従来種々の方法が知られており、例えば固相法、ゾル-ゲル法、水熱法等が知られている。本実施形態においては、これらのいずれも採用することができる。
【0061】
得られたセラミック粉末に、目的に応じて所定の添加化合物を添加する。添加化合物としては、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、希土類元素(イットリウム(Y)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)およびイッテルビウム(Yb))の酸化物、または、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、リチウム(Li)、ホウ素(B)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)もしくはケイ素(Si)を含む酸化物、または、Co、Ni、Li、B、Na、KもしくはSiを含むガラスが挙げられる。これらのうち、主としてSiOが焼結助剤として機能する。
【0062】
例えば、セラミック原料粉末に添加化合物を含む化合物を湿式混合し、乾燥および粉砕してセラミック材料を調製する。例えば、上記のようにして得られたセラミック材料について、必要に応じて粉砕処理して粒径を調節し、あるいは分級処理と組み合わせることで粒径を整えてもよい。以上の工程により、誘電体材料が得られる。
【0063】
(積層工程)
次に、得られた原料粉末に、ポリビニルブチラール(PVB)樹脂等のバインダと、エタノール、トルエン等の有機溶剤と、可塑剤とを加えて湿式混合する。得られたスラリを使用して、例えばダイコータ法やドクターブレード法により、基材51上に誘電体グリーンシート52を塗工して乾燥させる。基材51は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。
【0064】
次に、図12(a)で例示するように、誘電体グリーンシート52上に、内部電極パターン53を成膜する。図12(a)では、一例として、誘電体グリーンシート52上に4層の内部電極パターン53が所定の間隔を空けて成膜されている。内部電極パターン53が成膜された誘電体グリーンシート52を、積層単位とする。
【0065】
内部電極パターン53には、内部電極層12の主成分金属の金属ペーストを用いる。成膜の手法は、印刷、スパッタ、蒸着などであってもよい。なお、各内部電極パターン53の形状は、第1内部電極層12a、第2内部電極層12b、および第3内部電極層12cに対応させる。第1内部電極層12aに対応する内部電極パターン53については、第1内部電極層12aの形状になるように印刷してもよく、第1内部電極層12aの形状になるようにマスクを用いて成膜してもよい。第3内部電極層12cに対応する内部電極パターン53については、第3内部電極層12cの形状になるように印刷してもよく、第3内部電極層12cの形状になるようにマスクを用いて成膜してもよい。
【0066】
次に、誘電体グリーンシート52を基材51から剥がしつつ、図12(b)で例示するように、積層単位を積層する。
【0067】
次に、積層単位が積層されることで得られた積層体の上下にカバーシート54を所定数(例えば2~10層)だけ積層して熱圧着させ、所定チップ寸法(例えば1.0mm×0.5mm)にカットする。図12(b)の例では、点線に沿ってカットする。カバーシート54は、誘電体グリーンシート52と同じ成分であってもよく、添加物が異なっていてもよい。
【0068】
(塗布工程)
このようにして得られたセラミック積層体を、N雰囲気で脱バインダ処理した後に、外部電極20a,20bの下地層21となる金属ペーストをディップ法などで塗布する。金属ペーストには、共材を含ませる。例えば、金属ペーストは、積層体において、内部電極パターン53が露出する2端面に塗布する。
【0069】
(焼成工程)
その後、酸素分圧10-5~10-8atmの還元雰囲気中で1100℃~1300℃で10分~2時間焼成する。このようにして、積層チップ10と外部電極20a,20bとを同時焼成することができる。
【0070】
(再酸化処理工程)
その後、Nガス雰囲気中において600℃~1000℃で再酸化処理を行ってもよい。
【0071】
(めっき処理工程)
その後、めっき処理により、下地層21に、めっき層22を形成してもよい。それにより、積層セラミックコンデンサ100が完成する。
【0072】
なお、下地層21は、積層チップ10と同時に焼成しなくてもよい。例えば、焼成によって得られた積層チップ10の第1端面および第2端面に、外部電極20a,20bの下地層21となる金属ペーストをディップ法などで塗布する。金属ペーストには、ガラス成分を含ませる。その後、例えば700℃~900℃程度で金属ペーストを焼き付けることで、下地層21を形成する。その後にめっき層22を形成してもよい。
【0073】
なお、上記各実施形態は、セラミック電子部品の一例として積層セラミックコンデンサについて説明したが、それに限られない。例えば、上記各実施形態の構成は、バリスタやサーミスタなどの、他の積層セラミック電子部品に適用することもできる。
【実施例0074】
第1実施形態および第2実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0075】
(実施例1)
NiペーストにSnをNiに対して0.3at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。得られた積層単位の500層を積層し、カバーシートで挟んで圧着し、所定形状にカットし、成型体を得た。成型体を焼成することで積層チップを得た。積層チップの2端面にCuを主成分とする金属ペーストを塗布し、800℃前後で焼き付けた。得られた積層セラミックコンデンサは、1005形状(長さ1.0mm、幅0.5mm、高さ0.5mm)を有していた。各誘電体層の厚みは、0.6μmであった。a/b比=0.6とし、c/d比=0.2とした。したがって、実施例1の構造は、第1実施形態に対応させた。各内部電極層において、X軸方向における小幅部の長さは、X軸方向におけるエンドマージンの長さに一致させた。積層数c1は、積層数c2と同数とした。
【0076】
(実施例2)
実施例2では、NiペーストにSnをNiに対して1.0at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.6とし、c/d比=0.2とした。したがって、実施例2の構造は、第1実施形態に対応させた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0077】
(実施例3)
実施例3では、NiペーストにSnをNiに対して2.8at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.6とし、c/d比=0.2とした。したがって、実施例3の構造は、第1実施形態に対応させた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0078】
(実施例4)
実施例4では、NiペーストにSnをNiに対して1.0at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.3とし、c/d比=0.2とした。したがって、実施例4の構造は、第1実施形態に対応させた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0079】
(実施例5)
実施例5では、NiペーストにSnをNiに対して1.0at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.6とし、c/d比=1.0とした。したがって、実施例5の構造は、第2実施形態に対応させた。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0080】
(比較例1)
比較例1では、NiペーストにSnをNiに対して1.0at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.6とし、c/d比=0.05とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0081】
(比較例2)
比較例2では、NiペーストにSnをNiに対して1.0at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.9とし、c/d比=0.2とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0082】
(比較例3)
比較例3では、NiペーストにSnをNiに対して1.0at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.2とし、c/d比=0.2とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0083】
実施例1~5および比較例1~3のいずれにおいても、内部電極層と誘電体層との間に、Snの偏析層が確認された。
【0084】
(分析)
実施例1~5および比較例1~3について、信頼性試験、耐湿試験、静電容量の測定をおこなった。
【0085】
信頼性試験では、85℃下において6.3Vの電圧を1000時間および2000時間印加した後に室温で24時間放置し、その後に絶縁抵抗を評価した。絶縁抵抗値が10MΩ未満のものを故障とみなした。1000時間経過しても故障が起こらなかった場合を良好「〇」と判定し、2000時間経過しても故障が起こらなかった場合を非常に良好「◎」と判定し、1000時間未満で故障した場合を不良「×」と判定した。
【0086】
耐湿試験では、85℃-85%RHの環境で、1000時間および2000時間印加した後に室温で24時間放置し、その後に絶縁抵抗を評価した。絶縁抵抗値が10MΩ未満のものを故障とみなした。1000時間経過しても故障が起こらなかった場合を良好「〇」と判定し、2000時間経過しても故障が起こらなかった場合を非常に良好「◎」と判定し、1000時間未満で故障した場合を不良「×」と判定した。
【0087】
静電容量試験では、試料を150℃に1時間放置し、標準状態に24時間放置した後、0.5V-1kHzの条件下でLCRメータを用いて測定を行なった。測定された静電容量が20μF以上の場合を良好と判定し、20μF未満の場合を不良と判定した。
【0088】
信頼性試験、耐湿試験、および静電容量試験のいずれにおいても不良と判定されなければ、総合判定を「合格」とした。信頼性試験、耐湿試験、および静電容量試験のいずれか1つでも不良と判定されれば、総合判定を「不合格」とした。結果を表1に示す。
【0089】
表1に示すように、比較例1~3のいずれも「不合格」と判定されたものの、実施例1~5のいずれも「合格」と判定された。これは、実施例1~5は、0.3≦a/b比≦0.8の条件および0.1<c/d比の条件を満たしたために、絶縁性を維持しつつクラックの発生を抑制できたからであると考えられる。なお、比較例1,2では、クラックの発生が確認された。
【表1】
【0090】
続いて、第3実施形態に係る積層セラミックコンデンサを作製し、特性について調べた。
【0091】
(実施例6)
実施例6では、NiペーストにSnをNiに対して0.3at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.6とし、e/d比=0.3とした。積層数e1は、積層数e2と同数とした。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0092】
(実施例7)
実施例7では、NiペーストにSnをNiに対して1.0at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.6とし、e/d比=0.3とした。その他の条件は、実施例6と同様とした。
【0093】
(実施例8)
実施例8では、NiペーストにSnをNiに対して2.8at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.6とし、e/d比=0.3とした。その他の条件は、実施例6と同様とした。
【0094】
(実施例9)
実施例9では、NiペーストにSnをNiに対して1.0at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.3とし、e/d比=0.3とした。その他の条件は、実施例6と同様とした。
【0095】
(比較例4)
比較例4では、NiペーストにSnをNiに対して1.0at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.6とし、e/d比=0.2とした。その他の条件は、実施例6と同様とした。
【0096】
(比較例5)
比較例5では、NiペーストにSnをNiに対して1.0at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.9とし、e/d比=0.3とした。その他の条件は、実施例6と同様とした。
【0097】
(比較例6)
比較例6では、NiペーストにSnをNiに対して1.0at%添加し、誘電体グリーンシート上に内部電極パターンを印刷した。内部電極パターンにおいて、a/b比=0.2とし、e/d比=0.3とした。その他の条件は、実施例6と同様とした。
【0098】
実施例6~9および比較例4~6のいずれにおいても、内部電極層と誘電体層との間に、Snの偏析層が確認された。
【0099】
(分析)
実施例6~9および比較例4~6について、実施例1~5および比較例1~3と同様の信頼性試験、耐湿試験、および静電容量の測定を行なった。信頼性試験、耐湿試験、および静電容量試験の判定基準も、実施例1~5および比較例1~3と同様とした。結果を表2に示す。
【0100】
表2に示すように、比較例4~6のいずれも「不合格」と判定されたものの、実施例6~9のいずれも「合格」と判定された。これは、実施例6~9は、0.3≦a/b比≦0.8の条件および0.2<e/d比の条件を満たしたために、絶縁性を維持しつつクラックの発生を抑制できたからであると考えられる。なお、比較例4,5では、クラックの発生が確認された。
【表2】
【0101】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0102】
10 積層チップ
11 誘電体層
12 内部電極層
12a 第1内部電極層
12b 第2内部電極層
12c 第3内部電極層
13 カバー層
14 容量部
15a 第1エンドマージン
15b 第2エンドマージン
16 サイドマージン
20a,20b 外部電極
21 下地層
22 めっき層
23 第1めっき層
24 第2めっき層
25 第3めっき層
51 基材
52 誘電体グリーンシート
53 内部電極パターン
100 積層セラミックコンデンサ
121 大幅部
122 小幅部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12