(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148442
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/16 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
B23B27/16 Z
B23B27/16 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056459
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】山賀 恭介
【テーマコード(参考)】
3C046
【Fターム(参考)】
3C046EE01
3C046EE16
(57)【要約】
【課題】本発明は、切削時に工具本体に対する切削インサートの位置ずれが生じるのを抑制できる切削工具を提供する。
【解決手段】本発明の切削工具は、切削インサートは、板厚方向で互いに反対側を向く主面及び裏面と、主面および裏面の周縁同士を繋ぐ外周面と、主面と外周面との交差稜線部に設けられた切刃と、主面及び裏面に開口し板厚方向に貫通する貫通孔と、裏面に形成され工具本体に係合するインサート側係合部と、を有し、工具本体は、切削インサートの裏面が当接可能なインサート取付座と、インサート取付座の座面に開口するねじ孔と、インサート取付座に形成されインサート側係合部に係合する工具側係合部と、を有し、インサート側係合部及び工具側係合部は、互いに嵌め合い可能な凹凸形状をそれぞれ有し、前記凹凸形状は、平面視で曲線状に延びる曲線部を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削インサートと、前記切削インサートが取り付けられる工具本体と、を備える切削工具であって、
前記切削インサートは、
板厚方向で互いに反対側を向く主面及び裏面と、
前記主面および前記裏面の周縁同士を繋ぐ外周面と、
前記主面と前記外周面との交差稜線部に設けられた切刃と、
前記主面及び前記裏面に開口し前記板厚方向に貫通する貫通孔と、
前記裏面に形成され前記工具本体に係合するインサート側係合部と、を有し、
前記工具本体は、
前記切削インサートの前記裏面が当接可能なインサート取付座と、
前記インサート取付座の座面に開口するねじ孔と、
前記インサート取付座に形成され前記インサート側係合部に係合する工具側係合部と、を有し、
前記インサート側係合部及び前記工具側係合部は、互いに嵌め合い可能な凹凸形状をそれぞれ有し、前記凹凸形状は、平面視で曲線状に延びる曲線部を含む、
切削工具。
【請求項2】
前記インサート側係合部は、前記切削インサートの前記板厚方向に凹む凹形状をなし、
前記工具側係合部は、前記インサート取付座の座面から前記切削インサートへ向かって凸形状をなす、
請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記インサート側係合部及び前記工具側係合部は、湾曲方向が異なる前記曲線部をそれぞれ複数ずつ有する、
請求項1または2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記インサート側係合部及び前記工具側係合部は、3方向以上に曲がる連続した複数の直線からなり、隣り合う前記直線どうしがなす角度は、135°以上180°以下の範囲内である、
請求項1から3のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項5】
前記インサート側係合部及び前記工具側係合部は、第1方向に沿って延在する前記曲線部と、前記第1方向に交差する第2方向に沿って延在する前記曲線部と、をそれぞれ有する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記インサート側係合部及び前記工具側係合部は、互いに交わることのない複数の凹条部または複数の凸条部からなる、
請求項5に記載の切削工具。
【請求項7】
前記板厚方向に直交する断面形状において、
前記インサート側係合部及び前記工具側係合部は、
前記板厚方向の内側に最も凹む谷部と、
前記谷部の両側に位置する一対の傾斜部と、
前記一対の傾斜部のそれぞれに接続される山部と、をそれぞれ有し、
前記インサート側係合部の前記一対の傾斜部と、前記工具側係合部の前記一対の傾斜部とが接触する、
請求項1から6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記工具側係合部における前記一対の傾斜部同士のなす角度θは、100°以上160°以下の範囲内である、
請求項1から7のいずれか一項に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、刃先交換式バイトの工具本体に装着される切削加工用の切削インサートは、その着座面(裏面)を工具本体のインサート取付座に接触させた状態で工具本体に対して螺子止めされている。この際、切削インサートの着座面と工具本体のインサート取付座とが互いに平坦な面である場合、切削加工時の負荷によって工具本体に対して切削インサートがずれ動きやすく、加工精度の低下を招いてしまう。
【0003】
そこで、切削インサートの着座面と工具本体のインサート取付座とに凹凸形状をそれぞれ設けることで、工具本体に対する切削インサートのずれ動きを抑制しようとする構成が提案されている(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2014-510644号公報
【特許文献2】特表2007-522955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、直線状の溝が一方向にのみ延在する構成のため溝と平行な方向へずれやすく、特許文献2では、切削インサート側の直線状の溝と工具本体側の直線状の溝が互いに交差しており、この交差部分に切削時の荷重が集中して工具に摩耗が生じやすいという問題が生じる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、切削時に工具本体に対する切削インサートの位置ずれが生じるのを抑制できる切削工具を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る切削工具は、切削インサートと、前記切削インサートが取り付けられる工具本体と、を備える切削工具であって、前記切削インサートは、板厚方向で互いに反対側を向く主面及び裏面と、前記主面および前記裏面の周縁同士を繋ぐ外周面と、前記主面と前記外周面との交差稜線部に設けられた切刃と、前記主面及び前記裏面に開口し前記板厚方向に貫通する貫通孔と、前記裏面に形成され前記工具本体に係合するインサート側係合部と、を有し、前記工具本体は、前記切削インサートの前記裏面が当接可能なインサート取付座と、前記インサート取付座の座面に開口するねじ孔と、前記インサート取付座に形成され前記インサート側係合部に係合する工具側係合部と、を有し、前記インサート側係合部及び前記工具側係合部は、互いに嵌め合い可能な凹凸形状をそれぞれ有し、前記凹凸形状は、平面視で曲線状に延びる曲線部を含む。
【0008】
この構成によれば、インサート側係合部及び工具側係合部における平面視で曲線状に延びる曲線部によって、係合箇所に切削時の荷重が集中するのを緩和することができる。これにより長時間の使用によっても工具に摩耗が生じるのを防ぐことが可能である。また、工具本体に切削インサートを取り付けるのと同時にインサート側係合部と工具側係合部を係合させることができるので、工具本体に対する切削インサートの位置ずれを抑制することができる。
【0009】
本発明に係る切削工具において、前記インサート側係合部は、前記切削インサートの前記板厚方向に凹む凹形状をなし、前記工具側係合部は、前記インサート取付座の座面から前記切削インサートへ向かって凸形状をなす構成としてもよい。
【0010】
この構成によれば、インサート側係合部と工具側係合部との係合状態を維持することができる。
【0011】
本発明に係る切削工具において、前記インサート側係合部及び前記工具側係合部は、湾曲方向が異なる前記曲線部をそれぞれ複数ずつ有する構成としてもよい。
【0012】
この構成によれば、湾曲方向が異なる複数の曲線部を有するため、切削負荷がかかる方向とは異なる方向に延びる曲線部によって係合部同士が係止し、工具本体に対する切削インサートの位置ずれを効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明に係る切削工具において、前記インサート側係合部及び前記工具側係合部は、3方向以上に曲がる連続した複数の直線からなり、隣り合う前記直線どうしがなす角度は、135°以上180°以下の範囲内である構成としてもよい。
【0014】
この構成によれば、係合箇所に切削時の荷重が集中するのを効果的に緩和することができ、工具に摩耗等が生じるのを抑制することができる。
【0015】
本発明に係る切削工具において、前記インサート側係合部及び前記工具側係合部は、第1方向に沿って延在する前記曲線部と、前記第1方向に交差する第2方向に沿って延在する前記曲線部と、をそれぞれ有する構成としてもよい。
【0016】
この構成によれば、工具本体に対する切削インサートの第1方向及び第2方向への移動が規制されるため、切削時にかかる荷重によって、切削インサートの貫通孔(工具本体のねじ孔)の中心軸回りへの移動を効果的に抑制することが可能である。
【0017】
本発明に係る切削工具において、前記第1係合部及び前記第2係合部は、互いに交わることのない複数の凹条部または複数の凸条部からなる構成としてもよい。
【0018】
この構成によれば、各凹条部あるいは各凸条部の全体に亘って係合させることができるので、係合箇所にかかる負荷を分散させることができる。
【0019】
本発明に係る切削工具において、前記板厚方向に直交する断面形状において、前記インサート側係合部及び前記工具側係合部は、前記板厚方向の内側に最も凹む谷部と、前記谷部の両側に位置する一対の傾斜部と、前記一対の傾斜部のそれぞれに接続される山部と、をそれぞれ有し、前記インサート側係合部の前記一対の傾斜部と、前記工具側係合部の前記一対の傾斜部とが接触する構成としてもよい。
【0020】
この構成によれば、インサート側係合部と工具側係合部の各傾斜部同士が接触するため、接触面積が大きくなり、係合状態を維持できる。
【0021】
本発明に係る切削工具において、前記工具側係合部における前記一対の傾斜部同士のなす角度θは、100°以上160°以下の範囲内である構成としてもよい。
【0022】
この構成によれば、インサート側係合部と工具側係合部との係合状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の一つの態様の切削工具によれば、切削時に工具本体に対する切削インサートの位置ずれが生じるのを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、実施形態の切削工具における工具本体及び切削インサートを示す分解斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態における切削インサート1を主面側から見た斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態における切削インサート1を着座面側から見た斜視図である。
【
図4】
図4は、工具本体のインサート取付座側の構造を示す平面図である。
【
図6】
図6は、第1係合部(第2係合部)における各第1凸条部(各第2凸条部)の形状例を示す図である。
【
図7】
図7は、切削インサート1の着座面側の構造を示す平面図である。
【
図8】
図8は、
図7のVIII-VIII線に沿う断面図である。
【
図9】
図9は、実施形態の切削工具を用いた被削材に対する切削加工について示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴部分をわかりやすくするために、特徴ではない部分を便宜上省略して図示している場合がある。
【0026】
<切削工具>
図1は、本実施形態の切削工具100における工具本体10および切削インサート1を示す分解斜視図である。
本実施形態の切削工具100は、
図1に示すように、工具本体10と、工具本体10に対して着脱可能に取り付けられる切削インサート1と、を有する。
【0027】
(工具本体)
図1に示すように、工具本体10は、例えば、一方向に長さを有する角柱形状をなし、一端側にインサートポケット7を有する。なお、工具本体10の形状は角柱形状に限定されず、円柱形状など他の形状を採用してもよい。インサートポケット7には、インサート取付座8が形成されている。インサート取付座8は、切削インサート1が取り付けられる台座である。インサート取付座8は、座面8aと、座面8aに対して垂直な一対の側壁部8bと、を有する。
【0028】
座面8aは、切削インサート1の着座面3Bが当接可能な面である。座面8aは、法線方向から見た平面視形状が切削インサート1の外形に沿った形状をなし、多角形状、詳しくは四角形状、より詳しくは菱形状とされている。座面8aは、着座面3Bと略等しい面積を有するか一部が一回り小さい面積を有する。本実施形態では、座面8aの先端側半分が着座面3Bよりも一回り小さい面積で形成されている。座面8aの略中央には、ねじ孔9が形成されている。
【0029】
(切削インサート)
図2は、本実施形態における切削インサート1を主面3A側から見た斜視図である。
図3は、本実施形態における切削インサート1を着座面3B側から見た斜視図である。
【0030】
本実施形態の切削インサート1は、不図示の刃先交換式バイトの上記工具本体10に装着されて、例えば鋼材等の金属材料からなる被削材に切削加工を施すものである。
図2及び
図3に示すように、切削インサート1は、多角形板状のインサート本体2を有する。インサート本体2は、超硬合金等の硬質材料により多角形板状、詳しくは四角形板状、より詳しくは菱形板状に設けられる。
【0031】
インサート本体2は、板厚方向で互いに反対側を向く主面3Aおよび着座面(裏面)3Bと、主面3Aおよび着座面3Bの周縁同士を繋ぐ外周面3Cと、を有する。インサート本体2は、主面3Aと外周面3Cとの交差稜線部に切刃5を有する。インサート本体2の中央部には、断面円形の取付孔(貫通孔)6が形成されている。取付孔6は、インサート本体2の板厚方向に貫通している。本実施形態におけるインサート本体2は、取付孔6の中心線回りに180°回転対称な形状とされている。
【0032】
<位置ずれ防止対策>
本実施形態の切削工具100には、工具本体10に対する切削インサート1の位置ずれを防止するための対策が施されている。以下、具体的な構造について、上記
図1及び
図3を適宜参照しながら説明する。
【0033】
(工具本体側の位置ずれ防止構造)
図4は、工具本体10のインサート取付座8側の構造を示す平面図である。
図5は、
図4のV-V線に沿う断面図である。
図4に示すように、本実施形態の工具本体10は、切削インサート1が取り付けられるインサートポケット7のインサート取付座8に、切削インサート1に係合可能な工具側係合部8Aが形成されている。工具側係合部8Aは、インサート取付座8の座面8aから板厚方向外側(切削インサート1側)へ突出する凸形状をなす。
【0034】
工具側係合部8Aは、インサート取付座8のねじ孔9の周囲に形成された、一対の第1係合部81と、一対の第2係合部82と、を有する。一対の第1係合部81は、インサート取付座8の幅方向においてねじ孔9の径方向の両外側に、ねじ孔9から離れた位置にそれぞれ形成されている。一対の第2係合部82は、インサート取付座8の長さ方向(第2径方向)において上記一対の第1係合部81よりも両外側に、これら第1係合部81の両端部から離れた位置にそれぞれ形成されている。
【0035】
各第1係合部81は、インサート取付座8の座面8aから切削インサート1へ向かって凸形状をなす複数の第1凸条部(凹凸形状、凸条部)81aからなる。本実施形態では、いずれも略同形状をなす3つの第1凸条部81aからなるが、第1凸条部81aの数は3つに限らない。1つもしくは2つでもよいし、4つ以上であってもよい。各第1凸条部81aは、互いに交わることなく面方向に所定の間隔をあけて配置され、工具本体10の軸方向に沿って延在する。
【0036】
第1凸条部81aは、面方向に延在方向を変化させる、すなわち平面視で曲線状に延びる曲線形状とされ、複数の曲線部を有する。本実施形態では、
図4に示すように、少なくとも2種類の曲率が異なる第1曲線部(曲線部)a及び第2曲線部(曲線部)bを有している。
第1曲線部aは、ねじ孔9の中心軸C1側に位置する不図示の第1点を中心として、ねじ孔9の外周に倣うようにして円弧状に形成されている。第1曲線部aの中心(第1点)は、ねじ孔9の中心(中心軸C1)には一致しない。
【0037】
一対の第2曲線部bは、第1曲線部aの両側にそれぞれ接続される。各第2曲線部bは、当該第2曲線部bよりも中心軸C1とは反対側に位置する不図示の第2点を中心として、第1曲線部aとは異なる方向であって、幅方向内側へ凸状に湾曲するようにして弧状に形成されている。
【0038】
1つの第1凸条部81aにおける一対の第2曲線部bの各頂点q2は、同第1凸条部81aの第1曲線部aの頂点q1よりも、座面8aの幅方向内側に位置する。また、1つの第1凸条部81aにおける一対の第2曲線部bの各頂点q2は、座面8aの幅方向で互いに一致するとともに、ねじ孔9の中心軸C1からの距離が互いに等しい。
図4では、最も内側に位置する第1凸条部81aにおける各頂点q1、q2を例示しているが、他の第1凸条部81aにおいても同様である。
【0039】
なお、各第1凸条部81aの各第2曲線部bおよび第1曲線部aは、互いに略等しい曲率であってもよいし、互いに異なる曲率であってもよい。
【0040】
また、本実施形態では、第1凸条部81aにおいて第1曲線部aと一対の第2曲線部bとはそれぞれなだらかな曲線で接続されているが、第1曲線部aと一対の第2曲線部bとの接続箇所が直線状であってもよい。
【0041】
本実施形態の各第1凸条部81aは、上記3つの曲線部a、bからなるが、曲線部の数はこれに限定されない。また、第1係合部81及び第2係合部82の平面視形状は本実施形態に限定されない。例えば
図4に示すような3方向以上に曲がる途切れない複数の直線L1、L2、L3を含む組み合わせからなる形状としてもよい。この場合、隣り合う直線同士がなす角度は、135°以上180°以下の範囲内である。上記範囲内とすることで、係合箇所に切削時の荷重が集中して工具に摩耗が生じるのを抑制することができる。
【0042】
インサート取付座8の座面8aには、さらに一対の第2係合部82が形成されている。
各第2係合部82は、インサート取付座8の座面から切削インサート1へ向かって凸形状をなす複数の第2凸条部(凹凸形状、凸条部)82aからなる。本実施形態では、いずれも円弧形状をなす3つの第2凸条部82aからなるが、第2凸条部82aの数は3つに限らない。1つもしくは2つでもよいし、4つ以上であってもよい。各第2凸条部82aは、互いに交わることなく面方向に所定の間隔をあけて配置され、インサート取付座8の長さ方向両側に形成されている。
【0043】
これら3つの第2凸条部82aは、外側に行くほど円弧長さが長くなる相似形状をなす。3つの第2凸条部82aは、各々の円弧の中心が一致している。各第2凸条部82aは、これら第2凸条部82aよりもねじ孔9の中心軸C1側に位置する不図示の第3点を中心とした円弧形状である。
【0044】
図5に示すように、第1凸条部81aおよび第2凸条部82aは、最も突出した山部71と、最も凹んだ谷部72と、山部71と谷部72とを接続する傾斜部73と、を有する。谷部72は、座面8aの高さと略一致する。山部71は、平面もしくは曲面からなる。傾斜部73及び谷部72は平面からなる。山部71の両側に位置する一対の傾斜部73どうしがなす角度θは、100°以上160°以下の範囲内である。これにより、インサート側係合部4Aと工具側係合部8Aとの係合状態を維持することができる。
【0045】
図6は、第1係合部81(第2係合部82)における各第1凸条部81a(各第2凸条部82a)の形状例を示す図である。
図6に示す各第1凸条部81a(各第2凸条部82a)の山部71は、半径Rが1mmの曲面からなる。また、傾斜部73及び谷部72は平面からなり、一対の傾斜部73どうしがなす角度θは140.1°である。また、1つの第1凸条部81aの幅Wは4mmである。さらに、谷部72から山部71までの距離、すなわち第1凸条部81a(第2凸条部82a)の高さHは、1mmである。
【0046】
なお、
図6を用いて説明した形状や寸法は一例であって適宜変更が可能である。
また、工具側係合部8Aの平面視形状は、
図4に示した形状に限られず、適宜変更が可能である。
【0047】
(切削インサート側の位置ずれ防止構造)
図7は、切削インサート1の着座面3B側の構造を示す平面図である。
図8は、
図7のVII-VII線に沿う断面図である。
図7に示すように、本実施形態の切削インサート1は、工具本体10のインサート取付座8の座面8aに対向する着座面3Bに、工具本体10に係合可能なインサート側係合部4Aが形成されている。インサート側係合部4Aは、着座面3Bからインサート本体2の板厚方向内側(主面3A側)へ向かって凹む凹形状をなす。
【0048】
インサート側係合部4Aは、工具本体10側の工具側係合部8Aに係合する部分であって、工具本体10に切削インサート1が取り付けられた最に、互いの係合部8A、4Aどうしの凹凸形状が噛み合うようにして係合する。そのため、インサート側係合部4Aと、工具側係合部8Aの平面視における各形状は同じである。
【0049】
インサート側係合部4Aは、取付孔6の周囲に形成された一対の第1係合部41と、一対の第2係合部42と、を有する。一対の第1係合部41は、インサート本体2の幅方向において取付孔6の径方向(第1方向)の両外側に、取付孔6から僅かに離れた位置にそれぞれ形成されている。一対の第2係合部42は、インサート本体2の長さ方向(第
2方向)において上記一対の第1係合部41よりも両外側に、これら第1係合部41の両端部から僅かに離れた位置にそれぞれ形成されている。
【0050】
各一対の第1係合部41は、インサート本体2の着座面3Bから板厚方向内側(主面3A側)へ向かって凹形状をなす複数の第1凹条部(凹凸形状、凹条部)41aからなる。本実施形態では、いずれも略同形状をなす3つの第1凹条部41aからなるが、第1凹条部41aの数は3つに限らない。3つもしくは2つでもよいし、4つ以上であってもよい。各第1凹条部41aは、互いに交わることなく面方向に所定の間隔を開けて配置され、インサート本体2の長さ方向に沿って延在する。
【0051】
第1凹条部41aは、面方向に延在方向を変化させる、すなわち平面視で曲線状に延びる曲線形状とされ、複数の曲線部を有する。本実施形態では、少なくとも2種類の曲率が異なる第1曲線部(曲線部)cおよび第2曲線部(曲線部)dを有している。
第1曲線部cは、取付孔6の中心軸C2側に位置する不図示の第4点を中心として、取付孔6の外周に倣うようにして円弧状に形成されている。第1曲線部cの中心(第4点)は、取付孔6の中心(中心軸C2)には一致しない。
【0052】
一対の第2曲線部dは、第1曲線部cの両側にそれぞれ接続される。各第2曲線部dは、第1曲線部cよりも径方向外側(本実施形態では例えばインサート本体2よりも外側)に位置する不図示の第5点を中心として、第1曲線部cとは異なる方向であって、幅方向内側へ凸状に湾曲するようにして弧状に形成されている。
【0053】
1つの第1凹条部41aにおける一対の第2曲線部dの各頂点q4は、同第1凹条部41aの第1曲線部cの頂点q3よりも、インサート本体2の幅方向内側に位置する。また、1つの第1凹条部41aにおける一致の第2曲線部dの各頂点q4は、インサート本体2の幅方向で互いに一致するとともに、取付孔6の中心軸C2からの距離が互いに等しい。
図7では、最も内側に位置する第1凹条部41aにおける各頂点q3、q4を例示しているが、他の第1凹条部41aにおいて同様である。
【0054】
なお、各第1凹条部41aの各第2曲線部d及び第1曲線部cは、互いに略等しい曲率であってもよいし、互いに異なる曲率であってもよい。
【0055】
また、本実施形態では、第1凹条部41aにおいて第1曲線部cと一対の第2曲線部dとはそれぞれなだらかな曲線で接続されているが、第1曲線部cと一対の第2曲線部dとの接続箇所が直線状であってもよい。
【0056】
本実施形態の各第1凹条部41aは、上記3つの曲線部c、dからなるが、曲線部の数はこれに限定されない。また、第1係合部41及び第2係合部42の平面視形状は本実施形態に限定されない。例えば
図7に示すような3方向以上に曲がる途切れない複数の直線L11、L12、L13を含む組み合わせからなる形状としてもよい。この場合、隣り合う直線同士がなす角度は、135°以上180°以下の範囲内である。
【0057】
インサート本体2の着座面3Bには、さらに一対の第2係合部42が形成されている。
各第2係合部42は、着座面3Bから板厚方向の内側(主面3A側)へ向かって凹形状をなす複数の第2凹条部(凹凸形状、凹条部)42aからなる。本実施形態では、いずれも円弧形状をなす3つの第2凹条部42aからなるが、第2凹条部42aの数は3つに限らない。1つもしくは2つでもよいし、4つ以上であってもよい。各第2凹条部42aは、互いに交わることなく面方向に所定の間隔をあけて配置され、インサート本体2の長さ方向両側に形成されている。
【0058】
これら3つの第2凹条部42aは、外側に行くほど円弧長さが長くなる相似形状をなす。3つの第2凹条部42aは、各々の円弧の中心が一致している。各第2凹条部42aは、これら第2凹条部42aよりも取付孔6の中心軸C2側に位置する第6点を中心とした円弧形状である。
【0059】
図8に示すように、第1凹条部41aおよび第2凹条部42aは、最も凹んだ谷部52と、最も突出した山部51と、谷部52と山部51とを接続する傾斜部53と、を有する。山部51は、着座面3Bの高さと略一致する。山部51および谷部52は互いに曲率の事なる曲面からなる。山部51の曲率よりも谷部52の曲率の方が大きく、カーブが急である。山部51の両側に位置する一対の傾斜部53は平面もしくは曲面からなる。
【0060】
このような切削インサート1を工具本体10に取り付ける際には、切削インサート1の着座面3Bをインサート取付座8の座面8aに接触させると同時に、座面8a側の工具側係合部8Aを着座面3B側のインサート側係合部4Aに挿入させるようにして互いの凹凸形状を合致させ、係合させる。この状態で、切削インサート1の取付孔6内に挿入させた不図示の取付ねじを工具本体10側のねじ孔9にねじ込むことにより、工具本体10に対して切削インサート1を取り付ける。これにより、工具本体10から切削インサート1が浮き上がることを防ぐことができ、互いの係合部4A,8Aどうしの係合状態を維持できる。
【0061】
本実施形態では、切削インサート1が工具本体10に取り付けられた上記係合状態において、工具側係合部8Aにおける第1凸条部81aおよび第2凸条部82aの各傾斜部73(
図6)と、インサート側係合部4Aにおける第1凹条部41aおよび第2凹条部42aの各傾斜部53(
図8)とが接触する。このように、各係合部4A,8Aにおける各傾斜部53,73どうしが接触(当接)することによって、互いの接触面積が大きくなり係合状態を維持できる。
【0062】
また、工具側係合部8Aにおける複数の第1凸条部81aおよび複数の第2凸条部82aは、それぞれ交わることなく延在している。同じく、インサート側係合部4Aにおける第1凹条部41aおよび第2凹条部42aにおいても、それぞれ交わることなく延在している。そのため、各凸条部全体、各凹条部全体に亘って係合させることができるので、係合箇所にかかる負荷を分散させることができる。
【0063】
図9は、本実施形態の切削工具100を用いた被削材90に対する切削加工について示す模式図である。
図9に示すように、本実施形態の切削工具100を用いて被削材90に対する切削加工を施す際には、被削材90の被加工面の形状に倣って切削工具100が長軸方向及び短軸方向に適宜移動する。その際、切削インサート1には、長軸方向及び取付ねじの軸回りにかかる負荷によって、工具本体10に対してそれぞれの方向へ位置ずれが生じやすい。
【0064】
これに対して本実施形態では、工具本体10および切削インサート1のそれぞれに互いに噛み合うようにして係合する係合部8A,4Aをそれぞれ設けた構造とすることによって、工具本体10に対する切削インサート1の位置ずれを効果的に抑制することが可能である。
具体的には、係合部4A,8Aのうち、取付ねじ(取付孔6、ねじ孔9)の両側に形成された一対の第1係合部41,81によって、当該取付ねじの軸回りへの切削インサート1の回転を抑制することができる。これら一対の係合部41,81は、互いに異なる方向に湾曲した蛇行曲線とされており、湾曲方向が切り変わる位置(第1係合部81における各第1凸条部81aにおける第1曲線部aと一対の第2曲線部bとの接続位置、第2係合部82における各第1凹条部41aにおける第1曲線部cと一対の第2曲線部dとの接続位置)は、取付ねじの軸回りに沿わない形状であるため、これらの位置において係合部4A,8Aどうしが係止し、切削インサート1の軸回りへの回転が規制される。
【0065】
また、第1係合部81における3つの第1凸条部81aと、第1係合部41における3つの第1凹条部41aとは、工具本体10および切削インサート1の幅方向に並んで形成されており、それぞれの第1曲線部aおよび第1曲線部cが当該幅方向に交差する長さ方向に沿って延在している。そのため、これら第1曲線部aおよび第1曲線部c同士が係止することによって双方の係合状態が維持されて、切削インサート1の工具幅方向への移動が規制される。
【0066】
また、インサート取付座8の長さ方向両側に形成された一対の第2係合部82における各第2凸条部82aと、これに係合する切削インサート1側の一対の第2係合部42における各第2凹条部42aとは、工具本体10及び切削インサート1の長さ方向に並んで形成されており、それぞれが上記長さ方向に交差する幅方向に沿って延びている。そのため、これら第2凸条部82aと第2凹条部42aとが係止することによって、双方の係合状態が維持されて切削インサート1の工具長さ方向への移動が規制される。
【0067】
このように、本実施形態の切削工具100によれば、インサート側係合部4A及び工具側係合部8Aは、対向方向に交差する方向に延在方向を変化させる、すなわち平面視で曲線状に延びるそれぞれの曲線部によって、互いの係合箇所に切削時の荷重が集中するのを緩和することができる。これにより長時間の使用によっても工具に摩耗が生じるのを防ぐことが可能である。
【0068】
また、工具本体10に切削インサート1を取り付けるのと同時にインサート側係合部4Aと工具側係合部8Aとの凹凸を係合させることができるので、従来同様の簡単な取り付け作業で工具本体10に対する切削インサート1の位置ずれを抑制することができる。
【0069】
その他、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において、前述の実施形態、変形例およびなお書き等で説明した各構成(構成要素)を組み合わせてもよく、また、構成の付加、省略、置換、その他の変更が可能である。また本発明は、前述した実施形態によって限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0070】
例えば、切削インサート1の形状は上記実施形態に限られず、菱形以外の形状であってもよい。また、工具本体10の座面8aの平面視形状も、切削インサート1の着座面3Bの平面形状に合わせて適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0071】
1…切削インサート
3A…主面
3B…着座面(裏面)
3C…外周面
4A…インサート側係合部
5…切刃
6…取付孔(貫通孔)
8…インサート取付座
8a…座面
8A…工具側係合部
9…ねじ孔
10…工具本体
41,81…第1係合部
41a…第1凹条部(凹凸形状、凹条部)
42,82…第2係合部
42a…第2凹条部(凹凸形状、凹条部)
51,71…山部
52,72…谷部
53,73…傾斜部
81a…第1凸条部(凹凸形状、凸条部)
82a…第2凸条部(凹凸形状、凸条部)
100…切削工具
a,c…第1曲線部(曲線部)
b,d…第2曲線部(曲線部)
L1~L3,L11~L13…直線
θ…角度