(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148444
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】ガスセンサおよびセンサ素子収容ケーシング
(51)【国際特許分類】
G01N 27/409 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
G01N27/409 100
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056461
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100134991
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 和樹
(74)【代理人】
【識別番号】100148507
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 弘行
(72)【発明者】
【氏名】牧 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】片桐 康太
(72)【発明者】
【氏名】矢板 航平
(72)【発明者】
【氏名】清家 雄也
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BD04
2G004BM10
(57)【要約】
【課題】シール部材の昇温抑制と耐熱性の確保との両立が好適に図られたスペーサを備えるガスセンサを提供する。
【解決手段】被測定ガスに含まれる所定ガス成分を検知するためのガスセンサが、一方端部側に検知部を備えるセンサ素子と、センサ素子が内部に収容され固定されるケーシングと、ケーシング内部に配置されセンサ素子と外部とを電気的に接続するコネクタとを備え、ケーシングが、内部に基準ガスが存在する主部と、主部よりも縮径してなる端部である封止部とを備え、主部にセンサ素子の他方端部側が突出する外筒と、封止部に嵌め込まれて外筒を封止するゴム製のシール部材と、外筒の内部において、シール部材とコネクタとの間に介在するスペーサとを備え、スペーサが、コネクタと接触する側の端面に凹部を備え、該凹部を除く端面においてコネクタと接触する、ようにした。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガスに含まれる所定ガス成分を検知するためのガスセンサであって、
一方端部側に検知部を備えるセンサ素子と、
前記センサ素子が内部に収容され固定されるケーシングと、
前記ケーシング内部に配置され、前記センサ素子と外部とを電気的に接続するコネクタと、
を備え、
前記ケーシングが、
内部に基準ガスが存在する主部と、前記主部よりも縮径してなる端部である封止部とを備え、前記主部に前記センサ素子の他方端部側が突出する外筒と、
前記封止部に嵌め込まれて前記外筒を封止するゴム製のシール部材と、
前記外筒の内部において、前記シール部材と前記コネクタとの間に介在するセラミックス製のスペーサと、
を備え、
前記スペーサが、前記コネクタと接触する側の端面に凹部を備え、前記凹部を除く前記端面において前記コネクタと接触する、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のガスセンサであって、
前記コネクタにおける前記スペーサとの接触面の面積と、前記スペーサの前記凹部を含む前記端面全体の面積との小さい方の面積をS0とし、前記コネクタと前記スペーサとの接触面積Sをするとき、接触部分面積比S/S0について、
0.2≦S/S0≦0.7
である、ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のガスセンサであって、
前記スペーサの高さをaとし、前記凹部の深さをbとするとき、深さ比b/aについて、
0.08≦b/a≦0.6
である、ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のガスセンサであって、
前記凹部が、前記スペーサの前記端面の側からの平面視において直線状、十字状、または円形状のいずれかをなしている、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のガスセンサであって、
前記スペーサの熱伝導率が32W/m・K以下である、
ことを特徴とするガスセンサ。
【請求項6】
被測定ガスに含まれる所定ガス成分を検知する検知部を一方端部側に備えるセンサ素子と、前記センサ素子と外部とを電気的に接続するコネクタとを、前記センサ素子を内部に固定しつつ収容するケーシングであって、
内部に基準ガスが存在する主部と、前記主部よりも縮径してなる端部である封止部とを備え、前記センサ素子の他方端部側が前記主部に突出させて配置される外筒と、
前記封止部に嵌め込まれて前記外筒を封止するゴム製のシール部材と、
前記外筒の内部において、前記シール部材と前記コネクタとの間に介在するセラミックス製のスペーサと、
を備え、
前記スペーサが、前記コネクタと接触する側の端面に凹部を備え、前記凹部を除く前記端面において前記コネクタと接触する、
ことを特徴とする、センサ素子収容ケーシング。
【請求項7】
請求項6に記載のセンサ素子収容ケーシングであって、
前記コネクタにおける前記スペーサとの接触面の面積と、前記スペーサの前記凹部を含む前記端面全体の面積との小さい方の面積をS0とし、前記コネクタと前記スペーサとの接触面積Sをするとき、接触部分面積比S/S0について、
0.2≦S/S0≦0.7
である、ことを特徴とするセンサ素子収容ケーシング。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載のセンサ素子収容ケーシングであって、
前記スペーサの高さをaとし、前記凹部の深さをbとをするとき、深さ比b/aについて、
0.08≦b/a≦0.6
である、ことを特徴とするセンサ素子収容ケーシング。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれかに記載のセンサ素子収容ケーシングであって、
前記凹部が、前記スペーサの前記端面の側からの平面視において直線状、十字状、または円形状のいずれかをなしている、
ことを特徴とするセンサ素子収容ケーシング。
【請求項10】
請求項6ないし請求項9のいずれかに記載のセンサ素子収容ケーシングであって、
前記スペーサの熱伝導率が32W/m・K以下である、
ことを特徴とするセンサ素子収容ケーシング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスセンサに関し、特に、センサ素子が収容されるケーシングを封止するシール部材への伝熱抑制に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車のエンジン等の内燃機関における燃焼ガスや排気ガス等の被測定ガス中の所定ガス成分の濃度を測定する装置として、ジルコニア(ZrO2)等の酸素イオン伝導性固体電解質セラミックスを用いてセンサ素子を形成したガスセンサが公知である。
【0003】
係るガスセンサとして、酸素イオン伝導性セラミックス(例えば、イットリア安定化ジルコニア)を主たる構成材料とする長尺板状のセンサ素子(検出素子)が、金属製の筒状の収容部材(ケーシング)に収容された構成を有するものが、広く用いられている。係るガスセンサは、内燃機関の排気経路の途中に付設され、排ガスに含まれる所定ガス成分の検知および濃度の測定に使用される。
【0004】
ケーシングの一方端部は開口部となっており、該開口部にはゴム製のシール部材が嵌め込まれている。また、ケーシングの他方端部には排ガスが出入可能な保護カバーが付設されている。センサ素子は、該ケーシング内部に両端部間を気密に封止されつつ収容されている。これにより、ガスセンサにおいては、ケーシングの一方端部側においてセンサ素子の一方端部がケーシング内の基準ガス(通常は大気)に接触し、ケーシングの他方端部側においてはセンサ素子の他方端部が保護カバー内に露出して排ガスに接触するようになっている。かつ、それら基準ガスと排ガスとは、互いに接触しないようになっている。
【0005】
ゴム製のシール部材は、あらかじめ設けられてなる貫通部にセンサ素子と外部との電気的接続を図るためのリード線が挿通されたうえで、ケーシングの開口部に嵌め込まれており、係る嵌め込み箇所の側部からケーシングがシール部材ともども加締められることによって、開口部を通じた外部からの水の浸入が生じないようになっている。
【0006】
また、ガスセンサに用いられるセンサ素子には通常、酸素イオン伝導性セラミックスを加熱して活性化させるためのヒータが備わっている。そのため、ガスセンサはその使用時、内燃機関の運転に伴い生じる配管を通じた伝熱や排ガスから受ける熱のみならず、該ガスセンサ自体に備わるヒータが発生させる熱により、高温になる。それゆえ、ゴム製のシール部材には通常、耐熱性の高いフッ素ゴムなどが使用される。
【0007】
近年、内燃機関における部品取付スペースの狭小化のために、ガスセンサの短小化(短尺化)の要請が高まっている。係る要請に対し、従来のガスセンサのケーシングを短尺化することによって対応しようとすると、ケーシングの開口部を閉塞するゴム製のシール部材が、配管や配管内の排ガスなどの熱源に接近することになる。係る問題に対処することを意図したガスセンサも、すでに公知である(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示されたガスセンサにおいては、シール部材とセラミック製の接点保持部材(特許文献1においてはセパレータ)との間にマイカ断熱部材をスペーサとして挟むことによりシール部材への伝熱を抑制し、シール部材の過剰な昇温を防ぐようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されているガスセンサにおいてスペーサの材料として用いられているマイカは、層状構造の物質であるため、強度の点で懸念がある。例えば、ガスセンサが振動を受けた場合にマイカ製のスペーサが部分的に脱落することや、ガスセンサの製造途中における破損のために生産性が悪化することなどが懸念される。
【0010】
また、マイカ製のスペーサを、マイカと同程度の低い熱伝導率を有する樹脂製のものに置換することは、耐熱性の観点から困難である。
【0011】
強度および耐熱性の点からはセラミックス製のスペーサを用いることが望ましいが、セラミックス材料は低熱伝導率の点でマイカには及ばない。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、シール部材の昇温抑制と耐熱性の確保との両立が好適に図られたスペーサを備えるガスセンサを提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様は、被測定ガスに含まれる所定ガス成分を検知するためのガスセンサであって、一方端部側に検知部を備えるセンサ素子と、前記センサ素子が内部に収容され固定されるケーシングと、前記ケーシング内部に配置され、前記センサ素子と外部とを電気的に接続するコネクタと、を備え、前記ケーシングが、内部に基準ガスが存在する主部と、前記主部よりも縮径してなる端部である封止部とを備え、前記主部に前記センサ素子の他方端部側が突出する外筒と、前記封止部に嵌め込まれて前記外筒を封止するゴム製のシール部材と、前記外筒の内部において、前記シール部材と前記コネクタとの間に介在するセラミックス製のスペーサと、を備え、前記スペーサが、前記コネクタと接触する側の端面に凹部を備え、前記凹部を除く前記端面において前記コネクタと接触する、ことを特徴とする。
【0014】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係るガスセンサであって、前記コネクタにおける前記スペーサとの接触面の面積と、前記スペーサの前記凹部を含む前記端面全体の面積との小さい方の面積をS0とし、前記コネクタと前記スペーサとの接触面積Sをするとき、接触部分面積比S/S0について、0.2≦S/S0≦0.7である、ことを特徴とする。
【0015】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に係るガスセンサであって、前記スペーサの高さをaとし、前記凹部の深さをbとするとき、深さ比b/aについて0.08≦b/a≦0.6である、ことを特徴とする。
【0016】
本発明の第4の態様は、第1ないし第3の態様のいずれかに係るガスセンサであって、前記凹部が、前記スペーサの前記端面の側からの平面視において直線状、十字状、または円形状のいずれかをなしている、ことを特徴とする。
【0017】
本発明の第5の態様は、第1ないし第4の態様のいずれかに係るガスセンサであって、前記スペーサの熱伝導率が32W/m・K以下である、ことを特徴とする。
【0018】
本発明の第6の態様は、被測定ガスに含まれる所定ガス成分を検知する検知部を一方端部側に備えるセンサ素子と、前記センサ素子と外部とを電気的に接続するコネクタとを、前記センサ素子を内部に固定しつつ収容するケーシングであって、内部に基準ガスが存在する主部と、前記主部よりも縮径してなる端部である封止部とを備え、前記センサ素子の他方端部側が前記主部に突出させて配置される外筒と、前記封止部に嵌め込まれて前記外筒を封止するゴム製のシール部材と、前記外筒の内部において、前記シール部材と前記コネクタとの間に介在するセラミックス製のスペーサと、を備え、前記スペーサが、前記コネクタと接触する側の端面に凹部を備え、前記凹部を除く前記端面において前記コネクタと接触する、ことを特徴とする。
【0019】
本発明の第7の態様は、第6の態様に係るセンサ素子収容ケーシングであって、前記コネクタにおける前記スペーサとの接触面の面積と、前記スペーサの前記凹部を含む前記端面全体の面積との小さい方の面積をS0とし、前記コネクタと前記スペーサとの接触面積Sをするとき、接触部分面積比S/S0について、0.2≦S/S0≦0.7である、ことを特徴とする。
【0020】
本発明の第8の態様は、第6または第7の態様に係るセンサ素子収容ケーシングであって、前記スペーサの高さをaとし、前記凹部の深さをbとするとき、深さ比b/aについて、0.08≦b/a≦0.6である、ことを特徴とする。
【0021】
本発明の第9の態様は、第6ないし第8の態様のいずれかに係るセンサ素子収容ケーシングであって、前記凹部が、前記スペーサの前記端面の側からの平面視において直線状、十字状、または円形状のいずれかをなしている、ことを特徴とする。
【0022】
本発明の第10の態様は、第6ないし第9の態様のいずれかに係るセンサ素子収容ケーシングであって、前記スペーサの熱伝導率が32W/m・K以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の第1ないし第9の態様によれば、コネクタからスペーサさらにはシール部材への伝熱を抑制することができる。これにより、スペーサの強度を確保しつつ、シール部材の熱劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】ガスセンサ100の長手方向に沿った要部断面図である。
【
図2】凹部7bの形成例を示すスペーサ7の概観斜視図である。
【
図3】凹部7bの種々の形状を例示する平面図である。
【
図4】接触部分面積比S/S0の値が小さい場合に、ガスセンサ100の組立時に起こり得る不具合について説明するための図である。
【
図5】深さ比b/aの値が大きい場合に、ガスセンサ100の組立時に起こり得る不具合について説明するための図である。
【
図6】NOx検出用のセンサ素子10の長手方向に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<ガスセンサの構成>
図1は、本発明の実施の形態に係るガスセンサ100の(より詳細にはその本体部の)長手方向に沿った要部断面図である。より詳細には、破断線ZLよりも上方においてはガスセンサ100の断面図を示し、破断線ZLよりも下方においてはガスセンサ100の外観のみを示している。
【0026】
ガスセンサ100は、その内部に備わるセンサ素子10によって所定のガス成分(例えば、NOx等)を検出するためのものである。ガスセンサ100は概略、長尺の柱状あるいは薄板状のセンサ素子(検出素子)10が、筒状体1と、保護カバー2と、固定ボルト3と、外筒4とによって囲繞された構成を有する。筒状体1と、保護カバー2と、外筒4とは、全体として、センサ素子10を内部に収容する収容部材(ケーシング)を構成している。一方、固定ボルト3は筒状体1の外側面に環装されている。
【0027】
センサ素子10は、筒状体1、保護カバー2、固定ボルト3、および外筒4と同軸に配置されてなる。係るセンサ素子10の中心軸の延在方向を軸線方向とも称する。
図1においては、該軸線方向は図面視上下方向と一致している。
【0028】
より詳細には、センサ素子10の一方端部側(例えば
図6の第1の端部E1側)は保護カバー2に囲繞されており、他方端部側は外筒4内に突出しており、両者の間の略中央部分は、図示しないセラミックスの圧粉体やセラミックス部品により、両端部間を気密に封止する態様にて筒状体1の内部に固定されてなる。
【0029】
センサ素子10の保護カバー2に囲繞された一方端部側には、検知部(例えば、ガス導入口、内部空室、検知電極など)を備わっている。加えて、センサ素子10の素子体表面および内部には、種々の電極や配線パターンが備わっている。
【0030】
例えば、センサ素子10のある一態様においては、素子内部に導入された被測定ガスが素子内部で還元ないしは分解されて酸素イオンが発生する。このようなセンサ素子10を備えるガスセンサ100においては、素子内部を流れる酸素イオンの量が被測定ガス中における検知対象ガス成分の濃度に比例することに基づいて、当該ガス成分の濃度が求められる。
【0031】
筒状体1は、主体金具とも称される金属製の筒状部材である。筒状体1は、ガスセンサ100の外部にはほとんど露出していないが、保護カバー2の図面視上端部から外筒4の図面視下端部にわたる範囲に備わっている。筒状体1の内部には、センサ素子10と、該センサ素子10に環装されてなる固定用の部品(圧粉体やセラミックス部品)とが、収容されてなる。換言すれば、筒状体1は、センサ素子10の周りに環装された環装部品の周囲に、さらに環装されてなる。
【0032】
保護カバー2は、センサ素子10のうち、使用時に被測定ガスに直接に接触する部分である第1の端部E1側の所定範囲を保護する、略円筒状の外装部材である。保護カバー2は、筒状体1の図面視下側の端部に、溶接固定されてなる。
【0033】
保護カバー2には、気体が通過可能な複数の貫通孔Hが設けられてなる。係る貫通孔Hを通じて保護カバー2内に流入した被測定ガスが、センサ素子10における直接の検知対象となる。なお、
図1に示す貫通孔の種類、配置個数、配置位置、形状などあくまで例示であって、保護カバー2の内部への被測定ガスの流入態様を考慮して適宜に定められてよい。
【0034】
固定ボルト3は、ガスセンサ100を測定位置に固定する際に用いられる環状の部材である。固定ボルト3は、ねじ切りがされたボルト部3aと、ボルト部3aを螺合する際に保持される保持部3bとを備えている。ボルト部3aは、ガスセンサ100の取り付け位置に設けられたナットと螺合する。これにより、ガスセンサ100は、保護カバー2の側が測定対象ガスと接触する態様にて測定位置に固定される。例えば、自動車の排気管に設けられたナット部にボルト部3aが螺合されることで、ガスセンサ100は、保護カバー2の側が排気管内に露出する態様にて該排気管に固定される。
【0035】
外筒4は、その一方端部(図面視下端部)が筒状体1の図示しない上部の外周端部に溶接固定されてなる、円筒状部材である。外筒4は、筒状体1との溶接固定箇所から軸線方向に同径にて延在する主部4aと、該軸線方向において主部4aに連続する封止部4bとを備える。封止部4bは、該主部4aよりも縮径してなる端部である。
【0036】
外筒4の内部空間は基準ガス(大気)雰囲気となっている。また、主部4aの内部にはコネクタ(接点保持部材とも称する)5とスペーサ7とが配されている。
【0037】
一方、封止部4bは、シール部材6が嵌め込まれた状態で、側方から加締められることにより、外筒4の他方端部(図面視上端部)を封止(シール)してなる部位である。
【0038】
係る封止は、シール部材6の図面視側方位置にあたる加締め箇所6sにおいて、封止部4bがその周方向全体に亘って外側から加締められることにより、シール部材6が径方向外側へと向かう反力を生じさせることによって、実現されてなる。
【0039】
シール部材6はゴム製である。それゆえ、シール部材6はゴム栓とも称される。使用されるゴムは、典型的にはフッ素ゴムである。シール部材6は、封止部4bへの嵌め込み前には一様な円筒状をなしていたが、嵌め込みさらには加締めによって径方向に変形させられてなる。
【0040】
コネクタ5には、センサ素子10の他方端部側(例えば
図6の第2の端部E2側)が挿入されている。コネクタ5には、係るセンサ素子10の挿入状態においてセンサ素子10に備わる複数の電極端子160(
図6参照)と接する、複数の金属製の接点部材51が備わっている。接点部材51は、その一方端部(図面視下端部)がコネクタ5に掛止される掛止部51aとなっており、他方端部(図面視上端部)は、リード線8が圧着固定される圧着部51bとなっており、その間の部分が板バネ状をなしている。コネクタ5とセンサ素子10との間に接点部材51が挟持固定されることで、センサ素子10の電極端子160と接点部材51とが電気的に接続されてなる。
【0041】
スペーサ7は、外筒4の内部において、コネクタ5とシール部材6とに挟み込まれて(介在して)いる。スペーサ7は、加締め前のシール部材6と略同径の円筒状をなしている。スペーサ7は、ガスセンサ100の使用時におけるシール部材6の昇温を抑制する目的で、設けられてなる。スペーサ7についての詳細は後述する。
【0042】
リード線8は、シール部材6およびスペーサ7に連続的に設けられた貫通穴9に挿通されてなり、一方端部は接点部材51の圧着部51bに圧着固定されてなり、他方端部はガスセンサ100の外部のコントローラ50や各種電源(
図6参照)に接続されてなる。これにより、センサ素子10とコントローラ50や各種電源とが、接点部材51およびリード線8を通じて電気的に接続されてなる。なお、
図1には、接点部材51とリード線8とをそれぞれ2つずつのみ示しているが、これはあくまで図示の簡単のためであり、実際には、上記の電気的接続に必要な数のリード線が備わっている。
【0043】
なお、以上のような構成を有するガスセンサ100は、従来と同様の手法にて作製することが可能である。概略的にいえば、まず、加締め箇所6sの加締めに先立ってあらかじめ、センサ素子10の挿入と接点部材51とリード線8との接続とがなされたコネクタ5が、外筒4の主部4a内に配置される。続いて、リード線8が、スペーサ7、シール部材6の順にそれぞれの貫通穴9に挿通され順にコネクタ5の上に積み重ねられる。併せて、リード線8が挿通されたシール部材6は、加締め前の封止部4bに嵌め込まれる。通常は、シール部材6の嵌め込みがなされるまでの時点においてすでに、外筒4内に基準ガスとしての大気が入り込んでいる。シール部材6の嵌め込みがなされると、加締め箇所6sが所定の加締め手段にて加締められる。
【0044】
なお、加締めは、封止部4bの外周全体に亘って連続的に延在する加締め箇所6sを対象に行われるのが好適な一例であるが、良好な加締め固定が実現される限りにおいて、加締め箇所6sが封止部4bの周方向において不連続となっていてもよい。
【0045】
<スペーサの構成と作用効果>
次に、スペーサ7の構成および係る構成の具備により得られる作用効果について、詳細に説明する。
【0046】
まず、スペーサ7の材質としては、強度確保の点からセラミックスが選択される。好ましくは、耐熱性および低伝熱性の点から好適な、熱伝導率が32W/m・K以下であるセラミックスが選択される。より好ましくは、アルミナ(熱伝導率:32W/m・K)またはステアタイト(熱伝導率:2W/m・K)が選択される。
【0047】
これに加え、本実施の形態においては、スペーサ7の一方端面7a側に、凹部7bが設けられてなる。
図2は、係る凹部7bの形成例を示すスペーサ7の概観斜視図である。なお、
図2においては、凹部7bが、平坦な底面7cを有しかつ長手方向に垂直な断面が矩形をなす、直線状の溝部として設けられてなる場合を例示している。なお、
図2においては、スペーサ7に備わる8個の貫通穴9(9a)のうちの4つが、一方端面7aと凹部7bとの段差の部分に存在しているが、これは例示であって、貫通穴9aの配置はこれに限定されるものではない。
【0048】
また、
図3は、凹部7bの種々の形状を例示する平面図である。ただし、貫通穴9aの図示は省略している。
【0049】
図3(a)は
図2と同じ、凹部7bが直線状の溝部である場合を示している。これに対し、
図3(b)は、そのような直線状の溝部が直交したような平面視十字状の凹部7bを示している。また、
図3(c)は、平面視円形状の凹部7bを示している。これらの凹部7bの底面7cは平坦であってもよく、曲面をなしていてもよい。
【0050】
スペーサ7の形状がいずれの場合も、コネクタ5は、
図1に示すように、一方端面7aの凹部7bを除く部分においてスペーサ7と接触し、凹部7bのところではスペーサ7とは非接触となっている。
【0051】
係る構成が採用されてなることにより、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、コネクタ5の全体がスペーサ7の一方端面7aに接触する構成を有するガスセンサ100に比して、コネクタ5からスペーサ7さらにはシール部材6への伝熱が抑制されるようになっている。すなわち、シール部材6の熱劣化のリスクが低減されてなる。具体的には、コネクタ5とシール部材6とが直接に接する構造の場合、シール部材6がコネクタ5との接触部分を起点に熱分解し、アウトガスが拡散して信号異常が発生する場合があるが、本実施の形態に係るガスセンサ100においては、凹部7bを有するスペーサ7を介在させることにより、シール部材6の端面の温度上昇が抑制されてなり、その結果として、熱分解により信号異常が発生するリスクが、好適に低減されてなる。
【0052】
なお、凹部7bの形状は、
図3に示したものに限定されず、スペーサ7がコネクタ5とシール部材6との間に好適に保持される一方で、コネクタ5からシール部材6への伝熱が好適に抑制される限りにおいて、他の形状が採用されてもよい。
【0053】
好ましくは、スペーサ7との接触面であるコネクタ5の端面5eの面積と、スペーサ7の凹部7bを含む一方端面7a全体の面積のうち小さい方の面積をS0とし、コネクタ5とスペーサ7との接触面積Sをするとき、両者の比(以下、接触部分面積比とも称する)S/S0の値が小さいほど、コネクタ5からスペーサ7さらにはシール部材6への伝熱は抑制される傾向がある。なお、面積S0が択一的であるのは、
図1においては、コネクタ5の端面5eの面積よりもスペーサ7の一方端面7a全体の面積の方が大きい場合を例示しているものの、両者の面積の大小関係が反対となる構成も取り得ることを、考慮しているからである。
【0054】
また、スペーサ7の高さaに対する凹部7bの深さbの比(以下、深さ比とも称する)b/aが大きいほど、コネクタ5からスペーサ7さらにはシール部材6への伝熱は抑制される傾向がある。なお、凹部7bの底面7cが平坦ではない場合は、最深の位置までの距離が深さbとされてよい。
【0055】
なお、本来的にはS/S0<1またはb/a>0であれば伝熱低減効果が発現するはずではあるが、実用上は、S/S0≦0.7またはb/a≧0.08の場合に、実質的な伝熱低減効果が見込まれる。例えば、スペーサ7がステアタイト製であり、S/S0≦0.5であり、b/a≧0.15であ、シール部材6のスペーサ7との接触部分6aにおける温度に、凹部7bを設けない場合に比して少なくとも2%程度の低減効果が得られる。特に、S/S0≦0.5であり、b/a≧0.5である場合の温度低減効果は、3%程度となる。後者によれば、シール部材6の耐熱限界温度が300℃である場合、少なくとも10℃の温度低減効果を見込むことができる。
【0056】
ただし、S/S0≧0.2であることが好ましい。
図4は、接触部分面積比S/S0の値が小さい場合に、ガスセンサ100の組立時に起こり得る不具合について説明するための図である。ガスセンサ100の組立時には、他方端部側にセンサ素子10が挿入されてなるコネクタ5の端面5eの上にスペーサ7が当接された状態で、外筒4の封止部4bに嵌め込まれたシール部材6が、スペーサ7の他方端面(一方端面7aの反対面)7eに当接される。続いて、加締め箇所6sにおいて封止部4bが側方から加締められて縮径されることにより、シール部材6が変形させられるが、係るシール部材6の変形に伴い、
図4(a)に示すように、スペーサ7に対しては下向きの荷重F1が作用する。
【0057】
その際、スペーサ7は上下の端面においてはシール部材6及びコネクタ5にて拘束されているものの、外周は特段拘束されていない。そのため、S/S0の値が小さい場合、荷重F1の作用の仕方によっては、
図4(b)に示すようにスペーサ7が傾き、シール部材6及びコネクタ5との間に正しく保持されないという不具合や、さらには、センサ素子10に側面から力が加わってセンサ素子10が折れてしまうという不具合が起こり得る。S/S0<0.2の場合に、係る不具合の発生が顕著となる。
【0058】
また、b/a≦0.6であることが好ましい。
図5は、深さ比b/aの値が大きい場合に、ガスセンサ100の組立時に起こり得る不具合について説明するための図である。
【0059】
上述のように、ガスセンサ100の組立時には、外筒4の封止部4bの加締め変形に伴い、スペーサ7に対しては下向きの荷重F1が作用するが、その際、スペーサ7には、コネクタ5から上向きの荷重F2も作用する。すなわち、スペーサ7には、上下両方向から圧縮力が作用する。そのため、b/aの値が大きく凹部7bが深い場合、底面7cの端縁部7d近傍にて座屈破壊が発生し得る。b/a>0.6の場合に、係る不具合の発生が顕著となる。
【0060】
以上、説明したように、本実施の形態によれば、ガスセンサの外筒の内部に配置され、センサ素子と接続されるコネクタと、外筒をその端部にて封止するシール部材との間に、セラミックス製のスペーサを介在させ、かつ、該スペーサのコネクタとの接触部分に凹部を設けることで、コネクタからスペーサさらにはシール部材への伝熱を抑制することができる。これにより、スペーサの強度を確保しつつ、シール部材の熱劣化を抑制することができる。
【0061】
<センサ素子の構成例>
最後に、センサ素子10の一例として、NOx検出用のセンサ素子10の構成を説明する。
図6は、係るNOx検出用のセンサ素子10の長手方向に沿った断面図である。係る場合において、センサ素子10は、いわゆる限界電流型のガスセンサ素子である。なお、
図6には、センサ素子10のほか、ガスセンサ100に備わるポンプセル電源30と、ヒータ電源40と、コントローラ50とについても併せて示している。
【0062】
図6に示すように、センサ素子10は概略、長尺板状の素子基体11の第1の端部E1側が、多孔質の先端保護層12にて被覆された構成を有する。素子基体11は、長尺板状のセラミックス体101を主たる構造体とするとともに、該セラミックス体101の2つの主面上には主面保護層170(170a、170b)を備える。さらに、センサ素子10においては、一先端部側の端面(セラミックス体101の先端面101e)および4つの側面の外側に先端保護層12(内側先端保護層12a、外側先端保護層12b)が設けられてなる。
【0063】
なお、本実施の形態においては便宜上、セラミックス体101およびセンサ素子10において素子基体11の第1の端部E1が備わる側の端部についても、それぞれの第1の端部E1と称し、素子基体11の第2の端部E2が備わる側の端部についても、それぞれの第2の端部E2と称する。
【0064】
セラミックス体101は、酸素イオン伝導性固体電解質であるジルコニア(イットリウム安定化ジルコニア)を主成分とするセラミックスからなる。セラミックス体101は、緻密かつ気密なものである。
【0065】
図6に示すセンサ素子10は、セラミックス体101の内部に第一の内部空室102と第二の内部空室103と第三の内部空室104とを有する、いわゆる直列三室構造型のガスセンサ素子である。すなわち、センサ素子10においては概略、第一の内部空室102が、セラミックス体101の第1の端部E1側において外部に対し開口する(厳密には先端保護層12を介して外部と連通する)ガス導入口105と第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120を通じて連通しており、第二の内部空室103が第三の拡散律速部130を通じて第一の内部空室102と連通しており、第三の内部空室104が第四の拡散律速部140を通じて第二の内部空室103と連通している。なお、ガス導入口105から第三の内部空室104に至るまでの経路を、ガス流通部とも称する。本実施の形態に係るセンサ素子10においては、係る流通部がセラミックス体101の長手方向に沿って一直線状に設けられてなる。
【0066】
第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140はいずれも、図面視上下2つのスリットとして設けられている。第一の拡散律速部110、第二の拡散律速部120、第三の拡散律速部130、および第四の拡散律速部140は、通過する被測定ガスに対して所定の拡散抵抗を付与する。なお、第一の拡散律速部110と第二の拡散律速部120の間には、被測定ガスの脈動を緩衝する効果を有する緩衝空間115が設けられている。
【0067】
また、セラミックス体101の外面には外部ポンプ電極141が備わり、第一の内部空室102には内部ポンプ電極142が備わっている。さらには、第二の内部空室103には補助ポンプ電極143が備わり、第三の内部空室104には、測定対象ガス成分の直接の検知部である測定電極145が備わっている。加えて、セラミックス体101の第2の端部E2側には、外部に連通し基準ガスが導入される基準ガス導入口106が備わっており、該基準ガス導入口106内には、基準電極147が設けられている。
【0068】
係るセンサ素子10を備えるガスセンサ100においては、以下のようなプロセスによって、被測定ガス中のNOxガス濃度が算出される。
【0069】
まず、貫通孔Hを通じて保護カバー2内に流入し、ガス導入口105から第一の内部空室102に導入された被測定ガスは、主ポンプセルP1のポンピング作用(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)によって、酸素濃度が略一定に調整されたうえで、第二の内部空室103に導入される。主ポンプセルP1は、外部ポンプ電極141と、内部ポンプ電極142と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101aとによって構成される電気化学的ポンプセルである。第二の内部空室103においては、同じく電気化学的ポンプセルである、補助ポンプセルP2のポンピング作用により、被測定ガス中の酸素が素子外部へと汲み出されて、被測定ガスが十分な低酸素分圧状態とされる。補助ポンプセルP2は、外部ポンプ電極141と、補助ポンプ電極143と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101bとによって構成される。
【0070】
外部ポンプ電極141、内部ポンプ電極142、および補助ポンプ電極143は、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO2とのサーメット電極)として形成されてなる。なお、被測定ガスに接触する内部ポンプ電極142および補助ポンプ電極143は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた、あるいは、還元能力のない材料を用いて形成される。
【0071】
補助ポンプセルP2によって低酸素分圧状態とされた被測定ガス中のNOxは、第三の内部空室104に導入され、第三の内部空室104に設けられた測定電極145において還元ないし分解される。測定電極145は、第三の内部空室104内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する多孔質サーメット電極である。係る還元ないし分解の際には、測定電極145と基準電極147との間の電位差が、一定に保たれている。そして、上述の還元ないし分解によって生じた酸素イオンが、測定用ポンプセルP3によって素子外部へと汲み出される。測定用ポンプセルP3は、外部ポンプ電極141と、測定電極145と、両電極の間に存在するセラミックス体101の部分であるセラミックス層101cとによって構成される。測定用ポンプセルP3は、測定電極145の周囲の雰囲気中におけるNOxの分解によって生じた酸素を汲み出す電気化学的ポンプセルである。
【0072】
主ポンプセルP1、補助ポンプセルP2、および測定用ポンプセルP3におけるポンピング(酸素の汲み入れ或いは汲み出し)は、コントローラ50による制御のもと、ポンプセル電源(可変電源)30によって各ポンプセルに備わる電極の間にポンピングに必要な電圧が印加されることにより、実現される。測定用ポンプセルP3の場合であれば、測定電極145と基準電極147との間の電位差が所定の値に保たれるように、外部ポンプ電極141と測定電極145との間に電圧が印加される。ポンプセル電源30は通常、各ポンプセル毎に設けられる。
【0073】
コントローラ50は、測定用ポンプセルP3により汲み出される酸素の量に応じて測定電極145と外部ポンプ電極141との間を流れるポンプ電流Ip2を検出し、このポンプ電流Ip2の電流値(NOx信号)と、分解されたNOxの濃度との間に線型関係があることに基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を算出する。
【0074】
なお、好ましくは、ガスセンサ100は、それぞれのポンプ電極と基準電極147との間の電位差を検知する、図示しない複数の電気化学的センサセルを備えており、コントローラ50による各ポンプセルの制御は、それらのセンサセルの検出信号に基づいて行われる。
【0075】
また、センサ素子10においては、セラミックス体101の内部にヒータ150が埋設されている。ヒータ150は、ガス流通部の
図6における図面視下方側において、第1の端部E1近傍から少なくとも測定電極145および基準電極147の形成位置までの範囲にわたって設けられる。ヒータ150は、コントローラ50による制御のもと、ヒータ電源40からの給電により発熱する。ヒータ150は、センサ素子10の使用時に、セラミックス体101を構成する固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるべく、センサ素子10を加熱することを主たる目的として、設けられてなる。センサ素子10は、少なくとも第一の内部空室102から第二の内部空室103に至る範囲の温度が500℃以上となるように、加熱される。
【0076】
より詳細には、ヒータ150は、例えば白金などからなる抵抗発熱体であり、その周囲を絶縁層151に囲繞される態様にて設けられてなる。
【0077】
セラミックス体101のそれぞれの主面上の第2の端部E2側には、センサ素子10と外部との間の電気的接続を図るための複数の電極端子160が形成されてなる。これらの電極端子160は、セラミックス体101の内部に備わる図示しない内部配線を通じて、上述した5つの電極と、ヒータ150の両端と、図示しないヒータ抵抗検出用の内部配線と、所定の対応関係にて電気的に接続されている。上述のように、電極端子160は接点部材51を介してリード線8と接続されており、センサ素子10の各ポンプセルに対するポンプセル電源30から電圧の印加や、ヒータ電源40からの給電によるヒータ150の加熱は、それらリード線8、接点部材51、および電極端子160を通じてなされる。
【0078】
主面保護層170は、アルミナからなる、厚みが5μm~30μm程度であり、かつ20%~40%程度の気孔率にて気孔が存在する層であり、セラミックス体101の2つの主面や外部ポンプ電極141に対する、異物や被毒物質の付着を防ぐ目的で設けられてなる。それゆえ、一方の主面保護層170aは、外部ポンプ電極141を保護するポンプ電極保護層としても機能するものである。
【0079】
先端保護層12は、素子基体11の第1の端部E1から所定範囲の最外周部に設けられてなる。先端保護層12を設けるのは、素子基体11のうちガスセンサ100の使用時に高温(最高で700℃~800℃程度)となる部分を囲繞することによって、当該部分における耐被水性を確保し、当該部分が直接に被水することによる局所的な温度低下に起因した熱衝撃により素子基体11にクラック(被水割れ)が生じることを、抑制するためである。
【0080】
加えて、先端保護層12は、センサ素子10の内部にMgなどの被毒物質が入り込むことを防ぐ、耐被毒性の確保のためにも、設けられてなる。
【0081】
内側先端保護層12aは、アルミナにて、45%~60%の気孔率を有しかつ450μm~650μmの厚みを有するように、設けられてなる。また、外側先端保護層12bは、アルミナにて、内側先端保護層12aよりも小さい10%~40%の気孔率を有しかつ50μm~300μmの厚みを有するように、設けられてなる。内側先端保護層12aは、低熱伝導率の層として設けられることで、外部から素子基体11への熱伝導を抑制する機能を有してなる。
【0082】
内側先端保護層12aと外側先端保護層12bは、表面に下地層13が形成された素子基体11に対し、それぞれの構成材料を順次に溶射(プラズマ溶射)することで形成される。
【0083】
また、
図6に示すように、内側先端保護層12aと素子基体11の間には、内側先端保護層12aの接着性を確保するべく下地層13が設けられる。下地層13は少なくとも、素子基体11の2つの主面上に設けられてなる。下地層13は、アルミナにて、30%~60%の気孔率を有しかつ15μm~50μmの厚みに形成されてなる。
【0084】
<変形例>
上述の実施形態では、3つの内部空室を有する限界電流型のセンサ素子であって、NOxを検出対象ガス成分とするものを、センサ素子10として例示しているが、ガスセンサ100に備わるセンサ素子10においては、内部空室の数が3つでなくともよく、また、NOx以外のガス成分が検知対象とされていてもよい。あるいは、混成電位型のセンサ素子など、内部空室を有さない構造のセンサ素子であってもよい。
【実施例0085】
フッ素ゴム製のシール部材6とステアタイト製のスペーサ7とを備えるガスセンサ100を高温の被測定ガスが流れる配管に取り付けて使用したときの、シール部材6のスペーサ7との接触部分6aにおける温度(定常温度)について、CAEによるシミュレーションを行い、スペーサ7による温度低減効果を判定した。
【0086】
配管を流れるガスの温度は850℃に設定し、流速は4.85m/secに設定した。ガスセンサ100の配管への取り付けは、ボルト部3aを所定の取り付け位置に設けられたナットと螺合させることによって行うものとした。また、配管の外部の温度(ガスセンサ100の周囲の温度)は25℃とした。また、センサ素子10の駆動温度(ヒータ150における設定加熱温度)は850℃とした。
【0087】
ガスセンサ100としては、コネクタ5の端面5eの面積よりもスペーサ7の凹部7bを含む一方端面7a全体の面積の方が大きく、かつスペーサ7の凹部7bが
図2および
図3(a)に示すような直線状の溝部をなしているものを用いるとしつつ、深さ比b/aの値を2水準(実施例1、実施例2)に違えた。具体的には、0.15(実施例1)と0.5(実施例2)の2水準に違えた。接触部分面積比S/S0は0.459で共通とした。
【0088】
また、定常温度の基準を得るための比較例として、凹部7bを有さないほかは、実施例1および実施例2と同様の構成を有するガスセンサ100についても、同じ条件でシミュレーションを行った。
【0089】
表1に、実施例1および実施例2についての、接触部分面積比S/S0および深さ比b/a(これらは比較例1についても示している)と、接触部分6aの最高温度に基づく温度低減効果の判定結果と、比較例1における値を1としたときの接触部分6aの温度の比とを、一覧にして示す。
【0090】
【0091】
温度低減効果の判定にあたっては、接触部分6aの温度が比較例1よりも6℃以上低いガスセンサ100について、スペーサ7に凹部7bを設けたことによるシール部材6の温度低減効果が良好に得られているものと判定することとした。これに該当した実施例2について、表1の判定結果欄に「〇」(丸印)を付している。
【0092】
一方、接触部分6aの温度が比較例1よりも1℃以上6℃未満低いガスセンサ100について、スペーサ7に凹部7bを設けたことによるシール部材6の温度低減効果が一定程度は得られているものと判定することとした。これに該当した実施例1について、表1の判定結果欄に「△」(三角印)を付している。
【0093】
なお、接触部分6aの温度が比較例1よりも1℃未満低いか、あるいは比較例1以上であるガスセンサ100については、スペーサ7に凹部7bを設けたことによるシール部材6の温度低減効果が得られていないものと判定することとしていたが、実施例1および実施例2のいずれのガスセンサ100も、これには該当しなかった。
【0094】
表1に示す結果からは、0.2≦S/S0≦0.5および0.15≦b/a≦0.6をみたす凹部7bを備えた実施例1のガスセンサ100については、シール部材6のスペーサ7との接触部分6aにおける温度に2%強の低減効果が得られることが、確認される。さらには、0.2≦S/S0≦0.5および0.5≦b/a≦0.6をみたす凹部7bを備えた実施例2のガスセンサ100については、シール部材6のスペーサ7との接触部分6aにおける温度に3%強の低減効果が得られることが、確認される。