(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148472
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】焼結体、及び切削工具
(51)【国際特許分類】
C22C 1/051 20230101AFI20231005BHJP
C22C 29/04 20060101ALI20231005BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20231005BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C22C1/05 G
C22C29/04 Z
B22F3/24 102A
B23B27/14 B
B23B27/14 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056513
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】523194617
【氏名又は名称】NTKカッティングツールズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫛引 貫志
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 恵人
(72)【発明者】
【氏名】豊田 亮二
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF02
3C046FF09
3C046FF10
3C046FF13
3C046FF38
3C046FF39
3C046FF40
3C046FF43
3C046FF45
3C046FF53
4K018AB01
4K018AB02
4K018AB03
4K018AC01
4K018AD04
4K018BA04
4K018BA09
4K018BA20
4K018BC13
4K018CA11
4K018DA31
4K018FA06
4K018FA08
4K018FA24
4K018KA15
(57)【要約】
【課題】高速加工下において耐摩耗性、耐熱性、及び耐欠損性に優れた焼結体及び切削工具を提供する。
【解決手段】
焼結体は、TiN、TiC、TiCN、又は(Ti、M)(C、N)(Mは周期表の4~6族に属する元素(Ti元素を除く)から選ばれる1種以上)を主成分とする硬質粒子と、Co及びNiの少なくとも1種を含む結合相と、を含む。結合相は、さらにRe、Ru、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種を含む。焼結体は、表面から20μmの深さまでの表面領域において、 Co、Ni、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)に対する、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)の割合をBsとし、表面領域よりも内側の内部領域においてCo、Ni、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)に対する、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)の割合をBiとし、以下の関係式(1)を満たす。
Bs/Bi≧1.1 …(1)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiN、TiC、TiCN、又は(Ti、M)(C、N)(Mは周期表の4~6族に属する元素(Ti元素を除く)から選ばれる1種以上)を主成分とする硬質粒子と、
Co及びNiの少なくとも1種を含む結合相と、
を含む焼結体であって、
前記結合相は、さらにRe、Ru、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記焼結体の表面から20μmの深さまでの表面領域において、Co、Ni、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)に対する、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)の割合をBsとし、
前記焼結体の前記表面領域よりも内側の内部領域においてCo、Ni、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)に対する、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)の割合をBiとし、
以下の関係式(1)を満たす焼結体。
Bs/Bi≧1.1 …(1)
【請求項2】
前記焼結体の前記表面領域において、前記硬質粒子と前記結合相と分散粒子との合計の含有率(質量%)に対する前記結合相の含有率(質量%)をMsとし、
前記焼結体の前記内部領域において、前記硬質粒子と前記結合相と前記分散粒子との合計の含有率(質量%)に対する前記結合相の含有率(質量%)をMiとし、
以下の関係式(2)を満たす請求項1に記載の焼結体。
0.5≦Ms/Mi≦0.8 …(2)
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の焼結体を用いた切削工具。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の焼結体を基材とし、前記基材の表面に被覆層を有する切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、焼結体、及び切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化タングステンやチタン炭窒化物を主成分とする硬質相と、鉄族元素を主成分とする結合相とを備える超硬合金やサーメットを基材として用いた切削工具が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2008/146856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、超硬合金やサーメットを基材とする切削工具は一般的に耐欠損性に優れるが、耐熱性に乏しく、高速加工に向いていないとされている。そこで、サーメットにおいては、表面における金属結合相量を制御することで、耐熱性の向上を図る構成が知られている。しかしながら、表面の結合相量を減らすだけでは、高速加工領域における摩耗、塑性変形等を抑えるまでには至っていない。一方で、切削抵抗の高い鋼材を高速加工する技術が求められている。
本開示は、上記実情を鑑みてなされたものであり、高速加工下において耐摩耗性、耐熱性、及び耐欠損性に優れた焼結体及び切削工具を提供することを目的とする。本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
〔1〕TiN、TiC、TiCN、又は(Ti、M)(C、N)(Mは周期表の4~6族に属する元素(Ti元素を除く)から選ばれる1種以上)を主成分とする硬質粒子と、
Co及びNiの少なくとも1種を含む結合相と、
を含む焼結体であって、
前記結合相は、さらにRe、Ru、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種を含み、
前記焼結体の表面から20μmの深さまでの表面領域において、 Co、Ni、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)に対する、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)の割合をBsとし、
前記焼結体の前記表面領域よりも内側の内部領域において Co、Ni、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)に対する、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)の割合をBiとし、
以下の関係式(1)を満たす焼結体。
Bs/Bi≧1.1 …(1)
【0006】
〔2〕前記焼結体の前記表面領域において、前記硬質粒子と前記結合相と分散粒子との合計の含有率(質量%)に対する前記結合相の含有率(質量%)をMsとし、
前記焼結体の前記内部領域において、前記硬質粒子と前記結合相と前記分散粒子との合計の含有率(質量%)に対する前記結合相の含有率(質量%)をMiとし、
以下の関係式(2)を満たす請求項1に記載の焼結体。
0.5≦Ms/Mi≦0.8 …(2)
【0007】
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載の焼結体を用いた切削工具。
【0008】
〔4〕〔1〕または〔2〕に記載の焼結体を基材とし、前記基材の表面に被覆層を有する切削工具。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、高速加工下において耐摩耗性、耐熱性、及び耐欠損性に優れた焼結体を提供する。
鉄(Fe)に対する耐反応性と硬度に優れるTi化合物を主成分とした硬質相を含むことで、耐摩耗性に優れる焼結体となる。また、Re、Ru、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種を含む結合相を有することで、結合相自体の耐熱性を向上できる。その結果、高速加工下においても、耐摩耗性と耐塑性変形性に優れた焼結体が得られる。高速加工化において、結合相の成分比率が焼結体の耐摩耗性及び耐塑性変形性の向上に寄与し、結合相中において高融点金属成分であるRe、Ru、Mo、Wを多く含むほど、焼結体の耐摩耗性及び耐塑性変形性が向上する。一方で、Re、Ru、Mo、Wの量が過剰となると、焼結体の耐欠損性が低下するといった懸念もある。そこで、焼結体の表面から20μmの深さまでの表面領域において、Co、Ni、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)に対する、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)の割合をBsとし、焼結体の表面領域よりも内側の内部領域において Co、Ni、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)に対する、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)の割合をBiとし、Bs/Bi≧1.1の関係式を満たすことで、焼結体の耐欠損性と耐摩耗性及び耐塑性変形性の両立を図ることができる。
焼結体の表面領域において、硬質粒子と結合相と分散粒子との合計の含有率(質量%)に対する結合相の含有率(質量%)をMsとし、焼結体の内部領域において、硬質粒子と結合相と分散粒子との合計の含有率(質量%)に対する結合相の含有率(質量%)をMiとし、0.5≦Ms/Mi≦0.8の関係式を満たす場合には、焼結体の耐欠損性と耐摩耗性及び耐塑性変形性の両立を図れる。これは、結合相の構成成分だけでなく結合相量も切削性能に寄与し、具体的には、結合相量が小さいほど焼結体の耐摩耗性及び耐塑性変形性を向上できるが、一方で耐欠損性が低下することによる。
本開示の焼結体を切削工具に供することで、耐摩耗性及び耐欠損性に優れた切削工具を提供できる。
切削工具の表面に被覆層が形成されている場合には、表面を硬質化するとともに被覆層に覆われた基材の酸化を抑制できるため、切削工具の耐摩耗性をより一層向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】焼結体の断面において組成物の分析に用いた領域を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示を詳しく説明する。なお、本明細書において、数値範囲について「~」を用いた記載では、特に断りがない限り、下限値及び上限値を含むものとする。例えば、「10~20」という記載では、下限値である「10」、上限値である「20」のいずれも含むものとする。すなわち、「10~20」は、「10以上20以下」と同じ意味である。
【0012】
1.焼結体
(1)焼結体の構成
焼結体は、TiN、TiC、TiCN、又は(Ti、M)(C、N)(Mは周期表の4~6族に属する元素(Ti元素を除く)から選ばれる1種以上)を主成分とする硬質粒子と、Co(コバルト)及びNi(ニッケル)の少なくとも1種を含む結合相と、を含む。結合相は、さらにRe(レニウム)、Ru(ルテニウム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0013】
(2)硬質粒子
硬質粒子は、TiN、TiC、TiCN、又は(Ti、M)(C、N)(Mは周期表の4~6族に属する元素(Ti(チタン)元素を除く)から選ばれる1種以上)を主成分とする。ここで「主成分」とは、硬質粒子を100体積%とした場合に、Ti化合物が60体積%以上であることを意味する。Mは、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、W(タングステン)、V(バナジウム)、Cr(クロム)、Zr(ジルコニウム)、Mo(モリブデン)、Hf(ハフニウム)から選択される少なくとも1種の元素が好ましい。中でも、Ta(タンタル)、Nb(ニオブ)、W(タングステン)から選択される少なくとも1種の元素がより好ましく、Ta及び/又はNbであることがさらに好ましい。なお、硬質粒子を構成する元素の組成比は、特に限定されない。
硬質粒子は、単一組成の粒子であっても良いし、複数成分を含む粒子(例えばコアリム構造の粒子)であってもよい。TiC、TiN、TiCN、(Ti、M)(C、N)を構成する元素の組成比は、特に限定されない。例えば、TiCNにおけるC、Nの比率は限
定されないし、CやNは非化学量比でもよい。硬質粒子は、1種のみ存在してもよく、複数種存在していてもよい。複数種存在しているとは、元素Mが異なる(Ti、M)(C、N)粒子が一緒に存在していることを意味するほか、元素Mは同一であるが、粒子を構成するTi,M,C,Nの組成比が異なる(Ti、M)(C、N)粒子が一緒に存在していることも意味する。
なお、炭素の組成比XCと窒素の組成比XNとは、被削材に含まれる鉄に対する耐反応性の観点から、(XN/(XC+XN))で表される比率において、0.10~0.90の範囲が好ましく、0.20~0.80の範囲がより好ましく、0.30~0.70の範囲が更に好ましい。
チタンの組成比XTiと金属元素Mの組成比XMとは、硬度の観点から、(XTi/(XTi+XM))で表される比率において0.40~0.95の範囲が好ましく、0.50~0.95の範囲がより好ましく、0.70~0.95の範囲が更に好ましい。
焼結体における各物質の含有率(体積%)は、蛍光X線分析法等により各元素の量を求めることで算出できる。
【0014】
焼結体における硬質粒子の含有率は、特に限定されない。硬質粒子は、耐摩耗性及び耐塑性変形性を高める観点から、硬質粒子、結合相、及び後述する分散粒子の合計を100体積%としたとき、硬質粒子が70体積%以上95体積%以下であることが好ましく、硬質粒子が75体積%以上90体積%以下であることがより好ましく、硬質粒子が80体積%以上85体積%以下であることが更に好ましい。
【0015】
(3)結合相
結合相は、Co及びNiの少なくとも1種を含む。結合相がCo及びNiの少なくとも1種を含むことで、硬質粒子及び後述する分散粒子における粒子間の結合を強化することができる。そのため、焼結体の耐摩耗性及び耐欠損性を高めることができる。
【0016】
結合相は、さらにRe、Ru、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種を含む。これにより、結合相自体の耐熱性を高めることができる。その結果、高温下における硬度の低下を抑制でき、結合相の高温軟化を抑制できる。そのため、焼結体が組成変形し難くなる。
【0017】
結合相は、Co、Re、及びMoを含むことが好ましい。Moは、硬質粒子中に固溶し、これが硬質粒子と結合相の中間層として焼結体の耐欠損性を高めることができる。さらに、高融点金属である。また、結合相中に更にReを含むことで、結合相の高温軟化をより一層抑制できる。そのため、焼結体が塑性変形し難くなる。
【0018】
焼結体は、耐摩耗性及び耐塑性変形性を高める観点から、硬質粒子、結合相、及び後述する分散粒子の合計を100体積%としたとき、結合相が3体積%以上12体積%以下であることが好ましく、結合相が5体積%以上8体積%以下であることが更に好ましい。
【0019】
(4)焼結体の表面領域及び内部領域の構成
焼結体における表面から20μmの深さまでの領域を表面領域とする。焼結体の表面領域において、Co、Ni、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)に対する、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)の割合をBsとする。焼結体の表面領域におけるCo、Ni、Re、Ru、Mo、Wの各含有率(質量%)をRs(Co)、Rs(Ni)、Rs(Re)、Rs(Ru)、Rs(Mo)、Rs(W)と表すと、Bs=(Rs(Re)+Rs(Ru)+Rs(Mo)+Rs(W))/(Rs(Co)+Rs(Ni)+Rs(Re)+Rs(Ru)+Rs(Mo)+Rs(W))となる。
焼結体における表面領域よりも内側の領域を内部領域とする。内部領域において、Co、Ni、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)に対する、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)の割合をBiとする。内部領域におけるCo、Ni、Re、Ru、Mo、Wの各含有率(質量%)をRi(Co)、Ri(Ni)、Ri(Re)、Ri(Ru)、Ri(Mo)、Ri(W)と表すと、Bi=(Ri(Re)+Ri(Ru)+Ri(Mo)+Ri(W))/(Ri(Co)+Ri(Ni)+Ri(Re)+Ri(Ru)+Ri(Mo)+R(W))となる。
BsとBiは、以下の関係式(1)を満たす。
Bs/Bi≧1.1 …(1)
BsとBiが上記関係式(1)を満たすことで、BiよりもBsを大きくすることができ、焼結体の耐欠損性と耐摩耗性及び耐塑性変形性の両立を図ることができる。
【0020】
焼結体の表面領域において、硬質粒子と結合相との合計の含有率(質量%)に対する結合相の含有率(質量%)をMsとする。焼結体の表面領域における硬質粒子、結合相の含有率(質量%)を、それぞれRs(硬質粒子)、Rs(結合相)、Rs(分散粒子)と表すと、Ms=Rs(結合相)/(Rs(硬質粒子)+Rs(結合相)+Rs(分散粒子))となる。
内部領域において、硬質粒子と結合相との合計の含有率(質量%)に対する結合相の含有率(質量%)をMiとする。内部領域における硬質粒子、結合相の含有率(質量%)を、それぞれRi(硬質粒子)、Ri(結合相)、Ri(分散粒子)と表すと、Mi=Ri(結合相)/(Ri(硬質粒子)+Ri(結合相)+Ri(分散粒子))となる。
MsとMiは、以下の関係式(2)を満たす。
0.5≦Ms/Mi≦0.8 …(2)
MsとMiが上記関係式(2)を満たすことで、焼結体の耐欠損性と耐摩耗性及び耐塑性変形性の両立を図れる。これは、結合相の構成成分だけでなく結合相量も切削性能に寄与し、具体的には、結合相量が小さいほど耐摩耗性及び耐塑性変形性を向上できるが、一方で耐欠損性が低下することによる。
【0021】
焼結体において、Co、Ni、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)に対する、Re、Ru、Mo、Wの合計の含有率(質量%)の割合は、連続的に変化している。焼結体において、硬質粒子と結合相と分散粒子との合計の含有率(質量%)に対する結合相の含有率(質量%)は、連続的に変化している。
【0022】
(5)分散粒子
焼結体は、上記硬質粒子の他に、硬質粒子と固溶体を形成しない独立の粒子(分散粒子)を含んでもよい。焼結体は、分散粒子を含むことで、高温・高負荷環境下における硬質粒子の移動が妨げられるため、耐塑性変形性の向上に寄与できる。分散粒子は、化学的に安定なAlを含むことで、耐摩耗性向上が図れるため、好ましい。Alを含む分散粒子は、焼結体中に分散して存在し、硬質粒子の粒成長を抑制する。以下、Alを含む粒子を分散粒子とも称する。
分散粒子は、Alの窒化物、酸化物、及び酸窒化物のうちの1種以上からなる粒子が例示される。例えば、AlN粒子(窒化アルミニウム粒子)、Al2O3粒子(酸化アルミニウム粒子)、及びAlON粒子(酸窒化アルミニウム粒子)のうちの1種以上からなることが示される。
【0023】
分散粒子は、AlN粒子であることが好ましい。AlN粒子は、焼結体を用いてなる切削工具の熱伝導率を増加させ、熱膨張率を低下できる。よって、分散粒子としてAlN粒子を含むことで、高速加工下においてより優れた耐摩耗性と耐欠損性を発揮でき、工具の寿命が向上する。
【0024】
分散粒子の含有率は、特には限定されない。分散粒子の含有量は、焼結体全体を100体積%とした場合に、2体積%以上25体積%以下が好ましく、5体積%以上10体積%以下が更に好ましい。分散粒子の含有率がこのような範囲であれば、高速加工下における拡散摩耗を抑制できるため、工具の耐摩耗性を高めることができる。また、結合相の高融点化(耐熱化)に伴い製造時の焼成温度が高温化しても、硬質粒子の粒成長を効果的に抑制でき、組織細分化が図れるため、工具の耐摩耗性と耐欠損性を高めることができる。
【0025】
2.焼結体の製造方法
焼結体の製造方法は特に限定されない。焼結体の製造方法の一例を以下に示す。
【0026】
(1)原料
原料として次の原料粉末を使用する。
・Ti炭窒化物系原料粉末
・TaC粉末(炭化タンタル粉末)、NbC粉末(炭化ニオブ粉末)、及びWC粉末(炭化タングステン粉末)から選択される1種以上の原料粉末、またはこれらの固溶体粉末
・AlN(窒化アルミニウム)、Al2O3粉末(酸化アルミニウム粉末)等の原料粉末
・Co粉末、Ni粉末、Re粉末、Ru粉末、Mo粉末、W粉末等の原料粉末
【0027】
(2)焼成用粉末の準備
原料粉末を所定の配合割合になる様に秤量する。容器(例えば樹脂ポット等)の中に、原料粉末、球石(例えばAl2O3球石)、及び溶媒(例えばアセトン)を入れて混合粉砕する。得られたスラリーは湯煎乾燥にて処理し、乾燥混合粉末を得る。
【0028】
(3)焼成
乾燥混合粉をプレス成型後、雰囲気焼成を行って焼結体を作製する。雰囲気焼成は、Ar雰囲気下、またはN2雰囲気下で行う。
【0029】
(4)傾斜処理
得られた焼結体に傾斜処理(熱処理)を施す。傾斜処理は、Ar雰囲気下、またはN2雰囲気下で行う。Ms/Miの値、及びBs/Biの値は、配合組成、及び熱処理条件(熱処理温度、雰囲気圧力)によって制御できる。特に、結合相量の低減は、熱処理によって行うことができる。
【0030】
3.切削工具
図1及び
図2に示すように、切削工具1は、上記焼結体2を用いてなる。切削工具1の形状は、特に限定されない。
【0031】
焼結体2は、切削、研削、及び研磨の少なくとも1つの加工法によって形状や表面の仕上げを行って、切削工具1とすることができる。もちろん、これらの仕上げが不要であれば、焼結体2をそのまま切削工具1として用いてもよい。
【0032】
切削工具1は、焼結体2を基材として、基材の表面に被覆層7が形成されていてもよい。被覆層7は、特に限定されないが、例えば、チタン、ジルコニウム、クロム及びアルミニウムの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、酸窒化物、及び炭窒酸化物より選択される少なくとも1種の化合物からなることが好ましい。被覆層7が形成されると、切削工具1の表面硬度が増加すると共に、被覆層7に覆われた基材の酸化を抑制できるため、切削工具1の耐摩耗性を向上できる。
チタン、ジルコニウム、クロム及びアルミニウムの炭化物、窒化物、酸化物、炭窒化物、炭酸化物、酸窒化物、及び炭窒酸化物より選択される少なくとも1種の化合物としては、特に限定されないが、TiN、TiAlN、TiCrAlN、CrAlNが好適な例として挙げられる。耐摩耗性の観点から、Ti系(例えばTiCrAlN、TiAlN)がより好ましい。
被覆層7の形態は、単層膜であっても、複数の膜が積層した積層膜であってもよい。
被覆層7の厚みは、特に限定されない。被覆層7の厚みは、耐摩耗性の観点から、0.02μm以上30μm以下が好ましい。
【実施例0033】
以下、実施例により本開示を更に具体的に説明する。
なお、実験例1~11,13,14,16,17は実施例であり、実験例12,15は比較例である。
表において、実験例を「No.」を用いて示す。また、表において「※12」のように、「※」が付されている場合には、比較例であることを示している。
【0034】
1.実験例1~17
実験例1~17の各焼結体を作製し、これらの各焼結体を加工して、実験例1~17の各切削工具とした。表1に示す配合組成では、含まれる成分の合計が100体積%となっている。表1中、実験例3の配合組成の「(Ti,Nb)(C,N)-9%AlN-8%(Co,Re,Mo)」は、(Ti,Nb)(C,N)、AlN、(Co,Re,Mo)がそれぞれ83体積%、9体積%、8体積%含まれていることを意味している。
【0035】
(1)原料粉末
以下に示す原料粉末を用いた。
Ti炭窒化物系原料粉末:平均粒径1.5μm以下
NbC粉末:平均粒径1.5μm以下
AlN粉末:平均粒径0.7μm以下
Co粉末:平均粒径5.0μm以下
Ni粉末:平均粒径5.0μm以下
Re粉末:平均粒径5.0μm以下
Ru粉末:平均粒径5.0μm以下
Mo粉末:平均粒径5.0μm以下
W粉末:平均粒径5.0μm以下
【0036】
(2)焼結体(実験例1~17)の作製
原料粉末を用いて混合粉末を調製し、混合粉末にアセトンを入れて、72hr粉砕・混合した。粉砕・混合後、得られたスラリーを湯煎乾燥することで、アセトンの抜気を行い、乾燥混合粉末を調製した。得られた乾燥混合粉末を用いて、プレス成型後、雰囲気焼成を行って焼結体を作製した。雰囲気焼成の条件は、焼成温度1500℃~1750℃、2時間、Ar雰囲気下であった。得られた焼結体に対して、傾斜処理を行った。傾斜処理の条件は、焼成温度1400℃~1500℃、70Pa~270Pa、Ar雰囲気下であった。
Ms/Miの値、及びBs/Biの値は、配合組成、及び傾斜処理の熱処理条件(熱処理温度、雰囲気圧力)によって制御した。
各実験例の配合組成(体積%)、結合相成分比(質量%)、傾斜条件を表1に示す。
【0037】
【0038】
【0039】
(3)焼結体の表面領域及び内部領域の評価
実験例1~17の焼結体に対して、最表層を含む断面を切り出し、鏡面加工を行った後、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて組成物を分析した。例えば、
図3に示すように焼結体2を切断し、一方の分割体の断面5(焼結体2の断面5)を分析に用いた。
図4は、焼結体2の断面5と、その一部を拡大して示す説明図である。断面5において、一側の縁5Aに重なり、他側の縁5Bから1mm離間した領域を領域Aとした。領域Aにおいて、一側の縁5Aに重なる20μm×20μmの領域AR1と、一側の縁5Aから1mm離間した領域AR2を分析に用いた。具体的には、Ti、Nb、Co、Ni、Re、Ru、Mo、Wの成分量を測定し、焼結体におけるTi、Nb、Co、Ni、Re、Ru、Mo、Wの各含有率(質量%)を算出した。そして、Bs/Bi及びMs/Miの値を評価した。
【0040】
例えば、実験例3の場合、Bs=(Rs(Re)+Rs(Mo))/(Rs(Co)+Rs(Re)+Rs(Mo))であり、Bi=(Ri(Re)+Ri(Mo))/(Ri(Co)+Ri(Re)+Ri(Mo))である。また、Ms=(Rs(Co)+Rs(Re)+Rs(Mo))/(Rs(Ti)+Rs(Nb)+Rs(Co)+Rs(Re)+Rs(Mo))であり、Mi=(Ri(Co)+Ri(Re)+Ri(Mo))/(Ri(Ti)+Ri(Nb)+Ri(Co)+Ri(Re)+Ri(Mo))である。
【0041】
(4)切削工具の作製
実験例1~17の焼結体を、所定の寸法となるように研磨加工し、切削工具を作製した。
【0042】
(5)炭素鋼に対する耐摩耗性能評価試験
(5.1)試験条件
各切削工具を用いて、切削試験を行った。試験条件は下記の通りである。
・チップ形状:CNMN120408T00520
・被削材:S45C(JIS)
・切削速度:500m/min
・切込み量:3.0mm
・送り量:0.4mm/rev.
・切削環境:乾式施削試験
【0043】
(5.2)評価
評価結果を上記表2に示す。
表2中、「材質特性」の「Bs/Bi≧1.1」の欄の「OK」は、Bs及びBiがBs/Bi≧1.1の関係式を満たすことを意味し、「NG」は、Bs及びBiがBs/Bi≧1.1の関係式を満たさないことを意味する。
下記項目を寿命判定基準として寿命に至るまでの切削距離にて評価を行った。切削距離1kmの加工時点で欠損又は塑性変形が生じていなかった場合に、合格とした。逃げ面を基準面として刃先の変形量が0.10mmを超過した場合に、「塑性変形」を生じたと判定した。
切削距離1kmの加工時のVB摩耗量を評価した。
【0044】
(6)評価結果
(6.1)結合相の構成について
実験例1~5を比較検討する。結合相にCo、Re、Moを含む実験例1,3は、塑性変形が無く、それぞれVB摩耗量が0.08mm、0.05mmであった。結合相にCo、Moを含む実験例2は、塑性変形が無く、VB摩耗量が0.09mmであった。結合相にNi、Ru、Moを含む実験例4は、塑性変形が無く、VB摩耗量が0.07mmであった。結合相にCo、Re、Wを含む実験例5は、塑性変形が無く、VB摩耗量が0.09mmであった。また、結合相の成分構成比率が異なる実験例9~11は、塑性変形が無
く、VB摩耗量が、それぞれ0.07mm、0.05mm、0.15mmであった。実験例1~5は、いずれも以下の要件(a)(b)を満たし、合格であった。
・要件(a):結合相は、Re、Ru、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種を含む
・要件(b):Bs/Bi≧1.1を満たす
実験例1~5と実験例9~11は、上記要件(a)(b)を満たすことで、高い耐摩耗性と高い耐塑性変形性を示した。
【0045】
実験例11,12を比較検討する。結合相にCo、Re、Moを含む実験例11は、上記要件(a)(b)を満たし、塑性変形が無かった。結合相にCo、Re、Moを含む実験例12は、上記要件(a)を満たし、上記要件(b)を満たさず、塑性変形が生じた。実験例11は、上記要件(a)(b)を満たすことで、耐塑性変形性が向上した。
【0046】
(6.2)焼結体の構成について
実験例3,6~8を比較検討する。Ms/Miが0.64である実験例3は、以下の要件(c)を満たし、VB摩耗量が0.05mmであった。Ms/Miが0.51である実験例6は、以下の要件(c)を満たし、VB摩耗量が0.04mmであった。Ms/Miが0.79である実験例7は、以下の要件(c)を満たし、VB摩耗量が0.08mmであった。Ms/Miが0.85である実験例8は、以下の要件(c)を満たさず、VB摩耗量が0.18mmであった。
・要件(c)0.5≦Ms/Mi≦0.8
実験例3,6,7は、上記要件(c)を満たすことで、耐摩耗性が向上した。
【0047】
(6.3)結合相量について
実験例3,13~15を比較検討する。結合相の組成比が8体積%である実験例3は、塑性変形が無く、VB摩耗量が0.05mmであった。結合相の組成比が10体積%である実験例13は、塑性変形が無く、VB摩耗量が0.13mmであった。結合相の組成比が12体積%である実験例14は、塑性変形が無く、VB摩耗量が0.15mmであった。結合相の組成比が12体積%である実験例15は、塑性変形が生じた。実験例3,13,14は、上記要件(b)(c)を満たし、実験例15は、上記要件(b)(c)を満たしていない。上記要件(b)(c)を満たす場合において、結合相が8体積%以上12体積%以下の範囲で、十分な工具性能(高い耐摩耗性)を示した。
【0048】
(6.4)コーティングについて
実験例7,16,17を比較検討する。焼結体にコーティングを施していない実験例7は、VB摩耗量が0.08mmであった。焼結体にコーティングを施した実験例16は、VB摩耗量が0.05mmであった。焼結体にコーティングを施した実験例17は、VB摩耗量が0.07mmであった。実験例16,17は、焼結体にコーティングを施すことで、工具の耐摩耗性が向上した。
【0049】
(6.5)まとめ
実験例1~7,9~11、13,14,16,17では、高速加工下において耐摩耗性及び耐欠損性に優れた焼結体及び切削工具となった。このような切削工具によれば、鋼材加工の切削速度を向上でき、切削加工の高能率化を図ることができる。
【0050】
本開示は上記で詳述した実施形態に限定されず、本開示の請求項に示した範囲で様々な変形又は変更が可能である。