(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148473
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】イソラムネチンルチノシドを含む抽出物及び加工物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20231005BHJP
A61K 36/48 20060101ALI20231005BHJP
A61K 31/7048 20060101ALI20231005BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231005BHJP
A61P 19/06 20060101ALI20231005BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20231005BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20231005BHJP
C07H 17/07 20060101ALN20231005BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/48
A61K31/7048
A61P9/00
A61P35/00
A61P25/28
A61P19/06
A61P11/00
A61P19/02
C07H17/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056515
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】592167411
【氏名又は名称】香川県
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】阿部 大吾
(72)【発明者】
【氏名】池内 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 智哉
【テーマコード(参考)】
4B018
4C057
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD08
4B018MD42
4B018MD53
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF04
4B018MF06
4B018MF07
4C057BB03
4C057DD01
4C057KK08
4C086AA01
4C086EA04
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA16
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZA96
4C086ZB26
4C088AB59
4C088AC02
4C088BA08
4C088BA09
4C088BA10
4C088BA14
4C088BA32
4C088CA05
4C088CA06
4C088MA02
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA16
4C088ZA36
4C088ZA59
4C088ZA96
4C088ZB26
(57)【要約】
【課題】本発明は、アスパラガス・オフィシナリスとアスパラガス・キウシアナスとの交配後代の有用成分を含む組成物を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明は、アスパラガス・オフィシナリスとアスパラガス・キウシアナスとの交配後代の地上部の抽出物又は加工物に関しており、当該抽出物又は加工物は、イソラムネチンルチノシドを含んでいる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)とアスパラガス・キウシアナス(Asparagus kiusianus)との交配後代の地上部の抽出物であって、イソラムネチンルチノシドを含む、抽出物。
【請求項2】
前記地上部が、擬葉を含む、請求項1に記載の抽出物。
【請求項3】
極性溶媒抽出物である、請求項1又は2に記載の抽出物。
【請求項4】
アスパラガス・オフィシナリスとアスパラガス・キウシアナスとの交配後代の地上部の加工物であって、イソラムネチンルチノシドを含み、凍結乾燥物、加熱処理物、及び/又は粉砕物の形態である、加工物。
【請求項5】
前記地上部が、擬葉を含む、請求項4に記載の加工物。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の抽出物及び/又は請求項4若しくは5に記載の加工物を含む、経口用組成物。
【請求項7】
飲食品の形態である、請求項6に記載の経口用組成物。
【請求項8】
イソラムネチンルチノシドを含む組成物の製造方法であって、
アスパラガス・オフィシナリスとアスパラガス・キウシアナスとの交配後代の地上部を用意する工程と、
前記交配後代の地上部を抽出して、イソラムネチンルチノシドを含む組成物を取得する工程と
を含む、製造方法。
【請求項9】
前記地上部が、擬葉を含む、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記抽出工程が、前記交配後代の地上部を極性溶媒で抽出する工程を含む、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記交配後代の地上部が、凍結乾燥されたものであるか、加熱処理されたものであるか、及び/又は、粉砕されたものである、請求項8~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソラムネチンルチノシドを含む抽出物及び加工物、並びに、当該抽出物及び/又は加工物を含む組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)、いわゆる食用アスパラガスの若茎及び擬葉などの地上部には、多量のルチン(ケルセチンルチノシド)が含まれていることが知られている。例えば、特許文献1には、グリーンアスパラガスの茎又は葉の熱水抽出物にはルチンが含まれている旨が記載されている。特許文献2には、食用アスパラガスの地上部にはルチンが含まれており、特に擬葉組織にはそれが多く含まれている旨が記載されている。ルチンは血管保護や抗炎症作用を持つフラボノイドであり、そば茶などがルチン高含有を謳って販売されている。他方、イソラムネチンは、イチョウ葉及びサジーなどに含まれていること、心血管疾患や各種腫瘍に対して幅広い薬理作用を有すること、アルツハイマー病などの神経変性疾患を予防する可能性を有すること、及び、高尿酸血症や肺線維症に対する薬理作用を有することなどが知られている(非特許文献1)。
【0003】
また、特許文献3及び非特許文献2には、A.オフィシナリスとアスパラガス・キウシアナス(Asparagus kiusianus、ハマタマボウキ)との雑種(交配後代)が記載されており、特許文献3には、当該交配後代が茎枯病に対して抵抗性を有する旨が記載されている。しかしながら、当該交配後代の地上部の抽出物が、飲食品などの経口用組成物の有用な原料となり得ることは、いずれの文献にも記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63-273462号公報
【特許文献2】国際公開第2006/022338号
【特許文献3】特開2020-18251号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gong G et. al., Biomed. Pharmacother. (2020), 128:110301. doi:10.1016/j.biopha.2020.110301.
【非特許文献2】Ito, T., et al., Euphytica (2011), 182:285-294
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
A.オフィシナリスとA.キウシアナスとの交配後代は、茎枯病害抵抗性を有していることから農薬使用量を低減することが可能であり、食品原料としての利用が期待されていたが、その有用成分については知られていなかった。本発明は、前記交配後代の有用成分を含む組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、A.オフィシナリスとA.キウシアナスとの交配後代の地上部にはイソラムネチンルチノシドが多く含まれていることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す抽出物、加工物、経口用組成物、及びイソラムネチンルチノシドを含む組成物の製造方法を提供するものである。
〔1〕アスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)とアスパラガス・キウシアナス(Asparagus kiusianus)との交配後代の地上部の抽出物であって、イソラムネチンルチノシドを含む、抽出物。
〔2〕前記地上部が、擬葉を含む、前記〔1〕に記載の抽出物。
〔3〕極性溶媒抽出物である、前記〔1〕又は〔2〕に記載の抽出物。
〔4〕アスパラガス・オフィシナリスとアスパラガス・キウシアナスとの交配後代の地上部の加工物であって、イソラムネチンルチノシドを含み、凍結乾燥物、加熱処理物、及び/又は粉砕物の形態である、加工物。
〔5〕前記地上部が、擬葉を含む、前記〔4〕に記載の加工物。
〔6〕前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項に記載の抽出物及び/又は前記〔4〕若しくは〔5〕に記載の加工物を含む、経口用組成物。
〔7〕飲食品の形態である、前記〔6〕に記載の経口用組成物。
〔8〕イソラムネチンルチノシドを含む組成物の製造方法であって、
アスパラガス・オフィシナリスとアスパラガス・キウシアナスとの交配後代の地上部を用意する工程と、
前記交配後代の地上部を抽出して、イソラムネチンルチノシドを含む組成物を取得する工程と
を含む、製造方法。
〔9〕前記地上部が、擬葉を含む、前記〔8〕に記載の製造方法。
〔10〕前記抽出工程が、前記交配後代の地上部を極性溶媒で抽出する工程を含む、前記〔8〕又は〔9〕に記載の製造方法。
〔11〕前記交配後代の地上部が、凍結乾燥されたものであるか、加熱されたものであるか、及び/又は、粉砕されたものである、前記〔8〕~〔10〕のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に従えば、A.オフィシナリスとA.キウシアナスとの交配後代の地上部を原料として利用することにより、イソラムネチンルチノシドを含む組成物(抽出物又は加工物)を取得することができる。したがって、前記交配後代の地上部の抽出物又は加工物を、イソラムネチンルチノシドの生理作用を訴求する飲食品などの経口用組成物の原料として活用することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、A.オフィシナリスとA.キウシアナスとの交配後代の地上部の抽出物又は加工物に関している。A.オフィシナリスは、いわゆる食用アスパラガスであり、種々の一般栽培品種が知られている。A.キウシアナスは、A.オフィシナリスの近縁種であり、ハマタマボウキとも呼ばれている。A.オフィシナリスとA.キウシアナスとは、当技術分野で用いられる任意の方法により交配することができ、実際にこれらを交配して得られた雑種(交配後代)も複数知られている。本発明の抽出物及び加工物を調製するために使用する交配後代の品種は、特に限定されず、公知の交配後代であってもいいし、A.オフィシナリスとA.キウシアナスとを適宜交配して作製してもよい。
【0010】
前記交配後代の地上部には、イソラムネチンルチノシドが含まれており、それが抽出された結果、本発明の抽出物は、イソラムネチンルチノシドを有効成分として含んでいる。また、イソラムネチンルチノシドは、前記交配後代の地上部において安定に存在しているため、凍結乾燥、加熱、及び/又は粉砕などの加工処理を施されても、当該交配後代の地上部の加工物は、依然としてイソラムネチンルチノシドを有効成分として含んでいる。イソラムネチンルチノシドは、フラボノイド配糖体の一種であり、ルチンがメチル化された以下の構造を有している。
【化1】
(Glc:グルコース、Rha:ラムノース)
【0011】
イソラムネチンルチノシドは、生体内で加水分解を受けてイソラムネチンを生じるため、イソラムネチンの作用により、心血管疾患、腫瘍、アルツハイマー病などの神経変性疾患、高尿酸血症、肺線維症、変形性関節症、及び肥大型心筋症などを改善できることが期待される。そのため、本発明の抽出物及び加工物は、イソラムネチンルチノシド又はイソラムネチンの生理作用を訴求した製品の作製に使用することができる。
【0012】
前記地上部は、特に限定されないが、例えば、擬葉、若茎、側枝、又は養成茎などを含んでもよく、好ましくは擬葉を含む。A.オフィシナリスとA.キウシアナスとの交配後代の擬葉には、その乾燥重量100gあたり約300~約700mgのイソラムネチンルチノシドが含まれており、イチョウ葉やサジーと比較しても含有量が高いので、イソラムネチンを提供する原料として好ましい。
【0013】
特定の理論に拘束されるものではないが、例えば、A.オフィシナリスはフラボノイドの効率的な合成経路を有しているところ、A.オフィシナリスとA.キウシアナスとを交配したことにより、両植物由来の代謝酵素が協調的に作用して、イソラムネチンルチノシドが効率的に合成されるようになったと考えられる。
【0014】
本発明の加工物を調製する加工手段は、イソラムネチンルチノシドを含む加工物が得られる限り特に限定されないが、例えば、凍結乾燥、加熱、及び/又は粉砕などであってもよい。すなわち、本発明の加工物は、凍結乾燥物、加熱処理物、及び/又は粉砕物の形態であり得る。前記加熱の条件は、特に限定されないが、例えば、加湿条件下において約35℃~約130℃で約10秒~約30分の間加熱してもよく(より具体的には、約40℃~約100℃で約15秒~約150秒の間蒸してもいいし、約115℃~約125℃で約15分~約25分の間オートクレーブしてもよく)、又は、約100℃~約300℃で約1分~約10分の間(若しくは約100℃~約120℃で約1分~約5分の間)煎ってもよい。このような条件で加熱すると、前記加工物に香ばしい風味を付与することができる。また、前記粉砕の条件は、特に限定されないが、例えば、粉砕機で粉末化してもよい。
【0015】
本発明の抽出物は、前記交配後代から採取した前記地上部に直接抽出溶媒を添加することによって調製してもいいし、前記加工物に抽出溶媒を添加して調製してもよい。本発明の抽出物を調製するときの抽出溶媒は、イソラムネチンルチノシドを抽出することができる限り特に制限されないが、例えば、水(熱水など)、アルコール(メタノール、エタノール、プロパノール、及びイソプロパノールなど)又はその含水アルコール、エステル(酢酸エチルなど)、及びエーテル(ジメチルエーテル及びジエチルエーテルなど)などの極性溶媒を含んでもよい。すなわち、ある態様では、本発明の抽出物は、極性溶媒抽出物であってもよい。
【0016】
前記交配後代から採取した前記地上部において、イソラムネチンルチノシドは安定に存在しており、すぐに抽出操作を行わなくても、また、加熱、加湿、及び手もみなどの負荷を与えた後でも、採取してすぐと同様にイソラムネチンルチノシドを抽出することができる。このように前記交配後代の地上部は、イソラムネチンルチノシドに関して加工安定性に優れており、加工食品などの原料として活用しやすい。ある態様では、前記抽出溶媒に、必要に応じて、ルチン及びイソラムネチンルチノシドなどのフラボノイドの分解抑制剤を添加してもよい。前記分解抑制剤は、特に限定されないが、例えば、リン酸及び酢酸などの弱酸などであってもよい。
【0017】
本発明の抽出物は、A.オフィシナリスとA.キウシアナスとの交配後代の地上部に由来する他の成分、例えば、ルチン又はケンフェロールルチノシドなどをさらに含んでもよい。
【0018】
別の態様では、本発明は、前記抽出物及び/又は前記加工物を含む経口用組成物にも関している。A.オフィシナリスとA.キウシアナスとの交配後代は、茎枯病抵抗性を有していることから(特許文献3)、当該交配後代の栽培においては農薬使用量を低減することが可能である。このため、前記交配後代の抽出物及び加工物は、経口用組成物の原料として有利に使用することができる。例えば、前記抽出溶媒が熱水であるときは、前記抽出物は、お茶としてそのまま飲用することも可能である。ある態様では、前記経口用組成物は、飲食品の形態であってもよい。
【0019】
本発明の経口用組成物中のイソラムネチンルチノシドの含有量は、特に限定されないが、例えば、前記経口用組成物の全質量に対して約1×10-3~約0.1質量%であってもよく、好ましくは約5×10-3~約5×10-2質量%である。
【0020】
本発明の経口用組成物は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の賦形剤若しくは添加剤などをさらに含んでもよく、他の有効成分をさらに含んでもよい。
【0021】
また別の態様では、本発明は、イソラムネチンルチノシドを含む組成物の製造方法にも関している。本発明の製造方法は、
A.オフィシナリスとA.キウシアナスとの交配後代の地上部を用意する工程と、
前記交配後代の地上部を抽出して、イソラムネチンルチノシドを含む組成物を取得する工程とを含んでいる。前記交配後代及びイソラムネチンルチノシドについては、本発明の抽出物及び加工物に関して上述したとおりである。ある態様では、前記交配後代の地上部は、凍結乾燥されたものであるか、加熱処理されたものであるか、及び/又は、粉砕されたものであってもよい。
【0022】
ある態様では、前記抽出工程は、前記交配後代の地上部を極性溶媒で抽出する工程を含んでいてもよい。前記極性溶媒は、本発明の抽出物について上述したとおりである。また、ある態様では、本発明の製造方法により製造される組成物は、飲食品などの経口用組成物であってもよい。
【0023】
本発明の製造方法は、本発明の目的を損なわない限り、当技術分野で通常使用される任意の工程をさらに含んでもよく、他の有効成分を添加する工程をさらに含んでもよい。
【0024】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0025】
1.フラボノイド含量の測定1
(1)被験アスパラガス類
アスパラガス一般栽培品種(A.オフィシナリス):
ウェルカム、さぬきのめざめ
ハマタマボウキ(A.キウシアナス):
系統番号T14
交配後代:
系統番号WCK(雌親×雄親=ウェルカム×ハマタマボウキT14)
系統番号G4K(雌親×雄親=さぬきのめざめ×ハマタマボウキT14)
系統番号18K(雌親×雄親=さぬきのめざめ×ハマタマボウキT14)
【0026】
(2)実験方法
被験アスパラガス類の若茎を、2020年3月18日から31日にかけて収穫し(春収穫)、同年8月18日から25日にも収穫した(夏収穫)。また、被験アスパラガス類の擬葉を、2020年8月21日から28日にかけて採集した。取得した各サンプルは重量を測定後に凍結保管し、順次凍結乾燥を行った。凍結乾燥後に重量を測定し、強力小型粉砕機(フォースミル、大阪ケミカル株式会社製)で粉末化して、使用するまで-80℃で保管した。
【0027】
凍結乾燥粉末200mgに70%エタノール(含0.1%リン酸)を2~4mL加えてボルテックスミキサーで攪拌後、20分間超音波処理を行った。これを遠心分離(3,500rpm、10分)して上清を別の試験管に回収した。沈殿物に対してこの抽出作業をもう一度繰り返し、上清を1つの試験管にまとめて、被験アスパラガス類のエタノール抽出物を取得した。そして、同じ抽出溶媒を用いて、若茎由来の抽出物は4mL、擬葉由来の抽出物は10mLに定容し、HPLC用前処理フィルター(SEPARA0.45μm PTFE、GVSジャパン株式会社製)に通して分析用試料液を調製した。
【0028】
各分析用試料液中のフラボノイドを、以下の条件の高速液体クロマトグラフィーにより同定し定量した。ルチン(ケルセチンルチノシド)、ケンフェロールルチノシド、及びイソラムネチンルチノシドの標準物質はSigma-Aldrich社から入手した。
装置:日本分光株式会社製のHPLCシステム(ポンプPU-4180、検出器MD-4010)
カラム:C18-MS-II(4.6mmI.D.×150mm)
カラム温度:40℃
溶離液A:水(0.5%リン酸を含む)
溶離液B:アセトニトリル(0.5%リン酸を含む)
グラジエント:
0~10分(B:10%)
10~20分(B:10~20%)
20~38分(B:20~25%)
38~45分(B:25~100%)
流量:0.7mL/分
検出:350nm(PDA検出器)
試料注入量:10又は20μL
【0029】
(3)実験結果
各分析用試料液中のルチン、ケンフェロールルチノシド、又はイソラムネチンルチノシドの定量結果を、原料の乾燥重量100g当たりの量に換算して表1~表3に示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0030】
イソラムネチンルチノシドは、アスパラガス一般栽培品種においてもハマタマボウキにおいても微量しか検出されなかったが、驚くべきことに、これらの交配後代の地上部には多量のイソラムネチンルチノシドが含まれていることが示された。特に当該交配後代の擬葉部分からは、高濃度でイソラムネチンルチノシドが抽出された。
【0031】
2.フラボノイド含量の測定2
アスパラガス一般栽培品種としてさぬきのめざめビオレッタ又はゼンユウガリバー、ハマタマボウキとして系統番号T70又はT71、アスパラガス一般栽培品種及びハマタマボウキの交配後代として系統番号SR1、SR2、KO、又はOKを使用した以外は、上記項目1(2)と同様にして各種フラボノイド含量を測定した。結果を表4~表6に示す。
【表4】
【表5】
【表6】
【0032】
上記項目1と同様に、本項の実験においても、イソラムネチンルチノシドは、アスパラガス一般栽培品種及びハマタマボウキの地上部には少なく、これらの交配後代の地上部、特にその擬葉部分には多く含まれていることが示された。
【0033】
3.加工安定性と抽出効率
A.オフィシナリスとA.キウシアナスとの交配後代(雌親×雄親=さぬきのめざめ×ハマタマボウキT71)の擬葉部分を以下の<1>~<7>のように加工して粉末を調製した。粉末化は、強力小型粉砕機(フォースミル、大阪ケミカル株式会社製)で行った。
<1>40gの擬葉を採取当日に凍結乾燥して13.3gの加工物を調製して粉末化
<2>50gの擬葉を採取当日に2分間蒸して手もみし、110℃に設定したホットプレート上で数分間加熱して手もみを2回繰り返し、再度ホットプレートで110℃数分処理した後に50℃で一晩加温して15.5gの加工物を調製して粉末化
<3>50gの擬葉を採取当日に手もみして、湿度約100%の加湿条件下で30℃で一晩加温して15.3gの加工物を調製して粉末化
<4>50gの擬葉を採取当日から30℃で一晩加温し、凍結乾燥して18.4gの加工物を調製して粉末化
<5>40gの擬葉を採取翌日に凍結乾燥して18.3gの加工物を調製して粉末化
<6>50gの擬葉を採取翌日に2分間蒸して手もみし、110℃に設定したホットプレート上で数分間加熱して手もみを2回繰り返し、再度110℃に設定したホットプレート上で数分間加熱した後に50℃で一晩加温して20.1gの加工物を調製して粉末化
<7>50gの擬葉を採取翌日に121℃で20分間オートクレーブし、19.5gの加工物を調製して粉末化
【0034】
それぞれの粉末に対して70%エタノール(含0.1%リン酸)を添加し、上記項目1(2)と同様にして10mLのエタノール抽出物を調製した。また、それぞれの粉末に対して90℃の熱水を10mL添加し、その直後、5分後、10分後、及び15分後に攪拌して熱水抽出物を調製した。各抽出液中のイソラムネチンルチノシドの濃度を、上記項目1(2)と同様にして測定した。結果を原料の乾燥重量100g当たりの量に換算して表7に示す。
【表7】
【0035】
加工方法1又は5と比較して、加工方法2~4、6、及び7では採取した擬葉に加熱や手もみなどの負荷をかけたが、依然として高濃度のイソラムネチンルチノシドが抽出された。また、加工方法5~7の結果から理解できるように、擬葉の採取当日に粉末化しなくても、イソラムネチンルチノシドは損なわれなかった。そして、イソラムネチンルチノシドは、前記擬葉を70%エタノール(含0.1%リン酸)及び超音波で処理しなくても、熱水中で攪拌するだけで十分に抽出された。なお、処理<2>の粉末化前の加工物は、いわゆる茶葉のような形状をしていたが、ここへ熱水を添加するだけでも、エタノール抽出物の50%程度の効率でイソラムネチンルチノシドを抽出することができた。したがって、前記擬葉を原料とすることで、高濃度でイソラムネチンルチノシドを含む抽出物を、簡単にかつ安定して調製することができる。
【0036】
以上より、A.オフィシナリスとA.キウシアナスとの交配後代の地上部から抽出物を調製することにより、イソラムネチンルチノシドを含む組成物を取得できることが分かった。したがって、前記交配後代の地上部の抽出物を、イソラムネチンルチノシドの生理作用を訴求する飲食品などの経口用組成物の原料として活用することが可能となる。