(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148480
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】函体の設置方法
(51)【国際特許分類】
E21D 9/04 20060101AFI20231005BHJP
E21D 9/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
E21D9/04 F
E21D9/06 311Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056525
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(71)【出願人】
【識別番号】000149206
【氏名又は名称】株式会社大阪防水建設社
(71)【出願人】
【識別番号】592069137
【氏名又は名称】植村技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101971
【弁理士】
【氏名又は名称】大畑 敏朗
(72)【発明者】
【氏名】福元 毅
(72)【発明者】
【氏名】山本 和幸
(72)【発明者】
【氏名】橘 勉
(72)【発明者】
【氏名】酒井 勇輝
(72)【発明者】
【氏名】坂 公博
(72)【発明者】
【氏名】中村 智哉
(72)【発明者】
【氏名】山下 康彦
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AB05
2D054AC15
2D054AC18
2D054AD23
2D054FA13
(57)【要約】
【課題】鋼管圧入時におけるFCプレートとの摩擦や函体進入時におけるFCプレートの伸縮に伴うFCプレートの上部の地山のずれを防止する。
【解決手段】刃口13が取り付けられた矩形断面の鋼管9に、ロール状に巻かれて上部から引き出し可能なシート状部材14が収納された収納管15を装着し、収納管15よりも刃口13と反対側の上面にFCプレート10を設置する鋼管圧入準備工程と、シート状部材14の一端を発進側に固定しておき、鋼管9の圧入で引き出されるシート状部材14をFCプレート10の上面に沿って設置しながら箱形ルーフ9Rを形成する箱形ルーフ形成工程と、シート状部材14およびFCプレート10を鋼管9から取り外して地山Eに残置する残置工程と、函体4をFCプレート10の下側に進入させ、箱形ルーフ9Rを地山Eから押し出して函体4を設置する函体設置工程とを実行する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山の函体設置予定領域に函体を非開削で設置する函体の設置方法であって、
矩形断面の鋼管をその発進側から地山へ圧入するにあたり、圧入方向先端に刃口が取り付けられた前記鋼管に、ロール状に巻かれて上部から引き出し可能になったシート状部材が収納された収納管を装着するとともに、前記収納管よりも前記刃口と反対側の上面にフリクションカット用の縁切板を設置する鋼管圧入準備工程と、
前記シート状部材の一端を前記函体設置予定領域の前記鋼管の発進側の支持壁に固定しておき、前記鋼管の圧入に伴って前記収納管から引き出される前記シート状部材を前記縁切板の上面に沿って設置しながら当該鋼管を前記函体設置予定領域の上部に沿って複数本隣接するように設置して箱形ルーフを形成する箱形ルーフ形成工程と、
前記シート状部材および前記縁切板を前記鋼管から取り外して地山に残置する残置工程と、
前記函体の発進側から該函体を地山の前記縁切板の下側に進入させ、前記箱形ルーフを地山から押し出しながら前記函体設置予定領域に当該函体を設置する函体設置工程と、
を実行することを特徴とする函体の設置方法。
【請求項2】
前記残置工程では、前記シート状部材の他端を前記函体設置予定領域の前記鋼管の到達側の支持壁に固定する、
ことを特徴とする請求項1記載の函体の設置方法。
【請求項3】
前記縁切板は、前記鋼管の圧入方向先端側が固定されて前記鋼管の上面に設置されており、
前記残置工程では、前記縁切板の少なくとも函体の発進側の端部を前記函体設置予定領域の外側に設けられた固定部材に固定する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の函体の設置方法。
【請求項4】
前記シート状部材の前記縁切板との接触面および前記縁切板の前記シート状部材との接触面の少なくとも一方の接触面には、前記縁切板と前記シート状部材との摩擦を低減する摩擦低減処理が施されている、
ことを特徴とする請求項1~3の何れか一項に記載の函体の設置方法。
【請求項5】
前記摩擦低減処理は、
前記接触面に予め滑剤が塗布またはコーティングされた処理である、
ことを特徴とする請求項4記載の函体の設置方法。
【請求項6】
前記箱形ルーフ形成工程では、
さらに、圧入方向先端に刃口が取り付けられた矩形断面の鋼管を前記函体設置予定領域の側面に沿って複数本隣接するように設置する、
ことを特徴とする請求項1~5の何れか一項に記載の函体の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、函体の設置方法に関し、供用中の施設の下の地山の函体設置予定領域に函体を非開削で設置する函体の設置方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道や道路など供用中の施設の下の地山に、地下構造物である函体(トンネル本体)を非開削で設置する施工法として、アンダーパス工法が知られている。アンダーパス工法は、地上の施設を使用したまま、その直下にトンネルを形成する技術であることから、地上面とトンネル上面の間隔が狭く、シールド工法等を使用できない場合に用いられる。
【0003】
アンダーパス工法に分類される技術の中に、例えば、R&C工法(Roof & Culverts Method)やSFT工法(Simple and Face-Less Method of Construction of Tunnel)がある。両工法は、地山の発進側から到達側までの函体設置予定領域の外周に沿って矩形断面の鋼管を複数本隣接するように設置して箱形ルーフ(パイプルーフ)を形成した後、箱形ルーフを地山から押し出しながら函体を進入させて函体設置予定領域に設置する工法である。
【0004】
これらの工法の場合、トンネル上面を形成する箱形ルーフ上には、FCプレートと呼ばれるフリクションカット用の鋼板(縁切板)が鋼管毎に設置されている。すなわち、FCプレートが上面に設置された鋼管が地山に圧入されて箱形ルーフを形成しており、鋼管を継ぎ足す際にはこのFCプレートも連続するように接合される。そして、鋼管が到達側まで達したら、函体設置予定領域の外側に設けられた固定部材にFCプレートの端部を固定する。また、箱形ルーフを押し出しながら函体を地山に進入させる際には、当該函体はFCプレートの下側を通すようにする。
【0005】
このとき、FCプレートがあることで、箱形ルーフと函体の上面とは上部の地山に接することがないので、函体の推進によって上部の地山の土砂が進行方向にずれが生じることがない。
【0006】
なお、アンダーパス工法による函体の設置方法については、例えば特許文献1に開示がある。この特許文献1はR&C工法についての発明であり、箱形ルーフ(鋼管)の上面にFCプレート(縁切板)を設けること、箱形ルーフの設置後にはFCプレートとの接合を除去して函体設置時にはFCプレートを残置することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、FCプレート(縁切板)の上面は、鋼管の圧入時に上部に位置する地山を乱さないように、摩擦が生じにくい状態であることが望ましい。また、FCプレートの下面は、函体の進入を妨げないように、摩擦が生じにくい状態であることが望ましい。
【0009】
しかしながら、FCプレートには上部の地山の荷重がかかることから、鋼管の圧入時にはFCプレートの上面に、函体の設置時にはFCプレートの下面に、摩擦力が生じることになる。
【0010】
すなわち、鋼管の圧入時には、上部の地山の荷重によりFCプレート上面と地山との間に摩擦力が働いて、FCプレートが当該地山を引き摺ってしまうことがある。また、函体の設置時には、FCプレートは函体上面との摩擦によって引っ張られるが、函体設置予定領域の外側に設けられた固定部材に固定されているために、上部の地山とともに函体の進入に伴って伸びることになる。FCプレートの伸びが大きくなり、その復元力がFCプレートと函体上部との静止摩擦力より大きくなると、両者の摩擦が切れてFCプレートは上載した地山をその場に残したまま一気に縮むことになる。
【0011】
そして、これらが繰り返されることで、FCプレート上の地山にずれが生じ、地上の施設に悪影響(例えば、道路が湾曲する)を及ぼすことが考えられる。
【0012】
本発明は、上述の技術的背景からなされたものであって、鋼管圧入時における当該鋼管上面に設置された縁切板との摩擦や函体進入時における縁切板の伸縮に伴う縁切板の上部の地山のずれを防止する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、請求項1記載の本発明の函体の設置方法は、地山の函体設置予定領域に函体を非開削で設置する函体の設置方法であって、矩形断面の鋼管をその発進側から地山へ圧入するにあたり、圧入方向先端に刃口が取り付けられた前記鋼管に、ロール状に巻かれて上部から引き出し可能になったシート状部材が収納された収納管を装着するとともに、前記収納管よりも前記刃口と反対側の上面にフリクションカット用の縁切板を設置する鋼管圧入準備工程と、前記シート状部材の一端を前記函体設置予定領域の前記鋼管の発進側の支持壁に固定しておき、前記鋼管の圧入に伴って前記収納管から引き出される前記シート状部材を前記縁切板の上面に沿って設置しながら当該鋼管を前記函体設置予定領域の上部に沿って複数本隣接するように設置して箱形ルーフを形成する箱形ルーフ形成工程と、前記シート状部材および前記縁切板を前記鋼管から取り外して地山に残置する残置工程と、前記函体の発進側から該函体を地山の前記縁切板の下側に進入させ、前記箱形ルーフを地山から押し出しながら前記函体設置予定領域に当該函体を設置する函体設置工程と、を実行することを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明は、上記請求項1記載の発明において、前記残置工程では、前記シート状部材の他端を前記函体設置予定領域の前記鋼管の到達側の支持壁に固定する、ことを特徴とする。
【0015】
請求項3に記載の発明は、上記請求項1または2に記載の発明において、前記縁切板は、前記鋼管の圧入方向先端側が固定されて前記鋼管の上面に設置されており、前記残置工程では、前記縁切板の少なくとも函体の発進側の端部を前記函体設置予定領域の外側に設けられた固定部材に固定する、ことを特徴とする。
【0016】
請求項4に記載の発明は、上記請求項1~3の何れか一項に記載の発明において、前記シート状部材の前記縁切板との接触面および前記縁切板の前記シート状部材との接触面の少なくとも一方の接触面には、前記縁切板と前記シート状部材との摩擦を低減する摩擦低減処理が施されている、ことを特徴とする。
【0017】
請求項5に記載の発明は、上記請求項4記載の発明において、前記摩擦低減処理は、前記接触面に予め滑剤が塗布またはコーティングされた処理である、ことを特徴とする。
【0018】
請求項6に記載の発明は、上記請求項1~5の何れか一項に記載の発明において、前記箱形ルーフ形成工程では、さらに、圧入方向先端に刃口が取り付けられた矩形断面の鋼管を前記函体設置予定領域の側面に沿って複数本隣接するように設置する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、鋼管の圧入時には、シート状部材によって縁切板が地山を引き摺らなくなり、函体進入時には、縁切板が伸縮してもシート状部材によって当該縁切板が上部の地山に影響を与えることがなくなる。これにより、鋼管の圧入時における当該鋼管上面に設置された縁切板との摩擦や函体進入時における縁切板の伸縮に伴う縁切板の上部の地山Eのずれを防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施の形態に係る函体の設置方法において実行される一工程を示す説明図である。
【
図2】
図1に続いて実行される工程を示す説明図である。
【
図3】本発明の一実施の形態に係る函体の設置方法において設置される函体の斜視図である。
【
図4】本発明の一実施の形態に係る函体の設置方法において地山に圧入される鋼管の先端部を示す斜視図である。
【
図8】地山に圧入されていくときの鋼管の内部を透かして示す側面図である。
【
図10】
図2に続いて実行される工程を示す説明図である。
【
図11】本発明の一実施の形態に係る函体の設置方法において設置された箱形ルーフを立坑から見た正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一例としての実施の形態について、図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための図面において、同一の構成要素には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0022】
本実施の形態の函体の設置方法を
図1~
図16を参照して説明する。なお、符号Rは路面上を走行する電車のレール(上り線と下り線)を示している。
【0023】
先ず、
図1に示すように、地山Eに仮土留杭(支持壁)1を打設した後、隣接する仮土留杭1の間を掘削することにより、レールRが設置された軌道を挟むように軌道の幅方向の両側に2つの立坑2を形成する。なお、これらの立坑2に挟まれた領域が後述する函体が設置される領域、つまり函体設置予定領域Sになる。函体設置予定領域Sには、必要に応じて地盤改良のための薬液を注入する。
【0024】
図示する場合には、図面左側の立坑2が函体の発進側の立坑、図面右側の立坑2が鋼管を圧入して箱形ルーフを設置するための箱形ルーフの発進側の立坑となっている。そして、函体の発進側の立坑を発進側立坑2a、箱形ルーフの発進側の立坑(つまり、函体の到達側となる立坑)を到達側立坑2bと称して説明する。なお、函体の発進側の立坑と箱形ルーフの発進側の立坑は逆でもよく、さらに函体の発進側の立坑と箱形ルーフの発進側の立坑とが同じであってもよい。
【0025】
次に、
図2に示すように、発進側立坑2aにおいては、発進台3を築造した後、当該発進台3上に函体4を築造し、函体4の進入方向先端部の周縁に地山Eを切削するための刃口Bmを設置する。一方、到達側立坑2bにおいては、発進台5を築造した後、当該発進台5上に後述の鋼管を推進する架台6を築造する。そして、鋼管の推進方向反対側の仮土留杭1に支圧体7を設置し、当該支圧体7で反力を取るようにして、架台6上に鋼管を地山Eに圧入するための推進ジャッキ8を据え付ける。次いで、図示しないクレーン車により架台6上に鋼管9を設置した後、図示しないクレーン車により鋼管9上にフリクションカット用の鋼板製のFCプレート(縁切板)10を設置する。そして、鋼管9を向かい側の発進側立坑2aに向かって推進ジャッキ8により推進して地盤壁面に圧入し、鋼管9を函体設置予定領域Sの上部に沿って複数本隣接するように設置する。
【0026】
ここで、
図3において、本実施の形態の函体の設置方法で設置される函体4を示す。
【0027】
函体4は、例えば、地下横断歩道のような構造物を構築する構造体であり、中空構造となっている。函体4は、上下(高さ)方向で対向する上部スラブ4aおよび下部スラブ4bと、これらの両端において横方向で対向する一対の側板4c,4dとを備えている。また、前後が開口部4eとして開放されている。複数の函体4を用いる場合、当該函体4の開口部4eを互いに連通させた状態で縦列配置する。
【0028】
函体4の正面の四隅近傍には、函体4の推進方向(鋼管9の長手方向)に沿って延びる定着材挿通孔4fが貫通した状態で形成されており、その定着材挿通孔4fの途中には、函体4の内側に開口した切り欠き溝4gが形成されている。隣接する函体構造物10同士を定着させるため、定着材挿通孔4fには定着材としてボルトが挿通され、切り欠き溝4gでナット締めされて定着される。
【0029】
さらに、上部スラブ4a、下部スラブ4bおよび側板4c,4dの中央部には、設置後にグラウト材を注入するためのグラウトホール4hが貫通した状態で形成されている。なお、函体4には、グラウトホール4hが形成されたものと形成されていないものとの2種類がある。
【0030】
なお、本実施の形態では3本の鋼管9を連結して到達側立坑2bから発進側立坑2aへ貫通させており(
図11参照)、推進ジャッキ8と鋼管9との間にストラット11およびスペーサ12を適宜配置して推進ジャッキ8の推進力を鋼管9に伝達している。但し、鋼管9の長さや到達側立坑2bから発進側立坑2aまでの距離によって鋼管9の連結本数は異なり、あるいは連結することなく1本の鋼管9で足りることも考えられるので、本実施の形態のように3本の鋼管9を連結することに限定されるものではない。
【0031】
ここで、地山Eに圧入される鋼管9について、
図4~
図9を用いて説明する。
図4は鋼管の先端部を示す斜視図、
図5は
図4のA-A線に沿った断面図、
図6は
図4の内部を透かして示す平面図、
図7は
図5のB-B線に沿った断面図、
図8は地山に圧入されていくときの鋼管内部を透かして示す側面図、
図9は
図8のC部を拡大して示す断面図である。
【0032】
図4~
図6に示すように、鋼管9は圧入方向の先端および後端(図示せず)が開口した矩形断面形状となっており、本実施の形態では、外側の幅が800mm、外側の高さが810mm、厚みが19mmとなっている。したがって、鋼管9の内部に作業者が入ることが可能な空間が確保されている。また、鋼管9の圧入方向先端には刃口13が取り付けられている。刃口13は、側面視で上側が先行するように傾斜して形成されて地山Eを掘削するフード型の刃先部13aと、刃先部13aが取り付けられて鋼管9と同じ矩形断面となった筒状の刃口取付部13bとからなる。そして、後述するように、圧入時には刃口取付部13b内に作業者Hが入り(
図8)、鋼管9の圧入面を掘削したり、掘削土砂を外部に排出する作業を行う。なお、鋼管9は上記寸法に限定されるものではなく、自由に設定することができる。
【0033】
鋼管9と刃口13との間には、ロール状に巻かれて上部から引き出し可能になったシート状部材14が収納された収納管15が設けられている。シート状部材14は、薄い鋼板で構成された強靱で柔軟な部材であり、引き出された部分が前述したFCプレート10の上面を覆うようになっている。なお、本実施の形態では、シート状部材14のFCプレート10との接触面には、予め滑剤が塗布またはコーティングされた摩擦低減処理が施されている。
【0034】
図7に示すように、収納管15内の刃口13側の四隅には、前後方向に延びたリブFaを備えるとともにボルト貫通用の締結孔Fbが形成されて内周が円弧状になった補強用のフランジFが設けられている。また、
図5および
図6に示すように、このようなフランジFは収納管15内の刃口13と反対側の四隅、および刃口13を構成する刃口取付部13b内の収納管15側の四隅にも設けられている。さらに、鋼管9先端内の四隅には、締結孔Fbの形成されたフランジFが設けられている。そして、
図8に示すように、ボルトとナットとで構成される締結具Jにより、締結孔Fbを介して鋼管9と収納管15とが締結され、刃口13と収納管15とが締結されている。なお、下面のFCプレートを切断するためにスリット管(図示せず)を使用する工法の場合は、スリット管と刃口13との間に収納管を設ける。
【0035】
さて、
図4および
図5に示すように、前述したFCプレート10は、鋼管9の圧入方向先端側が図示しない丸鋼を溶接して固定されており、収納管15よりも刃口13と反対側の鋼管9の上面に設置されている。
【0036】
そして、鋼管9を推進ジャッキ8で地盤壁面に圧入して発進側立坑2aに向かって推進する前に、当該鋼管9に対して、以上説明したように、圧入方向先端に刃口13を取り付け、ロール状に巻かれて上部から引き出し可能になったシート状部材14が収納された収納管15を装着し、FCプレート10を設置する(鋼管圧入準備工程)。
【0037】
さて、このような鋼管9を、
図2に示すように、推進ジャッキ8で推進して地山Eに圧入するに際しては、予めシート状部材14を引き出してその一端を函体設置予定領域Sの発進側の仮土留杭1(ここでは到達側立坑2bにおける函体設置予定領域S側の仮土留杭1)に固定しておく。これにより、
図8および
図9に示すように、鋼管9の推進を行うと、当該鋼管9の推進に伴って収納管15からシート状部材14が引き出されてFCプレート10の上面に沿って設置されていく。そして、前述のように、鋼管9を函体設置予定領域Sの上部に沿って複数本隣接するように設置して箱形ルーフを形成する(箱形ルーフ形成工程)。
【0038】
このように、鋼管9の推進に伴ってシート状部材14が引き出されてFCプレート10の上面に沿って設置されていくので、FCプレート10と上部に位置する地山Eとの接触がシート状部材14によって遮断されてFCプレート10に摩擦力が生じることがなくなる。つまり、収納管15から引き出されたシート状部材14は、その場にとどまるだけで移動しないので、このようなシート状部材14がFCプレート10と地山Eとの間に介在することによって、鋼管9の推進時において、上部の地山Eの荷重によりFCプレート10が当該地山Eを引き摺ってずれが生じてしまうことがなくなる。
【0039】
また、シート状部材14のFCプレート10との接触面には摩擦低減処理が施されているので、鋼管9とともに推進されるFCプレート10がシート状部材14に対して滑りやすくなって、前述した鋼管9の推進時におけるFCプレート10による地山Eのずれをより確実に防止できるとともに、鋼管9を地山E中にスムーズに推進させることができる。なお、必ずしもシート状部材14に摩擦低減処理が施されていなくてもよいが、スムーズに鋼管9を推進させるためには、当該処理が施されているのが望ましい。
【0040】
なお、鋼管9を推進するときには、
図8に示すように、刃口取付部13b内に作業者Hが入り、鋼管9の圧入面を掘削したり、鋼管9内を走行するトロッコや鋼管9内に設置されたオーガ等によって圧入時に生じた掘削土砂を外部へと排出する作業を行う。
【0041】
箱形ルーフを形成したならば、次に、FCプレート10およびシート状部材14を鋼管9から取り外して地山Eに残置する(残置工程)。
【0042】
すなわち、一端が函体設置予定領域Sの発進側の仮土留杭1(ここでは到達側立坑2bにおける函体設置予定領域S側の仮土留杭1)に固定されたシート状部材14の反対側を切断して、収納管15と当該収納管15に取り付けられた刃口13を取り外す。そして、シート状部材14の他端(切断端)を函体設置予定領域Sの到達側の仮土留杭1(ここでは発進側立坑2aにおける函体設置予定領域S側の仮土留杭1)に固定して地山E中に残置する。また、FCプレート10を鋼管9から取り外し、少なくとも函体の発進側の端部を函体設置予定領域Sの両端に設けられた仮土留杭1の外側の函体の発進側に設置された固定部材(図示せず)に固定して地山E中に残置する。そして、前述のように、シート状部材14をFCプレート10の上面に沿って設置しながら鋼管9を推進しているので、FCプレート10と地山Eとの間にシート状部材14が介在した状態で残置される。
【0043】
本実施の形態において、FCプレート10の函体の発進側の端部を函体設置予定領域Sの函体の外側の発進側に設置された固定部材に固定するとしているが、FCプレート10の両端を函体設置予定領域Sの両端に設置された固定部材に固定してもよい。
【0044】
なお、この残置工程と前述した箱形ルーフ形成工程とは交互に行ってもよい。つまり、箱形ルーフの形成が完了してから残置工程を行うのではなく、1本または複数本の鋼管9を函体設置予定領域Sに貫通させるごとに、FCプレート10およびシート状部材14を地山Eに残置する。また、次に述べるように、門型の箱形ルーフを形成する本実施の形態の場合、門型ルーフの形成後、函体4の推進前に残置工程を行ってもよい。
【0045】
ここで、箱形ルーフの形状には、このように、鋼管9を函体設置予定領域Sの上部に沿って複数本隣接するように横一列に設置した一文字型や、さらに、この一文字型の両側から鋼管9を縦一列に複数本隣接するように設置した(つまり、鋼管9を函体設置予定領域Sの側面に沿って複数本隣接するように設置した)した門型などがある。つまり、一文字型も箱形ルーフの形状であるため、鋼管9を一文字型に設置した工程を「箱形ルーフ形成工程」と称している。但し、本実施の形態では、門型の箱形ルーフを形成していることから、門型の箱形ルーフが形成された段階で再度「箱形ルーフ形成工程」と称している。
【0046】
さて、このようにして、到達側立坑2b側から函体設置予定領域Sの上部に沿って鋼管9を設置する作業を行ったならば、
図10に示すように、架台6の高さを徐々に低くしながら、刃口13が取り付けられた矩形断面の鋼管9を函体設置予定領域Sの側面に沿って複数本隣接するように設置して門型の箱形ルーフを形成する(箱形ルーフ形成工程)。
【0047】
複数の鋼管9で構成された門型の箱形ルーフ9Rを
図11に示す。図示するように、箱形ルーフ9Rの上面にはFCプレート10が位置し、さらにFCプレート10の上面には当該FCプレート10を覆うシート状部材14が位置している。
【0048】
なお、函体設置予定領域Sの側面に沿って縦一列に設置される鋼管9には、函体設置予定領域Sの上部に沿って横一列に設置される鋼管9とは異なり、FCプレート10やシート状部材14が収納された収納管15は設けられない。これは、函体設置予定領域Sの側面に沿って設置される鋼管9は上部の地山Eとは接触しないからである。但し、縦一列に配置された鋼管9が横方向の地山Eから受ける土圧の影響を軽減する観点から、FCプレート10、あるいはFCプレート10とシート状部材14が収納された収納管15を地山E側に設けてもよい。
【0049】
さて、箱形ルーフ9Rを形成したならば、
図12に示すように、到達側立坑2b側では、箱形ルーフ9Rの形成に用いられた設備(架台6、支圧体7、推進ジャッキ8、ストラット11、スペーサ12など)を撤去し、進入する函体4の姿勢を制御するためのガイド導坑16を施工する。また、発進側立坑2a側では、函体4を函体設置予定領域Sに進入させるための井桁枠の反力壁17を築造する。なお、
図12~
図15においては、図面の煩雑化回避のため、縦列に設置された鋼管9は省略されている。
【0050】
次に、
図13に示すように、函体4の推進設備を構築する。発進側立坑2a側では、函体4と反力壁17との間に元押しジャッキ18を設置し、到達側立坑2b側では、箱形ルーフ撤去架台19を設置する。なお、前述のように、この段階で、FCプレート10およびシート状部材14を地山Eに残置する残置工程を実行してもよい。
【0051】
次に、
図14に示すように、元押しジャッキ18と函体4との間にスペーサ20を設置し、当該スペーサ20を介して元押しジャッキ18で函体4を函体設置予定領域Sへ向けて前進させる。そして、函体4の先端に設置された刃口Bmを地盤壁面に貫入させる。
【0052】
そして、
図15およびこれに続く
図16に示すように、元押しジャッキ18と函体4との間にスペーサ20およびストラット21を適宜増設しながら元押しジャッキ18で函体4を函体設置予定領域S内へと進入させ、これに伴って箱形ルーフ9Rを地山Eから到達側立坑2b側に設置された箱形ルーフ撤去架台19上に押し出しながら函体設置予定領域Sに函体4を設置する(函体設置工程)。押し出された箱形ルーフ9Rはクレーン車(図示せず)等により撤去する。
【0053】
函体4が函体設置予定領域Sに設置されたならば、函体4同士を定着材挿通孔4fに挿通させて設置したボルトとナットで接合した後、函体4に設置された刃口Bmを取り外し、発進側立坑2a側に設置していた函体を進入させるための設備(反力壁17、元押しジャッキ18、スペーサ20、ストラット21)および到達側立坑2b側に設置していた箱形ルーフ撤去架台19を撤去する。さらに函体4の外周に裏込めグラウトを注入する。なお、函体4を函体設置予定領域Sに複数設置する場合には、全ての函体を設置した後に、これらの作業を行う。
【0054】
ここで、前述した残置工程において、FCプレート10およびシート状部材14が地山Eに残置されており、函体設置工程では、函体をFCプレート10の下側に進入させていく。このとき、前述のように、FCプレート10と上部の地山Eとの間にはシート状部材14が介在してFCプレート10と地山Eとの接触が断たれており、函体4を設置する際に当該函体4との摩擦でFCプレート10が伸縮してもシート状部材14は移動したり変形したりしないので、当該FCプレート10が上部の地山Eに影響を与えることがなくなって地山Eのずれが防止される。
【0055】
よって、前述したように、シート状部材14によって鋼管9の圧入時においてFCプレート10が地山Eを引き摺らなくなることと相俟って、鋼管9の圧入時における当該鋼管9上面に設置されたFCプレート10との摩擦や函体4の進入時におけるFCプレート10の伸縮に伴うFCプレート10の上部の地山Eのずれを防止することが可能になる。これにより、FCプレート10上の地山Eにずれが生じて、地上の施設に悪影響を及ぼすおそれがなくなる。
【0056】
なお、シート状部材14のFCプレート10との接触面には摩擦低減処理が施されているので、FCプレート10がシート状部材14に対して滑りやすくなって、函体4の進入時にFCプレート10が伸縮した際の影響をより確実にシート状部材14に与えなくなり、結果的に、函体4の進入時のFCプレート10の伸縮に伴う当該FCプレート10の上部の地山Eのずれを一層確実に防止することができる。
【0057】
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づき具体的に説明したが、本明細書で開示された実施の形態はすべての点で例示であって、開示された技術に限定されるものではない。すなわち、本発明の技術的な範囲は、前記の実施の形態における説明に基づいて制限的に解釈されるものでなく、あくまでも特許請求の範囲の記載に従って解釈されるべきであり、特許請求の範囲の記載技術と均等な技術および特許請求の範囲の要旨を逸脱しない限りにおけるすべての変更が含まれる。
【0058】
例えば、本実施の形態では、シート状部材14のFCプレート10との接触面に、予め滑剤が塗布またはコーティングされた摩擦低減処理が施されているが、FCプレート10のシート状部材14との接触面、あるいはシート状部材14のFCプレート10との接触面およびFCプレート10のシート状部材14との接触面という両方の接触面にこのような摩擦低減処理が施されていてもよい。
【0059】
また、摩擦低減処理は滑剤の塗布やコーティングに限られるものではなく、接触面を平滑に仕上げる等、摩擦が発生しにくくなっていればよい。なお、シート状部材14は収納管15から引き出されてその場にとどまるだけで移動しないことから、当該シート状部材14の上面(つまり、地山Eとの接触面)は摩擦の問題は発生しないので、摩擦低減処理等のような摩擦が発生しにくくなる処理は不要である。
【0060】
さらに、本実施の形態では、複数の函体4を連結して用いる場合について説明しているが、函体4は1つの部材からなる場合も同様の方法で施工できる。その場合は、定着材挿通孔4fや切り欠き溝4gは設ける必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、R&C工法に限定的に適用されるものではなく、地山に形成した箱形ルーフを押し出しながら函体を進入させて函体設置予定領域に設置する他の工法(SFT工法など)に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0062】
1 仮土留杭(支持壁)
2 立坑
2a 発進側立坑
2b 到達側立坑
3 発進台
4 函体
5 発進台
6 架台
7 支圧体
8 推進ジャッキ
9 鋼管
9R 箱形ルーフ
10 FCプレート(縁切板)
11 ストラット
12 スペーサ
13 刃口
13a 刃先部
13b 刃口取付部
14 シート状部材
15 収納管
16 ガイド導坑
17 反力壁
18 元押しジャッキ
19 箱形ルーフ撤去架台
20 スペーサ
21 ストラット
Bm 刃口
E 地山
F フランジ
Fa リブ
Fb 締結孔
J 締結具
S 函体設置予定領域