(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148490
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】熱伝導性フィラー、熱伝導性フィラーの製造方法および熱伝導性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20231005BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20231005BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20231005BHJP
H01M 10/613 20140101ALN20231005BHJP
H01M 10/625 20140101ALN20231005BHJP
H01M 10/653 20140101ALN20231005BHJP
H01M 10/651 20140101ALN20231005BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C08L83/04
C08K3/22
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/653
H01M10/651
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056539
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】能見 勝也
(72)【発明者】
【氏名】梛良 積
(72)【発明者】
【氏名】西山 雅史
【テーマコード(参考)】
4J002
5H031
【Fターム(参考)】
4J002CP031
4J002DE146
4J002FD206
4J002GN00
4J002GQ00
5H031EE02
5H031EE03
5H031EE04
5H031HH08
(57)【要約】
【課題】工業的に入手が容易な電融アルミナ粒子を含み、熱伝導性に優れ、樹脂への充填性が高く、樹脂に添加しても樹脂の硬さを過剰に上昇させにくい熱伝導性フィラーとその製造方法、および、熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い熱伝導性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱伝導性フィラーは、粗大無機粒子と、小径無機粒子とを含み、前記粗大無機粒子は、平均粒径が20μm以上50μm以下の範囲内にある大径電融アルミナ粒子と、平均粒径が1.0μm以上10μm以下の範囲内にある中径無機粒子とを質量比で60:40~100:0の割合で含み、前記小径無機粒子の平均粒径が0.1μm以上1.0μm未満の範囲内にあって、前記小径無機粒子の含有率が15質量%以上30質量%以下の範囲内にある。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗大無機粒子と、小径無機粒子とを含み、
前記粗大無機粒子は、平均粒径が20μm以上50μm以下の範囲内にある大径電融アルミナ粒子と、平均粒径が1.0μm以上10μm以下の範囲内にある中径無機粒子とを質量比で60:40~100:0の割合で含み、
前記小径無機粒子の平均粒径が0.1μm以上1.0μm未満の範囲内にあって、
前記小径無機粒子の含有率が15質量%以上30質量%以下の範囲内にある熱伝導性フィラー。
【請求項2】
20℃における熱伝導率が30W/mK以上である請求項1に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項3】
シリコーン樹脂100質量部に1100質量部を加えたときのアスカーC硬度計による硬さが65以下である請求項1または2に記載の熱伝導性フィラー。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の熱伝導性フィラーの製造方法であって、
平均粒径が20μm以上50μm以下の範囲内にある大径電融アルミナ粒子と、平均粒径が1.0μm以上10μm以下の範囲内にある中径無機粒子と、平均粒径が0.1μm以上1.0μm未満の範囲内にある小径無機粒子とを、前記大径電融アルミナ粒子と前記中径無機粒子とを質量比で60:40~100:0の割合で、かつ前記小径無機粒子の含有率が15質量%以上30質量%以下の範囲内となる量で混合する熱伝導性フィラーの製造方法。
【請求項5】
樹脂と、請求項1から3のいずれか1項に記載の熱伝導性フィラーとを含む熱伝導性樹脂組成物。
【請求項6】
40℃における熱伝導率が3.25W/mK以上である請求項5に記載の熱伝導性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性フィラー、熱伝導性フィラーの製造方法および熱伝導性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車、燃料電池自動車などの進展に伴って、電気部品の大電流化が進んでおり、電気部品から生じる発熱量も増加しつつある。例えば、自動車用のリチウムイオンバッテリは、大電流の電力を長時間連続して出力するために発熱量が多くなり、生じた多量の熱を効率的に外部に放熱する必要がある。このため、リチウムイオンバッテリなど大電流を出力する電気部品の絶縁性が必要な部分における放熱部材として、熱伝導性に優れた熱伝導性樹脂組成物を用いることがある。
【0003】
従来、熱伝導性樹脂組成物としては、絶縁性や成形性に優れた樹脂材料に、熱伝導性に優れた熱伝導性フィラーを分散させたものが挙げられる。熱伝導性フィラーとしては、電融アルミナ(Al2O3)や炭化ケイ素(SiC)などの無機材料が知られている(特許文献1)。特許文献1には、熱伝導性フィラーとして、平均粒径が10μmより大きく60μm以下のαアルミナ(電融アルミナ)および平均粒径10μm以下の炭化ケイ素が記載されている。また、熱伝導性フィラーとして、大小2種類の平均粒径を有する熱伝導性フィラーを混合して用いることが検討されている(特許文献2)。特許文献2には、大小2種類の平均粒径を有する熱伝導性フィラーとして、平均粒径50~100μmの炭化ケイ素と平均粒径10μm以下の炭化ケイ素とを、重量比1:1~3:1の割合で混合して用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-304946号公報
【特許文献2】特開2004-6981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱伝導性樹脂組成物において用いる熱伝導性フィラーは、工業的に入手が容易な材料であって、熱伝導性に優れ、樹脂への充填性が高く、樹脂に添加しても樹脂の硬さを過剰に上昇させにくいものであることが望ましい。特許文献1に記載されている電融アルミナは工業的に入手が容易な材料であるが、電融アルミナ単独では熱伝導性を向上させるには限界がある。また、特許文献2に記載されている炭化ケイ素は電融アルミナと比較して高い熱伝導性を有するが、樹脂に高充填するのが難しい。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、工業的に入手が容易な材料を用い、熱伝導性に優れ、樹脂への充填性が高く、樹脂に添加しても樹脂の硬さを過剰に上昇させにくい熱伝導性フィラーとその製造方法、および、熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い熱伝導性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の熱伝導性フィラーは、粗大無機粒子と、小径無機粒子とを含み、前記粗大無機粒子は、平均粒径が20μm以上50μm以下の範囲内にある大径電融アルミナ粒子と、平均粒径が1.0μm以上10μm以下の範囲内にある中径無機粒子とを質量比で60:40~100:0の割合で含み、前記小径無機粒子の平均粒径が0.1μm以上1.0μm未満の範囲内にあって、前記小径無機粒子の含有率が15質量%以上30質量%以下の範囲内にある構成とされている。
【0008】
以上のような構成とされた本発明の熱伝導性フィラーによれば、粗大無機粒子の粒子間の空隙に、平均粒径が0.1μm以上1.0μm未満の範囲内にある微細な小径無機粒子が介在するので熱伝導性が高くなる。また、本発明の熱伝導性フィラーによれば、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子と小径無機粒子の含有量が上記の範囲内とされているので、樹脂に添加しときに樹脂の硬度を過度に上昇することが起こりにくい。さらに、本発明の熱伝導性フィラーで用いる大径電融アルミナ粒子は、工業的に入手が容易である。よって、本発明の熱伝導性フィラーを用いることによって、熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い熱伝導性樹脂組成物を低コストに得ることができる。
【0009】
ここで、本発明の熱伝導性フィラーにおいては、20℃における熱伝導率が30W/mK以上である構成とされていてもよい。
この場合は、熱伝導性に優れた熱伝導性樹脂組成物をより確実に得ることができる。
【0010】
本発明の熱伝導性フィラーにおいては、シリコーン樹脂100質量部に1100質量部を加えたときのアスカーC硬度計による硬さが65以下である構成とされていてもよい。
この場合は、シリコーン樹脂に添加したときの樹脂の硬度が上記の値であるので、シリコーン樹脂以外の種々の樹脂に対しても硬さを過剰に上昇させずに添加することができる。
【0011】
本発明の熱伝導性フィラーの製造方法は、上記本発明の熱伝導性フィラーの製造方法であって、平均粒径が20μm以上50μm以下の範囲内にある大径電融アルミナ粒子と、平均粒径が1.0μm以上10μm以下の範囲内にある中径無機粒子と、平均粒径が0.1μm以上1.0μm未満の範囲内にある小径無機粒子とを、前記大径電融アルミナ粒子と前記中径無機粒子とを質量比で60:40~100:0の割合で、かつ前記小径無機粒子の含有率が15質量%以上30質量%以下の範囲内となる量で混合する構成とされている。
以上のような構成とされた本発明の熱伝導性フィラーの製造方法によれば、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子と小径無機粒子を上記の割合で混合するので、上記本発明の熱伝導性フィラーを工業的に有利に製造することができる。
【0012】
本発明の熱伝導性樹脂組成物は、樹脂と、上記本発明の熱伝導性フィラーとを含む構成とされている。
以上のような構成とされた本発明の熱伝導性樹脂組成物は、上記本発明の熱伝導性フィラーを含むので、熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い。
【0013】
ここで、本発明の熱伝導性樹脂組成物においては、40℃における熱伝導率が3.25W/mK以上である構成とされていてもよい。
この場合、熱伝導性樹脂組成物は、40℃における熱伝導率が高いので、リチウムイオンバッテリなど大電流を出力する電気部品の放熱部材として有利に使用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、工業的に入手が容易な電融アルミナ粒子を含み、熱伝導性に優れ、樹脂への充填性が高く、樹脂に添加しても樹脂の硬さを過剰に上昇させにくい熱伝導性フィラーとその製造方法、および、熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い熱伝導性樹脂組成物を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例で使用した大径電融アルミナ粒子の粒度分布である。
【
図2】実施例で使用した中径無機粒子の粒度分布である。
【
図3】実施例で使用した小径無機粒子の粒度分布である。
【
図4】本発明例1で作製した混合粉末の粒度分布の推定値である。
【
図5】本発明例1~6および比較例1~3で作製した混合粉末の組成を示す三角図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態の熱伝導性フィラー、熱伝導性フィラーの製造方法および熱伝導性樹脂組成物について説明する。なお、以下に示す実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0017】
(熱伝導性フィラー)
熱伝導性フィラーは、粗大無機粒子と、小径無機粒子とを含む。粗大無機粒子は、平均粒径が20μm以上50μm以下の範囲内にある大径電融アルミナ粒子と、平均粒径が1.0μm以上10μm以下の範囲内にある中径無機粒子とを質量比で60:40~100:0の割合で含む。小径無機粒子の平均粒径は0.1μm以上1.0μm未満の範囲内にある。大径電融アルミナ粒子、中径無機粒子、小径無機粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱式の粒度分布測定装置(MT3300EXII:マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて測定された値である。小径無機粒子の含有率は15質量%以上30質量%以下の範囲内にある。
【0018】
大径電融アルミナ粒子は、粒子の形状は特に制限はなく、例えば、球状、立方形状および不定形であってもよい。大径電融アルミナ粒子は、工業的に入手が容易な破砕品であってもよい。粒子大径電融アルミナ粒子の平均粒径は、25μm以上45μm以下の範囲内にあることが好ましく、30μm以上40μm以下の範囲内にあることが更に好ましい。
【0019】
中径無機粒子は、粒子の形状は特に制限はなく、例えば、球状、立方形状および不定形であってもよい。中径無機粒子は、20℃における熱伝導率が30W/mK以上の材料からなることが好ましい。中径無機粒子の材料としては、例えば、炭化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛を用いることができる。中径無機粒子の平均粒径は、2μm以上6μm以下の範囲内にあることが好ましく、3μm以上5μm以下の範囲内にあることが更に好ましい。
【0020】
小径無機粒子は、粒子の形状は特に制限はなく、例えば、球状、立方形状および不定形であってもよい。小径無機粒子は、20℃における熱伝導率が30W/mK以上の材料からなることが好ましい。小径無機粒子の材料としては、例えば、炭化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛を用いることができる。小径無機粒子の平均粒径は、0.20μm以上0.80μm以下の範囲内にあることが好ましく、0.30μm以上0.70μm以下の範囲内にあることが更に好ましい。
【0021】
本実施形態の熱伝導性フィラーにおいて、大径電融アルミナ粒子の平均粒径に対する中径無機粒子の平均粒径の比は、8/10以下であることが好ましく、5/10以下であることがより好ましく、3/10以下であることが特に好ましい。また、大径電融アルミナ粒子の平均粒径に対する中径無機粒子の平均粒径の比は1/20以上であることが好ましい。さらに、大径電融アルミナ粒子の平均粒径に対する小径無機粒子の平均粒径の比は、9/100以下であることが好ましく、6/100以下であることがより好ましく、4/100以下であることが特に好ましい。また、大径電融アルミナ粒子の平均粒径に対する小径無機粒子の平均粒径の比は1/200以上であることが好ましい。
【0022】
本実施形態の熱伝導性フィラーでは、粗大無機粒子の粒子間(大径電融アルミナ粒子同士の間、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子との間、中径無機粒子同士の間)の空隙内に小径無機粒子が介在することによって、導電性が向上する。粗大無機粒子の粒子間の空隙に小径無機粒子を介在させやすくするために、本実施形態では、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子の含有量比を質量比で60:40~100:0の割合と設定されている。大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子との含有量比(質量比)は、80:20~100:0の割合であることが好ましく、80:20~90:10の割合であることがより好ましい。また、小径無機粒子の含有量が少なくなりすぎると、粗大無機粒子の粒子間に介在する小径無機粒子が少なくなり導電性の向上効果が低くなり、小径無機粒子の含有量が多くなりすぎると熱伝導性樹脂組成物の樹脂中に小径無機粒子が分散して、熱伝導性樹脂組成物の硬度が過度に高くなるおそれがある。このため、本実施形態では、熱伝導性フィラー全体に対する小径無機粒子の含有率は15質量%以上30質量%以下の範囲内と設定されている。小径無機粒子の含有率は、20質量%以上30質量%以下の範囲内にあることが好ましい。なお、本実施形態の熱伝導性フィラーでは、熱伝導性フィラー全体の粒度分布がピークを2つ以上有することが好ましい。ピークを2つ有する二峰性であることが好ましく、ピークを3つ有する三峰性であることがより好ましい。粒度分布が二峰性以上であることで、粒度の異なる粒子が隙間に入りやすくより充填量を多くすることができる。
【0023】
本実施形態の熱伝導性フィラーは、熱伝導性フィラー全体として熱伝導率が30W/mK以上であることが好ましい。熱伝導性フィラーを構成する大径電融アルミナ粒子、中径無機粒子および小径無機粒子のそれぞれの熱伝導率が30W/mK以上であることがより好ましい。
【0024】
本実施形態の熱伝導性フィラーは、樹脂100質量部に対して600質量部以上1500質量部以下の範囲内で添加することが好ましく、800質量部以上1300質量部以下の範囲内で添加することが更に好ましい。本実施形態の熱伝導性フィラーの添加量が上記の範囲内にあると、熱伝導性樹脂組成物の硬さを過度に上昇させずに、熱伝導率を向上させることができる。本実施形態の熱伝導性フィラーは、シリコーン樹脂100質量部に1100質量部を加えたときのアスカーC硬度計による硬さが65以下であることが好ましい。
【0025】
以上のような構成とされた本実施形態の熱伝導性フィラーによれば、粗大無機粒子の粒子間の空隙に、平均粒径が0.1μm以上1.0μm未満の範囲内にある微細な小径無機粒子が介在するので熱伝導性が高い。また、本実施形態の熱伝導性フィラーによれば、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子と小径無機粒子の含有量が上記の範囲内とされているので、樹脂に添加しときに樹脂の硬度が過度に高くなりにくい。さらに、本実施形態の熱伝導性フィラーで用いる大径電融アルミナ粒子は、工業的に入手が容易である。よって、本実施形態の熱伝導性フィラーを用いることによって、熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い熱伝導性樹脂組成物を低コストに得ることができる。
【0026】
本実施形態の熱伝導性フィラーにおいて、20℃における熱伝導率が30W/mK以上である場合は、より確実に熱伝導性に優れた熱伝導性樹脂組成物を得ることができる。また、本実施形態の熱伝導性フィラーにおいて、シリコーン樹脂100質量部に1100質量部を加えたときのアスカーC硬度計による硬さが65以下である場合には、シリコーン樹脂以外の種々の樹脂に対しても硬さを過剰に上昇させずに添加することができる。
【0027】
(熱伝導性フィラーの製造方法)
本実施形態の熱伝導性フィラーの製造方法では、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子と小径無機粒子とを混合する。大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子と小径無機粒子の混合順序に制限はない。例えば、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子と小径無機粒子を同時に混合してもよいし、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子の混合物と小径無機粒子とを混合してもよいし、中径無機粒子と小径無機粒子の混合物と大径電融アルミナ粒子とを混合してもよいし、大径電融アルミナ粒子と小径無機粒子の混合物と中径無機粒子とを混合してもよい。また、混合は、乾式で行ってもよいし、湿式で行ってもよい。
【0028】
大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子の混合割合は、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子との質量比で60:40~100:0、好ましくは80:20~100:0、より好ましくは80:20~90:10となる割合である。小径無機粒子の混合割合は、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子と小径無機粒子の合計量に対する小径無機粒子の含有率が15質量%以上30質量%以下の範囲内、好ましくは20質量%以上30質量%以下の範囲内となる割合である。
【0029】
以上のような構成とされた本実施形態の熱伝導性フィラーの製造方法によれば、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子と小径無機粒子を上記の割合で混合するので、本実施形態の熱伝導性フィラーを工業的に有利に製造することができる。
【0030】
(熱伝導性樹脂組成物)
本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、樹脂と本実施形態の熱伝導性フィラーとを含む。熱伝導性樹脂組成物は、例えば、樹脂100質量部に対して熱伝導性フィラーを600質量部以上1500質量部以下の範囲内で含んでいてもよい。40℃における熱伝導率が3.25W/mK以上であることが好ましく、3.40W/mK以上であることがより好ましい。
【0031】
熱伝導性樹脂組成物に含まれる樹脂としては、特に限定されるものではなく、公知の樹脂を用いることができる。樹脂は熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。樹脂の例としては、炭化水素系樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、キシレンホルムアルデヒド樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。なお、本実施形態において、樹脂はゴムを含む。
【0032】
以上のような構成とされた本実施形態の熱伝導性樹脂組成物は、本実施形態の熱伝導性フィラーを含むので、熱伝導性に優れ、かつ硬さが低い。このため、種々の部品の放熱部材として用いることができる。特に、40℃における熱伝導率が3.25W/mK以上である熱伝導性樹脂組成物は、リチウムイオンバッテリなど大電流を出力する電気部品の放熱部材として有利に使用することができる。
【0033】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【実施例0034】
以下に、本発明の有効性を確認するために行った確認実験の結果について説明する。
本実施例で使用した大径電融アルミナ粒子、中径無機粒子、小径無機粒子は、下記のとおりである。なお、粒度分布は、レーザー回折散乱式の粒度分布測定装置(MT3300EXII:マイクロトラック・ベル株式会社)を用いて測定した。
(1)大径電融アルミナ粒子
平均粒径が33.3μmで、20℃における熱伝導率が30W/mK以上のアルミナ粒子。
図1に粒度分布を示す。
(2)中径無機粒子
平均粒径が3.9μmで、20℃における熱伝導率が30W/mK以上の低ソーダアルミナ粒子。
図2に粒度分布を示す。
(3)小径無機粒子
平均粒径が0.49μmで、20℃における熱伝導率が30W/mK以上の低ソーダアルミナ粒子。
図3に粒度分布を示す。
【0035】
[実験例1]
大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子の含有量比(質量比)と、小径無機粒子の含有率が下記の表1に示す値となるように、各粒子を秤量して乳鉢に投入し、乳棒を用いて混合して混合粉末を作製した。
シリコーンゴム(KE-1051J A、信越化学工業株式会社製)0.5gを容器に入れ、上記の混合粉末を0.5gずつ添加して遠心脱泡機で2000rpm、2分間混錬した。得られた混合物を指で触って、脆くて成形できない状態となったときの混合粉末の添加量を限界充填量とした。この結果を、下記の表1に示す。
【0036】
【0037】
表1の結果から、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子の配合量(質量比)が60:40~100:0の割合で、小径無機粒子の含有率が15質量%以上30質量%以下の範囲内にある混合物は、限界充填量が1300質量部以上であり、シリコーンゴムへの充填量が高いことが確認された。
【0038】
[本発明例1]
大径電融アルミナ粒子を68質量%、中径無機粒子を17質量%、小径無機粒子を15質量%の割合で、乳棒と乳鉢を用いて混合して混合粉末を作製した。得られた混合粉末は、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子の含有量比が80:20である。
シリコーンゴム(KE-1051J A)1gとシリコーンゴム(KE-1051J B)1gとを含むゴム混合物に、上記の混合粉末を数gずつ添加して遠心脱泡機で2000rpm、2分間混錬する操作を繰り返して、ゴム混合物に合計22gの混合粉末を添加した。混合粉末を添加したゴム混合物を、室温(25℃)で24時間静置して硬化させて樹脂組成物を得た。
【0039】
大径電融アルミナ粒子、中径無機粒子および小径無機粒子の粒度分布とその配合量から本発明例1で得られた混合粉末の粒度分布の推定値を算出した。その結果を
図4に示す。
図4から本発明例1で得られた混合粉末は、33.3μm、3.9μm、0.49μmの3か所にピークを有することがわかる。
【0040】
[本発明例2~6、比較例1~3]
混合粉末の大径電融アルミナ粒子、中径無機粒子、小径無機粒子の割合を、下記の表2に記載されている割合としたこと以外は本発明例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0041】
表1には、本発明例1~6、比較例1~3で作製した混合粉末の大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子の含有量比(質量比)を示した。
図5に、本発明例1~6、比較例1~3で作製した混合粉末の組成を示す三角図を示す。
【0042】
[評価]
本発明例1~6、比較例1~3で得られた樹脂組成物について、熱伝導率と硬さを次のようにして測定した。その結果を、表1に示す。
【0043】
(熱伝導率)
硬化後の樹脂組成物を28mm×28mm×3mmと、28mm×28mm×5mmとに成形し、熱伝導率測定装置(IE-1237、岩崎通信機株式会社製)を用いて測定した。測定条件としては、装置の高温側を80℃、低温側を15℃とし、サンプルの温度が約40℃で測定した。3mmの樹脂組成物の熱伝導率と、5mmの厚みの樹脂組成物の熱伝導率との平均を、樹脂組成物の40℃における熱伝導率とした。
(硬さ)
本発明例の樹脂組成物は、硬化後も変形可能であるため、樹脂組成物をハンドプレスで厚さ7mmに成形して硬さ測定用の試料を作製した。得られた試料の硬さを、アスカーC硬度計を用いて測定した。
【0044】
【0045】
表2の結果から、大径電融アルミナ粒子と中径無機粒子と小径無機粒子の含有量が本発明の範囲内にある混合粉末を用いた本発明例1~6で得られた樹脂組成物は、熱伝導率が3.25W/mK以上と高く、かつアスカーC硬度計による硬さが65以下と低いことがわかる。本発明例1~6で得られた樹脂組成物において熱伝導率が高い値を示すのは、粗大無機粒子(大径電融アルミナ粒子、中径無機粒子)の粒子間に小径無機粒子が介在することによって、樹脂組成物の熱伝導率が高くなったためである。また、本発明例1~6で得られた樹脂組成物において硬さが低いのは、小径無機粒子が粗大無機粒子の間に介在し、樹脂中に分散する小径無機粒子の量が少ないためである。
【0046】
これに対して、比較例1~3で得られた樹脂組成物は、本発明例1~6と同じ大径電融アルミナ粒子、中径無機粒子、小径無機粒子を用いたにも関わらず、樹脂組成物の熱伝導率が3.25W/mKよりも低く、アスカーC硬度計による硬さが65を超えた。特に比較例1では、樹脂組成物の硬さが80と顕著に高くなった。比較例1の樹脂組成物は、小径無機粒子の割合が本発明の範囲よりも多く、相対的に大径電融アルミナ粒子や中径無機粒子の量が低減したため、熱伝導率が低くなったと考えられる。また比較例1の樹脂組成物は、樹脂中に分散する小径無機粒子の量が多くなったため硬さが高くなったと考えられる。また、比較例2の樹脂組成物は、小径無機粒子の割合が本発明の範囲よりも少なく、相対的に大径電融アルミナ粒子や中径無機粒子の量が増加し、小径無機粒子が介在しない空隙が多くなったため、熱伝導率が低くなったと考えられる。また、比較例3の樹脂組成物は、中径無機粒子に対する大径電融アルミナ粒子の割合が本発明の範囲よりも少なくなったため、熱伝導率が低くなったと考えられる。また、比較例3の樹脂組成物は、大径電融アルミナ粒子に対する中径無機粒子および小径無機粒子の割合が多く、熱伝導性フィラー全体の比表面積が大きくなったため、樹脂組成物の硬さが75と高くなったと考えられる。