(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148502
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム偏向装置
(51)【国際特許分類】
A61N 5/10 20060101AFI20231005BHJP
【FI】
A61N5/10 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056566
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】518119249
【氏名又は名称】株式会社ビードットメディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】瀧 慶暁
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】石原 駿
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082AA01
4C082AC05
4C082AE01
4C082AG13
(57)【要約】
【課題】より効率よくコイルを冷却することを可能とする荷電粒子ビーム偏向装置を提供する。
【解決手段】荷電粒子ビーム偏向装置は、荷電粒子ビームが内部を通過する中空形状を有する中空部材と、中空部材の外周面を覆い、中空部材の内部から外部に向かう方向に積層された複数の層を有する積層構造体と、荷電粒子ビームの進行方向とは異なる第1方向に荷電粒子ビームを偏向させる第1コイルと、第1方向とは異なる第2方向に荷電粒子ビームを偏向させる第2コイルと、を備える。複数の層は、第1コイルを支持する第1コイル支持層と、第2コイルを支持する第2コイル支持層とを有し、中空部材は、積層構造体の内周面と中空部材の外周面との間に、中空部材の外周面が第1コイルおよび第2コイルと接触しない隙間を形成するように配置されている。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームが内部を通過する中空形状を有する中空部材と、
前記中空部材の外周面を覆い、前記中空部材の内部から外部に向かう方向に積層された複数の層を有する積層構造体と、
前記荷電粒子ビームの進行方向とは異なる第1方向に前記荷電粒子ビームを偏向させる第1コイルと、
前記第1方向とは異なる第2方向に前記荷電粒子ビームを偏向させる第2コイルと、を備え、
前記複数の層は、前記第1コイルを支持する第1コイル支持層と、前記第2コイルを支持する第2コイル支持層とを有し、
前記中空部材は、前記積層構造体の内周面と前記中空部材の外周面との間に、前記中空部材の外周面が前記第1コイルおよび前記第2コイルと接触しない隙間を形成するように配置されている、
荷電粒子ビーム偏向装置。
【請求項2】
前記積層構造体は、前記荷電粒子ビームが入射する側の端面および前記荷電粒子ビームが出射する側の端面を有し、
前記中空部材は、前記積層構造体の一方の端面より外側に向かう方向に突出した突出部を有する、
請求項1に記載の荷電粒子ビーム偏向装置。
【請求項3】
前記積層構造体の外周面の外側に位置するヨークを、さらに備え、
前記突出部は、前記ヨークに固定されている、
請求項2に記載の荷電粒子ビーム偏向装置。
【請求項4】
前記突出部に配置された、前記積層構造体の前記一方の端面を覆う被覆部材をさらに備える、
前記突出部、前記一方の端面および前記被覆部材によって囲まれた空間が形成されている、
請求項2または3に記載の荷電粒子ビーム偏向装置。
【請求項5】
前記中空部材の外周面には、冷却溶媒の流路を形成する溝が設けられており、
前記溝は、前記隙間を形成している、
請求項4に記載の荷電粒子ビーム偏向装置。
【請求項6】
前記冷却溶媒の流路は、前記空間と連通している、
請求項5に記載の荷電粒子ビーム偏向装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム偏向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高エネルギーに加速された荷電粒子ビームを患者の癌などの患部に照射して治療する粒子線治療が行われている。
【0003】
特許文献1には、ビーム発生装置を用いて発生させた荷電粒子ビームをビーム加速装置によって加速させ、ビーム走査装置によって荷電粒子ビームの軌道を調整し、患者の患部に荷電粒子ビームを照射する技術が記載されている。特許文献1に記載のビーム走査装置は、荷電粒子ビームを偏向させる複数のコイルと、この複数のコイルを支持する複数の層が積層されて構成された構造部材とを有する。特許文献1には、コイルを冷却するため、構造部材の隙間に冷却溶媒を流すことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らは、以下の課題を認識するに至った。すなわち、本発明者らは、特許文献1に記載の技術では、構造部材の隙間に冷却溶媒が流れる流路が形成されているが、より効率よく冷却溶媒によってコイルを冷却する余地があるものと考えた。
【0006】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、より効率よくコイルを冷却することを可能とする荷電粒子ビーム偏向装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の荷電粒子ビーム偏向装置は、荷電粒子ビームが内部を通過する中空形状を有する中空部材と、中空部材の外周面を覆い、中空部材の内部から外部に向かう方向に積層された複数の層を有する積層構造体と、荷電粒子ビームの進行方向とは異なる第1方向に荷電粒子ビームを偏向させる第1コイルと、第1方向とは異なる第2方向に荷電粒子ビームを偏向させる第2コイルと、を備える。複数の層は、第1コイルを支持する第1コイル支持層と、第2コイルを支持する第2コイル支持層とを有し、中空部材は、積層構造体の内周面と中空部材の外周面との間に、中空部材の外周面が第1コイルおよび第2コイルと接触しない隙間を形成するように配置されている。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、より効率よくコイルを冷却することを可能とする荷電粒子ビーム偏向装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置の概略構成図である。
【
図2】同実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置の斜視図である。
【
図3】同実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置の断面図である。
【
図5】流入部材において、
図4に示す例とは異なる形態の孔が形成される場合を示す図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係る内筒の斜視図である。
【
図9】内筒に配置された第1巻き枠層の斜視図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る第1水路層の水路部材を示す斜視図である。
【
図11】同実施形態に係る第2巻き枠層の斜視図である。
【
図13】内筒および構造体のX軸に垂直な断面の一部を示す拡大図である。
【
図14】第1変形例に係る内筒および構造体のX軸に垂直な断面の一部を示す拡大図である。
【
図15】第2変形例に係る内筒および構造体のX軸に垂直な断面の一部を示す拡大図である。
【
図16】第2実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置の概略構成図である。
【
図17】位置合わせされている構造体を荷電粒子ビームの出射側から見た図である。
【
図18】位置出しピンによって構造体が位置合わせされている様子を拡大して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、以下に述べる構成は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【0012】
[背景]
荷電粒子ビームを走査する電磁石である走査電磁石は、人体へ照射される荷電粒子ビームの位置を最終的にコントロールする役割を持っている。そのため、走査電磁石の設置位置には、高い精度が要求される。この要求を満たせないと、荷電粒子ビームが照射される位置にずれが生じ、治療の精度が低下する。実際には、走査電磁石による治療の現場では、荷電粒子ビームが照射される位置にずれが生じた場合、照射制御に関するシステムによってずれが修正され、治療の精度が高められる。このため、最終的には照射位置のずれが解消されるが、その修正にかかる作業負担は大きい。この作業負担を低減させるために走査電磁石を適切な位置に設置することは、大きな課題となっている。
【0013】
また、治療施設の運営者にとって、施設経営の観点から、治療装置の投資回収は大きな関心事である。治療装置の導入後には、なるべく早く治療装置を稼働させ、投資回収を進めることが求められる。治療装置を設置しただけでは、この装置を治療に使うことはできない。治療に使うことができる精度の荷電粒子ビームが得られるように、ハードウェアおよびソフトウェアの面で治療装置を調整する必要がある。このとき、物理的に治療装置の構成部品を正確に設置することは、この調整を行う期間の短縮につながり、当然、治療を受けられる患者数の増加にもつながる。
【0014】
以下で説明する本発明の一実施形態では、二対の走査電磁石を並列に並べ、走査電磁石の径に傾斜をもたせることにより、荷電粒子ビーム偏向装置の小型化を図っている。荷電粒子ビーム偏向装置の小型化は、ハンドリングのし易さに直結する。荷電粒子ビーム偏向装置を小型化できれば、荷電粒子ビームの照射の調整における作業性が向上する。特に、装置を設置(導入)する際には、装置の小型化による作業性への影響は大きい。
【0015】
しかしながら、一般的に、口径方向を小さくするとコイルのターン数が少なくなり、走査電磁石から発生する磁場は小さくなる。また、前述のように軸長方向に縮小した場合も同様に、走査電磁石が発生する磁場が弱くなる。磁場が弱くなると、荷電粒子ビームを曲げる力が弱まる。この力が弱まると、照射野の広さを維持するために、磁場が弱まった分を担保するため、走査電磁石とアイソセンターとの間の距離を長くする必要がある。走査電磁石をアイソセンターまわりで円周状に動かすことにより複数の方向から荷電粒子ビームを照射する場合、走査電磁石とアイソセンターとの間の距離が長くなると、装置のサイズが大きくなる。これは、走査電磁石とアイソセンターとの間の距離が走査電磁石の動く円の半径となるが、走査電磁石が動く円が大きくなると、それに応じて装置を大きくせざるを得ないためである。
【0016】
そこで、走査電磁石に用いる電流値を通常よりも高くして、荷電粒子ビームを走査するために必要な強さの磁場を発生させることにより、装置を小型に維持することが考えられる。しかしながら、大電流を用いると、走査電磁石の冷却が、より重要になる。そのため、走査電磁石の効果的な冷却が大きな課題となっている。そこで、本発明の一実施形態では、走査電磁石を冷却するための冷却溶媒を円滑に流すことを可能とする荷電粒子ビーム偏向装置を提供する。
【0017】
[第1実施形態]
図1は、本発明の一実施形態に係る荷電粒子ビーム照射装置1の概略構成図である。荷電粒子ビーム照射装置1は、加速器10、荷電粒子ビーム輸送系12、偏向電磁石14および照射ノズル16を備える。照射ノズル16は、患者を載せる治療台が備わった治療室18内に配置されている。
【0018】
加速器10は、荷電粒子ビームを生成する装置であり、例えばシンクロトロン、サイクロトロンまたは線形加速器などである。加速器10で生成された荷電粒子ビームは、荷電粒子ビーム輸送系12を通じて偏向電磁石14に導かれる。ここで、荷電粒子ビームは、各種の公知の荷電粒子のビームであってよく、荷電粒子は、たとえば陽子線、アルファ粒子、重粒子または電子などであってよい。
【0019】
荷電粒子ビーム輸送系12は、1つまたは複数の荷電粒子ビーム調整手段122、真空ダクト124、振分電磁石126および扇型真空ダクト128などを含む。加速器10、荷電粒子ビーム調整手段122および振分電磁石126は、真空ダクト124で接続され、振分電磁石126および偏向電磁石14は、扇型真空ダクト128で接続されている。
【0020】
荷電粒子ビームは、上流側の加速器10で生成され、減衰を避ける(または低減する)ために真空ダクト124内および扇型真空ダクト128内を進み、荷電粒子ビーム調整手段122による調整を受けながら下流側の偏向電磁石14に導かれる。
【0021】
荷電粒子ビーム調整手段122は、荷電粒子ビームのビーム形状および/または線量を調整するためのビームスリット、荷電粒子ビームの進行方向を調整するための電磁石、荷電粒子ビームのビーム形状を調整するための四極電磁石、並びに、荷電粒子ビームのビーム位置を微調整するためのステアリング電磁石などを、仕様に応じて適宜備えてよい。
【0022】
照射ノズル16は、荷電粒子ビームを用いた治療等が行われる治療室18内にあり、照射ノズル16から荷電粒子ビームを出射する。照射ノズル16から出射された荷電粒子ビームが患部に照射されることにより治療が行われる。本実施形態に係る照射ノズル16は、流れる電流量や電流の向きを調整することで、照射ノズル100から出射する荷電粒子ビームの進行方向を微調整し、所定の範囲内でスキャン(走査)可能にするための荷電粒子ビーム偏向装置を備える。これにより、照射ノズル16は、荷電粒子ビームを二次元的に走査できる。
【0023】
図2は、本実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置20の斜視図である。
図3は、本実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置20の断面図である。本実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置20は、流出部材22、流入部材24、ヨーク26、内筒30、外筒32および構造体40を備える。
【0024】
内筒30(中空部材)は、荷電粒子ビームが内部を通過する中空形状を有する。内筒30の一端には、入射口230が設けられており、他端には、出射口250が設けられている。荷電粒子ビームは、入射口230から入射して、内筒30の内部空間300を通過し、出射口250から出射する。また、内筒30は、入射側から出射側に向かうにつれて、その内径および外径が非線形的あるいは線形的に大きくなるように構成されている。
【0025】
ここで、
図3に示すX軸は、内筒30の中心軸を通る軸であり、その向きは、入射口230から出射口250に向かう方向である。また、以下では、「入射側」とは、X軸における入射口230側を意味するものとし、「出射側」とは、X軸における出射口250側を意味するものとする。また、
図3に示すY軸は、X軸に対して垂直な方向であり、内筒30の半径方向である。なお、本明細書では、Y軸方向が内部から外部に向かう方向を意味し、その逆方向が外部から内部に向かう方向を意味する場合がある。
【0026】
構造体40は、内筒30の外周面を覆うように、内筒30に固定されている。換言すれば、内筒30は、その外周面が構造体40の内周面を覆うように、構造体40に固定されている。構造体40は、後述する積層構造体およびコイルを備える。このコイルは、内筒30の内部空間300を通過する荷電粒子ビームを偏向する走査電磁石として機能するように構成されている。構造体40は、入射側から出射側に向かうにつれて、その内径および外径が線形的あるいは非線形的に大きくなるように構成されている。
【0027】
外筒32は、構造体40の外周面を覆うように、構造体40に固定されている。また、ヨーク26は、構造体40の外周面の外側に位置するように、固定部材249によって流入部材24に固定されている。本実施形態では、ヨーク26は、構造体40の全長にわたって設けられていない。より具体的には、ヨーク26は、構造体40の外周面の中央領域を覆い、構造体40の外周面の入射側の端部および出射側の端部に位置しないように配置されている。
【0028】
流出部材22は、内筒30および外筒32に固定されており、構造体40が備えるコイルを冷却するための冷却溶媒が通過する経路の一部を形成する部材である。また、流入部材24は、内筒30および外筒32に固定されており、冷却溶媒が通過する経路の一部を形成する部材である。流出部材22および流入部材24は、例えば、FRP(Fiber Reinforced Plastics)などの絶縁体で構成されてよい。本実施形態では、流入部材24の付近には、コイルに電流を流すための電流導入端子(図示しない。)が配置されており、流入部材24を絶縁体で構成することにより、流入部材24を構造体40および電流導入端子と絶縁できる。また、流出部材22および流入部材24は、SUSなどの非磁性体との複数の部材の組み合わせで構成されてよい。これにより、組立加工を容易となり、例えば、ネジ加工および溶接などが簡便にできるようになる。
【0029】
冷却溶媒は、各種の公知の冷却可能な液体であってよく、本実施形態では、冷却溶媒は水である。
図3において、流出部材22、流入部材24および構造体40に示された矢印は、冷却溶媒の流れる向きを示している。すなわち、冷却溶媒は、流入部材24から流入し、構造体40の隙間を通過して、流出部材22から排出口221を通じて排出される。
【0030】
図4は、
図3に示す領域Aの拡大図である。
図4に示すように、流入部材24は、出射側端部240および出射側押圧部241を備える。出射側端部240は、構造体40の出射側の端面43を覆うように配置されており、被覆部材としての機能を有している。これにより、構造体40のコイルなどが出射側端部240によって保護される。
【0031】
構造体40は、荷電粒子ビームが出射する側の端面43を有する。また、内筒30は、端面43より外側に向かう方向(入射側から出射側に向かう方向)に突出した内筒突出部310を有する。この内筒突出部310を他の部材に固定することにより、内筒30の配置をより安定させることができる。この結果、構造体40に配置されるコイルの位置がより安定し、荷電粒子ビームの制御の調整に関わる作業性を向上させることができる。
【0032】
また、本実施形態では、内筒突出部310は、流入部材24に固定されており、流入部材24は、固定部材249によりヨーク26に固定されている。このように、内筒30は、流入部材24および固定具を介して、ヨーク26に固定されている。これにより、内筒30とヨーク26との位置関係がずれることが抑制されるため、内筒30がより確実に適切な位置に配置される。この結果、内筒30と一体化している構造体40のコイルは、より確実に適切な位置に配置される。
【0033】
また、本実施形態では、内筒突出部310(具体的には、その外周面)、端面43および出射側端部240によって囲まれた空間246が形成されている。本実施形態では、構造体40に配置されたコイルは、リッツ線によって構成されている。たとえば、構造体40に配置された複数のコイルを接続するリッツ線などをまとめて固定し、空間246を活用して、まとめたリッツ線を冷却溶媒によって冷却できる。なお、リッツ線とは、エナメルなどの絶縁材で絶縁された細い導体を複数本撚り合わせて構成された線材である。
【0034】
また、本実施形態では、空間246は、構造体40の隙間と連通しており、冷却溶媒の流路の一部を形成する。構造体40の隙間と連通する空間246を活用することにより、簡便な構造でより円滑に冷却溶媒を流して、構造体40のコイルを冷却できる。
【0035】
出射側押圧部241は、外筒32を外部から内部に向けて押圧するように構成されている。これにより、構造体40は、外部から内部に向けて押圧される。本実施形態に係る構造体40は、内部から外部に向かう方向に積層された複数の層を有する積層構造体を有している。この積層構造体は、外筒32を介して出射側押圧部241によって押圧されるため、冷却溶媒が積層構造体の隙間を流れる際に、積層構造体を構成する各層がずれることが抑制される。
【0036】
また、本実施形態では、出射側押圧部241は、構造体40の周方向に一周して構造体40の外周面に位置する環状部材である。このため、出射側押圧部241は、構造体40の一周を押圧できるため、構造体40の積層構造体における層のずれをより確実に抑制できる。
【0037】
本実施形態では、出射側押圧部241は、孔244が形成されている中空部242と、構造体40の端面43よりも出射側に突出している出射側突出部243とを有する。出射側押圧部241は、出射側突出部243を介して出射側端部240と結合している。
【0038】
また、中空部242は、構造体40の端面43から構造体40の中央に向かう方向に空いた、空間246と連通する孔244を有する。本実施形態では、この孔244は、冷却溶媒の流路の一部を形成している。冷却溶媒は、孔244から流入し、空間246を通過して構造体40の隙間に流れる。
【0039】
また、本実施形態では、出射側端部240は、構造体40の端面43から離れて配置されている。内筒30は、空間246に含まれる出射側端部240と端面43との間に形成された、構造体40の内部側の開口247を閉じる閉口部として機能する。これにより、冷却溶媒が空間246から意図しない方向に流れることが抑制される。
【0040】
本実施形態では、孔244は、出射側押圧部241において、荷電粒子ビームの進行方向と平行な方向に空いている。
図5を参照して、孔が他の形態で形成される場合について説明する。
図5に示す例では、流入部材25は、その内部に空間252を有しており、この空間252は、空間252からX軸方向(入射側から出射側に向かう方向)に向かう孔253と、空間252からY軸方向に向かう孔254と連通している。このとき、孔253および孔254のそれぞれの端部には、ホース258,259を接続するための接続部256,257がそれぞれ設けられている。ホース258,259の内部には冷却溶媒が流れ、その向きは矢印で示されている。なお、
図5では、孔253および孔254の2つの孔が形成されている例を示しているが、いずれか一方の孔が形成される場合も考えられる。
【0041】
図5に示すように、流入部材25に形成された孔253,254には、冷却溶媒を孔253,254に流入させるためのホース258,259などを接続する必要がある。このとき、ホース258,259を接続するための接続部256,257およびホース258,259自体がとる幅の分だけ、スペースが必要となる。たとえば、接続部256およびホース258がとる幅d1だけX軸方向にスペースをとり、接続部257およびホース259がとる幅d2だけY軸方向にスペースをとる必要がある。一方、本実施形態によれば、本実施形態では、出射側押圧部241において、孔244が孔253とはX軸の反対方向に形成されているため、装置がX軸方向またはY軸方向、あるいはX軸方向の半径方向に大きくならず、荷電粒子ビーム偏向装置をより小型化することが可能となる。
【0042】
図6は、
図3に示す領域Bの拡大図である。
図6に示すように、流出部材22は、入射側端部220および入射側押圧部226を備える。入射側端部220は、入射側押圧部226から入射側方向に突出して設けられた入射側突出部222と、構造体40の入射側の端面44を覆うように配置されている入射側被覆部224とを有する。入射側被覆部224は、被覆部材として機能し、構造体40のコイルなどは入射側被覆部224によって保護される。
【0043】
構造体40は、荷電粒子ビームが入射する側の端面44を有する。また、内筒30は、端面44より外側に向かう方向(出射側から入射側に向かう方向)に突出した内筒突出部320を有する。この内筒突出部320を他の部材に固定させることにより、内筒30の配置をより安定させることができる。これにより、走査電磁石の位置がより安定し、荷電粒子ビームの制御の調整に関する作業性を向上させることができる。
【0044】
また、本実施形態では、内筒突出部320(より詳細には、その外周面)、端面44および入射側端部220によって囲まれた空間232が形成されている。たとえば、構造体40に配置された複数のコイルを接続するリッツ線などをまとめて固定し、空間232を活用して、まとめたリッツ線を冷却溶媒によって冷却できる。
【0045】
また、空間232は、構造体40の隙間と連通しており、冷却溶媒の流路の一部を形成する。本実施形態では、積層構造体の隙間と連通する空間232を活用して、簡便な構造でより円滑に冷却溶媒を流すことができる。構造体40から空間232に流れた冷却溶媒は、図示しない孔を通じて、
図2に示した排出口221から排出される。
【0046】
入射側押圧部226は、外筒32を外部から内部に向けて押圧するように構成されている。構造体40は、入射側押圧部226によって、外部から内部に向けて押圧される。このため、構造体40に冷却溶媒が流れる際に、構造体40の積層構造体を構成する各層のずれが抑制される。
【0047】
また、本実施形態では、入射側押圧部226は、構造体40の周方向に一周して構造体40の外周面に位置する環状部材である。このため、入射側押圧部226は、構造体40の一周を押圧できるため、構造体40の積層構造体における層のずれをより確実に抑制できる。
【0048】
また、入射側被覆部224は、構造体40の端面44から離れて配置されており、空間232に含まれる入射側被覆部224と端面44との間に開口233を形成している。本実施形態では、内筒30は、構造体40の内部側の開口233を閉じる閉口部として機能する。これにより、空間232に流れる冷却溶媒が意図しない方向に流れることが抑制される。
【0049】
図7は、構造体40のX軸に垂直な断面の図である。
図7において、Z軸は、X軸およびY軸に対して垂直な軸である。本実施形態に係る構造体40は、積層構造体42と、荷電粒子ビームの進行方向とは異なる第1方向に荷電粒子ビームを偏向させる第1コイル50と、荷電粒子ビームの進行方向および第1方向とは異なる第2方向に荷電粒子ビームを偏向させる第2コイル52と、を備える。
【0050】
第1コイル50および第2コイル52のそれぞれは、内部空間300を挟んで向かい合う対をなすように配置されている。また、第1コイル50および第2コイル52のそれぞれの対は、並列に配置されていてもよい。すなわち、第1コイル50および第2コイル52は、
図7に示すように、いずれのコイルも含むX軸に垂直な構造体40の断面が存在するように配置されてよい。第1コイル50および第2コイル52に電流が流れると、第1コイル50および第2コイル52は、磁場を発生させ、この磁場によって荷電粒子ビームを偏向させる。
【0051】
積層構造体42は、内筒30の外周面を覆い、内筒30の内部から外部に向かう方向に積層された複数の層を有する。換言すれば、積層構造体42の内周面は、内筒30の外周面により覆われている。積層構造体42が有する複数の層のそれぞれは、たとえば各種の合成樹脂などによって構成されてよい。また、積層構造体42は、隣合う2つの層の間に、冷却溶媒を流すことが可能な隙間を有する。これらの層のそれぞれは、中空形状を有しており、入射側から出射側に向かうにつれて、その内径および外径が直線的あるいは非線形的に大きくなるように構成されている。
【0052】
本実施形態に係る積層構造体42は、コイルが配置された複数の巻き枠層(コイル支持層)と、隣合う2つの巻き枠層の間に配置された、冷却溶媒の経路を形成する複数の水路層と、を有する。本実施形態では、隣合う2つの巻き枠層に配置されたコイルは互いに接続されている。各巻き枠層に配置された第1コイル50のそれぞれは、互いに電気的に接続されており、同様に、各巻き枠層に第2コイル52のそれぞれも、互いに電気的に接続されている。
【0053】
本実施形態に係る構造体40は、9層の巻き枠層および9層の水路層を有する。より詳細には、構造体40は、内側から順に、第1巻き枠層400、第1水路層420、第2巻き枠層440、・・・、第9巻き枠層460および第9水路層480を有する。本実施形態に係る構造体40は、9層の巻き枠層を有するが、
図6では、そのうちの3層の巻き枠層を示している。なお、巻き枠層の数は、8層以下であってもよいし、10層以上であってもよい。また、本実施形態に係る積層構造体42は、9層の水路層を有するが、
図6では、そのうちの3層の巻き枠層を示している。なお、水路層の数は、8層以下であってもよいし、10層以上であってもよい。
【0054】
第1巻き枠層400は、内筒30の外周面を覆うように配置されており、荷電粒子ビームを偏向させるコイル502(第1コイル)を支持するコイル支持層(第1コイル支持層)である。本実施形態に係るコイル502は、Z軸方向に磁場を発生させ、この磁場によって荷電粒子ビームを偏向させる。
【0055】
第1水路層420は、第1巻き枠層400の外周面を覆うように配置されており、冷却溶媒が通過する経路の一部を形成する層である。
【0056】
第2巻き枠層440は、荷電粒子ビームを偏向させるコイル504(第1コイル)が配置された層である。コイル504は、コイル502と同様に、Z軸方向に磁場を発生させ、この磁場によって荷電粒子ビームを偏向させる。
【0057】
図7には図示しないが、第2巻き枠層440の外周面には、第3~第8巻き枠層および第2~第8水路層が、巻き枠層と水路層とが交互に重なるように積層されている。また、第3~第5巻き枠層のそれぞれは、コイル(第1コイル)を支持するコイル支持層(第1コイル支持層)であり、それぞれのコイルは、コイル502,504と同様に、Z軸方向に磁場を発生させるように構成されている。
【0058】
第9巻き枠層460は、第8水路層(図示しない。)の外周面を覆うように配置されており、第1~第5巻き枠に配置されたコイル(たとえば、コイル502,504など)が荷電粒子ビームを偏向させる方向(第1方向)とは異なる方向(第2方向)に荷電粒子ビームを偏向させるコイル522(第2コイル)を支持するコイル支持層(第2コイル支持層)である。
【0059】
第9巻き枠層460にはコイル522が配置されている。コイル522は、Y軸方向に磁場を発生させ、X軸方向に進行する荷電粒子ビームをZ軸方向に偏向させる。また、上述の第6~第8巻き枠層のそれぞれにはコイル(第2コイル)が配置されており、それぞれのコイルは、コイル522と同様に、Y軸方向に磁場を発生させるように構成されている。
【0060】
第9水路層480は、第9巻き枠層460の外周面を覆うように配置されており、冷却溶媒が通過する経路の一部を形成する層である。第9水路層480の外周面には外筒32が配置されている。外筒32は、その内周面が第9水路層480の外周面を覆うように、配置されている。
【0061】
図8は、本実施形態に係る内筒30の斜視図である。
図8に示すように、内筒30の外周面には長手方向に沿って溝302が形成されている。この溝302は、冷却溶媒の経路の一部を形成する。
【0062】
図9は、内筒30に配置された第1巻き枠層400の斜視図である。第1巻き枠層400には、溝402が形成されている。この溝402にリッツ線が埋め込まれ、樹脂によって固められることにより、このリッツ線がコイル(第1コイル)を構成する。
【0063】
図10は、本実施形態に係る第1水路層420の水路部材422を示す斜視図である。
図10に示す水路部材422は、第1水路層420の半周分を構成している。
図10に示す水路部材422と同様の構成を有する水路部材がもう1つあり、この2つの水路部材を組み合わせることにより、第1巻き枠層400の外周面を一周する第1水路層420が形成される。水路部材422は、外周面に溝424を有しており、この溝424は、冷却溶媒が通過する経路の一部を形成する。なお、積層構造体42が備える各水路層は、第1水路層と同様に、2つの水路部材を組み合わせることにより、一周する水路層が構成される。本実施形態では、各水路層は水路部材によって構成される例を説明するが、各水路層は、水路部材を用いずに、単なる空間として形成されてもよい。
【0064】
図11は、本実施形態に係る第2巻き枠層440の斜視図である。
図11では、第1水路層420の表面に第2巻き枠層440が配置されている様子を示している。第2巻き枠層440の表面には、溝444が形成されており、この溝444にリッツ線が埋め込まれ、このリッツ線がコイル504を構成する。溝444は、第2巻き枠層440を表面から裏面に貫通する孔として形成されてもよいし、第2巻き枠層440を表面から裏面に貫通しないように形成されてもよい。また、第2巻き枠層440の外表面には、その外表面を覆うように第2水路層が配置される。この第2水路層の内周面には溝が設けられており、この溝および第2巻き枠層440の外表面によって、冷却溶媒が通過する経路の一部が形成される。このように内筒30の外周面には巻き枠層と水路層とが積層され、最も外側の水路層の外周面には、その外周面を覆うように、
図12に示す外筒32が配置される。
【0065】
図13は、内筒30および構造体40のX軸に垂直な断面の一部を示す拡大図である。本実施形態では、内筒30は、積層構造体42の内周面と内筒30の外周面との間に、内筒30の外周面が第1コイルおよび第2コイルと接触しない隙間304を形成するように配置されている。具体的には、内筒30の外表面に設けられた溝302と第1巻き枠層400に配置されたコイル502との間には、内筒30の溝302がコイル502と接触しないように、冷却溶媒が流れる経路が形成されている。
【0066】
また、第1水路層420の内表面に形成された溝423とコイル502との間、および第1水路層420の外表面に形成された溝424と第2巻き枠層440に配置されたコイル504との間には、冷却溶媒が流れる経路が形成されている。さらに、第2水路層450の内表面に形成された溝454とコイル504との間には、冷却溶媒が流れる経路が形成されている。同様に、第2水路層450の外表面に形成された溝、および各水路層の表面に形成された溝は、隣接する巻き枠層あるいはコイルとの間に、冷却溶媒が流れる経路を形成する。
【0067】
荷電粒子ビームによる治療では、荷電粒子ビームが照射される位置の精度を高めるために、コイルを所望の位置に精度よく配置することが求められる。本実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置20では、コイルが配置された積層構造体42は、内筒30に固定される。このため、内筒30が適切な位置に配置されていれば、内筒30に対して適切に積層構造体42を設置することにより、自ずとコイルが適切な位置に配置される。換言すれば、積層構造体42と内筒30とを一体化しているため、内筒30の位置を調整することによって、コイルを適切な位置に設置できる。このように、本実施形態では、内筒30に積層構造体42を固定することにより、走査電磁石の位置の精度を高めることができる。この結果、荷電粒子ビームの照射位置を調整するための作業を効率化させることが可能となる。
【0068】
また、上述のように、本実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置20では、内筒30(中空部材)は、積層構造体42の内周面と内筒30の外周面332との間に、内筒30の外周面332が第1コイルおよび第2コイルと接触しない隙間を形成するように配置されている。このため、積層構造体42の内周面と内筒30の外周面332と間の隙間306において、内筒30は、第1コイルまたは第2コイルを構成するリッツ線と直接的に接触しない。このため、隙間において内筒30がコイルと接触している場合と比べて、コイルが冷却溶媒と接触可能な面積が大きくなる。この結果、冷却溶媒によって、より効率よく、積層構造体42に配置されたコイル(特に、第1巻き枠層400に配置されたコイル502)を冷却できる。
【0069】
また、本実施形態では、内筒30の外周面には、冷却溶媒の流路の一部を形成する溝が設けられている。このため、本実施形態では、最も内側のコイルに直接的に冷却溶媒を接触させることができるため、より効率よくコイルを冷却させることができる。
【0070】
上述のように、本実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置では、コイルには大電流が流れる。このため、冷却溶媒によってコイルをより確実に冷却する必要がある。冷却溶媒が積層構造体の層間の隙間を流れると、層の位置がずれる可能性がある。層がずれると、冷却溶媒の流れが滞り、冷却が円滑に行われない可能性がある。冷却が円滑に行われないと、大電流によってコイルが非常に高温になる可能性がある。
【0071】
本実施形態では、入射側押圧部226および出射側押圧部241は、積層構造体42を外部から内部に向けて押圧する。このため、積層構造体42が備える各層は、これらの押圧部によって押しつけられるため、各層の位置がずれることが抑制される。この結果、積層構造体42の隙間に冷却溶媒を滞りなく流し、円滑にコイルを冷却することが可能となる。
【0072】
また、本実施形態では、流出部材22、流入部材24、内筒30および構造体40によって、構造体40の隙間と連通する空間232、246を形成し、これらの空間を冷却溶媒が流れる水路として活用した。これにより、簡便な構造で水路を実現し、スムーズに冷却溶媒を流すことができる。また、これらの空間には、巻き枠層の各層間を接続するリッツ線などをまとめて固定できる。この場合、そのリッツ線をまとめて冷却することが可能である。
【0073】
[第1変形例]
図14は、第1変形例に係る内筒30および構造体40のX軸に垂直な断面の一部を示す拡大図である。
図14に示す例では、冷却溶媒は、内筒30と第1巻き枠層400およびコイル502との間に形成されている隙間において、X軸方向(紙面の裏側から表側に向かう方向)に流れるものとする。
【0074】
第1変形例では、
図14に示すように、内筒30は、第1巻き枠層400に配置されたコイル502と接触しない隙間を形成するように配置されている。より詳細には、内筒30は、その外周面332が、第1巻き枠層400の内表面404およびコイル502の内表面510と接触しない隙間306を形成するように配置されている。第1変形例では、冷却溶媒が第1巻き枠層400と接触するように隙間306が形成されており、このような形態においても、効率よく冷却溶媒によってコイル502を冷却することが可能である。
【0075】
このため、本実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置では、内筒30がコイル502と接触している場合と比べて、接触しない隙間に冷却溶媒を流すことができるため、より効率よく冷却溶媒によってコイル502を冷却することが可能となる。
【0076】
[第2変形例]
図15は、変形例に係る内筒30および構造体40のX軸に垂直な断面の一部を示す拡大図である。第2変形例では、第1巻き枠層410は、コイル503を挟んで支持する支持部412と、これに加えて、コイル503の内筒30側を覆う底部414とを備える第2変形例では、冷却溶媒は、内筒30と底部414との間に形成されている隙間において、X軸方向(紙面の裏側から表側に向かう方向)に流れるものとする。第2変形例では、コイル503は、底部414を通じて、冷却溶媒によって冷却される。
【0077】
内筒30は、積層構造体の内周面(より具体的には、底部414の底面416)と内筒30の外周面334との間に、内筒30の外周面334がコイル503と接触しない隙間308を形成するように配置されている。これにより、内筒30とコイルとが接触しない隙間に冷却溶媒を流すことができるため、より効率よく冷却溶媒によってコイル502を冷却することが可能となる。
【0078】
[第2実施形態]
第1実施形態では、第1コイルおよび第2コイルは、並列に配置される例を説明した。これに限らず、第1コイルおよび第2コイルは、直列に配置されてよい。すなわち、第1コイルおよび第2コイルは、X軸に平行な方向に互いにずれた位置に配置されてよい。
【0079】
図16を参照して、第1コイルおよび第2コイルが直列に配置される第2実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置60について説明する。第2実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置60は、主として、第1偏向装置62、第2偏向装置64、および第1偏向装置62と第2偏向装置64とを連結する連結部材66を備える。第1偏向装置62および第2偏向装置64は、第1実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置20が備える各種の構成をそれぞれ備えてよい。
【0080】
荷電粒子ビーム偏向装置60の内部には、一端に入射口74、他端に出射口76を有する内部空間72が形成されている。荷電粒子ビームは、
図16に示すD軸方向に入射口74から内部空間72に入射して、内部空間72において第1偏向装置62および第2偏向装置64によって偏向され、出射口76から出射する。
【0081】
第1偏向装置62は、D軸方向に垂直な方向に荷電粒子ビームを偏向させ、偏向させた荷電粒子ビームを第2偏向装置64に入射させる装置である。第1偏向装置62は、第1構造体620、第1ヨーク622、第1流入部材624、第1流出部材630および内筒70を備える。
【0082】
内筒70は、中空形状を有し、その内部を荷電粒子ビームが通過するように構成されている。本実施形態では、内筒70は、第1偏向装置62と第2偏向装置64とで共有されている。これに限らず、内筒は、第1偏向装置62と第2偏向装置64とで、独立に構成されてもよい。内筒70の一端には、入射口74が形成されており、内筒70の他端には、出射口76が形成されている。また、第2実施形態に係る内筒70は、円筒形状を有している。なお、その外径および内径は、直線的あるいは非直線的な傾斜を有してもよい。
【0083】
第1構造体620は、磁場によって内部空間72を通過する荷電粒子ビームを偏向させるように構成されている。第1構造体620は、図示しないが、第1積層構造体および第1コイルを備える。第1コイルは、発生させた磁場により、荷電粒子ビームをD軸方向とは異なる方向に偏向させる。例えば、第1コイルは、荷電粒子ビームをD軸方向に垂直な方向に荷電粒子ビームを偏向させてよい。
【0084】
第1積層構造体は、荷電粒子ビームが内部を通過する中空形状を有し、内部から外部に向かう方向に積層された複数の層を有する。これらの複数の層のうち、隣合う2つの層の間は、冷却溶媒を流すことが可能な隙間を有している。また、第1積層構造体が有する複数の層は、第1コイルを支持する第1コイル支持層を含む。
【0085】
第1流入部材624は、冷却溶媒を第1構造体620に流入させるための部材である。第1流入部材624は、連結部材66に接続されている。また、第1流入部材624は、第1構造体620を外側から内側に向けて押圧する押圧部625を有している。また、第1流入部材624の内部には、第1構造体620の端面、第1流入部材624、連結部材66および内筒70の外周面によって囲まれた空間628が形成されており、この空間628は、第1構造体620の隙間と連通している。さらに、第1流入部材624には、D軸方向に空いた孔626を有しており、この孔626は、空間628と連通している。
【0086】
第1流出部材630は、冷却溶媒を外部に流出させるための部材である。第1流出部材630は、第1構造体620を外部から内部に向けて押圧する押圧部634と、第1構造体620の端面を覆う被覆部材632とを備える。第2実施形態では、第1構造体620の端面、被覆部材632および内筒70の外周面によって囲まれた空間633が形成されている。この空間633は、第1構造体620の隙間および排出口(図示しない)と連通している。
【0087】
第1偏向装置62では、第1流入部材624、第1構造体620および第1流出部材630において、
図15に示す矢印の方向に冷却溶媒が流れることによって、第1構造体620が有する第1コイルが冷却される。具体的には、第1流入部材624の孔626から冷却溶媒が空間628に流入し、第1構造体620および第1流出部材630の空間633を介して、排出口から冷却溶媒が排出される。このとき、冷却溶媒が第1構造体620の隙間を流れることによって、第1コイルが冷却される。
【0088】
第2偏向装置64は、D軸方向および第1偏向装置62が荷電粒子ビームを偏向させる方向とは異なる方向に荷電粒子ビームを偏向させ、偏向させた荷電粒子ビームを出射口76から出射させる装置である。第2偏向装置64は、第2構造体640、第2ヨーク642、第2流入部材644、第2流出部材650および内筒70を備える。
【0089】
第2構造体640は、磁場によって内部空間72を通過する荷電粒子ビームを偏向するように構成されている。第2実施形態に係る第2構造体640は、図示しないが、第2積層構造体および第2コイルを備える。第2コイルは、発生させた磁場により、第1偏向装置62によって偏向された荷電粒子ビームを、D軸方向および第1偏向装置62が荷電粒子ビームを偏向させる方向とは異なる方向に偏向させる。第2コイルは、たとえば、D軸方向に垂直であって、第1偏向装置62が荷電粒子ビームを偏向させる方向に垂直な方向に荷電粒子ビームを偏向させてよい。
【0090】
第2積層構造体は、荷電粒子ビームが内部を通過する中空形状を有し、内部から外部に向かう方向に積層された複数の層を有する。これらの複数の層のうち、隣合う2つの層の間は、冷却溶媒を流すことが可能な隙間を有している。また、第2積層構造体が有する複数の層は、第2コイルを支持する第2コイル支持層を含む。
【0091】
第2流入部材644は、冷却溶媒を第2構造体640に流入させるための部材である。第2流入部材644は、第2構造体640の端面を覆う被覆部材646と、第2構造体640を外部から内部に向けて押圧する押圧部647とを備える。第2実施形態では、第2構造体640の端面、被覆部材646および内筒70の外周面によって囲まれた空間649が形成されている。この空間649は、第2構造体640の隙間と連通している。さらに、第2流入部材644には、D軸方向に空いた孔648を有しており、この孔648は、空間649と連通している。
【0092】
第2流出部材650は、冷却溶媒を外部に流出させるための部材である。第2流出部材650は、連結部材66に接続されている。また、第2流出部材650は、第2構造体640を外側から内側に向けて押圧する押圧部として機能してよい。また、第2構造体640の端面、第2流出部材650、連結部材66および内筒70の外周面によって囲まれた空間652が形成されている。この空間652は、第2構造体640の隙間および排出口(図示しない)と連通している。
【0093】
第2偏向装置64では、第2流入部材644、第2構造体640および第2流出部材650において、
図15に示す矢印の方向に冷却溶媒が流れることによって、第2構造体640が有する第2コイルが冷却される。具体的には、第2流入部材644の孔648から冷却溶媒が空間649に流入し、第2構造体640および空間652を介して、排出口から冷却溶媒が排出される。このとき、冷却溶媒が第2構造体640の隙間を流れることによって、第2コイルが冷却される。
【0094】
以上、第2実施形態に係る荷電粒子ビーム偏向装置60について説明した。第2実施形態では、第1偏向装置62が備える第1ヨーク622および第2偏向装置64が備える第2ヨーク642が別体である例を説明したが、これに限らず、第1偏向装置62および第2偏向装置64が備えるヨークは、互いに結合されている一体型であってもよい。
【0095】
また、冷却溶媒を流す経路は上述した例に限られるものではない。例えば、連結部材66において、空間628と空間652とを連通する孔を設けてよい。この場合、第2偏向装置64に流入した冷却溶媒は、連結部材66に設けられた孔を通過して第1偏向装置62に流れ、空間633から外部に排出される。
【0096】
また、連結部材66によって形成される2つの空間(すなわち、第1偏向装置62の空間628および第2偏向装置64の空間652)は、共に、冷却溶媒の流入に利用されてもよい。この場合、第2偏向装置64の空間652に流入した冷却溶媒は、空間649を通過して、孔648から外部に排出されてよい。
【0097】
[積層構造体の位置合わせ]
構造体40をアイソセンターに対して位置合わせする場合、構造体40を位置合わせするための参照点は、流入部材24とすることができる。このため、流入部材24を基準として、構造体40を位置合わせできる。以下、
図17および
図18を参照しながら、構造体40を位置合わせする方法の一例を説明する。
図17は、位置合わせされている構造体40を荷電粒子ビームの出射側から見た図である。
図18は、位置出しピン28によって内筒30と外筒32と構造体40とが出射側押圧部241に対して位置合わせされている様子を拡大して示す図である。
【0098】
図17に示すように、構造体40および内筒30は、4本の位置出しピン28によって、出射側押圧部241に固定される。なお、位置出しピン28は、3本以下であってもよいし、5本以上であってもよい。
【0099】
構造体40の各層491~498には、半径方向に沿って形成された切り欠き部が設けられている。内筒30は、位置出しピン28を内筒30に固定するためのネジ穴を有している。
図18に示すように位置出しピン28を切り欠き部と係合させ、切り欠き部および内筒30のネジ穴を半径方向にすべて一致させることにより、構造体40の各層(各巻き枠層および各水路層)は精度良く積層される。
【0100】
位置出しピン28は、構造体40に係合しているため、内筒30、構造体40、および構造体40に密着した外筒32は、出射側押圧部241に対して位置合わせされる。また、本実施形態のようにコイルが設けられた複数の巻き枠層を積層する場合は、位置出しピン28の配置により、第1コイルおよび第2コイルの適切な相対位置関係が担保される。
【0101】
図18を参照して、位置出しピン28の構成について、より詳細に説明する。
図18に示すように、位置出しピン28は、第1被固定部280、固定部286および第2被固定部288を備える。これらの第1被固定部280、固定部286および第2被固定部288は、一体となっている。
【0102】
第1被固定部280は、ネジ穴282,284を有しており、これらのネジ穴282,284にネジが通されることにより、第1被固定部280が出射側押圧部241の所望の位置に固定される。また、第2被固定部288は、図示しないネジ穴を有しており、そのネジ穴にネジが通されることにより、第2被固定部288が内筒30に固定される。固定部286は、第1被固定部280と第2被固定部288とを接続する、板状の部材である。
【0103】
構造体40の各層491~498には、切り欠き部が設けられており、その切り欠き部に固定部286が係合する。このように構造体40が4つの位置出しピン28に係合することにより、構造体40および構造体40に密着した外筒32は、出射側押圧部241に対して位置合わせされる。このように位置出しピン28を用いることにより、積層構造体42を位置精度良く積層する組立が容易になる。
【0104】
外筒32、構造体40および出射側押圧部241などの位置合わせを行う流れの一例を説明する。ここでは、流入部材24を模擬した模擬部材と、位置出しピン28を模擬した模擬部材用の位置出しピンを用いる例を説明する。
【0105】
まず、模擬部材に固定される模擬部材用の位置出しピンに対し、内筒30は、模擬第2被固定部(模擬部材用の位置出しピンの第2被固定部288に対応する部分)と模擬ネジで係合して固定される。この後、構造体40の各層(各巻き枠層および各水路層)を、順次一層ごと固定または係合し、層間を接着して固定する。このようにして構造体40が模擬部材に対して位置合わせされたあと、模擬部材用の位置出しピンを模擬部材から外す。その後、模擬部材を流入部材24に交換し、流入部材24に対し、位置出しピン28により、内筒30を第2被固定部288とネジ穴にネジを通して結合することにより、簡単に構造体40および外筒32を切り欠き部に沿って出射側押圧部241に固定することができる。これにより、流入部材24に対して、構造体40などが適切な位置に、精度良く配置される。したがって、構造体40のコイルが、流入部材24に対して適切な位置に固定される。このように組み立てることで、流入部材24に対し、簡便かつ確実に各層を位置精度良く配置できる。
【0106】
[補足]
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0107】
上述の実施形態では、荷電粒子ビーム偏向装置20が照射ノズル16に設けられる例について説明した。これに限らず、荷電粒子ビーム偏向装置は、荷電粒子ビーム調整手段122などの各種の荷電粒子ビームを偏向させるための装置に設けられてよい。
【0108】
上述の実施形態では、入射側押圧部226および出射側押圧部241が、積層構造体の外周面の入射側の端部および出射側の端部をそれぞれ押圧する例を説明した。押圧部が押圧する積層構造体の位置は、これらの端部に限定されるものではない。たとえば、押圧部は、積層構造体の外周面の中央領域を押圧してもよい。
【0109】
上述の実施形態では、第1コイルおよび第2コイルが、互いに略直交する方向に磁場を発生させる例を説明した。これに限らず、第1コイルおよび第2コイルは、荷電粒子ビームを走査できる範囲で、互いに直交する方向からずれた方向に磁場を発生させてもよい。
【0110】
上述の実施形態では、内筒30、積層構造体42を構成する各層および外筒32の形状が、X軸に垂直な断面において円形である例について説明した。これらの形状は、円形に限定されるものではなく、楕円形または矩形などの各種の形状であってよい。
【0111】
上述の実施形態では、外筒32のX軸方向の全長が、構造体40のX軸方向の全長と同程度である例を説明した。これに限らず、外筒のX軸方向の全長は、構造体のX軸方向の全長と異なっていてもよい。たとえば、外筒のX軸方向の全長が、構造体のX軸方向の全長よりも長く、外筒が構造体の端面から外側に突出していてもよい。この場合、外筒が突出した部分を押圧部によって外部から内部に向けて押圧することにより、構造体40を押圧することも可能である。
【0112】
また、上述の実施形態では、流出部材22および流入部材24のそれぞれは、複数の部材の組み合わせによって構成される例を説明した。これに限らず、流出部材22および流入部材24のそれぞれは1つの部材によって構成されてよい。
【符号の説明】
【0113】
1 荷電粒子ビーム照射装置、14 偏向電磁石、16 照射ノズル、20 荷電粒子ビーム偏向装置、22 流出部材、24 流入部材、30 内筒、32 外筒、40 構造体、42 積層構造体、43 端面、44 端面、50 第1コイル、52 第2コイル、222 入射側突出部、224 入射側被覆部、226 入射側押圧部、240 出射側端部、241 出射側押圧部、243 出射側突出部、244 孔、300 内部空間、310,320 内筒突出部