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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148556
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】被温度制御体の温度制御装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/659 20140101AFI20231005BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20231005BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20231005BHJP
   H01M 10/6555 20140101ALI20231005BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20231005BHJP
   H01M 10/6551 20140101ALI20231005BHJP
【FI】
H01M10/659
H01M10/613
H01M10/653
H01M10/6555
H01M10/625
H01M10/6551
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056654
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000253075
【氏名又は名称】澤藤電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002192
【氏名又は名称】弁理士法人落合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 幸浩
【テーマコード(参考)】
5H031
【Fターム(参考)】
5H031AA09
5H031HH06
5H031KK02
(57)【要約】
【課題】冷却ばかりでなく加熱も含むような被温度制御体の温度制御を、不活性媒体の潜熱を利用した簡単なシステムで高精度且つ効率よく行える温度制御装置を提供する。
【解決手段】
不活性媒体移動部材により収容箱内を貯蔵部から熱交換可能位置まで移動させた不活性媒体を、被温度制御体からの熱移動により気体状に変化させ、その気体状の不活性媒体を収容箱に接触させて冷却し、不活性媒体を液体状に変化させて貯蔵部に戻すようにした被温度制御体の温度制御装置が、収容箱の内部および外部の温度を測定する温度測定部と熱交換器と熱制御器とを備え、該熱制御器は、温度測定部が測定した収容箱内外の温度測定データに基づいて熱交換器を制御し、不活性媒体の温度を変化させるので、熱制御器が熱交換器に与える熱量を高精度に効率よく制御し、不活性媒体を用いた適切な被温度制御体の温度制御を行うことができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被温度制御体と、前記被温度制御体を収容する密閉された収容箱と、前記収容箱の内部に貯蔵部を形成する液体状の不活性媒体と、その不活性媒体を、前記貯蔵部から前記被温度制御体に隣接して該被温度制御体との熱交換が可能な熱交換可能位置まで移動させるべく、前記収容箱内の前記貯蔵部と前記熱交換可能位置との間に配置される不活性媒体移動部材とを備え、前記熱交換可能位置まで移動した前記不活性媒体を、前記被温度制御体からの熱移動により気体状に変化させ、その気体状の前記不活性媒体を前記収容箱に接触させることで冷却し、前記不活性媒体を液体状に変化させて貯蔵部に戻す被温度制御体の温度制御装置であって、
前記収容箱の内部および外部の温度を測定する温度測定部と、前記収容箱の内部または前記収容箱の外壁と接触する位置に配置されて前記不活性媒体の温度を変化させる熱交換器と、前記熱交換器の温度を制御する熱制御器とを備え、
前記熱制御器は、前記温度測定部により測定された前記収容箱の内部および外部の温度測定データに基づいて前記熱交換器を制御し、前記不活性媒体の温度を変化させることを特徴とする被温度制御体の温度制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の被温度制御体の温度制御装置であって、
前記被温度制御体の発熱時温度が前記外部温度よりも低いとき、または、前記被温度制御体の発熱量が自然放熱量よりも多いときに使用される前記熱交換器が、前記不活性媒体を冷却する冷却用熱交換器であることを特徴とする被温度制御体の温度制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の被温度制御体の温度制御装置であって、
前記被温度制御体の許容下限温度が前記外部温度と同等または前記外部温度より高いときに使用される前記熱交換器が、前記不活性媒体を加熱する加熱用熱交換器であることを特徴とする被温度制御体の温度制御装置。
【請求項4】
請求項2に記載の被温度制御体の温度制御装置であって、
前記冷却用熱交換器は前記不活性媒体の前記貯蔵部と非接触の位置に配置されており、前記温度測定部で測定される前記被温度制御体の温度が第1の設定値より高いとき、前記冷却用熱交換器が前記不活性媒体を冷却することを特徴とする被温度制御体の温度制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の被温度制御体の温度制御装置であって、
前記加熱用熱交換器は前記不活性媒体の前記貯蔵部と直接または前記収容箱を介して間接的に接触した位置に配置されており、前記被温度制御体の温度が第2の設定値より低いとき、前記加熱用熱交換器が前記不活性媒体を加熱することを特徴とする被温度制御体の温度制御装置。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の被温度制御体の温度制御装置であって、
異なる種類の前記熱交換器を備えており、第1の熱交換器は、前記不活性媒体を冷却する冷却用熱交換器であり、前記不活性媒体の前記貯蔵部と非接触の位置に配置され、前記温度測定部で測定される前記被温度制御体の温度が第1の設定値より高いとき、前記冷却用熱交換器が前記不活性媒体を冷却し、第2の熱交換器は、前記不活性媒体を加熱する加熱用熱交換器であり、前記不活性媒体の前記貯蔵部と直接または前記収容箱を介して間接的に接触した位置に配置され、前記被温度制御体の温度が第2の設定値より低いとき、前記加熱用熱交換器が前記不活性媒体を加熱することを特徴とする被温度制御体の温度制御装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の被温度制御体の温度制御装置であって、
前記不活性媒体の蒸発温度は前記外部温度の最高温度より高く、前記不活性媒体の凝固温度は前記外部温度の最低温度より低いことを特徴とする被温度制御体の温度制御装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の被温度制御体の温度制御装置であって、
前記不活性媒体移動部材は、毛細管現象により、前記不活性媒体を前記貯蔵部から前記熱交換可能位置まで移動させることを特徴とする被温度制御体の温度制御装置。
【請求項9】
請求項8に記載の被温度制御体の温度制御装置であって、
前記被温度制御体と前記不活性媒体移動部材とをそれぞれ複数備え、前記被温度制御体の間に前記不活性媒体移動部材が挟まるようにして両者が交互に配置されていることを特徴とする被温度制御体の温度制御装置。
【請求項10】
被温度制御体と、前記被温度制御体を収容する密閉された収容箱と、前記被温度制御体の温度を測定する温度測定部と、前記収容箱の内部に形成された貯蔵部に収容される不活性媒体と、その不活性媒体を、前記貯蔵部から前記被温度制御体に隣接して該被温度制御体との熱交換が可能な熱交換可能位置まで移動させるべく、前記収容箱内の前記貯蔵部と前記熱交換可能位置との間に配置される第1の不活性媒体移動部材と、前記不活性媒体の前記貯蔵部に接続される入力部を一端側に有し、前記不活性媒体を被温度制御体に向けて噴射する噴射部を他端側に有するとともに、前記貯蔵部内の前記不活性媒体を前記噴射部に移動させるポンプをそれら入力部および噴射部間に備えた第2の不活性媒体移動部材とを備え、前記熱交換可能位置まで移動した前記不活性媒体を、前記被温度制御体からの熱移動により気体状に変化させ、その気体状の前記不活性媒体を前記収容箱に接触させることで冷却し、前記不活性媒体を液体状に変化させて貯蔵部に戻す被温度制御体の温度制御装置であって、
前記温度測定部で測定された前記被温度制御体の温度測定値が所定の温度設定値より低いときに、前記不活性媒体は前記第1の不活性媒体移動部材の内部を移動し、
前記温度測定部で測定された前記被温度制御体の前記温度測定値が前記所定の温度設定値以上であるときに、前記不活性媒体は前記第2の不活性媒体移動部材を介して前記ポンプにより前記入力部から前記噴射部に移動し、前記噴射部から前記被温度制御体に向かって噴射されることを特徴とする被温度制御体の温度制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用バッテリを一例とした、温度制御が必要とされる被温度制御体の温度を制御するための温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車の電動化が加速する中で車載用バッテリはリチウムイオン電池が主流であり、バッテリの発熱に起因する爆発や発火の防止、およびバッテリ寿命の延長のためには温度管理が重要となっている。従来技術では、空冷、水冷、冷媒直冷などの様々な構造によりバッテリと冷媒との熱交換を直接または間接的に実現しているが、何れもシステムの構造が複雑であり、その構造が複雑になるほどコストが高くなるばかりでなく、熱交換効率やシステム効率の悪化を招きやすく、また冷媒の使用量も増加して車重の増大の原因となってしまう。
【0003】
そこで、被温度制御体である車載用バッテリの冷却を、冷媒の潜熱を利用した簡単なシステムで行う技術が、下記特許文献1において既に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-161528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されたものは、複数の電池セル20と、それらの電池セル20を収容する密閉された電池パック10と、電池パック10の内部に収容される冷媒30と、その冷媒30に一部が浸漬されて電池セル20間に配置されるウィック40とを備えており、冷媒30はウィック40に浸潤することで毛管現象により上昇して電池セル20の側面20aに接触し、該側面20aの温度が冷媒30の沸点を超えると、該側面20aにおいて冷媒30が沸騰し、その気化熱で電池セル20を冷却するように構成されている。
【0006】
上記特許文献1のものは、沸騰した冷媒30を冷却して凝縮させ、重力によって電池パック10の内部下方に落下させるための冷熱源50を有しているが、その冷熱源50を温度制御して冷却を効率よく行うことについては言及されていない。しかも、電池セル20のような被温度制御体は、冷却ばかりでなく所定温度以上に加熱する必要も生じ得るが上記特許文献1のものではそのような場合に対応できない。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、冷却ばかりでなく加熱も含むような被温度制御体の温度制御を、主に不活性媒体の潜熱を利用した簡単なシステムで、効率よく行うことのできる温度制御装置を提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、被温度制御体と、前記被温度制御体を収容する密閉された収容箱と、前記収容箱の内部に貯蔵部を形成する液体状の不活性媒体と、その不活性媒体を、前記貯蔵部から前記被温度制御体に隣接して該被温度制御体との熱交換が可能な熱交換可能位置まで移動させるべく、前記収容箱内の前記貯蔵部と前記熱交換可能位置との間に配置される不活性媒体移動部材とを備え、前記熱交換可能位置まで移動した前記不活性媒体を、前記被温度制御体からの熱移動により気体状に変化させ、その気体状の前記不活性媒体を前記収容箱に接触させることで冷却し、前記不活性媒体を液体状に変化させて貯蔵部に戻す被温度制御体の温度制御装置であって、前記収容箱の内部および外部の温度を測定する温度測定部と、前記収容箱の内部または前記収容箱の外壁と接触する位置に配置されて前記不活性媒体の温度を変化させる熱交換器と、前記熱交換器の温度を制御する熱制御器とを備え、前記熱制御器は、前記温度測定部により測定された前記収容箱の内部および外部の温度測定データに基づいて前記熱交換器を制御し、前記不活性媒体の温度を変化させることを第1の特徴とする。なお、ここで「不活性媒体」とは、接触する被温度制御体等の機能(例えば、絶縁性)を阻害しない媒体をいう。
【0009】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記被温度制御体の発熱時温度が前記外部温度よりも低いとき、または、前記被温度制御体の発熱量が自然放熱量よりも多いときに使用される前記熱交換器が、前記不活性媒体を冷却する冷却用熱交換器であることを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記被温度制御体の許容下限温度が前記外部温度と同等または前記外部温度より高いときに使用される前記熱交換器が、前記不活性媒体を加熱する加熱用熱交換器であることを第3の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第2の特徴に加えて、前記冷却用熱交換器は前記不活性媒体の前記貯蔵部と非接触の位置に配置されており、前記温度測定部で測定される前記被温度制御体の温度が第1の設定値より高いとき、前記冷却用熱交換器が前記不活性媒体を冷却することを第4の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第3の特徴に加えて、前記加熱用熱交換器は前記不活性媒体の前記貯蔵部と直接または前記収容箱を介して間接的に接触した位置に配置されており、前記被温度制御体の温度が第2の設定値より低いとき、前記加熱用熱交換器が前記不活性媒体を加熱することを第5の特徴とする。
【0013】
また本発明は、第1~第3の特徴の何れかに加えて、異なる種類の前記熱交換器を備えており、第1の熱交換器は、前記不活性媒体を冷却する冷却用熱交換器であり、前記不活性媒体の前記貯蔵部と非接触の位置に配置され、前記温度測定部で測定される前記被温度制御体の温度が第1の設定値より高いとき、前記冷却用熱交換器が前記不活性媒体を冷却し、第2の熱交換器は、前記不活性媒体を加熱する加熱用熱交換器であり、前記不活性媒体の前記貯蔵部と直接または前記収容箱を介して間接的に接触した位置に配置され、前記被温度制御体の温度が第2の設定値より低いとき、前記加熱用熱交換器が前記不活性媒体を加熱することを第6の特徴とする。
【0014】
また本発明は、第1~第6の特徴の何れかに加えて、前記不活性媒体の蒸発温度は前記外部温度の最高温度より高く、前記不活性媒体の凝固温度は前記外部温度の最低温度より低いことを第7の特徴とする。
【0015】
また本発明は、第1~第7の特徴の何れかに加えて、前記不活性媒体移動部材は、毛細管現象により、前記不活性媒体を前記貯蔵部から前記熱交換可能位置まで移動させることを第8の特徴とする。
【0016】
また本発明は、第8の特徴に加えて、前記被温度制御体と前記不活性媒体移動部材とをそれぞれ複数備え、前記被温度制御体の間に前記不活性媒体移動部材が挟まるようにして両者が交互に配置されていることを第9の特徴とする。
【0017】
また本発明は、被温度制御体と、前記被温度制御体を収容する密閉された収容箱と、前記被温度制御体の温度を測定する温度測定部と、前記収容箱の内部に形成された貯蔵部に収容される不活性媒体と、その不活性媒体を、前記貯蔵部から前記被温度制御体に隣接して該被温度制御体との熱交換が可能な熱交換可能位置まで移動させるべく、前記収容箱内の前記貯蔵部と前記熱交換可能位置との間に配置される第1の不活性媒体移動部材と、前記不活性媒体の前記貯蔵部に接続される入力部を一端側に有し、前記不活性媒体を被温度制御体に向けて噴射する噴射部を他端側に有するとともに、前記貯蔵部内の前記不活性媒体を前記噴射部に移動させるポンプをそれら入力部および噴射部間に備えた第2の不活性媒体移動部材とを備え、前記熱交換可能位置まで移動した前記不活性媒体を、前記被温度制御体からの熱移動により気体状に変化させ、その気体状の前記不活性媒体を前記収容箱に接触させることで冷却し、前記不活性媒体を液体状に変化させて貯蔵部に戻す被温度制御体の温度制御装置であって、前記温度測定部で測定された前記被温度制御体の温度測定値が所定の温度設定値より低いときに、前記不活性媒体は前記第1の不活性媒体移動部材の内部を移動し、前記温度測定部で測定された前記被温度制御体の前記温度測定値が前記所定の温度設定値以上であるときに、前記不活性媒体は前記第2の不活性媒体移動部材を介して前記ポンプにより前記入力部から前記噴射部に移動し、前記噴射部から前記被温度制御体に向かって噴射されることを第10の特徴とする。
【0018】
なお、実施形態のバッテリ1は、本発明の被温度制御体に対応し、実施形態のウイック5は、本発明の(第1の)不活性媒体移動部材に対応する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の特徴によれば、不活性媒体移動部材により収容箱内を貯蔵部から熱交換可能位置まで移動させた液体状の不活性媒体を、被温度制御体からの熱移動により気体状に変化させ、その気体状の不活性媒体を収容箱に接触させることで冷却し、不活性媒体を液体状に変化させて貯蔵部に戻すように構成しているので、被温度制御体の冷却を、不活性媒体の潜熱を利用した簡単なシステムで行うことができてコスト低減に寄与し得る。しかも不活性媒体の使用量も少ないので、温度制御装置の重量の増大も避けられる。
【0020】
また、収容箱の内部および外部の温度を測定する温度測定部と、収容箱の内部または収容箱の外壁と接触する位置に配置されて不活性媒体の温度を変化させる熱交換器と、その熱交換器の温度を制御する熱制御器とを備え、該熱制御器は、温度測定部により測定された収容箱の内部および外部の温度測定データに基づいて熱交換器を制御し、不活性媒体の温度を変化させるので、収容箱内部の温度だけでなく、収容箱外部の温度も測定することで熱制御器が熱交換器に与える熱量を高精度に効率よく制御し、不活性媒体を用いたより適切な被温度制御体の温度制御を行うことができる。
【0021】
また本発明の第2の特徴によれば、被温度制御体の発熱時温度が外部温度よりも低いとき、または、被温度制御体の発熱量が自然放熱量よりも多いときに使用される熱交換器が、不活性媒体を冷却する冷却用熱交換器であるので、不活性媒体が外部温度よりも低い温度の被温度制御体の熱を受けて気化した場合でも、その気体状の不活性媒体を冷却用熱交換器で冷却し、不活性媒体を液体状に変化させることができる。また、被温度制御体の発熱量が自然放熱量よりも多いときは被温度制御体の温度が上昇してしまうが、そのような場合でも収容箱の内部温度を低下させて被温度制御体の温度を下げることができる。
【0022】
また本発明の第3の特徴によれば、被温度制御体の許容下限温度が外部温度と同等または外部温度より高いときに使用される熱交換器が、不活性媒体を加熱する加熱用熱交換器であるので、不活性媒体が固化するような場合でも、その固体状の不活性媒体を加熱用熱交換器で加熱し、不活性媒体を液体状に変化させることができる。
【0023】
また本発明の第4の特徴によれば、冷却用熱交換器を不活性媒体の貯蔵部と非接触の位置に配置し、温度測定部で測定される被温度制御体の温度が第1の設定値(例えばバッテリ1の使用可能な上限温度)より高いときに、冷却用熱交換器が不活性媒体を冷却するので、液状の不活性媒体が気体に変化したときに、その不活性媒体を効果的に冷却することができる。
【0024】
また本発明の第5の特徴によれば、加熱用熱交換器は不活性媒体の貯蔵部と直接または収容箱を介して間接的に接触した位置に配置されるので、不活性媒体を効果的に加熱することができる。また、加熱用熱交換器は被温度制御体の温度が第2の設定値(例えば被温度制御体の使用可能な下限温度)より低いとき不活性媒体を加熱するので、液状の不活性媒体が固体に変化したとき、その不活性媒体を効果的に加熱することができる。
【0025】
また本発明の第6の特徴によれば、異なる種類の熱交換器を備えており、第1の熱交換器は不活性媒体を冷却する冷却用熱交換器であって、不活性媒体の貯蔵部と非接触の位置に配置され、温度測定部で測定される被温度制御体の温度が第1の設定値より高いとき、冷却用熱交換器が不活性媒体を冷却し、第2の熱交換器は不活性媒体を加熱する加熱用熱交換器であって、不活性媒体の貯蔵部と直接または収容箱を介して間接的に接触した位置に配置され、被温度制御体の温度が第2の設定値より低いとき、加熱用熱交換器が不活性媒体を加熱するので、液状の不活性媒体が気体に変化したときに、その不活性媒体を効果的に冷却し、液状の不活性媒体が固体に変化したときに、その不活性媒体を効果的に加熱することができる。
【0026】
また本発明の第7の特徴によれば、不活性媒体の蒸発温度が外部温度の最高温度より高く、不活性媒体の凝固温度は外部温度の最低温度より低いので、広範囲の温度領域で不活性媒体を液体状として用いることができる。
【0027】
また本発明の第8の特徴によれば、不活性媒体移動部材は、毛細管現象により不活性媒体を貯蔵部から熱交換可能位置まで移動させるので、不活性媒体を移動させる不活性媒体移動部材の動力源を不要とすることができる。
【0028】
また本発明の第9の特徴によれば、被温度制御体と不活性媒体移動部材とをそれぞれ複数備え、被温度制御体の間に不活性媒体移動部材が挟まるようにして両者が交互に配置されているので、被温度制御体と不活性媒体移動部材とを収容箱内に、両者の接触面積を広く確保しながら、コンパクトに配置することができる。
【0029】
また本発明の第10の特徴によれば、不活性媒体を熱交換可能位置まで移動させる不活性媒体移動部材が、収容箱内の貯蔵部と熱交換可能位置との間に配置される第1の不活性媒体移動部材と、前記不活性媒体の前記貯蔵部に接続される入力部を一端側に有し、前記不活性媒体を被温度制御体に向けて噴射する噴射部を他端側に有するとともに、前記貯蔵部内の前記不活性媒体を前記噴射部に移動させるポンプをそれら入力部および噴射部間に備えた第2の不活性媒体移動部材とを備え、温度測定部で測定された被温度制御体の温度測定値が所定の温度設定値より低いときに、不活性媒体が第1の不活性媒体移動部材の内部を移動し、前記温度測定値が前記所定の温度設定値以上であるときに第2の不活性媒体移動部材を介してポンプにより入力部から噴射部に移動し、噴射部から前記被温度制御体に向かって噴射されるので、通常は第1の不活性媒体移動部材を用いて被温度制御体を冷却するが、被温度制御体が急激に温度上昇する等して第1の不活性媒体移動部材のみでは被温度制御体を冷却し切れないときに、被温度制御体の温度が非常温度設定値以上になると第2の不活性媒体移動部材による被温度制御体の急激な冷却が行われるので、被温度制御体の温度が異常に上昇するような事態を避けることができる。
【0030】
なお、ここで「温度測定値」については、測定した温度の絶対値に限らず、測定した2つ以上の温度の変化量等(例えば、測定した温度の微分値、積分値)を用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係る被温度制御体の温度制御装置の収容箱の、ウィックの配列方向に沿う断面図である。
図2図2は、本発明の第2の実施形態に係る被温度制御体の温度制御装置の収容箱の、ウィックの配列方向に沿う断面図である。
図3図3は、本発明の第1の参考形態に係る被温度制御体の温度制御装置の収容箱の、ウィックの配列方向に沿う断面図である。
図4図4は、本発明の第2の参考形態に係る被温度制御体の温度制御装置の収容箱の、ウィックの配列方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態を、添付図面に基づいて以下に説明する。
【0033】
図1に、本発明の第1の実施形態の被温度制御体の温度制御装置を示す。第1の実施形態の温度制御装置は、被温度制御体としてのバッテリ1の温度を制御するためのものであり、密閉された収容箱2内に複数の直方体状のバッテリ1が並べて収容されるとともに、その収容箱2の内部下方に液体状の不活性媒体3の貯蔵部4が形成される。前記複数のバッテリ1の間には、それらのバッテリ1の側面に接する複数のウイック5が、各バッテリ1の間に各一個のウイック5が挟まって両者が交互に並ぶように配置されており、それらのウイック5は、その下端部が貯蔵部4まで延びて液体状の不活性媒体3中に浸漬されている。前記複数のバッテリ1は貯蔵部4の上方に収容されるが、本実施形態では、各バッテリ1の下端部がウイック5とともに貯蔵部4内に浸漬している。
【0034】
なお、バッテリ1については、必ずしも貯蔵部4内に浸漬していなくてもよい。より具体的には、貯蔵部4がバッテリ1の下方に形成されており、ウイック5が貯蔵部4まで延びており、ウイック5が不活性媒体3をバッテリ1まで移動させてもよい。
【0035】
前記不活性媒体3は、常温では液体状であり且つ前記バッテリ1と接触することにより該バッテリ1からの熱移動により気体状に変化するものであればどんな不活性媒体でもよく、そのときの気化熱でバッテリ1の温度を低下させるものである。ちなみに本実施形態では、蒸発温度が外部温度の最高温度より高く且つ凝固温度が外部温度の最低温度より低い不活性媒体3が使用されており、そのような不活性媒体3であれば、広範囲の温度領域で不活性媒体3を液体状として用いることができる。
【0036】
また前記ウイック5は、貯蔵部4内の不活性媒体3を、バッテリ1の側面に接触してバッテリ1との熱交換が可能な熱交換可能位置6まで毛細管現象で上昇させるものであり、該ウイック5は、不活性媒体3を貯蔵部4からバッテリ1に隣接してバッテリ1との熱交換が可能な熱交換可能位置6まで移動させる、本願発明の不活性媒体移動部材を構成するものである。本実施形態では、毛細管現象を利用したウイックを用いることで不活性媒体移動部材の動力源を不要としているが、不活性媒体移動部材はウイックに限定されるものではない。なお、このようにして熱交換可能位置6まで移動した不活性媒体3は、バッテリ1からの熱移動により気体状に変化して収容箱2に接触し、収容箱2で冷却されて液体状に変化した後、重力で貯蔵部に戻される。
【0037】
収容箱2の上方には、収容箱2の上壁と接触するようにして冷却用熱交換器7が配置されるとともに、収容箱2の下方には、収容箱2の下壁と接触するようにして加熱用熱交換器8が配置され、これらの熱交換器7,8は、それらを制御する熱制御器9に接続される。また収容箱2の内部には、収容箱2の内部の温度(即ち、バッテリ1の温度)Tを測定する内部温度測定部10と、収容箱2の内部の圧力Pを測定する圧力測定部11とが形成され、収容箱2の外部には、収容箱2の外部の温度(より詳細には、収容箱2の外壁の温度To)を測定する外部温度測定部12が形成される。また更に、収容箱2の側壁には、収容箱2内の複数のバッテリ1の電力を外部機器13に取り出すための第1の気密端子14と、内部温度測定部10で測定された収容箱2の内部の温度Tを熱制御器9に伝達するための第2の気密端子15と、圧力測定部11で測定された収容箱2の内部の圧力Pを熱制御器9に伝達するための第3の気密端子16とが形成され、熱制御器9は、内部および外部温度測定部11,12により測定された収容箱2の内部および外部の温度測定データに基づいて熱交換器7,8を制御し、不活性媒体3の温度を変化させる。
【0038】
なお、本実施形態では、収容箱2の内部の温度として、バッテリ1の温度を測定しているが、バッテリ21の温度に加えて、不活性媒体3の温度を測定してもよい。また、第1,第2の気密端子14,15は上記に限らず、他の制御信号を伝達する構成であってもよい。
【0039】
本実施形態において、外部温度測定部12は、収容箱2の内部温度に対する収容箱2の外部温度の影響をより高精度に測定するため、収容箱2の外壁に配置されているが、収容箱2の外壁に配置せず、外気の温度を測定してもよいし、外壁および外壁以外の場所の複数箇所に設置し、収容箱2の外壁と外気の温度とを測定してもよい。
【0040】
本実施形態では、冷却用熱交換器7および加熱用熱交換器8が、収容箱2の上方および下方に、収容箱2の上壁および下壁と接触するように配置されているが、その位置は、収容箱2の外壁と接触する位置であれば別の位置でも良く、これらの熱交換器7,8を収容箱2の内部に配置することも可能である。なお、熱交換器7,8を収容箱2の内部に配置する場合には、気化した不活性媒体3を効果的に液化させるために冷却用熱交換器7は不活性媒体3の貯蔵部4と非接触の位置に配置され、また、不活性媒体3を効果的に加熱するために加熱用熱交換器8は不活性媒体3の貯蔵部4と直接接触する位置に配置される。
【0041】
冷却用熱交換器7は、バッテリ1の発熱時の温度が外部温度Toよりも低いとき、またはバッテリ1の発熱量が自然放熱量よりも多いときに不活性媒体3を冷却するために用いられるものであって、内部温度測定部10で測定されるバッテリ1の温度が第1の設定値(例えば不活性媒体の沸点)より高いときに、不活性媒体3を冷却する。また、冷却用熱交換器7は、不活性媒体3の沸点が外部温度Toより低いときに不活性媒体を冷却してもよい。
【0042】
加熱用熱交換器8は、バッテリ1の許容下限温度が外部温度To以上である(換言すれば、外部温度Toと同等または外部温度より高い)ときに、不活性媒体3を加熱するために用いられるものであって、不活性媒体3の貯蔵部4と収容箱2を介して間接的に接触する位置収容箱2を挟んで(貯蔵部4と対向する位置)に配置されており、バッテリ1の温度が第2の設定値より低いときに、加熱用熱交換器8が不活性媒体3を加熱する。
【0043】
なお、前記冷却用熱交換器7および加熱用熱交換器8は、それらの何れか一方が不要である場合は、それを省略することも可能である。また、圧力測定部11は、収容箱2内の圧力上昇に伴う収容箱の破裂を防止するために収容箱内に配置されるものであるが、この圧力測定部11も不要であれば省略できる。
【0044】
次にこの第1の実施形態の作用効果について説明する。
【0045】
本発明の第1の実施形態では、収容箱2内をウイック5により貯蔵部4から熱交換可能位置6まで移動させた液体状の不活性媒体3を、バッテリ1からの熱移動により温度を上昇させて気体状に変化させ、その気体状の不活性媒体3を収容箱2に接触させることで冷却し、不活性媒体3を液体状に変化させて重力で貯蔵部4に戻すように構成しているので、バッテリ1の冷却を、不活性媒体3の潜熱を利用した簡単なシステムで行うことができてコスト低減に寄与し得る。しかも不活性媒体3の使用量も少ないので、温度制御装置の重量の増大も避けられる。なお、不活性媒体3は、バッテリ1からの熱移動により、媒体(物質)の状態を変えずに媒体の温度を上昇させる熱交換もあるため、顕熱を利用した熱交換も生じている。
【0046】
また、収容箱2の内部の温度を測定する内部温度測定部10と、外部の温度を測定する外部温度測定部12と、収容箱2の外壁と接触する位置に配置されて不活性媒体3の温度を変化させる熱交換器7,8と、その熱交換器7,8の温度を制御する熱制御器9とを備え、該熱制御器9は、内部温度測定部10および外部温度測定部12により測定された収容箱2の内部および外部の温度測定データに基づいて熱交換器7,8を制御し、不活性媒体3の温度を変化させるので、収容箱2の内部の温度だけでなく、収容箱2の外部の温度も測定することで熱制御器9が熱交換器7,8に与える熱量を高精度に効率よく制御し、不活性媒体3を用いたより適切なバッテリ1の温度制御を行うことができる。
【0047】
また、バッテリ1の発熱時温度が外部温度Toよりも低いとき、または、バッテリ1の発熱量が自然放熱量よりも多いときに、熱交換器として不活性媒体3を冷却する冷却用熱交換器7を使用するので、不活性媒体3が外部温度Toよりも低い温度のバッテリ1の熱を受けて気化した場合でも、その気体状の不活性媒体3を冷却用熱交換器7で冷却し、不活性媒体3を液体状に変化させることができる。また、バッテリ1の発熱量が自然放熱量よりも多いときはバッテリ1の温度が上昇してしまうが、そのような場合でも収容箱2の内部温度を低下させてバッテリ1の温度を下げることができる。
【0048】
また、バッテリ1の許容下限温度が外部温度Toよりも高いときに、熱交換器として不活性媒体3を加熱する加熱用熱交換器8を使用するので、不活性媒体3が固化するような場合でも、その固体状の不活性媒体3を加熱用熱交換器8で加熱し、不活性媒体3を液体状に変化させることができる。
【0049】
また冷却用熱交換器7を、不活性媒体3の貯蔵部4と接触しない収容箱2の上壁と接触する位置に配置し、内部温度測定部10で測定されるバッテリ1の温度が、第1の設定値Tb(例えば不活性媒体3の沸点)より高いときだけ、冷却用熱交換器7が不活性媒体3を冷却するので、液状の不活性媒体3が気体に変化したときに、その不活性媒体3を効果的に冷却することができる。
【0050】
また加熱用熱交換器8は、不活性媒体3の貯蔵部4と収容箱2を介して間接的に接触する、収容箱2の下壁と接触する位置に配置されるので、不活性媒体3を効果的に加熱することができる。また、加熱用熱交換器8はバッテリ1の温度が第2の設定値Tf(例えばバッテリ1の使用可能な下限温度)より低いとき不活性媒体を加熱するので、液状の不活性媒体が固体に変化したとき、その不活性媒体3を効果的に加熱することができる。
【0051】
また、不活性媒体3を冷却する冷却用熱交換器7と、不活性媒体3を加熱する加熱用熱交換器8との2種類の熱交換器を備えていて、冷却用熱交換器7は不活性媒体3の貯蔵部4と非接触の位置に配置され、内部温度測定部10で測定されるバッテリ1の温度Tがバッテリ1の使用可能な上限温度のような第1の設定値Tbより高いときに不活性媒体3を冷却し、第2の熱交換器8は、不活性媒体3の貯蔵部4と直接または収容箱2を介して間接的に接触した位置に配置され、バッテリ1の温度Tが例えばバッテリ1の使用可能な下限温度のような第2の設定値Tfより低いときに不活性媒体3を加熱するので、バッテリ1の温度Tを使用可能な範囲に留めることができる。
【0052】
なお、例えば、バッテリ1の温度に加えて、不活性媒体3の温度を測定する場合には、不活性媒体3の沸点を第1の設定値Tbとして、また、不活性媒体3の凝固点を第2の設定値Tfとして用いることにより、液状の不活性媒体3が気体に変化したとき、その不活性媒体3を効果的に冷却し、液状の不活性媒体3が固体に変化したとき、その不活性媒体3を効果的に加熱することもでき、結果として、過剰なバッテリ1の温度Tの上昇、下降を防止することができる。
【0053】
また、蒸発温度が外部温度の最高温度より高く、凝固温度が外部温度の最低温度より低い不活性媒体3を使用するので、広範囲の温度領域で不活性媒体3を液体状として用いることができる。
【0054】
また、不活性媒体移動部材は、毛細管現象により不活性媒体3を貯蔵部4から熱交換可能位置6まで移動させるウイック5であるので、不活性媒体3を移動させる不活性媒体移動部材の動力源を不要とすることができる。
【0055】
また、バッテリ1とウイック5とをそれぞれ複数備え、バッテリ1の間にウイック5が挟まるようにして両者が交互に配置されているので、バッテリ1とウイック5とを収容箱内2に、両者の接触面積を広く確保しながら、コンパクトに配置することができる。
【0056】
次に、本発明の第2の実施形態について、図2を参照しながら説明する。
【0057】
図2に示す第2の実施形態における被温度制御体の温度制御装置は、密閉された収容箱2内に、被温度制御体としての複数の直方体状のバッテリ1が並べて収容され、その収容箱2の内部下方に形成された貯蔵部4に液体状の不活性媒体3が収容され、各バッテリ1間にウイック5が配置される。また、収容箱2の上方および下方には、図1に示すのと同様に冷却用熱交換器7と加熱用熱交換器8とが配置され、これらの熱交換器7,8は熱制御器9に接続される。収容箱2の内部には、内部温度測定部10と圧力測定部11とが形成され、収容箱2の外部には外部温度測定部12が形成される。また、収容箱2の側壁には、第1~第3の気密端子14~16が形成され、これらの構成は第1の実施形態と同じである。
【0058】
第2の実施形態は、収容箱2内の貯蔵部4と熱交換可能位置6との間に配置される不活性媒体移動部材が、ウイックで構成される第1の不活性媒体移動部材5の外に、ポンプ19を有する第2の不活性媒体移動部材20を備える点で第1の実施形態と相違している。
【0059】
第2の不活性媒体移動部材20は、不活性媒体3の貯蔵部4に接続される一端側の入力部17と、不活性媒体3をバッテリ1の頂部から該バッテリ1に向けて噴射する他端側の噴射部18と、それら入力部および噴射部間に配置されて貯蔵部4内の不活性媒体3を噴射部18に移動させる前述したポンプ19とを有しており、内部温度測定部10で測定されたバッテリ1の温度Tが非常時の温度として設定された非常温度設定値より低いときには、不活性媒体3が第1の不活性媒体移動部材であるウイック5の内部のみを移動するが、内部温度測定部10で測定されたバッテリ1の温度Tが前記非常温度設定値以上であるときには、不活性媒体3が第2の不活性媒体移動部材20のポンプ19により入力部17から噴射部18に移動し、噴射部18からバッテリ1の頂部に向かって噴射される。
【0060】
なお、本実施形態においては、不活性媒体3が第2の不活性媒体移動部材20内部を移動する温度として、「バッテリ1の温度Tが非常温度設定値以上のとき」としているが、バッテリ1の非常温度設定値以外の温度を設定してもよい。また、噴射部18は、必ずしもバッテリ1の頂部側に位置する必要性がなく、バッテリ1の側部側であってもよい。
【0061】
第2の実施形態によれば、通常はウイックを用いた第1の不活性媒体移動部材5でバッテリ1を冷却するが、バッテリ1が急激に温度上昇する等してウイックのみではバッテリ1を冷却し切れないときに、バッテリ1の温度が非常温度設定値以上になると第2の不活性媒体移動部材20によるバッテリ1の急激な冷却が行われるので、バッテリ1の温度が異常に上昇するような事態を避けることができる。
【0062】
次に、本発明の第1の参考形態について、図3を参照しながら説明する。
【0063】
図3に示す本発明の第1の参考形態における被温度制御体の温度制御装置は、密閉された収容箱2内に、被温度制御体としての複数の直方体状のバッテリ1が並べて収容され、その収容箱2の内部下方に液体状の不活性媒体3の貯蔵部4が形成される。各バッテリ1間には不活性媒体移動部材としてのウイック5が配置され、収容箱2の上方には、収容箱2の上壁と接触するようにして不活性媒体3を冷却する冷却用熱交換器7が配置される。また、収容箱2の内部には圧力測定部11が形成され、収容箱2の外部には外部温度測定部12が形成される。これらの構成は第1,第2の実施形態と同じであるが、収容箱2の内部に内部温度測定部10は形成されていない。また、不活性媒体3を加熱する加熱用熱交換器は特に必須のものではなく、本参考形態では加熱用熱交換器8が省略されている。
【0064】
また、収容箱2は所定の圧力Poに耐え得る強度を有するものとされ、圧力測定部11で測定した収容箱2の内部の圧力Pが該所定の圧力Poよりも高いときに、気体状に変化した不活性媒体3が冷却用熱交換器7により冷却されて液体状に変化することで、収容箱2内の圧力Pが前記所定の圧力Poよりも低下するように構成されている。なお、本参考形態では冷却用熱交換器7を収容箱2の上方の収容箱2の上壁と接触する位置に配置しているが、その位置は、収容箱2の外壁と接触する位置であれば別の位置でも良く、またこの冷却用熱交換器7を収容箱2の内部に配置することも可能である。
【0065】
また、収容箱2の外部の温度を測定する外部温度測定部12は、測定された外部温度Toから不活性媒体3の蒸発量を算出するために用いるものであって、圧力測定部11および冷却用熱交換器7とともに熱制御器9に接続されており、算出された不活性媒体3の蒸発量が、冷却用熱交換器7による前記不活性媒体の凝縮量よりも少なくなるように冷却用熱交換器7が制御される。
【0066】
また、圧力測定部11および冷却用熱交換器7の双方に接続された前記熱制御器9は、例えば、圧力測定部11によって測定される収容箱2内部の圧力Pと、冷却用熱交換器7の稼動電力Wとの関係を示すテーブルを有しており、冷却用熱交換器7には、前記テーブルに基づいて変換された収容箱2内部の圧力Pに対応する稼動電力Wが、外部主電源22に接続された熱制御器9から与えられる。
【0067】
なお、前記テーブルの制御パラメータ(圧力P、稼動電力W等)については、圧力測定部11により収容箱2内部の圧力Pが測定されてから冷却用熱交換器7による不活性媒体3の熱量が吸熱されるまでのプロセスにおける制御可能なパラメータであれば、他のパラメータであってもよい。例えば、冷却用熱交換器7の稼動電力Wに限らず、冷却用熱交換器7の単位時間当たりの吸熱量であってもよい。また、制御パラメータについては、測定値そのもの(例えば、圧力P)に限らず、2つ以上の測定値から算出した計測値(圧力Pの変化量)であってもよい。
【0068】
収容箱2は、当該収容箱2内の気体を外部に放出する圧力開放弁21(例えば、ソレノイドバルブ)を備えており、前記圧力開放弁21は熱制御器9に接続されて、収容箱2内部の圧力Pが前記所定の圧力Poより高い場合、或いは不活性媒体3の蒸発量が冷却用熱交換器7による不活性媒体3の凝縮量よりも多い場合の少なくとも何れかに、収容箱2内部の気体状の不活性媒体3を外部に放出し、収容箱2内の圧力Pを前記所定の圧力Poより低下させる。
【0069】
本参考形態においては、基本的には、冷却用熱交換器7により不活性媒体3を凝縮することとしているが、例えば、不活性媒体3の蒸発量が冷却用熱交換器7による凝縮量より多い場合に、換言すれば、非常用途として、圧力開放弁21を作動させ、不活性媒体3を外部に放出することとしている。
【0070】
また、圧力開放弁21を制御する方法として、収容箱2内部の圧力情報と放出時間との関係に基づき、収容箱2外部への不活性媒体3の放出量を算出し、その不活性媒体3の放出量を、例えば、圧力測定部11の制御部内のメモリに記録・保持し、不活性媒体3の放出量の総量が、メモリに保持された所定の設定値を超えた場合に、例えば警告音を発するようにしてもよい。なお、警告音については、不活性媒体3の放出量の総量がメモリに保持された所定の設定値を超えることを人に認識させることを趣旨としているため、人の五感に訴えられる手段であれば、他の手段であってもよい。
【0071】
収容箱2に収容されるバッテリ1は持ち運び可能なバッテリであって、冷却用熱交換器7は外部主電源22およびバッテリ1の何れにも接続されている。そして、外部主電源22が制御不能状態であって且つバッテリ1が制御可能状態であるとき、冷却用熱交換器7への電力供給源が外部主電源22からバッテリ1に切り換えられて、バッテリ1からの電力供給により冷却用熱交換器7が駆動され、冷却用熱交換器7が不活性媒体3の温度を低下させる。
【0072】
なお、圧力開放弁21を熱制御器9で制御される制御弁とせずに、前記所定の圧力Poで開く安全弁として構成しておけば、外部主電源22およびバッテリ1が共に制御不可能状態であり且つ収容箱2内の圧力Pが前記所定の圧力Poより高いときに、前記圧力開放弁21で収容箱2内の気体状の不活性媒体3を外部に放出し、収容箱2内の圧力Pを安全な圧力まで低下させることができる。
【0073】
また、収容箱2は、不活性媒体3を当該収容箱2の内部に充填するための充填口23と、当該収容箱2の内部に収容される液体状の不活性媒体3の収容量を視認するための透明窓状の視認部24とを備えており、この視認部24には収容量が分かるような目盛が付されている。なおこの目盛は、収容量の目安となるある特定の量を示すだけの目印であってもよいし、また透明窓を用いずに収容量をデジタル表示するものであってもよい。ただし、収容箱2内の不活性媒体3は収容箱2の内部温度に応じて気化する量が変わるので、収容量をデジタル表示する場合は、収容箱2の内部温度に応じて最適化された液量を表示するようにするのが望ましい。
【0074】
次に本発明の第1の参考形態の作用効果について説明する。
【0075】
本発明の第1の参考形態では、第1の実施形態と同様に、収容箱2内をウイック5により貯蔵部4から熱交換可能位置6まで移動させた液体状の不活性媒体3を、バッテリ1からの熱移動により気体状に変化させてバッテリ1を冷却するので、バッテリ1の冷却を、不活性媒体3の潜熱を利用した簡単なシステムで行うことができてコスト低減に寄与し得る。しかも不活性媒体3の使用量も少ないので、温度制御装置の重量の増大も避けられる。
【0076】
また、収容箱2の内部の圧力Pを測定する圧力測定部11と、収容箱2の上壁と接触する位置に配置されて不活性媒体3を冷却する冷却用熱交換器7とを備え、圧力測定部11で測定した収容箱2内の圧力Pが、収容箱が耐え得る所定の圧力Poよりも高いときに、気体状の不活性媒体3が冷却用熱交換器7により冷却されて液体状に変化し、収容箱2内の圧力Pを前記所定の圧力Poよりも低下させるので、収容箱2内の圧力Pを適切に管理しながら、収容箱2内の不活性媒体3とバッテリ1との熱交換を効率よく制御できて、不活性媒体3を用いたより適切なバッテリ1の温度制御を行うことができる。
【0077】
なお、冷却用熱交換器7による冷却対象は、主に気体状の不活性媒体3であるが、収容箱2の壁面を介して、液体状の不活性媒体3についても冷却している。
【0078】
しかも、本参考形態では収容箱2内部の状態を全て圧力Pで制御して、収容箱2内に温度測定部を配置する必要がないので、バッテリ1の温度制御装置のコスト削減を図ることが可能となる。しかも一般に、温度センサは測定物から熱をもらい感温部が測定物と同じ温度になるまでに所定の時間を要するため、測定物の急峻な温度変化に対応することが困難であるが、本参考形態では収容箱2内部の状態を圧力で制御するので、収容箱2内の急峻な温度変化にも充分対応できる。
【0079】
なお、本参考形態における「圧力Pで制御する収容箱2内部の状態」については、収容箱2内部で直接的な制御対象としての不活性媒体3の状態であってバッテリ1の状態ではない。
【0080】
また、収容箱2の外部の温度Toを測定する外部温度測定部12を備え、外部温度測定部12で検出した外部温度Toから求めた不活性媒体3の蒸発量を、冷却用熱交換器7による不活性媒体3の凝縮量よりも少なくなるように制御するので、収容箱2内の圧力が前記所定の圧力Poよりも高くなることを簡単に避けることができる。
【0081】
また、圧力測定部11および冷却用熱交換器7の双方に接続される熱制御器9を備え、その熱制御器9は圧力測定部11によって測定される収容箱2内の圧力と冷却用熱交換器7の稼動電力との関係を示すテーブルを有しており、冷却用熱交換器7には、前記テーブルに基づいて変換された収容箱2内部の圧力Pに対応する稼動電力Wが与えられるので、収容箱2内の圧力Pに応じた稼動電力Wで冷却用熱交換器7を精度良く制御することができる。
【0082】
また収容箱2は、該収容箱2内の気体を外部に放出する圧力開放弁21を備えており、その圧力開放弁21は、収容箱2内部の圧力が前記所定の圧力Poより高い場合、或いは不活性媒体3の蒸発量が冷却用熱交換器7による不活性媒体3の凝縮量よりも多い場合の少なくとも何れかに、収容箱2内部の気体状の不活性媒体3を外部に放出し、収容箱2内の圧力Pを前記所定の圧力Poより低下させるので、収容箱2内の圧力Pが危険な状態まで上昇することを確実に回避することができる。
【0083】
また、バッテリ1は持ち運び可能であり、冷却用熱交換器7は外部主電源22およびバッテリ1に接続されていて、外部主電源22が制御不能状態であって且つバッテリ1が制御可能状態であるとき、冷却用熱交換器7への電力供給源が外部主電源22からバッテリ1に切り換えられて、バッテリ1からの電力供給により冷却用熱交換器7が駆動され、冷却用熱交換器7が不活性媒体3の温度を低下させて収容箱2内の圧力Pを前記所定の圧力Poより低下させるので、外部主電源22が制御不能状態であっても、バッテリ1からの電力供給により冷却用熱交換器7を駆動することができる。
【0084】
また、外部主電源22とバッテリ1とがともに制御不可能状態であり且つ収容箱2内の圧力Pが前記所定の圧力Poより高いとき、収容箱2内の気体を外部に放出する圧力開放弁21が収容箱2内部の気体状の不活性媒体3を外部に放出し、収容箱2内の圧力Pを低下させるので、外部主電源22とバッテリ1とがともに制御不可能状態であっても、圧力開放弁21によって安全を確保することができる。
【0085】
また、収容箱2が不活性媒体3を当該収容箱2の内部に充填するための充填口23を備えるので、密閉された収容箱への不活性媒体の充填を容易に行うことができる。
【0086】
また、収容箱2は当該収容箱2の内部に収容される液体状の不活性媒体3の収容量を視認可能な視認部24を備えるので、収容箱2内の不活性媒体3の収容量を簡単に確認することができる。
【0087】
また本参考形態によれば、バッテリ1と、所定の圧力Poに耐え得る強度を有してバッテリ1を収容する密閉された収容箱2と、収容箱2の内部に形成された貯蔵部4に収容される液体状の不活性媒体3と、その不活性媒体3を、貯蔵部2からバッテリ1に隣接して該バッテリ1との熱交換が可能な熱交換可能位置6まで移動させるべく、収容箱2内の貯蔵部4と熱交換可能位置6との間に配置される不活性媒体移動部材としてのウイック5とを備え、熱交換可能位置6まで移動した不活性媒体3を、バッテリ1からの熱移動により気体状に変化させてバッテリ1を冷却するバッテリ1の温度制御装置が、収容箱2の内部の圧力Pを測定する圧力測定部11と、収容箱2の内部または収容箱2の外壁と接触する位置に配置されて不活性媒体3を冷却する冷却用熱交換器7とを備え、冷却用熱交換器7が、バッテリ1からの熱移動により気体状に変化した不活性媒体3を冷却することで、収容箱2の内部の圧力Pを前記所定の圧力Poより低下させるので、収容箱2内部の圧力Pを適切に管理しながら、収容箱2内の不活性媒体3とバッテリ1との熱交換を効率よく制御できて、不活性媒体3を用いたバッテリ1のより適切な温度制御を行うことができる。
【0088】
次に、本発明の第2の参考形態について、図4を参照しながら説明する。
【0089】
図4に示す第2の参考形態は、主に、所定の圧力Poに耐え得る強度を有してバッテリ1を収容する密閉された収容箱2と、収容箱2の内部に形成された貯蔵部4に収容される液体状の不活性媒体3と、その不活性媒体3を、貯蔵部4からバッテリ1に隣接して該バッテリ1との熱交換が可能な熱交換可能位置6まで反重力方向に移動させるべく、収容箱2内の貯蔵部4と熱交換可能位置6との間に配置される不活性媒体移動部材としてのウイック5とを備えたバッテリ1の温度制御装置が、収容箱2内部の圧力Pを計測する圧力測定部11と、収容箱2内部の気体を外部に放出する圧力開放弁21とを備えていて、熱交換可能位置6まで移動した不活性媒体3をバッテリ1からの熱移動により気体状に変化させてバッテリ1を冷却する点で、図3に示す第1の参考形態と異ならないが、冷却用熱交換器7を有していない点で第1の参考形態と異なっている.
なお、冷却用熱交換器7を有していないとはいえ、収容箱2からの自然放熱は行われている。また、自然放熱については、収容箱にフィンを設けてより効率よく放熱する形態であってもよい。
【0090】
本参考形態は、冷却用熱交換器7を有していなくても、液体状の不活性媒体3が熱交換可能位置6まで移動して気体状の不活性媒体3に変化し、収容箱2内部の圧力Pが前記所定の圧力Poより高くなったとき、圧力開放弁21が気体状の不活性媒体3を収容箱2の外部に排出することで、冷却用熱交換器7を用いなくても、圧力開放弁21で収容箱2内部の圧力Pを適切に管理しながら、収容箱2内の不活性媒体3とバッテリ1との熱交換を効率よく制御できる。
【0091】
以上本発明の第1,第2の実施形態と、第1,第2の参考形態とを説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0092】
例えば、第1,第2の実施形態では、被温度制御体をバッテリとしたが、被温度制御体はバッテリ以外にも温度制御が必要とされる種々の物質が含まれる。また、不活性媒体移動部材として第1の実施形態ではウイック5を用い、第2の実施形態ではウイック5とポンプ19を有する不活性媒体移動部材20を用いたが、ポンプ19を有する不活性媒体移動部材20だけを用いることもできる。また更に、第1,第2の参考形態の構成の一部を第1,第2の実施形態の構成に組み入れることも可能である。
【符号の説明】
【0093】
1・・・・被温度制御体としてのバッテリ
2・・・・収容箱
3・・・・不活性媒体
4・・・・貯蔵部
5・・・・第1の不活性媒体移動部材としてのウイック
6・・・・熱交換可能位置
7・・・・熱交換器としての冷却用熱交換器
8・・・・熱交換器としての加熱用熱交換器
9・・・・熱制御器
10・・・温度測定部としての内部温度測定部
11・・・圧力測定部
12・・・温度測定部としての外部温度測定部
17・・・第2の不活性媒体移動部材の入力部
18・・・第2の不活性媒体移動部材の噴射部
19・・・第2の不活性媒体移動部材のポンプ
20・・・第2の不活性媒体移動部材


図1
図2
図3
図4