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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148572
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】センサ素子及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/409 20060101AFI20231005BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
G01N27/409 100
G01N27/416 331
G01N27/416 376
G01N27/416 371G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056676
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100561
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100219690
【弁理士】
【氏名又は名称】堀坂 純美子
(72)【発明者】
【氏名】新妻 匠太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 悠介
(72)【発明者】
【氏名】平川 敏弘
(72)【発明者】
【氏名】高橋 希来里
【テーマコード(参考)】
2G004
【Fターム(参考)】
2G004BB04
2G004BF03
2G004BF04
2G004BF05
2G004BF08
2G004BF09
(57)【要約】
【課題】高い耐被水性を有するセンサ素子を提供する。
【解決手段】長尺板状の基体部103、及び基体部103の長手方向の一方端の側に形成された被測定ガス流通部15を含む素子本体102と、前記一方端から形成され、素子本体102の表面の長手方向の少なくとも一部を覆う多孔質の保護層90と、を含み、保護層90は、前記一方端の端面上および前記素子本体102の2つの主面のうちの少なくとも一方の主面上に形成された内層91と、内層91の表面及び内層91が形成されていない領域の素子本体102の表面を覆う外層92と、を含み、内層91が形成された領域の一主面上において、内層91と外層92との間の少なくとも一部に第1空間93が存在し、内層91が形成されていない領域の前記一主面上において、前記一主面と外層92との間の少なくとも一部に第2空間94が存在するセンサ素子101、及び該センサ素子101を含むガスセンサ100。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部、及び前記基体部の長手方向の一方端の側に形成された被測定ガス流通部を含む素子本体と、
前記基体部の長手方向の前記一方端から形成され、前記素子本体の表面の長手方向の少なくとも一部を覆う多孔質の保護層と、
を含むセンサ素子であって、
前記保護層は、
前記基体部の長手方向の前記一方端の端面上、及び、前記素子本体の2つの主面のうちの少なくとも一方の主面上の、前記長手方向の前記一方端から前記長手方向の所定の長さの領域の主面上に形成された内層と、
前記内層の表面、及び、前記素子本体の前記少なくとも一部の表面のうちの前記内層が形成されていない領域の表面を覆う外層と、を含み、
前記内層が形成された領域の一主面上において、前記内層と前記外層との間の少なくとも一部に第1空間が存在し、
前記第1空間が存在する前記素子本体の前記一主面の前記内層が形成されていない領域の前記一主面上において、前記一主面と前記外層との間の少なくとも一部に第2空間が存在する、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するセンサ素子。
【請求項2】
前記素子本体の主面が構成する平面にみて、前記第1空間の面積の前記第2空間の面積に対する面積比率が、12以下である、請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記面積比率が、1より大きい、請求項2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記面積比率が、1.1以上12以下である、請求項2又は3に記載のセンサ素子。
【請求項5】
前記第1空間及び前記第2空間が存在する前記素子本体の前記一主面の前記保護層が存在する部分において、前記素子本体の主面が構成する平面にみて、前記第1空間及び前記第2空間の各面積の合計の、前記一主面の前記保護層のうちの前記第1空間及び前記第2空間が存在しない部分の面積に対する比率が、2.3以下である、請求項1~4のいずれかに記載のセンサ素子。
【請求項6】
前記比率が、0.1以上2.3以下である、請求項5に記載のセンサ素子。
【請求項7】
前記保護層の前記外層の気孔率は、前記保護層の前記内層の気孔率よりも大きい、請求項1~6のいずれかに記載のセンサ素子。
【請求項8】
前記素子本体は、
前記被測定ガス流通部の内表面に配設された内側電極と、
前記素子本体の前記2つの主面のうちの一方の主面上に、前記内側電極と対応して配設された外側電極と、を含み、
前記外側電極が配設された前記一方の主面上に、前記内層、前記第1空間及び前記第2空間が存在する、請求項1~7のいずれかに記載のセンサ素子。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載のセンサ素子と、前記センサ素子の前記保護層が存在する少なくとも一部を配置する内部空間を有する保護カバーと、
を含むガスセンサであって、
前記保護カバーにおいて、前記素子本体の2つの主面のうちの少なくとも一方の主面の前記保護層が存在する部分の上方に、被測定ガスが流通する通気孔が存在する、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するガスセンサ。
【請求項10】
前記保護カバーにおいて、前記第1空間及び前記第2空間が存在する前記素子本体の前記一主面の前記保護層が存在する部分の上方に、前記通気孔が存在する、請求項9に記載のガスセンサ。
【請求項11】
前記保護カバーにおいて、前記第1空間及び前記第2空間が存在する前記素子本体の前記一主面の前記第1空間が存在する部分の上方に、前記通気孔が存在する、請求項9又は10に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するセンサ素子及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスセンサは、自動車の排気ガス等の被測定ガス中の対象とするガス成分(酸素O、窒素酸化物NOx、アンモニアNH、炭化水素HC、二酸化炭素CO等)の検出や濃度の測定に使用されている。このようなガスセンサとしては、ジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性の固体電解質を用いたセンサ素子を備えたガスセンサが知られている。
【0003】
このようなガスセンサにおいて、センサ素子への水分の付着に起因する熱衝撃によってセンサ素子の内部構造にクラックが発生することを防止する目的で、センサ素子の表面に多孔質の保護層を形成することが知られている。また、例えば、特開2015-087161号公報、及び特開2020-020738号公報には、保護層とセンサ素子の基体との間に空間を設ける態様が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015-087161号公報
【特許文献2】特開2020-020738号公報
【特許文献3】特開2016-090569号公報
【特許文献4】特開2021-060219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガスセンサが測定対象ガスの測定を行う際には、センサ素子が高温(例えば、800℃程度)になる。このような高温のセンサ素子への水分が付着すると、熱衝撃によってセンサ素子の内部構造にクラックが発生するという問題がある。
【0006】
自動車の排気ガス規制の強化により、エンジン始動時のエミッション低減のため早期始動が可能なガスセンサが求められている。すなわち、自動車に搭載されるガスセンサは、自動車のエンジン始動直後から排気ガス中の測定対象ガスを測定することが求められている。エンジン始動直後には、排気ガス配管内部により多くの凝縮水が存在している。そのため、高温のセンサ素子に水が掛かるリスクが高まる。その結果、センサ素子への水分の付着に起因する熱衝撃によってセンサ素子の内部構造にクラックが発生するリスクが高まる。
【0007】
このような状況下、高温状態のセンサ素子に水が掛かった(被水)場合のセンサ素子の内部構造のクラックの発生をより抑制することが求められる。すなわち、センサ素子の耐被水性のより一層の向上が求められている。
【0008】
例えば、上述の特開2015-087161号公報には、センサ素子の表面に多孔質の保護層を備え、素子本体の角部と前記保護層の間に空間部が存在するセンサ素子が開示されている。また、上述の特開2020-020738号公報には、センサ素子表面に断熱空間を介在させて多孔質の保護層を形成することが開示されている。このような保護層においては、素子本体に伝わる熱衝撃を緩和できる十分な熱容量を有していることが求められる。また、ガスセンサの使用時に、保護層が振動による物理的衝撃や水の付着による熱衝撃に十分耐えることが求められる。
【0009】
そこで、本発明は、より高い耐被水性を有するセンサ素子及びガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、素子本体の表面の少なくとも一部に多孔質の保護層を形成し、かつ、前記保護層の内部(保護層の内層と外層との間)と、前記素子本体及び前記保護層の間に、それぞれ以下のように空間を介在させることにより、センサ素子の耐被水性が向上することを見出した。すなわち、本発明において、保護層は複合保護層の形態となっている。
【0011】
本発明には、以下の発明が含まれる。
(1) 酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部、及び前記基体部の長手方向の一方端の側に形成された被測定ガス流通部を含む素子本体と、
前記基体部の長手方向の前記一方端から形成され、前記素子本体の表面の長手方向の少なくとも一部を覆う多孔質の保護層と、
を含むセンサ素子であって、
前記保護層は、
前記基体部の長手方向の前記一方端の端面上、及び、前記素子本体の2つの主面のうちの少なくとも一方の主面上の、前記長手方向の前記一方端から前記長手方向の所定の長さの領域の主面上に形成された内層と、
前記内層の表面、及び、前記素子本体の前記少なくとも一部の表面のうちの前記内層が形成されていない領域の表面を覆う外層と、を含み、
前記内層が形成された領域の一主面上において、前記内層と前記外層との間の少なくとも一部に第1空間が存在し、
前記第1空間が存在する前記素子本体の前記一主面の前記内層が形成されていない領域の前記一主面上において、前記一主面と前記外層との間の少なくとも一部に第2空間が存在する、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するセンサ素子。
【0012】
(2) 前記素子本体の主面が構成する平面にみて、前記第1空間の面積の前記第2空間の面積に対する面積比率が、12以下である、上記(1)に記載のセンサ素子。
【0013】
(3) 前記面積比率が、1より大きい、上記(2)に記載のセンサ素子。
【0014】
(4) 前記面積比率が、1.1以上12以下である、上記(2)又は(3)に記載のセンサ素子。
【0015】
(5) 前記第1空間及び前記第2空間が存在する前記素子本体の前記一主面の前記保護層が存在する部分において、前記素子本体の主面が構成する平面にみて、前記第1空間及び前記第2空間の各面積の合計の、前記一主面の前記保護層のうちの前記第1空間及び前記第2空間が存在しない部分の面積に対する比率が、2.3以下である、上記(1)~(4)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0016】
(6) 前記比率が、0.1以上2.3以下である、上記(5)に記載のセンサ素子。
【0017】
(7) 前記保護層の前記外層の気孔率は、前記保護層の前記内層の気孔率よりも大きい、上記(1)~(6)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0018】
(8)前記素子本体は、
前記被測定ガス流通部の内表面に配設された内側電極と、
前記素子本体の前記2つの主面のうちの一方の主面上に、前記内側電極と対応して配設された外側電極と、を含み、
前記外側電極が配設された前記一方の主面上に、前記内層、前記第1空間及び前記第2空間が存在する、上記(1)~(7)のいずれかに記載のセンサ素子。
【0019】
・ 上記(1)~(8)のいずれかに記載のセンサ素子と、前記センサ素子の前記保護層が存在する少なくとも一部を配置する内部空間を有する保護カバーと、
を含む、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するガスセンサ。
【0020】
(9) 上記(1)~(8)のいずれかに記載のセンサ素子と、前記センサ素子の前記保護層が存在する少なくとも一部を配置する内部空間を有する保護カバーと、
を含むガスセンサであって、
前記保護カバーにおいて、前記素子本体の2つの主面のうちの少なくとも一方の主面の前記保護層が存在する部分の上方に、被測定ガスが流通する通気孔が存在する、被測定ガス中の測定対象ガスを検出するガスセンサ。
【0021】
(10) 前記保護カバーにおいて、前記第1空間及び前記第2空間が存在する前記素子本体の前記一主面の前記保護層が存在する部分の上方に、前記通気孔が存在する、上記(9)に記載のガスセンサ。
【0022】
(11) 前記保護カバーにおいて、前記第1空間及び前記第2空間が存在する前記素子本体の前記一主面の前記第1空間が存在する部分の上方に、前記通気孔が存在する、上記(9)又は(10)に記載のガスセンサ。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、より高い耐被水性を有するセンサ素子及びガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】センサ素子101の概略構成の一例を示した斜視図である。
図2図1のII-II線に沿うセンサ素子101の断面模式図を含む、センサ素子101を備えたガスセンサ100の概略構成の一例を示す長手方向の垂直断面模式図である。
図3】多孔質保護層90の構成を示す、図2と同じ断面における断面模式図である。図3において、素子本体102の内部における被測定ガス流通部15や電極等の構成は図示を省略している。
図4図3のIV-IV線に沿う断面模式図である。素子本体102の上面の多孔質保護層90の平面における断面を示す模式図である。図4において、破線は、内層91が存在する領域を示し、一点鎖線は、素子本体102が存在する領域を示す。
図5図3のV-V線に沿う断面模式図である。素子本体102の長手方向に垂直な幅方向の断面模式図である。図5においても、図3と同様に、素子本体102の内部における被測定ガス流通部15や電極等の構成は図示を省略している。
図6】センサ素子101と保護カバー105の配置を示す断面模式図である。図6においても、図3と同様に、素子本体102の内部における被測定ガス流通部15や電極等の構成は図示を省略している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のセンサ素子は、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を含む長尺板状の基体部、及び前記基体部の長手方向の一方端の側に形成された被測定ガス流通部を含む素子本体と、
前記基体部の長手方向の前記一方端から形成され、前記素子本体の表面の長手方向の少なくとも一部を覆う多孔質の保護層と、
を含む。
【0026】
前記保護層は、
前記基体部の長手方向の前記一方端の端面上、及び、前記素子本体の2つの主面のうちの少なくとも一方の主面上の、前記長手方向の前記一方端から前記長手方向の所定の長さの領域の主面上に形成された内層と、
前記内層の表面、及び、前記素子本体の前記少なくとも一部の表面のうちの前記内層が形成されていない領域の表面を覆う外層と、を含み、
前記内層が形成された領域の一主面上において、前記内層と前記外層との間の少なくとも一部に第1空間が存在し、
前記第1空間が存在する前記素子本体の前記一主面の前記内層が形成されていない領域の前記一主面上において、前記一主面と前記外層との間の少なくとも一部に第2空間が存在する。
【0027】
以下に、本発明のセンサ素子を備えたガスセンサの実施形態の一例を詳しく説明する。
【0028】
[ガスセンサの概略構成]
本発明のガスセンサの実施形態について、図面を参照して以下に説明する。図1は、ガスセンサ100が備えるセンサ素子101の概略構成の一例を示した斜視図である。図2は、センサ素子101を備えたガスセンサ100の概略構成の一例を示す長手方向の垂直断面模式図である。図2において、センサ素子101の断面模式図は、図1のII-II線に沿う断面模式図である。以下においては、図2を基準として、上下とは、図2の上側を上、下側を下とし、図2の左側を先端側、右側を後端側とする。また、図2を基準として、紙面に垂直な手前側を右、奥側を左とする。
【0029】
図2において、ガスセンサ100は、センサ素子101によって被測定ガス中のNOxを検知し、その濃度を測定する限界電流型のNOxセンサの一例を示している。
【0030】
センサ素子101は、後に詳述する多孔質保護層90を含んでいる。多孔質保護層90は、本発明の保護層に相当する。センサ素子101の、多孔質保護層90を除く部分を、以下において、素子本体102と称する。素子本体102は長尺板状である。図1に示すように、素子本体102は、2つの主面(上面102a及び下面102b)と、長手方向に沿う2つの側面(左面102c及び右面102d)と、長手方向の2つの端面(先端面102e及び後端面102f)との6面を有する。
【0031】
また、本実施形態のセンサ素子101においては、内側電極として、内側主ポンプ電極22、補助ポンプ電極51、及び測定電極44が設けられている。外側電極として、外側ポンプ電極23が設けられている。
【0032】
センサ素子101は、複数の酸素イオン伝導性の固体電解質層が積層された構造を有する基体部103を含む、長尺板状の素子である。長尺板状とは、長板状、あるいは、帯状ともいう。基体部103は、それぞれがジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された構造を有する。これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。前記6つの層は全て同じ厚みであってもよいし、各層毎に異なる厚みであってもよい。各層の間は、固体電解質からなる接着層を介して接着されており、基体部103には前記接着層を含む。図2においては、前記6つの層からなる層構成を例示したが、本発明における層構成はこれに限られるものではなく、任意の層の数及び層構成としてよい。
【0033】
係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0034】
センサ素子101の長手方向の一方の端部(以下、先端部という)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10が形成されている。被測定ガス流通部15は、ガス導入口10から長手方向に、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されている。
【0035】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0036】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、2本の横長の(図2において図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30とはいずれも、所望の拡散抵抗を付与する形態であればよく、その形態は前記スリットに限定されるものではない。
【0037】
第4拡散律速部60は、1本の横長の(図2において図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとしてスペーサ層5と、第2固体電解質層6との間に設けられる。第4拡散律速部60は、所望の拡散抵抗を付与する形態であればよく、その形態は前記スリットに限定されるものではない。
【0038】
また、被測定ガス流通部15よりも先端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43は、センサ素子101の他方の端部(以下、後端部という)に開口部を有している。基準ガス導入空間43に、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0039】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなる層であって、大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。
【0040】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。すなわち、基準電極42は、多孔質である大気導入層48と基準ガス導入空間43とを介して、基準ガスと接するように配設されている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内、第2内部空所40内、及び第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。基準電極42は、多孔質サーメット電極(例えば、PtとZrOとのサーメット電極)として形成される。
【0041】
被測定ガス流通部15において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口しており、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。
【0042】
本実施形態においては、被測定ガス流通部15は、センサ素子101の先端面に開口したガス導入口10から被測定ガスが導入される形態であるが、本発明はこの形態に限定されるものではない。例えば、被測定ガス流通部15には、ガス導入口10の凹所が存在しなくてもよい。この場合は、第1拡散律速部11が実質的にガス導入口となる。
また、例えば、被測定ガス流通部15は、基体部103の長手方向に沿う側面に、緩衝空間12あるいは第1内部空所20の緩衝空間12に近い位置と連通する開口を有している形態であってもよい。この場合は、前記開口を通じて、基体部103の長手方向に沿う側面から被測定ガスが導入される。
また、例えば、被測定ガス流通部15は、多孔体を通じて被測定ガスが導入される構成になっていてもよい。
【0043】
第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0044】
緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。
【0045】
第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。
【0046】
結果として、第1内部空所20に導入される被測定ガスの量が所定の範囲になっていればよい。すなわち、センサ素子101の先端部から第2拡散律速部13の全体として、所定の拡散抵抗を付与されていればよい。例えば、第1拡散律速部11が直接第1内部空所20と連通する、すなわち、緩衝空間12と、第2拡散律速部13とが存在しない態様としてもよい。
【0047】
緩衝空間12は、被測定ガスの圧力が変動する場合に、その圧力変動が検出値に与える影響を緩和するために設けられた空間である。
【0048】
被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの圧力変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空間へ導入される被測定ガスの圧力変動はほとんど無視できる程度のものとなる。
【0049】
第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0050】
主ポンプセル21は、前記被測定ガス流通部15の内表面に配設された内側電極の内側主ポンプ電極22と、前記素子本体102の前記2つの主面のうちの一方の主面上(本実施形態においては、上面102a上)に、前記内側主ポンプ電極22と対応して、固体電解質(図2においては、第2固体電解質層6)を介して接するように配設された外側電極の外側ポンプ電極23とを含む電気化学的ポンプセルである。
【0051】
すなわち、主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側主ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0052】
内側主ポンプ電極22は、第1内部空所20に面して配設されている。すなわち、内側主ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0053】
内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrOとのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側主ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0054】
主ポンプセル21においては、内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を可変電源24により印加して、内側主ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0055】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側主ポンプ電極22と、第2固体電解質6と、スペーサ層5と、第1固体電解質4と、第3基板層3と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0056】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるように可変電源24の電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0057】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0058】
第2内部空所40は、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧をより高精度に調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、補助ポンプセル50が作動することによって調整される。第2内部空所40及び補助ポンプセル50がない構成とすることもできる。酸素分圧の調整の精度の観点からは、第2内部空所40及び補助ポンプセル50があることがより好ましい。
【0059】
第2内部空所40では、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整が行われるようになっている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0060】
補助ポンプセル50は、前記被測定ガス流通部15の内表面の、前記内側主ポンプ電極22よりも前記基体部103の先端部から遠い位置に配設された内側電極の補助ポンプ電極51と、前記補助ポンプ電極51と対応して、固体電解質(図2においては、第2固体電解質層6)を介して接するように配設された外側電極の外側ポンプ電極23とを含む電気化学的ポンプセルである。
【0061】
すなわち、補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0062】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側主ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4には、底部電極部51bが形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。
【0063】
なお、補助ポンプ電極51についても、内側主ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0064】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0065】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0066】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0067】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0068】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)がさらに低く制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。
【0069】
第3内部空所61は、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定を測定するための空間として設けられている。測定用ポンプセル41の動作によりNOx濃度が測定される。
【0070】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、前記被測定ガス流通部15の内表面の、前記補助ポンプ電極51よりも前記基体部103の先端部から遠い位置に配設された内側電極の測定電極44と、前記測定電極44と対応して、固体電解質(図2においては、第2固体電解質層6、スペーサ層5及び第1固体電解質層4)を介して接するように配設された外側電極の外側ポンプ電極23とを含む電気化学的ポンプセルである。
【0071】
すなわち、測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。
【0072】
測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0073】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0074】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、 第1固体電解質層4と、第3基板層3と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0075】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N+O)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0076】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と基準電極42を組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0077】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0078】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0079】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータ72と、ヒータリード76と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74、圧力放散孔75とを備えている。
【0080】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されている電極である。ヒータ電極71を外部電源であるヒータ電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0081】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、ヒータ72に接続していて且つセンサ素子101の長手方向後端側に延びているヒータリード76と、スルーホール73とを介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0082】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。主ポンプセル21、補助ポンプセル50、及び測定用ポンプセル41が作動できるように温度が調整されていればよい。これらの全域が同じ温度に調整される必要はなく、センサ素子101に温度分布があってもよい。
【0083】
本実施形態のセンサ素子101においては、ヒータ72が基体部103に埋設された態様であるが、この態様に限定されるものでない。ヒータ72は、基体部103を加熱するように配設されていればよい。すなわち、ヒータ72は、上述の主ポンプセル21、補助ポンプセル50、及び測定用ポンプセル41が作動できる酸素イオン伝導性を発現させる程度に、センサ素子101を加熱できるものであればよい。例えば、本実施形態のように基体部103に埋設されていてもよい。あるいは、例えば、ヒータ部70が基体部103とは別のヒータ基板として形成され、基体部103の隣接位置に配設されていてもよい。
【0084】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72及びヒータリード76の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成されてなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72及びヒータリード76との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72及びヒータリード76との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0085】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、ヒータ絶縁層74と基準ガス導入空間43とが連通するように形成されている。圧力放散孔75によって、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇が緩和されうる。なお、圧力放散孔75のない構成としてもよい。
【0086】
(保護層)
センサ素子101は、上述の素子本体102と、素子本体102(基体部103)の長手方向の一方端から形成され、前記素子本体102の表面の長手方向の少なくとも一部を覆う多孔質保護層90とを含む。ここで、素子本体102の長手方向の一方端は、被測定ガス流通部15が形成されている側の一方端、すなわち、素子本体102の先端である。素子本体102は、長尺板状であり、素子本体102の上面102a及び下面102bが主面である。また、左面102c及び右面102dを側面、先端面102e及び後端面102fを端面と表記することもある。
【0087】
本実施形態において、多孔質保護層90は、素子本体102の、素子本体102の先端から長手方向に所定の範囲(図1において破線で示される部分)を覆っている。多孔質保護層90は、図1に示すように、多孔質保護層90a~90eを含む。多孔質保護層90aは、素子本体102の上面102aのうち、素子本体102の先端から長手方向に所定の長さLの領域の全体を被覆している。多孔質保護層90bは、素子本体102の下面102bのうち、素子本体102の先端から長手方向に長さLの領域の全体を被覆している。多孔質保護層90cは、素子本体102の左面102cのうち、素子本体102の先端から長手方向に長さLの領域の全体を被覆している。多孔質保護層90dは、素子本体102の右面102dのうち、素子本体102の先端から長手方向に長さLの領域の全体を被覆している。多孔質保護層90eは、素子本体102の先端面102eの全面を被覆している。
【0088】
図2に示されるように、多孔質保護層90eは、ガス導入口10をも覆っている。しかしながら、多孔質保護層90eが多孔質体であるため、被測定ガスは多孔質保護層90eの内部を流通してガス導入口10に到達可能である。従って、測定対象ガスの検出・測定は問題なく行われる。
【0089】
多孔質保護層90は、例えば、ガスセンサの駆動時に、高温のセンサ素子101に水が掛かった場合に、素子本体102の内部構造にクラックが発生することを抑制する役割を果たす。センサ素子101に到達した水は、直接素子本体102の表面には付着せず、多孔質保護層90に付着する。付着した水により多孔質保護層90の表面は急冷されるが、多孔質保護層90の有する断熱効果により、素子本体102に加わる熱衝撃が低減される。その結果、素子本体102の内部構造にクラックが発生することを抑制できる。つまり、センサ素子101の耐被水性を向上させる。
【0090】
また、多孔質保護層90aは、外側ポンプ電極23を被覆しているとよい。多孔質保護層90aは、被測定ガスに含まれるオイル成分等が外側ポンプ電極23に付着するのを抑制して、外側ポンプ電極23の劣化を抑制する役割も果たす。
【0091】
多孔質保護層90は、多孔体からなる。多孔質保護層90の構成材料としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、スピネル、コージェライト、ムライト、チタニア、マグネシア等が挙げられる。これらのいずれかで1つであってもよいし、2つ以上であってもよい。本実施形態では、多孔質保護層90はアルミナ多孔質体からなるものとした。
【0092】
多孔質保護層90は、内層91と外層92とを含む。図3は、多孔質保護層90の構成を示す、図2と同じ断面における断面模式図である。図3において、素子本体102の内部における被測定ガス流通部15や電極等の構成は図示を省略している。図4は、図3のIV-IV線に沿う断面模式図である。図4は、素子本体102の上面の多孔質保護層90の平面における断面を示す。図4において、破線は、内層91が存在する領域を示し、一点鎖線は、素子本体102が存在する領域を示す。図5は、図3のV-V線に沿う断面模式図である。素子本体102の長手方向に垂直な幅方向の断面模式図である。図5においても、図3と同様に、素子本体102の内部における被測定ガス流通部15や電極等の構成は図示を省略している。
【0093】
内層91は、前記基体部103(素子本体102)の長手方向の前記一方端(先端)の端面上、及び、前記素子本体102の2つの主面のうちの少なくとも一方の主面上の、前記長手方向の前記一方端から前記長手方向の所定の長さの領域の主面上に形成されている。本実施形態においては、内層91は、素子本体102の先端面102eの全面、及び、素子本体102の2つの主面のうちの外側ポンプ電極23が形成されている側の主面(上面102a)の、素子本体102の先端から長手方向の長さLAの領域の全面に形成されている。内層91の長手方向の長さ(LA)は、多孔体保護層90の長手方向の長さLより短い(LA<L)。なお、以下において、上面102aをポンプ面102aとも称する。また、素子本体102の2つの主面のうちのポンプ面102aと対向する主面(下面102b)を、ヒータ面102bとも称する。内層91は、2つの主面(ポンプ面102a及びヒータ面102b)の両方の面上に形成されていてもよく、また、素子本体102の両側面のいずれか又は両方の面上に形成されていてもよい。このような場合において、各面における内層91の長手方向の長さ(LA)は、互いに異なっていてもよい。
【0094】
外層92は、前記内層91の表面、及び、前記素子本体102の前記少なくとも一部の表面のうちの前記内層91が形成されていない領域の表面を覆う態様で形成されている。すなわち、外層92は、内層91の表面、及び、素子本体102の多孔体保護層90に覆われる部分のうちの、前記内層91が形成されていない領域の表面を覆っている。
【0095】
従って、本実施形態においては、素子本体102の上面102aの多孔質保護層90aは、素子本体102の先端から長手方向に長さLAの内層91と、素子本体102の先端から長手方向に内層を全て覆い更に長さLまで延びる外層92とにより構成される。つまり、素子本体102の先端から長手方向の長さLAの領域において、多孔質保護層90aは内層91と外層92の2層で構成されており、内層91の後端から後方に長手方向の長さLBの領域において、多孔質保護層90aは外層92の1層で構成されている。素子本体102の下面102bの多孔質保護層90bは、素子本体102の先端から長手方向に長さLまで延びる外層92により構成される。素子本体102の左面の多孔質保護層90cは、素子本体102の先端から長手方向に長さLまで延びる外層92により構成される。素子本体102の右面の多孔質保護層90dは、素子本体102の先端から長手方向に長さLまで延びる外層92により構成される。つまり、多孔質保護層90b~90dは外層92の1層で構成されている。素子本体102の先端面の多孔質保護層90eは、全面を覆う内層91と、その内層91の全面を覆う外層92とにより構成される。つまり、多孔質保護層90eは内層91と外層92の2層で構成されている。
【0096】
図2図5において、素子本体102の断面形状を矩形として図示したが、素子本体102の断面形状は略矩形に限られない。いずれかの断面にみて、例えば、素子本体102の角部は、ほぼ直角形状であってもよいし、角部が面取り形状やアール形状等であってもよい。素子本体102の角部が面取り形状やアール形状等である場合、多孔質保護層90は、素子本体102の先端から長手方向の長さLまでの領域において、角部の面取り形状やアール形状の部分を覆っていてよい。すなわち、多孔質保護層90は、素子本体102の先端から長手方向の長さLまでの外表面全てを実質的に覆っていてよい。また、図5の幅方向断面において、例えば、素子本体102の角部が面取り形状である場合、内層91は、ポンプ面102a及びその両側の面取り形状部分に形成されていてもよい。
【0097】
図2図5において、多孔質保護層90、内層91及び外層92はいずれも、断面形状が矩形として図示したが、断面形状は矩形に限られない。いずれかの断面にみて、多孔質保護層90の表面、すなわち、外層92の表面において、角部は直角でなくてもよく、丸みを帯びていてよい。内層91の形状についても、いずれかの断面にみて、角部は直角でなくてもよく、丸みを帯びていてよい。例えば、図2及び図3の断面において、多孔質保護層90の後端付近において、後端に向けて徐々に厚みが薄くなるような形状であってもよい。内層91の形状についても、多孔質保護層90及び外層92と同様である。多孔質保護層90は、角部や端部を除いて、概ね一様な厚みである。
【0098】
本実施形態における多孔質保護層90は、素子本体102の先端面を含む、先端面から素子本体102の長手方向に長さLまでの領域の全面(90a、90b、90c、90d、90e)を被覆している。前記長さLは、ガスセンサ100において素子本体102が被測定ガスに晒される範囲、外側ポンプ電極23の位置、被測定ガス流通部15の位置などに基づいて、0<長さL<素子本体102の長手方向の全長の範囲内で定めるとよい。
【0099】
多孔質保護層90(外層92)は、素子本体102のうちのガスセンサの駆動時に高温になる部分を覆うとよい。あるいは、素子本体102のうちの被測定ガスに晒される部分のほぼ全体を覆っていてもよい。例えば、素子本体102の先端から基準電極42が形成されている長手方向の位置までをほぼ覆うように形成されていてもよい。あるいは、例えば、素子本体102の先端から基準ガス導入空間43の先端側の側面の長手方向の位置までをほぼ覆うように形成されていてもよい。あるいは、更に後方まで覆っていてもよい。多孔質保護層90a~90dは、素子本体102の長手方向の長さがそれぞれ異なっていてもよい。
【0100】
多孔質保護層90の内層91の前記長さLAは、多孔質保護層90全体の前記長さLよりも短い。内層91の前記長さLAは、ガスセンサ100において素子本体102が被測定ガスに晒される範囲、外側ポンプ電極23の位置、被測定ガス流通部15の位置などに基づいて定めるとよい。
【0101】
例えば、内層91の素子本体102の先端からの長手方向の長さLAは、外側ポンプ電極23を全て覆う程度の長さであってもよいし、被測定ガス流通部15の素子本体102長手方向の長さと同程度であってもよい。また、長さLAは、例えば、ガスセンサ100の駆動時におけるセンサ素子101の温度に基づいて定めてもよい。内層91が、ガスセンサ100の駆動時におけるセンサ素子101の温度が高温(例えば、500℃以上)となる部分に形成されるようにしてもよい。また、内層91の前記長さLAを定め、定めた内層91の前記長さLAに基づいて、前記多孔質保護層90全体の前記長さLを定めてもよい。
【0102】
内層91の素子本体102の先端からの長手方向の長さLAは、素子本体102の構成により異なるが、例えば、2mm以上、あるいは、5mm以上であってよい。また、長さLAは、例えば、12mm以下、あるいは、9mm以下であってもよい。
【0103】
多孔質保護層90全体の素子本体102の先端からの長手方向の長さLは、素子本体102の構成により異なるが、例えば、7mm以上、あるいは、10mm以上であってよい。また、長さLは、例えば、17mm以下、あるいは、14mm以下であってもよい。
【0104】
多孔質保護層90の厚みは、例えば、100μm以上1000μm以下であってよい。あるいは、例えば、100μm以上500μm以下であってもよい。内層91の厚みは、例えば、50μm以上500μm以下であってよい。あるいは、例えば、50μm以上200μm以下であってもよい。外層92の厚みは、内層91を覆う部分においては、50μm以上950μm以下であってよい。あるいは、例えば、50μm以上450μm以下であってもよい。また、外層92の厚みは、内層91が存在しない部分においては、例えば、100μm以上1000μm以下であってよい。あるいは、例えば、100μm以上500μm以下であってもよい。本実施形態においては、素子本体102の各面の多孔質保護層90a~90eは全て同程度の厚みであるが、多孔質保護層90a~90eの厚みはそれぞれ異なっていてもよい。
【0105】
厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察により得られた画像(SEM画像)を用いて、以下のように求める。センサ素子101を、多孔質保護層90の存在する領域で、センサ素子101の長手方向に直交するように切断する。その切断面を樹脂埋めして研磨し、観察試料とする。SEMの倍率を80倍に設定して観察試料の観察面を撮影し、多孔質保護層90の断面のSEM画像を得る。素子本体102の表面に垂直な方向を厚み方向とし、多孔質保護層90の表面から素子本体102との境界面までの距離を導出し、この距離を多孔質保護層90の厚みとする。内層91、及び外層92についても、同様に厚みを求めることができる。なお、外層92の内層91を覆う部分については、外層92の表面から内層92との境界面までの距離を厚みとする。
【0106】
また、多孔質保護層90の気孔率(内層91及び外層92の各気孔率)は、例えば、5体積%~80体積%であってよい。また、例えば、10体積%~70体積%あるいは、10体積%~40体積%であってよい。
【0107】
内層91及び外層92の各気孔率は、同程度であってもよいし、互いに異なっていてもよい。より好ましくは、外層92の気孔率は、前記保護層90の前記内層91の気孔率よりも大きいとよい。
【0108】
気孔率は、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察により得られた画像(SEM画像)を用いて、以下のように求める。上記の厚みの場合と同様にして、SEMの倍率を80倍に設定して、多孔質保護層90の内層91断面のSEM画像を得る。次に得られたSEM画像を「大津の2値化」(判別分析法ともいう)を用いて2値化する。2値化された画像は、アルミナが白で表され、気孔が黒で表される。2値化された画像のアルミナの部分(白)の面積と気孔の部分(黒)の面積を得る。全面積(アルミナの部分の面積と気孔の部分の面積の合計)に対する気孔の部分の面積の割合を算出し、その値を内層91の気孔率とする。外層92についても同様に気孔率を求める。なお、内層91は、観察箇所によらず、実質的に同じ微構造を有していると考えられる。そのため、上述のように、ある1つの断面画像を用いて求めた気孔率の値を、内層91における気孔率の値として用いてよい。外層92についても同様である。
【0109】
本発明のセンサ素子101において、
前記内層91が形成された領域の前記一主面上において、前記内層91と前記外層92との間の少なくとも一部に第1空間93が存在し、
前記第1空間93が存在する前記素子本体102の前記一主面の前記内層91が形成されていない領域の前記主面上において、前記主面と前記外層92との間の少なくとも一部に第2空間94が存在する。
【0110】
第1空間93は、内層91が形成された領域の一主面(本実施形態においては、ポンプ面102a)上において、内層91と外層92との間の少なくとも一部に存在する。第1空間93は、素子本体102の長手方向に所定の長さ(L1)を有する層状の空間である。つまり、ポンプ面の内層91が形成された領域の少なくとも一部の領域において、内層91と外層92との間には第1空間93が介在している。第1空間93が介在していない領域においては、内層91と外層92との間は密着している。図3及び図4において、素子本体102の先端から第1空間93の先端側までの長さLa1の領域、及び第1空間93の後端側から内層91の後端までの長さLa2の領域が、内層91と外層92とが密着(固着)している密着領域(固着領域)である。
【0111】
第2空間94は、第1空間93が存在する素子本体102の前記一主面(本実施形態においては、ポンプ面102a)の多孔質保護層90のうちの内層91が形成されていない領域の面上において、素子本体102と外層92との間の少なくとも一部に存在する。第2空間94は、素子本体102の長手方向に所定の長さ(L2)を有する層状の空間である。つまり、ポンプ面102aのうちの内層91が形成されておらず外層92のみが形成されている領域の少なくとも一部の領域において、素子本体102と外層92との間には第2空間94が介在している。第2空間94が介在していない領域においては、素子本体102と外層92との間は密着している。図3及び図4において、第2空間94の後端側から外層92の後端までの長さLb1の領域が、素子本体102と外層92とが密着(固着)している密着領域(固着領域)である。
【0112】
第2空間94は、第1空間93よりも、素子本体102の先端から遠い位置に存在している。本実施形態においては、第2空間94は、図3に示すように、内層91の後端から存在しているが、これに限られない。素子本体102の長手方向において、内層91の後端と第2空間94の先端の間に、素子本体102と外層92とが密着している密着領域が存在してもよい。
【0113】
第1空間93及び第2空間94は、いずれも内層91あるいは素子本体102と外層92との間の断熱空間として機能する。多孔質体よりも空間の方が熱容量は大きい。従って、外層92の表面に水が付着し、外層92の表面が急冷された場合であっても、第1空間93及び第2空間94が介在することにより、素子本体102に伝わる熱衝撃が緩和される。そのため、熱衝撃による素子本体102の内部構造のクラックを抑制できる。
【0114】
第1空間93及び第2空間94は、それぞれ別個の空間として存在する。すなわち、素子本体102の長手方向において、第1空間93と第2空間94との間に密着領域が存在する。図3及び図4において、長さLa2の領域である。この密着領域により、内層91と外層92との間の密着強度が維持されるため、外層92が素子本体102から剥がれることをよりよく防ぐことができると考えられる。
【0115】
第1空間93は、好ましくは、素子本体102の長手方向の被測定ガス流通部15の位置の少なくとも一部に存在しているとよい。例えば、図2に示されるように、第1内部空所20の上方(外側ポンプ電極23の上方)に存在してよい。このような位置は、ガスセンサ100の駆動時には、固体電解質が酸素イオン伝導性を発現する程度に高温になる。そのため、このような位置に第1空間93が存在していれば、より熱衝撃を緩和する効果が得られると考えられる。
【0116】
第2空間94は、第1空間93よりも、素子本体102の先端から遠い位置に存在する。第2空間94は、内層91の後端に接して、又は、内層91の後端よりも遠い位置に存在する。第2空間94は、内層91の後端に接しているか、近い位置に存在するとよい。内層91と外層92の2層構成の領域(素子本体102の先端から長さLAの領域)は、外層92のみの領域(前記領域の後端側の長さLBの領域)よりも熱応力が発生しやすいと考えられる。そのような2層構成の領域の近傍において、第2空間94が存在することにより、熱応力の緩和効果が期待される。従って、ガスセンサ100の使用により多孔質保護層90の内部構造が破壊されることを防ぐ効果が期待される。
【0117】
好ましくは、素子本体の主面が構成する平面にみて、第1空間93の面積(S1)の第2空間94の面積(S2)に対する面積比率(S1/S2)が、12以下であってよい。このような範囲であれば、多孔質保護層90の構造強度がより維持されるため、ガスセンサの長期の使用にわたって熱衝撃を緩和する効果をより得られると考えられる。
【0118】
また、好ましくは、第1空間93の面積(S1)の第2空間94の面積(S2)に対する面積比率(S1/S2)は、1より大きいとよい。すなわち、第1空間93の面積(S1)が、第2空間94の面積(S2)よりも大きいとよい。このような範囲であれば、センサ素子101がより高温になる領域により大きな断熱空間を有することができるため、熱衝撃を緩和する効果がより得られると考えられる。より好ましくは、面積比率(S1/S2)は、1.1以上であってよい。
【0119】
図4に示すように、本実施形態においては、第1空間93及び第2空間94の素子本体102の幅方向の長さは、素子本体102の幅とほぼ同じである。このような場合において、第1空間93及び第2空間94の各面積は、第1空間93及び第2空間94の長手方向の各長さL1及びL2にそれぞれ対応する。従って、上述の第1空間93の面積(S1)の第2空間94の面積(S2)に対する面積比率(S1/S2)は、第1空間93の長手方向の長さ(L1)の、第2空間94の長手方向の長さ(L2)に対する比率(L1/L2)とほぼ対応する。
【0120】
また、好ましくは、第1空間93及び第2空間94が存在する前記素子本体102の前記一主面(本実施形態においては、ポンプ面102a)の前記多孔質保護層90が存在する部分において、前記素子本体102の主面が構成する平面にみて、前記第1空間93の面積(S1)及び前記第2空間94の面積(S2)の合計(S1+S2)の、前記一主面の前記多孔質保護層90のうちの前記第1空間93及び前記第2空間94が存在しない部分の面積(S)に対する比率[(S1+S2)/S]が、2.3以下であってよい。図3を参照して、第1空間93及び第2空間94が存在しない部分の面積(S)とは、内層91又は素子本体102と外層92との間が密着している密着領域の面積(長手方向の長さがLa1、La2及びLb1の領域の合計面積)である。つまり、上述の比率[(S1+S2)/S]は、素子本体102の主面が構成する平面にみて、多孔質保護層90の空間(第1空間93及び第2空間94)が存在する領域の面積(S1+S2)の、密着領域の面積(S)に対する比率を示す。言い換えれば、空間存在比率である。この空間存在比率[(S1+S2)/S]が、上述のような範囲であれば、内層91又は素子本体102と外層92との間の密着強度が確保できるため、多孔質保護層90(主に外層92)が素子本体102から剥がれることをよりよく防ぐことができると考えられる。
【0121】
また、空間存在比率は、0.1以上であってよい。このような範囲であれば、空間(第1空間93及び第2空間94)による断熱効果が得られるため、センサ素子101の表面、すなわち、多孔質保護層90の表面に水が掛かった場合において、素子本体102への熱衝撃を緩和できると考えられる。その結果、センサ素子101の耐被水性がより向上すると考えられる。
【0122】
上述のように、本実施形態においては、面積と素子本体102の長手方向の長さとは、ほぼ対応する。従って、図3及び図4を参照して、空間存在比率[(S1+S2)/S]は、第1空間93の長さ(L1)及び第2空間94の長さ(L2)の合計(L1+L2)の、密着領域の長さの合計(La1+La2+Lb1)の比率とほぼ対応する。すなわち、空間存在比率[(S1+S2)/S]は、[(L1+L2)/(La1+La2+Lb1)]とほぼ対応する。
【0123】
第1空間93及び第2空間94の面積は特に限定されないが、上述の面積比率(S1/S2)、及び空間存在比率[(S1+S2)/S]を考慮して、適宜設定してよい。第1空間93の面積は、センサ素子101の構成により異なるが、例えば、7.8mm~16.5mm程度であってもよい。第2空間94の面積は、センサ素子101の構成により異なるが、例えば、1.5mm~7.2mm程度であってもよい。
【0124】
第1空間93及び第2空間94の素子本体102の主面に垂直な長さ(厚み)は特に限定されないが、例えば、10μm~300μm程度であってもよい。厚みが厚いほど断熱効果は向上し、厚みが薄いほど多孔質保護層90の構造強度が向上する傾向があると考えられる。
【0125】
本実施形態においては、第1空間93及び第2空間94の幅方向の長さは、いずれも素子本体102の幅とほぼ同じであるが、これに限られない。第1空間93及び第2空間94の幅方向の長さは、素子本体102の幅より短くてもよい。また、第1空間93及び第2空間94の幅方向の長さがそれぞれ異なっていてもよい。
【0126】
本実施形態においては、第1空間93及び第2空間94は、それぞれ1つの空間であるが、これに限られない。内層91と外層92との間に複数の第1空間93があってもよい。第1空間93が存在している主面(本実施形態においてポンプ面102a)の、素子本体102と外層92との間に複数の第2空間94があってもよい。
【0127】
本実施形態においては、第1空間93及び第2空間94は、内層91が形成されたポンプ面102aに存在するが、これに限られない。内層91がポンプ面102a及びヒータ面102bの両主面上に形成されている場合には、第1空間93は、ポンプ面102a及びヒータ面102bの少なくとも1つの主面上において、内層91と外層92との間の少なくとも一部に存在してればよい。また、第1空間93がポンプ面102a及びヒータ面102bの両主面上に存在する場合には、第2空間94は、ポンプ面102a及びヒータ面102bの少なくとも1つの主面上において、主面と外層92との間の少なくとも一部に存在してればよい。
【0128】
(保護カバー)
本発明のガスセンサ100は、上述のセンサ素子101と、センサ素子101の多孔質保護層90が存在する少なくとも一部を配置する内部空間を有する保護カバー105を含む。以下に、本発明のガスセンサ100の一実施形態における保護カバー105を説明する。
【0129】
ガスセンサ100は、センサ素子101のうち先端から少なくとも被測定ガス流通部15を含む所定の範囲が被測定ガスに晒されるように構成されている。一方、センサ素子101の後端から基準ガス導入空間43に基準ガス(例えば、大気)が導入されるようになされている。センサ素子101の先端側と後端側との間の気密を保つように、センサ素子101がハウジング(図示せず)の中に固定されている。
【0130】
保護カバー105は、センサ素子101の先端から多孔質保護層90が存在する部分の少なくとも一部を囲う。図6は、本実施形態のガスセンサ100におけるセンサ素子101と保護カバー105の配置を示す断面模式図である。図6においても、図3と同様に、素子本体102の内部における被測定ガス流通部15や電極等の構成は図示を省略している。
【0131】
保護カバー105は、被測定ガスを流通させてセンサ素子101に到達させるとともに、センサ素子101を被水や大流量のガスによる冷えから保護する機能を有する。図6に示すように、保護カバー105は、その内部空間にセンサ素子101を配置している。保護カバー105は例えば円筒状である。保護カバー105は、被測定ガスを流通させるための通気孔H1、H2、H3を有する。
【0132】
好ましくは、保護カバー105において、素子本体102の2つの主面(ポンプ面102a及びヒータ面102b)のうちの少なくとも一方の主面の多孔質保護層90が存在する部分の上方に、被測定ガスが流通する通気孔H1、H2、又はH3が存在してもよい。すなわち、素子本体102の主面が構成する平面にみて、ポンプ面102aの多孔質保護層90が存在する部分の上方に通気孔が存在してもよいし(図6において、通気孔H1、H2)、ヒータ面102bの多孔質保護層90が存在する部分の上方に通気孔が存在してもよい(図6において、通気孔H3)。言い換えれば、ポンプ面102a又はヒータ面102bの多孔質保護層90が存在する部分のいずれかの位置から引いた垂線上に通気孔が存在してもよい。このように構成すれば、通気孔H1、H2、又はH3から水が浸入したとしても、素子本体102の主面上の多孔質保護層90に付着するため、素子本体102に加わる熱衝撃を緩和することができると考えられる。
【0133】
より好ましくは、保護カバー105において、第1空間93及び第2空間94が存在する素子本体102の主面(本実施形態においてポンプ面102a)の多孔質保護層90が存在する部分の上方に、被測定ガスが流通する通気孔H1又はH2が存在してもよい。このように構成すれば、通気孔H1又はH2から水が浸入したとしても、素子本体102の主面上の断熱空間(第1空間93及び第2空間94)が存在する多孔質保護層90に付着するため、素子本体102に加わる熱衝撃をより緩和することができると考えられる。
【0134】
さらに好ましくは、保護カバー105において、第1空間93及び第2空間94が存在する素子本体102の主面(本実施形態においてポンプ面102a)の第1空間93が存在する部分の上方に、被測定ガスが流通する通気孔H1が存在してもよい。このように構成すれば、通気孔H1から水が浸入したとしても、素子本体102の主面上の、断熱空間として機能する第1空間93が存在する位置の多孔質保護層90に付着するため、素子本体102に加わる熱衝撃をさらに緩和することができると考えられる。また、第2空間94が存在する部分の上方に、被測定ガスが流通する通気孔H2が存在してもよい。
【0135】
図6においては、図示の簡単のため、保護カバー105の左側が解放された状態となっているが、実際には、保護カバー105は有底筒状であってよい。有底筒状の場合において、保護カバー105の底面に通気孔が存在してもよい。また、図6においては、ポンプ面の第1空間93の上方の通気孔H1、ポンプ面の第2空間94の上方の通気孔H2、及びヒータ面の多孔質保護層90の上方の通気孔H3を示したが、通気孔はこれらに限られない。通気孔H1、H2、及びH3のいずれか1つが存在していてもよいし、2つ以上存在していてもよい。保護カバー105は、被測定ガスを流通させるために、通常複数の通気孔を有する。ポンプ面102aの第1空間93及び第2空間94のいずれもが存在しない密着領域の上方に通気孔があってもよい。通気孔H1、H2、又はH3は、それぞれが複数個あってもよいし、2種類以上の位置の通気孔があってもよい。
【0136】
図6においては、図示の簡単のため、保護カバー105は1つの筒状のカバーとして図示したが、これに限られない。保護カバー105は、図6のような一重構造であってもよいし、2つ以上の保護カバーからなる多重構造であってもよい。多重構造の保護カバーの場合には、最も内側の保護カバーの通気孔が上述の位置に配置されていることがより好ましい。
【0137】
このような保護カバー105としては、例えば、特開2016-090569号公報や特開2021-060219号公報等に開示されているような、公知の保護カバーを用いることができる。
【0138】
上記に、本発明の実施形態の例として、被測定ガス中のNOx濃度を検出するセンサ素子101及びセンサ素子101を含むガスセンサ100を示したが、本発明はこの形態に限られない。本発明には、センサ素子の耐被水性を向上させるという本発明の目的を達成する範囲であれば、種々の形態のセンサ素子が含まれ得る。
【0139】
上述の実施形態においては、ガスセンサ100は被測定ガス中のNOx濃度を検出したが、測定対象ガスはNOxに限られない。ガスセンサ100のセンサ素子は、酸素イオン伝導性の固体電解質を用いた構成であればよい。測定対象ガスは、例えば、酸素O又はNOx以外の他の酸化物ガス(例えば、二酸化炭素CO、水HO等)であってもよい。あるいは、アンモニアNH等の非酸化物ガスであってもよい。
【0140】
上述の実施形態のガスセンサ100においては、センサ素子101は、図2に示すように、第1内部空所20、第2内部空所40、及び第3内部空所61の3つの内部空所を備え、各内部空所には、内側主ポンプ電極22、補助ポンプ電極51、及び測定電極44がそれぞれ配置されている構造であったが、これに限られない。例えば、第1内部空所20及び第2内部空所40の2つの内部空所を備え、第1内部空所20には内側主ポンプ電極22が、第2内部空所40には補助ポンプ電極51及び測定電極44がそれぞれ配置されている構造としてもよい。この場合、例えば、補助ポンプ電極51と測定電極44との間の拡散律速部として、測定電極44を覆う多孔体保護層を形成してもよい。
【0141】
また、上記の内部空所の構成以外にも、被測定ガス流通部15や各電極等の素子本体102の各構成要素は、測定対象ガスの種類、ガスセンサの使用目的や使用環境等に応じて、種々の態様を取り得る。
【0142】
[センサ素子製造方法]
次に、上述のようなセンサ素子の製造方法の一例を説明する。センサ素子101の製造方法においては、まず素子本体102を製造し、その後、素子本体102に多孔質保護層90を形成して、センサ素子101を製造する。
【0143】
以下においては、図2に示した6つの層からなるセンサ素子101を作製する場合を例として説明する。
【0144】
(素子本体の製造)
最初に、素子本体102を製造する方法を説明する。まず、ジルコニア(ZrO)等の酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む6枚のグリーンシートを準備する。グリーンシートの作製には、公知の成形方法を用いることができる。6枚のグリーンシートは全て同じ厚みでもよいし、形成する層によって厚みが異なってもよい。6枚のグリーンシートそれぞれに、印刷時や積層時の位置決めに用いるシート穴等を、パンチング装置による打ち抜き処理などの公知の方法で、予め形成する(ブランクシート)。スペーサ層5に用いるブランクシートには、内部空所等の貫通部も同様の方法で形成する。その他の層にも必要な貫通部を予め形成する。
【0145】
第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層に用いるブランクシートに、各層毎に必要な種々のパターンの印刷・乾燥処理を行う。パターンの印刷には、公知のスクリーン印刷技術を用いることができる。乾燥処理についても、公知の乾燥手段を用いることができる。
【0146】
このような工程を繰り返し、6枚のブランクシートそれぞれに対する種々のパターンの印刷・乾燥が終わると、6枚の印刷済みブランクシートを、シート穴等で位置決めしつつ所定の順序で積み重ねて、所定の温度・圧力条件で圧着させて積層体とする圧着処理を行う。圧着処理は、公知の油圧プレス機等の積層機で加熱・加圧することにより行う。加熱・加圧する温度、圧力及び時間は、用いる積層機に依存するものであるが、良好な積層が実現できるように、適宜定めることができる。
【0147】
得られた積層体は、複数個の素子本体102を包含している。その積層体を切断して素子本体102の単位に切り分ける。切り分けられた積層体を所定の焼成温度で焼成し、素子本体102を得る。焼成温度は、センサ素子101の基体部103を構成する固体電解質が焼結して緻密体となり、かつ、電極等が所望の気孔率を保持する温度であればよい。例えば、1300~1500℃程度の焼成温度で焼成される。
【0148】
(保護層の製造)
次に、素子本体102に多孔質保護層90(外層91及び内層92)、第1空間93、及び第2空間94を形成する方法を説明する。
【0149】
まず、素子本体102の先端面102e及びポンプ面102aに所定のパターンで内層91となるべき塗布層を形成する。塗布層の形成は、後工程の脱脂後に所望の内層91が得られるように調製されたペーストを用いて行う。内層91の形成に用いるペーストは、内層91の材質からなる原料粉末(本実施形態においてはアルミナ粉末)と、有機バインダー及び有機溶剤等とを混合して作製する。必要に応じて気孔を形成するための造孔材を加えて作製してもよい。造孔材としては、後述の消失材と同様の材料を用いることができる。塗布層の形成は、例えば、公知のスクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等によって行うことができる。
【0150】
次に、ポンプ面102aの内層91となるべき塗布層の上の、第1空間93となるべき位置に、脱脂によって消失する消失材を塗布する。また、第2空間94となるべき位置に、脱脂によって消失する消失材のペーストを塗布する。消失材のペーストは、消失材と、有機バインダー及び有機溶剤等とを混合して作製する。消失材は、後工程の脱脂により消失する有機材料又は無機材料である。消失材としては、例えば、テオブロミン等のキサンチン誘導体、アクリル樹脂等の有機樹脂材料、カーボン等の無機材料等を用いることができる。消失材の塗布には、例えば、公知のスクリーン印刷、グラビア印刷、インクジェット印刷等によって行うことができる。
【0151】
その後、外層92となるべき層を形成する。外層92となるべき層の形成は、スクリーン印刷、ディッピング、ゲルキャスト法等の種々の方法を用いることができる。あるいは、プラズマ溶射により、外層92を形成することもできる。
【0152】
最後に、内層91、第1空間93、第2空間94、及び外層92となるべき層を熱処理して、多孔体からなる多孔質保護層90(内層91及び外層92)と、第1空間93及び第2空間94とを形成する工程を行う。すなわち、所定の脱脂温度にて脱脂工程を行う。脱脂温度は、第1空間93となるべき塗布層及び第2空間94となるべき塗布層の消失材が全て消失する温度であればよい。且つ、内層91及び外層92(外層92をプラズマ溶射で形成した場合には、内層91)の膜中の有機成分が全て消失し、多孔質保護層90の多孔体としての構造が維持される温度であればよい。脱脂温度は素子本体102の焼成温度より低くてよい。例えば、400~900℃程度の脱脂温度で脱脂される。
【0153】
得られたセンサ素子101は、センサ素子101の先端部が被測定ガスに接し、センサ素子101の後端部が基準ガスに接するような態様で、所定のハウジングに収容されてガスセンサ100に組み込まれる。なお、センサ素子101の先端部を囲うように保護カバー105が取り付けられる。
【実施例0154】
以下に、センサ素子を具体的に作製して試験を行った例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0155】
[1.耐被水性の評価]
(実施例1~11の作製)
上述したセンサ素子101の製造方法に従って、実施例1~11のセンサ素子を作製した。具体的には、まず、前後方向の長さが67.5mm、左右方向の幅が4.25mm、上下方向の厚さが1.45mmの素子本体102を作製した。その後、第1空間93及び第2空間94の位置及び面積がそれぞれ以下のとおりになるように、多孔質保護層90、第1空間93及び第2空間94を形成した。
【0156】
実施例1~11において、第1空間93及び第2空間94が存在する主面は、上面のポンプ面(実施例1~8)又は下面のヒータ面(実施例9~11)のいずれかとした。また、第1空間93の面積(S1)の第2空間94の面積(S2)に対する面積比率(S1/S2)はそれぞれ、1.1(実施例1)、1.3(実施例2)、2(実施例3)、3(実施例4、10)、7(実施例5)、10(実施例6、11)、12(実施例7)、15(実施例8)、及び1(実施例9)とした。実施例1~11において、第1空間93の面積(S1)及び第2空間94の面積(S2)の合計(S1+S2)の、前記第1空間93及び前記第2空間94が存在しない密着領域の面積(S)に対する空間存在比率[(S1+S2)/S]は、いずれも1.2とした。
【0157】
実施例1~8において、内層91は、素子本体102の先端面と、ポンプ面の素子本体102先端から長さLAの領域に形成した。実施例9~11において、内層91は、素子本体102の先端面と、ヒータ面の素子本体102先端から長手方向に長さLAの領域に形成した。実施例1~11の全てにおいて、内層91の長手方向の長さ(LA)は7mmとし、厚みは200μmとした。気孔率は、45体積%とした。内層91は、長手方向の長さ(LA)の全面にわたって、主面(ポンプ面102a又はヒータ面102b)幅方向全域と、両側角部の面取り形状部分に形成した。
【0158】
実施例1~11の全てにおいて、外層92は、内層91を覆い且つ素子本体102の先端から長手方向に長さLの領域の全面に形成した。外層92の長手方向の長さ(L)は12mmとし、厚みは多孔質保護層90の全体として800μmとした。外層92の気孔率は、45体積%とした。
【0159】
実施例1~11の全てにおいて、第1空間93及び第2空間94の幅方向の長さは、いずれも素子本体102の幅と同じとした。従って、第1空間93及び第2空間94の面積は、長手方向の長さにほぼ対応する。図3を参照して、長手方向を基準として、第1空間93の長さ(L1)と第2空間94の長さ(L2)の合計が6.5mmとなるようにした。実施例1~11のそれぞれにおいて、所定の面積比率(S1/S2)、すなわち長さの比率(L1/L2)となるようにL1及びL2の長さを定めた。また、空間存在比率[(S1+S2)/S]についても、長手方向の長さを基準として、図3を参照して、[(L1+L2)/(La1+La2+Lb1)]が1.2となるように、第1空間93及び第2空間94を配置した。第1空間93の厚みは50μmとし、第2空間94の厚みは120μmとした。
【0160】
実施例1~11の全てにおいて、第1空間93は、その長手方向の中点が外側電極23の中点になるように配置した。実施例1~11の全てにおいて、第2空間94は、内層91の後端から後方にL2の長さになるように配置した。
【0161】
(比較例1の作製)
第1空間93及び第2空間94を形成しなかった以外は、実施例1~8と同様に作製した。すなわち、比較例1において、内層91を、素子本体102の先端面と、ポンプ面の素子本体102先端から長さLAの領域とに形成した。また、外層92を、内層91を覆い且つ素子本体102の先端から長手方向に長さLの領域の全面に形成した。
【0162】
(耐被水性の評価)
実験例1~11及び比較例1のセンサ素子101について、多孔質保護層90の性能(センサ素子101の耐被水性)を評価した。具体的には、まず、ヒータ72に通電して温度を800℃とし、センサ素子101を加熱した。この状態で、大気雰囲気中で主ポンプセル21,補助ポンプセル50,主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80,補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81等を作動させて、第1内部空所内20内の酸素濃度を所定の一定値に保つように制御した。そして、ポンプ電流Ip0が安定するのを待った後、第1空間93及び第2空間94が存在する主面(ポンプ面又はヒータ面)の多孔質保護層90に水滴を垂らし、ポンプ電流Ip0が5%以上増加したか否かに基づいて、センサ素子101のクラックの有無を判定した。なお、比較例1については、ポンプ面の多孔質保護層90に水滴を垂らした。水滴による熱衝撃でセンサ素子101にクラックが生じると、クラック部分を通過して第1内部空所内20内に酸素が流入しやすくなるため、ポンプ電流Ip0の値が大きくなる。そのため、ポンプ電流Ip0が5%以上増加した場合に、水滴でセンサ素子101にクラックが生じたと判定した。
【0163】
また、水滴の量を60μLまで徐々に増やして複数回の試験を行い、ポンプ電流Ip0が5%以上増加した時(センサ素子101にクラックが生じたと疑われる)の水滴量を調べた。実験例1~11及び比較例1のセンサ素子101を5本ずつ用意し、5本の前記水滴量の平均値を実験例1~11及び比較例1の各々について導出した。この水滴量の平均値を以下の基準で判定した。
【0164】
A:40μL以上60μL以下の水滴量でポンプ電流Ip0の上昇なし
B:10μL以上60μLより小さい水滴量でポンプIp0の上昇あり
C:10μLより小さい水滴量でポンプIp0の上昇あり
【0165】
耐被水性の判定結果を表1に示す。
【0166】
【表1】
【0167】
表1に示されるように、実施例1~11の全てにおいて、比較例1と同等以上の耐被水性があることが確認できた。内層91、第1空間93及び第2空間94がポンプ面102aの上に配置されている実施例1~8の結果から、空間面積比率(S1/S2)が大きいほど、すなわち、空間面積比率(S1/S2)が大きいほど、耐被水性がより向上する傾向がみられた。一方、空間面積比率(S1/S2)が最も大きい実施例8においては、比較例1と同等の耐被水性であった。これは、第1空間93の上方の外層92が剥がれたことによるものであった。従って、第1空間93及び第2空間94の存在により、耐被水性が向上することが確認された。
【0168】
[2.耐剥離性の評価]
(実施例12~20の作製)
上述したセンサ素子101の製造方法に従って、実施例12~20のセンサ素子を作製した。第1空間93及び第2空間94の位置及び面積がそれぞれ以下のとおりになるように、多孔質保護層90、第1空間93及び第2空間94を形成した。
【0169】
実施例12~20の全てにおいて、第1空間93及び第2空間94が存在する主面は、上面のポンプ面とした。また、第1空間93の面積(S1)の第2空間94の面積(S2)に対する面積比率(S1/S2)は、いずれも1.3とした。実施例12~20において、第1空間93の面積(S1)及び第2空間94の面積(S2)の合計(S1+S2)の、前記第1空間93及び前記第2空間94が存在しない密着領域の面積(S)に対する空間存在比率[(S1+S2)/S]は、0.1(実施例12)、0.4(実施例13)、0.7(実施例14)、1(実施例15)、1.2(実施例16)、1.5(実施例17)、2.3(実施例18)、2.5(実施例19)、3(実施例20)とした。これら以外は、実施例1~11と同様に作製した。
【0170】
(比較例1)
比較例として、[1.耐被水性の評価]と同じ比較例1を用いた。
【0171】
(耐剥離性の評価)
実施例12~20及び比較例1のセンサ素子101について、多孔質保護層90の耐剥離性を評価した。具体的には、まず、実施例12~20及び比較例1のセンサ素子101について、それぞれが組み込まれた実施例12~20及び比較例1のガスセンサ100を各5本作製した。加熱振動試験は、振動試験機に設置したプロパンバーナーの排気管に各ガスセンサ100を取り付けた状態で、以下の条件にて行った。
【0172】
ガス温度:850℃;
ガス空気比λ:1.05;
振動条件:50Hz→100Hz→150Hz→250Hzを30分掃引;
加速度 :30G、40G、50G;
試験時間:150時間。
【0173】
加熱振動試験後の各ガスセンサ100からセンサ素子101をそれぞれ取り出した。加熱振動試験後の実施例12~20及び比較例1のセンサ素子101各5本のそれぞれについて、多孔質保護層90を目視にて観察し、以下の基準で耐剥離性を判定した。結果を表2に示す。
【0174】
A:5本のセンサ素子の全てにおいて、多孔質保護層90に異常なし
B:5本のセンサ素子の少なくとも1本において、多孔質保護層90に剥がれや脱落はないが、目視にてひび割れが確認された
C:5本のセンサ素子の少なくとも1本において、多孔質保護層90に剥がれや脱落あり
【0175】
耐剥離性の判定結果を表2に示す。
【0176】
【表2】
【0177】
表2に示されるように、実施例12~18において、第1空間93及び第2空間94が存在したとしても、比較例1と同等の耐剥離性を維持できたことが確認できた。加熱振動試験は実使用条件よりも厳しい加速試験であるので、加熱振動試験において判定がB又はCであっても実使用において使用でき得る。空間存在比率が大きい、すなわち、密着領域の面積が小さいと、多孔質保護層90の構造強度の観点では不利になりうるが、第1空間93及び第2空間94による断熱効果は向上する。ガスセンサ100の使用環境や要求性能に応じて、耐剥離性と耐被水性の双方を考慮して、第1空間93及び第2空間94を配置してもよい。
【0178】
以上のように、本発明によれば、第1空間93及び第2空間94により断熱効果を得つつ、密着領域により密着強度を維持できるため、センサ素子101に水が掛かった場合であっても、より素子本体102に伝わる熱衝撃を緩和できる。その結果、より高い耐被水性が実現できる。
【符号の説明】
【0179】
1 第1基板層
2 第2基板層
3 第3基板層
4 第1固体電解質層
5 スペーサ層
6 第2固体電解質層
10 ガス導入口
11 第1拡散律速部
12 緩衝空間
13 第2拡散律速部
15 被測定ガス流通部
20 第1内部空所
21 主ポンプセル
22 内側主ポンプ電極
22a (内側主ポンプ電極の)天井電極部
22b (内側主ポンプ電極の)底部電極部
23 外側ポンプ電極
24 (主ポンプセルの)可変電源
30 第3拡散律速部
40 第2内部空所
41 測定用ポンプセル
42 基準電極
43 基準ガス導入空間
44 測定電極
46 (測定用ポンプセルの)可変電源
48 大気導入層
50 補助ポンプセル
51 補助ポンプ電極
51a (補助ポンプ電極の)天井電極部
51b (補助ポンプ電極の)底部電極部
52 (補助ポンプセルの)可変電源
60 第4拡散律速部
61 第3内部空所
70 ヒータ部
71 ヒータ電極
72 ヒータ
73 スルーホール
74 ヒータ絶縁層
75 圧力放散孔
76 ヒータリード
80 主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル
81 補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル
82 測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル
83 センサセル
90、90a~90e 多孔質保護層
91 内層
92 外層
93 第1空間
94 第2空間
100 ガスセンサ
101 センサ素子
102、102a~102f 素子本体
103 基体部
105 保護カバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6