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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148586
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】微細セルロース繊維
(51)【国際特許分類】
   C08B 15/04 20060101AFI20231005BHJP
   D21H 11/20 20060101ALI20231005BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
C08B15/04
D21H11/20
D21H15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056693
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130812
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100164161
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 彩
(72)【発明者】
【氏名】中田 咲子
(72)【発明者】
【氏名】高山 雅人
【テーマコード(参考)】
4C090
4L055
【Fターム(参考)】
4C090AA01
4C090BA29
4C090BA34
4C090BB52
4C090BB65
4C090BD02
4C090BD19
4C090BD23
4C090BD32
4L055AA03
4L055AF09
4L055AF10
4L055AF46
4L055AG34
4L055AG37
4L055CA11
4L055CB13
4L055EA16
4L055EA19
4L055EA30
4L055EA34
4L055FA04
(57)【要約】
【課題】保水性や分散性などに優れた繊維分布のバランスを示す微細セルロース繊維を提供する。
【解決手段】平均繊維径が500nm以上である微細セルロース繊維であって、該微細セルロース繊維の0.05質量%の水分散液を33℃/標準大気圧にて24時間静置する透過率試験(波長880mm)において、
初期透過率変化Rが3%以上70%以下であり、24時間静置後の透過率変化Rが5%以上80%以下であり、RとRとの比により表されるRが、50%以上95%以下である微細セルロース繊維。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が500nm以上である微細セルロース繊維であって、
該微細セルロース繊維の0.05質量%の水分散液を、33℃/標準大気圧にて24時間静置する透過率試験(波長880mm)において、
下記式(1)によって求められる初期透過率変化Rが3%以上70%以下であり、
下記式(2)によって求められる24時間静置後の透過率変化Rが5%以上80%以下であり、
下記式(3)によって求められるRが50%以上95%以下であること、
を特徴とする微細セルロース繊維。
=(T6h-T0h)/T0h×100・・・(1)
(式中、T0hは試験管に該水分散液を入れた直後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)であり、T6hは試験管に該水分散液を入れ6時間静置後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)である)
=(T24h-T0h)/T0h×100・・・(2)
(式中、T0hは試験管に該水分散液を入れた直後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)であり、T24hは試験管に該水分散液を入れ24時間静置後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)である)
=R/R×100・・・(3)
【請求項2】
微細セルロースであって、該微細セルロース繊維の1.0質量%の水分散液の電気伝導度が10~200mSであることを特徴とする、請求項1に記載の微細セルロース繊維。
【請求項3】
前記微細セルロース繊維が、0.1~3.0mmol/gのカルボキシル基量を有する酸化ミクロフィブリルセルロース繊維であることを特徴とする、請求項1~2いずれかに記載の微細セルロース繊維。
【請求項4】
前記微細セルロース繊維が、0.01~0.5の置換度を有するカルボキシメチル基量を有するカルボキシメチル化微細セルロース繊維であることを特徴とする、請求項1~2いずれかに記載の微細セルロース繊維。
【請求項5】
前記微細セルロース繊維が、セルロースI型の結晶化度が50%以上であることを特徴とする、請求項1~4いずれかに記載の微細セルロース繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細セルロース繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースを微細化して得られるセルロースナノファイバーやミクロフィブリルセルロース(以下併せて「微細セルロース繊維」という。)は、繊維径がナノ~マイクロオーダーの微細な繊維であり、高強度、高弾性、チキソ性等、通常のパルプにはない機能を有する新規材料として様々な分野での利用が期待されている。
【0003】
微細セルロース繊維の製造方法として、機械的な剪断力でセルロース繊維を微細化(特許文献1)する方法、セルロース繊維に酵素処理や化学変性を施した後に機械的な微細化処理を行う方法(特許文献2)、バクテリアセルロースに代表されるように微生物に微細セルロースを産生(特許文献3)させる方法などが知られている。
【0004】
化学変性としては、酸化、エーテル化、カチオン化、エステル化などが挙げられ、導入される置換基としてはカチオン性基またはアニオン性基などがある。アニオン性基の一例としてはカルボキシル基やリン酸エステル基がある。
【0005】
アニオン性基が導入された化学変性パルプは、水中、酸性条件下ではアニオン性基の末端がH型となるため親水性が低く、アルカリ性条件下ではアニオン性基の末端が乖離するため親水性が高くなる。通常、アニオン変性微細セルロースは、変性セルロースをアルカリ処理してアニオン性基を塩型に変換した後、叩解(予備解繊)処理を行ってミクロフィブリルセルロースを得て、さらに超高圧ホモジナイザーなどの分散機で解繊処理するとセルロースナノファイバー化される(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-10280号公報
【特許文献2】特開2010-235679号公報
【特許文献3】特開平8-291201号公報
【特許文献4】国際公開2017/057710号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようにして得られる微細セルロース繊維は、微細化の程度や処理方法によって繊維状態が異なるため様々な特性を発現することができる。特にある程度長さや太さを維持した(粗大な)微細セルロース繊維と、より短く細い繊維形状となる(微小な)微細セルロース繊維が適度に混在すると、微細セルロース繊維を紙や樹脂やゴム、化粧料、食品、塗料、コンクリートなどの各種組成物に配合された際に、微細セルロース繊維の繊維バランスが適切になるため、チキソ性や保水性、強度、意匠性などにより優れた効果を発揮することができることが期待される。さらに単一の繊維分布よりも、繊維分布のバランスがとれているため繊維同士の凝集の防止も期待される。しかしながら、どの程度の微細化を行えばこのような繊維バランスをコントロールできるかの指標は従来知られていなかった。
【0008】
そこで本発明では、上記課題を解決できる、保水性や分散性などに優れた繊維分布のバランスを示す微細セルロース繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願人らは、以下の[1]~[5]の構成を満たすことで課題を解決できることを見出した。
[1]平均繊維径が500nm以上である微細セルロース繊維であって、
該微細セルロース繊維の0.05質量%の水分散液を、33℃/標準大気圧にて24時間静置する透過率試験(波長880mm)において、
下記式(1)によって求められる初期透過率変化Rが3%以上70%以下であり、
下記式(2)によって求められる24時間静置後の透過率変化Rが5%以上80%以下であり、
下記式(3)によって求められるRが50%以上95%以下であること、
を特徴とする微細セルロース繊維。
=(T6h-T0h)/T0h×100・・・(1)
(式中、T0hは試験管に該水分散液を入れた直後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)であり、T6hは試験管に該水分散液を入れ6時間静置後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)である)
=(T24h-T0h)/T0h×100・・・(2)
(式中、T0hは試験管に該水分散液を入れた直後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)であり、T24hは試験管に該水分散液を入れ24時間静置後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)である)
=R/R×100・・・(3)
[2]微細セルロースであって、該微細セルロース繊維の1.0質量%の水分散液の電気伝導度が10~200mSであることを特徴とする、[1]に記載の微細セルロース繊維。
[3]前記微細セルロース繊維が、0.1~3.0mmol/gのカルボキシル基量を有する酸化ミクロフィブリルセルロース繊維であることを特徴とする、[1]~[2]いずれかに記載の微細セルロース繊維。
[4]前記微細セルロース繊維が、0.01~0.5の置換度を有するカルボキシメチル基量を有するカルボキシメチル化微細セルロース繊維であることを特徴とする、[1]~[2]いずれかに記載の微細セルロース繊維。
[5]前記微細セルロース繊維が、セルロースI型の結晶化度が50%以上であることを特徴とする、[1]~[4]いずれかに記載の微細セルロース繊維。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、保水性や分散性などに優れた繊維分布のバランスを示す微細セルロース繊維を提供するができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明の詳細を説明するが、特に記載のない場合「AA~BB%」等という記載は、「AA%以上BB%以下」をあらわすものとする。
【0012】
すなわち本発明は、平均繊維径が500nm以上である微細セルロース繊維であって、該微細セルロース繊維の0.05質量%の水分散液を、33℃/標準大気圧にて24時間静置する透過率試験(波長880mm)において、
下記式(1)によって求められる初期透過率変化Rが3%以上70%以下であり、
下記式(2)によって求められる24時間静置後の透過率変化Rが5%以上80%以下であり、
下記式(3)によって求められるRが50%以上95%以下であること、
を特徴とする微細セルロース繊維である。
=(T6h-T0h)/T0h×100・・・(1)
(式中、T0hは試験管に該水分散液を入れた直後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)であり、T6hは試験管に該水分散液を入れ6時間静置後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)である)
=(T24h-T0h)/T0h×100・・・(2)
(式中、T0hは試験管に該水分散液を入れた直後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)であり、T24hは試験管に該水分散液を入れ24時間静置後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)である)
=R/R×100・・・(3)
【0013】
<微細セルロース繊維>
本発明の微細セルロース繊維は、平均繊維径が500nm以上であることが重要であり、1μm以上が好ましく、3μm以上がより好ましい。平均繊維径が500nm以上である微細セルロース繊維はミクロフィブリルセルロース(MFC)ともいわれる。微細セルロース繊維の平均繊維長は、20μm以上が好ましく、30μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましい。平均繊維長の上限は、特に限定されないが、3000μm以下が好ましく、1500μm以下が好ましく、1,200μm以下がより好ましく、1,000μm以下がさらに好ましい。
【0014】
微細セルロース繊維の平均アスペクト比は、10以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。アスペクト比の上限は特に限定されないが、1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、80以下がさらに好ましい。平均アスペクト比は、下記の式により算出することができる。
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径
【0015】
(セルロース原料)
微細セルロース繊維の原料であるセルロース原料の由来は、特に限定されないが、例えば、植物(例えば、木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ(針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)サーモメカニカルパルプ(TMP)、再生パルプ、古紙等)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等が挙げられる。本発明で用いるセルロース原料は、これらのいずれかであってもよいし2種類以上の組み合わせであってもよいが、好ましくは植物又は微生物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)であり、より好ましくは植物由来のセルロース原料(例えば、セルロース繊維)である。
【0016】
セルロース原料の数平均繊維径は特に制限されないが、一般的なパルプである針葉樹クラフトパルプの場合は30~60μm程度、広葉樹クラフトパルプの場合は10~30μm程度である。その他のパルプの場合、一般的な精製を経たものは50μm程度である。
例えばチップ等の数cm大のものを精製したものである場合、リファイナー、ビーター等の離解機で機械的処理を行い、50μm程度に調整することが好ましい。
【0017】
(変性)
セルロース原料は、グルコース単位あたり3つのヒドロキシル基を有しており、各種の化学変性処理を行うことが可能である。本発明では、これらに対して変性を行ってもよく、また行わなくてもよいが、化学変性処理を行った方が、ゴムや樹脂、塗料などの各種組成物に含有させた際に十分な補強性を発揮し得るため好ましい。その理由は、セルロース原料の変性により繊維の微細化が十分に進み、均一な繊維長及び繊維径が得られるためである。また、補強性を発揮するのに有効な繊維長及び繊維径を持つ繊維数が十分に確保できるためである。
【0018】
セルロース原料を変性するための変性方法は特に制限されないが、例えば、酸化、エーテル化、リン酸化、エステル化、シランカップリング、フッ素化、カチオン化などの化学変性が挙げられる。中でも、酸化(カルボキシル化)、エーテル化、カチオン化、エステル化が好ましい。以下、これらについて詳細に説明する。
【0019】
(酸化)
酸化によりセルロース原料を変性する場合、得られる酸化セルロース又はミクロフィブリルセルロースの絶乾重量に対するカルボキシル基の量は、好ましくは0.1mmol/g以上、より好ましくは0.5mmol/g以上、更に好ましくは1.0mmol/g以上である。上限は、好ましくは3.0mmol/g以下、より好ましくは2.5mmol/g以下、更に好ましくは2.0mmol/g以下である。従って、0.1mmol/g~3.0mmol/gが好ましく、0.5mmol/g~2.5mmol/gがより好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gが更に好ましい。
【0020】
酸化の方法は特に限定されないが、1つの例としては、N-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群より選択される物質の存在下で酸化剤を用いて水中でセルロース原料を酸化する方法が挙げられる。この方法によれば、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、アルデヒド基、カルボキシル基、及びカルボキシレート基からなる群より選ばれる基が生じる。反応時のセルロース原料の濃度は特に限定されないが、5重量%以下が好ましい。
【0021】
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。ニトロキシルラジカルとしては例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であれば、いずれの化合物も使用できる。
【0022】
N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であれば特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol以上が好ましく、0.02mmol以上がより好ましい。上限は、10mmol以下が好ましく、1mmol以下がより好ましく、0.5mmol以下が更に好ましい。従って、N-オキシル化合物の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.01~10mmolが好ましく、0.01~1mmolがより好ましく、0.02~0.5mmolがさらに好ましい。
【0023】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、例えば、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウム等が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、例えば、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。臭化物又はヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択すればよい。臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol以上が好ましく、0.5mmol以上がより好ましい。上限は、100mmol以下が好ましく、10mmol以下がより好ましく、5mmol以下が更に好ましい。従って、臭化物及びヨウ化物の合計量は絶乾1gのセルロースに対して、0.1~100mmolが好ましく、0.1~10mmolがより好ましく、0.5~5mmolがさらに好ましい。
【0024】
酸化剤は、特に限定されないが例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、それらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などが挙げられる。中でも、安価で環境負荷が少ないことから、次亜ハロゲン酸又はその塩が好ましく、次亜塩素酸又はその塩がより好ましく、次亜塩素酸ナトリウムが更に好ましい。酸化剤の使用量は、絶乾1g
のセルロースに対して、0.5mmol以上が好ましく、1mmol以上がより好ましく、3mmol以上が更に好ましい。上限は、500mmol以下が好ましく、50mmol以下がより好ましく、25mmol以下が更に好ましい。従って、酸化剤の使用量は絶乾1gのセルロースに対して、0.5~500mmolが好ましく、0.5~50mmolがより好ましく、1~25mmolがさらに好ましく、3~10mmolが最も好ましい。N-オキシル化合物を用いる場合、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1mol以上が好ましい。上限は、40molが好ましい。従って、酸化剤の使用量はN-オキシル化合物1molに対して1~40molが好ましい。
【0025】
酸化反応時のpH、温度等の条件は特に限定されず、一般に、比較的温和な条件であっても酸化反応は効率よく進行する。反応温度は4℃以上が好ましく、15℃以上がより好ましい。上限は40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。従って、温度は4~40℃が好ましく、15~30℃程度、すなわち室温であってもよい。反応液のpHは、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。上限は、12以下が好ましく、11以下がより好ましい。従って、反応液のpHは、好ましくは8~12、より好ましくは10~11程度である。通常、酸化反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHは低下する傾向にある。そのため、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを上記の範囲に維持することが好ましい。酸化の際の反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等の理由から、水が好ましい。
【0026】
酸化における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間以上である。上限は通常は6時間以下、好ましくは4時間以下である。従って、酸化における反応時間は通常0.5~6時間、例えば0.5~4時間程度である。
【0027】
酸化は、2段階以上の反応に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一又は異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
【0028】
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾン処理により酸化する方法が挙げられる。この酸化反応により、セルロースを構成するグルコピラノース環の少なくとも2位及び6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾン処理は通常、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより行われる。気体中のオゾン濃度は、50g/m3以上であることが好ましい。上限は、250g/m3以下であることが好ましく、220g/m3以下であることがより好ましい。従って、気体中のオゾン濃度は、50~250g/m3であることが好ましく、50~220g/m3であることがより好ましい。オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100重量%に対し、0.1重量%以上であることが好ましく、5重量%以上であることがより好ましい。上限は、通常30重量%以下である。従って、オゾン添加量は、セルロース原料の固形分100重量%に対し、0.1~30重量%であることが好ましく、5~30重量%であることがより好ましい。オゾン処理温度は、通常0℃以上であり、好ましくは20℃以上である。上限は通常50℃以下である。従って、オゾン処理温度は、0~50℃であることが好ましく、20~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、通常は1分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は通常360分以下である。従って、オゾン処理時間は、通常は1~360分程度であり、30~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件が上述の範囲内であると、セルロースが過度に酸化及び分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。
【0029】
オゾン処理後に得られる結果物に対しさらに、酸化剤を用いて追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが例えば、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物;酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。対酸化処理の方法としては例えば、これらの酸化剤を水又はアルコール等の極性有機溶媒中に溶解して酸化剤溶液を作成し、酸化剤溶液中にセルロース原料を浸漬させる方法が挙げられる。
【0030】
酸化微細セルロース繊維に含まれるカルボキシル基、カルボキシレート基、アルデヒド基の量は、酸化剤の添加量、反応時間等の酸化条件をコントロールすることで調整することができる。
【0031】
カルボキシル基量の測定方法の一例を以下に説明する。酸化セルロースの0.5重量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定する。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出することができる:
カルボキシル基量〔mmol/g酸化セルロース又は微細セルロース繊維〕=a〔ml〕×0.05/酸化セルロース重量〔g〕。
【0032】
(エーテル化)
エーテル化としては、カルボキシメチル(エーテル)化、メチル(エーテル)化、エチル(エーテル)化、シアノエチル(エーテル)化、ヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピル(エーテル)化、エチルヒドロキシエチル(エーテル)化、ヒドロキシプロピルメチル(エーテル)化などが挙げられる。この中から一例としてカルボキシメチル化の方法を以下に説明する。
【0033】
カルボキシメチル化によりセルロース原料を変性する場合、得られるカルボキシメチル化セルロース又はミクロフィブリルセルロース中の無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、0.01以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上であることがさらに好ましい。上限は、0.50以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.35以下が更に好ましい。従って、カルボキシメチル基置換度は、0.01~0.50が好ましく、0.05~0.40がより好ましく、0.10~0.30が更に好ましい。
【0034】
カルボキシメチル化の方法は特に限定されないが例えば、発底原料としてのセルロース原料をマーセル化し、その後エーテル化する方法が挙げられる。カルボキシメチル化反応の際は通用溶媒を用いる。溶媒としては例えば、水、アルコール(例えば低級アルコール)及びこれらの混合溶媒が挙げられる。低級アルコールとしては例えば、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノールが挙げられる。混合溶媒における低級アルコールの混合割合は、通常は60重量%以上又は95重量%以下であり、60~95重量%であることが好ましい。溶媒の量は、セルロース原料に対し通常は3重量倍である。上限は特に限定されないが20重量倍である。従って、溶媒の量は3~20重量倍であることが好ましい。
【0035】
マーセル化は通常、発底原料とマーセル化剤を混合して行う。マーセル化剤としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属が挙げられる。マーセル化剤の使用量は、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5倍モル以上が好ましく、1.0モル以上がより好ましく、1.5倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常20倍モル以下であり、10倍モル以下が好ましく、5倍モル以下がより好ましい、従って、0.5~20倍モルが好ましく、1.0~10倍モルがより好ましく、1.5~5倍モルがさらに好ましい。
【0036】
マーセル化の反応温度は、通常0℃以上であり、好ましくは10℃以上である。上限は通常70℃以下、好ましくは60℃以下である。従って、反応温度は、通常0~70℃、好ましくは10~60℃である。反応時間は、通常15分以上、好ましくは30分以上である。上限は、通常8時間以下、好ましくは7時間以下である。従って、通常は15分~8時間、好ましくは30分~7時間である。
【0037】
エーテル化反応は通常、カルボキシメチル化剤をマーセル化後に反応系に追加して行う。カルボキシメチル化剤としては例えば、モノクロロ酢酸ナトリウムが挙げられる。カルボキシメチル化剤の添加量は、セルロース原料のグルコース残基当たり通常は0.05倍モル以上が好ましく、0.5倍モル以上がより好ましく、0.8倍モル以上であることがさらに好ましい。上限は、通常10.0倍モル以下であり、5モル以下が好ましく、3倍モル以下がより好ましい、従って、好ましくは0.05~10.0倍モルであり、より好ましくは0.5~5であり、更に好ましくは0.8~3倍モルである。反応温度は通常30℃以上、好ましくは40℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。従って反応温度は通常30~90℃、好ましくは40~80℃である。反応時間は、通常30分以上であり、好ましくは1時間以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは4時間以下である。従って反応時間は、通常は30分~10時間であり、好ましくは1時間~4時間である。カルボキシメチル化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0038】
カルボキシメチル化微細セルロース繊維のグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度の測定は例えば、次の方法によって行えばよい。すなわち、1)カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。2)メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩(カルボキシメチル化セルロース)を水素型カルボキシメチル化セルロースにする。3)水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。4)80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。5)指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定する。6)カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのH2SO4)(mL)×F)×0.1]/(水素型カルボキシメチル化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型カルボキシメチル化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH2SO4のファクター
F :0.1NのNaOHのファクター
【0039】
(カチオン化)
カチオン化によりセルロース原料を変性する場合、得られるカチオン化微細セルロース繊維は、アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム等のカチオン、又は該カチオンを有する基を分子中に含んでいればよい。カチオン化ミクロフィブリルセルロースは、アンモニウムを有する基を含むことが好ましく、四級アンモニウムを有する基を含むことがより好ましい。
【0040】
カチオン化の方法は特に限定されないが例えば、セルロース原料にカチオン化剤と触媒を水及び/又はアルコールの存在下で反応させる方法が挙げられる。カチオン化剤としては例えば、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハイドライト(例:3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムハイドライト)又はこれらのハロヒドリン型などが挙げられ、これらのいずれかを用いることで、四級アンモニウムを含む基を有するカチオン化セルロースを得ることができる。触媒としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属が挙げられる。アルコールとしては例えば、炭素数1~4のアルコールが挙げられる。カチオン化剤の量は、好ましくはセルロース原料100重量%に対して5重量%以上であり、より好ましくは10重量%以上である。上限は通常800重量%以下であり、好ましくは500重量%以下である。触媒の量は、好ましくはセルロース繊維100重量%に対して0.5重量%以上であり、より好ましくは1重量%以上である。
上限は通常7重量%以下であり、好ましくは3重量%以下である。アルコールの量は、好ましくはセルロース繊維100重量%に対して50重量%以上であり、より好ましくは100重量%以上である。上限は通常50000重量%以下であり、好ましくは500重量%以下である。
【0041】
カチオン化の際の反応温度は通常10℃以上、好ましくは30℃以上であり、上限は通常90℃以下、好ましくは80℃以下である。反応時間は、通常10分以上であり、好ましくは30分以上である。上限は、通常は10時間以下、好ましくは5時間以下である。カチオン化反応の間必要に応じて、反応液を撹拌してもよい。
【0042】
カチオン化セルロースのグルコース単位当たりのカチオン置換度は、カチオン化剤の添加量、水及び/又はアルコールの組成比率のコントロールによって調整することができる。カチオン置換度とは、セルロースを構成する単位構造(グルコピラノース環)あたりの導入された置換基の個数を示す。言い換えると、カチオン置換度は、「導入された置換基のモル数をグルコピラノース環の水酸基の総モル数で割った値」として定義される。純粋セルロースは単位構造(グルコピラノース環)あたり3個の置換可能な水酸基を有しているため、カチオン置換度の理論最大値は3(最小値は0)である。
【0043】
カチオン化微細セルロース繊維のグルコース単位当たりのカチオン置換度は、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上が更に好ましい。上限は、0.40以下が好ましく、0.30以下がより好ましく、0.20以下が更に好ましい。従って、0.01~0.40であることが好ましく、0.02~0.30がより好ましく、0.03~0.20が更に好ましい。セルロースにカチオン置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カチオン置換基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.01以上であることにより、十分にナノ解繊することができる。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.40以下であることにより、膨潤又は溶解を抑制することができ、これにより繊維形態を維持することができ、微細セルロース繊維として得られない事態を防止することができる。
【0044】
グルコース単位当たりのカチオン置換度の測定方法の一例を以下に説明する。試料(カチオン化セルロース)を乾燥させた後に、全窒素分析計TN-10(三菱化学)で窒素含有量を測定し、次式によりカチオン化度を算出する。ここでいうカチオン置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりの置換基のモル数の平均値である。
カチオン置換度=(162×N)/(1-151.6×N)
N:窒素含有量
【0045】
(エステル化)
本発明において、化学変性セルロースとして、エステル化したセルロースを用いる場合、セルロース系原料に対し、以下に挙げる化合物Aの粉末や水溶液を混合する方法、セルロース系原料のスラリーに化合物Aの水溶液を添加する方法等が挙げられる。
【0046】
化合物Aはリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形を取っても構わない。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種、あるいは2種以上を併用してリン酸基を導入することができる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応の均一性が高まり、且つリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物は水溶液として用いることが望ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
【0047】
リン酸エステル化セルロースの製造方法の一例を挙げるとするならば、以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1~10重量%のセルロース系原料の懸濁液に、化合物Aを撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース系原料を100重量部とした際に、化合物Aの添加量はリン元素量として、0.2~500重量部であることが好ましく、1~400重量部であることがより好ましい。化合物Aの割合が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えても、収率向上の効果は頭打ちとなり、無駄に化合物Aを使用するだけである。
【0048】
この際、セルロース原料、化合物Aの他に、化合物Bの粉末や水溶液を混合してもよく、化合物Bは特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。前記「塩基性」の定義は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃~赤色を呈する場合、または/および水溶液のpHが7より大きい場合である。本発明で用いる塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられるが、特に限定されない。この中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。化合物Bの添加量は2~1000重量部が好ましく、100~700重量部がより好ましい。反応温度は0~95℃が好ましく、30~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1~600分程度であり、30~480分がより好ましい。エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100~170℃で加熱処理することが好ましい。
【0049】
リン酸エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001~0.40であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にミクロフィブリル状に解繊することができる。なお、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ミクロフィブリルセルロースとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化されたセルロース系原料は煮沸した後、冷水で洗浄することで洗浄されることが好ましい。
【0050】
(解繊)
セルロース原料の解繊は、セルロース原料に変性処理を施す場合には、セルロース原料に変性処理を施す前に行ってもよいし、後に行ってもよい。また、解繊は、一度に行ってもよいし、複数回行ってもよい。複数回の場合それぞれの解繊の時期はいつでもよい。
【0051】
解繊に用いる装置は特に限定されないが、例えば、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などのタイプの装置が挙げられ、高圧又は超高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、PFIミル、ニーダー、ディスパーザー、高速離解機など回転軸を中心として金属または刃物とパルプ繊維を作用させるもの、あるいはパルプ繊維同士の摩擦によるものが好ましい。
【0052】
解繊をセルロース原料の分散体に対して行う場合、分散体中のセルロース原料の固形分濃度は、通常は0.1重量%以上、好ましくは0.2重量%以上、より好ましくは0.3重量%以上である。これにより、セルロース繊維原料の量に対する液量が適量となり効率的である。上限は通常10重量%以下、好ましくは6重量%以下である。これにより流動性を保持することができる。
【0053】
解繊、又は必要に応じて解繊前に行う分散処理に先立ち、必要に応じて予備処理を行ってもよい。予備処理は、高速せん断ミキサーなどの混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて行えばよい。
【0054】
(透過率)
本発明の微細セルロース繊維は、該微細セルロース繊維の0.05質量%の水分散液を、33℃/標準大気圧にて24時間静置する透過率試験において、
下記式(1)によって求められる初期透過率変化Rが3%以上70%以下であり、
下記式(2)によって求められる24時間静置後の透過率変化Rが5%以上80%以下であり、
下記式(3)によって求められるRが50%以上95%以下であることが重要である。
=(T6h-T0h)/T0h×100・・・(1)
(式中、T0hは試験管に該水分散液を入れた直後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)であり、T6hは試験管に該水分散液を入れ6時間静置後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)である)
=(T24h-T0h)/T0h×100・・・(2)
(式中、T0hは試験管に該水分散液を入れた直後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)であり、T24hは試験管に該水分散液を入れ24時間静置後の高さ20mmにおける透過率(波長880mm)である)
=R/R×100・・・(3)
【0055】
透過率試験は、例えば液中分散安定性評価装置(タービスキャンLab、英弘精機製)を用いて測定することができる。まず、微細セルロース繊維が1質量%になるようイオン交換水で希釈し、3000rpmで5分間攪拌して微細セルロース繊維を水に分散させる。次に得られた1質量%のセルロース水分散液を、0.05質量%になるようイオン交換水で希釈し、3000rpmで1分間攪拌し、透過率測定用の水分散液とした。20ml容量のガラス製のスクリュー管(直径27mm、高さ55mm)に測定用の水分散液を15ml注いで蓋をした後、手動で振り混ぜて分散液を一様にした。それから1分以内に、分散液の波長880nmにおける透過率を、タービスキャンLabを用いて測定し、このときの試料底部から20mmの高さにおける透過率をT0hとした。
【0056】
このスクリュー管を装置内において33℃で静置し、6時間静置後及び24時間静置後に、分散液の波長880nmにおける透過率を、タービスキャンLabを用いて測定した。この時の試料底部から高さ20mmの高さにおける透過率を、それぞれT6hおよびT24hとした。
【0057】
そのようにして得られる初期透過率変化Rは、3~70%が重要であり、好ましくは4~65%であり、より好ましくは10~65%、または4%超10%未満である。る。水分散液は微細セルロース繊維の沈降により徐々に透過率が変化する。このような沈降現象は、微細セルロース繊維の繊維径や繊維長、フィブリル化の程度など様々な要因が影響するため一概には定められないが、粗大な微細セルロース繊維が多くなるほど沈降はしやすく透過率変化は大きくなり、微小な微細セルロース繊維が多くなるほど沈降はし難く透過率変化は小さくなると想定される。本発明の微細セルロース繊維はRが当該範囲にあることで、初期の段階で透過率の変化がある程度現れるため、粗大な微細セルロース繊維と、微小な微細セルロース繊維が適度なバランスで混在することが分かる。また、Rが10%以上であると粗大な繊維比率が増えるため特に保水性等のバランスに優れており、Rが10%未満であると微小な繊維が増えるため特に分散性等のバランスに優れる性状を示す。
【0058】
24時間静置後の透過率変化Rは、5~80%が重要であり、好ましくは6~75%であり、より好ましくは10~75%、または6%超10%未満である。Rが10%以上であると粗大な繊維比率が増えるため特に保水性等のバランスに優れており、Rが10%未満であると微小な繊維が増えるため特に分散性等のバランスに優れる性状を示す。
【0059】
24時間静置における初期6時間の透過率変化の占有率であるRは、50~95%であることが重要であり、好ましくは55~90%であり、より好ましくは60~90%であり、さらに好ましくは70~90%、または60%超70%未満である。Rが本範囲にあることで、以下の想定に限定されるものではないが、微細セルロース繊維中の粗大繊維が一定数量以上存在することを示し、このようなバランスを示す微細セルロース繊維は本願発明の効果をより発現しやすくなると想定される。
【0060】
特にRが70%以上であると粗大な繊維比率が微小な繊維よりも増えるため粗大な繊維に由来する効果を発現しやすくなり、Rが60%超70%未満であると微小な繊維比率が粗大な繊維よりも増えるため微小な繊維に由来する効果を発現しやすくなる。本発明の微細セルロース繊維は、前述の通り粗大な繊維と微小な繊維が適度なバランスで存在しているため、期待される効果を発揮しやすくなると想定される。
【0061】
(電気伝導度)
本発明の微細セルロース繊維の1.0質量%の水分散液の電気伝導度は、1.0重量%濃度、pH8の条件下で測定した場合に、200mS/m以下であり、より好ましくは100mS/m以下であり、さらに好ましくは90mS/m以下である。前記電気伝導度の下限は、好ましくは10mS/m以上であり、より好ましくは20mS/m以上であり、さらに好ましく30mS/m以上である。水分散体組成物の当該電気伝導素は原料であるセルロース系材料の電気伝導度と比較して高い値を示す。また、当該電気伝導度が上限値を超えることは酸化セルロース系材料の水分散液中に溶存する金属塩や無機塩の濃度が一定値以上であることを意味する。当該材料の金属塩や無機塩等の濃度が低いと繊維同士の静電反発が起こりやすく、効率的にフィブリル化を進めることができる。
【0062】
なお、前述される鉄原子とカリウム原子の元素量と異なり、電気伝導度は全ての金属元素やその他の無機元素などを測定しているため、これらの測定数値の意義は異なる。
【0063】
(BET比表面積)
本発明の微細セルロース繊維は、BET比表面積が50m/g以上であることが好ましく、より好ましくは70m/g以上である。BET比表面積が高いと、例えば製紙用添加剤として用いた場合にパルプに結合しやすくなり、歩留まりが向上する、紙への強度付与の効果が高まるなどの利点がある。BET比表面積は、窒素ガス吸着法(JISZ8830)を参考に以下の方法により測定できる:
(1)微細セルロース繊維のスラリー(分散媒:水)を、固形分が約0.1gとなるように取り分け遠心分離の容器に入れ、100mLのエタノールを加える。
(2)攪拌子を入れ、500rpmで30分以上攪拌する。
(3)撹拌子を取り出し、遠心分離機で、7000G、30分、30℃の条件で微細セルロース繊維を沈降させる。
(4)微細セルロース繊維をできるだけ除去しないようにしながら、上澄みを除去する。
(5)100mLエタノールを加え、撹拌子を加え、(2)の条件で攪拌、(3)の条件で遠心分離、(4)の条件で上澄み除去をし、これを3回繰り返す。
(6)(5)の溶媒をエタノールからt-ブタノールに変え、t-ブタノールの融点以上の室温下で、(5)と同様にして撹拌、遠心分離、上澄み除去を3回繰り返す。
(7)最後の溶媒除去後、t-ブタノールを30mL加え、軽く混ぜた後ナスフラスコに移し、氷浴を用いて凍結させる。
(8)冷凍庫で30分以上冷却する。
(9)凍結乾燥機に取り付け、3日間凍結乾燥する。
(10)BET測定装置(Micromeritics(マイクロメリティックス)社製)を用いてBET測定を行う(前処理条件:窒素気流下105℃2時間、相対圧0.01~0.30、サンプル量30mg程度)。
【0064】
(保水度)
微細セルロース繊維の保水度は、300%以上であることが好ましい。保水度が300%未満であると微細セルロース繊維として所望される効果を十分に得ることができない可能性がある。保水度は、JIS P-8228:2018に従って測定される。
【0065】
(セルロースI型の結晶化度)
微細セルロース繊維におけるセルロースの結晶化度に関して、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることがより好ましい。結晶性を上記範囲に調整することにより、微細セルロース繊維の保水性付与等の効果が得られる。また、原料パルプの結晶I型が50%以上であると、パルプ繊維の形状を維持しながら、叩解または解繊処理によるフィブリル化を効率的に進めることができ、微細セルロース繊維をミクロフィブリルセルロース形状に効率的に調製できる。
【0066】
微細セルロース繊維のセルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに載置し、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10°~30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出す
る。
Xc=(I002c-Ia)/I002c×100
Xc=セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度
【実施例0067】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0068】
(実施例1)
<化学変性パルプの調製1>
回転数を100rpmに調節した二軸ニーダーに、水130部と、水酸化ナトリウム20部を水100部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製)を100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。30℃で90分間撹拌、混合しマーセル化されたセルロース原料を調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)100部と、モノクロロ酢酸ナトリウム60部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。カルボキシメチル化反応時の反応媒中のIPAの濃度は、30%である。反応終了後、酢酸でpH7程度になるよう中和し、カルボキシメチル置換度0.33、セルロースI型の結晶化度64%のカルボキシメチル化されたセルロース原料(ナトリウム塩)を得た。カルボキシメチル化剤の有効利用率は、29%であった。なお、カルボキシメチル置換度及びセルロースI型の結晶化度の測定方法、ならびにカルボキシメチル化剤の有効利用率の算出方法は、上述の通りである。
【0069】
<叩解>
得られたカルボキシメチル化セルロースの水分散液80kgを、相川鉄工株式会社製ラボリファイナーを用いて、31分間叩解処理して、MFCとした。なお、叩解処理のパス数は47回であった。
【0070】
(実施例2)
<化学変性パルプの調製1>
針葉樹由来の漂白済み未叩解クラフトパルプ(白色度85%:日本製紙株式会社製)40kg(絶乾)をTEMPO(Sigma Aldrich社製)312g(絶乾1gのセルロースに対し0.05mmol)と臭化ナトリウム4112g(絶乾1gのセルロースに対し1.0mmol)を溶解した水溶液4000Lに加え、パルプが均一に分散するまで撹拌した。反応系に次亜塩素酸ナトリウム水溶液を次亜塩素酸ナトリウムが5.5mmol/gになるように添加し、室温にて酸化反応を開始した。反応中は系内のpHが低下するが、3M水酸化ナトリウム水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。次亜塩素酸ナトリウムを消費し、系内のpHが変化しなくなった時点で反応を終了した。反応混合物に塩酸を添加してpH2に調整した後、脱水と水での希釈を繰り返してパルプを十分に水洗し、最終的にパルプ固形分濃度が20重量%となるまで脱水して化学変性パルプ(TEMPO酸化パルプ)を得た。パルプ収率は90%であり、カルボキシル基量は1.41mmol/gであった。
【0071】
<叩解>
得られたTEMPO酸化パルプを水道水に分散し、水酸化ナトリウムを加えて攪拌することにより、pH7.7、固形分濃度1.1重量%のTEMPO酸化パルプの水分散液を得た。
得られたTEMPO酸化パルプの水分散液4300kgをモノフロー式のダブルディス
クリファイナー(相川鉄工株式会社製 AWN20)を用い、刃高さや刃幅、クリアランスなどを機械的な接触が起こりにくくなるように適宜調整し、循環率80%の条件で120分間運転を行い、叩解処理して、TEMPO酸化パルプをMFCとした。なお、叩解処理のパス数は20回であった。
【0072】
(実施例3)
【0073】
実施例2で得られた固形分濃度20重量%のTEMPO酸化パルプを水道水に分散させ、その後水酸化ナトリウムを加えて攪拌することにより、pH7.6、固形分濃度4.6重量%のTEMPO酸化パルプの水分散液を得た。
得られたTEMPO酸化パルプの水分散液80kgを、相川鉄工株式会社製ラボリファイナーを用いて、14分間叩解処理して、MFCとした。なお、叩解処理のパス数は20回であった。
【0074】
<平均繊維長、平均繊維幅>
化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維のスラリーを固形分濃度が0.25%となるように水で希釈し、流速5.7L/min、水温25±1℃、全流出量22Lの条件で約250gずつ(うち50gが測定に供される)2回フラクショネータにかけ、フラクショネータに付属のCCDカメラで装置内部にて、流量で分級された化学変性ミクロフィブリルセルロース繊維の画像およそ2000枚を取得した。
【0075】
解析ソフトIMG(Metso社)の繊維解析パラメーターを表1~3のように設定し、取得したおよそ2000枚の画像を解析し、平均繊維長・平均繊維幅、繊維長分布等のデータを得た。2回測定・解析を行った平均値を測定データとして採用した。
【0076】
【表1】
・平均繊維長(Length):長さ加重平均繊維長
・平均繊維幅(Width):長さ加重平均繊維幅
・繊維長分布(Fraction percentage of length weighted distribution):長さ加重繊維長分布(各フラクションの設定は表1に記載した通り。)
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
<粘度>
処理後の分散液にイオン交換水を加えて1重量%スラリーを調製し、25℃で3時間放置した後、PRIMIX社製ホモディスパー(3000rpm)で5分間攪拌し、攪拌直後にB型粘度計(東機産業社製)を用いて、No.1~4のうち適切なローターを使用して回転数60rpmで3分後の粘度を測定した。
【0080】
<BET比表面積>
BET比表面積は、窒素ガス吸着法(JIS Z 8830)を参考に以下の方法により測定した:
(1)処理後の分散液に、必要に応じてイオン交換水を加えてスラリー(分散媒:水)を調製し、これを固形分が約0.1gとなるように取り分け遠心分離の容器に入れ、100mLのエタノールを加えた。
(2)攪拌子を入れ、500rpmで30分以上攪拌した。
(3)撹拌子を取り出し、遠心分離機で、7000G、30分、30℃の条件でフィブリル化された化学変性セルロース繊維を沈降させた。
(4)フィブリル化された化学変性セルロース繊維をできるだけ除去しないようにしながら、上澄みを除去した。
(5)100mLエタノールを加え、撹拌子を加え、(2)の条件で攪拌、(3)の条件で遠心分離、(4)の条件で上澄み除去をし、これを3回繰り返した。
(6)(5)の溶媒をエタノールからt-ブタノールに変え、t-ブタノールの融点以上の室温下で、(5)と同様にして撹拌、遠心分離、上澄み除去を3回繰り返した。
(7)最後の溶媒除去後、t-ブタノールを30mL加え、軽く混ぜた後ナスフラスコに移し、氷浴を用いて凍結させた。
(8)冷凍庫で30分以上冷却した。
(9)凍結乾燥機に取り付け、3日間凍結乾燥した。
(10)BET測定装置(Micromeritics(マイクロメリティックス)社製)を用いてBET測定を行った(前処理条件:窒素気流下105℃2時間、相対圧0.01~0.30、サンプル量30mg程度)。
【0081】
<透過率>
透過率は、前述の方法に従い液中分散安定性評価装置(タービスキャンLab、英弘精機製)を用いて測定した。得られた数値をもとに初期透過率変化R、24時間静置後の透過率変化R、及びその比であるRを下記式から得た。
=(T6h-T0h)/T0h×100・・・(1)
=(T24h-T0h)/T0h×100・・・(2)
=R/R×100・・・(3)
【0082】
【表4】