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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023148606
(43)【公開日】2023-10-13
(54)【発明の名称】玉軸受用保持器、及び玉軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/42 20060101AFI20231005BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20231005BHJP
【FI】
F16C33/42 A
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022056732
(22)【出願日】2022-03-30
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100177910
【弁理士】
【氏名又は名称】木津 正晴
(72)【発明者】
【氏名】島崎 聡
(72)【発明者】
【氏名】迫田 裕成
(72)【発明者】
【氏名】林 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】荒木 康宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅之
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA62
3J701BA37
3J701BA45
3J701BA47
3J701BA49
3J701DA09
3J701FA31
3J701XB03
3J701XB19
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】耐久性を向上することができる玉軸受用保持器、及び玉軸受を提供する。
【解決手段】玉軸受用保持器10は、周方向に沿って並んで配置される複数の玉5を転動自在に保持する。玉軸受用保持器10は、軸方向Dにおいて互いに向かい合い、複数の玉5がそれぞれ配置される複数のポケット11を互いの間に画定する一対の板部材20を備える。各板部材20は、複数のポケット11をそれぞれ画定する複数のポケット形成部21を有する。各ポケット形成部21は、周方向と交差するように延在する一対の側部22と、一対の側部22に接続され、軸方向Dと交差するように延在する底部23と、を有する。一対の板部材20は、各ポケット11について、ポケット11内において玉5がポケット形成部21に対して径方向に相対的に移動した場合に玉5が一対の側部22の少なくとも一方に接触するように、構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周方向に沿って並んで配置される複数の玉を転動自在に保持するための玉軸受用保持器であって、
軸方向において互いに向かい合い、前記複数の玉がそれぞれ配置される複数のポケットを互いの間に画定する一対の板部材を備え、
前記一対の板部材の各々は、前記複数のポケットをそれぞれ画定する複数のポケット形成部を有し、
前記複数のポケット形成部の各々は、周方向と交差するように延在する一対の側部と、前記一対の側部に接続され、軸方向と交差するように延在する底部と、を有し、
前記一対の板部材は、前記複数のポケットの各々について、前記ポケット内において前記玉が前記ポケット形成部に対して径方向に相対的に移動した場合に前記玉が前記一対の側部の少なくとも一方に接触するように、構成されている、玉軸受用保持器。
【請求項2】
前記複数のポケットの各々について、
前記底部を通り且つ周方向に垂直な断面において、前記玉の中心が前記ポケットの中心に一致する状態から前記玉が径方向の内側に移動して前記底部に接触するまでの前記玉の変位量をA1とし、前記状態から前記玉が径方向の外側に移動して前記底部に接触するまでの前記玉の変位量をA2とし、
前記一対の側部を通り且つ軸方向に垂直な断面において、前記状態から前記玉が径方向の内側に移動して前記一対の側部の少なくとも一方に接触するまでの前記玉の変位量をB1とし、前記状態から前記玉が径方向の外側に移動して前記一対の側部の少なくとも一方に接触するまでの前記玉の変位量をB2とすると、
A1はB1よりも大きく、A2はB2よりも大きい、請求項1に記載の玉軸受用保持器。
【請求項3】
前記一対の側部は、前記底部から離れるほど互いに離れるように傾斜して延在している、請求項1又は2に記載の玉軸受用保持器。
【請求項4】
前記一対の板部材の各々は、周方向において前記複数のポケット形成部と互いに違いに配置された複数の平坦部を更に有し、
前記一対の板部材の一方の前記複数の平坦部は、前記一対の板部材の他方の前記複数の平坦部とそれぞれ重ね合わされており、
前記一対の板部材の一方の前記複数の平坦部と前記一対の板部材の他方の前記複数の平坦部とが互いに接触する表面は、軸方向において前記ポケットの中心からずれている、請求項1~3のいずれか一項に記載の玉軸受用保持器。
【請求項5】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に配置された前記複数の玉と、前記複数の玉を転動自在に保持する請求項1~4のいずれか一項に記載の玉軸受用保持器と、を備える玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受用保持器、及び玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
玉軸受として、内輪と、外輪と、内輪と外輪との間に配置された複数の玉と、それらの玉を転動自在に保持する保持器と、を備えるものが知られている(例えば特許文献1参照)。このような保持器は、例えば、軸方向において向かい合う一対のリング状の板部材をリベットで結合することにより構成される。複数の玉は、一対の板部材によって画定される複数のポケットにそれぞれ配置される。各ポケットは、例えば、玉の直径よりも僅かに大きな直径を有する球状に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5703494号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような玉軸受では、使用時に作用する荷重により一対の板部材が互いに離れるように軸方向に変形してしまい、板部材やリベットが破損してしまうことがある。
【0005】
本発明は、耐久性を向上することができる玉軸受用保持器、及び玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の玉軸受用保持器は、周方向に沿って並んで配置される複数の玉を転動自在に保持するための玉軸受用保持器であって、軸方向において互いに向かい合い、複数の玉がそれぞれ配置される複数のポケットを互いの間に画定する一対の板部材を備え、一対の板部材の各々は、複数のポケットをそれぞれ画定する複数のポケット形成部を有し、複数のポケット形成部の各々は、周方向と交差するように延在する一対の側部と、一対の側部に接続され、軸方向と交差するように延在する底部と、を有し、一対の板部材は、複数のポケットの各々について、ポケット内において玉がポケット形成部に対して径方向に相対的に移動した場合に玉が一対の側部の少なくとも一方に接触するように、構成されている。
【0007】
この玉軸受用保持器では、一対の板部材が、複数のポケットの各々について、ポケット内において玉がポケット形成部(保持器)に対して径方向に相対的に移動した場合に玉が一対の側部の少なくとも一方に接触するように、構成されている。すなわち、ポケット内において玉が径方向に相対的に移動した場合に、玉がポケット形成部の底部ではなく側部に接触する。これにより、玉が径方向に相対的に移動して保持器に接触することにより生じる荷重を、軸方向と交差するように延在する底部ではなく、周方向と交差するように延在する側部で受けることができる。その結果、当該荷重により一対の板部材が互いに離れるように軸方向に変形してしまうことを抑制することができ、保持器の耐久性を向上することができる。
【0008】
複数のポケットの各々について、底部を通り且つ周方向に垂直な断面において、玉の中心がポケットの中心に一致する状態から玉が径方向の内側に移動して底部に接触するまでの玉の変位量をA1とし、状態から玉が径方向の外側に移動して底部に接触するまでの玉の変位量をA2とし、一対の側部を通り且つ軸方向に垂直な断面において、状態から玉が径方向の内側に移動して一対の側部の少なくとも一方に接触するまでの玉の変位量をB1とし、状態から玉が径方向の外側に移動して一対の側部の少なくとも一方に接触するまでの玉の変位量をB2とすると、A1はB1よりも大きく、A2はB2よりも大きくてもよい。この場合、ポケット内において玉が径方向に移動した場合に、玉がポケット形成部の底部ではなく側部に接触する。その結果、一対の板部材が互いに離れるように軸方向に変形してしまうことを抑制することができ、保持器の耐久性を向上することができる。なお、底部を通り且つ周方向に垂直な断面において、玉の中心がポケットの中心に一致する状態から玉が径方向の内側又は外側に移動した場合に、玉が底部に接触しなくてもよい。この場合、変位量A1,A2は無限大であるとみなすことができる。
【0009】
一対の側部は、底部から離れるほど互いに離れるように傾斜して延在していてもよい。この場合、板部材をプレス加工により形成する場合に、プレス加工用の型を板部材から好適に離れさせる(抜く)ことができる。
【0010】
一対の板部材の各々は、周方向において複数のポケット形成部と互いに違いに配置された複数の平坦部を更に有し、一対の板部材の一方の複数の平坦部は、一対の板部材の他方の複数の平坦部とそれぞれ重ね合わされており、一対の板部材の一方の複数の平坦部と一対の板部材の他方の複数の平坦部とが互いに接触する表面は、軸方向においてポケットの中心からずれていてもよい。この場合、例えば、ポケット内において玉がポケット形成部(保持器)に対して径方向に相対的に移動した場合に、玉をポケットの中心付近において側部に接触させることが可能となる。玉がポケットの中心付近において側部に接触する場合、板部材に作用する軸方向の分力を小さくすることができる。その結果、一対の板部材が互いに離れるように軸方向に変形してしまうことを抑制することができ、保持器の耐久性を向上することができる。
【0011】
本発明の玉軸受は、内輪と、外輪と、内輪と外輪との間に配置された複数の玉と、上記玉軸受用保持器と、を備える。この玉軸受によれば、上述した理由により、保持器の耐久性を向上することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐久性を向上することができる玉軸受用保持器、及び玉軸受を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る保持器の斜視図である。
図2】保持器の平面図である。
図3】(a)及び(b)は、図2のIII-III線に沿っての断面図である。
図4】保持器の側面図である。
図5図4のV-V線に沿っての断面図である。
図6図5の部分拡大図である。
図7図2のVII-VII線に沿っての断面図である。
図8】(a)は第1変形例に係る保持器の断面図であり、(b)は第2変形例に係る保持器の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明において、同一又は相当要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0015】
図1図7に示される保持器10は、玉軸受1(図2)において複数(この例では7つ)の玉5を転動自在に保持するために用いられる。図2に示されるように、玉軸受1は、内輪2と、外輪3と、複数の玉5と、保持器10とを備えている。内輪2は、円環状に形成され、外周面として内輪軌道面2aを有している。外輪3は、円環状に形成され、内周面として外輪軌道面3aを有している。複数の玉5は、内輪軌道面2aと外輪軌道面3aとの間に配置されている。複数の玉5は、周方向に沿って所定の間隔を空けて並んで配置されている。
【0016】
保持器10は、内輪2の内輪軌道面2aと外輪3の外輪軌道面3aとの間に配置され、複数の玉5を転動自在に保持している。保持器10は、複数(この例では7つ)のポケット11を有している。複数のポケット11には、複数の玉5がそれぞれ配置されている。すなわち、ポケット11は、玉5を収容するための空間である。ポケット11は、軸方向Dと平行な中心軸を有する略円筒状に形成されている。保持器10は、波形保持器であり、一対のリング状の板部材20を備えている。一対の板部材20は、軸方向Dにおいて互いに向かい合っており、複数のポケット11を互いの間に画定している。以下、1つの板部材20について説明するが、一対の板部材20は軸方向Dに関して互いに対称な形状を有している。
【0017】
板部材20は、例えば鉄等の金属材料をプレス成形することにより形成されている。板部材20は、複数のポケット形成部21と、複数の平坦部25とを有している。この例では、ポケット形成部21及び平坦部25は7つずつ設けられている。ポケット形成部21と平坦部25とは、周方向において互いに違いに配置されており、周方向において隣り合う2つのポケット形成部21が平坦部25によって接続されている。
【0018】
平坦部25は、軸方向Dと垂直に平坦に形成されており、周方向に沿って延在している。一方の板部材20の平坦部25は、他方の板部材20の平坦部25と軸方向Dにおいて重ね合わされている。この例では、一方の板部材20の平坦部25と他方の板部材20の平坦部25とが互いに接触する表面(合わせ面)25aは、軸方向Dにおいてポケット11の中心C1上に位置している(図7)。一対の板部材20は、平坦部25に設けられた例えばリベットからなる複数(この例では7つ)の固定部材26により互いに固定(結合)されている。この例では、各平坦部25に固定部材26が設けられている。
【0019】
各ポケット形成部21は、平坦部25に対して軸方向Dに凹むように形成されており、ポケット11を画定している。より具体的には、各ポケット形成部21は、軸方向Dにおけるポケット11の半分を画定しており、一方の板部材20のポケット形成部21と他方の板部材20のポケット形成部21とが互いに向かい合うように配置されることにより、1つのポケット11が画定されている。
【0020】
各ポケット形成部21は、一対の側部22と、底部23とを有している。各側部22は、周方向と交差するように延在している。この例では、各側部22は、平坦部25から軸方向Dに立ち上がるように形成されている。図7に示されるように、側部22と平坦部25との間の境界部には、R状に湾曲した湾曲部Rが形成されていてもよい。この例では、一対の側部22は、底部23から離れるほど(平坦部25に近づくほど)互いに離れるように傾斜して延在している。図7には、軸方向Dに対する側部22の傾斜角度(抜き勾配)θが示されている。各側部22は、軸方向Dに垂直な断面(図5及び図6)において外側(ポケット11の中心C1とは反対側)に凸となるように円弧状に湾曲した湾曲面となっている。
【0021】
底部23は、軸方向Dと交差するように延在しており、一対の側部22における平坦部25とは反対側の縁に接続されている。底部23は、この例では、周方向に垂直な断面(図3)及び径方向に垂直な断面(図7)の両方において外側(ポケット11の中心C1とは反対側)に凸となるように湾曲した湾曲面となっている。
【0022】
実施形態の保持器10では、一対の板部材20が、各ポケット11について、ポケット11内において玉5がポケット形成部21(保持器10)に対して径方向に相対的に移動した場合に玉5が側部22に接触するように、構成されている。すなわち、ポケット11内において玉5が径方向に相対的に移動した場合に、玉5がポケット形成部21の底部23ではなく側部22に接触する。別の見方をすれば、径方向における玉5(保持器10)の動きが、玉5と底部23との接触ではなく玉5と側部22との接触により拘束されている。なお、玉5がポケット形成部21(保持器10)に対して径方向に相対的に移動することには、玉5及び保持器10のいずれか一方又は両方が径方向に移動することにより径方向における玉5と保持器10との間の位置関係が変化する場合が含まれる。本明細書では説明の簡単化のために玉5が径方向に移動するとして説明することがあるが、保持器10が径方向に移動した場合についても同様に位置関係が変化する。
【0023】
玉5をポケット形成部21の底部23ではなく側部22に接触させるための寸法関係の例を説明する。以下、1つのポケット11について説明するが、各ポケット11は同様に構成されている。図3に示されるように、底部23を通り且つ周方向に垂直な断面において、玉5の中心C2がポケット11の中心C1に一致する基準状態から玉5が径方向の内側(図3中の右側)に移動して底部23に接触するまでの玉5の変位量をA1とし、基準状態から玉5が径方向の外側(図3中の左側)に移動して底部23に接触するまでの玉5の変位量をA2とする。図3には、ポケット11の中心C1を通る断面が示されている。図3(a)には、径方向の内側に移動して底部23の縁に接触した状態の玉5が破線P1で示されており、径方向の外側に移動して底部23の縁に接触した状態の玉5が破線P2で示されている。変位量A1は、径方向の内側についての径方向における玉5と底部23との間の隙間に相当し、変位量A2は、径方向の外側についての径方向における玉5と底部23との間の隙間に相当する。この例では、径方向の内側又は外側に移動した玉5は、一対の板部材20の底部23に同時に接触する。なお、上述したとおり、実施形態の保持器10では、径方向に移動した玉5は底部23ではなく側部22に接触する(底部23に接触するよりも先に側部22に接触する)。したがって、変位量A1,A2は、底部23を通り且つ周方向に垂直な断面における寸法関係に基づいて(当該断面上において)仮想的に玉5を径方向に移動させた場合の変位量である。基準状態において、軸方向Dにおける玉5と底部23との間には、隙間Tが形成される(図3(b))。
【0024】
図6に示されるように、一対の側部22を通り且つ軸方向Dに垂直な断面において、上記基準状態から玉5が径方向の内側に移動して側部22に接触するまでの玉5の変位量をB1とし、基準状態から玉5が径方向の外側に移動して側部22に接触するまでの玉5の変位量をB2とする。この例では、径方向の内側又は外側に移動した玉5は、一対の側部22に同時に接触する。図6には、側部22における平坦部25側の縁部(側部22の立ち上がり部分)を通る断面が示されている。図6には、径方向の内側に移動して側部22の縁に接触した状態の玉5が破線Q1で示されており、径方向の外側に移動して側部22の縁に接触した状態の玉5が破線Q2で示されている。変位量B1は、径方向の内側についての径方向における玉5と側部22との間の隙間に相当し、変位量B2は、径方向の外側についての径方向における玉5と側部22との間の隙間に相当する。
【0025】
実施形態の保持器10では、変位量A1が変位量B1よりも大きくなっている。これにより、ポケット11内において玉5が径方向の内側に移動した場合に、玉5が底部23ではなく側部22に接触する。また、変位量A2が変位量B2よりも大きくなっている。これにより、ポケット11内において玉5が径方向の外側に移動した場合に、玉5が底部23ではなく側部22に接触する。すなわち、保持器10では、ポケット11内において玉5が径方向の内側及び外側のいずれに移動した場合にも、玉5が底部23ではなく側部22に接触する。
[作用及び効果]
【0026】
実施形態の保持器10では、一対の板部材20が、各ポケット11について、ポケット11内において玉5がポケット形成部21(保持器10)に対して径方向に相対的に移動した場合に玉5が側部22に接触するように、構成されている。すなわち、ポケット11内において玉5が径方向に相対的に移動した場合に、玉5がポケット形成部21の底部23ではなく側部22に接触する。これにより、玉5が径方向に相対的に移動して保持器10に接触することにより生じる荷重を、軸方向Dと交差するように延在する底部23ではなく、周方向と交差するように延在する側部22で受けることができる。その結果、当該荷重により一対の板部材20が互いに離れるように軸方向Dに変形してしまうことを抑制することができ、保持器10の耐久性を向上することができる。すなわち、仮に、上述した特許文献1のようにポケット11が玉5の直径よりも僅かに大きな直径を有する球状に形成されていると、玉5が径方向に相対的に移動した場合に玉5が底部23に接触することがある。この場合、一対の板部材20が互いに離れるように(開くように)軸方向Dに変形してしまうおそれがある。これに対し、実施形態の保持器10では、玉5が径方向に相対的に移動した場合に、玉5が底部23ではなく側部22に接触するため、一対の板部材20が互いに離れるように変形してしまうことを抑制することができる。また、軸方向Dの荷重による板部材20の変形を抑制するためには、例えば板部材20の平坦部25にリブを形成して板部材20の強度を高めることが考えられるが、実施形態の保持器10によれば、そのようなリブを省略することが可能となる。上述したような径方向における玉5及び保持器10の相対移動は、例えば玉5の進み遅れにより生じ得る。
【0027】
変位量A1が変位量B1よりも大きく、且つ変位量A2が変位量B2よりも大きくなっている。変位量A1は、底部23を通り且つ周方向に垂直な断面(図3)において、玉5の中心C2がポケット11の中心C1に一致する基準状態から玉5が径方向の内側に移動して底部23に接触するまでの玉5の変位量であり、変位量A2は、当該断面において基準状態から玉5が径方向の外側に移動して底部23に接触するまでの玉5の変位量である。変位量B1は、一対の側部22を通り且つ軸方向Dに垂直な断面(図6)において、基準状態から玉5が径方向の内側に移動して側部22に接触するまでの玉5の変位量であり、変位量B2は、基準状態から玉5が径方向の外側に移動して側部22に接触するまでの玉5の変位量である。変位量A1,A2がそれぞれ変位量B1,B2よりも大きいことにより、ポケット11内において玉5が径方向に移動した場合に、玉5がポケット形成部21の底部23ではなく側部22に接触する。その結果、一対の板部材20が互いに離れるように軸方向Dに変形してしまうことを抑制することができ、保持器10の耐久性を向上することができる。
【0028】
一対の側部22が、底部23から離れるほど互いに離れるように傾斜して延在している。これにより、板部材20をプレス加工により形成する場合に、プレス加工用の型を板部材20から好適に離れさせる(抜く)ことができる。
[変形例]
【0029】
図8に示される第1変形例及び第2変形例のように、一方の板部材20の平坦部25と他方の板部材20の平坦部25とが互いに接触する表面(合わせ面)25aは、軸方向Dにおいてポケット11の中心C1からずれていてもよい。図8(a)に示される第1変形例では、ポケット形成部21と隣り合う2つの合わせ面25aが、軸方向Dにおいて中心C1に対して同一側に位置している。図8(b)に示される第2変形例では、ポケット形成部21と隣り合う2つの合わせ面25aが、軸方向Dにおいて中心C1に対して互いに反対側に位置している。これらの変形例によっても、上記実施形態と同様に、保持器10の耐久性を向上することができる。また、例えば、ポケット11内において玉5がポケット形成部21(保持器10)に対して径方向に相対的に移動した場合に、玉5をポケット11の中心C1付近において側部22に接触させることが可能となる。玉5がポケット11の中心C1付近において側部22に接触する場合、板部材20に作用する軸方向Dの分力を小さくすることができる。その結果、一対の板部材20が互いに離れるように軸方向Dに変形してしまうことを抑制することができ、保持器10の耐久性を向上することができる。
【0030】
本発明は、上記実施形態及び変形例に限られない。例えば、各構成の材料及び形状には、上述した材料及び形状に限らず、様々な材料及び形状を採用することができる。
【0031】
上記実施形態において、底部23を通り且つ周方向に垂直な断面において、玉5の中心C2がポケット11の中心C1に一致する基準状態から玉5が径方向の内側又は外側に移動した場合に、玉5が底部23に接触しなくてもよい。この場合、変位量A1,A2は無限大であるとみなすことができる。そのような場合として、例えば底部23が軸方向Dと垂直に平坦に形成されている場合が挙げられる。
【0032】
上記実施形態では、基準状態から径方向の内側又は外側に移動した玉5が一対の側部22に同時に接触したが、玉5は一対の側部22の少なくとも一方に接触すればよく、いずれか一方のみに接触してもよい。
【符号の説明】
【0033】
1…玉軸受、2…内輪、3…外輪、5…玉、10…保持器(玉軸受用保持器)、11…ポケット、20…板部材、21…ポケット形成部、22…側部、23…底部、25…平坦部、25a…表面、A1,A2,B1,B2…変位量、C1…ポケットの中心、C2…玉の中心、D…軸方向。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8